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米国での麻疹症例数、過去25年間で最多に

 米ジョンズ・ホプキンス大学により設立されたCenter for Outbreak Response Innovation(CORI)のデータによると、米国では7月時点で1,270例以上の麻疹症例が確認され(注:2025年7月15日時点で1,309例)、過去25年間で最多となっている。この数字は2019年に記録された1,274件を上回っている。 専門家は、報告されていない症例も多いことから、実際の症例数はこの数字よりもはるかに多い可能性があると見ている。現時点で、すでにテキサス州で小児2人、ニューメキシコ州で成人1人の計3人が麻疹により死亡している。CNNは、これらの3人はいずれもワクチンを接種していなかったと報じている。 米国医師会(AMA)会長のBruce A. Scott氏は、「麻疹の流行が続く中で、小児の定期予防接種率も低下していることを考えると、この状況はワクチンで予防可能な病気の蔓延をさらに促進するだろう」と述べている。 麻疹は麻疹ウイルスへの感染が原因で生じる疾患で、感染力は非常に強い。米国では、麻疹・おたふく風邪・風疹(MMR)ワクチンの普及により、2000年に麻疹根絶が宣言され、それ以降、症例は年間数十〜数百件で推移していた。 CNNの報道によると、現時点で少なくとも38州において麻疹症例が報告されており、少なくとも27の州で個別のアウトブレイクが起きている。新たな症例数の増加はワクチン接種率の大幅な低下と一致している。最大のアウトブレイクは、1月以降これまでに750件以上の症例(注:7月15日時点で796症例)が確認されたテキサス州西部で発生した。アウトブレイクが発生した同州のゲインズ郡は、州内で小児ワクチン接種率が最も低い郡の一つであり、同地域の未就学児のほぼ4人に1人が、2024~25年度中に義務付けられているMMRワクチンを接種していない。 テキサス州のアウトブレイクは近隣のニューメキシコ州とオクラホマ州にも広がっており、また、カンザス州の症例とも関連している可能性が指摘されている。飛行機での移動も麻疹蔓延の一因となっている。コロラド州では、州外からの旅行者が感染力のある状態で飛行機に搭乗したことが原因で、同時刻に空港にいた人々を含む複数の新規感染者が発生した。テキサス州での流行に関連する症例が2026年まで続いた場合、米国の麻疹根絶のステータスが取り消される可能性があると専門家らは懸念している。 米疾病対策センター(CDC)によると、2025年の麻疹罹患者の約8人に1人が入院しており、症例の約30%は5歳未満の小児だった。症例の大半はワクチン未接種だった。MMRワクチンは非常に効果的であり、麻疹ウイルスに対する有効性は1回接種で93%、2回接種で97%である。 今回のアウトブレイクを受け、テキサス州などの一部の州では、MMRワクチンの接種機会を拡大し、従来の1歳から前倒しして生後6カ月で1回目の接種を受けられるようにした。ヘルスケア分析会社Truvetaのデータによると、この措置によりテキサス州でのワクチン接種率は2019年より8倍増加したという。また、ニューメキシコ州でも接種率は昨年のほぼ2倍になったという。しかし専門家は、それでも全国のワクチン接種率は望ましい水準に達していないと警鐘を鳴らす。米国は未就学児におけるMMRワクチン2回接種率95%の達成を目標としているが、CNNによると、この目標は4年連続で達成されていない。 それどころか、公衆衛生のリーダーたちは、ワクチンに対する不信感の高まりと連邦政府の保健指導部の変更により状況は悪化していると指摘している。米国のワクチン政策を策定するCDCには依然として所長がおらず、米国保健福祉省(HHS)長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr)氏は長年にわたり反ワクチンの情報を拡散してきた経緯がある。ケネディ氏は4月に、ワクチンを支持するこれまでで最も強力な公の声明を発表したが、それは以前の発言とは矛盾する内容だった。さらに6月には、米国のワクチン接種政策を導くワクチン専門家委員会のメンバーを全面的に解任し、ワクチン懐疑論者を後任として任命している。

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ミトコンドリアDNA変異の児への伝播、ミトコンドリア置換で低減/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)に病原性変異を有する女性から生まれた子供は、mtDNA病と総称される一連の臨床症候群の発症リスクがある(母系遺伝)。前核移植(PNT)によるミトコンドリア提供(mitochondrial donation)は、病変を有する女性から採取した受精卵の核ゲノムを、病変のない女性(ドナー)から提供され、核を除去した受精卵に移植する方法である。英国・Newcastle upon Tyne Hospitals NHS Foundation TrustのLouise A. Hyslop氏らは、PNTはヒト胚の成育能力と両立可能であり、PNTと着床前遺伝学的検査(PGT)の統合プログラムは母親の病原性mtDNA変異の子供への伝播を低減することを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年7月16日号に掲載された。PNTの臨床応用と、統合プログラムの有効性を評価 研究グループは、ヒト受精卵で確立されたPNTの手法の臨床応用と、mtDNA病におけるPNTとPGTの統合プログラムの有効性の評価を行った(イングランド国民保健サービス[NHS]などの助成を受けた)。 病原性mtDNA変異を有し、これらの変異が子供に伝播するリスクを低減したいと希望する女性を対象とした。これらの女性のうち、ヘテロプラスミー(mtDNAのコピーの一部に変異がある)の患者にはPGT、ホモプラスミー(mtDNAのコピーのすべてに変異がある)または変異が高度なヘテロプラスミーを有する患者にはPNTを提案した。 PNTでは、mtDNA変異を有する患者の卵子を卵細胞質内精子注入法(ICSI)で受精させ、この受精卵から採取した前核を、除核したドナー受精卵の細胞質へ移植し、培養後に子宮内に移植した。患者の前核を採取後の受精卵の細胞質は、子供のmtDNA変異の値と比較するために解析に使用した。 PNT群(年齢中央値34歳[範囲:22~40])では、25例で採卵が行われ(ドナーも25例[年齢21~37歳]で採卵)、22例がICSIを受けた。PGT群(34歳[25~40])では、39例で採卵が行われ、39例がICSIを受けた。新生児のmtRNA変異が、除核受精卵に比べ大幅に低下 PNT群の8例(36%)とPGT群の16例(41%)で臨床的妊娠を確認した。PNT群では、生児出生の新生児は8人(男児4人、女児4人、1組の一卵性双生児を含む)で、1人は妊娠継続中である。PGT群では、生児出生の新生児は18人(男児9人、女児9人、1組の二卵性双生児を含む)だった。 PNT群の患者から生まれた新生児8人における、パイロシークエンシング法で定量的に測定した患者由来の病原性mtRNA変異の血中ヘテロプラスミーの値は、5人が検出不能で、1人が5%、1人が12%、1人が16%であった。この検出不能の5人のうち3人で次世代シークエンシング法による評価を行ったところ、血中ヘテロプラスミー値はそれぞれ0.06%、0.09%、0.17%だった。 また、患者の核を採取後の受精卵の細胞質と比較して、8人の新生児における患者由来の病原性mtRNA変異の値は、6人では95~100%低下しており、他の2人では77~88%低かった。臨床的な追跡調査が不可欠 PGT群では、新生児18人のうち10人でヘテロプラスミーのデータが得られ、9人が検出不能、1人は7%であった。 PNT群の変異が高度なヘテロプラスミーを有する患者の除核受精卵の解析と、先行研究の知見(除核受精卵の4.5%がヘテロプラスミー30%未満、67.2%が同60%超[症状発現のリスクが高いレベル])を考慮すると、PNT群の患者はPGTから利益を得られない可能性が高いと考えられた。 著者は、「これらの結果は、PGTとPNTを組み合わせたプログラムは多様な病原性mtDNA変異の伝播を減少させる有効な方法であることを示している」「ホモプラスミー変異を有する女性から生まれた新生児におけるヘテロプラスミー値の低さは、楽観的な見通しの根拠となるが、この有効性に関する多くの疑問点が解明されるまでは、ミトコンドリア提供はリスク低減戦略と位置付けるべきで、この方法の安全性と有効性の監視には、ミトコンドリア提供後に生まれた子供の臨床的な追跡調査が不可欠と考えられる」としている。

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第253回 消化器外科医は 4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省

