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英論文を作成する【タイパ時代のAI英語革命】第20回

日本語原稿を、ChatGPTを通じて英語化論文執筆の第一歩は、草稿を作成することです。日本人の医療従事者にとって、まず日本語で草稿を書くことは自然なアプローチでしょう。母語を用いることで、研究の背景や医学的な考察を整理しやすくなります。しかし、これを国際的な英語論文として成立させるには、単なる翻訳を超えた「医学英語として洗練された表現」が求められます。これまでであれば、専門の翻訳家やネイティブ校正者の助けを借り、何十時間もかけてようやく完成するものでした。しかし、近年の生成AIの登場により、このプロセスが劇的に変化しています。とくにChatGPTのような大規模言語モデルを活用することで、「早く」「的確に」「低コストで」英語論文を仕上げることが可能になってきました。本節では、なぜこれまで日本語→英語の翻訳が難しかったのかを確認したうえで、ChatGPTを用いた効率的な翻訳の方法についてご紹介します。なぜ日本語→英語の翻訳は難しいのか?医学論文における翻訳の壁は、単に語彙や文法の違いにとどまりません。とくに日本語と英語には、以下のような本質的な言語構造の違いがあります。・主語の省略日本語では、文脈から主語が明らかであれば省略することが一般的です。一方、英語の通常の文では、原則として主語を明示する必要があります。たとえば、「検査を行った」だけでは英語に訳せません。「We conducted the examination」など、主語を明示する必要があります。日本語原稿から英語にする際には、この「省略された主語」を補完する作業が不可欠です。・時制の使い分け日本語では時制の使い分けが比較的曖昧で、「~している」「~した」などが文脈により柔軟に使われます。しかし英語の論文では、Introductionでは現在形、MethodsやResultsでは過去形など、セクションごとに明確な時制のルールがあります。これを知らずに翻訳すると、不自然な英文になるリスクがあります。・医学論文特有の表現英語論文には、「be associated with…」といった頻出かつ定型的な表現があります。英語論文での「お作法」を知らなければ文のクオリティが担保されなかったり、正確に伝えられなかったりするリスクをはらみます。ChatGPTを使ったプロンプト設計図英語論文作成にはこうした困難があったわけですが、ChatGPTを活用することで日本語原稿を効率的に英語に翻訳することが可能になりました。ただし、その効果を最大限に引き出すには、「プロンプトの設計」が重要です。これまでの回でも何度も登場したプロンプトは、ChatGPTに与える指示文のことです。前回は「RTFフレームワーク(Role, Task, Format)」を紹介しましたが、今回はさらに精密な指示を可能にする「CRAFTフレームワーク」をご紹介します。私はこのプロンプト法を米国の小児学会のAIセッションで専門家から学びました。とても有用だと感じているので、ここで皆さんとシェアしたいと思います。「RTF」と基本的な構造は同じですが、「CRAFT」では新たに Context(文脈)と Target Audience(想定読者) の2つの要素が加わっています。なお、「RTF」の「T(Task)」に当たる部分は、「CRAFT」では「A(Action)」として位置付けられています。これらの追加要素により、ChatGPTに対してより詳細で文脈に即した指示を出すことが可能となり、論文執筆における微妙なニュアンスや目的に応じた英語表現を引き出すことができます。それでは例を見ながら実践していきましょう。以下に、ChatGPTを使って生成された架空の英語アブストラクトをご紹介します(あくまで翻訳練習用に作成されたサンプルであり、医学的な根拠は一切ありませんのでご注意ください)。背景糖尿病患者の血糖コントロールは合併症予防に不可欠であり、運動療法は有効な介入手段とされている。しかし、週3回程度の有酸素運動がHbA1cに与える影響を検討した研究は限られている。目的本研究では、2型糖尿病患者において週3回の有酸素運動がHbA1c値に与える影響を明らかにすることを目的とした。対象は2型糖尿病患者60例(平均年齢58.2±9.1歳、男性32例、女性28例)であり、介入群30例は12週間にわたり週3回、1回60分の中等度強度有酸素運動(ウォーキングまたはエアロバイク)を実施した。対照群30例には通常の生活習慣を維持させた。主要評価項目は介入前後のHbA1c値の変化とした。結果介入群ではHbA1c値が平均で0.6%低下し(7.8%→7.2%)、これは統計学的に有意であった(p<0.01)。対照群では有意な変化は認められなかった。群間比較でも介入群の改善効果が明確に示された(p<0.05)。結論週3回の有酸素運動は2型糖尿病患者において血糖コントロールを改善する効果を有することが示唆された。本研究結果は、日常診療における運動療法の推奨を裏付ける重要なエビデンスとなる。それでは早速「CRAFT」を用いて、この架空のアブストラクトを英語の論文調に変えていきましょう。プロンプト例C - Context(文脈)これから与えられる日本語の医学アブストラクトを、科学的正確性を維持しつつ、原文の内容のみに基づいて、流暢で簡潔かつ学術的に適切な英語に翻訳せよ。アブストラクトを提示する。R - Role(役割)あなたは、医学論文の英訳に豊富な経験をもち、一流学術誌への投稿支援を行ってきた専門的な翻訳者であり、同時に優秀なジャーナルエディターとして振る舞うこと。A - Action(行動)以下の日本語アブストラクトを英語に翻訳し、国際的な医学論文にふさわしいスタイルへと整えること。なお、以下の点に留意すること:原文の意味を忠実に保持すること。国際医学誌の執筆規範(統計表記・学術英語)に従うこと。医学専門用語を正確に使用すること。外部知識や推測は一切加えないこと。F - Format(形式)出力は 標準的な構造化アブストラクト形式(Background, Objective, Methods, Results, Conclusions)とする。フォーマルで簡潔な学術英語を使用すること。 数値や統計は国際的に標準的な記載(例:mean±SD、p<0.05)に整える。T - Target Audience(読者)対象読者は、国際的な医学学術誌の査読者である。彼らは、簡潔で正確かつ科学的インパクトのある英語アブストラクトを求めている。プロンプトの文量はやや多めですが、細かく条件を指定することで、精度の高い出力が得られます。このプロンプトをChatGPTに入力すると、「準備ができたら、アブストラクト本文を貼り付けてください」というメッセージが表示されました。そこで先ほどの日本語のアブストラクトを貼り付けると完成です。興味のある方はこのままコピーして試してみてください。いかがでしたか? 非常に自然で、ネイティブスピーカーが執筆したような論文調の英訳が一瞬で完成したのが確認できるかと思います。専門的な用語や表現も適切に使われており、学術誌にもそのまま通用するようなクオリティです。正直なところ、近年のChatGPTはさらに性能が向上しており、「CRAFT」を使用せずとも「英訳してください」の指示だけで、日本語の文脈から想定読者をある程度読み取り、それなりに質の高い翻訳を提示してくれるようになっています。とはいえ、語彙の選び方や表現の微妙なニュアンスには出力のばらつきが多く、アウトプットに差が出てしまうことも多くあります。より精度の高い英語表現を得るためには、「CRAFT」を活用することを強くおすすめします。このフレームワークはMyGPTに保存しておくことで、次回以降は日本語文を貼り付けるだけで自動的に高品質な翻訳を得られるようになり、さらに効率的に活用できるようになります(MyGPTの作成法は本コラムの第4回を参照)。

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AIが返した時間は、どこへ消えるのか ― 外来で明日からできる3つのこと

