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1.

複数ドナー由来の細胞製剤追加で臍帯血移植に有望な結果

 白血病などの血液悪性腫瘍の患者に対する臍帯血移植で、通常の単一臍帯血移植に加えて、複数ドナー由来の臍帯血を用いて製造された細胞製剤を追加投与する方法が有効である可能性が、臨床試験で示された。小規模な患者集団において、通常の臍帯血製剤の投与後にこのような幹細胞製剤を投与したところ、ほとんどの患者で重度の移植片対宿主病(GVHD)は認められず、28人中27人が少なくとも1年間生存したことが確認されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの臍帯血プログラム部門長のFilippo Milano氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に4月27日掲載された。Milano氏は、「移植患者が実質的に9人の異なるドナー由来の細胞の移植を受けたのは、これが初めてだ」とニュースリリースで述べている。 臍帯血移植は、幹細胞移植を必要とする血液がんやその他の血液疾患患者に対する治療選択肢の一つである。幹細胞移植とは、造血機能を再構築する治療法である。臍帯血に含まれる幹細胞は、白血球の型(HLA〔ヒト白血球抗原〕)が完全に一致していなくても比較的安全に実施できるため、適合するドナーが見つからない患者にとって有力な選択肢となる。ただ、単一の臍帯血ユニットでは含まれる細胞数が少ないため、造血機能の回復が遅いことが課題であるという。 研究グループは、今回の第2相臨床試験に白血病などの血液悪性腫瘍の患者28人を登録し、HLA適合単一ユニットの臍帯血移植後に、新たな幹細胞製剤であるdilanubicelを投与した。Deverra Therapeutics社が製造するdilanubicelは、6~8ユニットの異なるドナー由来の造血前駆細胞を組み合わせた製剤で、実験室内で培養・増殖させた後、患者に投与される。 その結果、全ての患者で、好中球は中央値18日、血小板は中央値31日で回復が確認された。臍帯血移植片由来のリンパ球の早期増殖は9日目までに認められ、11日目にピークに達した。グレード3~4の急性または慢性GVHDは認められなかった。追跡期間中央値1.4年の時点で、28人中27人が生存しており、再発・病勢進行は認められていなかった。1人の患者が死亡した。別の患者では、移植の約1年後に再発が認められたが、追加治療により寛解に至り、その状態が1年以上維持されているという。 Milano氏は、「プールされたドナー由来の幹細胞製剤に含まれる細胞が長期にわたって残存することはなかった。しかし、これらは全て、適合ドナー由来の臍帯血が患者に新しい健康な免疫システムを確立するのを支えた」と述べている。 研究グループは現在、より多くの患者を対象とした追加の臨床試験の実施に向けて、資金調達を進めている。「幹細胞移植が必要な人、特に高リスク疾患を抱える患者にとって、臍帯血が重要な選択肢であることに変わりはない」とMilano氏は話している。

2.

71歳男性、病歴と検査値から読み取れる診断は?【腕試し!内科専門医バーチャル模試】

71歳男性、病歴と検査値から読み取れる診断は?71歳の男性。1年前に膵臓がんに対し、膵頭十二指腸切除術を施行された。経過観察中に徐々に貧血が進行したため、外科から内科に紹介となった。血液検査では白血球 5,600/μL、Hb 9.8 g/dL、MCV 79.6fL、血小板 22.1万/μL、総ビリルビン 0.6mg/dL、LDH 145U/L、血清鉄(Fe)10μg/dL、TIBC 463μg/dL、フェリチン11 ng/mL、ビタミンB12 350pg/mL、葉酸 11ng/mL。

3.

ベンラリズマブ、好酸球増多症候群に対し承認取得/AZ

 アストラゼネカは2026年5月18日、ベンラリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ファセンラ皮下注30mgシリンジ/30mgペン)が、「好酸球増多症候群(HES)」に対し、日本で承認を取得したことを発表した。ベンラリズマブは現在、日本、米国、EU、中国を含む80ヵ国以上で重症好酸球性喘息の追加維持治療として承認されており、日本および米国では、6歳以上の小児および青年に対しても承認されている。また、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の成人患者に対する治療薬としても、日本を含む70ヵ国以上で承認されている。 今回の承認は、HES患者を対象に実施された第III相NATRON試験の結果に基づく。NATRON試験は、ベンラリズマブ30mgまたはプラセボを4週間ごとに皮下投与し、その有効性および安全性を評価した、多施設共同の無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験である。主要評価項目は最初のHESの悪化/再燃までの期間で、以下のいずれかに該当する事象として定義された。・HESの臨床症状の悪化または検査異常により、2日以上にわたり経口コルチコステロイド(OCS)の投与量が10mg/日以上増量・細胞毒性療法および/または免疫抑制療法を新規開始または増量・入院 治験参加者(133例)は、HESに対する基礎治療に加えて、二重盲検投与期間24週間中、4週間ごとにベンラリズマブ30mgまたはプラセボの皮下投与を受ける群に、1:1の割合で無作為化された。 ベンラリズマブ投与群はプラセボ投与群と比較して、最初のHESの悪化/再燃までの期間を延長し、統計学的に有意かつ臨床的に意味のある有効性が認められた(最初のHES悪化/再燃を経験した割合:ベンラリズマブ投与群19.4%vs.プラセボ投与群42.4%、ハザード比:0.35、95%信頼区間:0.18~0.69、p=0.0024)。

4.

再発・難治性DLBCLの第I~II相試験での奏効率、25年で倍増~メタ解析/Lancet Haematol

 再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の早期の相の試験における薬剤クラスごとの抗腫瘍効果と安全性の推移を系統的レビューおよびメタ解析で評価した結果を、オランダ・Amsterdam University Medical CenterのAnne M. Spanjaart氏らが報告した。2000~25年の25年間のデータを解析した結果、新規薬剤の登場により奏効率は2倍以上に向上し、治療関連死亡率は低く維持されていることが示された。Lancet Haematology誌2026年5月号に掲載。 本研究の対象は、2000年1月1日~2025年5月9日に公開された、成人の再発・難治性DLBCL患者を対象とした第I~II相試験で、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryを用いて検索し、試験薬剤単独またはCD20抗体併用療法のデータを抽出した。主要評価項目は奏効率(ORR)および完全奏効率(CRR)で、ランダム効果一般化線形混合モデルを用いて統合解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・最終的に132試験、7,786例(女性43%、男性57%)が解析対象となった。・全体のORRは30.5%(95%信頼区間[CI]:26.0~35.5)、CRRは14.3%(同:11.5~17.7)であった。・薬剤クラス別の奏効率は以下の順で高かった。 - CAR-T細胞療法:ORR 70.0%/CRR 51.0% - 二重特異性抗体:ORR 46.0%/CRR 30.0% - 抗体薬物複合体:ORR 40.0%/CRR 18.0%・ORRは2000~08年の16.6%から、2018~2025年には36.8%へ2倍以上に向上した。・治療関連死亡率は0.6%(95%CI:0.4~1.0)と、期間を通じて1%未満を維持していた。・用量制限毒性/投与中止は6.0%、Grade3~4の有害事象は61.5%、非再発死亡は3.6%に認められた。 著者らは、「2000年以降、再発・難治性DLBCLの早期の相の試験における奏効率は、細胞療法や二重特異性抗体の導入により2倍以上に向上した。一方で治療関連死亡はきわめて低く抑えられており、これらのデータは臨床医や規制当局にとって、現在のリスク・ベネフィット傾向を把握するための重要な指標となる」としている。

5.

サラッとStat中級編:PFSとOSの基本的な見方【Oncologyインタビュー】第57回

出演岐阜大学泌尿器科学講座 古家 琢也氏京都大学医学統計生物情報学 森田 智視氏医療者にとって臨床統計の解釈は大きな課題である。岐阜大学泌尿器科学講座の古家 琢也氏と京都大学医学統計生物情報学の森田 智視氏が臨床目線で送る“ワカる”臨床統計解説。

7.