<先週の動き> 1.消化器外科医は4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省 2.AI+医師1人読影が標準に? 自治体がん検診の体制再設計へ/政府 3.日本人の女性の平均寿命87.13歳で40年連続世界一、男性は6位/厚労省 4.専攻医は過去最多だが、地域偏在は解消せず、シーリング制度見直しへ/厚労省 5.来年度改定に向け、診療報酬“物価連動”の仕組み求める声強まる/全自病ほか 6.マイナ保険証、医療DX推進体制整備加算10月から新基準に/中医協 1.消化器外科医は4割減見通し、地域別がん医療再編が急務/厚労省厚生労働省は、がん診療提供体制のあり方に関する検討会で、2040年に向けたがん医療提供体制の提言を取りまとめ、都道府県に対し「手術・放射線・薬物療法ごと」、「技術の難易度ごと」、「地域特性ごと」に集約化と均てん化の検討を求める方針を示した。2040年には、がん患者数が3%増加して105.5万人に達する一方で、消化器外科医は39%減少すると推計され、手術療法の継続が困難になる恐れがある。とくに手術療法は、患者数が5%減少する中で医師数も大幅に減少し、症例の集約による技術維持が必要とされている。その一方で、放射線療法は需要が24%増と見込まれるが、高額な装置の効率的配置が課題となり、需要が少ない地域では装置維持が難しくなる可能性がある。薬物療法は15%増が見込まれ、拠点病院以外でも提供できるよう均てん化が望まれる。さらに、希少がんや小児がん、粒子線治療、高度薬物療法などは都道府県単位での集約化が求められ、がん検診や内分泌療法、緩和ケアは地域医療機関での提供を推進すべきとされた。また、がんゲノム医療の体制整備も進行中で、エキスパートパネル運用の柔軟化やデータベース(C-CAT)の改善が報告された。都道府県と協議会は、地域の実情を踏まえた具体的な体制構築と、住民への丁寧な説明を行い、医療資源の最適化と質の高いがん医療の維持を図る必要がある。厚労省は、今後、各都道府県に正式通知を行い、地域の検討を促進する予定。 参考 1) 第19回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん診療提供体制のあり方に関する検討会 とりまとめ案(同) 3) がん医療体制、集約化を提言 手術や放射線療法、外科医不足で-検討会まとめ・厚労省(時事通信) 4) 学会の消化器外科医40年に4割減、「集約化を」がん手術で 厚労省検討会が取りまとめ(CB news) 5) がん医療の集約化、「地域ごと」「手術・放射線・薬物の療法ごと」「技術の難易度ごと」に各都道府県で検討せよ-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 2.AI+医師1人読影が標準に?自治体がん検診の体制再設計へ/政府政府は、医師不足や読影精度のばらつきへの対応策として、自治体が実施するがん検診におけるAI活用を正式に検討し、2025年度内にも指針を改定する方針を明らかにした。現行の指針では肺がんや乳がん、胃がん検診に原則2人以上の医師による読影が求められているが、今後はAIと医師1人による組み合わせで対応可能とする案が有力視されている。これにより、とくにX線診断医不足の深刻な地方での対応力向上と検診精度の両立が期待される。さらに政府は、がん検診データ、健診情報、医療レセプトなどを統合した包括的データプラットフォームを構築し、AIを用いたリスク層別化や個別介入を推進する。江戸川区や神戸市など先進自治体では、AIによるがんリスク予測と個別化勧奨によって未受診層の受診率や早期発見数を大幅に改善した実績が報告されている。また、2025年6月には、胃内視鏡AI支援の有効性を評価する大規模疫学研究も開始され、北海道・東北の6医療機関で実施。AIを用いた1次読影による負担軽減と発見率向上の可能性が検証されている。加えて厚生労働省は、企業などで実施される職域がん検診の情報を市町村が把握可能とする仕組み整備も進めており、検診データの統合的管理体制を強化する構え。今後は、エビデンスに基づく新規検診項目の全国展開も、モデル事業を経て段階的に行われる見通しである。国はこうした技術・制度両面の改革により、がん検診の質と効率を飛躍的に高め、住民主体のがん対策を再構築しようとしている。 参考 1) 自治体がん検診にAI 政府、指針改定へ(日経新聞) 2) がん検診(行政情報ポータル) 3) 胃カメラがん検診、AI活用で医師の負担軽減なるか 疫学研究開始へ(朝日新聞) 3.日本人の女性の平均寿命87.13歳で40年連続世界一、男性は6位/厚労省厚生労働省が2025年7月に公表した2024年の簡易生命表によると、日本人の平均寿命は女性が87.13歳、男性が81.09歳となり、前年からほぼ横ばいだった。女性は0.01歳減、男性は変化なしで、女性は40年連続で世界1位を維持。男性は前年の5位から6位に後退した。国別では、男性の平均寿命トップはスウェーデン(82.29歳)、次いでスイス、ノルウェー。女性は日本に次いで韓国(86.4歳)、スペイン(86.34歳)が続いた。死因別にみると、2023~24年にかけて心疾患や新型コロナ感染症による死亡は減少した一方、老衰や肺炎による死亡が増加。これにより、平均寿命は全体として伸び悩んだと考えられる。新型コロナによる死亡者数は男女とも2年連続で減少し、2024年の死亡者数は約3万5,865人と推定された(前年比約2,200人減)。また、2024年に生まれた人が将来、がん・心疾患・脳血管疾患で死亡する確率は女性40.29%、男性45.41%でいずれも前年より低下。老衰による死亡は女性で20.75%、男性で8.39%、肺炎による死亡はそれぞれ4.35%、5.89%だった。コロナ禍による影響で2021~22年は平均寿命が縮小傾向となったが、2023年に回復傾向をみせ、2024年は横ばいで推移。厚労省は、長期的には医療水準や健康意識の向上により、平均寿命の延伸は続くとの見方を示している。 参考 1) 令和6年簡易生命表の概況(厚労省) 2) 日本人平均寿命、24年は横ばい 女性は世界1位を維持(日経新聞) 3) 日本人の平均寿命 女性は87.13歳で40年連続1位 男性81.09歳(NHK) 4) 日本人の平均寿命、前年とほぼ同じ 女性は世界首位の87.13歳(朝日新聞) 4.専攻医は過去最多だが、地域偏在は解消せず、シーリング制度見直しへ/厚労省厚生労働省は、7月24日に第2回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会を開き、2025年度の専攻医採用と2026年度の専攻医募集について議論した。この中で、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人に達したが、日本専門医機構は、地域・診療科偏在の是正という観点では「シーリング制度と特別地域連携プログラムの効果は限定的」と総括した。大都市圏の抑制は一定成果を見せた一方で、増加分は周辺県に集中し、真の医師少数地域への効果は薄かった。特別地域連携プログラムも採用は41人と低迷している。これを受け、2026年度からの専攻医採用枠(シーリング)は見直される。新たな算定式では、各診療科の全国採用実績と都道府県人口を基に基本枠を算出、小児科は15歳未満人口で補正する。さらに、医師少数地域への指導医派遣実績に応じて、基本枠の最大15%まで加算可能となる。この加算は人年ベースで計算され、派遣の量と質が問われる。ただし、実績に基づく加算と制度上限との乖離が大きく、都道府県別に1~3枠の追加調整が議論されている。一方、日本専門医機構は、医師のキャリアには「若年期に専門性を追求し、高齢期には総合的な診療に従事する」という2面性があるとし、この移行に対応するリカレント教育の必要性を提唱。総合診療や一般内科、救急領域などで“Generalist”として機能する医師と、臓器別・疾患別に特化した“Specialist”との役割と必要数を区分し、中長期的な人材構造の再設計を進めている。今後は「集約化すべき領域」と「均てん化すべき領域」の見極め、ならびにライフステージに応じた教育設計が焦点となる。9月には必要医師数ワーキンググループの中間報告も予定されており、専門医制度の将来像が問われる転換点を迎えている。同機構では、若手時代に専門性を深め、後年には総合的診療へ移行する医師のライフサイクルを見据え、リカレント教育やリスキリングを含む教育体制の整備も進行中である。機構は“Generalist(総合診療医など)”と“Specialist(臓器別専門医)”の必要数を区別して算出する研究も開始し、9月のシンポジウムで中間報告する予定。 参考 1) 令和7年度第2回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省) 2) 令和7年度の専攻医採用と令和8年度の専攻医募集について(日本専門医機構) 3) 2025年専攻医は過去最多も、シーリングの効果は「不十分」(日経メディカル) 4) 医師の「若手時代は専門性を追求し、高齢になると総合的な診療を行う」との特性踏まえたリカレント教育など研究-日本専門医機構・渡辺理事長(Gem Med) 5.来年度改定に向け、診療報酬“物価連動”の仕組み求める声強まる/全自病ほか2026年度診療報酬改定に向け、医療現場から「病院をなおし、支える」視点での抜本的見直しを求める声が相次いでいる。7月23日に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)では、日本医師会の江澤 和彦委員が、急激な物価・人件費上昇と過小な診療報酬設定により病院経営が破綻寸前にある現状を訴え、「今の制度では入院患者を抱えたまま倒れる病院も出かねない」と警鐘を鳴らした。とくに包括期(地域包括ケア病棟等)を担う入院医療については、必要なコストを踏まえた入院料の適正化を早急に進める必要があるとの意見が強調された。人員確保が困難な中、医療の質を維持するには、成果(アウトカム)評価の導入や人員基準の柔軟化も不可欠とされている。この背景には、全国自治体病院協議会(全自病)の緊急調査による「85%が経常赤字」「95%が医業赤字」という異常事態がある。補助金が減った2024年度決算では、コロナ前を大きく上回る赤字比率となり、診療報酬の6~10%引き上げが必要とする見解も示された。また、全国知事会も医療機関の経営安定化を重視し、「物価・賃上げを適時に反映できる診療報酬制度の確立」や期中改定を含む財政支援の恒常化を政府に要望。公立病院支援を強化すべきとの意見も相次いだ。一方で、「骨太方針2025」では「病床削減」や「OTC類似薬の保険給付見直し」といった効率化策も盛り込まれており、現場では「拙速な施行は混乱を招く」として丁寧な議論と制度設計を求める声が強まっている。医療の持続性確保のため、制度の根幹からの見直しが焦点となっている。 参考 1) 医療経営「なおし支える報酬改定を」診療側(CB news) 2) 24年度赤字の自治体病院が85% 暫定値 全自病会長「記憶にないくらい高い数字」(同) 3) 2024年度の自治体病院決算は85%が経常赤字、95%が医業赤字の異常事態、診療報酬の大幅引き上げが必要-全自病・望月会長(Gem Med) 4) 2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言(全国知事会) 5) 地域医療の医師の確保目指す「知事の会」が提言取りまとめ 『医師不足に関する』ものと『医療機関の経営安定に向けた』ものの2つ(青森テレビ) 6.マイナ保険証、医療DX推進体制整備加算10月から新基準に/中医協厚生労働省は、7月23日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)で、2024年度に新設された「医療DX推進体制整備加算」について、マイナ保険証利用率の実績要件を段階的に引き上げる見直しを提示し、了承された。2025年10月~2026年2月までは、利用率要件を加算区分に応じて現行より15~20ポイント引き上げ、さらに2026年3~5月までは最大70%まで引き上げる。加算1・4は45→60→70%、加算2・5は30→40→50%、加算3・6は15→25→30%と段階的に強化される。一方で、小児患者の多い医療機関については、小児科特例として要件を3ポイント緩和する措置を継続。6歳未満の外来患者が全体の3割以上を占める医療機関では、たとえば加算3・6の要件が22→27%とされる。子供のマイナ保険証利用率が成人より依然として低いための配慮とされる。また、医療DXの柱である「電子カルテ情報共有サービス」への参加要件については、関連法案の未成立と現場の整備状況を踏まえ、2026年5月末まで経過措置の延長が決定された。これにより、参加体制が未整備でも一時的に加算算定が可能とみなされる。委員からは、診療報酬でDXを推進する方針自体は評価されつつも、「利用率は医療機関の努力だけでは改善できない」、「国による周知や環境整備が不可欠」との指摘が相次いだ。とくに、2025年下期には保険証の有効期限切れによる混乱や、スマートフォンによるマイナ保険証の利用開始も控えており、国民・医療現場双方の負担軽減に向けた準備が急務となっている。今後、2026年度の診療報酬改定に向けては、マイナ保険証・電子処方箋・電子カルテ連携の進捗を踏まえた評価方法の再検討が重要課題となる見通しである。 参考 1) 医療DX 推進体制整備加算等の要件の見直しについて(厚労省) 2) DX加算実績要件見直し-マイナ保険証利用率上げ(薬事日報) 3) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を2段階で引き上げ、電子カルテ情報共有サービス要件の経過措置延長-中医協総会(Gem Med)

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アトピー性皮膚炎患者、「治療で症状が良くなると思う」と回答したのは3割のみ/リリー

