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自分のトリセツを知るとだいぶ楽になる(解説:岡村毅氏)

 認知行動療法について、皆さんはどのくらい知っているだろうか? 医療が「悪いところを取る」「折れたものをつなげる」「薬を飲んで治す」といった領域だけだと思っているシンプルな人にはなかなかわかってもらえない。大学生などに説明するときに使っているのは「自分のトリセツを知ることだ」という説明である。 たとえば、こうである…。最近とても暑いので、精神科の外来では調子の悪いパニック症の人によく出会う。「空気が熱いと息苦しい感じがする。パニック発作のときみたいな体験をする。そうなると不安が亢進し、呼吸が速くなり、確かにパニック発作が起きてしまう」と説明すると、多くの患者さんは良くなる。自分の身に何が起きているかわかるからである。 相手によっては、さらに畳み掛ける。「人間なんて天候に左右される弱い存在なのです。暑すぎると調子が悪い、雨だと気分が沈む。そういうものです」と言うと、ハッとする人もいる。別に大したことは言っていないのだが、自分が弱い存在だということをつい忘れてしまっているのだ。私に言わせれば、これも認知行動療法の原型である。 さて、慢性疼痛に対して認知行動療法が効くことはずいぶん前からわかっていた。身体が損傷を受ければ痛みが生じる。これが急性の疼痛である。ところが、その時期を過ぎても延々と痛みが続くものが慢性疼痛である。慢性疼痛には複合的な要因があり、もちろん心理的要因も大きい。痛みが続くと気持ちが沈み、痛みが来たらどうしようといつも構えていると、身体が緊張して、より一層痛みが生じる、というようなことも起こる。いつも痛みのことを考えていると、症状がより目立ってしまうということもあるだろう(読者の皆さま、40歳を過ぎるといつもどこか微妙に痛くないですか?)。 ただし、認知行動療法をするために医療機関等を受診するのは大変である。そこで本研究は、(1)電話やオンライン会議を用いた1対1の認知行動療法、(2)e-learningのようなオンライン教材、(3)相談先や対処方法の情報を渡す(これが対照群である通常のケア)に分けて比較している。臨床的に意味のある改善は、(1)は(3)に比べて1.54倍、(2)は(3)に比べて1.28倍得られた。 オンラインの1対1の認知行動療法ができればよいし、それが無理でもオンラインの自己学習型のプログラムでも十分効果があるということだ。なお、このオンラインプログラムは実は無料で公開されている(painTRAINER)。 となると、オンラインの認知行動療法と、対面の(リアルの)認知行動療法は違うのだろうか、という疑問が生じる。うつ病に関してはメタアナリシス(文献)があり、効果は同等、ただし対面のほうが脱落率は低い。まあそうだろうな、という結果だ。知識として自分のトリセツを知る分にはオンラインでも対面でも変わらないが、人と人が数十センチの距離で対峙するとき、さまざまな不確実な事象が起こり、これが対面の心理療法の醍醐味だ、というのが精神科医である私の見解だ。

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心房細動による脳塞栓症に対するDOAC開始のタイミング(解説:内山真一郎氏)

 心房細動による脳塞栓症の再発予防に直接経口抗凝固薬を開始する適切なタイミングは確立されていなかった。本研究は、脳梗塞後の開始時期が4日以内と5日以後の効果を比較した4件の無作為化比較試験(TIMING、ELAN、OPTIMAS、START)のメタ解析である。1次評価項目は、30日以内の脳梗塞再発、症候性脳内出血、または分類不能の脳卒中であった。 結果は、4日以内に開始したほうが1次評価項目の複合エンドポイントが有意に少なく、脳梗塞の再発は少なく、脳内出血は増加しなかった。日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2025)』でも、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮して発症早期(例えば発症後4日以内)から直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を投与することは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)」となっており、このメタ解析により推奨度とエビデンスレベルは確実に上昇した。ちなみに、日本で行われた観察研究であるSAMURAI-AFとRELAXEDの統合解析から、DOACの開始時期はTIA、軽症、中等症、重症別に「1-2-3-4 day rule」が提唱されている。

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日本の認知症動向、その傾向と地域差

 アルツハイマー病やその他の認知症は、深刻な公衆衛生上の懸念事項であり、日本においてはさらに重要な課題となっている。ベトナム・RMIT University VietnamのDeepak Kumar Behera氏らは、アルツハイマー病やその他の認知症負担の経時的傾向を調査し、関連するリスク因子を特定し、時系列モデリングを用いて将来予測を行った。Alzheimer's & Dementia誌2025年7月号の報告。 世界疾病負担(GBD)研究2021のデータを用いて、日本におけるアルツハイマー病やその他の認知症の傾向を分析し、罹患率、死亡率、障害調整生存年(DALY)を評価した。リスク因子の特定には回帰分析を、2021〜30年までの疾病負担の予測には自己回帰統合移動平均(ARIMA)モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・日本におけるアルツハイマー病やその他の認知症は、着実に増加しており、2030年まで引き続き増加すると予測された。・高齢化および平均寿命の延長が主な因子として特定された。・関東や関西の都市部では、東北や九州よりも有病率が高かった。・高空腹時血糖値、肥満、喫煙は、重要な修正可能なリスク因子であった。・ARIMAモデルでは、継続的な増加傾向が予測され、公衆衛生上の課題の深刻さを浮き彫りにする結果であった。 著者らは「日本におけるアルツハイマー病やその他の認知症の負担を軽減するためには、対象を絞った介入、早期介入、公平な医療アクセスが不可欠である」と議論し、「高齢化に伴い、アルツハイマー病やその他の認知症が増加している。高空腹時血糖値、肥満、喫煙などが、主なリスク因子であることも明らかとなった。とくに関東や関西の都市部では、他の地域よりも有病率が高く、2030年まで継続的に増加すると予測される。これらの負担を軽減するためにも、的を絞った医療政策と予防策が求められる」とまとめている。

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ゴルフ場の近くに住む人はパーキンソン病リスクが高い?

