日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。
今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。
糖尿病では肥満を併存している人が多いが、肥満や食嗜好と社会的要因にはどのような関係があるのであろうか。本稿では、シンポジウム1「肥満合併糖尿病の臨床の最前線」より「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連」をお届けする。
SDOHから考える肥満症診療
肥満と関連する食嗜好や社会的要因にはどのようなものがあるだろう。このテーマについて、「肥満・食嗜好と健康の社会的決定要因との関連~日本人2万例のデータから~」をタイトルに小幡 佳也氏(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学)が日本人2万例の大規模データを解析し、肥満・食嗜好・健康の社会的決定要因(Social determinants of health:SDOH)の関連について調査を行った。
健康は生物学的要因(遺伝、性、年齢など)だけでなく社会経済的状況や教育、居住する地域の社会的・物理的環境などによっても決まる。これらを“SDOH”と言い、多くの疾患との関連が知られている。肥満も例外ではない。肥満は、健康的な食習慣に関する知識不足や努力不足といった個人の自己責任によるものではなく、さまざまな社会的要因によって影響を受けるとされている。しかし、海外からの報告が多い一方で、わが国の大規模研究は少なく、エビデンスは限られている。また、食嗜好のずれや偏りが肥満と関連することが示唆されているが、SODHと食嗜好との関連に関するエビデンスも乏しい。そこで今回、小幡氏らのグループは、日本人において、SDOH・食嗜好・肥満、これらの関係性を明らかにするために横断研究を行った。
研究グループは、20~69歳の2万人に無記名でWEBアンケート調査を実施し、その内容を検討した。食嗜好の評価には、大阪大学で新たに開発した食嗜好質問表(Japan Food Preference Questionnaire:JFPQ)
1)を使用した。これまで日本人に適した食嗜好の評価ツールは限られていたが、JFPQは、日本人になじみのある25食品で構成され、これらを栄養学的根拠に基づき、甘い/甘くない糖質群、甘い/甘くない脂質群、タンパク質群、食物繊維群に分類・スコア化することで、日本人の食嗜好を包括的かつ定量的に評価することができるのが特徴である。スコアが高いほど「嗜好性が高い」と判断される。大阪大学医学部附属病院では、患者にタブレット端末を用いて回答してもらうことで、結果を瞬時にレーダーチャートで表示し、栄養指導の現場などで活用しているという。
対象者は、男性7,417例、女性5,676例で平均年齢は47.6歳。平均BMIは22で、25以上の肥満割合は全体の約20%だった。
主な結果は以下のとおり。
・食嗜好と肥満の関連について、男女ともに、甘くない脂質群の嗜好性が高いほどBMIが高値だった。食品別では、男女ともに脂質群に含まれる食品に加え、甘い糖質群に含まれるソフトドリンクの嗜好性、さらに男性では甘くない糖質群に含まれるそば・うどんの嗜好性が高いほどBMIが高値だった。また、食物繊維群、とくに野菜の嗜好性は低いほどBMIが高値だった。
・SDOHと肥満との関連について、男性では、労働時間が長い、1週間当たりの夜12時以降の就寝回数が多い、学歴が低いことが、それぞれ独立してBMI値25以上と有意に関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多いことに加え、未婚、低所得がBMI値30以上と関連していた。女性では、非就労であることがBMI値25以上と関連し、労働時間が長いことがBMI値30以上と関連していた。また、夜12時以降の就寝回数が多い、中・低所得であること、低学歴であることもそれぞれ独立して肥満と有意に関連していた。
・SDOHと食嗜好との関連について、男性では、肥満と関連した長時間労働、夜12時以降の就寝回数、未婚、低所得は糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、低学歴は食物繊維の嗜好性の低さと有意な関連がみられた。女性では、肥満と関連した長時間労働、低所得が糖質・脂質の嗜好性の高さと有意に関連し、中所得が食物繊維の嗜好性の低さと関連がみられた。
これらの結果から研究グループは、「肥満と関連するさまざまなSDOHが、肥満と関連する食嗜好のずれや偏りとも関連を認められた。このことから、食嗜好は単なる個人の好みではなく社会的要因によっても影響を受けることが示唆され、そのずれや偏りが、肥満の形成に寄与している可能性がある」と結論付けている。
近年では米国糖尿病学会(ADA)や米国心臓協会(AHA)でもSDOHが注目されている一方で、日本糖尿病学会や日本肥満学会におけるSDOHの認知度や注目度は必ずしも高くない。しかし、糖尿病や肥満こそSDOHに注目することが重要である。SDOHを理解することは、一人ひとりの社会背景に応じた診療支援につながり、患者への陰性感情やスティグマの払拭にもつながると考えられる。
おわりに小幡氏は「今回の検討により、肥満と関連する食嗜好(食べたい気持ち)すら、社会的影響を受けていることが示唆された。このような疾患のより上流にあるSDOHをそのままにし、一人ひとりの意志や努力に働きかけるアプローチだけでは限界がある。人々が健康によい行動を取りやすい、支援的な社会環境に変えていくことが必要であり、医療や福祉を超えて、社会全体で取り組む必要がある。糖尿病や肥満の専門家である医師もこの重要性を認識し、日本人におけるさらなるエビデンスの蓄積や、効果的な具体策についての研究が求められる」と語った。
(ケアネット 稲川 進)