口腔疾患、過去30年間の有病率と負荷の変化/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2025/03/21

 

 世界保健機関(WHO)の「口腔保健に関する世界戦略および行動計画(Global Oral Health Action Plan)2023-2030」では、2030年までに口腔疾患の有病率を10%減らすという包括的な世界目標を設定している。この目標に向けた進捗状況をモニタリングするためには、口腔疾患の世界的な負荷に関する確実性の高い最新の情報が最も重要になる。英国・Royal London Dental HospitalのEduardo Bernabe氏らGBD 2021 Oral Disorders Collaboratorsは、1990~2021年の30年間の世界的な口腔疾患の負荷状況をシステマティック解析とメタ解析にて調べ、負荷状況の変化はわずかで、口腔疾患制御のための過去および現行の取り組みは成功しておらず、新たなアプローチが求められていることを示した。著者は、「多くの国が、口腔疾患の新たな症例の発生制御と口腔保健に対する膨大な満たされないニーズに取り組むという、2つの課題に直面している」と述べている。Lancet誌2025年3月15日号掲載の報告。

未治療う蝕、歯周炎、口腔がんなどの1990~2021年の有病率、DALYsを推定

 研究グループは、システマティック解析により、WHO規定の地域・国レベルにおける未治療う蝕、重度の歯周炎、無歯顎、その他の口腔疾患、口唇・口腔がんおよび口唇口蓋裂の、1990~2021年の有病率および障害調整生存年(DALYs)を推定した。

 疫学調査、住民ベースのレジストリおよび人口動態統計からデータを抽出し、DisMod-MR 2.1(本報告がベースとしたGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study[GBD]解析用に開発されたベイズメタ回帰モデリングツール)を用いてモデル化し、口腔疾患の有病率、罹患率、寛解率および死亡率の推定値の一貫性を確保した。

 推定DALYsは、早期死亡による損失生存年数(YLLs)と障害生存年数(YLDs)の合計とした。YLDsは、推定有病率、口腔疾患の後遺症(障害の程度)および後遺症の期間を乗算して推定した。すべての口腔疾患がYLDsに結びついたが、YLLにも結びついたのは口唇・口腔がんおよび口唇口蓋裂のみであった。95%不確実性区間(UI)は、事後分布の1,000描出値の25th~975thのメトリック範囲で生成した。

変化はほとんどなし、最も高負荷は無歯顎、重度の歯周炎、口唇・口腔がん

 2021年における主要口腔疾患(未治療う蝕、重度の歯周炎、無歯顎、その他の口腔疾患)の、世界統合の年齢標準化有病率は10万人当たり4万5,900(95%UI:4万2,300~4万9,800)で、世界で36億9,000万人(34億~40億)が罹患していた。

 最も多くみられた口腔疾患は、未治療の永久歯う蝕(年齢標準化有病率は10万人当たり2万7,500[95%UI:2万4,000~3万2,000])と重度の歯周炎(1万2,500[1万500~1万4,500])であった。

 無歯顎、重度の歯周炎、口唇・口腔がんは、DALYsと年齢標準化DALY比によって最も高負荷であることが明らかにされた。また、1990~2021年の傾向から、有病率と負荷の変化(上昇または低下)は比較的小さいことが明らかになった。

 有病率とDALYsの上昇はすべての口腔疾患で認められたが、未治療の乳歯う蝕の有病率あるいはDALYsに変化が認められず、口唇口蓋裂はDALYsの-68.3%(95%UI:-79.3~-46.5)が認められた。また、未治療の永久歯う蝕と無歯顎の年齢標準化有病率およびDALYsはいずれも低下していたが、未治療の乳歯う蝕と重度の歯周炎はいずれも変化がみられなかった。口唇・口腔がんは、有病率は上昇したがDALYsは変化がみられず、口唇口蓋裂は、有病率は変化がみられなかったがDALYsは低下していた。

 WHO地域別にみると、アフリカ地域と東地中海地域が、ほとんどの口腔疾患の有病率とDALYsの上昇が最も大きかった一方、欧州地域は上昇が最も小さいか変化なしであった。欧州地域は、未治療の乳歯う蝕(-9.88%[95%UI:-12.6~-6.71])と永久歯う蝕(-5.94%[-8.38~-3.62])の両方の年齢標準化有病率が低下した唯一の地域であった。

 重度の歯周炎の有病率とDALYsは、アフリカ地域で低下した、無歯顎の有病率とDALYsは、アフリカ地域、南東アジア地域、西太平洋地域で低下した。さらに、口唇・口腔がんは、欧州地域と南北アメリカ地域ではDALYsが低下し、口唇口蓋裂のDALYsはすべての地域で低下していた。

 著者は、「結果は、過去30年間の対策は不十分であり、住民の口腔保健にほとんど変化がなかったことを示すものであった。将来的に、大規模かつ影響力のある対策を講じない限り、この傾向は続くだろう」と述べている。

(ケアネット)