 日本イーライリリーは7月8日、「アトピー性皮膚炎に関する最新事情~中等症以上の患者さんの治療実態を調査結果から読み解く~」と題したメディアセミナーを開催。同社が実施した中等症以上のアトピー性皮膚炎患者1,015例を対象としたインターネット調査結果を中心に、大塚 篤司氏(近畿大学医学部皮膚科学教室)、俳優の岸谷 五朗氏が講演とトークセッションを行った。治療に対する満足度と新しい治療法への認知度の低さが浮き彫りに 2018年にアトピー性皮膚炎に対する治療薬としては10年ぶりに生物学的製剤が発売されて以降、続々と新薬が登場し治療選択肢が増えている。大塚氏は、「これまでステロイド外用薬だけでは治療がうまくいかなかった患者さんに対して、これらの薬剤をうまく活用することでかゆみのない状態・肌がきれいな状態にもっていくことができるようになっている」と話す。 しかし、今回実施されたアンケート調査では、現在のアトピー性皮膚炎の治療薬に対して「満足している・やや満足している」と回答した患者は37%にとどまり、治療をしていくことでアトピー性皮膚炎の症状が良くなると思うかを聞いた質問では「そう思う・ややそう思う」と答えた患者の割合は31%であった。 さらに、インターネットや本などで最後にアトピー性皮膚炎の治療薬を調べた時期を聞いた質問では、「直近5年よりも前/調べたことはない」との回答が58%を占めた。直近5年間に発売されたアトピー性皮膚炎の新しい全身療法(飲み薬や注射薬など)についてよく知っていると思うかとの質問には、「そう思う・ややそう思う」と回答した患者の割合は12%と低かった。「ベッドに手を縛り付けて寝たことも」岸谷五朗氏が語る生活への影響 幼少期にアトピー性皮膚炎を発症し、現在も治療を続けているという岸谷氏は、「物心ついたときから痒みに悩まされており、寝ている間にかいてしまって起きたときに血だらけだったこともある。高校生のころはかいてしまわないようにベッドの上の部分に手を縛り付けて寝ていた」と話し、化粧をしたり汗をかくことも多い舞台俳優という仕事をするうえでずっと悩まされてきたという。今回の調査でも、「アトピー性皮膚炎により仕事や学業に支障を来したことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は57%に上り、睡眠について聞いた質問では「月に10日以上、痒みで睡眠途中に起きてしまう」という回答が29%を占めた。 また、「アトピー性皮膚炎により恋愛に消極的になったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は46%で、「アトピー性皮膚炎の症状が気になって、家族や恋人とのスキンシップをためらったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」との回答も45%を占めた。岸谷氏は「幼稚園のフォークダンスのときに、自分の手がガサガサで相手の女の子が驚くことがとても苦痛だった」というエピソードを語り、大塚氏も「症状の出ている手が気になると話す患者さんは多く、それにより対人関係に影響が出ていることもあると思う」と話した。 今回の調査で治療に対する満足度が低かったことについて、岸谷氏自身は現在満足しているとしたうえで、外用薬の種類がたくさんあり、持ち歩かなくてはいけないことはストレスになっていると吐露。大塚氏は、「新しい薬剤を上手く使うことで、外用薬がほとんど必要なくなった患者さんもいる」と話し、認知度が低いことでそれらの治療にたどり着かないケースがあり、その点を改善していくことが今後の課題とした。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社インテージヘルスケア調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:スクリーニング調査 2025年3月5日~3月13日本調査 2025年3月28日~4月4日解析対象:18~79歳の中等症以上のアトピー性皮膚炎患者(POEMスコア8点以上、直近1年間にアトピー性皮膚炎の治療を目的とした医師からの処方歴あり)有効回答数:1,015例監修:近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授 大塚 篤司氏

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手術時、視力低下で困っている外科医の割合は?/医師1,000人アンケート

 医師の日常業務は診察や画像読影、手術など目を酷使する内容ばかりである。また、眼科領域の手術として、2000年代から屈折矯正手術(レーシック、眼内コンタクトレンズ[Implantable Contact Lens:ICL])が日本でも認められるようになり、現時点での医師、とくに眼科医の施術率が気になるところである。そこで今回、医師の眼の健康問題に関するアンケートを実施し、日常診療で困っていることや心がけていること、医師のレーシックやICLをはじめとする眼科手術の施術率などについて、会員医師1,024人(30代以上)にアンケート調査を行った。眼科医は屈折矯正手術を受けていない!? Q1「視力矯正のために使用/実施しているものはありますか」における全体の回答は、眼鏡(76.5%)、コンタクトレンズ(25.0%)、レーシック(1.8%)、ICL(0.9%)、なし(13.1%)という結果となった。これを年代別でみると、30代のコンタクトレンズの使用率が最も高く(50.0%)、レーシックは40代(4.6%)、ICLは30代(1.7%)でやや高い傾向を示した。診療科別で見ると、眼鏡とコンタクトレンズの使用率は眼科医が最も高い一方で、レーシックやICLの施術率は眼科医では0%であることも明らかになった。日々悩まされている眼疾患「近視、老眼、乱視」 続いてQ2「現在、困っている眼疾患や症状」では、近視(49.8%)、老眼(44.9%)、乱視(20.8%)、眼精疲労(17.3%)、遠視(9.3%)と続いた。年代別の結果は、30~40代では近視、50代以降は老眼が最大の悩みになっていた。少数意見ではあるが、白内障や緑内障、飛蚊症など加齢が主原因とされる眼疾患も、70代以上の医師の悩みのタネとなっていた。日常診療で不便を感じるのは… Q3「日々の業務において視力等で支障を感じる場面」については、カルテ入力/文書作成など文字を見るとき(41.4%)が最も多く、次いで論文閲覧(29.7%)、検査・処置(24.2%)と続いた。年代別では、60代の約半数でカルテ入力/文書作成に支障を来し、意外にも、50代に並んで30代でも診察や画像読影で不便を感じている声があった。診療科別で見ると、外科系診療医の約30%が手術の際に支障を来し、なかには、「針先確認(40代、小児科)」「カテーテル操作(40代、放射線科)」という具体的な声が挙げられた。 さらに、日々の診察で感じる目の健康に関する課題については、以下のような声が挙がった。「3-0の糸の端が見えない」(60代、泌尿器科)「画像診断を担当していると眼の衰えが早い」(40代、放射線科)「透視システムを使用する診療科なので、少しでも被爆が少なくなるように手技の効率化が図れないか考えている」(40代、脳神経外科) このほかにもアンケート結果ページでは、「施術を受けた/検討している眼科手術」「自身や家族の眼科手術経験から伝えたいこと」「実際に困ったこと」などの回答結果を公開している。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。視力低下で医師が悩むこと、日常診療への影響

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乳児ドナー心の手術台上での再灌流・移植に成功/NEJM

 米国・デューク大学のJohn A. Kucera氏らは、小児の心停止ドナー(DCD)の心臓を体外(on table、手術台上)で再灌流しレシピエントへの移植に成功した症例について報告した。DCDと再灌流をドナーの体内で行うnormothermic regional perfusion(NRP)法を組み合わせる方法は、ドナー数を最大30%増加させる可能性があるが、倫理的観点(脳循環温存に関する仮説など)からこの技術の導入は米国および他国でも限られており、DCD心臓の体外蘇生を容易にする方法が求められていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。ドナーは生後1ヵ月、レシピエントは生後3ヵ月の乳児 ドナーは、生後1ヵ月(体重4.2kg、身長53cm)で、自宅にて心停止状態で発見され、救急隊到着までの25分間、心肺蘇生(CPR)を受けていなかった。到着後、アドレナリン投与により自発循環が一時的に回復したが、救急外来到着後に再度心停止を起こし、再度アドレナリンにより蘇生された。これ以前には健康に問題はなかったとされている。経胸壁心エコーでは両心室機能は正常、小さな卵円孔開存以外に解剖学的には正常であった。 レシピエントは、生後3ヵ月(体重3.9kg、身長48cm)の乳児で、ウイルス性心筋炎による拡張型心筋症と診断されていた。生後1ヵ月時に心原性ショックを呈し、静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)、バルーン心房中隔裂切開術、動脈管開存のデバイス閉鎖術を受けていた。移植前には、壊死性腸炎、脳室上衣下胚芽層出血、低酸素性虚血性脳症の既往があり、搬送前には潜在性発作がみられた。 ドナーとレシピエントはABO血液型が適合し、共にサイトメガロウイルスIgG陽性およびEBウイルスIgG陽性であった。心摘出後の手術台上での再灌流で心移植に成功 手術室では、ドナーの生命維持治療の中止前に、ヘパリン投与を行うとともに、後方手術台で蘇生回路(小児用人工肺、遠心ポンプ、心臓から排出された血液を回収して再循環させるリザーバー)を準備した。 生命維持治療を中止し、心臓死宣言後に5分間の観察期間をおいたうえで、心臓を摘出し、蘇生回路に接続して動脈カニューレから37℃の血液を10mL/kg注入した。心臓はすぐに洞調律で拍動を開始し、冠動脈の灌流も良好で、心機能は正常と評価された。観察期間終了から心臓摘出まで3分38秒、摘出から再灌流まで1分32秒、蘇生時間は合計5分39秒であった。移植に適格と判断し、del Nido心筋保護液を注入して再度心停止を誘導し、冷却保存した。移植までの冷却保存時間は約2時間19分、冷虚血時間は合計2時間43分であった。 その後、移植手術は合併症なく終了した。レシピエントは、術後1日目の心エコーでは弁機能および両心室機能ともに異常は認められなかった。術後6日目に昇圧薬から離脱、術後7日目に抜管し、術後28日目には集中治療室(ICU)から退室、術後2ヵ月後には経口摂取が安定した状態で退院した。 有害事象は、術後2日目の経腸栄養開始後の腹部膨満(投与中止)、6日目の発熱(血液培養陰性、抗菌薬投与開始)、7日目および30日目の目標経管栄養速度での嘔吐、32日目および40日目の嘔吐であった。 本報告時点(術後3ヵ月)において、最新の心エコー検査でも正常な心機能が維持されており、移植片機能不全や急性細胞性または抗体介在性拒絶反応のいずれも認められていない。

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ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

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母体HIVウイルス量、母子感染に与える影響は?/Lancet

 米国・マサチューセッツ総合病院のCaitlin M. Dugdale氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析において、母体HIVウイルス量(mHVL)が50コピー/mL未満の場合、周産期感染は全体で0.2%以下であり、とくに妊娠前から抗レトロウイルス療法(ART)を受け出産直前にmHVLが50コピー/mL未満の女性では感染は認められなかったが、授乳期の感染リスクはきわめて低いもののゼロではなかったことを示した。持続的なウイルス学的抑制状態にある人からの性行為によるHIV感染リスクはゼロであることを支持するエビデンスは増加傾向にあり、「U=U(undetectable[検出不能]= untransmittable[感染不能])」として知られるが、これが垂直感染(母子感染)にも当てはまるかを判断するにはデータが不十分であった。著者は、「妊娠と出産におけるU=Uを支持する結果が示されたが、現在のデータは主に、頻回のmHVLモニタリングや最新の1次ARTレジメンを実施していない研究から得られたものであり、授乳中のU=Uを評価するには不十分である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年7月10日号掲載の報告。mHVLと母子感染リスクに関するシステマティックレビューとメタ解析 研究グループは、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、Cumulative Index of Nursing and Allied Health Literature、WHO Global Health Library、ならびに国際エイズ学会およびレトロウイルス・日和見感染症会議(2016~24年)の抄録を検索し、1989年1月1日~2024年12月31日に発表された、出生直後(出生後6週以内の周産期感染リスクを推定するため)または授乳中(過去6ヵ月間のmHVLに基づく月間感染リスクを推定するため)のmHVLと母子感染の関連について報告した研究を検索した。 事前に定義したmHVLカテゴリーごとに周産期および出生後の感染リスクを統合した。また、ポアソンメタ回帰を用いて比較分析を行い、mHVL別の感染の補正後相対リスク(aRR)も算出した。mHVL<50コピー/mLで周産期感染の統合リスクは0.2% 147件の研究が解析に組み入れられた。138件が周産期解析に、13件が出生後解析に寄与した。全体で8万2,723組の母子データが含まれた。 周産期感染の統合リスクは、mHVLが<50コピー/mLで0.2%(95%信頼区間[CI]:0.2~0.3)、50~999コピー/mLで1.3%(1.0~1.7)、≧1,000コピー/mLで5.1%(2.6~7.9)であった。周産期感染のaRRは、mHVL<50コピー/mLとの比較において、mHVLが50~999コピー/mLで6.3(95%CI:3.9~10.3)、≧1,000コピー/mLで22.5(13.9~36.5)であった。 サブグループ解析では、妊娠前からARTを受け、出産直前のmHVLが50コピー/mL未満の女性4,675例を対象とした5件の研究において、周産期感染はゼロ(0%、95%CI:0.0~0.1)であった。 授乳期の月間感染リスクは、直近のmHVLが<50コピー/mLで0.1%(95%CI:0.0~0.4)、≧50コピー/mL以上で0.5%(0.1~1.8)であった。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー

