アルツハイマー病(AD)の病態に直接作用する抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬であるレカネマブとドナネマブが、日本でも2023~24年にかけて実臨床に導入された。東京都健康長寿医療センター研究所の井原 涼子氏らの研究グループは、日本の国民皆保険制度下におけるこれら薬剤の導入実態と、患者の意思決定要因に関する調査を実施した。その結果、本治療を希望して受診した患者のうち、実際に投与を開始したのは約20%にとどまり、高額療養費制度によって経済的障壁が低い環境下でも、治療適格性や副作用への懸念が大きなハードルとなっている現状が浮き彫りになった。Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring誌オンライン版2026年3月24日号に掲載。
本研究では、2023年12月~2025年5月に東京都健康長寿医療センターを受診した患者のデータを解析した。同センターでは、「もの忘れ外来」「疾患修飾療法(DMT)外来」を設置し、2段階のスクリーニング体制を構築している。(第1段階:「もの忘れ外来」での鑑別・重症度評価[MMSEを含む]、第2段階:「DMT外来」でのインフォームドコンセントとMRIによる禁忌確認、アミロイドPETまたは脳脊髄液検査)。抗Aβ抗体薬による治療を希望して「もの忘れ外来」を受診した456例、および「DMT外来」を受診した312例を対象に、抗Aβ抗体薬治療開始に至った割合と、至らなかった理由を解析した。
主な結果は以下のとおり。
・自ら抗Aβ抗体薬治療を希望して受診した人(「もの忘れ外来」受診者456例)のうち、実際に投与を開始したのは87例(19.1%)であった。
・「DMT外来」受診者312例のうち、自ら抗Aβ抗体薬治療を希望して受診した人は205例、医師の紹介で受診した人は107例であった。そのうち抗Aβ抗体薬治療を開始したのは131例(42.0%)であった。
・「もの忘れ外来」での抗Aβ抗体薬治療の除外理由で最も多かったのは「疾患の進行(中等度以上の認知症)」であった。
・「DMT外来」では、93例が説明後の同意段階で除外された。このうち86.0%は「本人・家族の希望による辞退」であり、主な理由は「副作用(ARIA)への懸念」や「通院負担」であった。
・精密検査の結果、「アミロイド陰性」(44例)や「MRIでの禁忌所見」(33例)により不適格となるケースも多くみられた。
・多変量解析の結果、以下の因子が独立して治療開始率の低さと関連していた。75歳以上(オッズ比:0.25、95%信頼区間:0.15~0.43)、男性(0.56、0.33~0.95)、MMSEスコア27〜30点の軽微な層(0.33、0.18~0.60)。
・75歳以上では副作用への懸念やアミロイド陰性率の高さ、男性ではMRIでの多発微小出血などの禁忌事項に該当する割合が高いことが影響していた。
本研究により、日本独自の「高額療養費制度」によって薬剤費の自己負担が抑えられている環境下でも、非経済的な要因が治療導入の大きな障壁となっている実態が確認された。著者らは、最も効果が期待される「超早期」の患者を適切に治療へつなげるためには、より安全で負担の少ない治療法の開発や、Shared Decision Making(共同意思決定)を支援する体制の構築、さらには早期治療の重要性に関する啓発が必要だと指摘している。
(ケアネット 古賀 公子)