前十字靱帯損傷、リハビリより外科的再建術が有効/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2022/09/07

 

 膝関節の不安定性による症状が持続している非急性期の前十字靱帯(ACL)損傷患者の管理法として、外科的再建術はリハビリテーションと比較して、臨床効果(KOOS4)が優れ費用対効果も良好であることが、英国・オックスフォード大学のDavid J. Beard氏らが実施した「ACL SNNAP試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年8月20日号で報告された。

英国の実践的無作為化対照比較試験

 ACL SNNAP試験は、膝関節の不安定性の症状が持続する非急性期のACL損傷患者において、再建手術と非外科的治療のどちらが最適な管理法であるかの検証を目的とする実践的な無作為化対照比較試験であり、2017年2月~2020年4月の期間に、英国の29ヵ所の国民保健サービス(NHS)セカンダリケア病院の整形外科で参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価計画の助成を受けた)。

 対象は、ACL損傷による持続性の症状を伴う膝の問題(不安定性)を有する患者であった。緊急手術を示唆する特徴を持つ半月板の病変や、重度の変形性関節症(Kellgren-Lawrence分類のGrade3または4)を有する患者は除外された。

 被験者は、手術(再建術)またはリハビリテーション(理学療法:治療後に不安定性が持続する場合は、再建術が可能とされた)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要アウトカムは、無作為化の時点から18ヵ月後の膝関節損傷・変形性関節症アウトカムスコア-4領域版(KOOS4)(0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)とされた。

KOOS下位尺度もすべて良好

 316例が登録され、外科的再建術群に156例、リハビリテーション群に160例(1例でデータを確認できなかった)が割り付けられた。全体の平均年齢は32.9(SD 9.8)歳で、外科的再建術群で男性の割合が高かった(71% vs.62%)。34%はACL損傷から4ヵ月以内、66%は4ヵ月以上であり、22%は1年以上が経過していた。ベースラインの平均KOOS4は、外科的再建術群が45.7(SD 19.6)点、リハビリテーション群は43.3(18.1)点だった。

 また、外科的再建術群では、実際に手術を受けたのは72%(113/156例)で、28%(43例)はこれを受けなかった(26%[11例]は手術待機、40%[17例]はリハビリテーションを選択)。リハビリテーション群の41%(65/160例)は、症状が持続したため再建術を受けた。手術までの期間中央値は、外科的再建術群が113日、リハビリテーション群で再建術を受けた患者は237日であった。

 主要アウトカム評価のintention to treat集団は248例で、外科的再建術群が128例、リハビリテーション群は120例であった。18ヵ月時の平均KOOS4は、外科的再建術群が73.0 (SD 18.3)点、リハビリテーション群は64.6(SD 21.6)点で、補正後平均群間差は7.9点(95%信頼区間[CI]:2.5~13.2)であり、外科的再建術群で有意に良好だった(p=0.0053)。

 また、18ヵ月時のKOOSの下位尺度は、いずれも外科的再建術群で優れた(疼痛[p=0.020]、症状[p=0.0020]、日常生活動作[p=0.0022]、スポーツ/余暇活動[p=0.043]、膝関連の生活の質[p=0.0065])。

 一方、外科的再建術がリハビリテーションよりも費用対効果が優れる確率について解析したところ、外科的再建術は1質調整生存年(QALY)を得るのに要する費用が3万ポンド(72%の確率)の場合に最も費用対効果が優れる選択肢であった。これは、1例当たりの医療費は外科的再建術のほうが高額(3,186 vs.2,169ポンド、群間差:1,017ポンド、95%CI:557~1,476、p<0.001)であるにもかかわらず、アウトカムが優れていたこと(1例当たり1.03 vs.0.98 QALY、p=0.17)の結果であった。

 介入に関連する合併症は、外科的再建術群で1件、リハビリテーション群で2件認められ、臨床イベントはそれぞれ10例で11件および11例で12件発現し、両群間に差はなかった。

 著者は、「より長期のACL損傷(もはや急性期ではない)の患者との共有意思決定では、ACLの外科的再建術は非手術的な方法よりも良好な結果をもたらす可能性があることを提示し、理由を問わず患者が手術を望まない場合は、非手術的な治療でも損傷は改善され、後日、外科的再建術を行う選択肢も残されていることを、再確認する必要がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)