 パーキンソン病(PD)は、環境要因と遺伝的要因の複雑な相互作用によって引き起こされる神経変性疾患である。環境要因の中でも、農薬への曝露はPDのリスク増加に関連するとされる。米国・Barrow Neurological InstituteのBrittany Krzyzanowski氏らの研究によると、ゴルフ場の近くに住むことがPD発症リスクの2倍以上の増加と関連している可能性が示された。JAMA Network Open誌2025年5月8日号に掲載。 本研究では、1991~2015年のロチェスター疫学プロジェクト(REP)のデータを用いて、ミネソタ州南部とウィスコンシン州西部にまたがる1万6,119平方マイルの地域内における139のゴルフ場への距離とPD発症との関連性を症例対象研究で評価した。さらに、水道環境として、水道サービス区域内のゴルフ場の有無、地下水域の脆弱性(荒い土壌、浅い岩盤、カルスト地形)、市営井戸の深さでなどの条件でリスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・本解析には、PD症例群419例(診断時の年齢中央値73歳[IQR:65~80]、男性257例[61.3%])、対照群5,113例(インデックス時の年齢中央値72歳[IQR:65~79]、男性3,043例[59.5%])が含まれた。・ゴルフ場から1マイル以内の居住者は、ゴルフ場から6マイル以上離れている居住者に比べてPD発症オッズが2倍以上であった(調整オッズ比[aOR]:2.26、95%信頼区間[CI]:1.09~4.70)。・ゴルフ場から3マイル以内の居住者では、PD発症オッズが比較的一定で(1マイル増加当たりのaOR:0.98、95%CI:0.84~1.11)、ゴルフ場から3マイル以上離れた居住者では、ゴルフ場から1マイル離れるごとにPD発症オッズは13%ずつ減少した(1マイル増加当たりのaOR:0.87、95%CI:0.77~0.98)。・ゴルフ場のある水道サービス区域の居住者は、ゴルフ場のない水道サービス区域の居住者に比べてPD発症オッズが約2倍(aOR:1.96、95%CI:1.20~3.23)であり、個人の井戸を持つ人に比べて1.5倍高かった(aOR:1.49、95%CI:1.05~2.13)。・脆弱な地下水域にあるゴルフ場のある水道サービス区域の居住者は、脆弱でない地下水域でゴルフ場のある水道サービス区域の居住者に比べてPD発症オッズが82%高かった(aOR:1.82、95%CI:1.09~3.03)。 本研究により、ゴルフ場の近隣住民は、距離が離れている居住者に比べてPD発症リスクが上昇することが示された。著者らは、ゴルフ場で使用されている有機リン系農薬、クロルピリホス、MCPP、2,4-D、マンネブ、有機塩素系農薬など、PD発症との関連が知られている農薬が、地下水に浸出したり、空中を漂ったりすることで、曝露経路となっている可能性を指摘している。

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無害と考えられていたウイルスがパーキンソン病に関与か

 かつては人間には無害だと考えられていた一般的なウイルスが、パーキンソン病(PD)に関連している可能性のあることが新たな研究で明らかになった。PD患者の剖検脳の半数から、C型肝炎と同じフラビウイルス科に属する血液媒介性ウイルスであるヒトペギウイルス(HPgV)が見つかったのに対し、PDではない人の脳からは検出されなかったという。米ノースウェスタン・メディシンで神経感染症およびグローバル神経学部門長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「JCI Insight」に7月8日掲載された。 Koralnik氏は、「HPgV感染症は珍しいものではなく、症状も現れないが、脳への感染が頻繁に起こることはこれまで知られていなかった。PD患者の脳でこれほど高頻度にHPgVが認められたのに対し、PDではない人では認められなかったことには驚かされた」と話している。 PDは、ドパミンと呼ばれる脳の重要な神経伝達物質を産生する脳細胞が変性・減少することで発症する。ドパミンレベルが減少すると、手足の震え(振戦)や筋肉のこわばり(筋硬直)などの運動症状が現れ、バランス維持や協調運動が障害される。米国でのPD罹患者数は100万人以上に上り、年間約9万件の新規症例が報告されている。ほとんどのPD症例は遺伝とは関連がない。そのため、ドパミンを産生する神経細胞の減少を引き起こす原因は何なのかという疑問が投げかけられている。 この研究では、PD患者10人と、年齢と性別を一致させた非PDの対照14人の扁桃体、後部被殻、および上前頭皮質の剖検脳を、全ウイルス叢を対象としたシーケンシングツールであるViroFindと定量PCRを用いて評価した。 その結果、PD患者の10例の剖検脳中の5例でHPgVが検出されたのに対し、対照群の脳では検出されなかった。またPD患者では、脊髄液からもウイルスが検出されたが、対照群の脊髄液からは検出されなかった。さらに、HPgV陽性のPD患者では、PDの病理学的変化を分類するBraakステージとシナプス関連タンパク質であるComplexin-2のレベルが高く、神経病理がより進行していることが示された。 Koralnik氏らは次に、PD研究に利用可能なバイオサンプルライブラリであるPD進行マーカーイニシアチブ(PPMI)の参加者1,393人のベースライン時の全血RNAデータを取得し、HPgV感染と免疫応答、および遺伝的背景との関連を解析した。その結果、HPgV陽性PD患者では、脳と血液の両方で重要な上流の免疫調節因子であるIL-4のシグナルが対象群と比較して低下していることが明らかになった。さらにこの傾向は、PDに関連する遺伝子LRRK2の変異の有無により異なることも示された。具体的には、LRRK2遺伝子変異を有するHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルが低下するのに対し、変異を有さないHPgV陽性PD患者では、HPgV量が多いほどIL-4シグナルも上昇していた。 Koralnik氏は、「HPgVは、われわれがまだ把握していない方法で体と相互作用する環境要因なのかもしれない。無害だと思われていたウイルスがPD患者に対して重要な影響を及ぼし、特に、特定の遺伝的背景を持つ人では、PDの発症や進行に関与している可能性がある」と述べている。 研究グループは、PD患者の間でHPgVがどの程度見られるのか、また、それがどのようにして脳障害を引き起こし得るのかを、今後も追跡調査する予定だとしている。Koralnik氏は、「われわれは、HPgVと遺伝子がどのように相互作用するかを理解することを目指している。こうした知見は、PDの発症メカニズムを解明し、将来の治療法開発に役立つ可能性がある」と話している。

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REM睡眠中の無呼吸は記憶固定化と関連する脳領域に影響を及ぼす可能性

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に関連した低酸素血症は、前頭頭頂葉脳血管病変と関連し、この病変は内側側頭葉(MTL)の統合性低下や睡眠による記憶固定化の低下と関連するという研究結果が、「Neurology」6月10日号に掲載された。 米カリフォルニア大学アーバイン校のDestiny E. Berisha氏らは、認知機能に障害のない高齢者を対象に、実験室内での終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)および睡眠前後の感情記憶識別能力を実施し、それらを評価する観察研究を行った。PSGから導出したOSAの変数には、無呼吸低呼吸指数、総覚醒反応指数、最低酸素飽和度が含まれた。研究の早期時点で、MRIを用いて脳全体および脳葉の白質高信号域(WMH)の体積とMTLの構造(海馬体積、嗅内皮質〔ERC〕の厚さ)を評価した。 研究対象となったのは、高齢者37人(年齢72.5±5.6歳)であった。解析の結果、低酸素血症の測定値は脳全体のWMH体積を有意に予測した。この関係はREM睡眠中の低酸素血症の重症度に強く関連しており、前頭葉および頭頂葉のWMH体積も予測した。REM睡眠中の低酸素血症とERCの厚さとの関係は、前頭葉のWMH体積増加により間接的に媒介された。また、ERCの厚さ減少は夜間の記憶識別能力の悪化と関連した。 共著者であり同大学のBryce A. Mander氏は、「総合すると、われわれの研究結果は、OSAが、睡眠中の記憶固定化を支える脳領域の変性を通して、加齢およびアルツハイマー病と関連する認知機能低下にどのように寄与するのかを部分的に説明している可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、バイオ製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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コーヒーに認知症予防効果を期待してよいのか

