乳児ドナー心の手術台上での再灌流・移植に成功/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/28

 

 米国・デューク大学のJohn A. Kucera氏らは、小児の心停止ドナー(DCD)の心臓を体外(on table、手術台上)で再灌流しレシピエントへの移植に成功した症例について報告した。DCDと再灌流をドナーの体内で行うnormothermic regional perfusion(NRP)法を組み合わせる方法は、ドナー数を最大30%増加させる可能性があるが、倫理的観点(脳循環温存に関する仮説など)からこの技術の導入は米国および他国でも限られており、DCD心臓の体外蘇生を容易にする方法が求められていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。

ドナーは生後1ヵ月、レシピエントは生後3ヵ月の乳児

 ドナーは、生後1ヵ月(体重4.2kg、身長53cm)で、自宅にて心停止状態で発見され、救急隊到着までの25分間、心肺蘇生(CPR)を受けていなかった。到着後、アドレナリン投与により自発循環が一時的に回復したが、救急外来到着後に再度心停止を起こし、再度アドレナリンにより蘇生された。これ以前には健康に問題はなかったとされている。経胸壁心エコーでは両心室機能は正常、小さな卵円孔開存以外に解剖学的には正常であった。

 レシピエントは、生後3ヵ月(体重3.9kg、身長48cm)の乳児で、ウイルス性心筋炎による拡張型心筋症と診断されていた。生後1ヵ月時に心原性ショックを呈し、静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)、バルーン心房中隔裂切開術、動脈管開存のデバイス閉鎖術を受けていた。移植前には、壊死性腸炎、脳室上衣下胚芽層出血、低酸素性虚血性脳症の既往があり、搬送前には潜在性発作がみられた。

 ドナーとレシピエントはABO血液型が適合し、共にサイトメガロウイルスIgG陽性およびEBウイルスIgG陽性であった。

心摘出後の手術台上での再灌流で心移植に成功

 手術室では、ドナーの生命維持治療の中止前に、ヘパリン投与を行うとともに、後方手術台で蘇生回路(小児用人工肺、遠心ポンプ、心臓から排出された血液を回収して再循環させるリザーバー)を準備した。

 生命維持治療を中止し、心臓死宣言後に5分間の観察期間をおいたうえで、心臓を摘出し、蘇生回路に接続して動脈カニューレから37℃の血液を10mL/kg注入した。心臓はすぐに洞調律で拍動を開始し、冠動脈の灌流も良好で、心機能は正常と評価された。観察期間終了から心臓摘出まで3分38秒、摘出から再灌流まで1分32秒、蘇生時間は合計5分39秒であった。移植に適格と判断し、del Nido心筋保護液を注入して再度心停止を誘導し、冷却保存した。移植までの冷却保存時間は約2時間19分、冷虚血時間は合計2時間43分であった。

 その後、移植手術は合併症なく終了した。レシピエントは、術後1日目の心エコーでは弁機能および両心室機能ともに異常は認められなかった。術後6日目に昇圧薬から離脱、術後7日目に抜管し、術後28日目には集中治療室(ICU)から退室、術後2ヵ月後には経口摂取が安定した状態で退院した。

 有害事象は、術後2日目の経腸栄養開始後の腹部膨満(投与中止)、6日目の発熱(血液培養陰性、抗菌薬投与開始)、7日目および30日目の目標経管栄養速度での嘔吐、32日目および40日目の嘔吐であった。

 本報告時点(術後3ヵ月)において、最新の心エコー検査でも正常な心機能が維持されており、移植片機能不全や急性細胞性または抗体介在性拒絶反応のいずれも認められていない。

(ケアネット)