講師紹介ある日の外来で、予約が1件、直前に取り消しになった。十数分がぽっかり空いたはずだったのに、夕方になって思い返すと、その時間がどこへ行ったのか思い出せなかった。受付の「もう1人だけ、いいですか」。たまっていた書類。少し長引いた、次の診察。空いたはずの時間は、行き先を決められる前に埋まっていた。いま、この「時間が戻る」出来事を、1件の偶然ではなく日々の外来に繰り返し起こそうとしている技術がある。診察室の会話を記録してカルテの下書きを生成する、アンビエントAIと呼ばれる仕組みで、2026年、日本の外来にも入りはじめている。米国5施設の追跡研究では、アンビエントAIの導入は、予定診療時間8時間当たり16分の診療記録作成時間の短縮と関連していた1)。別の多施設評価でも、使用開始から30日で燃え尽きを訴える臨床医の割合が51.9%から38.8%に下がり、記録に関わる認知的な負荷の評価も改善した2)。返ってくるものを「何分短くなったか」だけで捉えると、少し足りない。臨床医自身の評価では、記録の負担だけでなく、患者に向ける注意にも変化が出ていた。ただし、その16分は1つの空き枠になって戻るとは限らず、一診ごとの数十秒、数分として散らばって戻る。そういう時間ほど、行き先を決めなければ見えなくなる。私は、こうした変化を軽く見るつもりはないし、導入に反対したいわけでもない。時間が実際に戻りはじめたからこそ、本格展開の前に決めておくべきことが1つある。その時間の行き先だ。戻った時間が患者にどう再投資されたかまで測った研究は、まだ限られている3)。カルテには診断を書く欄も処方を書く欄もあるのに、戻った時間の行き先を書く欄は、ない。消え方には、型がある冒頭の取り消し枠のように、外来で浮いた時間には決まった消え方がある。私はHealth Affairs Scholarに発表した政策論文で、この消え方を「時間を患者に届かせない7つの仕組み」として整理し、AIが返す時間と注意の余力をまとめてattention dividend(注意の配当)と呼んだ4)。ここでは、そのうち診察の現場で日々見えているものを挙げる。まず目につくのは、診療枠への吸収だ。先の研究では、記録時間が短くなるのと並行して、1人当たりの診療件数は週0.49件増えていた。一方、時間外の電子カルテ作業は有意には減っていなかった1)。この数字は、戻った時間の一部が追加の診療へ向かう可能性を示している。この吸収はAIを待たずに毎日起きているもので、空いた枠に「もう1人だけ」が入るとき、断る理由はたいてい見つからない。枠が増えること自体は悪ではなく、予約の取れない患者を待たせている現場では、むしろ純粋な利益だ。問題は、増枠が唯一の行き先になり、しかもそれを誰も選んでいないことだ。次に、別の事務作業への転用がある。空いた数分には、紹介状の返書や健診の判定、たまっていた診断書といった用事が流れ込む。AI導入後は、この列にAIの下書きの確認が加わる。AIが空けた時間の一部がその確認と修正で埋まるから、先の論文では、この作業を差し引いた「正味の時間」で測る必要があるとした4)。いちばん静かで、いちばん強いのは、基準値そのものが動くことだ。余裕がいつのまにか当たり前になり、「普通の忙しさ」の位置がずれていく。電子カルテが入ったときも、レセプトが電子化されたときも、浮いたはずの時間がいまどこにあるか覚えている人は少ない。導入の月には見えていた余裕が3ヵ月後には基準値になり、その間に何かを決めた記憶は誰にもない。ただ、そうなっていた。これらはAIが作り出した新しい現象ではない。外来では、空いた時間は昔からこうして埋まってきた。AIが変えるのは、それがたまの取り消しではなく、日々の診療のなかで繰り返し起こるようになることだ。だから、その場の心がけに任せるより、先に行き先を決めておいたほうがいい。明日からできる、3つのこと組織の話は最後に回して、まず1人の臨床医にできることを挙げたい。決める。配る。残す。どれも、AIの導入を待つ必要はない。時間の配り方なら、いまの外来でも毎日試されているからだ。第一に、決める。浮いた時間の行き先を、その日ではなく先に決めておく。外来が始まれば、流れは川だ。毎朝の意志力は、川に勝てない。勝てるのは、一度決めた規則だけだ。「取り消しで空いた枠は、受診間隔が空きすぎた患者への連絡に使う」「カルテ書きで浮いた時間は、検査結果の説明の電話に回す」。中身は現場ごとでいい。行き先を先に決めた時間だけが、残る。決めていない時間は、先に挙げたどれかの消え方をする。導入がこれからの現場なら、原資が届く前に行き先を決めておけるぶん、なおいい。第二に、配る。誰に使うかを決めておく。放っておくと、浮いた時間は、訴えや要望をはっきり言葉にできる患者、つまりよく話す人のほうへ流れる。それ自体は間違いではない。だが、この時間を最も必要としているのは、診察室でいちばん静かな人だ─「変わりないです」が早すぎる人。前回の稿で、症状の過小申告を性格ではなく臨床所見としてカルテに書くという話をした。あの所見のついた人こそ、この時間の宛先だと私は考えている。私は、診察の流れのなかで浮いた数十秒を、こういう患者に持ち込むことにしている。長く通っているのに、診察がいつも短く終わる。血圧は安定、処方は継続、「変わりないです」。以前ならそれで次の患者だったが、いまは1問だけ足す。食事は誰ととっているか。階段はどうか。夜は眠れているか。1問でいい。ある患者では、その1問から、配偶者の入院と、この数週間、薬の管理が本人任せになっていたことがわかった。残薬を数えると、合わなかった。血圧手帳からは、見えなかったことだ。もっとも、空振りに終わる日のほうが多い。「別に、何もないですよ」で終わって、それきりのこともある。それでも、訴えの少ない患者のpersonomics(患者の生活や価値観、社会的背景を診療の中核に置く臨床概念)は向こうからは来ないから、こちらの時間を先に配るしかない。AIが返す時間が増えるほどこの1問の原資は増え、増えた分がどこへ行くかは、配り先を決めてあるかどうかで変わる。第三に、残す。何に使ったかを記録に残すということだが、事務作業を減らす話の結論が記録を増やす話に見えるかもしれない。1行でいい。患者カルテに「浮いた時間」と書く必要はなく、追加聴取で得た生活情報はその患者の記録に1行、未受診者への連絡なら電話記録か業務ログに1行。残すのは時間そのものではなく、その時間で生まれたケアだ。記録に残らない仕事は、制度のなかでは存在しないことになる。次の効率化で最初に削られるのは、そういう仕事だ。1行の記録は、その時間を次の効率化から守る。そして、余裕がいつのまにか当たり前になっていくことへの、小さな錨にもなる。何に使ったかを残しているかぎり、基準値が静かに動くのを見逃さずに済む。組織の話を、最後に短くここまで挙げたのは個人の工夫だが、個人の工夫だけでは、いずれ押し切られる。行き先の決まっていない時間には制度の側から埋めようとする力が働くし、収益が件数に連動する仕組みのなかでは、増枠への引力は消えない。導入を検討している施設の管理者には、一対の物差しだけ持ち帰ってほしい。「速くなったか」を測るなら、「守られたか」も測る。記録時間の短縮と同じ表に、フォローアップの完了率や、同じ医師にかかれた患者の割合を並べる。できれば、稼働の前にいまの数字を書き留めておく。導入前の基準値は、後からではもう思い出せない。夕方になった。今日消えた時間の行き先は、もう思い出せない。ただ、明日戻ってくる時間の行き先なら、いまから決められる。私は明日の予約表を開いて、いちばん静かな名前に、印をつけた。※症例は個人が特定されないよう、診療上の本質を損なわない範囲で一部の情報を改変しています。 1) Rotenstein LS, et al. JAMA. 2026;335:1408-1417. 2) Olson KD, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2534976. 3) Tierney AA, et al. JAMA. 2026;335:1393-1395. 4) Shono Y. Health Aff Sch. 2026;4:qxag197.

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免疫性血小板減少症における初のBTK阻害薬「ウェイリズ錠」【最新!DI情報】第70回

免疫性血小板減少症における初のBTK阻害薬「ウェイリズ錠」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬「リルザブルチニブ(商品名:ウェイリズ錠400mg、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は免疫性血小板減少症を適応症として世界で初めて承認されたBTK阻害薬です。免疫異常に対して多面的に作用し、病態そのものにアプローチすることが期待されています。<効能・効果>持続性および慢性免疫性血小板減少症の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはリルザブルチニブとして1回400mgを1日2回、経口投与します。<安全性>重大な副作用として、感染症(COVID-19[17.2%]、上咽頭炎[咽頭炎を含む、13.6%]、肺炎[1.5%]、尿路感染[7.6%]、腎膿瘍[0.5%]、創傷感染[1.0%]、サイトメガロウイルス血症[0.5%])、肝機能障害(5.1%)、間質性肺疾患(0.5%)があります。その他の副作用として、頭痛、下痢、悪心、腹痛、上腹部痛、腹部不快感、消化器痛、関節痛(いずれも10%以上)、浮動性めまい、咳嗽、湿性咳嗽、嘔吐、消化不良(いずれも10%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、持続性および慢性免疫性血小板減少症に用いられます。2.ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という酵素に可逆的に結合してその働きを抑えることにより、B細胞の自己抗体産生やFcγ受容体を介した貪食を阻害することで、多面的な免疫調節作用を示し、血小板の減少を抑制すると考えられています。3.体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。4.この薬の使用中は、血小板数が安定するまでは週1回を目安に、その後は定期的に血小板数の検査を受けてください。5.重篤な感染症やB型肝炎ウイルスの再活性化が現れることがあるので、発熱などの感染の症状が現れた場合は、ただちに医師に連絡してください。6.息切れ、呼吸困難、咳、発熱などの症状が現れた場合には、間質性肺疾患の可能性がありますので、ただちに医師に連絡してください。【ここがポイント!】免疫性血小板減少症(Immune thrombocytopenia:ITP)は、後天性の自己免疫疾患であり、血小板の破壊亢進および産生障害によって血小板数が減少し、出血傾向を呈する疾患です。国内の患者数は約2万5,000例と推定されており、指定難病63に指定されている希少疾病です。以前は特発性血小板減少性紫斑病と呼ばれていましたが、現在の病名に変更されています。主な症状として、皮膚の点状出血や斑状出血、歯肉出血、口腔粘膜出血、鼻出血、下血などがみられ、重症例では脳出血を引き起こすことがあります。また、倦怠感に加え、出血に対する恐怖や不安、認知機能への影響などを伴うことがあり、患者のQOLは著しく低下します。本剤の有効成分であるリルザブルチニブは、ITPを適応症として世界で初めて承認されたブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton's Tyrosine Kinase:BTK)阻害薬です。BTKはB細胞、マクロファージ、マスト細胞などの免疫細胞に発現し、B細胞の分化や活性化を制御し、自己抗体や炎症性サイトカインなどの産生に関与しています。本剤はBTKを阻害することで、B細胞活性化の抑制、自己抗体産生の減少、Fcγ受容体を介した貪食作用の抑制など、多面的な免疫調節作用を発揮し、血小板減少の改善に寄与します。持続性または慢性のITP患者を対象としたLUNA 3試験(国際共同第III相検証試験:PRN1008-018/EFC17093試験)において、主要評価項目の二重盲検期間における持続的な血小板反応を達成した患者の割合は、本剤群は23.3%(95%信頼区間:16.12~30.49)、プラセボ群は0%で、両群間の差は統計学的に有意でした(p<0.0001)。

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1996年から30年の日本における多発性骨髄腫の診断・治療の変遷【温故知新30年】

