心筋を微小組織にして移植、iPS細胞による新たな心不全治療とは/日本循環器学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/03/18

 

 再生医療において、ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞 (hiPSC-CM)を用いた心臓修復の臨床応用は、心筋細胞(CM)の生着不良や移植後の不整脈に苛まれ難航してきた。だが今回、第88回日本循環器学会学術集会『iPS由来再生心筋細胞移植治験の初期成績から見た虚血性重症心不全治療へのインパクト』において、福田 恵一氏(Heartseed社/慶應義塾大学 名誉教授)らは、他家iPS細胞由来の純化精製心筋細胞微小組織(hiPSC-CS)を開発し、心筋層に直接注入することで、梗塞部位周辺の心筋の再生に成功したことを報告した。なお、本発表は非臨床試験および現在進行中の第I/II相LAPiS試験の中間報告である。

鍵は「心筋を球にして注入、心筋と同化させる」

 心筋細胞は骨格筋細胞と異なり幹細胞が存在しないため、一旦壊死してしまうと不可逆的に細胞数は減少の一途を辿る。これにより心臓では収縮不全(心不全の進行)が生じる。これに対し、福田氏らは“心筋残存部位へ生理的肥大を起こすとされるiPS細胞由来心筋細胞を移植することで、梗塞部位が補われ、心機能の回復につながる”という仮説を立て、虚血性心不全に伴う心筋壊死や喪失による心筋不足を改善するため、まず2つの非臨床試験を実施。カニクイザルにヒトの再生心室筋細胞(純度の高い心室筋)を移植し、有効性・安全性を実証した。

 試験に用いられた細胞は、生着率を高めるために心筋細胞を1,000個程度の塊に作製した「心筋球」1)と呼ばれるもので、非臨床試験では1匹当たり6,000万個を移植した。

 本試験の有効性について、「移植細胞がレシピエントの心室筋細胞と連結し、それと同様に介在板を介して長軸方向に整列、生着していることが確認された。また、移植細胞も既存の細胞と同じリズムで同期して動いていることを確認した。そして、投与後3ヵ月後には心筋球が4倍程度となり約10%の左室駆出率(LVEF)を改善させることができた」と説明した。一方の安全性については「移植後7~14日目に心室頻拍が観察された。しかし、不整脈が出現することはほかのグループが行った単離心筋移植法による試験からも想定済みであった。それと比べると、今回の発生は移植早期で、心臓専門医が日常臨床で対応できる範囲の不整脈であった」と述べた。

後側・側壁に渡る広範囲の梗塞がみられた症例も回復

 続いて、市原 有起氏(東京女子医科大学 心臓血管外科学分野)、藤原 立樹氏(東京医科歯科大学 心臓血管外科)が第I/II相LAPiS試験における各自の治験症例を報告した。

<治験概要>

●対象者:虚血性心疾患に起因する重症心不全で、既存の内科的/外科的標準治療を行うも効果無効患者
●方法:他家iPS細胞由来心筋球を冠動脈バイパス術(CABG)時に左室(セグメント分割した前壁、側壁、後壁、下壁)に対し、3本の針がセットになったデバイス全15回を移植した。非盲検で低用量5例(0.5億個)、高用量5例(1.5億個)を予定している。移植治験組み入れの主な基準は、CABG予定の虚血性心不全患者、LVEF 15~40%、NYHA分類II度以上。移植後の免疫抑制薬としてステロイド、MMF(ミコフェノール酸モフェチル)、タクロリムスを投与し、26週以降はタクロリムスを継続した。
●主要評価項目:投与26週後の安全性
●主な有効性指標:心収縮機能(LVEF、左室内径短縮率[FS])、心筋壁運動、生存心筋量など

 現時点で低用量4例の移植が終了している。市原氏の症例では、移植6ヵ月後のGlobal longitudinal strain(GLS)解析から、左室リバースリモデリングと心機能の著明な改善が認められ(左室拡張末期容積[LVEDV]:430→289mL、左室収縮終期容積[LVESV]:297→189mL、LVEF:31→35%)、左心室を16セグメントに分割して心筋スペックルトラッキングの変化を観察したが、このうち心筋細胞を移植した9セグメント中7セグメントで心筋収縮の改善が観察された。1例目、2例目とも心筋移植部位の改善が観察されたことから、市原氏は「血行再建術と心筋細胞移植の併用療法は心機能改善の新たな治療法になりうる。移植による免疫抑制薬のコントロールも内科が上手く対応してくれ、問題なかった。内科・外科が協調して心不全のトータルマネジメントを行うことが重要」とコメントした。

 続いて、藤原氏が携わった症例においては、心筋移植部位7セグメント中5セグメントで改善が観察された。その一方で、僧帽弁閉鎖不全症の悪化もあり、残念ながら非移植部位での壁運動の低下が顕著であったため、全体では心機能が低下していた。これについて、「患者は心不全ステージ分類でいうと、ステージCからDに移行する段階であり、本治療を行わなければ、身体機能の低下が免れることはできなかったと思われる。しかし、心筋細胞移植により術前ADLの維持ができたことはよかった。免疫抑制薬の問題もなかった。今後の検討課題として、部位別の収縮度の改善効果が移植回数に比例していたことを踏まえ、心筋細胞の移植量と移植部位の検討が重要になると思われる」と話した。

 最後に福田氏は「世界初の治験であることから、当初は参加者から(本治験の)同意が得られにくかった。この治験ではバイパス手術との併用を行ったが、今後は移植単独の投与も検討したい。本治験から得られた課題である“移植部位・投与方法”の在り方などと併せて、一歩一歩科学的に進めていきたい」と締めくくった。

(ケアネット 土井 舞子)