今回のキーワードポストトラウマティック・プレイミラーリング象徴機能心の理論(社会脳)心理的ディブリーフィングPTG(心的外傷後成長)[目次]1.なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化2.子供のPTSDにどうすればいいの?3.プレイセラピーとは?4.「心の傷を癒すということ」とは?前回(その1)、子供の演じる心理の発達から、地震ごっこをするのは、子供たちが地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからであることがわかりました。それでは、なぜトラウマ体験のごっこ遊び(ポストトラウマティック・プレイ)は子供に普遍的に見られる現象なのでしょうか? 言い換えれば、なぜ地震ごっこは「ある」のでしょうか? そして、どう接したらいいのでしょうか?この謎の答えを解くために、今回は、引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、人類の演じる心理の進化を明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げます。そこから、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)への真の対応のヒントを導きます。さらに、子供への心理療法の1つであるプレイセラピーをご紹介します。なんで地震ごっこは「ある」の?-人類の演じる心理の進化子供の演じる心理の発達は、まず目の前の人の動きをそのまま演じる(まね遊び)、次に目の前にいない人の動きを演じる(ふり遊び)、最後に周りの人とのかけ合いによって演じる(ごっこ遊び)であることがわかりました。ここで、進化心理学の視点から、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を、体だけでなく心(脳)にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測します。さらに、人類が演じる心理をどう進化させたのかを明らかにして、トラウマ体験のごっこ遊びの起源を掘り下げてみましょう。大きく3つの段階に分けられます。(1)目の前の相手の動きを演じる―ミラーリング約700万年前に人類が誕生し、約300万年前には男性は女性と一緒に生活して子育てに参加するようになりました。当然ながら、当時はまだ言葉を話せません。そのため、男女がお互いの唸り声や動きをまねすることで、一緒にいたい気持ちを伝え合っていたでしょう。同時に、このようにまねをすることで、相手への親近感(共感性)が高まるように進化したでしょう。1つ目は、ミラーリングです。これは、目の前の相手の動きをそのまま演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のまね遊びに重なります。なお、ミラーリングの起源の詳細については、関連記事1の後半をご覧ください。(2)目の前にいない人の様子を演じる―象徴機能約300万年前に、人類はさらに部族集団をつくるようになりました。まだ言葉を話せないなか、メンバーの誰かがけがをして助けが必要であることや猛獣が近くに来ていてみんなで追い払う必要があることなどを何とか身振り手振りや表情などの非言語的コミュニケーション(サイン言語)で伝えたでしょう。2つ目は、象徴機能です。これは、目の前にいない人やものの様子を体全体で演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のふり遊びに重なります。なお、象徴機能の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―心の理論約300万年前以降、人類は、かつて部族のメンバーがどうやってけがをして助けられたか、近くに来ていた猛獣をどうやって追い払ったかをメンバー同士で演じて再現すること(ごっこ遊び)で伝え合ったでしょう。名付けるなら、「救助ごっこ」「猛獣撃退ごっこ」です。そして、地震が起きたあとは、そのエピソードを伝える「地震ごっこ」もやっていたでしょう。こうして、人類は相手の気持ちを推し量り、周りと助け合ってうまくやっていく能力を進化させていったでしょう。3つ目は、心の理論(社会脳)です。これは、周りの人とのかけ合いによって演じる能力と言い換えられます。これは、子供の心理発達のごっこ遊びに重なります。なお、心の理論(社会脳)の起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。その後、約20万年前に現生人類(ホモサピエンス)が言葉を話すようになると、その状況を言葉によって次世代に伝えるようになりました(伝承)。こうして、もはや演じること(ごっこ遊び)によって伝える必要が日常的にはなくなったのでした。約10万年前に原始宗教が誕生してから、演じることは、神の教えという儀式(宗教的祭祀)として残り、紀元前5世紀ごろには古代ギリシアで演劇という娯楽として発展していきました。以上より、地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからと言えます。つまり、トラウマ体験のごっこ遊びは、人類の心の進化の歴史のなかで、生存のために必要な原始的な機能であり能力であったというわけです。この進化の産物は、言葉を話す現代の社会では必要がなくなったのですが、その名残りが子供に見られるのです。だから、子供に普遍的なのです。なお、現代の社会で大人はトラウマ体験のごっこ遊びをしなくなりましたが、実は好んで見ています。それが、人気コンテンツである災害映画(ディザスタームービー)です。これは、大がかりで壮大な「災害ごっこ」と言えるでしょう。ちなみに、トラウマ体験のごっこ遊びと同じように、その1でご紹介したそのほかの子供のPTSDの症状であるフラッシュバックや赤ちゃん返り(解離)も、進化の歴史で獲得した機能であると説明することができます。たとえば、言葉や文字によって時間の概念がなく、その瞬間だけを生きていた原始の時代、二度と同じような危険な目(トラウマ体験)に遭わないようにするために唯一頼りになったのは、フラッシュバックだったでしょう。つまり、フラッシュバックという現象は、記憶を強化するために必要な能力(心理機能)だったと言い換えられます。また、常に死と隣り合わせの原始の時代、自力で生き残れない幼児は、危険な目(トラウマ体験)に遭ったあとに、ほかのきょうだいよりも親の目をかけてもらうために唯一できることは、無意識に赤ちゃんを演じることでしょう。つまり、赤ちゃん返りという現象は、保護者から援助行動をより引き出すために必要な能力(心理戦略)だったと言い換えられます。なお、PTSD(トラウマ)の起源の詳細については、関連記事4をご覧ください。子供のPTSDにどうすればいいの?地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類がとくに災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからであることがわかりました。そして、フラッシュバックも赤ちゃん返りも、進化の歴史で獲得した機能であることがわかりました。この点を踏まえて、子供のPTSDにどうすればいいでしょうか? その対応を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ただ一緒にいるその1でも触れましたが、「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」というフラッシュバックの症状を訴えた小学生の男の子に対して、安先生は、「大丈夫や。揺れてへん」と力強くも温かく言います。そして、一緒に荷物を運ぶのです。1つ目の対応は、ただ一緒にいることです。そして、助け合うことです。これは、原始の時代に進化した社会脳に通じます。逆に言えば、何か特別なことをする必要はありません。安静にすることでもありません。一番大事なことは、なるべく普段と変わらない日常生活のなかで、体が安全であること、そして心が安全であることを、時間をかけて感じてもらうことです。(2)自然な気持ちを促す安先生は、その男の子に「ちゃんと眠れてるんか?」「何か話したいことあったら、何でもいいな」と問いかけると、「ええわ、僕よりつらい目に遭うた人いっぱいおるし」と返されます。すると、安先生は「お~我慢して偉いな…って言うと思ったら大間違いや。こんなつらいことがあった。こんな悲しいことがあった。そういうこと、話したかったら、遠慮せんと話してほしいねん」「言いたいこと我慢して飲み込んでしもうたら、ここ(子供の心臓を指して)、あとで苦しくなんで」と言います。男の子から「おじいちゃんに男のくせにそんなに弱いかって笑われる」と漏らされると、安先生は「弱いってええことやで。弱いから、ほかの人の弱いとこがわかって助け合える。おっちゃんも弱いとこあるけど、全然恥ずかしいと思うてへん」と力強く言います。2つ目の対応は、我慢せずに自然な気持ちを促すことです。この点で、地震ごっこに対しては、やはりまず見守ることです。実際に、東日本大震災のあとに観察された多くの地震ごっこでは、子供たちが楽しんでやっていることがわかっています1)。もちろん、けがや暴力になりそうなら止める必要がありますが、基本的には見守るだけで十分です。逆に言えば、話したくないのに、話すように促すことはしないことです。これは、心理的ディブリーフィングと呼ばれ、トラウマ体験をできるだけ早い時期に語らせて、気持ちを吐き出させることで、かつてアメリカの9.11の同時多発テロによるトラウマ体験への治療として注目されました。しかし、その後に実際には有効ではないという研究結果が相次いで報告され、トラウマ反応を強化させる可能性までも指摘されました1)。これは、PTSDを心の進化における機能として捉えたら、当然でしょう。これは、子供だけでなく、大人にも当てはまります。安全が確認されていないのに避難訓練をやらないのと同じように、心の安全(心の準備)が保たれていないタイミングで、語らせたり、演じさせたりは絶対にしないようにする必要があります。この点を踏まえて、東日本大震災の被災地の学校で、震災当時の絵を描かせたり、作文を書かせたり、語りをさせるなどの震災体験の表現の取り組み(防災教育)が行われましたが、それにあたって、少なくとも震災から1年が経っていること、事前に生徒たちに伝えて心の準備をしてもらうこと、嫌だったらやらなくていい(ほかにやりたいことをしてもいい)という選択肢を示すことなどのきめ細かい配慮がなされました1)。(3)楽しめることを促すその後、小学校の避難所でのまとめ役でもある校長先生が、安先生に「子供らの遊ぶ場所、作られへんかなと思てな」「毎日、枕元で地震ごっこされたらかなわんからな」と笑いながら、「キックベース、どうですか?」と誘います。なんと、校長先生が、子供たちのために、キックベースのイベントを開いたのでした。3つ目の対応は、楽しめることを促すことです。これは、地震ごっこだけでなく、子供が楽しめるポジティブなことなら何でもありです。なぜなら、何もしないと、トラウマ体験の記憶が頭のなかを占めてしまい、フラッシュバックをより引き起こしてしまうからです。そうではなくて、代わりに楽しい記憶を頭のなかに占めて、フラッシュバックを起こしにくくするのです。なお、大人のPTSD(トラウマ)への対応の詳細については、関連記事4をご覧ください。プレイセラピーとは?もしも、子供が1人で地震ごっこをやっている場合は、どうでしょうか? もちろん、見守ることができます。さらに、PTSDへの対応の観点から、セラピスト、さらには家族や親しい人たちがその遊びに加わり、自然な気持ちを促し、一緒に楽しむことができます。これは、プレイセラピー(遊戯療法)と呼ばれています。たとえば、子供が「地震だー」と言い、体を揺らしていたら、一緒にいる人は「逃げろー」と合いの手を入れ、一緒に走り回ります。一通り走り回ったら、最後は「逃げれたー。助かったー。良かったねー」というセリフを言うのです。途中で、近所の人を助ける演技を入れるのもいいでしょう。こうして、助け合っていることを一緒に喜び合うことで、地震があっても助かったストーリーを一緒につくることができます。ただし、あくまで子供が自然に遊んでいる状況に乗っかるのがポイントです。逆に、「地震ごっこをしよう」などと最初から誘導しないことです。これは、先ほどの心理的ディブリーフィングと同じく、トラウマ反応を強化させるリスクがあります。また、ごっこ遊びのテーマとなるトラウマ体験が、災害ではなく、虐待・誘拐・殺人などの犯罪の場合はより専門的な介入が必要になり、場合によっては止める必要があります2)。その理由は、「虐待ごっこ」「誘拐ごっこ」「殺人ごっこ」になってしまうからです。これは、災害の環境と同じように、虐待・誘拐・殺人などの環境に子供が無意識に適応しようとするわけなのですが、相手に傷つけられるまたは傷つけるという不適切なコミュニケーションの練習をしてしまうおそれがあるからです。これは、子供が傷つけられる人を繰り返し演じることで自己肯定感を低くして、さらに傷つける人を繰り返し演じることで攻撃性を高めるリスクがあります。「心の傷を癒すということ」とは?ラストシーンで、安先生が「心のケアって何かわかった。誰も、ひとりぼっちにさせへん、てことや」と悟ったように言うシーンがあります。このセリフから私たちは、子供にしても大人にしても、PTSDの症状は、単に困ったネガティブなものではなく、お互いの援助行動を引き出し、連帯感を促すポジティブな機能であり、能力であると捉え直すことができます。そうして、子供も大人もトラウマを乗り越えて成長した状態は、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれます。じつは、このドラマは実話をもとにしたストーリーです。実在した人物である故・安 克昌先生のドキュメンタリーでもあり、なんと阪神淡路大震災で実際に被災した人たちがこのドラマの避難所のエキストラとして出演していました。このドラマに関連した番組3)では、エキストラに参加したある元被災者の女性について、「自らの記憶をたどり、心の奥にしまっていた感情に気づき、折り合いをつける。ドラマ作りに参加することが心の傷を癒す小さなきっかけになったのかもしれません」とナレーションで説明されていました。このように、大人もトラウマ体験を再演することで、PTGになることができるでしょう。人類が長らく演じることでコミュニケーションをしてきた進化の歴史を踏まえると、その子孫である現代の私たちは、言葉によって普段抑制している感情(演じる心理)を体全体でもっと自由に解放することができるのではないでしょうか? つまり、私たち大人も、子供と同じようにもっと「ごっこ遊び」(演技)を生活のなかで生かすことができるのではないでしょうか?なお、演技の効果(機能)の詳細については、関連記事5をご覧ください。1)「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」p.19、p.126、p.212:冨永良喜ほか、誠信書房、20182)「子どものポストトラウマティック・プレイ」p.27:エリアナ・ギル、誠信書房、20223)「100分de名著 安克昌 “心の傷を癒すということ” (4)心の傷を耕す」:宮地尚子、NHKテキスト、2025年1月■関連記事映画「RRR」【なんで歌やダンスがうまいとモテるの?(ラブソング・ラブダンス仮説)】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】映画「シンシン」(その1)【なんで演じると癒されるの?(演技の心理)】