講師紹介多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は、形質細胞の腫瘍性増殖を特徴とする造血器悪性腫瘍である。1990年代までは「治癒困難な疾患」であり、生存期間の中央値は約3~4年にすぎなかった。しかし、この30年間で診断技術、支持療法、新規薬剤、免疫療法の著しい進歩により、現在では長期生存が期待できる慢性疾患へと変貌したといえる。日本における多発性骨髄腫診療の発展は、国際的な研究成果を取り入れながら、日本骨髄腫研究会・日本骨髄腫学会や日本血液学会が中心となって診療指針を整備し、新規治療を迅速に臨床へ導入してきた歴史でもある。1996~2005年:MP療法から自家移植・新規薬剤登場前夜1996年ごろの標準治療薬はメルファランを中心とした抗がん剤であり、高齢者ではメルファラン・プレドニゾロン(MP療法)、若年者ではビンクリスチン・アドリアマイシン・デキサメタゾン(VAD療法)による寛解導入後に大量メルファラン療法と自家造血幹細胞移植(ASCT)が行われ始めていた。当時の診断の中心は血清・尿M蛋白、骨髄穿刺、単純X線検査であり、病期分類にはDurie-Salmon分類が広く用いられていた。支持療法も限定的であり、腎障害、感染症、骨病変への対応が治療成績を大きく左右していた。1998年以降、欧米ではサリドマイドの有効性が報告され、日本でもその有効性が認識されるようになった。サリドマイドは骨髄腫に対する最初の免疫調節薬(IMiD)であり、再発・難治例の治療を大きく変えた。当初、個人輸入で用いられたが、その後、サリドマイド製剤等安全管理手順(TERMS®)などが整備され、日本でも保険承認された(2008年)。2000年代前半には診断基準の標準化が進んだ。2003年にInternational Myeloma Working Group(IMWG)が診断基準を提唱し、日本でもこれが採用された。また2005年にはInternational Staging System(ISS)が導入され、血清β2ミクログロブリンとアルブミンによる簡便かつ再現性の高い病期分類が広く普及した。このISSの策定には日本の研究者も大きく貢献している。2006~2017年:プロテアソーム阻害薬・IMiD時代2006年は日本の骨髄腫診療における大きな転換点である。プロテアソーム阻害薬ボルテゾミブが承認され、新規薬剤時代が始まった。ボルテゾミブは再発例で高い奏効率を示し、その後、初回治療にも導入された。2000年代後半にはボルテゾミブを中心とした導入療法がASCT前治療として定着し、完全奏効(CR)率や生存率は大きく改善した。2010年にはレナリドミド、2015年にはポマリドミドが承認され、IMiD治療は新たな時代を迎えた。レナリドミドはサリドマイドより有効性と忍容性に優れ、再発例のみならず、初回治療や維持療法へも適応が拡大された。また2016年には第2世代プロテアソーム阻害薬カルフィルゾミブ、2017年には経口プロテアソーム阻害薬イキサゾミブが承認され、これらの薬剤の登場によって、再発治療の選択肢が急速に増加した。2008~2012年ごろには日本骨髄腫学会による「多発性骨髄腫の診療指針」が整備され、診断・治療アルゴリズムが標準化された。さらに血清遊離軽鎖(free light chain:FLC)測定が日常診療へ導入され、軽鎖型骨髄腫やALアミロイドーシスの診断精度が向上した。2014年のIMWG診断基準改訂はきわめて重要であった。症候性骨髄腫の診断に「Myeloma-defining events」が導入され、従来のCRAB(高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変)症状に加え、2年以内に80%以上の頻度で臓器症状が出現する患者を抽出するバイオマーカー(myeloma-defining biomarkers)として、骨髄形質細胞60%以上、FLC比100以上、MRIによる骨病変2ヵ所以上の3項目(SLiMと呼ぶ)が含まれた。これによって、臓器障害が出現する前に治療を開始できるようになり、不可逆的な骨障害や腎障害の予防が可能となった。また、FISHによる染色体異常解析が普及し、2015年にはdel(17p)、t(4;14)、t(14;16)などの高リスク遺伝子異常が改訂国際病期分類(R-ISS)に組み込まれ、新規薬剤時代の予後予測ツールとして利用されるようになった。2016~2021年:抗CD38抗体と3剤併用療法の時代2016年以降、モノクローナル抗体の時代が始まった。2016年には抗SLAMF7抗体エロツズマブ、2017年には抗CD38抗体ダラツムマブが承認され、従来の2剤併用療法に抗体薬を組み合わせた3剤併用療法が標準となった。とくにダラツムマブは移植適応・非適応の双方で生存期間の延長を示し、骨髄腫の初回治療を大きく変えた。さらに2020年には抗CD38抗体イサツキシマブも加わり、抗CD38抗体は骨髄腫治療の中心となった。2022年以降:CAR-T・二重特異性抗体2022年、プロテアソーム阻害薬・IMiD・抗CD38抗体を用いた複数治療後の再発・難治性骨髄腫(トリプルクラス抵抗性)に対し、BCMA CAR-Tのイデカブタゲン ビクルユーセル(Ide-cel)とシルタカブタゲン オートルユーセル(Cilta-cel)が承認され、2024年にはBCMA/CD3二重特異性抗体のエルラナタマブ、2025年にはBCMA/CD3二重特異性抗体のテクリスタマブ、GPRC5D/CD3二重特異性抗体のトアルクエタマブが相次いで承認された。多剤治療抵抗性骨髄腫において、これらのT細胞を活用した免疫療法が新たな治療の柱となった。今後5年間の多発性骨髄腫診療の進歩への期待現在、抗CD38抗体を含む4剤併用療法が初回治療の標準となりつつあるが、今後はBCMAやGPRC5Dを標的とした二重特異性抗体やCAR-T細胞療法が、初回治療や早期再発例へも適応が拡大され、より深い奏効と長期寛解が得られる可能性がある。また、CELMoD(cereblon E3 ligase modulator)など新たな作用機序を有する薬剤も実臨床に導入され、薬剤耐性例に対する治療選択肢はさらに広がると考えられる。診断技術の面では、次世代フローサイトメトリーや次世代シークエンスを用いた微小残存病変(MRD)評価が日常診療にさらに広く普及し、治療効果判定だけでなく、治療期間や維持療法の継続・中止を判断する指標として活用されることが期待される。さらに、循環腫瘍DNA(ctDNA)や質量分析法によるM蛋白測定などの低侵襲なバイオマーカーの実用化により、骨髄穿刺に依存しない病勢評価も現実味を帯びてきている。一方、高齢患者の増加に伴い、フレイル評価や患者報告アウトカム(PRO)を取り入れた治療選択がさらに重要となる。高齢者においても治療効果だけでなく、QOLや社会生活の維持を重視した固定期間治療や外来中心の治療戦略が普及すると考えられる。また、感染症予防や支持療法の充実により、免疫療法をより安全に長期間継続できる体制も整備されると思われる。今後5年間の多発性骨髄腫診療は、「免疫療法の最適化」と「個別化医療」の進展により、さらなる治療成績の向上が期待される。

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イサツキシマブ皮下注製剤発売、投与時間の短縮と患者・医療者の負担軽減に/サノフィ

 サノフィは2026年8月27日、イサツキシマブの皮下注製剤「サークリサ皮下注1400mg」を発売した。本製剤は、多発性骨髄腫に対するポマリドミド・デキサメタゾン併用療法(Pd)、カルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法(Kd)、ボルテゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン併用療法(VRd)が適応となる。点滴静注に加えて皮下注による投与が可能となることで、患者や医療者のニーズに応じて投与方法を選択できるようになった。 イサツキシマブは2020年8月、再発または難治性の多発性骨髄腫治療薬として日本で発売されているが、今回の皮下注製剤の追加により、静脈内投与と比べ、投与時間の大幅な短縮が可能になった。治療における身体的・時間的な負担軽減のほか、診療業務の効率化による医療者の負担軽減も期待される。<製品概要>販売名:サークリサ皮下注1400mg一般名:イサツキシマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:多発性骨髄腫用法及び用量:他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはイサツキシマブ(遺伝子組換え)として1回1400mgを、併用する抗悪性腫瘍剤の投与サイクルを考慮して、以下のA法又はB法の投与間隔で皮下投与する。A法:1週間間隔、2週間間隔の順で投与する。B法:1週間間隔、2週間間隔及び4週間間隔の順で投与する。薬価:270,495円(1400mg/10mL 1瓶)製造販売承認日:2026年6月19日薬価収載日:2026年8月13日発売日:2026年8月27日製造販売元:サノフィ株式会社

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鎌状赤血球症へのアルギニン療法、疼痛発作時間を短縮せず/JAMA

 鎌状赤血球症に伴う急性疼痛発作を有する小児および若年成人において、アルギニン療法はプラセボと比較し、疼痛発作消失までの時間を短縮しなかった。米国・エモリー大学のClaudia R. Morris氏らPediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)が、同国の小児病院10施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験「Sickle Cell Disease Treatment With Arginine Therapy trial:STArT試験」の結果で示された。鎌状赤血球症患者において、急性疼痛発作は救急外来受診や入院の主な原因であるが、米国食品医薬品局(FDA)により承認された治療薬は存在しない。急性疼痛発作中に患者は急性アルギニン欠乏を呈し、発作消失までの時間の延長や非経口オピオイドの総投与量が増加する。単施設で行われた複数の第II相無作為化試験では、アルギニンは安全でオピオイド使用量を減少させ、心肺機能を改善し、入院期間を短縮することが示されていた。JAMA誌オンライン版2026年8月19日号掲載の報告。アルギニンvs.プラセボで疼痛発作消失までの時間を評価 研究グループは、鎌状赤血球症(遺伝子型を問わず)と確定診断され、非経口オピオイドの投与を要する急性疼痛で救急外来を受診した3~21歳の患者を対象とした。 対象患者を、救急外来での初回オピオイド静脈内投与後12時間以内にアルギニン群またはプラセボ群に無作為に割り付け、初回投与量として200mg/kgを静注後、8時間ごとに100mg/kg静注を最大21回または退院までのいずれか早いほうまで継続した。 主要評価項目は、疼痛発作消失までの時間(試験薬初回投与から非経口オピオイド最終投与までの時間で定義)、副次評価項目は、非経口オピオイドの総投与量(初回投与から最終投与までの期間における静注モルヒネ投与換算量[mg/kg])、疼痛スコアおよび患者報告アウトカムなどであった。両群間で有意差はなく、試験は早期中止に 2021年6月21日~2024年6月13日に、274例が無作為化され、このうち271例が試験薬の投与を受けた(アルギニン群129例、プラセボ群142例)。患者背景は、平均年齢14.3歳(SD 4.3)、51%が男性、92%が黒人であった。 第2回中間解析において、疼痛発作消失までの時間中央値は、アルギニン群60.8時間(四分位範囲[IQR]:34.8~109.0)、プラセボ群65.8時間(IQR:31.1~111.1)で、有意差は認められなかった(絶対群間差:7.2時間、95%信頼区間:-21.6~35.9)。したがって、本試験は無益性のため早期中止となった。 副次評価項目である非経口オピオイド総投与量、疼痛スコアおよび患者報告アウトカム、ならびに安全性のいずれも、両群間で有意差は認められなかった。

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SNAP試験:MSSA菌血症に対するセファゾリンの位置付けを変えるエビデンス(解説:小金丸博氏)

