米国において中絶禁止法を導入した州の出生率は、導入しなかった場合に予想される出生率より高く、とくに人種的マイノリティ、低学歴(大学卒業ではない)、低所得、未婚、若年、南部の州においてその差が大きかった。同国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のSuzanne O. Bell氏らが、出生証明書と国勢調査データを解析し報告した。このような超過出生は、社会サービスが最も脆弱で、母子の健康と福祉に関するアウトカムが最も不良な州で認められ、著者は、「既存の格差がさらに深刻化し、すでに逼迫している資源にさらなる負担をかける可能性がある」と指摘している。JAMA誌2025年4月15日号掲載の報告。
中絶禁止法を導入した州の出生率を分析
研究グループは、2012~23年の全米50州およびコロンビア特別区(ワシントン)の出生証明書ならびに国勢調査データを用い、完全な中絶禁止または妊娠6週目以降の中絶禁止を法的に導入している米国14州
*における、15~44歳(生殖可能年齢)の女性の出生率(1,000人当たりの出生数)の平均変化と絶対変化について、全体および州別、ならびに州内と州間で、年齢、人種・民族、婚姻状況、教育、保険加入別に、ベイズパネルデータモデルを用いて推定した。
*:アラバマ、アーカンソー、ジョージア、アイダホ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、オクラホマ、サウスダコタ、テキサス、テネシー、ウェストバージニア、ウィスコンシン(アイダホ、ミズーリ、サウスダコタ、ウィスコンシン以外の州を南部とする)
中絶禁止法導入後の出生率は、導入しなかった場合の予測値より高い
中絶禁止法を導入している14州全体では、生殖可能年齢の女性1,000人当たりの出生数が、期待値より1.01人(95%信用区間[CrI]:0.45~1.64)増加と推定され(予測値59.54に対し観測値60.55)、増加率は1.70%(95%CrI:0.75~2.78)、超過出生数2万2,180人に相当することが示された。
この結果は、州およびサブグループによってばらつきがみられ、期待値を上回る増加は、とくに南部の州、ならびに人種的マイノリティ(約2.0%)、未婚者(1.79%)、35歳未満(約2.0%)、メディケイド受給者(2.41%)、大学卒業未満(高校卒業2.36%、大学の学位なし1.58%)で顕著であった。
中絶禁止と出生率の州レベルでの関連性のばらつきの大部分は、各州における人種・民族、教育の違いに基づくものであることが示された。
著者は研究の限界として、出生率に影響を与える同時要因を考慮することが困難であること、限定的な個人レベルのデータがまだ入手できず、解析では2023年の暫定的な出生数集計データを使用したこと、出生時の妊娠週数に関する情報は集計データでは入手できないため、受胎コホートに基づく解析が不可能であったことなどを挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)