 コーヒーおよびカフェインの摂取が高齢者の認知機能に及ぼす影響について、中国・Inner Mongolia Medical UniversityのJinrui Li氏らは、とくにアルカリホスファターゼ(ALP)の潜在的な役割に焦点を当て、調査を行った。Nutrition Journal誌2025年7月1日号の報告。 2011〜14年の米国国民健康栄養調査(NHANES)データより抽出した60歳以上の2,254人を対象に分析を行った。認知機能の評価には、老人斑の病理診断のCERADテスト、言語の流暢性を評価するAnimal Fluency test、神経心理検査であるDSSTを用いた。コーヒー摂取、カフェイン摂取、ALPレベルと認知機能との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)、タンパク質量的形質遺伝子座解析、タンパク質間相互作用ネットワークなどの手法を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー摂取と認知機能に関する重要な知見が明らかとなった。・コーヒーを480g/日以上飲む人は、飲まない人と比較し、低CERADスコアのオッズが有意に低く、完全調整モデル4による調整オッズ比(OR)は0.58(95%信頼区間[CI]:0.41〜0.82)であった。・同様に、カフェイン入りのコーヒーを477.9g/日飲む人のORは0.56(95%CI:0.34〜0.92)。・ALP摂取量の最低四分位と最高四分位の比較では、ORは1.82(95%CI:1.16〜2.85)であり、認知機能との負の相関が認められた。・MR研究では、コーヒー摂取量の増加は、認知機能障害の進行と関連していることが示唆された。しかし、コーヒー摂取はレビー小体型認知症の発症を予防する可能性が示された(OR:0.2365、95%CI:0.0582〜0.9610)。・コーヒー/カフェインの摂取は、血清ALP(OR:0.86、95%CI:0.79〜0.93)および認知機能(OR:0.95、95%CI:0.92〜0.98)に対する予防的作用が認められた。・IGFLR1遺伝子は、ALPと中程度の共局在を示しており、潜在的な治療的意義が認められた。 著者らは「高齢者におけるコーヒー/カフェインの摂取と認知機能との間には正の相関があり、ALPがこの関連に関与している可能性が示唆された。これらの結果は、高齢者の認知機能維持において食事介入を考慮することの重要性を表しており、具体的なメカニズムを明らかにするためにも、さらなる研究の必要性が示された」と結論付けている。

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第272回 希少疾患の専門医が抱える本当の課題~患者レジストリ維持の難しさ