 MSSA(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus)菌血症に対する治療では、長年、欧米を中心にflucloxacillin、クロキサシリン、nafcillinなどの抗ブドウ球菌用ペニシリン(antistaphylococcal penicillin:ASP)が標準治療として位置付けられてきた。一方、セファゾリンは広く使用されているものの、とくに重症感染症における有効性については、ASPと比較した質の高いエビデンスが十分ではなかった。この長年の臨床的疑問に対して、大規模ランダム化比較試験で答えを示したのがNEJM誌2026年6月18日号に報告された「SNAP試験」である。 本試験はMSSA菌血症患者を対象とした国際共同ランダム化比較試験であり、セファゾリン群671例とflucloxacillinまたはクロキサシリン群670例を比較した。主要評価項目は90日死亡率で、解析対象患者においてセファゾリン群15.0%(97/645例)、ASP群17.0%(109/642例)であった。調整オッズ比は0.81(95%信頼区間[CI]:0.59~1.12)であり、事前に設定された非劣性基準を99.2%の確率で満たした。すなわち、セファゾリンはMSSA菌血症における死亡リスクに関してASPに劣らないことが示された。一方で、セファゾリンがASPより優れていると結論付ける試験ではない点には注意が必要である。死亡率低下に関する優越性の事後確率は89.8%であり、有効性の面でセファゾリンを支持する傾向は認められたものの、明確な優越性を証明した結果ではなかった。 注目すべき点は、安全性における差である。急性腎障害の発生率は、セファゾリン群13.9%(92/660例)に対してASP群19.6%(127/648例)であり、調整オッズ比は0.67(95%CI:0.50~0.89)とセファゾリン群で有意に低かった。MSSA菌血症に対して同等の治療効果を維持しながら腎障害リスクを低減できる可能性は、実臨床において重要な意味を持つ。 これまでセファゾリンについては観察研究やメタ解析からASPと同等の治療成績が示唆されていたものの、治療選択には一定の不確実性が残されていた。その背景には、cefazolin inoculum effect(CzIE)への懸念がある。これは高菌量条件下で一部のMSSA株においてセファゾリンの活性低下が認められる現象であり、感染性心内膜炎や深部感染症などではASPを優先すべきではないかという議論につながっていた。今回のSNAP試験は、CzIE陽性株に限定した検討ではなく、またすべての特殊な感染病態に対する最適治療を決定したものではない。しかし、実臨床に近い幅広いMSSA菌血症患者集団において、セファゾリンがASPと比較して死亡率で劣らないことを示した点は、これまでの懸念を大きく軽減する結果といえる。 日本の臨床現場では、セファゾリンは以前からMSSA菌血症の主要な治療選択肢として使用されてきた。その理由には、十分な抗菌活性に加え、投与の利便性、腎毒性の少なさ、忍容性の高さなどがある。今回のSNAP試験は、日本で広く行われてきた診療を単純に追認するものではなく、セファゾリンという薬剤がMSSA菌血症治療において国際的にも標準的な選択肢となりうることを、高品質なエビデンスで示した点に意義がある。ただし、本試験によってすべての臨床的課題が解決されたわけではない。感染性心内膜炎、中枢神経感染症、人工物関連感染、さらにCzIE陽性株における最適な治療戦略については、今後も検討が必要である。

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腫瘍崩壊症候群、ラスブリカーゼ早期投与が有用/BMJ

 腫瘍崩壊症候群(TLS)を呈した成人において、ラスブリカーゼによる早期治療は、投与が遅れた場合や投与されなかった場合と比較し、腎代替療法を要する急性腎障害または死亡のリスクを約3分の1減少させることが示された。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のTushar Shenoy氏らが、標的試験エミュレーション研究「Study of the Treatment and Outcomes in Patients with Tumour Lysis Syndrome:STOP-TLS」の結果を報告した。これまでの研究で、ラスブリカーゼはTLS患者において血清尿酸値の急速な低下にきわめて有効であることが示されているが、ラスブリカーゼがこうした患者の臨床アウトカムを改善するかどうかを厳密に検証した研究はなかった。BMJ誌2026年7月23日号掲載の報告。腎代替療法を要する急性腎障害または死亡リスクを標的試験エミュレーションで評価 研究グループは、2014~23年に米国9州の大規模医療センター10施設に属する36病院において、活動性の血液悪性腫瘍あるいは転移を有する固形腫瘍を有し、腫瘍量が多い、または検査所見および臨床所見がTLSに合致する18歳以上の入院患者を対象に、TLS発症後12時間以内にラスブリカーゼによる治療を開始したか否かに基づき患者を分類し、早期ラスブリカーゼ投与群と早期ラスブリカーゼ非投与群を比較する標的試験エミュレーションを実施した。 主要評価項目は、TLSによる入院中の腎代替療法を要する急性腎障害または死亡の複合とし、重要な副次評価項目は90日死亡率とした。 主要解析では、逆確率治療重み付け(IPTW)により交絡因子を調整したロジスティック回帰モデルを用い、早期投与群と早期非投与群の治療効果を推定した。TLS発症後12時間以内のラスブリカーゼ投与でリスク低下 2014~23年にTLSで入院した連続症例2,096例のうち、適格基準を満たした1,276例が解析対象となった。このうち705例(55.3%)がTLS発症後12時間以内にラスブリカーゼの投与を受けた(早期投与群)。残る571例は早期非投与群で、このうち193例はTLS発症後12時間を経過した後にラスブリカーゼを投与され、378例はラスブリカーゼを投与されなかった。 早期投与群において、ラスブリカーゼ投与までの時間は中央値で5.0時間(四分位範囲:3.1~7.5)であった。早期投与群は早期非投与群に比べて尿酸値が高かったが(中央値はそれぞれ0.71mmol/L、0.59mmol/L)、IPTW適用後の重症度は両群間で類似していた。 主要評価項目の複合イベントは、IPTW適用後の早期投与群で32.7%(230/704例)、早期非投与群で42.0%(244/581例)に発生し、ラスブリカーゼの早期投与は腎代替療法を要する急性腎障害または死亡のリスク低下と関連した(補正後オッズ比[OR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.88、絶対リスク群間差:-9.3%、95%CI:-15.4~-3.0、p<0.001)。これらの結果は、複数の感度分析および90日死亡率(補正後OR:0.71、95%CI:0.54~0.94)でも一貫していた。 なお、著者らは、残余交絡の可能性が除外できないこと、本研究はTLSの予防ではなく発症後のTLS治療に焦点を当てたものであり、ラスブリカーゼの予防的投与を受けた患者は除外されたこと、すでに腎代替療法を受けているTLS患者に対するラスブリカーゼの臨床的有効性については検討しなかったことなどを研究の限界として挙げている。

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医師の4割が抱える歯の悩みとは/医師1,000人アンケート

 近年、口腔疾患は糖尿病、脳梗塞、動脈硬化に伴う心筋梗塞など、全身疾患リスクとの関連性が見いだされたり、高齢者の健康寿命を縮める10大原因の1つとしても問題視されたりしている。このような状況を踏まえ、日本でも2026年度より『歯周病検診マニュアル2023』1)や歯科健康診査票を用いた歯周病検診がスタートし、国を挙げて国民の歯周病の早期発見・重症化予防に乗り出している。そこで今回、日々患者の健康を守る医師自身の定期検診や歯周病検診の受診率、口腔ケアの実態についてアンケート調査を行い、医師自身の歯科領域に対する意識を可視化した。歯周病や歯間への挟まりに悩む まず、自身の歯の健康やオーラルケアに対する意識(Q1)について、「意識している」と回答した医師は約90%に上り、年齢による差はみられなかった。診療科別では、血液内科(100%)、脳神経外科(97%)、呼吸器科(95%)の順で意識が高いものの、眼科医は76%と意識が低かった。 口腔内の健康で気になっていること・悩み(Q2)については、歯周病(38%)が最も多く、歯と歯の間にものが挟まりやすい(29%)、歯の着色・黄ばみ(26%)と続いた。しかし、これらは加齢による影響も大きいことから、歯周病に対する意識は年齢とともに上昇する傾向がみられた。一方で、20代医師の悩みの多くは、歯の着色・黄ばみ、口臭、歯並びなど審美的要素が中心であった。 日常のオーラルケア・審美目的で行っていること(Q3)は、デンタルフロス・歯間ブラシの使用(59%)、電動歯ブラシ・特殊な歯ブラシの使用(32%)、マウスウォッシュ・洗口液の使用(26%)と続いた。デンタルフロス・歯間ブラシの使用はいずれの年代でも最も多く、上述の悩みの解消のために実践されていた。歯周病検診や定期検診の受診率は約60% 歯周病検診を含め、定期検診やメンテナンスで歯科受診している医師の割合は60%に上り、20代を除く30代以降の半数以上が、なんらかの目的で1年に1回以上は歯科受診していた。その年間費用は、80%以上の医師で「5万円未満」であったが、50万円以上という回答も30代以上では1%ほどみられた。意識と行動のギャップ、「頭で理解していても通えていない」 全体を通して、日常のオーラルケアへの意識がある医師は約90%と非常に高い水準であるが、不定期を含め受診経験のある医師は約60%(定期的に通う医師は54%)にとどまり、約40%は受診していなかった。歯のケアなどに関する自由記入では、以下のような声が寄せられた。―――・定期検診の必要性はわかるが、予約が取りづらく、なかなか歯科に行けない(60代、形成外科)・セカンドオピニオンが医科よりも難しい(60代、耳鼻咽喉科)・どれくらいの間隔で歯科受診したらいいのか?(50代、小児科)・顎関節症、口臭、舌痛など、どの医療機関に相談したらよいかわからないことが多い(50代、耳鼻咽喉科)・歯石除去予防が困難(60代、内科)・若いうちにケアしておくべきだったと後悔しています(50代、麻酔科)――― このように、口腔の悩みやセルフケアの必要性を認識しているものの、通院時間や業務の忙しさなどのアクセス面が障壁となり、適切な治療に到達できていない可能性が浮き彫りになった。また、医師であっても自身の受診のみならず、医科歯科連携先の歯科医院選択などの悩みを抱えており、その詳細は以下のページに掲載している。医師自身の口腔ケア問題、その対策は?/医師1,000人アンケート

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多発性骨髄腫の維持療法、2年vs.無期限/NEJM

 新規に多発性骨髄腫と診断され、初回治療として自家造血幹細胞移植が非適応の標準リスクの患者における、導入療法後の維持療法の投与期間について、無期限投与は固定期間(2年間)投与と比較し全生存期間(OS)を有意に延長しなかった。米国・メイヨークリニックのShaji Kumar氏らが、無作為化第III相試験「ENDURANCE試験」の結果を報告した。現行治療では、レナリドミドによる維持療法は病勢進行までとされているが、最適な投与期間について明らかにされていなかった。NEJM誌2026年7月16日号掲載の報告。導入療法完了後に継続投与群と固定期間投与群に無作為化 ENDURANCE試験の対象は、新規に多発性骨髄腫と診断され、初回治療として自家造血幹細胞移植の適応がないと判断された、あるいはその予定がない成人患者で、高リスク患者は除外した。 研究グループは、被験者を導入療法期として、KRd(カルフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン;1サイクル4週間として9サイクル)群、またはVRd(ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン;1サイクル3週間として12サイクル)群に無作為に割り付けた。さらに、導入療法を完了し適格基準を満たした患者を、維持療法期として、レナリドミド継続(無期限)投与群または固定期間(2年間)投与群に無作為に割り付けた。 主要評価項目はOS、重要な副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)であった。 本試験は、無作為割り付けされた395例を対象に、9年間の追跡期間中の死亡数を204例とした場合に、OS中央値の50%延長(5年から7.5年へ)の検出力を80%(両側有意水準5%)有するよう設計された。7年OS率は無期限投与群68.6%、2年間投与群69.0%で、有意差なし 2013年12月~2019年2月に1,087例が導入療法としてKRd群(545例)またはVRd群(542例)に無作為化され、このうち516例(47.5%)が維持療法期の適格となり無期限投与群(260例)および2年間投与群(256例)に無作為化された。 維持療法期の無作為化後からの追跡期間中央値86ヵ月において、両群間のOSに有意差は認められなかった。死亡は各群80例で、7年OS率は無期限投与群で68.6%、2年間投与群で69.0%であった(群間差:-0.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-9.0~8.3、p=0.93)。 7年PFS率は、無期限投与群で36.1%、2年間投与群で29.7%であった(群間差:6.4%ポイント、95%CI:-2.6~15.4)。 非黒色腫皮膚がんを除く2次原発がんの5年累積発生率は、無期限投与群で11.2%、2年間投与群で8.3%であった。 有害事象は無期限投与群でより多く認められ、Grade3以上の非血液学的有害事象の発現割合は、無期限投与群48.2%、2年間投与群31.5%であった。