MYC/BCL2二重発現DLBCL、ツシジノスタット追加でEFS改善/JAMA

 MYC/BCL2二重発現リンパ腫(DEL)は、MYCおよびBCL2の共発現で定義されるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の高リスクの一形態で、標準治療であるR-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、prednisone)療法による免疫化学療法後の予後が不良とされる。中国・上海交通大学医学院附属瑞金医院のPeng-Peng Xu氏らは「DEB試験」において、DELの1次治療では選択的ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬ツシジノスタット+R-CHOP併用療法は、R-CHOP療法単独と比較して無イベント生存期間(EFS)を有意に改善し、毒性作用は全般に管理可能であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年4月22日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照比較第III相試験、主要エンドポイントはEFS DEB試験は、中国の40施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較第III相試験(Shenzhen Chipscreen Biosciencesの助成を受けた)。2020年5月~2022年7月に、年齢18~80歳、未治療のCD20陽性DEL(免疫組織化学検査で、MYC発現≧40%かつBCL2発現≧50%と定義)患者423例(年齢中央値63歳、男性47.5%)を登録した。 被験者を、ツシジノスタット(20mg/日、21日を1サイクルとし1日目、4日目、8日目、11日目に経口投与)群(211例)またはプラセボ群(212例)に無作為に割り付けた。加えて、全例にR-CHOP療法を6サイクル施行した。これらの併用療法で完全奏効を達成した患者は、それぞれツシジノスタットまたはプラセボによる維持療法(最長24週間)を受けた。 主要エンドポイントはEFSで、無作為化から病勢進行までの期間、完全奏効後の再発、全死因死亡、残存病変に対する新たな治療の開始で定義した。副次エンドポイントは、完全奏効割合、病勢進行、無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)および忍容性などとした。EFSはツシジノスタット群が有意に優れる、完全奏効割合も ツシジノスタット群の80.6%が6サイクルのツシジノスタット+R-CHOPを完遂し、プラセボ群の77.8%が6サイクルのプラセボ+R-CHOPを完遂した。追跡期間中央値は41.3ヵ月(四分位範囲[IQR]:16.4~48.4)だった。 EFS中央値は、ツシジノスタット群が未到達(95%信頼区間[CI]:35.3~未到達)、プラセボ群は26.4ヵ月(95%CI:10.1~未到達)であった。層別ハザード比(HR)は0.72(95%CI:0.54~0.96)であり、ツシジノスタット群で有意に優れた(p=0.02)。また、2年EFS率は、それぞれ60.3%および50.5%だった(群間差:9.8%、95%CI:0.4~19.2)。 併用療法後の完全奏効割合は、ツシジノスタット群で73.0%、プラセボ群で61.8%であった(群間差:11.1%、95%CI:2.3~20.0)。2年無増悪生存期間(PFS)率はツシジノスタット群69.3%、プラセボ群62.8%(HR:0.78、95%CI:0.56~1.09)、2年DFS率はそれぞれ76.9%および72.8%(HR:0.79、95%CI:0.51~1.20)、2年OS率は81.4%および73.6%(HR:0.77、95%CI:0.53~1.13)であり、いずれも数値上はツシジノスタット群のほうが良好だった。PFS、DFS、OSの中央値には、両群とも未到達であった。治療関連の重篤な有害事象は47.9%vs.28.3% 併用療法中のGrade3以上の有害事象は、ツシジノスタット群で85.8%、プラセボ群で72.6%に発生した。維持療法中のGrade3以上の有害事象は、それぞれ77.4%および39.1%に認めた。 治療関連の重篤な有害事象は、プラセボ群の28.3%に比べツシジノスタット群は47.9%と頻度が高かったが、全般に支持療法により管理可能であった。治療関連有害事象による死亡は、ツシジノスタット群で6例(2.8%)、プラセボ群で7例(3.3%)に発生した。エピジェネティック調節薬の有益性を初めて実証 著者は、「本試験は、DLBCLにおけるエピジェネティック調節薬の有益性を初めて実証した研究であり、この高リスク患者群に、MYCおよびBCL2発がんタンパク質を二重の標的とする新たな1次治療法をもたらすものである」としている。 また、「DLBCL患者では、1次治療における完全奏効の達成が長期の治癒に結びつくことが先行研究で確認されている。本試験では、R-CHOPへのツシジノスタットの追加により、R-CHOP単独に比べ完全奏効割合が11.1%向上し、OSなどで数値上の改善を認めた」と考察している。

8.

血友病AへのMim8予防投与が既存治療を上回る出血抑制/NEJM

 Mim8(denecimig)は、活性化第VIIIa因子の機能を模倣する二重特異性抗体で、第VIII因子インヒビターの有無にかかわらず、血友病A患者の出血を予防する目的で開発された。イタリア・ヒュマニタス大学のMaria Elisa Mancuso氏らは「FRONTIER2試験」において、Mim8の予防投与はオンデマンド治療や血液凝固因子濃縮製剤の予防投与と比較して、治療を必要とする出血イベントの年間発生率を有意に抑制し、血栓塞栓イベントや中和抗体の発現はみられないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2026年4月30日号で報告された。国際的な無作為化対照比較第III相試験 FRONTIER2試験は、日本を含む国際的な非盲検無作為化対照比較第III相試験であり、インヒビターの有無を問わず血友病Aを有する12歳以上の患者254例を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 試験前にオンデマンド治療を受けていた58例(試験前オンデマンド治療コホート)は、オンデマンド治療を継続する群(グループ1、17例)、Mim8を週1回予防投与する群(グループ2a、21例)、またはMim8を月1回予防投与する群(グループ2b、20例)に無作為に割り付けられた。 試験前の導入期間中(26~52週)に血液凝固因子濃縮製剤の予防投与を受けていた196例(試験前予防投与コホート)は、Mim8を週1回予防投与する群(グループ3、98例)またはMim8を月1回予防投与する群(グループ4、98例)に無作為に割り付けられた。5つのグループとも投与期間は26週であった。 無作為化の対象となった患者のうち、4例(2%)が女性、66例(26%)が12~17歳、212例(84%)が重症血友病A、31例(12%)が第VIII因子インヒビターを有し、242例(95%)は体重が45kg以上であった。8例が治療を中止した。2コホートの週1回、月1回投与グループとも、出血を有意に抑制 試験前オンデマンド治療コホートにおける治療を必要とする出血イベントの年間発生率(第1主要エンドポイント)は、グループ1が15.76(95%信頼区間[CI]:10.70~23.20)であったのに対し、グループ2aは0.57(95%CI:0.25~1.30)、グループ2bは0.20(95%CI:0.06~0.71)であり、それぞれ相対減少率は96.4%および98.7%といずれも有意に改善した(両比較ともp<0.001)。 試験前予防投与コホートにおける治療を必要とする出血イベントの年間発生率(第2主要エンドポイント)は、導入期間中が4.90(95%CI:3.65~6.56)であったのに対し、グループ3は2.25(95%CI:1.37~3.71)であり、相対減少率は54.0%と有意に優れた(p=0.006)。また、同様に、導入期間中の3.12(95%CI:2.25~4.32)に比べグループ4は1.78(95%CI:1.18~2.71)であり、相対減少率は42.8%と有意差を認めた(p=0.006)。軽症の注射部位反応が2.6%で報告 注射部位反応は、Mim8の投与を受けた237例中23例(10%)に発現し、4,005回の注射のうち103回(2.6%)で報告された。ほとんどが一過性で、すべて軽症であった。 また、3例で有害事象によりMim8の投与が中止され、このうち2例でMim8との関連の可能性が示唆された。Mim8関連の致死性のイベントや血栓塞栓イベント、過敏反応は観察されなかった。 投与期間中に254例中18例(7%)で抗Mim8抗体が検出されたが、Mim8に対する中和抗体の臨床的な証拠が報告された患者はいなかった。 著者は、「これらの知見は、現在の標準治療を上回る有効性をMim8が発揮する可能性を示唆する」としている。 本試験を終了後、患者は26週間の延長試験に入り、引き続き長期のアウトカムを評価する第III相延長試験に参加しているという。

9.

新規診断の多発性骨髄腫患者と医師のコミュニケーションの実態~国内アンケート調査

 多発性骨髄腫の治療選択肢が拡大する中、協働意思決定(SDM)の重要性が増しており、医師と患者のコミュニケーションが重要となる。今回、近畿大学奈良病院の花本 均氏らが実臨床における医師と患者のコミュニケーションの実態についてアンケート調査した結果、治療開始時および病状安定時において、医師と患者の認識に顕著な乖離があることが示された。eJHaem誌2026年4月26日号に掲載。 本研究は、造血幹細胞移植を受けていない新規に診断された多発性骨髄腫患者220例と、多発性骨髄腫を診療する血液専門医120人を対象とした観察調査研究(2024年9〜11月実施)である。患者は自己記入式の34項目の調査票(オンラインまたは紙媒体)に回答し、血液専門医は、自己記入式の18項目の調査票にオンラインで回答した。治療開始時および病状安定時における、患者と医師間のコミュニケーションの状況、患者の治療に対する期待、価値観、感情、知識、治療に関する意思決定の希望に関する情報をまとめた。 主な結果は以下のとおり。・医師側は、治療開始時に82.5%、病状安定時に65.0%が治療選択肢を提示または説明したと回答した一方、患者側で提示または説明を受けたと回答したのは、治療開始時で45.9%、病状安定時で50.3%であった。・治療開始時および病状安定時において、治療の希望を確認されたと回答した患者は、それぞれ23.6%および25.2%と、希望を尋ねたと回答した医師(それぞれ67.5%と50.8%)より低かった。・患者の感情は治療開始時のネガティブなものから病状安定時にはポジティブへと変化し、疾患や治療に関する知識が向上した。また、治療に対する期待も変化した。・患者の44.5%が意思決定への参加を希望していたが、実際に治療開始時に参加していたのは21.8%であった。 本結果から、著者らは「医師と患者の間でコミュニケーションに対する認識の乖離が確認された。医師は患者の期待や感情、知識が治療開始から病状安定期にかけて変化することを理解し、各時期で治療選択肢や計画についてより効果的にコミュニケーションを取る必要がある」としている。

10.