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18歳未満の嘔吐を伴う急性胃腸炎、オンダンセトロンは有益か/NEJM

 胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児において、救急外来受診後のオンダンセトロン投与はプラセボ投与と比べて、その後7日間の中等症~重症の胃腸炎リスクの低下に結び付いたことが示された。カナダ・カルガリー大学のStephen B. Freedman氏らPediatric Emergency Research Canada Innovative Clinical Trials Study Groupが、二重盲検無作為化優越性試験の結果を報告した。オンダンセトロンは、救急外来を受診した急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する小児への単回投与により、アウトカムを改善することが報告されている。症状緩和のために帰宅時に処方されることも多いが、この治療を裏付けるエビデンスは限られていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。嘔吐への対応として6回投与分を処方、中等症~重症の胃腸炎発生を評価 研究グループは、カナダの3次医療を担う6施設の小児救急外来で、急性胃腸炎に伴う嘔吐を呈する生後6ヵ月~18歳未満を対象に試験を行った。 救急外来からの帰宅時に、被験者には経口オンダンセトロン液剤(濃度4mg/5mL)またはプラセボ液剤が6回分(それぞれ0.15mg/kg、最大投与量8mg)提供された。介護者には0.1mL単位で調整された投与量が伝えられ、投与後15分以内に嘔吐が再発した場合は再投与し、試験登録後48時間で液剤は廃棄するよう指示された。介護者は7日間の試験期間中、液剤投与および関連した症状を日誌に記録した。 主要アウトカムは、中等症~重症の胃腸炎(試験登録後7日間における修正Vesikariスケール[スコア範囲:0~20、高スコアほどより重症であることを示す]のスコア9以上の胃腸炎発生で定義)。副次アウトカムは、嘔吐の発現、嘔吐の持続期間(試験登録から最終嘔吐エピソードまでの期間で定義)、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数、試験登録後7日間の予定外受診、静脈内輸液の投与などであった。中等症~重症の胃腸炎はオンダンセトロン群5.1%、プラセボ群12.5%、有害事象発現は同程度 2019年9月14日~2024年6月27日に合計1,030例の小児が無作為化された。解析対象1,029例(1例はWebサイトエラーのため無作為化できなかった)は、年齢中央値47.5ヵ月、女児521例(50.6%)、体重中央値16.1kg(四分位範囲[IQR]:12.2~22.5)、ロタウイルスワクチン接種済み562/782例(71.9%)、ベースラインでの嘔吐の持続期間13.9時間(IQR:8.9~25.7)、修正Vesikariスケールスコア中央値9(IQR:7~10)などであった。 主要アウトカムの中等症~重症の胃腸炎は、オンダンセトロン群5.1%(データが入手できた452例中23例)、プラセボ群12.5%(同441例中55例)であった(補正前リスク差:-7.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.2~-3.7)。試験地、体重、欠失データを補正後も、オンダンセトロン群はプラセボ群と比べて中等症~重症の胃腸炎のリスクが低かった(補正後オッズ比:0.50、95%CI:0.40~0.60)。 嘔吐の発現や持続期間中央値について、あらゆる意味のある群間差は認められなかったが、試験登録後48時間の嘔吐エピソード回数は、オンダンセトロン群がプラセボ群と比べて低減した(補正後率比:0.76、95%CI:0.67~0.87)。予定外受診および試験登録後静脈内輸液の投与は、試験群間で大きな差はなかった。 有害事象の発現も試験群間で意味のある差は認められなかった(オッズ比:0.99、95%CI:0.61~1.61)。

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重症アナフィラキシー、最もリスクの高い食品は?

 食物誘発性アナフィラキシーの症例 2,600 件以上を調査した研究において、喘息の病歴がある場合やピーナッツが誘因となった場合、アナフィラキシーの重症度がより高くなると予測されることが判明したという。ルーベ病院センター(フランス)のGuillaume Pouessel氏らによる本研究結果は、Clinical and Experimental Allergy誌2025年7月号に掲載された。 研究者らは、「フランス語圏アレルギー警戒ネットワーク(Allergy-Vigilance Network)」で2002~21年に記録された食物アナフィラキシー症例を後ろ向きに解析し、Ring-Messmer分類による致命的な症例(Grade4)を重篤な症例(Grade3)と比較し、重症度が高いことに関連するリスク要因を特定した。 主な結果は以下のとおり。・報告された2,621件の食物アナフィラキシー症例のうち、重症と判断された731件(Grade3:687件[94%]、Grade4:44件[6%])に死亡19件を加えた750件を解析対象とした。・全体の56.1%が成人(平均年齢28.3歳)、53.7%が男性だった。・重症例全体で頻度の高い誘因は、ピーナッツ(13.9%)、小麦(9.4%)、カシューナッツ(5.8%)、エビ(5.4%)、牛乳(4.8%)だった。・Grade4のアナフィラキシー症例は、成人よりも小児(18歳未満)に多く発生した(18例対26例)。・Grade4の症例はGrade3の症例と比較して、原因食物に対するアレルギー歴あり(71.1%vs.42.1%)、喘息診断あり(59.5%対30.4%)、原因食物がピーナッツ(34.1%対12.6%)である割合が高かった。・Grade4のアナフィラキシーを予測する因子は、喘息診断あり(オッズ比[OR]:3.41、95%信頼区間[CI]:1.56~7.44)、原因食物がピーナッツ(OR:3.46、95%CI:1.28~9.34)であった。 著者らは「本データは、重症食物アナフィラキシーのリスク因子、とくに喘息の既往歴と原因食物としてのピーナッツを特定した。これらの患者には、経口免疫療法や生物学的製剤などの個別化された管理戦略が必要となるだろう」としている。

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第276回 幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい

幼い子が昼寝すると夜に眠れなくなるという心配は杞憂らしい夜に眠れなくなるかもしれないと心配して、親は子に昼寝しないようにするかもしれません。フランスでの試験結果によるとその心配はどうやら不要で、幼い子のしばしの昼寝は夜の眠りに差し障ることなく睡眠総量を増やすようです1,2)。赤ちゃんや幼い子はたいてい昼寝します。その習慣は記憶の発達に不可欠なようです。3~5歳ぐらいになると昼寝の習慣はたいていなくなります。しかしその時期はまちまちなので、多くの親は子の昼寝の扱いに悩まされます。昼寝が夜の睡眠を妨げたり貴重な学習時間が減ったりしてしまうのではないかと懸念する親や先生もいます。そこでフランスのリヨン大学のStephanie Mazza氏らは、同国の6つの幼稚園の子を募って幼い子の昼寝がはたして夜の睡眠に実害を及ぼすかどうかを調べました。手関節につける睡眠計を2~5歳の85人に渡し、平均8日弱(7.8日間)の睡眠時間が測定されました。その記録と親の睡眠日誌から、昼寝1時間当たり平均して夜の睡眠時間が13.6分短縮し、入眠時間(sleep onset latency)が6分ほど延長しました。24時間の総睡眠時間はというと、昼寝した日には45分ほど長くなっていました。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)や世界保健機関(WHO)によると、3~5歳の小児は1日に少なくとも10時間の睡眠が必要です3,4)。今回の試験の小児の1日当たりの平均睡眠時間は9時間20分であり、必要な時間に40分ほど足りていませんでした。しかし昼寝した日は総睡眠時間が45分ほど多いので、学会やWHOが指南する最低必要量にだいたい到達します。昼寝は就寝をいくらか遅らせるかもしれないものの睡眠総量を増やすことを今回の試験結果は示唆しており、親は6歳前の子が昼寝を依然として必要としていたとしても気に病む必要はない、とMazza氏は言っています2)。同氏によると、子の昼寝は問題視するに及ばず、貴重な休息時間とみなすべきです。刺激的な環境で過ごす子にとってはとくにそうでしょう。ところで大人はどうなのかというと、昼寝が認知機能不良の印らしいとする報告がある一方で、有益らしいことも示唆されています。とくに、計画的な昼寝は認知や記憶の検査成績を良くするらしく、頭の働きを最適化する手段となりうるようです5)。一方、何らかの基礎疾患の現れとして昼間の過度の眠気や昼寝が生じることもあるようです。過度の眠気や昼寝は心血管疾患やその危険因子6-10)、腎臓の不調11)、はては死亡率上昇12)などと関連することが示されており、それら事態の発見や対策の手がかりとしても役立つようです。 参考 1) Reynaud E, et al. Research Square. 2025 Jul 1. 2) Why you shouldn't worry a nap will stop your child sleeping at night / NewScientist 3) Paruthi S, et al. J Clin Sleep Med. 2016;12:1549-1561. 4) Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age / WHO 5) Leong RLF, et al. Sleep Med Rev. 2022;65:101666. 6) Blachier M, et al. Ann Neurol. 2012;71:661-667. 7) Newman AB, et al. J Am Geriatr Soc. 2000;48:115-123. 8) Wannamethee SG, et al. J Am Geriatr Soc. 2016;64:1845-1850. 9) Tanabe N, et al. Int J Epidemiol. 2010;39:233-243. 10) Zonoozi S, et al. BMJ Open. 2017;7:e016396. 11) Ye Y, et al. PLoS One. 2019;14:e0214776. 12) Leng Y, et al. Am J Epidemiol. 2014;179:1115-1124.