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病名の奥に、その人がいる─過小申告を読むpersonomics外来 過小申告と診療の連続性─ある予約外受診から

講師紹介―――――――――――――――その日の外来は、もう動きはじめていた。予約外の受付があった、と看護師が伝えてきた。名前を見て、私は手を止めた。何年もの間、この人が予約外で来たことはなかった。70代後半の女性。普段の訴えは、ほとんどない。血圧の薬を1日1回、几帳面に飲んでくる。診察室に入ると、まず「すんません、忙しいのに」と言う。家族は近くに住んでいるが、頼ることはあまりしない。「大丈夫やから」が、口ぐせだった。数年前、腹部の重い病気で入院し、手術を受けたことがある。受診まで時間がかかった、と私は記憶している。痛みを我慢して、最初は「そのうち治る」と思っていた、と退院後に話していた。そのカルテの人が、予約外の枠で座っていた。「すんません、こんなんで来てしもて」そう言って、私の目を見ないまま、軽く頭を下げた。「どうされましたか」「いや、たいしたことないと思うんやけど、おなかがね」「いつから」「今朝から。昼から、ちょっと」「痛みは」「いや、痛いっていうほどでも。ちょっと、おかしいなあと思うくらいで。大丈夫と思うんやけどね」私はカルテを開きかけて、やめた。採血をオーダーして、結果は明日の予約で見ましょう─そう言いかけた口が、そのままになった。エコーは予約に空きがある、来週でも、と言いかけた声も、止まった。私は、その人の腹部を診た。腹は、硬かった。迅速採血を依頼した。エコーを、その場で当てた。所見を1つ確認した時点で、紹介状を書きはじめていた。―――――――――――――――私がこの日、標準ルートを越えた根拠は、検査値ではなかった。その根拠は、目の前の人の、いつもの話し方だった。普段、訴えない。痛みを言わない。「大丈夫」と言ったまま、時間が経ってから入院になった既往がある。その人が、予約外で来て、「大丈夫と思うんやけどね」と言っている─これは、ふつうの患者の「大丈夫」とは、別物だった。文字にすれば同じ「大丈夫」だが、この人の口から出るとき、その語は反対の意味を運んでくる。普段訴えない人の弱い訴えは、ふつうの人の強い訴えに等価だ。場合によっては、それより重い。2015年、Johns HopkinsのRoy Ziegelsteinが、personomicsという言葉を提唱した1)。ゲノム、検査値、リスクスコアに依拠するprecision medicine(精密医療)に対して、患者の生活、価値観、家族、語り方の癖、迷惑をかけたくないという気質までを、診療判断に組み込むという考え方である。2017年にThe American Journal of Medicineが同名のシリーズを立ち上げ2)、いまも国際的な内科の文脈で議論が続いている。日本語で言いかえれば、病名の奥を読む、ということになる。病名の奥に、その人がいる。その人の人生がある。その人なりの「大丈夫」がある─そこまでを、1つの臨床判断に含める、という意味だ。抽象的な思想ではない。今日のあの場面で、私が外注採血と予約エコーを飛ばし、その場で診察に踏み込んだ判断の根拠が、まさにそれだった。検査値はまだ何もなかった。あったのは、これまでの診療で蓄積された、その人のベースラインとの違いだった。―――――――――――――――これは、感受性の問題ではない。臨床判断の作法の問題である。明日の外来で使える形に、ほぐしておきたい。ひとつ─過小申告は性格ではなく、臨床所見である訴えの少ない患者を、「我慢強い」「謙虚」と性格の言葉で記述してしまうと、その情報はカルテに残らない。残ったとしても、次の外来で活用されない。私は、こうしたタイプの患者を診たとき、カルテのアセスメント欄に、こう書き込むようにしている。「普段、訴えを最小化する傾向あり。訴えがあるときは、額面で受けない」。次に診るとき、自分が忘れている可能性があるからだ。あるいは、別の医師がカバーで診るときに、その医師に届くようにしておく。これは、その人を性格で評価する記述ではなく、診療閾値を申し送る記述である。アレルギー歴と同じレベルで、診療の安全に関わる情報として扱う。ふたつ─普段訴えない人の訴えは、閾値を下げて受けるふつうの患者なら、「ちょっと、おなかが」と言われたとき、外注採血と後日の画像で十分な場面がある。多くの場合、それで足りる。しかし、普段訴えない人が同じ言葉を言ったとき、額面の7割引きで受けるのではなく、むしろ3割増しで受ける。同じ言葉でも、運ばれてくる情報量が違う。具体的には、その場で身体所見を取る。腹なら触る。胸なら聴く。歩行なら歩いてもらう。標準ルートで進めるかどうかは、所見を取った後で決める。過小申告者については、所見を確認するまで標準ルートに乗せない─これを、自分のルールにしておく。時間はかからない。腹部の触診なら1分、聴診も1分、歩いてもらうのも1分。むしろ、所見をその場で1つ取ることで、不要な検査と再診を省ける場合のほうが多い。みっつ─最小化を迂回する1問を持つ「おなか、痛いですか」と訊くと、過小申告者は「いや、それほどでも」と返す。これは、その人の痛みが軽いのではなく、その人の答え方が「軽く言う」設定になっているからだ。訊き方を変える。「ご飯、いつも通り食べられましたか」。「夜、横になれましたか」。「ふだんと比べて、どこか違いますか」。本人が答えを過小に刻まなくても済む形の問いを、いくつか手元に持っておく。ふだんとの差分を本人の言葉で取り出せれば、その差分はそのまま臨床所見になる。「ふだんは3杯食べる味噌汁が、1杯しか入らんかった」─これは、「食欲低下」というカルテの1行よりも、はるかに具体的な情報だ。―――――――――――――――ここで、1つの問いに突き当たる。もしこの日、その患者にとって初めて会う医師が診察にあたっていたら、どうだったか。あるいは、カバーで入った別の医師だったら。カルテには、基礎疾患と内服が並ぶ。手術歴も記録されている。けれど、「この人は普段、訴えを最小化する」という1文は、書かれていなければ引き継がれない。書かれていても、忙しい外来で、別の医師がそこを読み取って判断に組み込めるかは、別の話だ。おそらく、標準ルートで進んだだろう。外注採血、明日のエコー。それで悪いというわけではない。多くの患者にとっては、それで足りる。ただ、この患者については、足りなかった可能性が、十分にある。プライマリケアの価値は、Starfield以来、繰り返し論じられてきた3)。その中でも診療の連続性は、患者アウトカムに関わる重要な要素として、近年あらためて注目されている。同じ医師、あるいは同じ診療所・診療チームに継続してかかることは、死亡率の低下や予定外の病院接触・時間外受診の減少と関連することが示されている4,5)。その根拠は、抽象的なものではない。今日の私の判断のような、1つひとつの場面の累積である。同じ患者を継続的に診ているからこそ、その人の口ぐせが、いつもより一段静かであることに気づける。「すんません、忙しいのに」の声色の、わずかな違いに反応できる。これらは、1回の診察の中だけでは取り出せない、別の層にある情報だ。ambient AI(医師と患者の会話を自動で記録する技術)が外来に入りはじめた2026年に、念のため書いておきたい ─これはAIへの異議ではない。AIは会話を、丁寧に、正確に、診療録に変換していく。これからの数年、その精度はさらに上がるだろう。私自身、その効率の恩恵に与っている。ただ、AIが記録するのは、その日に交わされた言葉である。何年もの外来を跨いで蓄積された、「この人の『大丈夫』は、ほかの人の『大丈夫』とは別の物差しで読まなくてはならない」という臨床知識は、どの1日の診療録にも、書かれていない。それは、同じ医師が、同じ患者を、何度も診ているうちに、その医師の中に育っていくものだ。病名の奥を読む、という臨床能力の、いちばん実装的な姿は、ここにある6)。継続して、同じ目で、同じ人を診ること。そして、その積み重ねを、自分のなかで、次の外来へと運ぶこと。―――――――――――――――冒頭の患者は、転送先で緊急の処置を受け、一命をとりとめた。その報せを受け取ったのは、外来をすべて終えた後のことだった。病名の奥は、検査で見えるようになるのではない。検査にたどり着く判断のところで、もう、見えている。その判断を支えているのは、検査機器でも、AIでもない。同じ机の、こちら側に座って、その人をもう一度迎えるという、外来診療の連続性そのものである。私は、次のカルテを開く前に、その人の「大丈夫」の重さを、もう一度、自分の中で確かめる。※本稿の患者描写は、特定を避けるため記述の本質を変えない範囲で匿名化している。 1) Ziegelstein RC. JAMA Intern Med. 2015;175:888-889. 2) Hellmann DB, et al. Am J Med. 2017;130:622. 3) Starfield B. Lancet. 1994;344:1129-1133. 4) Pereira Gray DJ, et al. BMJ Open. 2018;8:e021161. 5) Prior A, et al. Lancet Prim Care. 2025;1:100016. 6) Shono Y. Am J Med. 2026 May 5.[Epub ahead of print]