免疫介在性炎症性疾患患者のがんリスク、要因は炎症か

 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、乾癬などの免疫介在性炎症性疾患(IMID)患者はがんリスクが高いことが知られているが、リスクが高いのはIMID診断後1年間であり、抗炎症薬による治療を開始するとそのリスクは経時的に低下する可能性が、新たな研究で示された。ガッルーラ地域保健局(イタリア)リウマチ科部長のDaniela Marotto氏らによるこの研究は、「Cancers」に3月23日掲載された。Marotto氏は、「初期段階でがんリスクがピークに達するということは、治療よりも慢性炎症そのものががん発症の重要な要因であることを示唆している」と述べている。 Marotto氏らは今回、イタリアで2018年1月1日から12月31日までの間にIMIDと診断された患者5万4,896人および非IMID患者30万1,126人を対象に、IMIDとがん発症との関連を検討した。IMIDは、RAとびまん性結合組織疾患(diffuse diseases of connective tissue;DDCT)を対象とした。DDCTは免疫の異常により全身の結合組織に慢性的な炎症が生じる疾患の総称で、SLEや強皮症、シェーグレン症候群などが代表例である。対象患者は2023年12月31日まで追跡された。 解析の結果、IMID群では非IMID群と比べて、5年間のがんリスクが有意に高かった(調整オッズ比1.32、95%信頼区間1.27~1.38)。しかし、がんリスクは経時的に低下し、オッズ比は診断後1年目で1.83(95%信頼区間1.61~2.08)、2年目で1.53(同1.37~1.69)、3年目で1.40(同1.25~1.56)、4年目で1.37(同1.22~1.53)、5年目で1.20(同1.15~1.30)であった(全てP<0.001)。がん種ごとに検討すると、IMID群では白血病・リンパ腫(調整オッズ比1.98)、肺がん(同1.74)、膀胱がんとメラノーマ(いずれも同1.48)のリスクが高かった。一方、IMIDの種類別に検討すると、DDCT群はRA群と比べてがんリスクが高かった(調整オッズ比はDDCT群1.53、RA群1.20)。 共著者であるシエナ大学(イタリア)医療バイオテクノロジー分野のAntonio Giordano氏は、「今回の結果は、炎症ががんリスクを左右する決定的な要因であるという仮説を支持するものだ」と指摘している。 研究グループは、この知見から、IMID患者に対しては、特に診断後1年以内におけるがん検診の重要性を周知・促進する必要があると強調している。

11.

多発性骨髄腫のフレイル患者に対する抗CD38抗体3剤併用、実臨床での有用性

 多発性骨髄腫のフレイル患者に対する抗CD38モノクローナル抗体を含む3剤併用療法については、主要試験のサブ解析で有効かつ安全であることが示されているが、実臨床ではフレイル患者への投与を避けることは少なくない。今回、国立病院機構渋川医療センターの入内島 裕乃氏らが後ろ向き解析を実施した結果、適切な管理を実施することでフレイル患者においても非フレイル患者と同様の治療効果と安全性が得られることが示された。Cancers誌2026年3月24日号に掲載。 本研究は、2017~24年に同センターにおいて抗CD38抗体(ダラツムマブまたはイサツキシマブ)を含む3剤併用療法を受けた多発性骨髄腫患者を対象とした後ろ向き観察研究である。国際骨髄腫作業部会(IMWG)の簡易フレイルスコアに基づき、患者をフレイル群と非フレイル群に分類し、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、安全性を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった150例(年齢中央値:フレイル群76歳、非フレイル群69歳)のうち、ダラツムマブを含む3剤併用療法が108例(フレイル群82例)、イサツキシマブを含む3剤併用療法が42例(フレイル群18例)であった。・フレイル群と非フレイル群のPFS中央値は15.4ヵ月と11.4ヵ月、OS中央値は45.6ヵ月と40.7ヵ月であった。・ORRはフレイル群76%、非フレイル群68%で有意差はなかった。・レジメンによる予後も有意差はなかった。・両群間で、あらゆる有害事象、血液毒性および非血液学的毒性のいずれにおいてもGrade3~4の有害事象発現率に有意差はなかった。 本結果から、著者らは「抗CD38抗体を含む3剤併用療法は、薬剤の減量や休薬、感染制御など適切な管理を徹底することで、フレイル患者にとっても使用可能な治療選択肢となりうる」と結論している。

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第311回 国際学会への日本人の現地参加が低迷!その課題解決法や意義を権威に聞く

