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退職は健康改善と関連、とくに女性で顕著――35ヵ国・10万人規模の国際縦断研究/慶大など

 退職が高齢者の健康に与える影響は一様ではない。近年、多くの国で公的年金の受給開始年齢が引き上げられ、退職時期の後ろ倒しが進んでいる。こうした状況に対し、退職の健康影響を検討した研究は数多いが、「認知機能を低下させる」「影響はない」「むしろ有益である」と結果は分かれていた。  慶應義塾大学の佐藤 豪竜氏らの研究グループは、米国のHealth and Retirement Study(米国健康・退職調査:HRS)をはじめとする35ヵ国の縦断調査データを統合解析し、50〜70歳の10万6,927例(観察数39万6,904例)を対象に、退職と健康・生活習慣の関連を検証した。本研究の結果はAmerican Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年6月13日号に掲載された。

玄関付近に植物のある家に住んだほうが日本人のうつ病リスクが低い

 高齢者のうつ病は、認知機能低下や早期死亡リスク上昇につながる可能性がある。住居環境とうつ病との関連は、多くの研究で報告されているものの、玄関付近の特性とうつ病との関連性を調査した研究は限られている。千葉大学の吉田 紘明氏らは、日本人高齢者における玄関付近の特性とうつ病との関連を明らかにするため、横断的研究を実施した。Preventive Medicine Reports誌2025年6月20日号の報告。  2022年1月〜2023年10月、65歳以上の日本人を対象にコホート研究を実施した。解析対象は、東京都23区内に居住する2,046人(平均年齢:74.8±6.2歳)。2023年におけるうつ病の状況は、老年期うつ病評価尺度(GDS15)を用いて評価した。2023年の玄関エリアの特性を説明変数として用いた。修正ポアソン回帰分析を用いて、うつ病有病率比および95%信頼区間(CI)を推定した。

幼児期の重度う蝕、母親の長時間インターネット使用と関連か

 育児に関する情報をインターネットから得ることは、現代では一般的な行動となっている。しかし、画面に向かう時間が長くなりすぎることで、子どもの健康に思わぬ影響が及ぶ可能性がある。最近の研究により、母親の長時間インターネット使用と、3歳児における重度う蝕(Severe early childhood caries :S-ECC)の発症との間に有意な関連が示された。母親が仕事以外で1日に5時間以上インターネットを使用していた場合、そうでない場合と比較して、子どもがS-ECCになるリスクが4倍以上高まる可能性が示唆されたという。研究は島根大学医学部看護学科地域老年看護学講座の榊原文氏らによるもので、詳細は「BMC Pediatrics」に7月2日掲載された。

ラーメン摂取頻度と死亡リスクの関係~山形コホート

 週3回以上のラーメンの頻繁な摂取は、とくに男性、70歳未満、麺類のスープを50%以上摂取する習慣やアルコール摂取習慣のある人といった特定のサブグループで死亡リスク増加と関連する可能性が示唆された。山形大学の鈴木 美穂氏らは、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票のデータを用いて、日本人一般集団におけるラーメン摂取頻度と死亡率との関連を検討した。The Journal of Nutrition, Health and Aging誌オンライン版2025年8月1日号への報告より。  本研究は、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票調査に参加した40歳以上の6,725人(男性2,349人)を対象とした。ラーメンの平均摂取頻度を、月1回未満、月1~3回、週1~2回、週3回以上の4群に分類。麺類のスープ摂取量は、「ラーメン、うどん、そばのスープはどれくらい飲みますか?」という設問に対する回答を、「50%以上」と「50%未満」の2群に分類した。ラーメン摂取頻度と死亡との関連を明らかにするため、Cox比例ハザード解析を行った。

小児心停止における人工呼吸の重要性、パンデミックで浮き彫りに

 「子どもを助けたい」。その一心で行うはずの心肺蘇生だが、コロナ流行期では人工呼吸を避ける傾向が広がった。日本の最新研究が、この“ひと呼吸”の差が小児の救命に大きな影響を与えていたことを明らかにした。コロナ流行期では、胸骨圧迫のみの心肺蘇生が増加し、その結果、死亡リスクが高まり、年間で約10人の救えるはずだった命が失われていた可能性が示唆されたという。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏、同学域救命救急・災害医学の内藤宏道氏らによるもので、詳細は「Resuscitation」に7月4日掲載された。