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日本の骨髄線維症患者における貧血および輸血依存の関係

 日本の骨髄線維症(MF)患者において、貧血および輸血が罹患率、死亡率、医療費の増加と関連していることが後方視的コホート研究で示された。同研究結果はPLoS One誌(2026年5月8日付オンライン版)で発表された。 同研究は、日本の大規模診療データベース(Medical Data Vision)を使用し、MF患者全体およびJAK阻害薬治療を受けたサブグループにおける、治療パターン、輸血負担などを調査することを目的に実施された。対象は2015年4月1日~2022年6月30日に特定されたMF患者で、全体コホートは836例、そのうちJAK阻害薬投与サブグループは281例であった。 主な結果は以下のとおり。<全体コホート>・同コホートの59.9%が貧血を合併しており、血小板減少症の合併も18.7%で認められた。・基準日(診断日)における輸血状況は、輸血依存が37.9%、要輸血が6.6%、輸血非依存が55.5%であった。・MF診断からのOS中央値は83.3ヵ月。貧血なし群では未到達、貧血あり群では62.0ヵ月と、貧血なし群で有意に延長していた(p<0.0001)。<JAK阻害薬投与サブグループ>・同サブグループの全例がルキソリチニブの投与を受けていた。・同サブグループの66.9%が貧血を合併しており、血小板減少症の合併も22.8%で認められた。・基準日(投与開始日)における輸血状況は、輸血依存が47.0%、要輸血が9.3%、輸血非依存が43.8%であった。・OS中央値は全体で53.9ヵ月。貧血なし群では未到達、貧血あり群では45.7ヵ月と、貧血なし群で有意に延長していた(p<0.0001)。<医療資源利用と費用>・ルキソリチニブ投与患者1例における1ヵ月間の総医療費は73万3,800円であった。そのうち全薬剤費平均値は49万8,933円であった。・患者1例における1ヵ月の全薬剤費は貧血のある患者では51万4,259円、貧血のない患者では42万9,817円。輸血依存群の同費用は63万4,044円、非依存群は38万4,720円であった。 筆者はJAK阻害薬投与群のOSは、基準日や患者背景の違いもあり、MF全体とは比較できないと付記している。これらの結果から、日本のMF患者の半数以上が貧血を合併し、輸血に依存している現状が明らかになった。また、貧血の合併や輸血依存の状態が生命予後に影響することも示された。実臨床におけるMF患者の疾病負担を軽減するための新たなアプローチや治療戦略の必要性が浮き彫りとなった。

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第323回 学会で質問殺到、コロナの予防投薬は誰にいつする?

INDEXコロナ治療薬、今はどうなっている?NEJM誌掲載の“今”の予防方法学会セッションでも質問殺到コロナ治療薬、今はどうなっている?新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が感染症法上の5類に分類されてから3年以上が経過した。基礎疾患を有する高齢者にとってはいまだ脅威となる感染症だが、世間全般で見れば、もはやコロナ禍なぞどこ吹く風である。そしてやや酷な言い方をしてしまえば、コロナ禍中に世を賑わせた新型コロナに対する治療も“後退”を余儀なくされている。ご存じのようにコロナ禍中は、外資系のメガファーマを中心に国から特例・緊急承認を受け、その後に通常承認へと移行した治療薬も相次いだ。これまで何らかの形で承認されたのは以下の通りだ。抗ウイルス薬としては、第一弾で静脈注射のレムデシビル(商品名:ベクルリー)が登場し、経口薬のモルヌピラビル(ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)、エンシトレルビル(ゾコーバ)の順で上市された。また、これ以外にも中和抗体薬としてカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ)を皮切りにソトロビマブ(ゼビュディ)、チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド)、新型コロナによる肺炎に対して経口JAK阻害薬バリシチニブ(オルミエント)、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体のトシリズマブ(アクテムラ)も承認された。しかし、mRNAワクチンの登場に加え、感染主流株が病原性の低いオミクロン株系統へと移行した結果、治療の景色は一変した。まず、デルタ株からオミクロン株への変遷で、ウイルス表面のスパイクタンパク質の変異が大きかったことから中和抗体薬はほぼ無効になり、事実上の退場となった。オミクロン株系統では肺炎患者が大幅に減ったことからバリシチニブ、トシリズマブも活用機会も激減した。そしてもっとも主力となる経口抗ウイルス薬の4種類については、いずれも公的な費用対効果分析ではネガティブな評価を下され、薬価が引き下げとなった。NEJM誌掲載の“今”の予防方法そのような中で新型コロナの治療に関して比較的明るい話題としては、今年3月にエンシトレルビルが新型コロナ感染者との接触者に対する予防投与の適応で承認追加となったことぐらいだろう。この承認のもとになった臨床試験結果は今年5月にNEJM誌に論文1)が掲載されている。COVID-19患者の同居家族、エンシトレルビルで発症予防/NEJM本連載を過去から長らくお読みの方は、私個人がエンシトレルビルの緊急承認時の有効性にはかなり懐疑的だったことをご記憶の方もいるかもしれないが、この点は今でもほぼ変わっていない。一方でこの曝露後予防に関する結果については、ほぼ額面通りに受け止めている。以前、本連載で新型コロナの治療なども含め現在地を取りまとめたことがあった(第280回、第281回)が、その当時はこのエンシトレルビルに関して、いわばトップジャーナルでの掲載論文がほとんどないことがやや悩みだった。ほかの治療薬と比べて、エビデンス上、アンバランス感が否めなかったからだ。しかし、今回は堂々のNEJM誌掲載であり、一定の評価はしている。もっとも敢えて言うならば、この数字を適用すれば、新型コロナ感染者に接触した人が100人いる場合、何もせずにいれば9人が発症し、エンシトレルビルを5日間服用すればそれが3人に抑えられる計算になる。そしてうち91人はもともと発症しない。そのうえで適応が承認されたとはいえ予防投与の薬剤費は、5日間で4万9,630円の全額自己負担。個人的感想としては「高齢者で新型コロナ感染時に重症化因子となる基礎疾患が複数ある人などを除けば、効果の割にはかなり高額の自己負担が必要」とややネガティブな評価になる。これが現在の季節性インフルエンザに対する抗ウイルス薬・オセルタミビル(タミフルほか)くらいの薬価なら、かなりコスパが良いとなるのだが…。もっとも医療機関を受診して新型コロナ感染が判明した人の家族や同居者が予防投与を開始するか否かは、インフォームド・コンセント(IC)を行ったうえで本人たちの意思に委ねれば、おおむね解決できると言えるだろう。ただ、入院患者で発症した場合、院内感染対策として同室患者に処方するか否かという場面が生じた際には、医療機関にとってかなり悩ましいことになる。インフルエンザについては、多床室で感染者が発生した場合、少なからぬ病院では持ち出しで同室者にオセルタミビルを予防処方しているのが実態だ。それもこれもジェネリック品ならば、1カプセルの薬価は104.1~108円であり、予防内服は7~10日間で薬剤費は最大1人1,080円で済むからである。現在の多床室で一般的な4人部屋で考えると、最初にインフルエンザに感染した人は保険診療で対応し、残る3人を持ち出しで予防内服をさせても、支出は3,240円である。先発品を使ったとしても5,169円にとどまる。最悪、患者に事情を説明し、自己負担をお願いしたとしても「まあ、しょうがないか」と応じてくれる人もそれなりにいるだろう。しかし、エンシトレルビルではそうはいかないことは明らかだ。同じように4人部屋で1人感染者が発生し、ほかの患者への予防内服を病院持ち出しにすると、その金額はオセルタミビルの実に28倍超の14万6,670円となる。昨今の物価・人件費の高騰により、経営苦境が極度に顕在化している現状では、病院側がすんなり持ち出しをできる金額ではない。そして患者に負担をお願いするとしても約5万円という金額を即答で応じてくれる人は皆無ではないだろうか?学会セッションでも質問殺到実は先日、横浜市で開催された第41回日本環境感染学会総会・学術集会では「緊急企画・医療機関におけるCOVID-19伝播に対する抗ウイルス薬の予防投与」と題したセッションでこのことが話題となった。同セッションで登壇した泉川 公一氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 臨床感染症学分野 教授)は「理想的には同室者全員に投与することが望ましいとは思うが、より現実的には重症化リスクの重み付けなどを検討してもよいのかもしれない。たとえば糖尿病、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患、あるいは免疫不全の有無などをスコアリングし、よりスコアの高い患者を優先的にという考え方、さらにこれに加えワクチン未接種者、施設入所者といったファクターも加味させてもよいのかもしれない」との見解を示した。理論上は筋が通っているものの、この時会場にいた人の中で、この発言に歯切れの悪さを感じたのは自分だけではないだろう。もちろんこれは泉川氏のせいではなく、薬価も含めて極めて悩ましい外部環境があるからである。また、同じくこのセッションに登壇した掛屋 弘氏(大阪公立大学大学院医学研究科 臨床感染制御学教授)は、「現状でエンシトレルビルを採用していない病院はあるかもしれないものの、予防投与の適応が承認された以上、病院としてはやはり準備(採用)しておくことは必要」との認識を強調。そのうえで予防投与の院内ルールの検討を行うべきとの見解を示した。掛屋氏によると、大阪公立大学医学部附属病院の場合、総務企画課、医事運営課、血液内科、感染制御部が合同で予防投与の運用検討会議を開催している。現在までの予防投与の院内ルール検討では、事務方から一律病院負担で広く予防投与することの了承は得られていないという。そのうえで掛屋氏は私案として病室での孤発例の場合は患者自己負担、クラスター発生時はその拡大を防ぐという意味での病院負担という考え方の一例を提示した。具体的には孤発、クラスターいずれのケースでも、まず陽性者確認の段階で接触者の抽出と個々の接触者の重症化リスク評価を実施。患者自己負担が原則の孤発ケースでは、接触者全員にエンシトレルビルによる予防投与の手段があること、予防投与を選択しなくても発症した場合は迅速に対応することを説明する。また、クラスター対応時の接触者の病室管理については、原則としては個室収容が望ましいものの、同室者の中で予防投与患者と非予防投与患者が混在した場合、予防投与のメリットが低減することを考慮し、予防投与した患者を優先的に個室収容するという対応もあり得るとした。このセッションでは会場からも数多くの質問が寄せられた。その一部を要約して紹介したい。―古い病院では、大部屋にトイレがなくて洗面所や休憩室も一緒な場合がある。この場合、予防投与の範囲をどう考えるべきか?「非常に難しいが、トイレですれ違ったなどのレベルでは感染が成立する可能性は低いと考えられるので、やはり同室の方(の予防)が中心になると思う」(掛屋氏)―ワクチンの追加接種歴があれば、曝露しても重症化リスクが低下する。重症化リスクではワクチン接種歴をどの程度加味するべきか?「原則、ワクチン接種歴は勘案しない。というのも従来から行われているインフルエンザの院内感染対策での予防内服の場合、ワクチン接種歴を考慮していない。また、ワクチン接種で100%予防できるわけではないので、改めて予防投与での判断要素とはしない」(登壇者:國島 広之氏[聖マリアンナ医科大学感染症学講座 主任教授])「私も基本的に國島先生と同じ考え。ケースバイケースで半年以内の接種有無、最新流行株のワクチン接種歴は聴取するかもしれないが、昨年の定期接種での65歳以上の新型コロナワクチン接種率は約10%と言われているので、ほぼ全員が接種していない前提で考えている」(掛屋氏)―(新型コロナ陽性の)スタッフと患者との接触では、その日に(そのスタッフの)受け持ちだった(患者)ということになると、かなり広範囲の患者(が対象)になってしまう。マスク着用の有無も含め、そこをどのように判断するのか「マスクをせずに接触する事態はあるかもしれないが、まずは私たちの側に明らかな非を作らないことが大事。今、一部にはもう皆でマスクを外しても良いのではないかという考えもあるようだが、むしろ院内感染リスクの観点では逆の考え方もあると思う」(掛屋氏)正直、これら質疑応答のやり取りにも絶対の正解はないのだろう。いずれにせよ技術革新、医療の進歩が新たなジレンマを生み出したことだけは確かである。参考1)Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2026;394:1905-1915.

