世界保健機関(WHO)は、週に150分の中高強度身体活動(moderate-to-vigorous intensity physical activity:MVPA)を推奨しているが、これを達成できるのは少数とされる。また、従来の研究の多くは身体活動データを参加者の自己申告に基づき収集しているが、これは計測機器で測定した場合に比べバイアスが生じやすいことが知られている。ノルウェー・Norwegian School of Sport SciencesのUlf Ekelund氏らは、計測機器を用いた研究のデータを収集・解析し、最も活動量の多い上位20%を除いた集団では、1日5分という、ごくわずかで現実的なMVPAの増加が、総死亡の10%を予防する可能性があり、さらに1日30分の座位時間の削減が、総死亡の7.3%を防ぐ可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌2026年1月24日号で報告された。
3ヵ国7件の前向きコホート研究のメタ解析
研究グループは、身体活動量と座位行動時間のわずかで現実的な変化が、集団レベルの死亡率に及ぼす影響の評価を目的にメタ解析を行った(特定の研究助成は受けなかった)。
解析には、腰部装着型の加速度計を使用して身体活動量と座位時間を測定した3ヵ国7件の前向きコホート研究(ABC、HAI[スウェーデン]、NHANES、REGARDS、WHS[米国]、NNPAS、Tromso[ノルウェー])の参加者の、個人レベルのデータを用いた。
活動量の変化による死亡の予防割合(潜在的影響割合[potential impact fraction:PIF])を、(1)最も活動量が少ない約20%の参加者(高リスクアプローチ)、および(2)最も活動量の多い約20%を除いた約80%の参加者(集団ベースアプローチ)において推算した。
MVPAの10分増加で、総死亡の14.9%予防の可能性
7件のコホート研究の参加者13万5,046人(平均年齢63.9[SD 8.7]歳、女性8万2,451人[61%])を平均8.2(SD 1.9)年間追跡した。このうち4万327人の個人レベルのデータをメタ解析の対象とした。追跡期間中に4,895人が死亡した。平均MVPA時間は27.7分/日(計測機器装着時間の3.1%)だった。
高リスクアプローチ(平均MVPA時間2.2分/日)では、MVPAの1日5分の増加により総死亡数の6.0%(95%信頼区間[CI]:4.3~7.4)を回避でき、10分の増加で8.8%(7.0~10.4)を回避可能と推定された。
また、集団ベースアプローチ(平均MVPA時間17.4分/日)では、MVPAを1日5分増加させると、総死亡の10.0%(95%CI:6.3~13.4)を、10分の増加で14.9%(9.7~19.3)を、それぞれ回避できると推定された。
座位時間60分削減で、総死亡の12.6%予防の可能性
座位時間に関する高リスクアプローチ(最も座位時間の長い約20%の集団、平均座位時間721分/日)に基づく推定では、座位時間の1日30分の削減で予防可能な総死亡の推定割合は3.0%(95%CI:2.0~4.1)で、60分の削減では5.5%(3.9~6.9)であった。
また、集団ベースアプローチ(最も座位時間の短い約20%を除く集団、平均座位時間 605分/日)に基づく推定では、座位時間の1日30分の削減で予防可能な総死亡の推定割合は7.3%(95%CI:4.8~9.6)、60分の削減では12.6%(8.4~16.4)だった。
LPA、総身体活動の60分増加は、MVPAの5分増加とほぼ同等
一方、低強度身体活動(light-intensity physical activity:LPA)の1日60分の増加で予防可能な推定死亡割合は、高リスクアプローチで5.5%(95%CI:4.0~6.7)、集団ベースアプローチで8.9%(3.1~13.8)であった。
また、総身体活動(LPA時間+MVPA時間)の1日60分の増加で予防可能な推定死亡割合は、それぞれ5.5%(95%CI:4.1~6.8)および10.6%(5.7~14.9)だった。これらLPA、総身体活動の60分増加の効果は、MVPA時間の5分増加とほぼ同程度であった。
著者らは、「WHOの推奨目標値を下回るわずかな身体活動量の増加により、生存に関する有益性が得られることが示された」「座位時間の30分の削減は、現実の環境下で実現可能と考えられ、効果的な介入による8時間労働当たり座位時間の40~100分の削減の可能性を示唆する研究や、高齢者に対する座位行動変容介入で45分/日の座位時間の削減を示唆する研究などがある」「今後、総死亡以外の健康アウトカムについて検証する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)