世界初のRNAi治療の最前線

提供元:ケアネット

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公開日:2019/10/09

 

 2019年9月13日、Alnylam Japan(アルナイラム・ジャパン)株式会社は、9月9日にトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬「オンパットロ点滴静注 2mg/mL」(一般名:パチシランナトリウム)を発売したことに寄せ、都内でメディアセミナーを開催した。

 パチシランナトリウムは、日本国内における初のRNAi(RNA interference:RNA干渉)治療薬*であり、同社が国内で上市・販売する最初の製品。
*mRNAを分解し、特定のタンパク質の産生を阻害する薬剤。この働きを応用した治療薬製品化は本薬が世界で最初となる。

パチシランナトリウムほかRNAi技術の応用でアンメット・メディカル・ニーズに応える

 はじめに同社代表取締役社長の中邑 昌子氏が「RNAi技術の応用による医薬品開発の展望」をテーマに、同社の関わりと今後の治療薬開発を説明した。RNAi治療薬は、生体内にもともと備わっている遺伝子発現抑制を応用した新しい治療薬で、そのベースは2006年のノーベル生理学・医学賞を受賞した研究である。

 「最初の製品であるパチシランナトリウムをはじめ、今後は、遺伝性疾患、感染症、中枢神経系疾患、悪性腫瘍などの領域をターゲットに、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患に焦点を当て開発していく」と中邑氏は展望を語った。

パチシランナトリウムの標的疾患である家族性アミロイドポリニューロパチーの症状

 続いて、「21世紀の疾患、アミロイドーシス~治す神経内科の実践~」をテーマに安東 由喜雄氏(長崎国際大学薬学部アミロイドーシス病態解析学分野 教授、熊本大学 名誉教授)を講師に迎え、講演会が行われた。

 トランスサイレチン(TTR)は、主に肝臓、網膜で産生され、変異型TTRがアミロイドを形成すると家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)の原因となるほか、野生型(非遺伝性)ATTRがアミロイドを形成すると老人性全身性アミロイドーシス(SSA)の原因となることが知られている。今回はパチシランナトリウムの標的疾患であるFAPに的を絞り、説明を行った。

 FAPは、先述のように遺伝性全身性アミロイドーシスの代表であり、従来わが国では熊本と長野(海外ではスウェーデンとポルトガル)で多くの患者が報告されてきた。しかし、疾患概念の拡大と検査技術の進歩により、現在では全国で患者が報告される疾患となった。

 おもな臨床症状として浮腫、不整脈などの心症状、ドライアイ、緑内障などの眼症状、たちくらみ、下痢、悪心などの自律神経障害と消化器症状、たんぱく尿などの腎障害、手根管症候群などの整形外科的症状、下肢優位のしびれ、四肢の疼痛などの末梢神経障害、排尿障害などの泌尿器症状など全身に多彩な症状を呈する。とくに心症状は死亡につながるため、注意が必要だという。

 診断では、一般的な診断のほか、遺伝子診断、血清診断が行われ、FAPでは細い神経から障害されていくため、アミロイド沈着の証明と小径線維障害と臓器障害をいかに早く証明するかが重要とされている。また、安東同氏が所属する熊本大学病院アミロイドーシス診療センターでは、国内外より依頼・相談された症例に対し、病理診断などを実施。累計で約3,400例の依頼を受け、FAPと診断された患者数は159例にのぼるとその成果を示した。

パチシランナトリウムはアミロイドの発現を抑制する画期的なRNAi治療薬

 FAPの治療では、1990年にスウェーデンで本疾患に対する肝移植療法が行われ、2000年代にはTTR四量体の安定化剤であるタファミジスが登場し、進行抑制に寄与している。しかし、一部の症例では肝移植後も眼や中枢で変異型TTRが産生され、重篤な症状を引き起こすこともある。また、タファミジスの効果は進行抑制であることから、次の一手となる治療薬が望まれてきたという。

 RNAi治療薬のパチシランナトリウムは、肝臓でTTR mRNAを分解し、アミロイドの発現を抑制する効果をもつ、従来にない機序の治療薬であり、原因抑制という効果の点で画期的な治療薬であるという。安東氏は、「とくに肝臓移植ができない患者に治療を広げることができる」と期待をにじませた。また、「RNAi治療薬に代表されるアミロイドブレイカー候補薬も引き続き開発・研究されていて、アミロイドそのものを壊す治療法の研究も待たれる」と研究の現状を語った。

 最後に安東氏は、「アミロイド研究のトレンドが、TTR アミロイドーシスに変わってきて、期待が膨らんでいる。今後は、病態解析学講座などを立ち上げ、さらにアミロイドーシスの解決に向けて研究を行っていきたい」と抱負を述べ、講演を終えた。

(ケアネット 稲川 進)

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