INDEX日本人医師の国際学会参加状況に対する印象何が参加の大きなハードルか若手医師に立ちはだかる資金的ハードル学会参加の時間捻出が難しい?発表論文を読めばいいのでは?オンライン参加の利便性国際学会といえばASCO?コロナ禍を機に全世界的に広がったのがオンライン文化だ。すでに国内外の各種学会もオンラインを併用したハイブリッド開催が標準となりつつあると言ってもいい。もっとも私個人は国内の学会取材は、リアル参加を基本としている。理由は2つある。1つは国内学会の場合、一般演題のオンライン配信はしていないが、個人的に一般演題もネタの宝庫だと考えているからだ。2つ目はやはり“リアル”は私という人間を覚えてもらえるよい機会だからだ。組織の大きな看板を背負っていない私にとって、この点は欠かせない。オンライン取材をする機会もあるが、それだとなかなかこちらを覚えてもらえない。これはコロナ禍が明けてから、とくに実感している。コロナ禍中に複数回オンライン取材をした医師に、その後ようやくリアルの学会で初めてあいさつした際にも、当時の取材内容を改めて話し、ようやく相手は「ああ、あの時の」と思い出してくれた。それだけオンラインには見えない壁があるのだと感じたものだ。一方で、国際学会でオンライン参加が可能になったことは、非常にありがたみを感じている。おかげで何度か日本にいながら国際学会の取材をすることもできた。しかしこの場合、日本の深夜早朝に取材するプログラムがぶち当たり、何回か徹夜をしいられたこともあった。さてそんな中、オンラインも含め「日本の医師・研究者の国際学会参加が減っている」という話を耳にした。実際はどうなのか? 国際学会の参加経験が豊富な吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 副院長/日本癌治療学会 理事長/日本臨床腫瘍学会 理事長)に話を聞いてみた。―日本の医師・研究者の国際学会参加状況について、吉野先生の印象はいかがでしょう?少なくとも私が知っているがん周辺の国際学会に出向く日本人は減少し、オンライン参加を選択している人が多い印象があります。ただ、実際に米国臨床腫瘍学会(ASCO)の役員などとのビジネス会合でも「日本からの参加者は減っている」「参加する日本人はリピーターで、とくに若い参加者が少ない」と言われています。それゆえ私が持っている印象は、それなりに事実に近いとは思っています。―日本人が国際学会に参加するうえで何が大きなハードルになっているとお考えですか?まずは渡航費の問題です。アメリカは残念ながら日本よりは治安は不安定なので、会場へのアクセスも良く治安も良好な宿泊先は、日本円で1泊7~8万円は珍しくありません。また、現在は世界的物価高ですから、国際学会にフル日程で参加するならば1回の渡航で100万円近い出費を迫られることもあります。こうなると若い医師・研究者はもちろん、年配の医師・研究者でさえも渡航をためらい、所属施設も及び腰になります。一方で、「行く意義」がわかってない人も結構いると思っています。―その「行く意義」を具体的に教えてください学会を“最新のエビデンスを知る場”と考えるならば、オンラインでもよいかとは思います。しかし、リアルの学会では「発表者と対面で話すチャンスがある」ことが極めて重要です。対面で話すと言っても、単に「今日の発表すごかったですね」「いえいえ、どうも」というのではなく、相手が今まさに取り組んでいることを聞けるチャンスがある。端的に言えば、研究はモノによっては計画から発表まで5年を要することもよくあります。学会発表を聞くというのは、悪く言えば5年前の話を聞いているのと同じです。裏を返せば、もし学会の場で発表者に「今、どんな研究をしている?」という話をリアルに聞ければ、5年後の世界のトレンドが予測できます。世界に伍していく研究をするためには、カッティング・エッジ(最先端)の人が今現在行っている研究を知る必要があります。この情報は現地に行かねば得にくいものです。若い人たちにはイメージが湧かないかもしれませんが…。―若手医師にとっては国際学会参加の資金的なハードルは小さくありません私自身は日本癌治療学会(JSCO)の理事長を拝命していますが、同学会では国際学会への参加を希望する若手会員医師*にトラベルグラント(国際渡航助成金)の応募枠拡充と支給金額の引き上げに取り組んできました。また、JSCOではASCO参加後、3日~1週間程度、アメリカの有名な研究施設・病院をASCOの紹介で訪問し、先方のシニアにホストしてもらってメンター関係を築くフェローシップ・プログラムにも取り組んでいます。3月末からは日本臨床腫瘍学会の理事長にも就任しましたので、こちらでも同様のことを行っていきたいと考えています。こうした活動を通じ、国際学会への参加意義を実感できる若手を養成していきたいですね。また、本音を言えばこうした仕組みを拡充するためにはCOI(利益相反)に抵触しない範囲で、産業界にも手を貸していただきたいです。国際的人材がいることは、学会・産業界の双方にとってWin-Winの関係が築けますから。*応募時で、男性会員は45歳以下、女性会員は50歳以下であること―資金的な課題がクリアできたとしても、がん専門病院以外では若手医師が国際学会参加の時間を作ることが難しい現実もあります。確かにそうでしょう。市中病院に勤務するがん専門医になると、がん以外にも多彩な疾患の診療に従事し、医師数も少ないので国際学会に参加したい医師の代わりが手当てできないことが多いでしょうね。ただ、一定規模以上の病院ならば、病院長などの上層部が若手医師を順番で国際学会に参加させることは病院の将来のためにも重要だと思います。また、参加を希望する医師も何とか頑張って演題を通して参加の大義を作ってほしいものです。こういう話は夢物語のように聞こえるかもしれませんが、できる機運を高めないと、今の医療界に漂う閉塞感は消えないとすら考えています。―最新の研究は国際学会に参加しなくとも、発表された論文を読めばよいという方もいますよね?昔、ハーバード大学のある教授が一部の留学者を指して「あいつらはダメ。日本人はとくにダメだ。私の論文を私の前で読んでいる。それよりもなぜ私に直接聞かない? 論文に書ききれなかった行間の情報は時に論文そのものよりも重要だ」と言っていたと聞いたことがありますが、まったく同感です。論文で理解したと思っている人は真の意味で理解していないことがあります。実際に論文の筆頭著者と話すと、「ここはこう書いたんだけど、実は…」というのはよくあります。論文を書いたことがある人なら納得するのではないでしょうか。論文内で書ききれていない部分を知るためには、執筆者と話すのがベストだと思いますよ。―よくわかります。私たち取材者も諸事情で文字にはできないものの、取材中に聞いた裏話で腹落ちすることはよくあります。もっとも学会に関して言えば、オンラインでも参加可能という利便性の変化も見逃せません。私見を言えば、オンライン参加はどうしてもリアル参加が無理な際の手段というのが基本的な発想です。現在では対面だけでなく、オンライン会議を通じても共同研究に繋がることはあると思いますが、対面で議論したほうが共同研究に繋がりやすいと思いませんか? たとえば日米共同研究を行う場合、オンラインだけですべてが可能というケースはきわめて少ないものです。企業から費用が支出される研究となれば、もはや対面なしに成立はしません。そうした研究では支出金額が億単位もよくあることですよね。それをオンラインで顔を見知っている程度の人に支出するでしょうか? 対面で会い、人となりも理解したうえで成立するものです。やや極端な言い方をすれば、対面なしのオンラインのみは、いつまでもエンドユーザーに留まるだけです。もちろんエンドユーザーとして生きていくならば、それでも構いませんが。世界的に活躍しようと思う医師や研究者にとって、やはり対面は重要です。―たとえば、先生がご専門のがん領域の場合、国際学会となると、やはりASCOが第一候補に挙がるのでしょうね?まさにASCOの場合は、参加者は数万人規模で、明日からの治療に影響を及ぼす発表が行われます。「これだけの結果が出ているならば、明日からこの治療を患者さんに届けなきゃいけない」と思わされる最新の研究が数多く発表されます。いわゆる「プラクティス・チェンジング」、一般用語で言えば「ゲーム・チェンジング」に値するデータが発表されます。その意味では極めてエキサイティングな学会といえます。―それ以外で言うと、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)なども注目すべき学会ですか?ESMOももちろんそうですが、地味ながらも私はASCOが主催するアジア太平洋地域を中心にした国際腫瘍学会議「ASCO Breakthrough」も注目に値すると考えています。ASCO Breakthroughは、リキッドバイオプシーや、今ならば生成AIなど最新のテクノロジー活用に関するエビデンスやそれが今後どのように展開していくか、あるいは胃がんや子宮頸がんなどアジアに特徴的で欧米では研究が進みにくいがんの治療法開発などが議論される場と私は理解しています。また、アジア圏は国ごとの所得格差に基づく治療のアクセス格差があり、その解消に関する議論も行われたりします。私なりにASCOの年次総会との違いを表現すると、先ほど話したようにASCO年次総会は「明日の治療の変革」が主となる発表に対し、ASCO Breakthroughは「未来の臨床がどのように変革されるか」という視点の発表が多いですね。今回は6月末にシンガポールで開催予定ですが、たとえば生成AIに関しては、がん領域の診断・治療への生かし方、生身の医師とAIの最適なフュージョンに関する議論や医師のみとAIを組み合わせた時の診断・治療のアウトカム比較などが発表されると聞いています。それ以外には術後再発を高精度に予測するリキッドバイオプシーのセッションも予定されていて、このセッションは私も注目しています。未来志向の臨床に着目して最先端の研究を目指す医師や研究者にとっては必須の学会だと思っています。参考1)日本癌治療学会:ASCO学術集会およびASCO Breakthrough発表者ためのTravel Grant Awardに関するご案内(4/15追記)

