機能性ディスペプシア、食物を見るだけで脳の負担に/川崎医大

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2023/08/16

 

 全人口の約10%が、機能性ディスペプシア(FD)や過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩まされているとされ、不登校や休職など日常生活に支障を来すケースも多い。また、血液検査や内視鏡検査、CT検査などで異常が見つからず、病気であることが客観的に示されないために、周囲の人に苦しみが理解されにくいといった問題がある。精神的ストレスや脂肪分の多い食事が原因とされるものの、メカニズムの解明は進んでおらず、客観的診断法は確立されていない。そこで、川崎医科大学健康管理学教室の勝又 諒氏らは、FD患者、IBS患者に40枚の食物の画像を見せ、食物の嗜好性や脳血流の変化を調べた。その結果、FD患者は健康成人やIBS患者と比較して、脂肪分の多い食物を好まなかった。また、FD患者は、食物を見たときに左背側前頭前野の活動が亢進していた。本研究結果は、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2023年8月12日号で報告された。

 FD患者(13例)、IBS患者(12例)、健康成人(16例)に、脂肪分の多い(こってりした)食物、脂肪分の少ない(あっさりした)食物、その中間の食物の画像を計40枚、7秒ずつ見せ、表示された食物に対する嗜好性を0~100点で評価させた。また、測定場所を選ばず容易に脳活動が測定でき、導入コストもMRIに比べて低い機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて、脳血流測定も実施した。

 主な結果は以下のとおり。

・全体の食物に対する嗜好性(平均値±標準偏差[SD])は、健康成人群69.1±3.3点であったのに対し、FD群54.8±3.8点、IBS群62.8±3.7点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。
・脂肪分の多い(こってりした)食物に対する嗜好性(平均値±SD)は、健康成人群78.1±5.4点であったのに対し、FD群43.4±6.3点、IBS群64.7±6.1点であり、FD群は健康成人群と比較して有意に嗜好性が低かった(p<0.05)。脂肪分の少ない(あっさりした)食物、中間の食物については、3群間に有意差は認められなかった。
・FD群は健康成人群およびIBS群と比較して、食物の画像を見たときに左背側前頭前野の脳活動が有意に亢進していた(平均Zスコア:健康成人群-0.077点、FD群0.125点、IBS群-0.002点、p<0.001)。

 著者らは、本研究結果について「FD患者は脂肪分の多い食物を食べるとすぐに症状が誘発されることから、脂肪分の多い食物に対する苦手意識が生じていると考えられる。また、とくに左背側前頭前野で血流量が増加したことから、特定の食事後に腹痛を何度も経験したことで、どの食物の画像を見てもストレスを感じるようになったことが推定される」と考察している。また、今後の展望として「FD患者の脳には負担がかかっていることが広く認知されることで、これまで客観的な指標がなく、その苦しみが周囲に理解されにくかったFD患者が生きやすい環境作りに役立つことが期待される。さらに、食物の画像を見せ、脳血流を測定する客観的かつ簡便な方法は、臨床現場でFD患者を見分ける新たな診断法の開発につながることも期待される」とまとめた。

(ケアネット 佐藤 亮)