3月4日の「世界肥満デー」に日本糖尿病協会(JADEC)は、都内で「肥満アドボカシー活動」のスタートに関して記者発表会を開催した。このセミナーは、糖尿病発症の重要なリスク因子である肥満を「ダイアベティス(糖尿病)の前段階」と位置付け、厚生労働省などと連携し、就労世代を対象とした全国的な「肥満アドボカシー活動」の開始を表明したもの。同協会では、今回の活動によりダイアベティス予防を社会に広げ、予防の入口から環境を変える取り組みに踏み出す。
肥満の放置は社会経済に悪影響
初めに「『肥満の解消』によるダイアベティスの発症予防の取り組み」をテーマに清野 裕氏(JADEC理事長/関西電力病院 総長)が、わが国の糖尿病、肥満症の実態とJADECが行ったアンケート調査の結果などを説明した。
厚生労働省の調査によると糖尿病の受診率は改善している一方で30・40代では、依然として7割以上が治療を受けていない状況を示した。次にJADECが行ったアンケート「医師・一般消費者・肥満者を対象にした肥満に関する意識調査結果」について触れ、一般消費者の7割、肥満者の9割が「肥満は自己責任」と考えていることを報告した。肥満は「治療が必要」という人が全体で7割以上回答している一方で、保険診療で治療する場合では、一定の回答者には心理的抵抗があるという結果だった。また、他の調査結果でも「体重について気軽に医師に話すことができるか」と患者に聞くと、「気軽に話せる」という人は約20%で、医師側もあまり真剣に取り組んでこなかったということを指摘した。
肥満は、自己管理ができていない、意志が弱いなど個人の責任であるという「体重スティグマ」が、学校や職場などで差別的な評価につながる。医療の世界でも、医療者が一定の偏見をもって患者に診療にあたることで、気軽に医療者と話し合って減量に取り組むということができなくなり、治療への妨げともなる。さらに肥満者は、いろいろな疾患を併発しやすく、放置したままになると、社会全体の経済損失につながるといわれ、将来的に50兆円の損失になると予想されている。
そこで、JADECでは、とくに就労者に焦点を当て厚生労働省、経済団体・関係団体と協調し、医学的・社会的な観点から肥満や肥満症に介入し、肥満者がスティグマで診療萎縮することがないように社会啓発活動を今回展開すると経緯を説明した。
「厚生労働省の栄養・食生活の改善に向けた取り組み 」について丹藤 昌治氏(厚生労働省 健康・生活衛生局健康課 課長)が、厚生労働省の取り組みを説明した。現在、第3次の「健康日本21」が2024年より行われている。そのビジョンは「すべての国民が健やかで、心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」であり、豊かに生活できる持続可能な社会を示し、「誰一人取り残さない健康づくりを推進する」と記している。とくに生活習慣の改善の中で「栄養食生活」を行うことで、適正体重を維持するという目標を提示し、バランスの良い食生活、減塩食などの励行により生活習慣病の発症予防とともに循環器疾患や糖尿病対策を行うものである。具体的には毎年9月に「食生活改善普及運動」を実施し、バランスのよい食事を摂ることをインターネットなどでも啓発している。そのほか「スマート・ライフ・プロジェクトにおける適切な栄養・食生活の普及」という、国民や企業への健康づくりの新しい施策も行われ、「健康寿命をのばそう」を合言葉に国民運動となることを目指す取り組みも行われる。
肥満・肥満症患者に医療者も理解を
「肥満症の成因と病態」について窪田 直人氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 代謝内科学講座 教授)が、肥満症になるメカニズムを説明した。肥満症は生活習慣と遺伝要因の両方の相互作用で成り立っている。とくに20・30代では約7割が遺伝要因であり、その後、環境要因も重なることで肥満が進行する。代謝的に健康な肥満(MHO)と代謝的に不健康な肥満(MUO)を比較すると、脂肪分布、インスリン感受性、アディポカイン分泌などに違いがあることが明らかになってきた。また、MHOはけっして健康ではなく、医療介入の余地があることも最近の研究からわかってきた
1)。そのほか、心血管死亡などの合併症を起こさない肥満はどのような肥満かを研究した結果では、収縮期血圧が<130mmHgかつ降圧薬なし、内臓脂肪蓄積がなく、糖尿病ではない肥満者が比較的合併症を起こしにくいということが判明した
2)。肥満の概念は、BMIが肥満領域にある人を、どう層別化するかということであり、肥満症(MUHO)であってもMHOであっても全員が健康的生活を基盤に据えるべきであり、MHOでも生活習慣を改善することで代謝的健康を維持・補強することができる。その中には、食事療法や運動療法、行動療法に加えて、場合によっては、薬物療法や外科的な治療の選択肢もあると説明を行った。
「ダイアベティス予防からみた肥満へのアプローチ」について門脇 孝氏(虎の門病院 病院長)が、肥満者の合併症で多いダイアベティスからみた肥満の現状について説明を行った。わが国のダイアベティス患者は1,100万人と推定されており、とくにアジア人は欧米人と比べ、軽度肥満や内臓脂肪蓄積で発症しやすいとされている。以前行われたプレダイアベティスに対する生活習慣介入研究である「虎の門スタディー」では、強力介入群は通常介入群と比較して、約1.8kg体重が減少し、ダイアベティス発症が67%抑制されたという結果がある
3)。肥満、肥満症の要因は、先述の説明通り環境と遺伝があるが、自己責任論は大きな誤解と偏見となる。そのような誤解と偏見が「スティグマ」と呼ばれ、社会的偏見による差別へ発展する。肥満のある人と医療スタッフの認知のギャップとそれを埋める必要性に関する調査研究では、多くの肥満者が減量は自己責任と回答する一方で、減量成功の責任は医療スタッフにあると答えている医療スタッフが多かった。また、肥満について患者と医療スタッフの間で話し合わない理由としては、医療スタッフ側に「患者は減量したいという意識に欠ける」「患者が減量できるとは思えない」「患者は減量には関心がない」の回答数が肥満患者の回答数よりも多く、医療スタッフでも社会的偏見があることがわかった。こうした結果からオベシティ・スティグマ(肥満への偏見)に終止符を打つことを目指す合同国際コンセンサスステートメント「肥満への認識」「差別への非難」「肥満患者などへの敬意を持ち、治療を支援すること」などが策定された。また、JADECでは「肥満・肥満症のある人に関するスティグマを解消するアドボカシー活動の提案」として、肥満・肥満症患者が置かれている現状を認識し、正しい診療の認識などを啓発するとしている。わが国では中高年までのダイアベティスでは肥満対策が喫緊の課題となっているほか、肥満のある人の割合は、成人男性で増加しており、肥満の解消はダイアベティスはじめ慢性疾患の発症を予防すると説明を行った。
最後に就労している肥満症患者の声として、患者自身の診療経験や体重減少後の効果が語られ、「肥満は単なる自己責任ではなく、生活や環境、体の状態が影響するものだと身をもって感じた。そして、医療のサポートを受けながら取り組めば体はきちんと応えてくれるということも実感した。今、肥満治療をためらっている方がいれば1人で抱え込まず医師に相談してほしい」と思いを述べた。
(ケアネット 稲川 進)