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13年ぶり改定「尋常性白斑診療ガイドライン第2版」、ポイントは

 2012年の初版発表以降13年ぶりに、「尋常性白斑診療ガイドライン第2版2025」が公表された。治療アルゴリズムや光線療法の適応年齢の変更、2024年発売の自家培養表皮「ジャスミン」を用いた手術療法の適応の考え方などについて、ガイドライン策定委員会委員長を務めた大磯 直毅氏(近畿大学奈良病院皮膚科)に話を聞いた。治療アルゴリズムは疾患活動性の評価方法、全身療法の位置付けに変化 治療アルゴリズムの大きな変更点としては、疾患活動性を評価するための方法が明確になった点が挙げられる。尋常性白斑の疾患活動性に関連する臨床症状の評価および定量化のための方法として、2020年にVSAS(Vitiligo Signs of Activity Score)が発表された1)。VSASでは、1)紙吹雪様脱色素斑、2)ケブネル現象、3)低色素性境界部の3つの臨床症状を定義し、これらを基に評価が可能となっている。大磯氏は、「以前は主に病歴の聴取から進行期/非進行期を判断していたが、臨床症状から区別ができるようになったことは大きい。治療方針を決めるうえで進行期/非進行期の判断は重要なので、活用してほしい」と話す。 また今版のアルゴリズムでは、進行期・非分節型・15歳以上の症例については、はじめにステロイドミニパルスなどの全身療法を検討することが推奨されている。初版での光線療法や外用療法に続く位置付けから変更されたもので、同氏は「ある程度症状の強い進行期の患者さんに対しては、早めに全身療法を行い、進行を抑制することが重要」とした。光線療法の適応を10歳以上に引き下げ 今回、光線療法の適応が16歳以上から10歳以上に引き下げられた。欧州では光線療法の機器を用いて安全に受けることができる年齢という意味で7歳以上とされていた。紫外線療法を10歳未満で行うと将来的に老人性色素斑(日光黒子)が生じやすいという経験的な知見などを考慮し、今版では10歳以上とされた。 照射回数については、日光角化症リスクなどを評価した2020年に韓国から発表されたデータ2)を基に、委員会での検討を経て累積照射回数は200回までと推奨が記載されている。自家培養表皮「ジャスミン」発売、手術療法適応の考え方は? 自家培養表皮を使用した手術療法は、「健常部のダメージが少なく、理論的には拒絶反応も起こらないため安全性が担保される点がメリット」と大磯氏は話し、今後実臨床でのデータが蓄積することに期待を寄せた。適応となるのは、非進行期(12ヵ月以上非進行性)で外用療法や光線療法に抵抗性の12歳以上で、局所免疫のない患者だが、局所免疫があるかないかを評価する方法が現状ではない。そのため同氏は、「一部を植皮して生着を確認したうえで行うことが望ましいが培養表皮の製造には費用がかかるので、スクリーニングとして水疱蓋移植やミニグラフトで色素が定着するかどうかを確認したうえで行うこととなるのではないか」と述べた。外用療法の現状とJAK阻害薬への期待 尋常性白斑に対し保険適用のある外用薬は非常に限られており、「臨床医の先生方は困っておられることと思う」と大磯氏。ステロイドに関して本ガイドラインで示された推奨度は・非分節型(顔面・頸部を除く)1A・非分節型(顔面・頸部)2A・分節型および分類不能型 2Bで、「成人・小児ともに、非分節型の尋常性白斑に対してストロング(III群)のステロイド外用薬を1日1回塗布することを基本とし、年齢や部位に応じて強さをベリーストロング(II群)またはミディアム(IV群)に変更する」とされた。 欧米では、JAK阻害薬ルキソリチニブの外用薬が尋常性白斑に対して保険適用されている。同氏は今後日本でも使えるようになれば選択肢が広がり、外用療法がしやすくなると話し、承認への期待を寄せた。

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子ども向けネット動画にジャンクフードの宣伝が氾濫

 YouTubeで動画を見ている子どもは、キャンディーや加糖飲料、ファストフード、甘いスナックや塩辛いスナックなどのジャンクフードを宣伝するメッセージを頻繁に目にしていることが、新たな研究で明らかにされた。この研究によると、6~8歳の子どもの75%、3~5歳の子どもの36%が、自分のモバイル端末で自由に選んだYouTubeまたはYouTube Kidsの動画を視聴中にジャンクフードの宣伝にさらされていたという。米コネチカット大学ラッド・センター・フォー・フードポリシー・アンド・ヘルス(以下、ラッド・センター)のJennifer Harris氏らによるこの研究結果は、「Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics」に6月25日掲載された。 Harris氏は、「こうした宣伝目的の動画に登場する食品ブランドの半数以上は、米国の食品業界が自主規制プログラムである『子ども向け食品・飲料広告イニシアチブ(Children’s Food and Beverage Advertising Initiative)』参加企業のものだ」と指摘。「これらの企業は、子どもに対しては健康的な選択肢のみの宣伝に限定すると誓っているにもかかわらず、子どものインフルエンサーたちが、こうした企業のブランドの商品、例えばキャンディーや加糖飲料、甘いスナックや塩辛いスナックなどを頻繁に宣伝している」と述べている。 Harris氏らは今回の研究で、3〜8歳の子ども101人(3〜5歳53人、6〜8歳48人)が自宅で30分間YouTube動画を視聴する様子を、Zoomを通して観察した。その結果、上述の通り、6~8歳の子どもの75%、3~5歳の子どもの36%が動画の視聴中に食品ブランドの宣伝にさらされていることが判明した。曝露回数は、6〜8歳で平均8.7回、3〜5歳で4.1回であり、YouTubeで7.7回、YouTube Kidsで3.8回であった。 また、子どもの目にふれる食品の74%は、キャンディー、加糖飲料、ファストフード、甘い/塩辛いスナックであった。それらの食品の61%は、プロモーションとエンターテインメントの境目を意図的に曖昧にした形で動画のコンテンツ内に組み込まれており、サムネイルによる露出は23%、広告としての表示は17%にとどまっていたという。 さらに、こうした食品が登場していた動画の77%はライフスタイル系の動画で、71%はインフルエンサーなどの登場人物がその商品を実際に食べる、または食べようとしている様子を見せるものだったという。 連邦取引委員会(FTC)は、企業やインフルエンサーに対し、特に幼い子ども向けの動画でこうした一般的なステルスマーケティング(宣伝の意図を隠した宣伝)の手法をやめるよう呼びかけているとHarris氏らは指摘している。論文の筆頭著者であるラッド・センターのマーケティング・イニシアチブ部門長のFrances Fleming-Milici氏は、「まだとても幼い子どもたちが、YouTubeやYouTube Kidsで不健康な商品の宣伝にさらされている。こうした宣伝の多くはお気に入りの動画の中で小道具やストーリーの一部として組み込まれ、広告であることが分かりにくくなっている」と指摘し、「3歳という幼い子どもが、こうしたプラットフォームで過ごす時間はますます長くなっている。そのような状況を考慮すると、子どもの健康に有害な影響を与える商品のステルスマーケティングから彼らを守るための政策が必要だ」と付け加えている。 さらに、研究グループは、FTCが義務付けているにもかかわらず、食品や飲料のブランドが登場するどの動画においても、企業がそのコンテンツのスポンサーとなっていることが明示されていなかった点も問題点として指摘している。

