これまで有効な治療選択肢が限られていた卵巣がんの組織型に対し、分子標的療法の臨床試験が有望な成果を示している。第68回日本婦人科腫瘍学会学術集会では、3つの組織型の新薬における日本人患者の成績を三重大学 金田 倫子氏、兵庫県立がんセンター 山本 香澄氏、名古屋大学 新美 薫氏が紹介した。
低異型度漿液性卵巣がんに対するavutometinib+defactinibの日本人成績(RAMP201J)
低異型度漿液性卵巣がん(LGSOC)は卵巣がんの10%未満とまれな組織型である。再発に対する化学療法の奏効率は0~13%と低く、新たな治療法の開発が強く望まれている。
LGSOCでは
KRAS変異を含むRAS/MAPキナーゼ経路の異常が高頻度に認められることから、この経路を標的とした治療法の開発が期待されている。avutometinibはRAF/MEKクランプ薬で、RAS/MAPK経路におけるRAFとMEKを抑えることでシグナル伝達を阻害する。一方のdefactinibはFAK阻害薬である。avutometinibとdefactinibの併用によりRAF/MEKとFAKを阻害することで高い抗腫瘍効果が期待される。グローバルのRAMP201試験における奏効率(ORR)は全体集団で31%、
KRAS変異例では44%。無増悪生存期間(PFS)中央値は全体で12.9ヵ月、
KRAS変異例では19.6ヵ月であった。これらのデータを背景に、日本人LGSOCを対象とした第II相試験RAMP201J試験が開発された。
RAMP201Jはプラチナ既治療患者を対象とし、avutometinibとdefactinibを3週投与1週休薬の4週サイクルで投与する。同学術集会では治験担当医の判定による中間解析結果を報告した。日本人は16例が登録され、
KRAS変異例が7例、
KRAS野生型が9例であった。年齢中央値は47歳、44%の患者が4ライン以上の前治療歴を有していた。
追跡中央値12.4ヵ月での日本人患者のORRは全体で44%、
KRAS変異例は71%、
KRAS野生型は22%であった。病勢コントロール率(DCR)は全体で94%、
KRAS変異例は100%、
KRAS野生型は89%であった。全体の44%が1年以上治療を継続しており、治療継続期間中央値は
KRAS変異例で11.7ヵ月、
KRAS野生型は10.9ヵ月であった。
有害事象(AE)については、ほとんどがGrade1/2であり、Grade3の主なものはCPK上昇と皮疹であった。93%が休薬を必要とし、31%が減量を要したが、AEによる治療中止例はなかった。
今回の結果より、日本人LGSOC患者に対するavutometinib+defactinib併用療法は、RAMP201と同様の有効性・安全性・薬物動態を示すことが確認されている。また、
KRAS変異例だけでなく
KRAS野生型でも一定の奏効率を示した。現在、第III相試験(RAMP301試験)が実施されている。
FRα陽性プラチナ抵抗性卵巣がんに対するmirvetuximab soravtansineの日本人成績
プラチナ抵抗性再発卵巣がんに対する単剤化学療法やベバシズマブ併用療法の有効性は限定的であり、新たな治療選択肢が強く求められている。葉酸受容体α(FRα)は上皮性卵巣がんで高発現することが知られており、有望なバイオマーカーとして注目されている。
mirvetuximab soravtansine(MIRV)はFRαを標的とした抗体薬物複合体(ADC)である。MIRVの有効性・安全性はSORAYA試験(第II相)およびMIRASOL試験(国際共同第III相)で示されており、米国をはじめ複数の国でFRα陽性プラチナ抵抗性卵巣がんへの適応が承認されている。
これらのピボタル試験には日本人が組み入れられていなかった。そのため、日本人に対するMIRVの安全性・有効性・薬物動態を評価する多施設共同オープンラベル第I/II相試験が行われた。第I相ではMIRV(6mg/kg 3週ごと投与)の安全性・薬物動態を、第II相では有効性、安全性などを評価した。
第I相(3例)で用量制限毒性が認められないことを確認し、上記用量で第II相へ移行した。第II相(25例)ではFRα高発現のプラチナ製剤抵抗性上皮性卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを対象として、ORR、奏効期間(DOR)、安全性を評価した。
結果、主要評価項目であるORRは44%(25例中11例)で、完全奏効は2例で認められた。DCRは88%であった。
全例に何らかのAEが認められ、Grade3以上が52%、重篤なAEが24%に発生したが、AEによる治療中止例・死亡例はなかった。臨床的に重要なAEとして眼障害64%、末梢神経障害28%、肺炎24%が認められた。
これらの結果から、日本人患者においても既報と同様にMIRVの有効性、安全性が得られた。
PIK3CA変異卵巣明細胞がんに対するリソバリシブの日本人成績(CYH33-G201)
卵巣明細胞がん(OCCC)はまれで化学療法抵抗性を示すがん種であり、確立された2次治療の選択肢がない。再発例では奏効率8%未満、OS中央値約11ヵ月と予後不良である。
PIK3CA遺伝子のホットスポット(exon9、exon20などの高頻度変異領域)変異はOCCCの30~40%に認められる。リソバリシブ(CYH33)はPI3キナーゼα(PI3Kα)に結合して腫瘍の増殖・生存を抑制することからOCCCの治療薬として期待されている。
CYH33-G201試験は
PIK3CAホットスポット変異を有する再発および持続性OCCCを対象とし、リソバリシブ40mg/日経口投与を評価した国際共同第II相試験である。同学術集会では日本人集団の結果が発表された。
日本人患者は52例で、年齢中央値は53.5歳、PS0が94%、前治療ラインは2ラインが最多(48%)であった。
PIK3CAホットスポット変異はexon9が39%、exon20が50%である。
主要評価項目のORRは全体集団で34.5%、日本人集団で30.4%であり、両群で同等の有効性が示された。DCRは全体で76.2%、日本人で73.9%であった。PFS中央値は全体・日本人ともに約4.86ヵ月、OS中央値は全体で14.39ヵ月、日本人で11.17ヵ月であった。75%で用量減量が、90%で休薬が実施された。
全例に何らかのAEが認められた。頻度の高い治療関連AEは高血糖(85%)と発疹(75%)で、日本人での発現率はそれぞれ84.6%と75.0%であった。AEによる減量は75%、休薬は90%で発生している。治療関連AEによる死亡は認められていない。
リソバリシブはグローバル試験と同様、日本人患者でも有望な治療選択肢となることが確認された。
PIK3CA変異陽性の卵巣明細胞がん治療薬として国内で本年(2026年)7月に承認、発売されている。
卵巣がんの新たな標的であるKRAS、FRα、PIK3CA治療、いずれにおいても日本人でグローバルデータと同様に有効性が確認された。
■参考文献
RAMP201試験(ClinicalTrials.gov)
Banerjee SN, et al. J Clin Oncol. 2025;43:2782-2792.
RAMP201J(ClinicalTrials.gov)
RAMP301(ClinicalTrials.gov)
SORAYA試験(ClinicalTrials.gov)
Matulonis UA, et al. J Clin Oncol. 2023;41:2436-2445.
MIRASOL試験(ClinicalTrials.gov)
Moore KN, et al. N Engl J Med. 2023;389:2162-2174.
FRα陽性固形がん成人患者を対象とするTAK-853の試験(jRCT)
CYH33-G201試験(ClinicalTrials.gov)
(ケアネット 細田 雅之)