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既治療CLL/SLL、ピルトブルチニブ+VRでPFS改善(BRUIN CLL-322)/Lancet

 前治療歴のある慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、非共有結合型BTK阻害薬ピルトブルチニブは、ベネトクラクス+リツキシマブ療法(VR)との併用により、VRと比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、この効果は共有結合型BTK阻害薬の前治療歴のある患者においても一貫しており、新たな安全性シグナルは認められないことが示された。米国・ダナファーバーがん研究所のMatthew S. Davids氏らが、22ヵ国152施設で実施された無作為化非盲検実薬対照第III相試験「BRUIN CLL-322試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2026年7月9日号掲載の報告。VRへのピルトブルチニブ上乗せについて評価 BRUIN CLL-322試験の対象は、18歳以上で、International Workshop on CLL(iwCLL)2018の基準に基づき治療を要するCLL(小リンパ球性リンパ腫[SLL]を含む)と確定診断され、共有結合型BTK阻害薬を含む1レジメン以上の前治療歴を有する患者であった。非共有結合型BTK阻害薬、ベネトクラクスまたはその他のBCL2阻害薬の前治療歴を有する患者は除外された。 研究グループは、17p欠失の有無および共有結合型BTK阻害薬の前治療歴の有無を層別因子として、患者をピルトブルチニブ+VR(PVR)群またはVR群に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群ともベネトクラクスを25サイクル、リツキシマブを6サイクル投与し、PVR群では、さらにピルトブルチニブ200mgの1日1回経口投与を1サイクル28日間として28サイクル(ベネトクラクス投与開始前にピルトブルチニブとリツキシマブを併用する3サイクルの導入期間を含む)投与した。 主要評価項目は、iwCLL 2018に基づく盲検下独立評価委員会判定によるPFSで、無作為化されたすべての患者(ITT集団)を解析対象とした。安全性は、ITT集団のうち試験薬を少なくとも1回投与された患者を対象として評価した。 本稿では、事前に計画された中間解析(データカットオフ2026年2月2日)の結果が報告された。ピルトブルチニブ併用群でPFSが有意に改善 2021年10月13日~2024年10月28日に784例がスクリーニングされ、そのうち639例が無作為化された(PVR群321例、VR群318例)。 患者背景は、年齢中央値68.0歳(四分位範囲[IQR]:60.0~74.0)、男性439例(69%)、女性200例(31%)、前治療レジメン数の中央値は2(IQR:1~3)で、510例(80%)に共有結合型BTK阻害薬の前治療歴があり、そのうち362例(71%)は病勢進行により直近の共有結合型BTK阻害薬を中止していた。 追跡期間中央値27.3ヵ月(IQR:19.5~38.7)において、PFSはPVR群でVR群と比較し有意に改善した(ハザード比:0.547、95%信頼区間[CI]:0.400~0.748、層別log-rank検定のp=0.0001[有意水準0.03104])。 PFS中央値はPVR群で未到達(IQR:31.7~推定不能)、VR群で39.7ヵ月(95%CI:21.5~50.0)であり、24ヵ月PFS率は、それぞれ87%(95%CI:82.3~90.4)、72%(95%CI:65.7~77.0)であった。 PVR群の有効性は、共有結合型BTK阻害薬の前治療歴を有する患者集団を含む事前に規定されたサブグループで一貫していた。 有害事象は、全GradeでPVR群100%(315/316例)、VR群98%(305/311例)に認められ、最も発現頻度が高かった有害事象は下痢(それぞれ34%、35%)であった。全Gradeの心房細動または心房粗動の発現は少なかった(両群とも3%)。 Grade3以上の有害事象はPVR群(79%)とVR群(73%)で同程度であったが、Grade3以上の腫瘍崩壊症候群の発現割合は、PVR群(1%)がVR群(4%)と比較して低かった。 試験責任医師によりいずれかの試験薬に関連すると判断された試験治療下における有害事象(TEAE)による治療中止は、両群とも5%で報告された。死亡に至ったTEAEは5例に認められ、内訳はPVR群1例(敗血症性ショック)、VR群4例(敗血症、敗血症性ショック、COVID-19、全身の健康状態悪化が各1例)であった。

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高齢者DLBCL診療における治療強度の考え方【高齢者がん治療 虎の巻】第11回

講師紹介<今回のPoint>高齢者DLBCLでは暦年齢のみで判断せず、G8などのスクリーニングと高齢者機能評価(GA)でfit/unfit/frailを評価し、治療強度を検討する。層別化に応じて、fitには治癒を目指す標準治療、unfitにはR-miniCHOPなどの減量レジメンを検討する。frailでは治療目標を再確認し、低強度治療または緩和的治療を含めて個別に判断する。Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの標準治療の一つであるが、80歳を超える患者では臨床試験のエビデンスが限られる。心機能、併存症、本人の希望を確認し、減量投与を含めて慎重に検討する。<症例>82歳、男性。2ヵ月前から頸部リンパ節腫大と食欲低下、体重減少を認め、近医から紹介された。頸部リンパ節生検の結果、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断され、免疫染色の結果、Non-GCB型(Hans分類)に分類された。PET-CTを撮影したところ、腹腔内リンパ節にも病変を認め、臨床病期はLugano分類でStage III、LDH高値、ECOG Performance Status(PS)1で、国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)はhigh-intermediate riskだった。併存症は高血圧症、持続性心房細動、慢性心不全、2型糖尿病で、抗凝固薬、利尿薬、経口血糖降下薬を内服していた。退職後は自宅近くの畑仕事を日課としており、発症前のADLは自立、買い物や通院も自力で可能だった。最近は倦怠感のため畑に出る頻度が減っているが、身の回りのことは自立している。G8は11点、Charlson Comorbidity Index(CCI)は慢性心不全1点、糖尿病1点の計2点であった。本人は「また畑に出られるようになりたい。治る可能性があるなら、できる治療は受けたい」と話している。一方、家族は「年齢も心臓も心配なので、強い治療は避けたほうが良いのではないか」と不安を示している。高齢者DLBCLの治療方針悪性リンパ腫は高齢者に好発する代表的な造血器腫瘍であり、本邦では年間約3万6,000人が新たに診断され、その多くを70代から80代の患者が占めます1)。組織型としてはDLBCLが最も多く、高齢DLBCL患者を診療する機会は年々増加しています。DLBCLは高齢者であっても、薬物療法によって治癒が目指せる疾患ですが、若年者に比べて予後が不良であることが多く、その背景には生物学的要因や臨床的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。『造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版(2024年版)』には、高齢者DLBCLに対する標準治療として、80歳未満に対しては若年者と同様の治療法が、80歳以上の高齢者に対しては、用量あるいはコース数を減らしたR-CHOP療法が妥当な治療選択肢の一つであると記載されています2)。高齢者機能評価(GA)に基づく治療強度の決定高齢者DLBCLでは、暦年齢のみで治療強度を決定するのではなく、患者個々の予備能を評価したうえで治療方針を定めることが重要です。『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』でも、初発高齢者DLBCLの治療方針の判断にGAを行うことが弱く推奨されています3)。GAは、身体機能(ADL・IADL)、併存症、認知機能、栄養状態、社会的サポートなどを多面的に評価する手法であり、これにより患者をfit(標準治療に忍容性がある)、unfit(標準治療は困難だが減量治療は可能)、frail(緩和的対応が中心)に層別化します。簡便なスクリーニングには本症例でも用いられているG8などが、より包括的な評価には総合的なGAが活用されます。fitと判断される患者には、若年者と同様に治癒を目指した標準治療が推奨されます。一方、unfitやfrailと判断される患者では、毒性を軽減しつつ一定の有効性を確保する目的で減量レジメンが選択され、なかでもR-miniCHOP療法が代表的な選択肢です。Peyradeらによる第II相試験では、80歳以上のDLBCL患者に対し、標準量の約半量に減量したR-miniCHOP療法が、忍容性良好でありながら治癒も期待できることが示され、高齢者に対する標準的選択肢の一つとして位置付けられています4)。Pola-R-CHP療法という新たな選択肢近年、初発DLBCLに対する治療は大きく変化しました。第III相POLARIX試験では、R-CHOP療法のビンクリスチンを抗体薬物複合体であるポラツズマブ ベドチン(商品名:ポライビー)に置き換えたPola-R-CHP療法が、従来のR-CHOP療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、本邦でも初発DLBCLに対する標準治療の一つとして位置付けられるようになりました5)。サブグループ解析では、60歳以上の高齢者やIPI高リスク群、Non-GCB(ABC)型などでPola-R-CHP療法の相対的な有用性が示唆されています。本症例のような高齢・Non-GCB型のDLBCLは、Pola-R-CHP療法の効果が期待される集団と考えられます。ただし、POLARIX試験の対象は18〜80歳であり、80歳を超える高齢者は含まれていません。したがって、本症例のような80歳を超える患者にどこまで適応を広げてよいかは、現時点で明確なエビデンスがありません。近年は80歳以上を含む実臨床でのデータ(リアルワールドデータ)が少しずつ報告されつつあり6)、ポラツズマブ ベドチンに併用するCHPを適切に減量することで、80歳以上でもPola-R-CHP療法を安全に実施しうる可能性が示されています。一方で、心機能低下例などアントラサイクリンの使用が難しい症例も少なくなく、適応は個々の予備能と併存症を踏まえて慎重に判断する必要があります。本症例への治療方針本症例を改めて整理すると、82歳と高齢であり、PS 1、ADLは自立していますが、G8 11点、CCI 2点で、機能的にはおおむねunfitに近い状態と評価できます。本人は治癒を目指した治療を希望していますが、持続性心房細動や慢性心不全といった心疾患を有し、ドキソルビシンによる心毒性のリスクには十分な注意が必要です。また、組織型はNon-GCB型であり、Pola-R-CHP療法の上乗せ効果が期待しやすい点は、治療選択の後押しとなります。以上を踏まえると、治療開始前に心エコーなどで心機能を評価し、ドキソルビシンの使用が許容される場合には、CHPを適切に減量したPola-R-CHP療法も選択肢となります。ただし、80歳を超える患者はPOLARIX試験の対象外であることから、現時点では実臨床データに基づく慎重な判断が必要です。もし心機能低下が明らかな場合には、ドキソルビシンを含まないレジメンも検討する必要があります。いずれの場合も、本人・家族の意向と予備能を共有しながら、治療強度を個別に最適化していく姿勢が重要です。G-POWER研究:日本の高齢DLBCLに合ったGAを目指して高齢DLBCLに対するGAの活用は国際的に進んでいますが、海外のデータをそのまま日本の実臨床に当てはめることには限界があります。生活環境、家族支援、医療アクセス、入院・外来治療の体制、介護保険を含む社会制度は国によって異なるためです。現在、国内において70歳以上の高齢DLBCL患者を対象に、GAの意義を明らかにする多施設前向き観察研究(G-POWER研究)が進められています7)。本研究では、G8、ADL、IADL、認知機能、うつ状態、併存症、Clinical Frailty Scaleなどを評価し、初回治療の内容、有害事象、治療完遂、予後との関連を検討します。日本の高齢DLBCL患者において、どのGA項目が治療選択や有害事象予測に本当に役立つのかを明らかにすることは、今後の実臨床に直結する課題です。GAを「評価して終わり」にせず、治療を支える具体的な介入につなげるためにも、本邦独自のエビデンス構築が期待されます。 1) がん情報サービス:全国がん登録 2) 日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版 2024年版. 金原出版. 2024. 3) 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会編. 高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 南江堂. 2026. 4) Peyrade F, et al. Lancet Oncol. 2011;12:460-468. 5) Tilly H, et al. N Engl J Med. 2022;386:351-363. 6) Yamada T, et al. Ann Hematol. 2025;104:5191-5200. 7) UMIN-CTR:臨床登録試験情報(G-POWER研究)