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小児気道異物【すぐに使える小児診療のヒント】第4回

小児気道異物今回は、小児気道異物についてお話しします。「咳が続く」「熱が出た」など風邪様症状で受診する小児は多いですが、それらは本当に風邪ですか?症例1歳3ヵ月、男児咳嗽が出現したため5日前に近医を受診し、急性上気道炎として経過観察されていた。症状が持続し、2日前から発熱も認めるようになったため、近医を再診した。このような症例は、小児を診察していると非常によく遭遇すると思います。保育園に通う幼児は、しょっちゅう風邪をひいて発熱することもしばしば。たいていは急性上気道炎ですが、そんな数ある症例の中に「気道異物」は隠れています。気道異物とは?気道異物とは、本来であれば食道へ向かうべきものが誤って気管や気管支に入ってしまう状態を指します。とくに2歳未満の乳幼児に多く、男児にやや多い傾向があります。原因となるのは、ナッツ類や豆などの食べ物のほか、ビーズやボタン、ビニール片なども含まれます。この時期の小児はまだ犬歯や臼歯が生えそろっておらず、咀嚼力が不十分です。また、咳反射も未熟なため、異物が気道に入っても上手に吐き出せません。こうした身体的特徴に加え、なんでも口に入れて確認しようとする発達段階の特性も、気道異物のリスクを高めています。診断が遅れる理由小児の気道異物の典型的な症状としては、「突然の咳き込み」「喘鳴」「呼吸苦」などが知られています。しかし、実際には「咳が続く」「熱が出た」など非特異的な症状で受診することが多く、初診医が気道異物を疑わないまま経過を追ってしまうケースも少なくありません。異物によっては症状が一時的に軽快するものもあり、その後の症状と結びつかなくなって診断が難しくなることもあります。たとえば、ビニール片のような薄く柔らかい異物は気管内で一旦固定されると喘鳴や咳が軽減し、症状が目立たなくなることがあります。これを「無症状期」と言います。気道異物を疑ったとしても、CTや気管支鏡などの検査は小児では被曝や鎮静のリスクがあるため、実施にためらいが生じやすい現実があります。そのため「明らかな所見がなければ様子をみる」という判断がされやすく、この慎重さが診断の遅れにつながる理由でもあります。診断の鍵は「問診」言葉で症状を説明できない乳幼児では、診察時の所見だけでは判断がつきにくく、保護者から得られる情報が診断の鍵となります。しかし、保護者自身がその情報を重要視していない場合もあるため、「何か口に入れていませんでしたか」「急な咳き込みはありませんでしたか」といった吸引エピソードを探る質問に加え、「おもちゃの部品が足りない」「食べ物が床に落ちていた」といった状況証拠を確認する質問も重要です。診察時に症状が落ち着いていたとしても無症状期を考慮し、吸引の可能性について尋ねる習慣を持つことも診断につながります。また、保護者からの申告がない場合でも、急に始まった咳嗽や喘鳴、治療抵抗性の肺炎などがある場合には、常に気道異物の可能性を頭の片隅に置いておく必要があります。実際の説明例咳が続いていて、熱も出てきました。なんだか呼吸も苦しそうです。何かを口に入れてむせたり、急に咳き込んだりしませんでしたか?あっ!そういえば、1週間くらい前にナッツを与えたところ、むせこんでいました。ちょっと様子をみていたら一旦落ち着いたので、今の咳とは関係ないと思い込んでいました。画像検査と治療方針左主気管支、カシューナッツ画像を拡大する問診で気道異物の可能性が示唆されたとき、次に考えるのが画像検査による裏付けです。しかし、ここでもいくつかの注意点があります。単純X線検査では、ナッツ類やビニール片などの異物は写らないことが多く、診断の決め手にはなりにくいのが実情です。Holtzkneht徴候といった教科書的な所見も、実臨床ではなかなか確認できません。CT検査は異物の描出に有用で、冒頭の症例のもととなった患児の左主気管支でカシューナッツを発見しました。しかし、CT検査は被曝や鎮静の必要性があるため、小児では実施のハードルは高いでしょう。確定診断および治療は、気管支鏡を用いた異物の摘出です。全身麻酔下での気管支鏡検査(主に硬性鏡)が必要となり、設備と経験のある施設での対応が前提となります。したがって、気道異物の可能性が否定できない場合には、専門施設への紹介を検討することが重要です。予防のために気道異物は診断・治療の難しさだけでなく、予防の視点も欠かせません。とくに乳幼児期は、口に入れることで物の形や質感を学ぶ発達段階にあるため、「なんでも口に入れてしまう」こと自体は自然な行動です。だからこそ、周囲の大人が環境を整えることが何より大切です。たとえば、節分の豆やナッツ類は5歳未満には与えない、ミニトマトやブドウなど球状の食品は4等分に切るか柔らかく調理する、食事中は遊ばず食べることに集中できる環境を整える、小さなパーツ付きのおもちゃで遊ぶときは目を離さない―こうした日常の注意が、事故の予防に直結します。実際、節分の時期には消費者庁から注意喚起の文書が毎年発表されています。また、保護者自身が「誤って吸い込む危険」に気付いていないことも多いため、医療者からの丁寧な声かけが有効です。日頃から予防のための一言を添えたり、「子どもの事故防止ハンドブック」(子ども家庭庁・消費者庁発行)など無料で入手できる資料を紹介したりすることも、保護者への啓発に役立ちます。気道異物は、ありふれた咳や発熱の陰にひそんでいることがあります。急に始まった咳や、なかなか治らない喘鳴の背景には、思いがけない異物が潜んでいるかもしれません。いつもの診察に吸引の可能性を一言加える習慣が大きな見落としを防ぐ力になるはずです。暑い日が続いているため、次回は「熱中症」をテーマにお話します。参考資料 1) 今井丈英 ほか. 日本小児呼吸器学会雑誌. 2018;29:114-121. 2) 吉井れの ほか. 日本小児外科学会雑誌. 2024;60:884-889. 3) Shlizerman L, et al. Am J Otolaryngol. 2010;31:320-324. 4) 日本小児科学会:Injury Alert(傷害速報)「No.045 ベビーフード(大豆)の誤嚥による気道異物」 5) 消費者庁:食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!―気管支炎や肺炎を起こすおそれも、硬い豆やナッツ類等は5歳以下の子どもには食べさせないで― 6) 消費者庁:子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック

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産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

 インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。 インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。 日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。 本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。 事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。 講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。 講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。 本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」【最新!DI情報】第43回

経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」今回は、抗けいれん薬「ジアゼパム(商品名:スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg、製造販売元:アキュリスファーマ)」を紹介します。本剤は、介護者による投与も可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤であり、院外での速やかな治療が可能になると期待されています。<効能・効果>てんかん重積状態の適応で、2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児にはジアゼパムとして、患者の年齢および体重を考慮し、5~20mgを1回鼻腔内に投与します。効果不十分な場合には4時間以上空けて2回目の投与ができます。ただし、6歳未満の小児の1回量は15mgを超えないようにします。●2歳以上6歳未満6kg以上12kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)12kg以上23kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)23kg以上:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●6歳以上12歳未満10kg以上19kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)19kg以上38kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)38kg以上56kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)56kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●12歳以上14kg以上28kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)28kg以上51kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)51kg以上76kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)76kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)<安全性>重大な副作用として、依存性、離脱症状、刺激興奮、錯乱など、呼吸抑制(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、傾眠(10%以上)、意識レベルの低下、貧血、口腔咽頭不快感(いずれも5~10%未満)、眠気、ふらつき、眩暈、頭痛、言語障害、振戦、複視、霧視、眼振、失神、失禁、歩行失調、多幸症、黄疸、顆粒球減少、白血球減少、血圧低下、頻脈、徐脈、悪心、嘔吐、便秘、口渇、食欲不振、発疹、倦怠感、脱力感、浮腫(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、抗けいれん作用がある点鼻薬です。鼻腔内に使用します。2.脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん発作を抑える働きがあります。3.この薬は適切な指導を受けた保護者(家族)またはそれに代わる適切な人が使用できますが、2歳以上6歳未満のお子さんの場合は、医師のもとで使用する必要があります。4.噴霧器には1回(1噴霧)分の薬が入っています。噴霧テスト(空打ち)や再使用はしないでください。5.症状が現れたときに、1回1噴霧(どちらか片方の鼻のみ)もしくは2噴霧(両方の鼻に1回ずつ)してください。6.原則として、この薬の使用後は救急搬送を手配してください。<ここがポイント!>てんかん重積状態は、「臨床的あるいは電気的てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合、またはてんかん活動が回復なく反復し5分以上続く場合」と定義されています。この定義は、脳へのダメージや長期的な後遺症が懸念される時間の閾値に基づいています。とくにけいれん発作が30分以上持続すると、脳損傷のリスクが高まり、生命予後にも重大な影響を及ぼす可能性があるため、速やかな治療介入が極めて重要になります。治療の第一選択薬の1つとしてジアゼパム静注が挙げられますが、院外では静脈注射や筋肉注射が困難な場合が多く、急性対応の選択肢は限られています。てんかん重積状態の治療には病院到着前の治療(プレホスピタルケア)が重要であるため、簡便に使用できる製剤が必要と考えられていました。本剤は、医療者または介護者による投与が可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤です。ジアゼパムは1960年代から広く用いられている抗けいれん薬であり、本剤は院外での「てんかん重積状態に対するレスキュー薬」の新たな選択肢となります。本剤は、簡単かつ迅速に投与できる点鼻スプレーであり、2歳から成人まで使用可能です。また、室温保存が可能で携帯性に優れた製剤で、自宅での使用にも適しています。てんかん重積状態またはてんかん重積状態に移行する恐れのある発作を有する6歳以上18歳未満の日本人小児患者を対象とした国内第III相試験(NRL-1J02試験)において、主要評価項目である臨床的にけいれん発作と判断される状態が本剤を単回鼻腔内に投与後10分以内に消失し、かつ投与後30分間認められなかった患者の割合は62.5%(95%信頼区間:35.4~84.8)でした。

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その1】だから「地震ごっこ」をするんだ!-子どものPTSD

今回のキーワード再演遊び(ポストトラウマティック・プレイ)身体感覚のフラッシュバック退行(解離)まね遊びふり遊びごっこ遊び子供が、地震や交通事故に遭ったり、テレビで見たりした時、その出来事を遊びにしてしまうことがあります。それが、「地震ごっこ」「飛行機事故ごっこ」「心臓マッサージごっこ」です。なぜそんなことをしてしまうのでしょうか?今回は、子供のPTSD(心的外傷後ストレス症)をテーマに、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げます。そのなかの被災した子供のエピソードを通して、トラウマ体験のごっこ遊びについて解説します。そして、子供の演じる心理の発達に注目し、トラウマ体験のごっこ遊びをする心理メカニズムを一緒に考えてみましょう。なお、このドラマは、以下のNHKオンデマンドで配信されています。NHKドラマ「心の傷を癒すということ」子供のPTSDの特徴とは?時は、阪神淡路大震災の直後。精神科医の安(あん)先生は、避難所になっている小学校で診療を続けます。そのシーンを通して、子供のPTSDの特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)トラウマ体験をごっこ遊びで再現する―再演遊び安先生は、避難所のまとめ役でもある校長先生から「安先生、ちょっと頼みますわ」と呼ばれます。行ってみると、避難所生活を続けている男の子2人が、段ボールで作った机の上に、ペットボトルや入れ物などを並べ、「震度3…震度5…震度7…」と言いながら、その段ボールを揺らします。すると、建物が崩れるように、ペットボトルや入れ物が大きな音を立てて倒れるのです。1つ目の特徴は、トラウマ体験をごっこ遊びで再現する、再演遊び(ポストトラウマティック・プレイ)です。これが、いわゆる「地震ごっこ」です。この現象は、大人ではみられず、子供に特徴的です。(2)トラウマ体験を体の感覚で思い出す-フラッシュバック安先生は、地震ごっこをした男の子を気にかけます。一緒に荷物を運んでいる時、その子は「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」と漏らします。2つ目の特徴は、トラウマ体験を体の感覚で思い出す、身体感覚のフラッシュバックです。その出来事がまた起こっているように生々しく感じてしまいます。この症状は、大人でも見られますが、子供に多いです。大人の場合は、たとえば、ある女性患者が安先生に「今でもその声が聞こえてるんです。助けて、誰か助けてって」と訴えたように、聴覚のフラッシュバックが多いです。(3)トラウマ体験で赤ちゃん返りをする―解離このドラマでは描かれていませんでしたが、とくに幼児は幼ければ幼いほど、たとえば、指しゃぶりをしたり、幼い話し方をするなど、赤ちゃんのように振る舞うことがあります。3つ目の特徴は、トラウマ体験で赤ちゃん返りをする、退行(解離)です。この現象は、まれに大人でも見られますが、子供に多いです。また、トラウマレベルではなく、たとえば弟や妹が生まれた時に自分が構ってもらえないようなストレスでも見られます。なお、大人のPTSDの詳細については、関連記事1をご覧ください。何で地震ごっこをするの?-子供の演じる心理の発達地震ごっこを見た校長先生は「くだらん遊び考えやがって」「おまえら! どんな神経しとんねん!」「ここにはな、地震で悲しい思いをした人ばっかり集まっとんねんぞ!」と怒り出します。すると、安先生は「地震のショックがあまりにも大きくて、子供たちも受け止めきれてへんのです。こうやって地震ごっこをすることで、何とか気持ちの整理をつけようとしてるんやと思います」と校長先生に説明します。地震ごっこ(再演遊び)は、不謹慎だという大人の視点に対して、子供が自らトラウマを乗り越えるためにやっているという治療的な視点です。確かに、そう考えれば実際に治療がうまくいくわけなのですが、なぜそうなのでしょうか? つまり、なぜ子供は地震ごっこを自然とするのでしょうか? また、トラウマを乗り越えるためにやるのだとしたら、逆になぜ大人はやらないのでしょうか?この謎を解くために、ここで、発達心理学の視点から、子供が演じる心理をどう発達させるのかに注目してみましょう。大きく三つの段階に分けられます。(1)目の前の人の動きをそのまま演じる―まね遊び赤ちゃんは、生後6ヵ月を過ぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの親の動きをまねするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。1つ目は、まね遊びです。これは、目の前の人の動きをそのまま演じていると言い換えられます。この時、赤ちゃんの脳内では、相手の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「鏡」(ミラー)のように映し出して同調させる神経ネットワーク(ミラーニューロン)が発達します。さらに、相手の動作と同時に相手の表情(気持ち)も脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出し同調させて、まねと共感する能力がともに発達していきます。このように、まねをすることはミラーリングと呼ばれています。この詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)目の前にいない人の動きを演じる―ふり遊び幼児は、1歳後半から積み木を電話に見立てて親が電話をしているしぐさをしたり、葉っぱを皿に見立てて何かを食べるふりをしたりするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。2つ目は、ふり遊びです。これは、目の前にないものを小道具で見立てて、目の前にいない人を演じていると言い換えられます。この時、幼児は、ものや状況をジェスチャーという記号(象徴)に置き換えて、目の前にそれがなくてもそのジェスチャーによって認識する能力が発達していきます。これは、象徴機能と呼ばれています。この詳細については、関連記事3をご覧ください。(3)周りの人とのかけ合いによって演じる―ごっこ遊び子供は、3歳になると、親やお友達と一緒に、おままごと、買い物ごっこ、お医者さんごっこをするようになります。4歳以降、自分がつくったストーリーで、オリジナルのキャラクターを演じて遊ぶようになります。とくに男の子は、いわゆるチャンバラ(斬り合い)、撃ち合い、プロレスなどの戦いごっこもするようになります。3つ目は、ごっこ遊びです。これは、周りの人とのかけ合い(相互作用)によって演じていると言い換えられます。この時、子供は、相手には相手の心があるとわかるようになり、周りと助け合ってうまくやっていく能力が発達していきます。これは、心の理論(社会脳)と呼ばれています。この詳細については、関連記事4をご覧ください。以上より、子供が地震ごっこをする理由は、ごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからと言えます。この点で、じつは大人も「地震ごっこ」をしています。それが避難訓練です。逆に言えば、地震ごっこは、子供なりの「避難訓練」であると言えるでしょう。■関連記事アメリカン・スナイパー【なぜトラウマは「ある」の?どうすれば良いの?】アンパンマン【その顔はおっぱい?】伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!(象徴機能)】映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】

