循環器内科/心臓血管外科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

がん治療の中断・中止を防ぐ血圧管理方法とは/日本腫瘍循環器学会

 第8回日本腫瘍循環器学会学術集会が2025年10月25、26日に開催された。本大会長を務めた向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター 副所長)が日本高血圧学会合同シンポジウム「Onco-Hypertensionと腫瘍循環器の新たな関係」において、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の第10章「他疾患やライフステージを考慮した対応」を抜粋し、がん治療の中断・中止を防ぐための高血圧治療実践法について解説した。  がんと高血圧はリスク因子も発症因子も共通している。たとえば、リスク因子には加齢、喫煙、運動不足、肥満、糖尿病が挙げられ、発症因子には血管内皮障害、酸化ストレス、炎症などが挙げられる。そして、高血圧はがん治療に関連した心血管毒性として、心不全や血栓症などに並んで高率に出現するため、血圧管理はがん治療の継続を判断するうえでも非常に重要な評価ポイントとなる。また、高血圧が起因するがんもあり、腎細胞がんや大腸がんが有名であるが、近年では利尿薬による皮膚がんリスクが報告されている。

抗うつ薬30種類の生理学的影響を比較~ネットワークメタ解析/Lancet

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは系統的レビューとネットワークメタ解析を行い、抗うつ薬はとくに心代謝パラメータにおいて薬剤間で生理学的作用が著しく異なるという強力なエビデンスがあることを明らかにした。抗うつ薬は生理学的変化を誘発するが、各種抗うつ薬治療におけるその詳細は知られていなかった。結果を踏まえて著者は、「治療ガイドラインは、生理学的リスクの違いを反映するよう更新すべき」と提唱している。Lancet誌オンライン版2025年10月21日号掲載の報告。

左室駆出率の保たれた心不全に対するセマグルチドとチルゼパチドの比較―大規模エミュレーション研究から(解説:加藤貴雄氏)

 本研究は、保険請求データベースを利用して、ランダム化比較試験(セマグルチドのSTEP-HFpEF DM試験とチルゼパチドのSUMMIT試験)の大規模エミュレーションを行った研究で、セマグルチドとチルゼパチドの直接の比較をした点が重要である。エミュレーションとは、「模倣」との意味で、観察データを用いてtarget trialを模倣する手法である。今回のランダム化比較試験2本の組み入れ・除外基準から条件を模倣したものであり、2型糖尿病がありBMI 27以上が模倣的な組み入れ基準である。心血管アウトカムに影響を及ぼさないとされているシタグリプチンを対照として、総死亡と心不全の悪化による入院の複合イベントにおけるセマグルチドとチルゼパチドの優位性を調べた後に、セマグルチドとチルゼパチドの比較も行っている。

学校給食の無償化で子どもの高血圧リスク低下

 米国で進められてきた学校給食の無償化が、子どもたちの高血圧リスクの抑制につながっているとする研究結果が、「JAMA Network Open」に9月25日掲載された。米カリフォルニア大学アーバイン校のJessica Jones-Smith氏らの研究によるものであり、無償化を始めた学校では高血圧の子どもの割合が、5年間で約11%減少したと見込まれるという。研究者らは、給食無償化による栄養状態の改善に加えて、体重に及ぼした影響が、この改善を促進した可能性が高いとしている。  論文の上席著者であるJones-Smith氏は、「給食無償化は、高血圧リスクと密接な関連のある小児肥満の減少と関連している。より健康的な食事が直接的に血圧へ好ましい影響を与えることに加えて、BMIが高い子どもが減ることに伴う間接的影響という二つの経路で、高血圧リスクが抑制されたと言える」と解説している。なお、研究者らが背景説明の中で述べているところによると、小児期の高血圧は成人期まで継続することが多く、将来的に心臓病や腎臓病のリスクを高める可能性が高いとのことだ。

経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは症候性の閉塞性肥大型心筋症患者においてβ遮断薬よりも臨床的に有効である(解説:原田和昌氏)