昨今、「希少疾患」という単語を耳にする機会は増えた。そもそも希少疾患の定義は、国によってもまちまちと言われるが、概して言えば患者数が人口1万人当たり1~5人未満の疾患を指すと言われる。また、日本国内の制度で言うと、こうした希少疾患の治療薬は、通称オーファン・ドラッグと言われ、患者数が少ないために製薬企業が開発に二の足を踏むことを考慮し、オーファン・ドラッグとして指定を受けると公的研究開発援助を受けられる制度が存在する。同制度での指定基準は国内患者数が5万人未満である。この希少疾患に関する情報に触れる機会が増えたのは、製薬企業の新薬研究開発の方向性が徐々にこの領域に向いているからである。背景には、これまで多くの製薬企業の研究開発に注力してきたメガマーケットの生活習慣病領域でそのターゲット枯渇がある。そして希少疾患への注目が集まり始まるとともに新たに指摘されるようになったのが、「診断ラグ」。希少疾患は、患者数・専門医がともに少なく、多くは病態解明が途上にあるため、患者が自覚症状を認めてもなかなか確定診断に至らない現象である。そして取材する私たちも希少疾患の情報に触れる機会が増えながらも、ごく一般論的なことしか知らないのが現状だ。正直、わかるようなわからないようなモヤモヤ感をこの数年ずっと抱え続けてきた。そこで思い切って希少疾患の診療の最前線にいる専門医にその実態を聞いてみることにした。話を聞いたのは聖マリアンナ医科大学脳神経内科学 主任教授の山野 嘉久氏。山野氏が専門とするのは国の指定難病にもなっている「HTLV-1関連脊髄症(HAM)」。HTLV-1はヒトT細胞白血病ウイルス1型のことで、九州地方にキャリアが集中している。HAMはHTLV-1キャリアの約0.3%が発症すると言われ、全国に約3,000人の患者がいると報告されている。HAMはHTLV-1感染をベースに脊髄で炎症が起こる疾患で、初期症状は▽足がもつれる▽走ると転びやすい▽両足につっぱり感がある▽両足にしびれ感がある▽尿意があってもなかなか尿が出にくい▽残尿感がある▽夜間頻尿、など。急速に進行すると、最終的には自力歩行が困難になる。現在、HAMに特異的な治療薬はなく、主たる治療は脊髄の炎症をステロイドにより抑えるぐらいだ。以下、山野氏とのやり取りを一問一答でお伝えしたい。INDEX―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてください―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですね―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われています―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?―ガイドラインができたのはいつですか?―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょう―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?―まずHAMの診断では、どれほど困難が伴うのか教えてくださいHAMでは疾患と症状が1対1で対応しておらず、複数の症状が重なり、かつ症状や進行に個人差があります。このような状況だと、医療に不案内な患者さんはそもそもどの診療科を受診するべきかがわからないという問題が生じます。高齢の患者さんでありがちな事例を挙げると、まず歩行障害や下肢のしびれを発症すると、老化のせいにし、医療機関は受診せず、鍼灸院に通い始めます。それでも症状が改善しなければ整形外科を受診します。また、排尿障害が主たる患者さんは最終的に泌尿器科に辿り着きます。しかし、半ば当然のごとく受診段階で患者さんも医師もHAMという疾患は想定していません。結果としてなかなか症状が改善せず、医療機関を何軒か渡り歩き、最終的に運よく診断がつくのが実際です。私たちはHAMの患者さんの症状や検査結果などの臨床情報や、血液や髄液などの生体試料を収集し、今後の医学研究や創薬へ活用する患者レジストリ「HAMねっと」を運営していますが、そのデータで見ると1990年代は初発から確定診断まで平均7~8年を要していました。それが2010年代には2~3年に短縮されています。―確定診断までの期間がこの20年ほどで半分に短縮されています2008年にHAMが国の指定難病となったこと、前述の「HAMねっと」の充実、専門医による全国の診療ネットワーク構築など、さまざまな周辺環境が整備され、それとともに啓発活動が進展してきたことなど複合的な要素があると考えています。―それでも初発から確定診断まで2~3年を要するのですねまさに今日受診された患者さんでもそれを経験したばかりです。他県の大学病院で診断がつき、治療方針決定のため紹介を受けた患者さんですが、2018年に排尿障害、2020年から歩行障害が認められ、車いすで来院されました。この患者さんは2年程前に脊髄小脳変性症との診断を受けていました。HAMは脊髄が主に障害されますが、実は亜型として小脳でも炎症を起こす方がいます。こうした症例は数多く診療している専門医でなければ気付けないものです。こういうピットホールがあるのだと改めて実感したばかりです。―山野先生の前任地・鹿児島はHAMが発見された地域で、患者さんが多いと言われていますおっしゃる通りで、加えて神経内科医が多い地域でもあるため、大学病院ではHAMの患者さんを診療した経験のある医師が少なくありません。そうした医師が県内各地の病院に赴任しているので、HAMの初期症状と同じ症状の患者さんが来院すると、HAMを半ば無意識に疑う癖がほかの地域よりも付いています。そのため確定診断までの期間が短いと思います。―関東に赴任してHAM診療の地域差を感じますか?2006年に赴任しましたが、当初はかなり感じました。具体例を挙げると、診断ラグよりも治療ラグです。HAMの患者さんの約2割は急速に進行しますが、一般的な教科書的記述では徐々に進行する病気とされています。その結果、HAMと診断された患者さんが、どんどん歩けなくなってきていると訴えても、主治医がゆっくり進行する病気だから気にしないよう指示し、リハビリ療法が行われていた患者さんを診察したことがあります。この患者さんは髄液検査で脊髄炎症レベルが非常に高く、進行が早いケースで早急にステロイド治療を施行すべきでした。また、逆に炎症がほとんどなく、極めて進行が緩やかなタイプにもかかわらず大量のステロイドが投与され、ステロイドせん妄などの副作用に苦しんでいる事例もありました。当時は診療ガイドラインもない状態だったのですが、このように診断ラグを乗り越えながら、鹿児島などで行われていた標準治療の恩恵を受けていない患者さんを目の当たりにすることが多かったのをよく覚えています。HAMの患者数は神経内科専門医よりはるかに少ない、つまりHAMを一度も診療したことがない神経内科専門医もいます。そのような中で確定診断に至る難易度が高いうえに、適切な情報が不足している結果として主治医によって治療に差があるのは、患者さん、医師の双方にとって不幸なことです。だからこそ絶対にガイドラインを作らなければならないと思いました。―ガイドラインができたのはいつですか?2019年1)とかなり最近です。2016年から3年間かけて作成しました。実はガイドライン作成自体は、エビデンスが少ないことに加え、ガイドラインという響きが法的拘束力を想起させるなどの誤解から反対意見もありました。実際のガイドラインではエビデンスに基づき、わかっていることわかっていないことを正確に記述し、現時点で専門家が最低限推奨した治療を記述し、医師の裁量権を拘束するものでもないということまで明記しました。―HAMの早期段階の症状から考えれば、事実上のゲートキーパーは整形外科、泌尿器科あるいは一般内科の開業医になると思われます一般内科医の場合、日常診療では新型コロナウイルス感染症を含む各種呼吸器感染症全般、腹痛など多様な疾患を診療している中に神経疾患と思しき患者さんも来院している状況です。その中でHAMの患者さんが来院したとしても、限られた診療時間でHAMを思い浮かべることはかなり困難です。最終的には自分の範囲で手に負えるか、負えないかという線引きで判断し、手に負えないと判断した患者さんを大学病院などに紹介するのが限界だと思います。―では、診断ラグや治療の均てん化を考えた場合、現状の医療体制をどう運用すれば最も望ましいとお考えでしょう?希少疾患の場合、数少ない患者さんが全国に点在し、疾患によっては専門医が全国に数人しかいないこともあります。極論すれば、現状では専門医がいる地域の患者さんだけが専門的医療の恩恵を受けやすい状況とも言えます。その意味でまず優先すべきは、各都道府県に希少疾患を診療する拠点を整備することです。そのことを体現しているのが、2018年から整備が始まった難病診療連携拠点病院の仕組みです。一方で希少疾患に関しては、従来から専門医が軸になったネットワークが存在します。手前味噌ですが、先ほどお話しした「HAMねっと」もその1つです。HAMの場合、確定診断に必要な検査のうちいくつかは保険適用外のため、全国各地にある「HAMねっと」参加医療機関では研究費を利用し、これらの検査を無料で実施できる体制があります。現状の参加医療機関は県によっては1件あるかないかの状況ですが、それでも40都道府県をカバーできるところまで広げることができました。ただ、前述した難病診療連携拠点病院と「HAMねっと」参加医療機関は必ずしも一致していません。その意味では希少疾患専門医、国の研究班、難病診療連携拠点病院がより緊密に連携する体制構築を目指していくことがさらに重要なステップです。このように受け皿を整備すれば、ゲートキーパーである開業医の先生方も診断がつきにくい患者をどこに紹介すればよいかが可視化されます。それなしに「ぜひ患者さんを見つけてください」と疾患啓蒙だけをしても、疑わしい患者の発見後、どうしたらいいかわからず、現場に変な混乱を招くリスクもあると思います。―そのうえで非専門の医療機関・医師が希少疾患を見つけ出すとしたら何が必要でしょうやはり昨今の技術革新である人工知能(AI)を利用した診断支援ツールの実用化が進めば、非常に有益なことは間違いないと思います。そもそもAIには人間のような思い込みがありませんから、たとえば脊髄障害があることがわかれば、自動検索で病名候補がまんべんなく上がってくるというシンプルな仕組みだけで見逃しが減ると思います。そのようになれば、迅速に専門医に紹介される希少疾患患者さんも増えていくでしょう。―もっとも日本国内では開業医の電子カルテ導入率も最大60%程度と言われ、必ずしもデジタル化は進んでいません国がどこまで医療DXを推進しようとしているかは、率直に言って私にはわかりません。ただ、医療DXが進展しやすい土俵・環境を作る責任は国にあると思います。その意味では先進国の中で日本がやや奥手となっている医療機関同士での患者情報共有の国際標準規格「FHIR」の導入推進が非常に重要です。それなしでAIによる診断支援ツールの普及は難しいとすら言えます。また、こうした診断支援ツールの開発では、開発者がきちんとメリットを得られるルール作りも必要でしょう。― 一方、希少疾患全体で見ると、新薬開発は活発化していますが、従来の大型市場だった生活習慣病領域で新薬開発ターゲットが枯渇したことも影響していると思われますか 率直に言って、希少疾患領域に関わっていると今でも太陽の当たる場所ではないと思うことはあります(笑)。その意味で新薬開発が進んでこなかった背景には技術的な問題とともに企業側の収益性に対する考えはあったと思います。もっとも昨今では技術革新により新規化合物デザインも進化し、希少疾患でも遺伝子へのアプローチも含め新たな創薬ターゲットが解明されつつあります。その意味ではむしろ新薬開発も今後は希少疾患の時代となり、30年後くらいは多くの製薬企業が希少疾患治療薬で収益を上げる時代が到来しているのではないかと予想しています。HAMについて言えば、いまだ特異的治療薬はありませんが、もし新薬が登場すれば診断ラグもさらに短縮されると思います。やはり治療薬があると医師側の意識が変わります。端的に言えば「より良い治療があるのだから、より早く診断をつけよう」というインセンティブが働くからです。そして、先程来同じことを言ってしまうようですが、やはりこの点でも、新薬開発が進む方向への誘導や希少疾患の新薬開発の重要性に対する国民の理解促進のために、国のサポートは重要だと思うのです。―その意味で国の希少疾患の研究に対する支援についてどのようにお考えでしょう?そもそも希少疾患は数多くあるため、公的研究費の獲得は競争的になりがちです。一般論では投じられる資金が多いほど、病態解明や新規治療開発は進展しやすいとは思いますが、ただ湯水のように資金を投じればよいかと言えばそうではありません。あくまで私見ですが、日本での希少疾患研究支援は、有力な治療法候補が登場した際の実用化に向けた支援枠組みは整いつつあると思っています。反面、基盤的な部分、HAMの例で言えば、患者レジストリ構築のような部分への支援は弱いと考えています。私たちは臨床データを電子的に管理すると同時に患者検体もバンキングしています。これらがあって初めてゲノム解析などによって病態解明や治療法開発の研究が可能になるからです。つまり患者レジストリは研究者にとって一丁目一番地なのです。しかし、その構築と維持は非常にお金がかかります。一例を挙げれば、「HAMねっと」で検体保管に要している液体窒素代は年間約500万円です。しかも、患者レジストリの構築と維持の作業からは直接成果が得られるわけではないのです。このために製薬企業などの民間企業が資金を拠出することは考えにくいです。結局、私も当初は外来終了後にポチポチとExcelの表を作成し、検体を遠心分離機にかけるという作業をやっていました。こうした患者レジストリを国によるコストや労力の支援で構築できるようになれば、多くの希少疾患でレジストリが生み出され、日本が世界に誇る財産にもなり得ます。もっとも先程来、「国」に頼り過ぎているきらいもあるので、国だけでなく企業、患者さんとも共同でこうした基盤を育てていく活動が必要なのではないかと考えています。恥ずかしながら、診断ラグのみならず治療ラグが存在すること、患者レジストリ構築の苦労やその重要性などについては私にとっては目からウロコだった。山野氏への取材を通じ、私個人はこの希少疾患問題をかなり狭くきれいごとの一般論で捉えていたと反省しきりである。 1) 日本神経学会:HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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緑茶摂取量が多い日本人は認知症リスクが低下

