循環器内科/心臓血管外科の海外論文・最新ニュースアーカイブ|page:6

わが国への直接応用は難しいが…(解説:野間重孝氏)

 まず論文評を始めるにあたって、近年における冠動脈疾患(CAD)の危険因子に対する考え方の変化に言及する必要があるだろう。従来危険因子(risk factor)とは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常・肥満など生活習慣の改善や薬物療法によって修正可能な因子を指し、年齢・性別・家族歴などコントロールが困難な因子はリスク要因(risk marker)と呼んで区別してきた。しかし、近年になり非修正可能な因子も重要なリスク要因として考慮すべきではないかという動きが強まっている。その原因の第一には、多因子リスク評価の重要性が見直されてきたことにある。つまり、一つひとつの危険因子の影響は独立ではなく、複合的なリスク評価が重要だと考えられるようになったことが挙げられる。たとえば、年齢+男性+早発性CADの家族歴という要因が重なると、単独の要因よりもリスクが著しく上昇することが明らかになってきた。これに、予防医療の発展という要因も付け加えなければならないだろう。今回取り上げられたCACスコアのような画像診断が普及したことで、非修正可能な要素がある人こそ、より積極的な検査が必要だという認識が広まったのである。実際、ASCVDリスクスコアやSCORE2といった新しい評価法では非修正可能因子も加味されている。

世界初!デューク大学の医師らが生体ドナーからの僧帽弁移植に成功

 米デューク・ヘルスの医師らが、世界で初めて心臓ドナーから提供された僧帽弁を用いた移植手術を成功させたことを、2月27日報告した。この画期的な手術により、米ノースカロライナ州の3人の少女の命が救われたという。  この手術は、ノースカロライナ州ウィルソン在住のJourni Kellyさん(11歳)が、デューク大学で心臓移植手術を受けたことで可能になった。医師らは、彼女の元の心臓から健康な弁を二つ取り出し、他の子どもに移植したのだ。  弁の一つは、ノースカロライナ州シャーロット在住のクロスカントリーランナー、Margaret Van Bruggenさん(14歳)に移植された。Margaretさんは重度の細菌感染により緊急に僧帽弁置換術を必要としていた。もう一つの弁は、ノースカロライナ州ペンブローク在住の9歳のKensley Frizzellさんに移植された。Kensleyさんは、先天性の染色体異常であるターナー症候群で生まれ、心臓に構造的な異常が認められたため、生後2カ月を迎える前に、すでに2回の心臓手術を受けていた。

プロテインSの遺伝子型、 表現型と血栓症リスクの関係(解説:後藤信哉氏)

日本で若年の静脈血栓症に遭遇すると、プロテインS、プロテインCの関与を第一に考える。本研究ではUK BiobankとUS NIHのHAUデータを用いて、血栓症とプロテインSの関係を検討した。病気の発症には遺伝因子、環境因子などが複雑に寄与する。個別症例の未来の臨床イベント発症予測には遺伝子型、個人の生活習慣、生活習慣曝露によるバイオマーカーの変化などが複雑に寄与する。個別症例の未来の臨床イベントを精密に予測するために、遺伝子から疾病発症に至る大規模な情報リソースを作成しようというのが、UK Biobankなどのバイオバンク作成を支える哲学である。

お酒をやめるとLDL-Cが上昇?~日本人6万人のデータ

 飲酒による健康への悪影響が広く報告されているが、飲酒を始めたときや禁酒したときにコレステロール値がどう変化するかはわかっていない。今回、聖路加国際病院の鈴木 隆宏氏らが日本人約6万人のコホート研究で評価した結果、飲酒者が禁酒するとLDLコレステロール(LDL-C)値が上昇し、HDL-コレステロール(HDL-C)値が低下することが明らかになった。逆に、非飲酒者が飲酒を開始したときはLDL-C 値の低下と HDL-C 値の上昇がみられた。これらの変化はどちらも飲酒量が多いほど顕著だったという。JAMA Network Open誌2025年3月12日号に掲載。

NVAFによる脳卒中リスクを低減、Amulet左心耳閉鎖システム発売/アボット

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に行われる経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)に有効なデバイス「Amulet(アミュレット)左心耳閉鎖システム」が2025年3月11日にアボットジャパンより発売された。  本システムは独自の2層構造によって、さまざまな形状・サイズの左心耳に対応できる特徴を持っていることから、既存製品では閉塞が困難とされていた左心耳に対しても、閉塞術を行うことが可能となる。また、左心耳の入口部を密閉することで術後のリークを防ぐことも可能となる。また、既存デバイス(WATCHMAN)を対象とした海外のAmulet IDE試験において、有意に高い左心耳閉鎖率が示され、術後3年時の抗凝固薬中止率も96.2%と有意に高い傾向が示された。

