弘前大学の足立 匡基氏らは、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如多動症(ADHD)の特性と幼少期のポジティブな経験が自殺関連行動に及ぼす複合的な影響を調査するため、日本人の青年および若年成人の大規模かつ代表的なサンプルを用いて、調査を行った。さらに、幼少期のポジティブな経験が神経多様性特性に関連するリスク軽減に役立つかについても、検討を行った。Frontiers in Psychiatry誌2025年4月30日号の報告。
対象は、16〜25歳の日本人5,000人。検証済みの尺度を用いて、ASD およびADHD特性、幼少期のポジティブな経験、自殺念慮および自殺企図を含む自殺関連行動を測定し、データを収集した。これらの変数の影響を評価するため、階層的回帰分析を複数回実施した。幼少期のポジティブな経験と神経多様性特性との間の相互作用効果を検討し、潜在的な緩和効果を検証した。
主な結果は以下のとおり。
・ASD特性およびADHD特性は、自殺念慮と正の相関が認められ、両特性のレベルが高いほど、自殺リスクが最も高かった。
・幼少期のポジティブな経験を組み込むことで、自殺念慮との有意な負の相関が示され、幼少期のポジティブな経験が多いほど、自殺念慮のレベルは低かった。
・幼少期のポジティブな経験は、ASD特性(β:0.180→0.092)およびADHD特性(β:0.216→0.185)と自殺念慮との関連性を低下させた。
・交互作用分析では、幼少期のポジティブな経験の自殺念慮に対する保護効果は、ADHD特性が高い人において、とくに顕著であった。
・単純傾斜分析では、ADHD特性が低い人(β:−0.339、z=−18.61、p<0.001)、高い人(β:−0.475、z=−21.84、p<0.001)のいずれにおいても、幼少期のポジティブな経験が多いほど、自殺念慮の減少と有意な関連が認められ、ADHD特性が高い人ほどより強力な影響が示された。
著者らは「ASDおよびADHD特性は、自殺リスクに累積的かつ潜在的に複合的な影響を及ぼすことを改めて明らかにすると同時に、幼少期のポジティブな経験が重要な保護的役割を果たすことが示唆された。幼少期のポジティブな経験は、とくにADHD特性の高い人において、感情調整不全や衝動性を軽減し、自殺関連行動の減少につながる。本研究は、脆弱な集団におけるレジリエンスやメンタルヘルスを促進するための標的介入の一環として、幼少期のポジティブな経験を促進することの重要性を示唆している」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)