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未治療若年マントル細胞リンパ腫へのイブルチニブ療法、リツキシマブ維持療法でPFS延長(TRIANGLE)/JCO

 未治療の若年マントル細胞リンパ腫(MCL)患者において、BTK阻害薬イブルチニブを含む治療にリツキシマブ維持療法(RM)を追加することにより無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することが、TRIANGLE試験の2次解析で示された。イタリア・Universita del Piemonte OrientaleのMarco Ladetto氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年7月14日号に報告した。 TRIANGLE試験は、未治療の若年MCL患者において自家造血幹細胞移植(ASCT)なしのイブルチニブを含む治療が新たな標準治療として確立された試験である。今回、本試験のイブルチニブを含む治療を実施した群にRMを追加することでPFSと全生存期間(OS)が許容可能な毒性で改善するかどうかを検討した。対象は、寛解導入療法またはASCT後に奏効が得られた患者のうち、イブルチニブを含む治療(ASCTなし:I群、ASCTあり:A+I群)に割り付けられた患者。RMは各国および各施設の実地臨床に従って実施され、PFSおよびOSをRMの有無で比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・寛解導入療法/ASCT後に奏効が得られた患者(I群:274例、A+I群:237例)のうち、I群の61%、A+I群の64%にRMが実施された。・RMはイブルチニブを含む治療群におけるPFSを有意に延長し、4年PFS率はI群でRM群85%vs.非RM群73%(p=0.003)、A+I群でRM群90%vs.非RM群75%(p<0.001)であった。・RM群ではOSの延長傾向が認められた。・Grade 3〜5の感染性の毒性はRM群で高く、I群ではRM群34%vs.非RM群11%、A+I群ではRM群41%vs.非RM群18%であった。 著者らは「本結果は、未治療の若年MCL患者において長期寛解を達成するために、BTK阻害薬による治療にRMを追加することを支持するもの」と結論している。

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移植不適応の再発・難治性DLBCL、R-GemOxにポラツズマブ ベドチン追加でOS改善(POLARGO)/JCO

 移植不適応の再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する、ポラツズマブ ベドチン+リツキシマブ+ゲムシタビン+オキサリプラチン(Pola-R-GemOx)療法の有効性と安全性を評価した第III相POLARGO試験の結果、Pola-R-GemOxがR-GemOxと比較して全生存期間(OS)を有意に改善したことを米国・Rutgers Cancer InstituteのMatthew Matasar氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年7月6日号に掲載。 本試験は16ヵ国64施設で実施された無作為化非盲検の国際共同第III相試験である。Pola-R-GemOxの安全性導入期間(15例)の後、自家造血幹細胞移植の適応とならない再発・難治性DLBCL患者を、Pola-R-GemOx群もしくはR-GemOx群に無作為に1:1に割り付け、21日ごとに最大8サイクル投与した。主要評価項目はOSであった。 主な結果は以下のとおり。・計255例がPola-R-GemOx群(129例)またはR-GemOx群(126例)に無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値24.6ヵ月において、Pola-R-GemOx群はR-GemOx群と比較して死亡リスクを有意に低下させた(ハザード比:0.6、95%信頼区間[CI]:0.43~0.83、p=0.0017)。・OS中央値は、Pola-R-GemOx群で19.5ヵ月(95%CI:13.3~推定不可)、R-GemOx群で12.5ヵ月(95%CI:8.9~15.8)であった。・最も一般的なGrade3/4の有害事象は血小板減少症と好中球減少症であった。・末梢神経障害はPola-R-GemOx群(57%)でR-GemOx群(29%)よりも多く見られたが、ほとんどGrade1であった。・致死的有害事象は、Pola-R-GemOx群の15例(12%)およびR-GemOx群の5例(4%)で発現し、主に感染症(COVID-19を含む)によるものであった。 著者らは、「Pola-R-GemOxは、R-GemOxと比較してOSを有意に改善し、移植不適応の再発・難治性DLBCL患者に対する新たな治療選択肢を提供する」としている。

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患者説明に使う資料や情報源は?~がん専門医500人に聞く

 情報過多の現代、医療情報も多種多様なレベルのものが世の中にあふれている。数十年前と比べ医師と患者の立場がフラットになりつつある昨今、患者自身の学習意欲もあいまって、診療時間中のコミュニケーションに費やす時間は増加傾向にある。診療の効率化が求められる中でも、医師にとっては患者に対し、患者自身の疾患に関する正しい知識を端的に提供したいというニーズは根強いのではないだろうか。 患者の視点に立った情報発信については、若尾 文彦氏(国立がん研究センターがん対策情報センター本部)率いる研究班*や「がん情報の均てん化を目指す会」**をはじめとする多くの団体が検証を重ねている。後者の団体が2024年11月5日に公表したディスカッション・ペーパー『がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~』では、がん患者がオンライン上で情報を入手・活用する際の課題が示された。とくに注目すべきは、患者が情報を入手・精査する際の相談先として、8割が「主治医」を挙げていた点である。*「厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業 _科学的根拠に基づくがん情報の提供及び均てん化に向けた 体制整備に資する研究」**がん患者が適切なタイミングで適切な情報にアクセスすることで、治療や周辺情報に関する知識を高め、適切に治療を受け、がんと共生できる環境を目指すことを目的に2024年4月に発足 そこでCareNet.comでは、患者から相談を受ける医師側が、日常診療でどのような情報源を案内しているかを明らかにするため、日常診療でがん患者の診察を行っている200床以上の施設に勤務する会員医師501人(呼吸器科、消化器科、外科、乳腺外科、血液内科、泌尿器科、腫瘍科)に対し、「医師のがん患者への情報提供方法」に関するアンケートを実施。患者への情報提供資料やその情報源、および活用理由について調査した。告知時の相談内容と使用媒体 まず、回答者の「勤務先施設の区分」(Q1)について、「地域がん診療連携拠点病院」所属の医師が最も多く、「都道府県がん診療連携拠点病院」「いずれも該当しない」と続いた。また、年代別では30~50代が多く、30~40代では「都道府県がん診療連携拠点病院」、その他の年代では「地域がん診療連携拠点病院」に所属する医師の割合が高かった。 「患者や家族への告知時、またはその後の診察で受けることが多い質問・相談」(Q2)については、「病気に関する情報」「病期と治療の選択肢」「予後・余命」が上位を占め、次いで「副作用や対処法」「検査・診断方法」となった。これらは施設区分による大きな差異はみられなかった。なお、前述のディスカッション・ペーパーにおいても、患者側が「十分な情報があった」と回答した項目とほぼ一致しており、患者自身の検索行動だけでなく、医師からの情報提供が一定の影響を与えている可能性が示唆される。 これらの相談に対し「利用する媒体やツール」(Q3)を尋ねたところ、「製薬企業が作成している患者向け資料説明」「自施設で作成している患者向け説明資料」「各学会発行のガイドライン(患者向け含む)」の利用率が高かった。一方で、回答者の約1/3が「手書きの図やメモ」を用いた説明を行っていると回答し、Web媒体系資料の活用頻度は総じて低い傾向にあった。診療科別では、血液内科において製薬企業作成資料の利用が突出しているほか、外科ではガイドラインの利用率が高いという特徴がみられた。 なお、Q3で「患者向けWeb媒体の資料」と回答した医師が利用するサイト(Q4)については、国立がん研究センターの「がん情報サービス」が最多であり、厚生労働省のホームページ、がん関連学会のサイトがそれに続いた。患者の情報収集への意識、医師による「相談支援センター」の活用実態 「病態や治療内容を調べる方法について患者から尋ねられた経験」(Q5)については、全体の60%が「ある」と回答しており、患者側から能動的に調べ方を問うケースは、やはり一定数存在することが伺える。 一方、無料・匿名で利用できる「がん相談支援センターの認知と活用」(Q6)については、ギャップが生じる結果となった。半数以上の医師が存在を認知しているものの、実際に自ら活用を促したことがある医師は2割弱にとどまった。この傾向は診療科や年代によってばらつきがみられ、とくに若年発症が多くサバイバー層も厚い血液内科において、医師からの利用勧奨が少ない結果となっている。これについては、医師による直接の勧奨ではなく、院内の医療連携を通じて看護師やメディカルソーシャルワーカーらが役割を担っている背景も推測される。また年代別では、20〜30代の若手医師の間で認知が浸透している一方、40代以降ではやや認知度が下がる傾向が確認された。 今回の調査では、このほかに自由記入として「患者への説明時に不安を感じること」「説明時に困っていること」「説明時に意識していること」についても回答を得ている。臨床現場におけるコミュニケーションの標準化やリソースの最適化に向け、示唆に富む具体的な声が集まったため、詳細はぜひアンケート結果のデータを参照されたい。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。がん患者への情報提供方法

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