 Cohen、Braunwaldらの約60年前のエキスパートオピニオンと限定的なエビデンスにより、β遮断薬は症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の第1選択の治療として使い続けられてきた。一方、経口選択的心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenの上乗せは標準治療と比較して左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが第III相二重盲検比較試験であるSEQUOIA-HCM試験により示された。今回、スペイン・CIBERCVのGarcia-Pavia氏らMAPLE-HCM研究者たちは、HCMの治療においてβ遮断薬単剤投与とaficamtenの単剤投与との臨床的有益性を比較する目的で、国際共同第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験であるMAPLE-HCM試験を実施した。

機内における急病人の発生頻度は?~84の航空会社での大規模調査

 2025年には約50億人が民間航空機を利用すると予測されている。航空機内での急病(機内医療イベント)は、医療資源が限られ、専門的な治療へのアクセスが遅れるという制約の中で対応が必要となる。米国・デューク大学のAlexandre T. Rotta氏、MedAireのPaulo M. Alves氏らの研究グループは、84の航空会社が参加した大規模な国際データを分析し、機内医療イベントの発生頻度や、航空機の目的地変更につながる要因などを明らかにした。JAMA Network Open誌2025年9月29日号に掲載。

MSSA菌血症、セファゾリンvs.クロキサシリン/Lancet

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンと比較して有効性は非劣性で、忍容性は良好であることが示された。フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のCharles Burdet氏らが、大学病院を含むフランスの21施設で実施した無作為化非盲検非劣性試験「CloCeBa試験」の結果を報告した。セファゾリンは広く使用されているものの、MSSA菌血症の治療における有効性はこれまで臨床試験で検討されたことはなかった。結果を踏まえて著者は、「MSSA菌血症の治療において、セファゾリンはクロキサシリンの代替薬となりうる」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。

左心耳閉鎖術?(解説:後藤信哉氏)

心房細動の症例は、長期間の観察期間内の脳卒中リスクが高い。心房細動による血流うっ滞が血栓形成に寄与している可能性はある。血流うっ滞による血栓形成は、うっ滞が最も重症になる心耳から始まる可能性がある。そこで左心耳を閉じてしまえば心房細動の脳梗塞予防が可能かもしれないとの仮説につながる。カテーテルアブレーションを受ければ左房の内膜側に損傷ができるので血栓イベントリスクが上昇する。一時的に抗凝固薬を使用するのは血栓イベント予防に有効と考えられる。左心耳閉鎖が有効であるためには、アブレーションにより傷ついた内膜からの血栓が左心耳にて成長している必要がある。本研究では重篤な出血イベント発現リスクを仮説検証のエンドポイントにしている。全身の凝固機能が低下する抗凝固薬使用時には出血イベントリスクが増加する現実に、本研究でも抗凝固療法群の重篤な出血イベント発現リスクは18.1%と左心耳閉鎖群の8.5%よりも高かった。この結果は予想通りである。

過体重/肥満へのセマグルチド、心血管リスク低下は体重減少に依存せず/Lancet

 英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らは、41ヵ国804施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験「SELECT試験」の事前に規定されたサブ解析において、セマグルチドの心血管アウトカムに対する有益性はベースラインにおける肥満指標および体重減少に依存せず、ウエスト周囲長との関連もわずかであったことを明らかにした。SELECT試験では、心血管疾患既往で過体重または肥満であるが糖尿病の既往のない患者において、セマグルチドが主要有害心血管イベント(MACE)を減少させることが示されていた。著者は、「本解析の結果は、セマグルチドの肥満低減以外の何らかのメカニズムによる有益性を示唆するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月22日掲載の報告。

心室頻拍に定位放射線治療が有効か

 標的となる部分に放射線を当てて治療する定位放射線治療(以下、放射線治療)が、危険性の高い不整脈の一種である心室頻拍に対する安全性の高い治療法になり得ることが、新たな研究で示された。米セントルイス・ワシントン大学医学部放射線腫瘍科のShannon Jiang氏らによると、放射線治療の効果は、標準的な治療法だが複雑な手術であるカテーテルアブレーションと同等であったという。また、放射線治療は、カテーテルアブレーションと比べて死亡や重篤な副作用が少ないことも示された。詳細は、「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に9月29日掲載されるとともに、米国放射線腫瘍学会(ASTRO 2025、9月29日~10月1日、米サンフランシスコ)でも発表された。