東日本大震災の被災者1,291人を対象としたコホート研究において、発災15年後に14.7%が臨床的に有意な水準の心的外傷後ストレス反応(Posttraumatic Stress Reactions:PTSR)を示し、発災1~2年目にPTSR症状が悪化した群では15年後にPTSRが持続するオッズが約5.3倍高かったことを、東北大学の李 雪氏らが示した。JAMA Network Open誌2026年8月3日号掲載の報告。
長期的なPTSR症状に苦しむ患者を早期に発見して、適切なサポートを届けることは公衆衛生上の大きな課題である。しかし、大規模災害後のPTSRの経過は多様であり、単回の症状評価ではなく症状の変化が長期予後とどう関連するかは十分に解明されていなかった。そこで研究グループは、発災1~2年目の症状変化が15年後のPTSR持続と関連するかを検討するため、前向き縦断コホート研究(2011~25年)を実施した。対象は、東日本大震災で大規模半壊以上の家屋被害認定を受けた宮城県七ヶ浜町の20歳以上の住民のうち、全11回の調査に5回以上回答した1,291人とした。
PTSRは改訂出来事インパクト尺度(IES-R[0~88点、低いほど症状が少ない])で評価し、25点以上を臨床的に有意な水準のPTSRと定義した。発災早期(2011~12年)のIES-Rスコアの推移から、対象者を(1)1年目または2年目に25点未満(早期非持続群)、(2)1年目も2年目も25点以上だが2年目のほうが同等か改善(改善群)、(3)1年目も2年目も25点以上で2年目のほうが悪化(悪化群)の3群に分類した。主要評価項目は15年後のIES-Rスコアが25点以上であることとし、多変量ロジスティック回帰分析を実施した。
主な結果は以下のとおり。
・解析対象1,291人(女性53.1%、平均年齢53.9±16.6歳)のうち、15年後に臨床的に有意な水準のPTSRを示していた割合は14.7%であった。
・IES-Rスコアの上昇は発災早期(1~2年目)に最も頻繁に認められ、15年後のPTSR持続と独立して関連していた。
・早期の症状パターンの内訳は、早期非持続群77.9%、改善群8.5%、悪化群13.6%であった。各群で15年後に臨床的に有意な水準のPTSRを示した割合は、それぞれ8.8%、26.4%、41.1%であった。
・早期非持続群と比較して、悪化群では15年後に臨床的に有意な水準のPTSRを示すオッズが顕著に高かった。調整オッズ比(aOR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。
-悪化群 aOR:5.31、95%CI:3.85~7.32、p<0.001
-改善群 aOR:2.59、95%CI:1.53~4.40、p<0.001
・早期の睡眠障害(aOR:3.24、95%CI:2.17~4.82)および70歳以上(aOR:3.45、95%CI:2.19~5.45)も15年後のPTSR症状持続と独立して関連していた。
・1~2年目の症状動態を組み込んだモデル(AUC:0.756)は、ベースライン時の単回評価(AUC:0.608)や2年目の単回評価(AUC:0.726)のみのモデルと比べ、15年後のPTSRを識別する性能が高かった。
研究グループは、本研究は観察研究のため因果推論は不可能であることや、15年間の追跡率が50.4%で対象者の選択バイアスの可能性があることを限界として提示したうえで、「発災1~2年目の症状の推移は、単回の評価よりも15年後のPTSRの長期的な持続を示す有用な予後情報であった。これらの知見は将来のリスクの層別化およびモニタリング戦略に役立つ可能性を示唆している」とまとめた。
(ケアネット 森)