終末期の運動機能の低下は死亡と関連するか/BMJ

提供元:ケアネット

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公開日:2021/08/16

 

 高齢期初期の運動機能は死亡と強い関連があり、終末期の運動機能の減退は、全般的な運動機能の指標(椅子立ち上がり時間、SF-36の身体的側面のQOL要約スコア)では早期(それぞれ死亡の10年前と7年前)に、基本的/手段的日常生活動作(ADL)の制限では後期(死亡の4年前)に出現することが、フランス・パリ大学のBenjamin Landre氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年8月4日号に掲載された。

英国のWhitehall IIのデータを用いた前向きコホート研究

 研究グループは、運動機能に関する複数の客観的または患者の自己申告による指標と死亡との関連の評価を目的に、前向きコホート研究を行った(米国国立老化研究所などの助成による)。

 解析には、英国のWhitehall II研究のデータが使用された。この研究は1985~88年に35~55歳であった英国の公務員を対象に開始。2007~09年に6,194人(平均年齢65.6[SD 5.9]歳、女性27.3%)を対象に運動機能の評価が導入され、その後2012~13年および2015~16年に追跡調査が行われた。

 主要アウトカムは、2007~19年の期間における全死因死亡と、運動機能の客観的指標(歩行速度、握力、椅子立ち上がり時間[秒、立つ-座るの5回繰り返しに要する時間])および自己申告による指標(SF-36の身体的側面のQOL要約スコア、基本的/手段的ADLの制限)との関連とした。

1標準偏差の低下で死亡リスクが14~30%増加

 解析に含まれた6,194人のうち、ベースライン(2007~09年)から2019年10月の期間に654人が死亡した。死亡時の平均年齢は76.8(SD 6.2)歳だった。死亡した参加者は、追跡終了時に生存していた参加者に比べ、ベースラインの平均年齢が高く(69.7歳 vs.65.1歳)、複数の併存疾患を持つ割合が高く(27.2% vs.12.1%)、運動機能が劣っていた。

 平均10.6年の追跡期間中にベースライン(2007~09年)の運動機能が1標準偏差低くなると(5,645人中610人)、死亡リスクが、歩行速度では22%(95%信頼区間[CI]:12~33)、握力では15%(6~25)、椅子立ち上がり時間では14%(7~23)、身体的側面のQOL要約スコアでは17%(8~26)、基本的/手段的ADLの制限では30%(7~58)増加した。これらの関連性は、2012~13年(平均追跡期間6.8年)および2015~16年(同3.7年)には、さらに強くなる傾向が認められた。これは、平均年齢65歳、69歳、72歳時の運動機能の低下は高い死亡率と関連し、いずれの指標も年齢が進むほど関連性が強くなることを示唆する。

 一方、軌跡解析では、死亡者(484人)は生存者(6,194人)に比べ、死亡前の運動機能が劣っていた。すなわち、椅子立ち上がり時間では死亡の10年前の死亡者-生存者間の標準化平均差は0.35(95%CI:0.12~0.59、p=0.003、男性で1.2秒、女性で1.3秒の差に相当)、歩行速度では死亡の9年前の標準化平均差が0.21(0.05~0.36、p=0.01、男性で5.5cm/秒、女性で5.3cm/秒の差に相当)、握力では6年前の標準化平均差が0.10(0.01~0.20、p=0.04、男性で0.9kg、女性で0.6kgの差に相当)、身体的側面のQOL要約スコアでは7年前の標準化平均差が0.15(0.05~0.25、p=0.003、男性で1.2点、女性で1.6点の差に相当)であり、基本的/手段的ADLの制限では4年前の有病率の差が2%(0~4、p=0.03)であった。また、このうち椅子立ち上がり時間、身体的側面のQOL要約スコア、基本的/手段的ADLの制限では、死亡までに両集団間の差がさらに大きくなった。

 著者は、「これらの知見は、運動機能の変化を早期に検出することで、予防および目標を絞った介入の機会が得られる可能性があることを示唆する」としている。

(医学ライター 菅野 守)