 緑茶は、コーヒーと同様、認知症を予防する可能性が示唆されているが、それを裏付けるエビデンスは不十分である。新潟大学のRikuto Kaise氏らは、日本人中高年における緑茶摂取と認知症リスクとの独立した関連性および緑茶とコーヒー摂取の相互作用を明らかにするため、12年間のコホート研究を実施した。The Journal of Nutrition誌2025年8月号の報告。 同研究は、加齢性疾患に関する村上コホート研究の12年間フォローアップ調査として実施した。対象は、地域在住の40〜74歳の日本人1万3,660人(男性:6,573人[48.1%]、平均年齢:59.0±9.3歳)。ベースライン調査は、2011〜13年に行った。自己記入式質問票を用いて、性別、年齢、婚姻状況、教育、職業、体格、身体活動、喫煙、アルコール摂取、紅茶・コーヒーの摂取、エネルギー摂取量、病歴などの予測因子と関連する情報を収集した。緑茶摂取量は、検証済み質問票を用いて定量的に測定した。認知症発症は、介護保険データベースを用いて特定した。 主な結果は以下のとおり。・緑茶摂取量が多いほど、認知症のハザード比(HR)の低下が認められた(多変量p for trend=0.0178)。最高四分位群のHRは、最低四分位群よりも低かった(調整HR:0.75)。・緑茶1杯(150mL)摂取による認知症の調整HRは0.952(95%信頼区間:0.92〜0.99)であり、1杯増加するごとに4.8%の減少が認められた。・緑茶とコーヒーの両方の摂取量が多いことと認知症リスク低下との関連性は認められなかった(p for interaction=0.0210)。 著者らは、「緑茶摂取量の多さと認知症リスク低下は、独立して関連していることが示唆された。緑茶の有益性は示されたが、緑茶とコーヒーの両方を過剰に摂取することは、認知症予防に推奨されないと考えられる」と結論付けている。

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AI支援で脳画像を用いた認知症タイプの診断精度が向上

 新たに開発されたAIツールが、患者が罹患している認知症タイプの特定に役立つ可能性のあることが明らかになった。この「StateViewer」と呼ばれるAIツールにより、認知症を含む9種類の神経変性疾患症例の89%において疾患を特定できたという。米メイヨー・クリニック神経学人工知能プログラムのディレクターであるDavid Jones氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に6月27日掲載された。 研究グループによると、このツールは、患者が認知障害の一因となっている可能性のある病状を抱えている場合でも、医師が認知症を早期かつ正確に特定するのに役立つ可能性があるという。Jones氏は、「私のクリニックを訪れる全ての患者は、脳という複雑な器官によって形作られたそれぞれに異なる物語を抱えている。私を神経学へと導いたのはその複雑さであり、今もそれが、より明確な答えを求める私の原動力となっている」と話す。その上で同氏は、StateViewerは同氏の情熱の表れであり、「神経変性疾患のより早期の理解と適切な治療に加え、将来的にはこれらの疾患の経過を変えるための1歩につながる」と述べている。  Jones氏らが開発したStateViewerは、フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影(FDG-PET)画像を基に神経変性疾患の診断を支援する、AIを活用した臨床診断支援システムである。AIは、9種類の神経変性疾患のうちのいずれかの診断を受けたか、健常(異常なし)と判定されてから2.5年以内に撮影された3,671人(平均年齢68歳、女性49%)のFDG-PET画像で訓練・検証された。 StateViewerは患者のFDG-PET画像を読み込み、大規模データベースに登録されている認知症患者のPET画像と比較することで、特定の認知症タイプやその組み合わせに一致する脳のパターンを特定する。例えば、アルツハイマー病は、典型的には記憶と情報処理の領域に影響を及ぼす一方、レビー小体型認知症は、注意力や運動に関わる領域に影響を及ぼし、前頭側頭型認知症では言語や行動を司る領域に変化が見られるという。判定結果は、重要な脳の活動領域を色分けして可視化したブレインマップとして提示される。 StateViewerの性能を検証した結果、9種類の神経変性疾患を約89%の感度(0.89±0.03)で識別可能であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.93±0.02と、優れた分類性能が示された。放射線科医がこのシステムを使ってFDG-PET画像を読影すると、現行の標準的な手順で読影した場合と比べて正しい診断を下す可能性が3.3倍高まった。 論文の筆頭著者でメイヨー・クリニックのデータ科学者であるLeland Barnard氏は、「このツールが医師にリアルタイムで正確な情報と支援を提供できることは、機械学習が臨床医学において果たし得る役割の大きさを明示している」と話している。 研究グループは、このツールの使用を拡大し、さまざまな臨床現場でその性能を検証することを計画している。

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高所得のアジア太平洋地域の男性片頭痛、女性とは対照的に増加傾向

 片頭痛は有病率の高い神経疾患であり、年齢や性別を問わず生活の質に大きな影響を及ぼす疾患である。さまざまな人口統計学的グループでの影響が報告されているが、既存の研究は主に一般集団、女性、青少年に焦点が当てられており、男性が経験する片頭痛負担については、十分に調査されていなかった。中国・同済大学のHaonan Zhao氏らは、男性における30年にわたる片頭痛の影響に関する知見を明らかにするため、1990〜2021年の世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors study:GBD)のデータを用いて、10〜59歳の男性片頭痛の世界的な有病率、発症率、障害調整生存年(DALY)を評価した。Frontiers in Neurology誌2025年6月6日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・1990~2021年にかけて、10〜59歳の男性における片頭痛負担は、世界で大幅に増加した。・片頭痛の発症率は46.55%、有病率は56.54%、DALYは56.95%の増加が認められた。・社会人口統計学的指標(SDI)中の地域では、負担の増加が最も顕著であった。・国家間レベルでは、ベルギーは有病率、DALYが最も高く、インドネシア、フィリピンは発症率が最も高かった。・年齢・時代・コホート分析では、10〜14歳で発症率はピークに達し、有病率およびDALYは30〜44歳でピークに達することが判明した。・ほとんどの地域において、人口増加が負担増加の主な要因であった。・男性の片頭痛の負担は、今後も増加し続けると予測された。 著者らは「本論文は、高所得のアジア太平洋地域において、男性の片頭痛負担は、女性の傾向とは対照的に、独特の増加傾向を示すことを明らかにした。10〜59歳の男性における片頭痛負担は、30年間増加しており、今後も増加し続けることが予想される。とくに注目すべきは、発症率は10〜14歳で最も高いのに対し、有病率およびDALYは30〜44歳でピークに達する点である。この問題に対処するためには、青年期における1次予防に重点を置き、中年期における2次、3次予防戦略を実施し、男性の片頭痛負担全体を減らす必要がある。さらに、これまでの研究結果とは異なり、高所得のアジア太平洋地域における片頭痛の負担は増加傾向であることも判明した」と結論付けている。