男性部下の育休に対する上司の怒り、背景に職場の不公平感とストレス

 男性が育児休業(育休)を取りにくい職場の空気はどこから生まれるのか。今回、男性の育休に対する上司の怒りは、業務負担や部下に対する責任感といった職場ストレスが原因となり、不公平感を介して生じている可能性があるとする研究結果が報告された。研究は筑波大学人間系の尾野裕美氏によるもので、詳細は「BMC Psychology」に7月1日掲載された。  日本では男性の育児休業制度は国際的にみても手厚く整備されており、法的には長期間の取得が可能で、一定の所得補償も用意されている。しかし現実には、男性の育休取得率やその取得期間は依然として低く、制度が十分に活用されているとは言いがたい。従来の研究では、育休取得によるワークライフバランスの向上や仕事満足度の向上といった肯定的側面に主に焦点が当てられてきた。一方で、制度活用が職場内で生じさせる不公平感や、上司が感じる感情的な負担といった側面には、これまで十分な検討がなされてこなかった。そこで本研究では、男性部下の長期育休取得に対する上司の否定的感情が、職場におけるストレッサー(不明確な役割や能力を超えた業務など)を通じてどのように形成されるのかを明らかにすることを目的とした。不公平感が怒りの媒介要因となるという仮説モデルに基づき、その相互関係を検証するためのオンライン調査を実施した。

音声で日本人の軽度認知障害を検出可能か?

 軽度認知障害(MCI)では、発声パターンやテンポの変化がみられることがあるため、音声は認知機能障害の潜在的なバイオマーカーとなる可能性がある。音声バイオマーカーの予測特性をタイムリーかつ非侵襲的に検出するうえで、人工知能(AI)を用いたMCIの検出は、費用対効果に優れる方法であると考えられる。国立循環器病研究センターの清重 映里氏らは、日本の地域住民における非構造的な会話の音声データからAIで生成した音声バイオマーカーを用いて、MCIを検出する予測モデルを開発し、その効果を検証した。The Lancet Regional Health. Western Pacific誌2025年6月12日号の報告。

危険な飲酒者、日本のプライマリケアにおける超短時間介入は減酒に有効?/BMJ

 プライマリケアにおける、危険な飲酒(hazardous drinking)者のアルコール摂取量を減らすための医師によるスクリーニングと超短時間介入(1分未満)は、スクリーニングのみと比較して飲酒量低減効果は認められなかった。岡山県精神科医療センターの宋 龍平氏らが、実践的なクラスター無作為化比較試験「Education on Alcohol after Screening to Yield moderated drinking study:EASY研究」の結果を報告した。危険な飲酒をしている患者に対する短時間介入はプライマリケアの現場で広く推奨されているが、さまざまな障壁のため実施率は低いままである。超短時間介入は、長時間のアドバイスやカウンセリングと同程度に有効であることを示した研究も一部にはあるが、報告は一貫しておらず、プライマリケアにおいて簡易評価(スクリーニングのみ)と超短時間介入の有効性を直接比較した無作為化試験はなかった。BMJ誌2025年8月12日号掲載の報告。

個人の性格から高血圧リスクは予測できるか/早大

 心血管疾患(CVD)の主要リスクとなる高血圧は、個人の性格などが予測因子となるであろうか。この課題に早稲田大学総合人文科学研究センターのSixin Deng氏らの研究グループは、わが国における4年間の縦断的研究において、ビッグファイブ性格特性(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症的傾向)が高血圧リスクの予測に果たす役割を検証した。その結果、「高い開放性」は、持続性高血圧のリスク上昇と関連していることが判明した。この結果は、BMC Psychology誌2025年7月24日号に掲載された。

