エンパグリフロジン、2型DM合併問わずHFrEFに有効/ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニー

提供元:ケアネット

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公開日:2020/08/18

 

 ドイツ・ベーリンガーインゲルハイムと米国・イーライリリー・アンド・カンパニーは、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)を2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者に使用した“EMPEROR-Reduced試験”で、主要評価項目が達成されたと発表した。

 心不全は、欧米の入院の主たる原因であり、アジアの患者数も増加している。世界中に6,000万人の患者がいると推定され、人口の高齢化が進むにつれ患者数が増加すると予測されている。今回の試験対象となったHFrEFは、心筋が効果的に収縮せず、正常に機能している心臓と比較し、身体に送り出される血液が少なくなる状態。呼吸困難や疲労感などの心不全に関連した症状は、生活の質(QOL)に影響する。

3,730例を対象に心血管死、心不全による入院を評価

 EMPEROR試験は、慢性心不全の患者を対象にしたエンパグリフロジンのアウトカム試験で、現在心不全の標準治療を受けている2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者またはHFrEF患者を対象に行われている。

 試験では、エンパグリフロジンの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する“EMPEROR-Reduced試験”と“EMPEROR-Preserved試験”が行われている。

 今回報告されたEMPEROR-Reduced試験では、HFrEF患者の判定心血管死または判定HHF(心不全による入院)の最初の事象までの時間を主要評価項目に、3,730例を対象に行われた(EMPEROR-Preserved試験は、HFpEF患者での判定心血管死または判定HHFの最初の事象までの時間を主要評価に、約5,900例を対象に実施中)。

 報告された内容では、標準治療にエンパグリフロジン10mgを上乗せすることで、心血管死または心不全による入院のリスクがプラセボに比べ有意に低下し、主要評価項目を達成した。また、本試験における安全性プロファイルは、エンパグリフロジンのこれまでの安全性プロファイルと同様だった。本試験の詳細は、2020年8月29日の欧州心臓病学会(ESC)で発表される予定。

 同社では、EMPEROR-Reduced試験の結果を受けて「エンパグリフロジンが心不全のアウトカムを改善することが示された。今後も心不全患者の生命予後を改善するか引き続き研究する」と抱負を寄せている。

エンパグリフロジンの概要

 エンパグリフロジンは、1日1回経口投与のSGLT2阻害薬であり、心血管死のリスク減少に関するデータが複数の国の添付文書に記載された初めての2型糖尿病治療薬。血糖値が高い2型糖尿病患者にエンパグリフロジンを投与し、SGLT2を阻害することで、過剰な糖を尿中に排出させ、さらに塩分(ナトリウム)を体外に排出、循環血漿量を低下させる。エンパグリフロジンによる体内の糖・塩分・水の代謝変化が、心血管死の減少に寄与する可能性が示唆されている(EMPA-REGOUTCOME試験)。なお、本剤はわが国では、効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果、慢性心不全の適応は取得していない。

(ケアネット 稲川 進)