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造血細胞移植におけるEmergency/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血細胞移植は、急性白血病や悪性リンパ腫などに対して根治を目指しうる治療法である。一方で、移植前処置や強力な免疫抑制療法、長期にわたる好中球減少状態などを背景に、早急な対応を講じなければ不可逆的な臓器障害を来し、致命的となりうる重篤な病態(Emergency)が急速に進行することもある。そのため移植医療の現場では、数日単位で生命予後が左右されるEmergencyに備える姿勢が不可欠であり、事態への即応力が強く求められることになる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「造血細胞移植におけるEmergency」をテーマとした教育講演が行われた。造血細胞移植特有の緊急病態に焦点を当て、実臨床で遭遇した症例と文献的エビデンスを基に、見逃してはならない重篤合併症と初期対応の要点について、田中 喬氏(大阪国際メディカル&サイエンスセンター 大阪けいさつ病院 血液内科)が講演した。シクロホスファミド(Cy)心筋症―死亡リスクの高い劇症型の心合併症 近年、移植後シクロホスファミド(PTCy)は、ヒト白血球抗原(HLA)半合致血縁者間移植にとどまらず、HLA一致血縁者間移植や非血縁者間移植にも応用が広がり、移植片対宿主病(GVHD)予防の新たな標準治療となりつつあるPTCyは優れたGVHD予防効果をもたらす一方で、シクロホスファミド(Cy)心筋症という重篤な合併症のリスクも伴う。大量Cy投与後に発症するCy心筋症は、基本的には可逆的であるが、進行がきわめて速く、重症例では体外式膜型人工肺(ECMO)管理を要し、命に関わることもある。その希少性ゆえに、初めて遭遇した際には診断が遅れ、気付いたときにはすでに重症化しているケースが少なくない。発症率は近年の報告では1~5%前後と頻度こそ高くはないものの、ひとたび発症すれば急速に循環破綻へ至る死亡率の高い致死的合併症である。心不全と診断されてから死亡までの中央値が約3日とされる報告もあり、遭遇すれば重篤となる典型的な移植Emergencyである。 Cy心筋症の病態は完全には解明されていないが、代謝産物による血管内皮障害が起点と考えられている。血管内皮が障害されると血管透過性亢進により心筋の浮腫・壁肥厚が生じ、最終的に心筋障害を来す。ここで重要なことは、Cy心筋症発症初期の主病態が収縮不全ではなく拡張障害であるという点である。心筋の伸展性が浮腫によって低下し、拡張できなくなることで心拍出量が維持できなくなる。 アントラサイクリン心筋症が累積投与量依存であるのに対し、Cy心筋症は1回投与量と投与スケジュールに依存する用量依存性毒性である。安全な投与量の閾値は明確ではなく、既往のアントラサイクリン投与量や放射線治療歴がリスク因子として挙げられるものの、確立した予測因子は存在しない。 発症時期はCyの初回投与から10日以内が多く、症状出現までの中央値は2日(1~6日)、心不全診断までの中央値は4日(3~8日)とする報告がある。心電図ではvoltageの低下やST上昇、T波の陰転化を認めることが多い。胸部X線で心拡大を呈するが、これを容量過多と誤認してはならない。ただちに心エコーを施行し、著明な心筋壁肥厚と心嚢水貯留の有無を確認することが重要である。 特徴的なのは、初期には左室駆出率(EF)が保たれている症例が少なくない点である。心不全診断時にEFが50%以上に保たれていても、心筋壁が急速に肥厚し、拡張障害が進行している可能性がある。EFのみに依存した評価は危険である。 バイオマーカーに関して、トロポニンは必ずしも早期に上昇しない。一方、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やNT-proBNPは比較的早期から上昇する可能性が報告されている。大量Cy投与後の症例では、投与後数日間のBNPモニタリングが早期発見に寄与する可能性がある。 Cy心筋症に対する確立した治療法はなく、一般的な心不全治療を行いながら心機能の回復を待つ。カテコラミン反応性は乏しいことが多く、循環動態が急速に悪化する場合には、早期からECMOや補助循環装置の導入を検討する必要がある。また、診断した時点で循環器内科や集中治療部門へ速やかにコンサルトする体制整備が不可欠となる。なお、ECMOが自施設で実施できない場合は、対応可能な施設への転院を躊躇してはならない。重症類洞閉塞症候群(SOS)―増悪因子となる腹部コンパートメント症候群(ACS) 重症類洞閉塞症候群(SOS)は、移植後早期に発症する重篤な肝合併症である。体重増加、腹水貯留、右季肋部痛、血小板減少などを呈し、重症例では多臓器不全へ進展する。 重症SOSの増悪因子として、腹部コンパートメント症候群(ACS)が注目される。腹腔内圧の上昇により静脈還流が障害され、腎機能低下や呼吸不全を来す。腹腔内圧は膀胱内圧で代用可能であり、簡便に測定できる。一般に腹腔内圧が20mmHgを超え、かつ臓器障害を伴う場合にACSと定義されるが、それ未満でも臓器障害を呈することがある。 病態の中心は腹腔内圧上昇による静脈うっ血であり、とくに腎静脈圧迫による腎不全が重要である。腹水ドレナージにより腹腔内圧を低下させることで、尿量や酸素化、門脈血流が改善する症例がある。腹部膨隆が目立つ重症SOSでは、膀胱内圧測定を積極的に行い、減圧治療を検討すべきである。重症消化管GVHD―評価すべき粘膜障害の程度と範囲 GVHDの中でも消化管病変は高頻度に認められるが、重症下部消化管GVHDは依然として予後不良である。従来は下痢量で重症度が評価されてきたが、下痢は炎症の結果にすぎない。本質的には粘膜障害の程度と範囲を評価すべきである。 多くの症例において病変は回盲部から始まり、口側および肛門側へ拡大する。重症例では炎症が小腸全体に及び、粘膜脱落を呈する。カプセル内視鏡による小腸粘膜の直接評価から、全周性の粘膜脱落(グレード4)や炎症が空腸まで及ぶ病変はきわめて予後不良であることが示されている。100日以内の非再発死亡率が約6割に達するとの報告もある。このような症例では、ステロイドを中心とした抗炎症療法のみでは不十分な可能性が高い。間葉系幹細胞(MSC)は免疫調整作用に加え、粘膜修復促進作用が期待されている。さらに、腸管粘膜維持に関与するGLP-2アナログなど、組織再生を意識した治療戦略も検討されている。炎症抑制と組織修復を両輪としたアプローチが今後の鍵となる。難治性感染症―想定外の病原体を疑う 造血細胞移植患者では、通常はまれな病原体による感染症が致命的経過をたどることがある。 Stenotrophomonas maltophiliaはグラム陰性桿菌であり、カルバペネムやグリコペプチドではカバーできない。移植患者では一定の頻度で菌血症を来し、肺出血を合併すると救命はきわめて困難である。持続する発熱性好中球減少症では、レボフロキサシンなど有効な抗菌薬による治療を検討する必要がある。 移植後のムーコル症も、致死率の高い真菌感染症である。βDグルカンは陰性のことが多く、確定診断には生検による組織診断が必須である。重症GVHDや長期ステロイド使用例で、原因不明の疼痛を伴う皮疹や急速進行性肺陰影を認めた場合はムーコル症を疑い、生検を積極的に行い、検査結果を待たずに有効な抗真菌薬による治療を開始すべきである。敗血症対応―基本を徹底する 敗血症では、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、必要に応じた急速輸液負荷や昇圧薬投与が基本となる。近年ガイドラインは若干修正されているが、移植患者では迅速な広域抗菌薬投与の重要性は変わらない。初期対応の遅れは予後に直結する。結語―「Emergencyを知って行動に移すこと」が重要 造血細胞移植におけるEmergencyは頻度こそ高くないものの、ひとたび発症すれば急速に悪化し、生命予後を左右する。Cy心筋症、重症SOS、重症消化管GVHD、難治性感染症、敗血症など、いずれも早期診断と迅速な初期対応が救命の鍵となる。「まれでも致命的となりうる病態を疑う」という姿勢を常に持っておく必要がある。とくにCy心筋症は診断後わずか数日で致命的経過をたどりうることを念頭に、心拡大を容量過多と安易に判断せず、速やかに心エコー評価と専門科連携を行うことが重要であり、BNPなどの指標も早期把握の一助となる。 重症SOSでは、腹腔内圧上昇に伴うACSが臓器不全を増悪させることがあり、膀胱内圧測定や適切な減圧介入を行う必要がある。厳密な定義上はACSに該当しない数値であっても、臓器障害を伴う場合には腹腔ドレナージを行うことで劇的に改善する可能性がある。 重症消化管GVHDは、下痢量ではなく、粘膜障害の程度と範囲を見ることが重要となる。カプセル内視鏡を用いた小腸評価では、全周性の粘膜脱落例や炎症が空腸まで及ぶ症例がきわめて予後不良であることから、抗炎症治療のみならず粘膜修復という視点で治療介入を行いたい。 感染症領域では、Stenotrophomonas maltophilia菌血症やムーコル症といった、頻度は高くないが致死率の高い病態があり、常に疑う姿勢が重要となる。敗血症対応は基本を徹底し、疑った場合は、乳酸値測定、血液培養採取、広域抗菌薬投与、急速輸液、昇圧薬投与を1時間以内に実施するいわゆる1時間バンドルの実施が求められ、常に迅速な対応を心掛けたい。 田中氏は講演を通じて、「移植医には腫瘍制御にとどまらず、全身状態を総合的に評価する集中治療的視点が必要である」と強調していた。さらに、「Emergencyについてよく知り、それを即座に想起し行動に移せる能力こそが、患者さんの命を守る最大の武器である」と一貫して述べていた。

