高齢者がCOVID-19に感染する場所と感染対策/感染研

提供元:ケアネット

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公開日:2021/10/07

 

 国立感染症研究所実地疫学研究センターは、9月29日に同研究所のウェブサイト上で「高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案」を発表した。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波はピークアウトし、全国的に緊急事態宣言も解除され、今後秋祭りなどの行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されている。「とくに多くの高齢者は、新型コロナワクチンの接種も進んでいるが、高齢者が集った場合に発生したCOVID-19のクラスター事例を再度振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたい」と同研究所は提案の目的を示している。

<これまでに得られた主な所見>
・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動など、が知られていた。
・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売など)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。
・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。
・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた
・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、とくに飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。
・説明会などにおける講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。
・とくに扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。
・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。
・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。

<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて>
 高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されている。本ガイドラインは、「感染防止のための基本的な考え方」の中で、いわゆる3つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及している。具体的には、イベント・講座などの実施で講じるべき具体的対策、公民館における公演などの開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1m(出来れば2m)確保する、入館時に検温する、直接手で触れることができる展示物などは展示しない、トイレの管理などの注意点が分かりやすく列挙されている。

 以上を踏まえ、同研究所は、「利用者自身が注意すべき事項」「従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項」「施設の換気に関する注意点」の3つに大別して注意事項を説明している。

◯利用者に対して
・屋内で複数の者が集まる機会では密集・密接になる場面を避けることを徹底する。具体的には、良好な換気への対策が十分に行われているイベントに参加することを心がける。マスク着用は必須である。イベント終了後の談笑や長時間の利用を避けることが必要。また、対人距離は最低1m(できるだけ2m)を確保する。座席の配置についても同様。高齢者では耳が聞こえにくい、見にくいなどで距離を保てない状況からどうしても近い距離の接触となりがちではあるが、適切なマスク着用をさらに徹底し、参加は短時間に留めるなどの工夫を行う。
・試飲や試食を伴う屋内のイベントへは、できる限り参加を控える。参加する場合、マスクを外す時間を短時間に留め、その間は会話しない。適切なアルコール消毒剤を用いた手指衛生を適切に行う。

◯運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して
・従業員は施設内感染拡大の要因となり得ることから感染予防ができるように指導を徹底する。
・具体的には従来通りの基本として、適切なマスク着用、手指衛生、換気を徹底する。
・説明会や講演会の開催にあたっては、運営者・主催者は、屋内で、長時間に渡り、参加者が集まってしまうことを避け、屋外での開催やオンラインを組み入れたイベントとなるように工夫する。換気が十分に実施できる環境の整備を行う。

◯換気を十分に実施する具体的方法(林 基哉氏[北海道大学]による補足)
・機械換気設備がある場合には、施設使用時には常時運転する。
・寒さや暑さに配慮しながら、窓とドアをなるべく常時開放して、部屋の空気がこもらないようにする(暖冷房の利用や着衣に配慮しながら、より換気を確保する)。
・扇風機、サーキュレーターなどで、屋内の空気を動かして空気の淀みを少なくする。
・とくに換気が十分ではない場合、滞在時間を最小限にすることが望ましい。
・二酸化炭素濃度の測定機器(CO2センサー)を利用して、換気の確認を行うことができる。

杜撰な感染対策下では再度感染する恐れも

 本提案では、最後に2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む中での医療機関や高齢者施設における、いわゆる「ブレークスルー感染事例」やワクチンの有効性について触れ、「『適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない』などの杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらす」と警鐘を鳴らすとともに、「高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題」と問題を提起している。

 また、「屋外においても3つのうち1つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されている。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められる」とさらなる注意を促している。

(ケアネット 稲川 進)