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初老期のADHDとMCIは別物、どう鑑別する?【外来で役立つ!認知症Topics】第31回

認知症を専門とする医師の間で、とくに50~60代で「認知症が心配」と受診される患者さんの中に、従来の教科書には記載されてこなかった一群がいる、という声が聞かれる。これは、初老期に至って言動面の問題が顕在化した注意欠陥・多動症(ADHD)だろうと疑わざるを得ない患者さんである。実際にここ数年、初老期や老年期に入ったADHDの人の認知機能に注目した論文が数多く発表されている。そしてADHDと軽度認知障害(MCI)や認知症との関係が検討されており、とくにADHDがMCIの危険因子だとしたものが多い。しかし、臨床の場でMCIを心配して来院された人の中で、最終的にADHDだろうと判断される人を診るとき、筆者には必ずしも納得できない点がある。つまり、アルツハイマー病の前駆状態である本質的なMCIの人とは、受ける印象が違う。その点について、今回は少し深堀をしたい。ADHDの有病率と神経学的背景まずADHDの有病率は、DSM5によれば、子供の約5%および成人の約2.5%に生じるとされることから、ある意味「よくある疾患」である。また、ADHDの子供が成人期に至ると有病率が半減することを意味する。一方、専門家によれば、25~35%の人は、青年期以降に寛解に至るとされる。こうしたところから、少なくとも筆者には「ADHDは成長するにつれ治っていく病気だ」という印象があった。そのため、初老期に達した認知機能障害の疑われる人を診るうえで、ここが1つの偏見になっていたのかもしれない。ADHDの背景を簡単に整理してみよう。その神経化学では、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の減少が、その病態生理の重要物質として注目されてきた。形態的には、MRI研究により、主に大脳の前頭葉、前頭前野、また頭頂葉や小脳も、ADHDに関与する領域として注目されてきた。そして、ある種の課題を課すことでこれらの領域の賦活状態に変化がみられるという研究もある。一方で、大脳基底核の変形も注目されており、その変形がより顕著な子供では、症状がより重いとされている。また、中枢神経刺激薬が有効であることの根拠もここに求められている。さらに、より多動で衝動的なADHDの子供ほど、大脳皮質の菲薄化が遅いとされ、これは前頭葉、前頭前野で最も顕著である。この特徴は成人期に至っても続くとされ、後述の最近の報告でも指摘されている。臨床的に寛解したように見えても、実際には注意の集中と遂行機能の障害は遅くまで残ることがある。遂行機能は、ある意味で最も高度な認知機能であり、たとえば、自分の感情や行動の制御、情報の流れの追跡・判断などが含まれる。一方で、デフォルトモードネットワークの障害が関わるものとされる。このネットワークは、段階を重ねる課題に対して鍵となる脳の部位である。そのため、ADHDの人は、注意を調整したり持続したりすることが難しくなると考えられている。さらに、「トップダウンの遂行制御」という認知機能は、記憶のモニターや、知的柔軟性、そして抑制を支えると考えられている。この機能は、高い適応能力や努力が求められる知的課題において、とくに重要である。こうした点が、ADHDの人にみられる症状の背景として重視されている。ADHDはMCIの危険因子ではないさて、初老期に至ったADHDと一般的なMCIの人との差異について、筆者の直感的な印象に合致する論文があった。これは、初老期以降に至った平均年齢が64.0±8.9歳のADHDの人を対象に、MCIの人を対照として、認知機能およびMRIによる大脳構造の異同を検討した報告である1)。その結果として、両方のグループにおいて記憶障害は認められたが、その内容に違いがあった。MCIでは、記憶の保持(ストック)に障害があった。そしてこのことは、記憶の保持の場である海馬の萎縮が認められたことによっても支持されている。一方、ADHDにおいては、情報を記銘(インプット=符号化)するところに障害があった。そしてMRIでは、記銘において大切な役割を果たす前頭葉皮質の萎縮が認められたことで支持されている。以上の結果から、両者は別ものであり、ADHDがMCIの危険因子であることに否定的な結論を示している。どのように鑑別するか?両者の鑑別においては、子供の頃からADHDの傾向があったか否かが、最も重要だろう。けれども、本人の記憶や自己評価、さらには病識の問題もあって、実際にはなかなか難しい。とくに注意すべきは、病識が欠如している人が少なくないことである。そのため、本人以上に、周囲の人から複数の情報を得ることが必要である。また、最終的に初老期に至ったADHDと診断される人が、自らの意志で受診することは少ない。多くは職場や家族からの勧めによって「仕方なく」受診される。それだけに、周囲の人々に、当事者のこれまでの評価と最近の評価を尋ねておきたい。MCIの人は両者に乖離があるのに対して、ADHDの人では「延長線上にある」という回答が多い印象がある。なお、客観的検査法として、脳波検査での徐波の増加やMRIでの全脳体積の減少を指摘する報告もあるが、これらは診断に必ずしも役立つとは限らない。参考1)Callahan BL, et al. Cognitive and Neuroimaging Profiles of Older Adults With Attention Deficit/Hyperactivity Disorder Presenting to a Memory Clinic. J Atten Disord. 2022;26:1118-1129.

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老年期気分障害における多様なタウ病理がPET/剖検で明らかに

 老年期気分障害は、神経変性認知症の前駆症状の可能性がある。しかし、うつ病や双極症を含む老年期気分障害の神経病理学的基盤は依然としてよくわかっていない。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の黒瀬 心氏らは、老年期気分障害患者におけるアルツハイマー病(AD)および非ADタウ病態の関与について調査した。Alzheimer's & Dementia誌2025年6月号の報告。 対象は、老年期気分障害患者52例および年齢、性別をマッチさせた健康対照者47例。18F-florzolotauおよび11C-Pittsburgh compound Bを用いたtau/Aβ PET検査を実施した。さらに、さまざまな神経変性疾患を含む208例の剖検例における臨床病理学的相関解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・老年期気分障害患者は、健康対照者よりもtau PETおよびAβ PETで陽性となる可能性が高かった。・PETの結果は、剖検結果により裏付けられ、老年期躁病またはうつ病患者は、そうでない患者よりも多様なタウオパチーを有する可能性が高かった。 著者らは「本試験におけるPETおよび剖検結果は、ADおよび非ADタウ病態が一部の神経病理学的基盤となっている可能性を示唆している」としている。

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砂糖/人工甘味料入りドリンクはアルツハイマー病リスクを高める可能性あり