日本における統合失調症患者に対する終末期ケアの実態

 東北大学のFumiya Ito氏らは、日本全国のレセプトデータベース(NDB)を用いて、統合失調症入院患者の終末期ケアの実態を調査した。BMJ Supportive & Palliative Care誌オンライン版2025年7月15日号の報告。  2012~15年に死亡した20歳以上の入院患者を対象に、NDBのサンプリングデータセットを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アウトカムは、最期の14日間に終末期ケアを受けた患者の割合とした。  主な結果は以下のとおり。

眼圧と呼吸機能に有意な関連、日本の大規模データが示す新知見

 呼吸機能と眼圧、一見無関係に見えるこの2つに意外な関連があるかもしれない。国内の約30万人の健診データの解析から、呼吸機能が低い人は眼圧が低い傾向にあることが示された。眼疾患における適切な眼圧管理では、呼吸機能も考慮すべきという示唆が得られたという。研究は、東京慈恵会医科大学眼科学講座の寺内稜氏、東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏らによるもので、詳細は、「Scientific Reports」に7月1日掲載された。  緑内障は世界で2番目に多い失明原因であり、今後さらに患者数の増加が見込まれている。その発症と進行において眼圧は中心的な役割を果たしており、眼圧の上昇は唯一の修正可能なリスク因子とされている。眼圧は血圧や血糖、体格、年齢などの身体的因子によって影響を受けることが報告されているが、呼吸機能との関連については十分な検討がなされていない。過去に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の女性では眼圧が低下しているとの報告があるものの、再現性が不十分であり、その背景にある生理学的メカニズムも不明である。そこで本研究では、呼吸機能と眼圧の関連を検証する目的で、日本の大規模健診データを用いた横断研究を実施した。

心不全患者で不足しがちな微量元素は?

 亜鉛、銅、セレンなどの微量元素は、ミトコンドリア機能へ影響を及ぼすこともあり、亜鉛不足が心不全の予後に関連するなど単一元素の不足については報告されている。しかし、微量元素の複合的な影響については十分に解明されていない。今回、名古屋大学のNagai Shin氏らは、急性心不全患者における微量元素の異常と臨床転帰への関連について明らかにし、微量元素異常の是正が心不全管理における新たな目標となる可能性を示唆した。Journal of Cardiology誌2025年7月25日号掲載の報告。

肺炎の病原体検出、肺炎パネルvs.呼吸器パネルvs.培養

 迅速な病原体検出を可能にする多項目遺伝子検査ツールは、その有用性が報告されているものの、本邦では比較データが不足しており、臨床での応用は限定的である。そこで、畑地 治氏(松阪市民病院)らの研究グループは、肺炎が疑われる患者を対象として、マルチプレックスPCR法を用いる肺炎パネル検査(BioFire肺炎パネル)、呼吸器パネル検査(FilmArray呼吸器パネル)、培養・同定検査を比較した。その結果、肺炎パネル検査は従来の培養・同定検査と比較して、病原体検出に優れ、臨床的価値が高いことが示唆された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。

進展型小細胞肺がんへの免疫化学療法、日本の実臨床データ

 進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)に対する1次治療として、抗PD-L1抗体とプラチナ製剤を含む化学療法の併用療法(免疫化学療法)が標準治療となっているが、実臨床における報告は限定的である。そこで、平林 太郎氏(信州大学)らの研究グループは、実臨床において免疫化学療法を受けたED-SCLC患者と、化学療法を受けたED-SCLC患者の臨床背景や治療成績などを比較した。その結果、免疫化学療法が選択された患者は、化学療法が選択された患者よりも全生存期間(OS)が良好な傾向にあったが、免疫化学療法が選択された患者は約半数であり、実臨床におけるED-SCLC治療にはさまざまな課題が存在することが示された。本研究結果は、Respiratory Investigation誌2025年9月号に掲載された。  本研究は、日本の11施設が参加した多施設共同後ろ向き研究である。2019年8月~2023年6月に、1次治療として免疫化学療法または化学療法を受けたED-SCLC患者181例を対象とした。対象患者を、免疫化学療法を受けた群(免疫化学療法群、96例)と、プラチナ製剤を含む化学療法のみを受けた群(化学療法群、85例)に分け、患者背景、治療成績、免疫化学療法が選択されなかった理由などを後ろ向きに調べた。

