診断基準への採用を目指す!新たな変形性膝関節症予後リスク判定デバイスとは

提供元:ケアネット

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公開日:2021/11/25

 

 10月29日にWeb開催された日本抗加齢協会主催『第3回ヘルスケアベンチャー大賞』において、変形性膝関節症(以下、膝OA)の進行予後を推定するウェアラブルデバイスを開発した、株式会社iMUが大賞に選ばれた。

 同社は慶應義塾大学医学部発のヘルスケアスタート・アップであり、受賞に結び付いた製品は、変形性膝関節症の進行予後リスクが5m歩くだけで見える化できるウェアラブルデバイスだ。既存製品で90分を要した計測時間はわずか5分に短縮され、医師・患者の双方にメリットのある製品開発に成功した。
*:ベンチャー企業は既存ビジネスをスケール化したり中長期的に課題解決に取り組む。一方、スタート・アップは革新的なアイデアや独自性で新たな価値を生み出し、社会にインパクトを与える企業のこと。

KAMを変形性膝関節症の国際基準へ導くことを目標

「KAMという指標を変形性膝関節症の国際診断基準へ導く」ことを目標に掲げ、開発の起爆剤としているという名倉氏。彼らの原点は、医師、患者どちらにも痛みになっている変形性膝関節症診断のあいまいさを払拭させることだという。“KAM”(膝内反モーメント=膝の力学的負荷)とはラテラルスラスト**(以下、スラスト現象)を定量化したもので、変形性膝関節症の進行予測・治療効果判定に有用と考えられている。現時点で1,000以上もの論文報告がされ、変形性膝関節症の予後予測の精度はおおよそ感度90%、特異度85%と、世界から脚光を浴びるデジタルバイオマーカーだ。
**:歩行時の立脚中期に特徴的に観察される膝関節の横ぶれ

 そもそも、変形性膝関節症の診断基準は“KLグレード分類”が1957年に確立された後、現代までそれが継承され続けてきた。すなわち、現在まで新たな診断基準の確立には至っておらず、2016年に変形性膝関節症のガイドラインが改訂されてもなお、「“痛み+診断所見”のみというアナログな診断方法が用いられている」と名倉氏は説明。また、変形性膝関節症の治療戦略には保存療法から人工関節置換手術まで幅広い治療が存在するが、これらを選択するにも診断マーカーがないため医師の裁量にかかっているのが現状だという。そこで同氏らはKAMに注目し開発を推し進めてきた。

変形性膝関節症の予後予測しながらの治療が実現!

 これまでは、モーションキャプチャーを利用してKAMの計測を行っていたが、KAMを算出するまでに90分、結果報告を当日にできないというデメリットがあった。これらを解決したのが、同氏らの開発したiMU ver.1というウェアラブルデバイスによるKAM推定技術だ。加速度センサーとAIを組み合わせたことで、いつでもどこでも測定ができ、既存製品と比べ算出時間も大幅に短縮、さらに低コスト化も実現可能だ。これについて同氏は「スラスト現象に注目し、そこに加速度センサーを用いたからこそ実現できた」とコメントした。

 このデバイスを使ってKAMを測定した場合、KAMが閾値未満であればマイルドな治療で経過観察と診断、一方でKAMが閾値以上なら変形性膝関節症の進行リスクが高く積極的な介入治療が必要と診断できる。これについて、「医者・患者の意識変革をもたらし、プレシジョンメディシンの実践に有用」と話した。

KAM推定技術で変形性膝関節症の予後予測ができるメリット

 本デバイスは医療機器として販売準備中で、現在、整形外科クリニック3施設においてプロトタイプを用いたヒアリングなどを行っている。2022年春に初期モデルの発売を目指し、最終調整に入っている。実証実験に参加している医師は「保険点数うんぬんよりも患者の治療モチベーション向上や受診機会を増やせる点がメリットにほかならない」とコメントを寄せた。

 潜在患者が多い変形性膝関節症の領域において、KAM推定技術で予後予測ができるメリットは患者にも医師にも朗報であり、来春の発売に期待が高まりそうだ。

<会社情報>
株式会社iMU
創業:2020年2月
ホームページ:https://www.imujapan.com/

 このほか、各受賞者は以下のとおり。
―――

・ヘルスケアベンチャー大賞(企業)

iMU株式会社「ウェアラブルセンサーによる膝痛対策ツールの開発」

・学会賞(企業)

ペリオセラピア株式会社「化学療法抵抗性トリプルネガティブ乳癌への新規治療法の開発」

・ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞(企業)

あっと株式会社「非侵襲指先皮下毛細血管スコープによるCapillary Function Index!」
株式会社サイキンソー「腸内フローラからアプローチするスマート生活習慣病対策事業」
株式会社トニジ「緑内障患者向け家庭用自己測定眼圧計の開発・事業化」

・最優秀アイデア賞(個人)

首藤 剛氏(熊本大学大学院生命科学研究部遺伝子機能応用学講座 准教授)
「Cエレガンスを用いた健康寿命の指標化で挑む 新(ネオ)LIFESPAN革命!!」

・アイデア賞(個人)

藤本 千里氏(東京大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野)
「ノイズ前庭電気刺激によるバランス改善治療」
山下 積穂氏(つみのり内科クリニック)
「人生100年時代の健康づくりを学ぶりんご教室」
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 年々、応募レベルが高くなっているヘルスケアベンチャー大賞。この賞はアンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。コロナ禍でありながら、設立間もない企業のみならず医師個人など多数の応募者が切磋琢磨し、書類審査、1次審査、最終審査の3段階で評価され表彰された。

(ケアネット 土井 舞子)