米国・ヴァンダービルト大学医療センターのAaron M. Williams氏らの研究チームは、循環が停止したドナー(DCD)から移植用の心臓を摘出する際に、従来のnormothermic regional perfusion(NRP)やdirect procurement and perfusion(DPP)を必要としない方法として、rapid recovery with extended ultraoxygenated preservation(REUP)法を開発した。本論文では、従来法の問題点、REUP法を適用した最初の3例の治療成績、この手法が今後の心臓移植に及ぼす影響について解説している。研究の詳細は、NEJM誌2025年7月17日号で短報として報告された。
DPPは複雑で高価、NRPには倫理的問題
DCDからの心臓移植における心臓摘出では、通常、DPPまたはNRPのいずれかが行われる。
DPPでは、ドナーの循環停止を確認後に心臓を摘出する。市販の体外装置を使用して心臓蘇生を行うが、この装置は複雑で大きな労力を要するうえに高価で、移植心臓の機能障害のリスクが増加する可能性もある。
NRPでは、死亡宣告後に膜型人工肺などを装置し、灌流を再開して体内で心臓蘇生を行い、心機能を評価して移植の適否を決める。DPPに比べ操作が容易で、臓器の回収率が高く、心臓と腹部臓器の移植において優れたアウトカムが示されている。
その一方で、NRPは主に次の2つの倫理的な問題を抱えており、これを理由に使用を禁じる国、病院、臓器調達組織も多い。(1)ドナーの心臓を体内で蘇生させるのは、循環死の定義を否定することではないか(DPPは体外なので心臓死後の臓器摘出と判断)、(2)大動脈弓部分枝をクランプして脳循環を防止しているが、側副路を介する脳循環の再開の可能性は残るのではないか(脳が蘇生した状態での心臓摘出の可能性)。
6ヵ月後も両心室機能は正常、拒絶反応は認めない
REUP法は、DCDの大動脈をクランプし、平均大動脈基部圧80mmHgにコントロールされた状態で、超酸素化された冷温保存液(濃厚赤血球、del Nido心保護液などを含む)2リットルを約10~12分間で投与する方法である。この手法は簡便で安価であり、体内で心臓蘇生を行わないためNRPが許可されない状況でも使用可能とされる。
REUP法を受けた最初の3例の患者はいずれも順調に回復し、ICU入室中に合併症は発現しなかった。移植後1週目に、患者の心係数は2.8~4.4L/分/m
2の範囲で推移し、3例とも移植から7日目までに強心薬の点滴から離脱した。術後の心エコー検査で、すべての患者の両心室の機能は正常であった。また、周術期に有害事象の報告はなかった。
一時的な持続的腎代替療法を行った後に間欠的血液透析を受けた1例は、その後に完全な腎機能の回復を果たした。全例がprednisone、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスを含む標準的な免疫抑制療法を受けた。移植から6ヵ月の時点で、すべての患者は両心室機能が正常な状態を維持しており、急性細胞性拒絶反応や抗体関連型拒絶反応は認めなかった。
移植へのアクセスが拡大する可能性
これら3例の良好なアウトカムは、次の2点を示唆すると考えられた。(1)循環停止後から始まる細胞死のプロセスには可逆性の時間帯が存在するとの既報のトランスレーショナル研究の知見を支持する、(2)NRPまたはDPPによるドナー心臓の自己心拍の再開および生理学的評価は不要である可能性がある。
著者は、「NRPに関連した倫理的ジレンマと、市販のDPPの過大なコストを回避できることから、REUP法は、これまでDCDからの心臓移植にアクセス不能であった施設や地域において、適切に選択された心臓の摘出と移植を成功裏に行うことを可能にするとともに、提供可能であるにもかかわらず活用されない心臓を減らすことができると考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)