 Lebanese UniversityのNagham Jouni氏らは、加糖ドリンク、人工甘味料入りドリンク、ソフトドリンクの摂取とアルツハイマー病リスクとの関連性を評価するため、プロスペクティブコホート研究のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Aging & Mental Health誌オンライン版2025年6月13日号の報告。 2024年9月までに公表された研究をPubMed、Scopus、Web of Scienceデータベースより網羅的に検索し、甘味料入りドリンクとアルツハイマー病リスクとの関連を報告した観察研究を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、プールされた相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。バイアスリスクの評価にはROBINS-Iツール、エビデンスの確実性の評価にはGRADEアプローチを用いた。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした9件の研究のうち、7件をメタ解析に含めた。・加糖ドリンクの摂取量増加とアルツハイマー病リスク上昇との関連が認められ(RR:1.49、95%CI:1.03〜2.15、I2=79.0%)、用量反応解析において線形関係が認められた。・人工甘味料入りドリンクもアルツハイマー病リスクと正の相関が確認された(RR:1.42、95%CI:1.14〜1.78、I2=0.0%)。・ソフトドリンクとの有意な関連は認められなかった(RR:1.13、95%CI:0.83〜1.55)。・加糖ドリンク、人工甘味料入りドリンクにおけるエビデンスの確実性は、中程度であった。 著者らは「加糖ドリンク、人工甘味料入りドリンクの摂取量増加は、アルツハイマー病リスクを上昇させる可能性がある。認知機能低下やアルツハイマー病予防には、砂糖の摂取量を減らすことを目的とした公衆衛生上の推奨事項の根拠を強化するためにも、このメカニズムを明らかにし、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. BMJ. 2016;354:i4843. Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. Muth C, et al. J Intern Med. 2019;285:272-288. Boyd C, et al. J Am Geriatr Soc. 2019;67:665-673. Mercer S, et al., eds. ABC of Multimorbidity. John Wiley& Sons. 2014. 佐藤健太 著. 慢性臓器障害の診かた、考えかた 中外医学社. 2021. 参考 1) NICE guideline 2016 2) Aoki T, et al. Sci Rep. 2018;8:3806. 3) Soley-Bori M, et al. Br J Gen Pract. 2020;71:e39-e46. 4) Muth C, et al. BMC Med. 2014;12:223. 5) Aoki T, Watanuki S. BMJ Open. 2020;10:e039040. 6) Gaulin M, et al. CMAJ. 2019;191:E724-E732. 7) Bowen M, et al. Br J Gen Pract. 2019;69:e515-e525. 8) Mizumoto J, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:164-165. 9) Terui T, et al. J Gen Fam Med. 2020;21:92-93. 10) Suemoto CK, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017;72:410-416. 11) Wang H, et al. BMC Cardiovasc Disord, 14:97, 2014 12) Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage. 1999;17:240-247. 13) Lea M, et al. PLoS One. 2019;14:e0220071. 14) Markun S, et al. PLoS One. 2014;9:e110309. 15) Pariser P, et al. Ann Fam Med. 2019;17:S57-S62. 執筆

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アルツハイマー病における興奮の診断・評価・治療に関するエキスパートの推奨事項

 アルツハイマー型認知症のアジテーションは、患者、介護者、家族、医療制度に大きな影響を及ぼす。アジテーション治療に関する新たなエビデンスが明らかになるにつれて、多専門分野の専門家によるラウンドテーブルが開催され、発表された文献(2024年10月1日現在のPubMed検索結果)をレビューし、米国のプライマリケア提供者のためのコンセンサス推奨事項が作成された。米国・セントルイス大学のGeorge T. Grossberg氏らは、プライマリケア提供者向けのアルツハイマー型認知症のアジテーションの診断とマネジメントに関するエビデンスに基づく臨床実践のコンセンサス推奨事項を報告した。Postgraduate Medicine誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 本稿では、ラウンドテーブルで得られた主要な推奨事項を要約した。具体的には、鑑別診断、現在の臨床実践、非薬理学的介入、薬理学的介入、居住型介護施設/在宅介護環境および介護者に対する治療とコミュニケーションの考慮事項を含めた。 主な結果は以下のとおり。・アジテーションのタイムリーな検出、正確な診断、適切なマネジメントと予防には、医療提供者、患者、介護者/家族の間での積極的なコミュニケーションが不可欠である。・治療のベースは常に、患者の性格、興味、機能レベルに基づいた個別の心理教育および非薬理学的介入から、スタートしている。・薬理学的介入が強く推奨されるケースは以下のとおりである。●アジテーションに伴う行動が非常に激しく、不安を呈し、混乱を招く場合●重大な安全性上の懸念が他の方法で対処できない場合●医療提供者が好ましい個々のリスクベネフィットプロファイルを有する薬理学的介入によりアジテーションを十分にマネジメントまたは軽減できると確信した場合・アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの治療薬として質の高い臨床試験で複数の薬剤が研究されているものの、米国食品医薬品局(FDA)が承認した薬剤はブレクスピプラゾールのみであり、必要に応じて使用することが推奨される。・治療を最適化し、潜在的な副作用をモニタリングし、最小限に抑制するためにも、介入の継続的な評価が必要である。・患者ケアチームの重要な一員である介護者/家族との強力なパートナーシップを含む、患者中心のアプローチが推奨される。 著者らは「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションをタイムリーに検出し、正確な診断を行い、適切な治療に繋げることが非常に重要である。これらの推奨事項に従うことで、ほとんどの患者および介護者のアウトカムが改善される可能性がある」とまとめている。

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VR活用リハビリは脳卒中患者の腕の機能回復に有用

 脳卒中患者のリハビリテーション(以下、リハビリ)におけるVR(仮想現実、バーチャルリアリティ)の活用は、代替療法に比べて腕の動きの改善にわずかに役立つ可能性があることが、新たな研究により明らかになった。英フリンダース大学看護・健康科学部のKate Laver氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic reviews」に6月20日掲載された。 研究グループは、「VRは、患者が受けるリハビリの量を増やすことでその効果を高める手段として有望である可能性が示された」と話す。またLaver氏は、「治療に費やす時間を増やすと、脳卒中後の転帰が改善することは知られている。VRを活用すれば、臨床医が監督をしなくても治療の量が増えるため、比較的安価で魅力的な方法となり得る」と述べている。 脳卒中に対するVRを活用したリハビリ(以下、VR活用リハビリ)の効果についてのレビューは、2011年と2015〜2017年にも実施されている。今回のレビューでは、新たに発表された119件の研究を追加した、計190件のランダム化比較試験(RCT)のデータ(対象者の総計7,188人)を対象にしたもの。RCTの多くは小規模で、対象者の数が50人以上のRCTはわずか36件(29%)だった。また、RCTで使用されていたVR技術は、既製のゲームシステムなど、基本的な、あるいは低コストのものだった。 その結果、VR活用リハビリは、代替療法と比べて腕の機能と活動性の回復に対する効果がわずかに高いことが示された(標準化平均差0.20、95%信頼区間0.12〜0.28、67件の研究)。歩行速度に対しては、VR活用リハビリはほとんどまたは全く影響しないことが示唆されたが、エビデンスの確実性は極めて低かった(10件の研究)。さらに、代替療法と比較して、VR活用リハビリはバランス感覚の向上にわずかに有益な可能性があり(同0.26、0.12~0.40、24件の研究)、活動制限を軽減する可能性があるが(同0.21、0.11~0.32、33件の研究)、生活の質(QOL)への影響はほとんど、またはまったくない可能性が示唆された(同0.11、−0.02~0.24、16件の研究)。VR活用リハビリの安全性については、ごく少数の患者に痛みや頭痛、めまいなどが生じたが、概ね安全であることが示唆された。 研究グループは、「現在のVR活用リハビリプログラムのほとんどは、着替えや調理といった機能的能力の回復を助けることではなく動作訓練に重点を置いているため、脳卒中経験者の機能回復を支援するという本来の可能性を生かしきれていない」との見方を示す。Laver氏は、「VR技術は、スーパーマーケットでの買い物や道路の横断など、現実の環境をシミュレートできる可能性を秘めている。つまり、現実世界では安全に実践できないタスクを試すことができるということだ」と話す。その上で同氏は、「研究者らは、さらなる研究により、より洗練された機能重視の治療法を開発する余地が十分にある」と付け加えている。