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PFASが子どもの血圧上昇と関連

 ほとんど分解されず環境中に長期間存在し続けるため、「永遠の化学物質」と呼ばれているPFAS(ペルフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物)への胎児期の曝露と、出生後の小児期から思春期の血圧上昇との関連を示すデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のZeyu Li氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に6月12日掲載された。同氏は、「PFASが及ぼす潜在的な有害性は、生後何年も経過してから初めて明らかになる可能性がある」と述べている。 米国環境保護庁(EPA)は、PFASは飲料水のほか、ファストフードの包装、テフロン加工の調理器具、家具や衣類、化粧品など、幅広い製品に含まれているとしている。また環境研究グループの調査によると、PFASはそれを含む物を摂取したり呼吸で吸い込んだりすることで体内に取り込まれ、99%の米国人の体内に存在しているという。 Li氏らの研究では、子どもを出産後24~72時間に母親から採取した血液中のPFAS濃度を測定。その値と、子どもの医療記録から把握された血圧との関連を検討した。3歳以上13歳未満では血圧が同年齢の子どもの90パーセンタイル以上、13歳以上18歳未満では120/80mmHg以上の場合に「血圧高値」と定義した。 1,094人の子どもを中央値12年(四分位範囲9~15年)追跡し、1万3,404件のデータを解析した結果、母親のPFAS濃度が高いほど子どもの収縮期血圧が高いという関連が浮かび上がった。また、これらの関連性は、子どもの性別や発達段階などにより異なっていた。例えば男子では、母親の血液中のペルフルオロヘプタンスルホン酸という物質の濃度が2倍になるごとに、6~12歳で血圧高値のリスクが9%、13~18歳では17%高かった。 Li氏は、「本研究の報告が、より多くの研究者が思春期以降の子どもを追跡調査するきっかけになることを期待している。過去の研究は追跡期間が幼児期または思春期前で終わっているものが少なくなかった。それに対してわれわれの研究は、胎児期のPFAS曝露による健康への影響が、思春期以降に初めて現れる可能性があることを示している」と話している。なお、研究者らは、本研究は観察研究であるため、PFASと子どもの血圧上昇との直接的な因果関係について述べることはできず、あくまで関連性を示すのみであることを指摘している。 PFASは既に環境中に豊富に存在している。そのため残念ながら、母親が努力しても曝露を避けることが難しい。なるべくPFASフリーと表示されている製品を使ったり、水道水をろ過した上で利用したりするといったことで曝露量を抑えることはできるものの、研究者らは、根本的な解決のために規制が必要だと考えている。 論文の上席著者である米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのMingyu Zhang氏は、「特に妊娠中や小児期のPFAS曝露を減らすために、一般消費財に使われるPFASを段階的に制限していき、水道水のモニタリングと規制を強化するという政策レベルの行動が必要だ。これらは個人の努力で解決できる問題ではない」としている。

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WHO予防接種アジェンダ2030は達成可能か?/Lancet

 WHOは2019年に「予防接種アジェンダ2030(IA2030)」を策定し、2030年までに世界中のワクチン接種率を向上する野心的な目標を設定した。米国・ワシントン大学のJonathan F. Mosser氏らGBD 2023 Vaccine Coverage Collaboratorsは、目標期間の半ばに差し掛かった現状を調べ、IA2030が掲げる「2019年と比べて未接種児を半減させる」や「生涯を通じた予防接種(三種混合ワクチン[DPT]の3回接種、肺炎球菌ワクチン[PCV]の3回接種、麻疹ワクチン[MCV]の2回接種)の世界の接種率を90%に到達させる」といった目標の達成には、残り5年に加速度的な進展が必要な状況であることを報告した。1974年に始まったWHOの「拡大予防接種計画(EPI)」は顕著な成功を収め、小児の定期予防接種により世界で推定1億5,400万児の死亡が回避されたという。しかし、ここ数十年は接種の格差や進捗の停滞が続いており、さらにそうした状況が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって助長されていることが懸念されていた。Lancet誌オンライン版2025年6月24日号掲載の報告。WHO推奨小児定期予防接種11種の1980~2023年の動向を調査 研究グループは、IA2030の目標達成に取り組むための今後5年間の戦略策定に資する情報を提供するため、過去および直近の接種動向を調べた。「Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)2023」をベースに、WHOが世界中の小児に推奨している11のワクチン接種の組み合わせについて、204の国と地域における1980~2023年の小児定期予防接種の推定値(世界、地域、国別動向)をアップデートした。 先進的モデリング技術を用いてデータバイアスや不均一性を考慮し、ワクチン接種の拡大およびCOVID-19パンデミック関連の混乱を新たな手法で統合してモデル化。これまでの接種動向とIA2030接種目標到達に必要なゲインについて文脈化した。その際に、(1)COVID-19パンデミックがワクチン接種率に及ぼした影響を評価、(2)特定の生涯を通じた予防接種の2030年までの接種率を予測、(3)2023~30年にワクチン未接種児を半減させるために必要な改善を分析するといった副次解析を行い補完した。2010~19年に接種率の伸びが鈍化、COVID-19が拍車 全体に、原初のEPIワクチン(DPTの初回[DPT1]および3回[DPT3]、MCV1、ポリオワクチン3回[Pol3]、結核予防ワクチン[BCG])の世界の接種率は、1980~2023年にほぼ2倍になっていた。しかしながら、これらの長期にわたる傾向により、最近の課題が覆い隠されていた。 多くの国と地域では、2010~19年に接種率の伸びが鈍化していた。これには高所得の国・地域36のうち21で、少なくとも1つ以上のワクチン接種が減っていたこと(一部の国と地域で定期予防接種スケジュールから除外されたBCGを除く)などが含まれる。さらにこの問題はCOVID-19パンデミックによって拍車がかかり、原初EPIワクチンの世界的な接種率は2020年以降急減し、2023年現在もまだCOVID-19パンデミック前のレベルに回復していない。 また、近年開発・導入された新規ワクチン(PCVの3回接種[PCV3]、ロタウイルスワクチンの完全接種[RotaC]、MCVの2回接種[MCV2]など)は、COVID-19パンデミックの間も継続的に導入され規模が拡大し世界的に接種率が上昇していたが、その伸び率は、パンデミックがなかった場合の予想よりも鈍かった。DPT3のみ世界の接種率90%達成可能、ただし楽観的シナリオの場合で DPT3、PCV3、MCV2の2030年までの達成予測では、楽観的なシナリオの場合に限り、DPT3のみがIA2030の目標である世界的な接種率90%を達成可能であることが示唆された。 ワクチン未接種児(DPT1未接種の1歳未満児に代表される)は、1980~2019年に5,880万児から1,470万児へと74.9%(95%不確実性区間[UI]:72.1~77.3)減少したが、これは1980年代(1980~90年)と2000年代(2000~10年)に起きた減少により達成されたものだった。2019年以降では、COVID-19がピークの2021年にワクチン未接種児が1,860万児(95%UI:1,760万~2,000万)にまで増加。2022、23年は減少したがパンデミック前のレベルを上回ったままであった。未接種児1,570万児の半数が8ヵ国に集中 ワクチン未接種児の大半は、紛争地域やワクチンサービスに割り当て可能な資源がさまざまな制約を受けている地域、とくにサハラ以南のアフリカに集中している状況が続いていた。 2023年時点で、世界のワクチン未接種児1,570万児(95%UI:1,460万~1,700万)のうち、その半数超がわずか8ヵ国(ナイジェリア、インド、コンゴ、エチオピア、ソマリア、スーダン、インドネシア、ブラジル)で占められており、接種格差が続いていることが浮き彫りになった。 著者は、「多くの国と地域で接種率の大幅な上昇が必要とされており、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは大きな課題に直面している。中南米では、とくにDPT1、DPT3、Pol3の接種率について、以前のレベルに戻すために近年の低下を逆転させる必要があることが示された」と述べるとともに、今回の調査結果について「対象を絞った公平なワクチン戦略が重要であることを強調するものであった。プライマリヘルスケアシステムの強化、ワクチンに関する誤情報や接種ためらいへの対処、地域状況に合わせた調整が接種率の向上に不可欠である」と解説。「WHO's Big Catch-UpなどのCOVID-19パンデミックからの回復への取り組みや日常サービス強化への取り組みが、疎外された人々に到達することを優先し、状況に応じた地域主体の予防接種戦略で世界的な予防接種目標を達成する必要がある」とまとめている。

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