ピロリ除菌後の胃がんリスク~日本の大規模コホート

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2025/07/14

 

 Helicobacter pyloriH. pylori)感染は胃がんの主要なリスク因子である。わが国では2013年からH. pylori関連胃炎に対する除菌治療が保険適用に追加されたものの、2023年のがん死亡原因で胃がんが第4位であり、胃がん罹患率は依然として高い。今回、自治医科大学の菅野 健太郎氏らは、H. pylori関連胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃潰瘍および十二指腸潰瘍の患者におけるH. pylori除菌後の胃がんリスクの違いを大規模後ろ向きコホートで調査した。その結果、H. pylori関連胃炎と胃潰瘍の患者は十二指腸潰瘍患者よりも胃がんリスクが高く、H. pylori除菌後も胃萎縮が胃がんリスク因子として残ることが示唆された。BMC Gastroenterology誌2025年7月1日号に掲載。

 本研究は、約1,700万人の保険請求データベースであるJMDC Claims Databaseを用いた大規模後ろ向きコホート研究である。2013年2月21日~2023年8月31日に、抗菌薬2種類(アモキシシリン+クラリスロマイシン)と酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)、もしくは3剤配合のブリスターパック製剤でH. pyloriの1次除菌を受け、その処方初日と同月または前月にH. pylori関連胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍と診断されていた患者を対象とした。主要評価項目は胃がん発症率、副次評価項目は追跡期間中央値における胃がん罹患の累積確率とした。ハザード比(HR)はCox比例ハザード回帰分析で推定し、交絡の影響を最小化するために傾向スコアマッチングを行った。

 主な結果は以下のとおり。

・本研究には14万8,489例が組み入れられた。
・重み付けコホート(傾向スコアマッチング後)において、H. pylori関連胃炎の十二指腸潰瘍に対するHRは2.03(95%信頼区間[CI]:1.31~3.13、p=0.001)、胃潰瘍の十二指腸潰瘍に対するHRは2.37(95%CI:1.52~3.71、p<0.001)といずれも有意差がみられた。
・重み付けコホートでの追跡期間中央値(いずれも3.8年)における胃がん罹患の累積確率は、H. pylori関連胃炎患者が0.44%(95%CI:0.39~0.48)、胃潰瘍患者が0.54%(同:0.46~0.63)、十二指腸潰瘍患者が0.22%(同:0.10~0.33)、胃潰瘍および十二指腸潰瘍患者が0.26%(同:0.08~0.50)であった。

 今回の結果から、著者らは「高リスク患者では、H. pylori除菌成功後も内視鏡検査などの慎重なモニタリングが必要」としている。

(ケアネット 金沢 浩子)