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移植患者に対するワクチン接種/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血幹細胞移植後の患者において、ワクチン接種は感染症予防のための重要な手段となる。しかし、免疫再構築の個別性やワクチン免疫原性の低下、さらには費用・制度面の課題などにより、実臨床における実装状況には施設間差が見られる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「移植患者に対するワクチン接種」をテーマとしたシンポジウムが企画され、国内実態調査、優先度の高い予防接種の科学的根拠、実臨床における運用体制という3つの視点から、移植後ワクチン接種の現状と課題が提示された。造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する国内実態調査より 冒頭、黒澤 彩子氏(伊那中央病院 腫瘍内科)は造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する日本国内の実態を把握するために実施された全国規模のアンケート調査の結果について報告した。本調査は、厚生労働科学研究費補助金による研究班の一環として行われたもので、日本国内の移植認定施設(成人診療科・小児科)を対象に実施され、85%(成人診療科施設86%、小児科施設85%)という非常に高い回答率が得られている。 移植後は免疫が再構築される過程で既存の免疫が失われるため、ワクチン再接種が必要とされるが、その方針や実際の接種状況、さらにワクチンで予防可能な疾患(vaccine-preventable diseases:VPD)の発症状況を把握し、今後の施策や提言につなげることが本調査の目的であった。 まず、ワクチン再接種に対する認識について、同種移植後では成人診療科・小児科ともにほぼ100%の施設がその必要性と重要性を認識しており、約75〜80%の施設で統一した接種方針が定められていた。一方、自家移植後では診療科間で大きな差が見られた。小児科では約70%が必要性を認識し、半数以上が統一方針を有していたのに対し、成人診療科では必要性の認識は24%にとどまり、方針を持つ施設はわずか6%であった。その背景として「有用性が低い」「コストの問題」などが挙げられ、自家移植後の位置付けが十分に共有されていない実態が浮き彫りとなった。 接種されているワクチンの種類にも違いがある。回答した成人診療科の80%以上が“推奨”と回答したものはインフルエンザウイルス、肺炎球菌、麻疹風疹混合(MR)であり、接種率についてはそのうちインフルエンザと肺炎球菌で高い(対象の半数以上に接種という回答が75%超)傾向にあった。一方、小児科ではMR、おたふくかぜ、水痘、ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Hib)、インフルエンザウイルスについて8割を超える施設が“推奨”とし、接種率も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を除いて成人診療科と比較して小児科で高かった。施設体制の面では、すべてのワクチンを院内で接種可能な施設は20〜30%にとどまり、70〜80%の施設ではワクチンの種類や症例によっては接種を他院へ依頼しているという現状が示された。 水痘・帯状疱疹対策では、成人診療科では不活化ワクチンの推奨が進む一方、高額な費用負担が障壁となっている。不活化帯状疱疹ワクチンは18歳未満に適応がなく、小児は水痘に未罹患なことが多いため、小児科では水痘予防として生ワクチンが主に使用されている。また、抗ウイルス薬は移植後1〜2年、あるいは免疫抑制薬終了時まで予防投与されることが多いが、投与のタイミングや中止時期には施設間でばらつきがあった。 VPDの発症経験については、成人診療科・小児科ともに60〜90%の施設がCOVID-19、インフルエンザ、帯状疱疹、肺炎球菌感染症などを経験しており、移植患者が依然として高リスクであることが示された。死亡例は成人診療科では半数以上の施設が経験しており、とくにCOVID-19の影響が大きかった。一方、小児科では80%以上の施設が死亡例なしと回答し、成人診療科と比べて致死的転帰は少ない傾向が見られた。注目すべきは、自家移植後であってもVPD発症は決して少なくなく、軽視できない点である。加えて、COVID-19については、致死率の観点からとくに成人診療科において重要な課題であることが示された。一方で、ワクチン接種率はインフルエンザや肺炎球菌と比較して低く、対象の半数以上に接種しているとの回答は50%未満にとどまっており、この点も本調査より明らかとなった。 ワクチン接種率向上のための課題として、保険収載、自治体等による費用助成、長期フォローアップ(long-term follow-up:LTFU)体制の強化、最新の推奨を反映した資材の整備などが挙げられた。総じて、同種移植後の再接種の重要性は定着している一方で、自家移植後の再接種に関する認識不足や成人領域での接種されるワクチンの種類が限定されていること、さらに自己負担による費用面の問題が大きな障壁となっている。今後は制度的整備と情報の標準化を進め、移植患者をVPDから守る体制の構築が不可欠であると黒澤氏は結論付けた。同種移植患者に対する優先度の高い予防接種に関する研究について 同種造血幹細胞移植後の長期生存例が増加する一方、晩期合併症としての感染症対策は依然として重要な課題となっている。とくに移植後晩期には液性免疫の回復が遅延し、VPDに対する防御能が十分に再構築されない症例が少なくない。このような背景において、冲中 敬二氏(国立がん研究センター東病院 感染症科/造血幹細胞移植科)は、同種造血幹細胞移植患者に対する優先度の高いワクチン接種について、晩期感染症の疾病負荷および再接種戦略の最新エビデンスを整理し講演した。 移植後晩期に問題となるのは、肺炎球菌などの被包化細菌、帯状疱疹・単純ヘルペスを含むヘルペスウイルス群、さらに呼吸器ウイルスなどである。なかでも、移植片対宿主病(GVHD)予防として普及した移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたレジメンでは、CD4陽性T細胞の回復遅延に加え、サイトメガロウイルス(CMV)感染や非CMVヘルペスウイルス感染(HHV-6血症)、呼吸器ウイルス感染などの増加が米国のレジストリ解析によって示唆されている。このように、移植後晩期には液性免疫不全のみならず細胞性免疫の再構築不全も問題となることは少なくない。 海外でのアンケート調査によると、成人患者の40%以上が移植後晩期にVPD(インフルエンザ様疾患、帯状疱疹、子宮頸部細胞診異常など)を経験していることが示されている。小児データベース研究では、VPD発症頻度は7%程度と低いものの、帯状疱疹や侵襲性肺炎球菌感染症、インフルエンザなどの発症中央値は移植後190~300日で、移植から6ヵ月以降に多いことがわかる。すなわち、移植後晩期も感染症のリスクは持続し、長期にわたる免疫学的脆弱性を前提とした管理が必要となる。 同種移植患者の市中肺炎罹患率は一般人口より著明に高く、原因菌として肺炎球菌が約9%と最も頻度が高く、重症化リスクも高いことが海外から報告されている。呼吸器ウイルス感染については、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、COVID-19の米国での罹患後30日以内の寄与死亡率が4~6%とされ、日本からはインフルエンザ罹患後90日以内の寄与死亡率が2.2%とのデータが示されている。日本では約4分の3の症例で発症48時間以内に抗ウイルス薬が処方されているのに対し、米国では同期間内に処方を受ける症例は約4分の1にとどまっており、この差が寄与死亡率の違いの一因と考えられる。呼吸器ウイルス感染症を疑う症状が出現した際には、速やかな受診を促す患者教育の重要性が示唆される。 院内感染で呼吸器ウイルス感染症に罹患した場合はさらに予後が不良であり、院内での伝播は防がなければいけない。このためには外来での呼吸器感染症状スクリーニング、必要に応じた迅速PCR診断、感染判明時の接触・飛沫予防策の徹底が推奨される。また、患者本人のみならず同居家族や医療従事者へのワクチン接種も重要な間接防御策となる。 免疫記憶の消失も見逃せない。国内データでは、麻疹・ムンプス・風疹(MMR)の抗体保有率が移植5年で50%未満に低下しえること、B型肝炎表面(HBs)抗体の陰性化が再活性化リスクに関与することが示されている。つまり、小児期に定期接種歴があっても、移植後の防御免疫は保証されないことになる。このため、移植後のワクチン再接種が重要となり、厚労科研研究班は優先度の高いワクチン再接種に関する研究を通じ、水痘、MMR、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)、肺炎球菌、B型肝炎ウイルス(HBV)などのワクチン再接種戦略をレビューしている。加えて、帯状疱疹ワクチン、RSVワクチン、COVID-19ワクチンなど、新規・更新ワクチンの有効性データも蓄積されつつある。 冲中氏は、同種移植患者では、晩期においても液性免疫不全が残存し、VPDは現実的かつ重篤な脅威となるとし、「免疫再構築の特性、GVHD治療状況、地域流行状況を踏まえ、計画的かつ優先順位を明確にしたワクチン再接種を実装することが、長期予後改善には重要となる」と強調した。同種造血細胞移植患者におけるワクチン接種の実際 移植後の患者では、続発性免疫不全や既存免疫記憶の低下により感染症リスクが高まるため、移植後の再予防接種が重要であることは広く認識されている。しかし、実際にワクチン再接種を確実に実施するためには、院内外での運用体制の整備が不可欠となる。そこで、森 有紀氏(虎の門病院 輸血・細胞治療部/造血細胞移植後長期フォローアップセンター)は、実臨床でワクチン接種を円滑に進める具体例として、虎の門病院における体制整備や役割分担の取り組みを紹介し、移植後ワクチン接種を実装するためのポイントについて解説した。 移植後ワクチン接種の運用体制を整備するには、まず、どこで接種を行うのか(移植施設か他の医療機関か)を明確にする必要がある。そのうえで、どの診療科が中心となって担うのか(血液内科、感染症科、小児科、一般内科など)を決め、さらに看護師や薬剤師を含めた多職種連携を具体的に設計していくことが求められる。 虎の門病院では、LTFU外来で血液内科医が適応と開始時期を判断し、その後臨床感染症科医へ紹介して、詳細説明、スケジュール作成、実際の接種を行う分業体制を構築することで専門性を担保しつつ、マンパワーの軽減にもつながっている。 一方、他の医療機関に接種を依頼する場合、移植施設側が適応判断を行い、紹介状や説明文書、患者手帳などを活用して情報共有を徹底することが重要である。とくにクリニック等に紹介する際には、具体的な日程を記載した接種スケジュールの提案や、無断キャンセル防止に関する事前説明(ワクチンを個別に取り寄せる場合があるため)なども大切なポイントとなる。 接種手順は、適応・開始時期の判断、インフォームド・コンセント、接種スケジュール作成、接種、接種後の注意点説明の流れとなる。ガイドラインでは、不活化ワクチンは、GVHDの増悪がなければ移植後3ヵ月(種別により6ヵ月ないし12ヵ月)を経過した後接種可能となっているが、開始時期が遅いほど免疫応答が得られやすいとされる。生ワクチンは、免疫抑制薬が終了し慢性GVHDを認めなければ移植後24ヵ月以降で接種可能とされるが、十分な免疫回復や輸血および所定の薬剤との間隔などの条件を満たすことが前提となる。いずれにしても、個々の患者の状況に応じた判断が必要となる。 さらに、帯状疱疹ワクチン接種後の抗体価上昇や安全性に関する施設データの提示、情報共有テンプレートの整備などの実践的工夫も紹介された。一方で、多くが任意接種・自費負担であること、自治体助成が限定的であること、接種歴証明の困難さや年齢制限といった制度的課題も残されている。 最後に森氏は「移植後ワクチン接種は、単なる推奨事項ではなく、長期予後を左右する重要な支持療法である。各施設の実情に応じた体制構築と地域連携を通じて、標準化と実装を進めていくことが、今後の移植医療の質向上に直結する」と締めくくった。

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CD19-CAR-T細胞療法/日本造血・免疫細胞療法学会