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経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」【最新!DI情報】第43回

経鼻投与のてんかん発作レスキュー薬「スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg」今回は、抗けいれん薬「ジアゼパム(商品名:スピジア点鼻液5mg/7.5mg/10mg、製造販売元:アキュリスファーマ)」を紹介します。本剤は、介護者による投与も可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤であり、院外での速やかな治療が可能になると期待されています。<効能・効果>てんかん重積状態の適応で、2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および2歳以上の小児にはジアゼパムとして、患者の年齢および体重を考慮し、5~20mgを1回鼻腔内に投与します。効果不十分な場合には4時間以上空けて2回目の投与ができます。ただし、6歳未満の小児の1回量は15mgを超えないようにします。●2歳以上6歳未満6kg以上12kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)12kg以上23kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)23kg以上:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●6歳以上12歳未満10kg以上19kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)19kg以上38kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)38kg以上56kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)56kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)●12歳以上14kg以上28kg未満:5mg(5mg製剤を片方の鼻腔1回)28kg以上51kg未満:10mg(10mg製剤を片方の鼻腔1回)51kg以上76kg未満:15mg(7.5mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)76kg以上:20mg(10mg製剤を両方の鼻腔1回ずつ)<安全性>重大な副作用として、依存性、離脱症状、刺激興奮、錯乱など、呼吸抑制(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、傾眠(10%以上)、意識レベルの低下、貧血、口腔咽頭不快感(いずれも5~10%未満)、眠気、ふらつき、眩暈、頭痛、言語障害、振戦、複視、霧視、眼振、失神、失禁、歩行失調、多幸症、黄疸、顆粒球減少、白血球減少、血圧低下、頻脈、徐脈、悪心、嘔吐、便秘、口渇、食欲不振、発疹、倦怠感、脱力感、浮腫(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、抗けいれん作用がある点鼻薬です。鼻腔内に使用します。2.脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん発作を抑える働きがあります。3.この薬は適切な指導を受けた保護者(家族)またはそれに代わる適切な人が使用できますが、2歳以上6歳未満のお子さんの場合は、医師のもとで使用する必要があります。4.噴霧器には1回(1噴霧)分の薬が入っています。噴霧テスト(空打ち)や再使用はしないでください。5.症状が現れたときに、1回1噴霧(どちらか片方の鼻のみ)もしくは2噴霧(両方の鼻に1回ずつ)してください。6.原則として、この薬の使用後は救急搬送を手配してください。<ここがポイント!>てんかん重積状態は、「臨床的あるいは電気的てんかん活動が少なくとも5分以上続く場合、またはてんかん活動が回復なく反復し5分以上続く場合」と定義されています。この定義は、脳へのダメージや長期的な後遺症が懸念される時間の閾値に基づいています。とくにけいれん発作が30分以上持続すると、脳損傷のリスクが高まり、生命予後にも重大な影響を及ぼす可能性があるため、速やかな治療介入が極めて重要になります。治療の第一選択薬の1つとしてジアゼパム静注が挙げられますが、院外では静脈注射や筋肉注射が困難な場合が多く、急性対応の選択肢は限られています。てんかん重積状態の治療には病院到着前の治療(プレホスピタルケア)が重要であるため、簡便に使用できる製剤が必要と考えられていました。本剤は、医療者または介護者による投与が可能な国内初のジアゼパム鼻腔内投与製剤です。ジアゼパムは1960年代から広く用いられている抗けいれん薬であり、本剤は院外での「てんかん重積状態に対するレスキュー薬」の新たな選択肢となります。本剤は、簡単かつ迅速に投与できる点鼻スプレーであり、2歳から成人まで使用可能です。また、室温保存が可能で携帯性に優れた製剤で、自宅での使用にも適しています。てんかん重積状態またはてんかん重積状態に移行する恐れのある発作を有する6歳以上18歳未満の日本人小児患者を対象とした国内第III相試験(NRL-1J02試験)において、主要評価項目である臨床的にけいれん発作と判断される状態が本剤を単回鼻腔内に投与後10分以内に消失し、かつ投与後30分間認められなかった患者の割合は62.5%(95%信頼区間:35.4~84.8)でした。

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認知症患者の介護者は認知症関連因子の保有率が高い傾向

 認知症患者の介護者(以下、認知症介護者)は、健康的ではない脳の老化に関連するライフスタイル因子を持っている傾向が強く、そのため自身の認知症リスクも高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。米アルツハイマー病協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction(認知症リスク低減のための公衆衛生卓越センター)および米ミネソタ大学を拠点とするPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregiving(認知症の介護に関する公衆衛生卓越センター)によるこの研究は、「Risk Factors For Cognitive Decline Among Dementia Caregivers(認知症介護者における認知機能低下のリスク因子)」のタイトルで6月12日に公表された。 この研究では、連邦公衆衛生機関が2021年から2022年にかけて米国の47州から収集した介護者の健康に関するデータを分析し、認知症介護者が一般人口と比べて、修正可能な認知症のリスク因子をより多く持っているのかが検討された。修正可能な認知症のリスク因子とは、糖尿病、肥満、運動不足、喫煙、睡眠不足、高血圧の6つである。 その結果、認知症介護者は、一般人口と比べて修正可能な認知症の6つのリスク因子のうち5つについて該当すると報告する傾向の強いことが明らかになった。具体的には、介護者で個々の因子が該当する割合は一般人口と比べて、喫煙で30%、高血圧で27%、睡眠不足で21%、糖尿病で12%、肥満で8%高かった。運動不足についてのみ、介護者での該当者の割合は一般人口よりも9%少なかったが、これは、介護の身体的負担が大きいためと考えられた。 該当するリスク因子の数が1つ以上の人の割合は、認知症介護者で59.1%、一般人口で56.1%、複数の人の割合は24.3%と21.3%であり、いずれも認知症介護者の方が一般人口よりもわずかに高かった。この傾向は45歳未満の認知症介護者で特に顕著であり、同年代の一般人口と比べて、該当するリスク因子の数が1つ以上の人の割合は13%、複数の人の割合は40%高かった。また、これらの人では同年代の人と比べて、喫煙率が86%、高血圧の割合が46%、睡眠時間が6時間未満である割合が29%高かった。 これらの結果について、米アルツハイマー病協会の健康政策のシニアバイスプレジデントを務めるMatthew Baumgart氏は、「これは、認知症介護者の脆弱性を明示する結果だ。認知症介護者は、家族や友人の介護に忙しく、自身の健康を顧みないことが多い。この分析結果は、公衆衛生分野にとって認知症介護者の健康問題に対処する戦略の策定を促す警鐘となるはずだ」とニュースリリースの中で述べている。 ミネソタ大学公衆衛生学部健康的な老化とイノベーションセンター所長のJoseph Gaugler氏は、「人口全体と比較して認知症介護者において保有率が高い認知症のリスク因子を特定することで、公衆衛生政策立案者は資源の配分と介入の適切な優先順位付けと調整を行うことができる」と述べている。

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