SGLT2阻害で腎結石の形成抑制~日本人疫学データ、動物・細胞培養実験より

阿南 剛氏(東北医科薬科大学医学部泌尿器科学/現:四谷メディカルキューブ 泌尿器科科長)と廣瀬 卓男氏(東北大学医学部内分泌応用医科学/東北医科薬科大学医学部)、菊池 大輔氏(東北医科薬科大学病院薬剤部)らの研究グループは、疫学研究よりナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は日本の男性糖尿病患者での尿路結石の罹患割合の減少と関連していたことを確認し、動物実験などからSGLT2阻害が腎結石の形成抑制につながることを明らかにした。このことから、SGLT2阻害薬が腎結石に対する有望な治療アプローチになる可能性を示した。本研究はPharmacological Research誌オンライン版10月28日号に掲載された。
糖尿病治療薬として上市されたSGLT2阻害薬には利尿作用と抗炎症作用があり、腎結石を予防する可能性も有している。そこで、研究者らは「大規模な疫学的データ」「動物モデル」「細胞培養実験」の3つを使用して、SGLT2阻害の腎結石に対する可能性を調査した。
研究に用いられた疫学データはメディカル・データ・ビジョン株式会社の保有する医療ビックデータが活用され、2020年1月1日~12月31日までの期間に収集された糖尿病患者データ(約153万例)をSGLT2阻害薬の処方状況などで区分した。また、動物実験ではSDラットの腎臓にシュウ酸カルシウム結石をエチレングリコールで誘発させ、in vitroの細胞培養ではヒト近位尿細管上皮細胞のHK-2(CRL-2190)を用い、腎結石形成に対するSGLT2阻害効果を評価した。
主な結果は以下のとおり。
・153万8,198例のうち、男性は90万9,628例、女性は62万8,570例だった。そのうちSGLT2阻害薬を服用していたのは、男性が10万5,433例、女性が5万2,637例だった。
・糖尿病患者のうち、男性の尿路結石の有病率はSGLT2阻害薬処方群のほうがSGLT2阻害薬非処方群よりも有意に低く、オッズ比(OR)は0.89(95%信頼区間[CI]:0.86~0.94、p<0.001)だった。
・フロリジン(SGLT1/2阻害薬)はシュウ酸カルシウム結石モデルラットにおいて腎結石形成を軽減し、ラットでの腎障害マーカーのKIM1、炎症マーカーのオステオポンチン(OPN)、線維化マーカーのTGFB1の発現を抑制した。ラットの水分摂取量と尿量に変化は見られなかった。これは利尿作用ではなく抗炎症作用により腎結石形成を抑制したことを示した。
・次に、フロリジンがSGLT1/2阻害薬だったので、SGLT2阻害の特異的作用を検討するため、SGLT2ノックアウトマウスにグリオキシル酸投与によるシュウ酸カルシウム結石モデル実験を行ったところ、先の研究結果と同じように、炎症マーカーのOPN、線維化マーカーのTGFB1の発現の低下と腎結石形成が抑制された。
・次に、ヒト近位尿細管培養細胞を使用した実験を行ったところ、先の動物実験の結果と同様に、SGLT2 阻害によりシュウ酸カルシウム結晶接着量の低下ならびに OPN を含む結石形成や炎症に関わる遺伝子発現の有意な低下を認めた。
阿南氏らは「SGLT2阻害の抗炎症作用により腎結石形成を抑制した。これはSGLT2阻害が近位尿細管でのグルコース取り込みを抑制することで、OPNとTGFB1発現を低下させ抗炎症作用により腎結石形成抑制ならびに腎線維化抑制につながっていると考えた。よって、SGLT2阻害薬の使用は、腎結石に対する有望な治療アプローチになる可能性がある」と結んでいる。
(ケアネット 土井 舞子)
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