心筋梗塞のリスクはCKDが糖尿病よりも高い、約127万人のコホート試験

提供元:ケアネット

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公開日:2012/09/13

 

 心筋梗塞による入院のリスクは、心筋梗塞の既往歴がある場合に最も高いが、既往歴がない場合はCKDが糖尿病よりも高リスクであることが、カナダ・Alberta大学のMarcello Tonelli氏らAlberta Kidney Disease Network(AKDN)の検討で示された。糖尿病の冠動脈イベントのリスクは心筋梗塞の既往歴に匹敵すると考えられている。慢性腎臓病(CKD)も冠動脈イベントのリスクが高い(とくに蛋白尿がみられる場合)とされるが、CKDによる冠動脈イベントのリスク等価性を糖尿病と比較した試験はなかったという。Lancet誌2012年9月1日号(オンライン版2012年6月19日号)掲載の報告。

CKDと糖尿病の冠動脈イベントリスクをコホート試験で比較
AKDNの研究グループは、CKDおよび糖尿病における冠動脈イベントのリスクを評価する地域住民ベースのコホート試験を実施した。

AKDNデータベースを用い、2002~2009年に推算糸球体濾過量(eGFR)と蛋白尿の測定を受けた18歳以上の住民を選出した。1994~2009年の入院および医療費請求データに基づくアルゴリズムにより、被験者をベースラインの心筋梗塞の既往歴の有無で分類し、フォローアップ期間中に心筋梗塞で入院した患者を同定した。

ベースラインのCKDの定義はeGFR 15~59.9mL/分/1.73m2(ステージ3あるいは4)とした。蛋白尿は尿試験紙またはアルブミン/クレアチニン比で評価した。糖尿病はHbA1c>6.5%の場合とした。

心筋梗塞既往歴あり群には糖尿病、CKDの患者も含まれた(A群)。心筋梗塞既往歴なしの群は、さらに4つの群[糖尿病とCKDを有する群(B群)、CKDのみの群(C群)、糖尿病のみの群(D群)、糖尿病もCKDもない群(E群)]に分けた。ポアソン回帰分析を用いて、5つの群におけるフォローアップ期間中の心筋梗塞の未調整発生率および相対リスクを算出した。

最も高リスク患者のリストにCKDを加えるべき
126万8,029人が解析の対象となった。A群が1万2,960人(平均年齢66.1歳、女性26.8%、糖尿病30.1%、CKD 27.8%)、B群が1万5,368人(平均年齢72.7歳、女性53.8%)、C群が5万9,117人(同:71.8歳、59.8%)、D群が7万5,871人(同:56.2歳、46.0%)、E群は110万4,713人(同:44.6歳、55.2%)だった。フォローアップ期間中央値48ヵ月の時点で、1万1,340人(1%)が心筋梗塞で入院し、4万7,712人(4%)が死亡した。

心筋梗塞の未調整発生率はA群が最も高かった(18.5/1,000人・年、95%CI:17.4~19.8)。心筋梗塞既往歴のない群における心筋梗塞の発生率は、C群(糖尿病なしのCKD)が6.9/1,000人・年(95%CI:6.6~7.2)と、D群(CKDなしの糖尿病)の5.4/1,000人・年(95%CI:5.2~5.7)に比べ有意に高かった(p<0.0001)。

CKDがより進行した場合(eGFR<45mL/分/1.73m2かつ高度な蛋白尿)について解析したところ、心筋梗塞の未調整発生率はCKDが12.4/1,000人・年(95%CI:9.7〜15.9)と、糖尿病の6.6/1,000人・年(95%CI:6.4〜6.9)よりも実質的に高い値を示した。

一方、年齢、社会経済的地位、併存疾患で調整すると、CKDのほうが糖尿病よりも心筋梗塞のリスクが低くなり、eGFR低下による心筋梗塞のリスク上昇は加齢の寄与が大きいことが示唆された。性別、社会経済的地位、併存疾患、ステージ3あるいは4のCKD、重度蛋白尿で調整すると、CKDと糖尿病の心筋梗塞リスクは同等となった。

著者は、「心筋梗塞による入院のリスクは、心筋梗塞の既往歴があると、既往歴のない糖尿病やCKDよりも高く、進行CKDは糖尿病よりもリスクが高い。心筋梗塞発症後の心筋梗塞による入院や死亡のリスクについては、CKDは糖尿病と同等もしくはそれ以上である」とまとめ、「これらの知見は、将来、冠動脈イベントを発症するリスクが最も高い患者を規定する判定基準のリストに、CKDを加えるべきであることを示唆する」と指摘する。

(菅野守:医学ライター)

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コメンテーター : 浦 信行( うら のぶゆき ) 氏

札幌西円山病院 名誉院長

J-CLEAR評議員