 CD19キメラ抗原受容体T(CD19-CAR-T)細胞療法は、再発・難治性B細胞性悪性腫瘍に対する革新的な細胞免疫療法であり、急性リンパ芽球性白血病(ALL)や大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)を中心に臨床実装が進んでいる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「CD19-CAR-T細胞療法」をテーマとしたシンポジウムが開催され、ALLやLBCLに対する治療の進化と課題、さらに治療アクセスの課題などを含めた包括的な議論が展開された。CD19-CAR-T細胞療法はすでに重要な治療選択肢として位置付けられている中で、その治療最適化に伴い、治療戦略の再設計や医療提供体制の整備などが同時に求められる段階に入っていることが示された。LBCLに対するCD19-CAR-T細胞療法の最前線 冒頭、米国のCaron Jacobson氏(米国・Dana-Farber Cancer Institute)は、LBCLにおけるCD19-CAR-T細胞療法の現状と将来展望について、主要な臨床試験データを基に包括的に概説した。 まず、3つの主要臨床試験により、LBCLに対するCD19-CAR-T細胞療法(Axi-cel、Tisa-cel、Liso-cel)の長期寛解の可能性が示され、再発・難治性患者の約40%で長期寛解が達成されていることが確認された。さらに、長期寛解を維持している患者の多くが、CAR-T細胞投与後に微小残存病変(MRD)陰性を達成していることも示されている。 また、CD19-CAR-T細胞療法は治療戦略のタイミングにも大きなパラダイムシフトをもたらしている。ZUMA-7試験(Axi-cel)やTRANSFORM試験(Liso-cel)などの第III相試験では、ハイリスク患者に対して二次治療の段階でCAR-T細胞療法を早期導入することにより、従来の化学療法および自家幹細胞移植と比較して、無イベント生存率(EFS)が有意に改善することが示された。一方で、三次治療以降にCAR-T細胞療法を施行した患者では治療成績が低下する傾向がみられ、投与時期の遅れが治癒機会の減少につながる可能性が示唆された。さらに、リアルワールドデータ(CIBMTR解析)もこれらの知見を支持しており、併存疾患や攻撃的な疾患生物学的背景により臨床試験の対象外であった患者においても、有効性および安全性がおおむね再現されていることが示された。 続いて、次世代CAR-T細胞製品の開発動向が紹介された。CD19/CD20二重標的CAR-Tや、迅速製造プロセスを導入した製品(例:KITE-753)などが開発されており、T細胞の幹性(stemness)を維持・向上させながら毒性を抑制し、高い完全寛解率(CR)を確保することを目指している。また、CD19陰性再発への対応策として、CD22やB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)を標的とするCAR-T細胞療法の可能性についても解説された。 さらに、患者側、T細胞側、腫瘍側の各因子は相互に影響し合い、CAR-T細胞療法の治療効果を規定していることが強調された。したがって、腫瘍微小環境、既存の免疫状態、ならびに最終的に投与されるT細胞製品の特性が治療アウトカムに及ぼす影響を総合的に理解することが、より精緻で多面的な治療戦略を構築するうえで不可欠となる。 最後にJacobson氏は、「現時点において、CD19-CAR-T細胞療法は高リスクLBCLに対する最も有力な治癒選択肢として確立されている。しかし、今後さらなる治療成績の向上を実現するためには、腫瘍微小環境の制御やT細胞機能の最適化に加え、患者個々の免疫学的背景を踏まえた個別化アプローチの導入が重要となる。これらを統合的に発展させることで、より安全かつ持続的な治療効果の達成が期待される」と締めくくった。ALLに対するCART療法の位置付け:小児・若年成人例を中心として 続いて、加藤 格氏(京都大学医学部附属病院 小児科)は、ALLにおけるCD19-CAR-T細胞療法の臨床的位置付けについて、小児および思春期・若年成人(AYA)世代を中心に概説した。 近年、ALLの治療成績は年代を追うごとに着実に向上している。治療プロトコールの改良や支持療法の進歩を背景に、生存率は全体として改善傾向にあり、とりわけ小児領域(0~14歳)では2000年ごろに5年全生存率が約90%に達するなど、きわめて良好な成績が得られている。一方で、初回治療後に再発を来した症例の予後は依然として不良であり、長年にわたり重要な臨床課題とされてきた。こうした状況の中、2014年以降(日本では2019年以降)にCD19-CAR-T細胞療法(Tisa-cel)が承認され、再発・難治例に対する治療戦略を大きく変える画期的治療法として位置付けられるようになった。 現在、日本で小児ALLに対するTisa-cel療法を実施可能な施設は35施設に及ぶ(造血幹細胞移植実施施設は71施設)。2019~21年にTisa-cel投与実績のあった11施設におけるリアルワールドデータ(42症例)の解析では、完全寛解率(CR/CRi)93%、MRD陰性化率97%と高率であり、1年全生存率(OS)は82%、1年EFSは56%と良好な成績が示された。これらは国際共同第III相試験(ELIANA試験)などと比較しても遜色のない結果であり、日本の実臨床においても高い有効性と再現性が確認された。 治療成績に影響を及ぼす因子についても検討が進んでいる。遺伝子異常は従来の化学療法では重要な予後因子であったが、CD19-CAR-T細胞療法の初期反応性には大きな影響を与えないとされる。ただし、KMT2A遺伝子再構成例では再発時に骨髄性白血病への形質転換を来しやすく、予後不良であることから慎重な経過観察が必要である。また、投与時の残存腫瘍量も重要であり、低腫瘍量であるほど望ましいが、造血細胞移植とは異なり、必ずしも投与前にMRD陰性化を達成する必要はない。骨髄中芽球比率が5%未満にコントロールされていれば、十分な治療効果が期待できるとされている。さらに、ブリナツモマブの先行使用については、理論上はCD19発現低下が懸念されるものの、現時点では治療成績に重大な悪影響を及ぼすとは示されていない。 CD19-CAR-T細胞療法後の造血幹細胞移植の適応については、「全例に実施するか」ではなく、「どの症例に実施すべきか」という個別化医療の観点から議論されている。再発リスクや持続的寛解の可否、CAR-T細胞の持続性などを踏まえたリスク層別化が重要である。とくに、B細胞無形成が6ヵ月未満で回復する症例や、投与後28日目の次世代シーケンシング(NGS)でMRD陽性が確認される症例では、再発リスクが高い可能性があり、追加移植を検討すべきとされる。 このように、CD19-CAR-T細胞療法はALL治療のパラダイムを大きく変革した。今後は、治療後に一律に移植を行うのではなく、B細胞回復動態や遺伝学的背景などを踏まえ、患者ごとに最適な後療法を選択する個別化治療の重要性がいっそう高まっている。CAR-T 治療アクセスを向上させる体制整備 最後に、加藤 光次氏(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)は、日本におけるCD19-CAR-T細胞療法のアクセス格差と、その解消に向けた体制整備に関する現状と課題について論じた。 CD19-CAR-T細胞療法は国内導入から7~8年が経過し、再発・難治性びまん性LBCLを中心に実臨床で定着している。累積症例数は3,000例以上に達し、全国レジストリを通じて長期フォローを含むリアルワールドデータが蓄積されつつある。細胞治療ワーキングの解析では、2019~21年と2022~23年を比較して治療成績は改善傾向を示した。支持療法の標準化、患者選択の適正化、治療プロセスの成熟がその背景にあると考えられる。一方で、患者からT細胞を採取するアフェレーシスから、製造されたCAR-T細胞を輸注するまでのVein-to-Vein(V2V)期間は中央値約60日と、大きな短縮には至っていない。海外では米国約50日、欧州約66日と報告され、約2週間の差が無増悪生存率に20%以上の影響を及ぼしうることが示唆されている。国内データでもV2V延長は予後不良と関連しており、時間的ボトルネックの解消は喫緊の課題である。V2Vは単なる製造期間ではなく、紹介タイミング、施設選択、情報共有など、医療システム全体の「アクセス設計」によって規定される指標となる。 こうした課題に対し、日本造血・免疫細胞療法学会主導の下、企業と連携して全国共通の紹介フォームが整備された。病歴、治療歴、病勢、検査値などを標準化フォーマットで共有することで、紹介の迅速化と情報の質向上を図るものである。これは同時にリアルワールドデータの精度向上にも寄与する。また、施設偏在の是正を目的としたマッチングアプリ構想も進行中である。紹介元が患者情報を入力すると、各施設の受け入れ状況を踏まえた候補が提示される仕組みで、地域研究を経て全国展開が検討されている。 約4%で発生し、現在治験薬として提供されている規格外製品(Out of Specification:OOS)への対応も重要な論点である。OOS投与例の解析では、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)13%、Grade3以上の免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)4.3%と、安全性はおおむね許容範囲内であった。完全寛解率も約40%と一定の有効性が示されている。薬機法改正により、市販後の枠内での適切な提供の位置付けと長期データの構築が求められる。 長期安全性の観点では、CAR-T細胞療法後二次がんが焦点となる。海外では発症率約4%と報告され、T細胞リンパ腫の発症もまれながら注目を集めている。CAR-T関連T細胞リンパ腫疑い例ではCAR遺伝子の確認や挿入部位解析を行い、企業と連携した検査体制が整備されつつある。さらに、妊娠例に対する対応や、全身性エリテマトーデスなど自己免疫疾患への応用も進み、診療科横断的な連携体制の構築が新たな課題となっている。 加藤氏は次のように述べて講演をまとめた。「経済面では、日本の薬価は欧米より低水準に設定されており、企業の採算性低下によるドラッグロスが懸念される。持続可能なアクセス確保には、アカデミアによる質の高いリアルワールドデータの提示、企業の開発意欲の維持、国による適正な価格・償還制度設計が不可欠である。CD19-CAR-T細胞療法の均てん化とは、紹介標準化、V2V短縮、安全性監視、経済的持続性を包含する包括的なアクセス再設計にほかならない。全国的な連携強化が、次世代細胞療法時代の基盤整備につながることが期待される。」

