気泡音の聴取だけでは不確実? 胃管挿入の事故防止~医療安全調査機構

提供元:ケアネット

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公開日:2018/10/10

 

 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は、栄養剤投与目的に行われる胃管挿入による事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第6号)を公表した(9月25日)。胃管を用いた経鼻経管栄養は、本来侵襲が少なく、かつ簡便なために多くの症例に施行される。しかし、稀にではあるが、死亡事例の発生が報告されている。事故の発生を未然に防ぐため、誤挿入のリスク要因や挿入時の位置確認方法、合併症回避のための具体的対応などについて、以下の6つの提言が示された。

提言1(胃管挿入のリスク):胃管挿入において、嚥下障害、意思疎通困難、身体変形、挿入困難歴などがある患者は誤挿入のリスクが高いことを認識する。

提言2(胃管挿入手技):誤挿入のリスクが高い患者や挿入に難渋する患者では、可能な限りX線透視や喉頭鏡、喉頭内視鏡で観察しながら実施する。

提言3(胃管挿入時の位置確認):気泡音の聴取は胃内に挿入されていることを確認する確実な方法ではない。胃管挿入時の位置確認は、X線やpH測定を含めた複数の方法で行う。特にスタイレット付きの胃管を使用するなど穿孔リスクの高い手技を行った場合は、X 線造影で胃管の先端位置を確認することが望ましい。

提言4(胃管挿入後の初回投与):胃管挿入後は重篤な合併症を回避するため、初回は日中に水(50~100mL程度)を投与する。

提言5(水の投与以降の観察):投与開始以降は誤挿入を早期発見するため、頻呼吸・咳嗽など呼吸状態の変化、分泌物の増加、呼吸音の変化、SpO2低下などを観察する。特に誤挿入のリスクが高い患者は SpO2のモニタリングを行うことが望ましい。

提言6(院内体制・教育):胃管挿入は重篤な合併症を起こしうる手技であるということを周知し、栄養状態や胃管の適応に関する定期的評価、胃管挿入に関する具体的な方法について、院内の取り決めを策定する。

 この提言は、医療事故調査制度のもと収集した院内調査結果報告書を整理・分析し、再発防止策としてまとめているもの。これまでに「中心静脈穿刺合併症(第1号)」や「注射剤によるアナフィラキシー(第3号)」などが公表されている。

 今回の第6号では、同制度開始の2015年10月から2018年5月までの約2年半の間に、同機構に提出された院内調査結果報告書697件のうち、「胃管挿入に関連する死亡事例」として報告された6事例を分析。6事例はいずれも、栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に関連した死亡事例、および胃管挿入に関連した死亡が否定できない事例であった(いずれも成人、60歳以上)。本提言は“死亡に至ることを回避する”という視点で、同様の事象の再発防止を目的としてまとめられている。

 下記サイトでは、位置確認法別のメリット・デメリットや胃管挿入時の体位の工夫など、より詳しい内容をまとめた報告書のほか、嚥下のメカニズムと胃管挿入のポイントの解説動画や、位置確認についての漫画も閲覧できる。

■参考
日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言 第6号

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(ケアネット 遊佐 なつみ)