ミトコンドリアDNA疾患女性、ミトコンドリア置換で8児が健康出生/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/25

 

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病的変異は、重篤でしばしば致死的な遺伝性代謝疾患の主要な原因である。子孫の重篤なmtDNA関連疾患のリスクを低減するための生殖補助医療の選択肢として着床前遺伝学的検査(PGT)があるが、高レベルのmtDNAヘテロプラスミーまたはホモプラスミー病原性mtDNA変異を有する女性についてはミトコンドリア提供(mitochondrial donation:MD)が検討されてきた。英国・ニューカッスル大学のRobert McFarland氏らは、英国におけるミトコンドリア生殖医療パスウェイにおいて、MDによる前核移植により8人の子供が誕生したことを報告した。NEJM誌オンライン版2025年7月16日号掲載の報告。

英国で導入されたミトコンドリア生殖医療パスウェイ

 英国では2017年に、英国在住の病原性mtDNA変異を有する女性に、規制環境下で実施可能な情報に基づく生殖選択肢を提供することを基本原則とした「NHSミトコンドリア生殖医療パスウェイ」が導入された。

 パスウェイは、ミトコンドリア生殖アドバイスクリニック(MRA-C)とミトコンドリア生殖補助技術クリニック(MART-C)で構成されており、利用を希望する女性とそのパートナーは詳細な臨床評価を受ける。

 これまでに196例がMRA-Cに紹介され、紹介情報不足または誤診の4例を除く192例が適格とされた。このうち診察予約前に23例が離脱し、評価保留中の6例を除く163例の女性がMRA-Cで評価され、希望しなかったまたは選択しなかった30例を除く133例の女性がMART-Cで診察を受けた。

 70例がMART-Cで生殖医療の選択を行い、うち36例にPGTが提案され、PGTを実施し得た28例において13人の生児が生まれた。また、32例がMD提供を選択し当局で承認されたが、3例は胚の遺伝子検査でヘテロプラスミーが高かったため移植が行われなかった。

ミトコンドリア提供で誕生した8人の子は健康で、現時点で正常に発達

 これまでに、22例が前核移植を開始または完了し、8人の生児が生まれ(1卵性双生児1組を含む)、1例が妊娠継続中。

 8人の子供は出生時、全例健康で、血中mtDNAヘテロプラスミーは臨床的に閾値未満(多くは検出限界以下)であった。1人に高脂血症と不整脈が発生したが、妊娠中に母親が高脂血症であったことに関連しており、いずれの症状も治療が奏効した。他の1人に乳児ミオクロニーてんかんが発生したが、自然寛解した。

 本報告時点では、すべての子供が正常に発達していることが確認されている。

(医学ライター 吉尾 幸恵)