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がん薬物療法における皮下注射剤の可能性/日本臨床腫瘍学会

 近年、がん薬物療法領域での皮下注射剤の活用が広がっている。2026年度診療報酬改定では外来腫瘍化学療法診療料への皮下注製剤の算定も認められる見通しとなった。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)では、腫瘍内科医、薬剤師、緩和ケア医、看護師、制度申請者の立場から、皮下注射の現状と課題が多角的に論じられた。がん治療の時間毒性を改善できる皮下注射 大阪大学の吉波 哲大氏は、腫瘍内科医の立場からがん薬物療法における「時間毒性」の概念を提示した。がん薬物療法においては、骨髄抑制や悪心などの薬剤毒性に加え、近年は経済毒性が注目されている。もう1つの側面として、吉波氏は時間毒性の重要性を訴える。 時間毒性は経済毒性とも無関係ではない。たとえば、通院により仕事を休むことで、給与に影響が出る。このように、時間毒性は深刻化すると経済毒性につながる。「医療者は時間毒性に対する取り組みを強く認識しなければならない」と吉波氏は説明した。 吉波氏が専門とする乳がん領域でも皮下注射は活用されている。HER2陽性乳がんでは、トラスツズマブとペルツズマブの併用療法が用いられるが、近年トラスツズマブとペルツズマブの配合皮下注製剤(商品名:フェスゴ)が登場した。フェスゴは2剤併用と同等の血中濃度と有効性を示す。投与時間に関しては、従来の2剤投与の90分超に対し、フェスゴでは最短5分と、1時間以上短縮ができる。患者に2剤投与とフェスゴ投与のどちらを選ぶかを聞いたところ、85%がフェスゴと回答している。その理由の多くは「診療における所要時間の短さ」であった。 皮下注製剤について吉波氏は「がん治療の時間毒性を軽減する可能性を十分に秘めている」と結論付ける。製剤技術の進化が皮下注射の可能性を広げる 小牧市民病院の山本 泰大氏は、薬剤師の観点から皮下注製剤の特性と今後の展開を論じた。従来、皮下投与可能な薬液量は2mLが目安とされてきたが、ヒアルロン酸を配合することで皮下組織にスペースが確保される。そのため、薬液量が増えても投与が可能になった。同院では現時点で外来化学療法患者の約20%が皮下注射を受けている。「今後もさらに増えていくであろう」と山本氏は述べた。 国内で承認されている皮下注射抗がん剤として、前述のフェスゴに加えてダラツズマブ、アミバンタマブ、モスネツズマブなどがある。海外でもいくつかの薬剤で臨床試験が進んでいるという。 「皮下注射抗がん剤は、今後もさらに広がっていくことが予想され、医療コストや患者負担軽減につながることは間違いない。これからは臨床現場での運用や副作用のエビデンスを蓄積していくべき」と山本氏は述べる。緩和ケア領域における皮下注射のメリット 広島市立広島市民病院の余宮 きのみ氏は、緩和ケアにおける皮下注射の臨床的意義を紹介した。緩和ケア領域において持続皮下注はその簡便性と安全性から世界的に普及している。日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」でも、経口困難な患者に対するオピオイドの持続皮下注が推奨される。 緩和ケアにおける皮下注射の利点として余宮氏は、ルート確保の容易さ、シリンジポンプを小さくできる可能性、経口剤に比べた鎮痛達成の早さといった点などを挙げた。 「皮下注射は緩和領域においても重要な選択肢になるであろう」と余宮氏は述べる。安全な皮下注射投与のために 国立がん研究センター東病院の市川 智里氏は、看護師の立場から発言。皮下注射は簡便ではあるものの必ずしも安全というわけではないと指摘した。抗体薬、G-CSF製剤、ホルモン薬と多岐にわたる薬剤が皮下注射として使用されており、薬剤ごとの特性と注意事項を把握しておくことの重要性を強調する。 具体的には、6R(Right Patients・Right Drug・Right Dose・Right Time・Right Route・Right Purpose)と全身状態評価の徹底を挙げた。投与部位、硬結・疼痛予防、放射線照射部位・瘢痕部位の回避といった基本を押さえるとともに、皮下脂肪層が薄い高齢者や低栄養患者に対する工夫も重要だという。 同院では薬剤別の早見表(投与間隔、使用針ゲージ、投与部位、投与前チェック項目など)を化学療法室に掲示し、スタッフが入れ替わっても一定の質を保てるよう工夫している。市川氏はまた、「投与観察時間を患者とのコミュニケーション機会として活用し、副作用や生活上の意見を聞き取ることで治療継続を支援していきたい」と話す。外来腫瘍化学療法診療料への皮下注射の算定 国立がん研究センター中央病院の下井 辰徳氏は、2026年度診療報酬改定における「外来腫瘍化学療法診療料」への皮下注射剤算定について解説した。従来、点滴・静注は外来腫瘍化学療法診療料として算定されるが、皮下注製剤は算定対象外とされていた。 算定対象外であるため、医療機関は皮下注射を積極的に選択しにくいのが現状だ。フェスゴを例にとると、外来腫瘍化学療法診療料が算定できないという理由で、4割以上の患者で使用されていないという。 こうした状況を受け、日本臨床腫瘍学会をはじめとする団体が合同で医療技術評価分科会に要望を提出した。要望で示したのは、皮下注も点滴と同様に専門的なケアと安全管理を伴う医療行為であること、算定されない現状が患者の時間毒性軽減という利益を阻害していること、財政影響が限定的であるといった点である。 中医協での審議の結果、点数は点滴・静注よりも少ないが、2026年6月から皮下注製剤に対しても算定が認められる見通しだ。「次回診療報酬改定までの2年間で、算定の活用状況、点数設計などが検討されていくと予想される」と下井氏は述べる。

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免疫性血小板減少症、抗CD38抗体mezagitamabが有望/NEJM

 持続性または慢性の免疫性血小板減少症(ITP)を有する患者において、mezagitamabによる治療はプラセボと比較して、血小板数の増加をもたらし、安全性プロファイルは類似していたことを、米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らMezagitamab ITP Phase 2 Trial Investigatorsが第II相試験の結果で報告した。ITPは血小板破壊の亢進と血小板産生の抑制によって特徴付けられる自己免疫疾患であり、出血リスクの増加とQOLの低下を伴う。利用可能な治療法はあるが、約20%において十分な血小板数の維持が認められない。mezagitamabは、形質細胞、形質芽細胞およびナチュラルキラー細胞などをターゲットとする抗CD38抗体である。抗CD38療法は多発性骨髄腫の治療に広く用いられているが、自己免疫疾患の治療において有望な効果が示されている。NEJM誌2026年4月9日号掲載の報告。日本を含む9ヵ国の41例の第II相試験で有害事象、血小板反応などを評価 本試験は2つのパートからなる国際共同第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、持続性または慢性のITP(平均血小板数が2回以上の測定で3万/μL未満)を有する成人に対するmezagitamab(100mg、300mg、600mg)の週1回、8週間皮下投与の安全性と有効性を評価した。 主要エンドポイントは有害事象とした。有効性に関する主要な副次エンドポイントは、16週までのいずれかの2回以上の受診時における、血小板反応(血小板数が5万/μL以上かつベースライン値より2万/μL以上増加と定義)とした。 試験は2020年11月~2024年4月に行われ、ブルガリア、中国、クロアチア、ギリシャ、イタリア、日本、スロベニア、スペイン、ウクライナの9ヵ国24施設で計41例が無作為化された。16週までに観察された血小板反応、mezagitamab 600mg群で91% mezagitamab群28例(100mg群9例、300mg群8例、600mg群11例)の平均年齢は50歳(範囲:24~88)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~9)であった。プラセボ群13例の平均年齢は39歳(範囲:20~65)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~13)であった。また、平均ベースライン血小板数は、mezagitamab群1万9,100/μL、プラセボ群1万7,300/μLであった。 有害事象の発現頻度は、mezagitamab群19/28例(68%)、プラセボ群9/13例(69%)であった。Grade3以上の有害事象はそれぞれ5/28例(18%)、3/13例(23%)で報告された。重篤な有害事象はそれぞれ4/28例(14%)、1/13例(8%)であった。 16週までに血小板反応が観察されたのは、mezagitamab 600mg群で10/11例(91%)、プラセボ群では3/13例(23%)であった。

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