抗凝固薬―長期投与は減量でよい?(解説:後藤信哉氏)

深部静脈血栓症の症例への予防的抗凝固薬の投与期間は確定されていない。さじ加減を重視する日本の臨床家として「長期投与するなら減量で!」と考える医師は多いと思う。一般に血栓症の再発リスクは時間とともに低減するから、減量して長期投与することは正しそうに思う。それでもランダム化比較試験にて自分の直感を検証したいと考える欧米人が、本研究を施行した。欧米のDOACはアピキサバンとリバーロキサバンが標準なのでアピキサバン (2.5mg twice daily) と リバーロキサバン(10mg once daily)を比較した。静脈血栓症の発症から1~2年経過すれば血栓イベントリスクは十分に低下している。減量しても静脈血栓症の再発リスクは増えなかった(ハザード比[HR]:1.32、95%信頼区間[CI]:0.67~2.60)。重篤な出血リスクは減少した(HR:0.61、95%CI:0.48~0.79)。仮説検証試験として結論が出たわけではないが、医師の直感的判断を支持する試験結果であった。

医学生/初期研修医時代に戻れるなら「直美」に進みたい?/医師1,000人アンケート

 初期研修を終えてすぐ、保険診療を経験せずに自由診療である美容医療業界に直接進む「直美(ちょくび)」の医師が増えている。診療科の医師偏在や医局の人材獲得が課題となっているなか、保険診療の医師は「直美」をどのように考えているのかを調査するため、CareNet.comでは会員医師1,024人を対象に「直美」に関するアンケートを行った(実施:2025年2月12日)。  Q1では、「直美」の増加を日本の医療における問題と考えているかどうかを聞いた(単一回答)。全体では、「非常に問題と考えている」が35.4%、「どちらかというと問題と考えている」が43.2%、「どちらかというと問題とは考えていない」が13.9%、「まったく問題とは考えていない」が7.5%であり、大多数の医師は問題と捉えていた。

ランダム化試験より個別最適化医療の論理が必要?(解説:後藤信哉氏)

心房細動の脳梗塞予防には抗凝固薬が広く使用されるようになった。しかし、脳内出血の既往のある症例に抗凝固薬を使用するのは躊躇する。本研究は過去に頭蓋内出血の既往のある症例を対象として、心房細動症例における抗凝固薬介入の有効性と安全性の検証を目指した。319例をDOAC群と抗凝固薬なし群に割り付けて中央値1.4年観察したところ、DOAC群の虚血性脳卒中は0.83(95%信頼区間[CI]:0.14~2.57)/100人年、抗凝固薬なし群では8.60(同:5.43~12.80)/100人年と差がついた。しかし、頭蓋内出血イベントはDOAC群が5.00(95%CI:2.68~8.39)/人年、抗凝固薬なし群では0.82(同:0.14~2.53)/人年であった。

厳格な血圧管理が高齢者にもたらすベネフィットはリスクを上回る

 地域在住の高齢者では、厳格な血圧管理による健康上の利点は潜在的なリスクを上回る可能性の高いことが、最新の大規模臨床試験により明らかにされた。試験では、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする治療を受けた高齢者の約85%で、腎障害などの潜在的なリスクと比較して、得られるベネフィット(ネットベネフィット)の方が大きいことが示されたという。米カリフォルニア大学デービス校のSimon Ascher氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に2月18日掲載された。

家族歴を有するCAD中等度リスク者、CACスコア併用の1次予防戦略が有用/JAMA

 家族歴を有する冠動脈疾患(CAD)中等度リスク者に対する1次予防戦略に、冠動脈カルシウム(CAC)スコアを組み合わせる利点を裏付けるデータが、オーストラリア・Baker Heart and Diabetes Research InstituteのNitesh Nerlekar氏らCAUGHT-CAD Investigatorsが行った無作為化試験の結果で示された。標準ケアのみと比較して、アテローム性脂質の減少とプラーク進展の制御が認められたという。CACスコアリングは、とくにCAD中等度リスクの患者において、予後情報を提供することが知られている。しかしながら、CACスコアと1次予防戦略の組み合わせの利点を検証する無作為化試験はこれまで行われていなかった。JAMA誌オンライン版2025年3月5日号掲載の報告。