腰痛の重症度に意外な因子が関連~日本人データ

 主要な生活習慣関連因子と腰痛の重症度・慢性度との関連について、藤田医科大学の川端 走野氏らが日本の成人の全国代表サンプルで調査したところ、脂質異常症が腰痛重症度に関連し、喫煙が腰痛の重症度および慢性度の両方に関連していることが示された。PLoS One誌2025年7月30日号に掲載。  本研究では、無作為に抽出した20~90歳の日本人5,000人を対象に全国横断調査を実施。2,188人から有効回答を得た。現在の腰痛の有無、腰痛の重症度(痛みなし/軽度または中等度/重度)、慢性腰痛の有無により層別解析を行った。主な生活習慣関連因子は、BMI、飲酒、喫煙、運動習慣、併存疾患(脂質異常症、糖尿病、高血圧)、体型に関する自己イメージなどで、多変量ロジスティック回帰分析により各因子との関連の有無を評価した。

日本における認知症予防、社会参加の促進はどの程度効果があるのか

 社会参加は、認知症発症リスクの低下と関連している可能性があり、近年日本において増加傾向にある。この社会参加の促進が、認知症発症率の変化と関連している可能性がある。医療経済研究機構の藤原 聡子氏らは、5つの自治体における2つの高齢者コホートの認知症発症率を比較し、その違いが社会参加と関連しているのか、あるいは社会参加の変数と関連しているかを検討した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2025年10月号の報告。  日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを分析した。本研究は、要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者を対象とした2つの3年間フォローアップ調査コホート(2013〜16年:2万5,281人、2016〜19年:2万6,284人)で構成された。生存分析を用いて、コホートおよび社会参加を説明変数として認知症のハザード比(HR)を算出した。解析は、年齢別(65〜74歳、75歳以上)に層別化し、人口統計学的因子、社会参加、社会参加に関連する変数について調整した。

循環器病予防に大きく寄与する2つの因子/国立循環器病研究センター

 心血管疾患(CVD)リスク因子については、高血圧や喫煙、体型、栄養などの関連性が指摘されている。では、これらの因子はCVDへの寄与について、どの程度定量化できるのであろうか。このテーマに関して、国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部の尾形 宗士郎氏らの研究グループは、高度なマイクロシミュレーションモデル「IMPACT NCD-JPN」を開発し、2001~19年に起きた循環器病のリスク要因の変化が、全国の循環器病(冠動脈疾患と脳卒中)の発症数、死亡数、医療費、QALYs(質調整生存年)にどのような影響を与えたかを定量的に評価した。その結果、収縮期血圧(SBP)の低下と喫煙率の低下が循環器病発症の軽減に大きく寄与していることがわかった。この結果は、The Lancet Regional Health Western Pacific誌2025年7月8日号に掲載された。

硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

 硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。  硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。

早過ぎる子どものスマホデビューは心の発達に有害

 子どもの心身の健康を大切に思うなら、子どもがティーンエイジャーに成長するまではスマートフォン(以下、スマホ)は与えないほうが良いかもしれない。新たな研究で、18~24歳の若者のうち13歳未満でスマホを与えられた人では、自殺念慮、攻撃性、現実からの乖離感、感情調節困難、自己肯定感の低下などのリスクが高いことが示された。米Sapien LabsのTara Thiagarajan氏らによる詳細は、「Journal of Human Development and Capabilities」に7月20日掲載された。  Thiagarajan氏は、「われわれのデータは、早期からのスマホの所持と、それに伴うソーシャルメディアの利用が、成人期早期の心の健康とウェルビーイングに大きく影響することを示している」とジャーナルの発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で話している。その上で、「当初は研究結果が強力であることに驚いた。しかし、よく考えてみれば、発達段階にある若い心は、その脆弱性や人生経験の少なさからオンライン環境からの影響を受けやすいというのは当然のことかもしれない」と述べている。