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1.

記憶力の低下はこれまで考えられていたよりも若いうちに始まる

 人の記憶力は、これまで考えられていたよりも早い時期から低下し始めるようだ。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校心理学准教授のIan McDonough氏らによる研究で、50歳代には若年成人と比べて記憶成績の低下がすでに認められ、これには記憶に重要な役割を果たす海馬の機能的な変化が影響している可能性のあることが明らかになったという。詳細は、8月10日付で「Cerebral Cortex」に掲載された。McDonough氏はニュースリリースの中で、「記憶の機能には中年期が極めて重要で、無視できない時期であることを示す研究が増えているが、今回の研究もその一つである」と述べている。 論文中の研究背景によると、記憶の形成は脳が新しい情報を記録することから始まる。その後、海馬がその記憶を再活性化することで安定化が進み、必要になったときに記憶が想起される。今回の研究では、こうした新しい情報を記録する段階から想起する段階までの連続性に加齢がどのような影響を及ぼすのかを調べた。 この研究では、20~74歳の成人61人(若年成人〔20~30歳〕:17人、中年層〔51~60歳〕:21人、高齢層〔61~74歳〕:23人)を対象に、まず5分間の安静時機能的MRI(fMRI)を実施した。次いで、人間の顔+物、または人間の顔+場面(屋内外の空間)を組み合わせた画像を1ペアにつき3秒間ずつ提示する符号化ランを2回に分けて行った。1回のランは、32ペアの画像で構成され、所要時間は8分程度だった。その後、T1強調構造画像、安静時fMRI画像を撮像し、符号化課題で提示した画像の組み合わせについて、fMRIで撮像しながら2回のランに分けて記憶テストを行った。このテストは、顔と組み合わせて示されていた物または場面を4つの選択肢から選ぶものだった。研究グループは、符号化時、符号化後の安静時、記憶検索時における海馬の活動パターンが各段階の間でどの程度類似しているかを表象類似性指標(representational similarity index;RSI)として算出して解析した。 その結果、記憶テストの平均正答率は、若年成人で36%、中年層で24%、高齢層で20%であり、若年成人に比べて中年層と高齢層で有意に低かった。一方、中年層と高齢層の間には有意差はなかった。また年齢が高いほどRSIが低いという関連が認められ、加齢に伴い記憶の各段階間で海馬の表象の類似性が低下する可能性が示唆された。 McDonough氏は、「20~30歳から50歳代にかけて記憶の正確性は大幅に低下していた。これは、海馬におけるこうしたプロセスの一部の低下は中年期までに始まっており、中年期がまさに一つの転換点であることを示唆している」と説明している。 さらに、符号化時と記憶検索時のRSI(EN-RE RSI)と正答率との関連を検討したところ、若年成人ではEN-RE RSIと全体の正答率の間に最も強い正の関連が見られた。中年層でもこの関連は弱まったものの有意であったが、高齢層では有意ではなかった。また、RSIと誤りの種類(場面または物というカテゴリーは正しいが別の画像を選んだ場合と、カテゴリー自体を間違えた場合)との関連も年齢によって異なり、高齢層ではRSIが高いほど、異なるカテゴリーを選ぶ誤りが多かった。 この結果についてMcDonough氏は、「記憶を符号化したときと一致するパターンで海馬が再活性化するほど、こうした記憶違いが生じる可能性が高まることが示された。つまり、そのような再活性化パターンは記憶力の向上と関連するのではなく、むしろ記憶違いと関連していたのだ」と言う。ただし、なぜ加齢に伴い記憶を形成し、想起する通常の仕組みがうまく機能しなくなるのかについては明らかになっていないと同氏は述べている。 研究グループは今後の研究で記憶のプロセスをさらに詳しく調べるとともに、学習後に脳を刺激することが記憶にどのような影響を及ぼすのか検討する必要があるとしている。

2.

声の変化はその後の認知機能低下の警告サイン?

 声の変化は脳機能の低下や認知症の早期警告サインである可能性があるようだ。新たな研究で、難聴はないが、声の高さ、明瞭さ、声量、声域など声の質に問題がある音声障害と診断された人では、音声障害のない人と比べて認知機能低下のリスクが58%高いことが明らかになった。また、音声障害と難聴の両方がある場合、そのリスクは2倍以上に上昇することも示されたという。米ドレクセル大学医学部教授のRobert Sataloff氏らによる研究で、詳細は8月10日付で「Journal of Voice」に掲載された。 研究グループによると、難聴は認知症のリスク因子として知られており、補聴器を使用している人では、使用していない人より認知症のリスクが低いことが示されている。しかしSataloff氏らは、パーキンソン病などの他の神経変性疾患で声の変化が見られることから、音声障害も認知症に関連している可能性があると考えた。同氏らによると、パーキンソン病患者の75~90%で発症前または疾患経過中に声や発話に変化が生じるという。 今回の研究では、傾向スコアマッチングを行った50歳以上の音声障害患者と、音声障害および難聴のない対照患者、計83万3,417人(平均年齢64.6歳)のデータを用いて、音声障害の最初の診断日などの基準時点から365日後を追跡開始時点として、その後の認知機能低下のリスクを比較した。 その結果、音声障害群では診断から365日以降に認知機能が低下するリスクが高いことが示された(ハザード比1.291、95%信頼区間〔CI〕1.155~1.443)。また、音声障害群を難聴の有無で分けて解析すると、音声障害のみがある群では対照群と比べて認知機能低下のリスクが約58%高かった(ハザード比1.583、95%CI 1.403~1.787)。一方、音声障害に難聴を併発する群では、対照群と比べて認知機能低下のリスクが2倍以上高かった(ハザード比2.038、95%CI 1.645~2.524)。さらに、難聴のみを有する場合でも、認知機能低下のリスクは対照群よりも約27%高いことが示された。 Sataloff氏は、「音声障害は、難聴のみの場合よりも、認知機能低下のより早期かつ顕著な兆候である可能性がある。認知機能低下との間に最も強い関連が認められたのは、音声障害と難聴の両方がある場合だった。しかし重要なのは、難聴はないが音声障害がある患者のリスクが難聴のみを有する患者を上回っていたことだ」と指摘している。 Sataloff氏は、今回の研究デザインから、音声障害が認知症に関連する理由を明らかにすることはできないと指摘しつつも、声の変化が他者との関わり方に影響を与えることが一因である可能性を指摘している。同氏は、「音声障害のせいで声が変わったり、話したり歌ったりしようとすると痛みを感じるのであれば、脳の健康維持にもつながる社会活動や積極的な関わりを伴う活動への参加が減るのは自然なことだ。音声障害が他の身体的兆候に先行することも多いパーキンソン病患者では、すでにこのような現象が認められている」と述べている。また、後に認知機能低下を引き起こす生物学的プロセスが音声障害にも影響を及ぼしている可能性もあるという。Sataloff氏らは、この点についてもパーキンソン病が参考になると述べている。 Sataloff氏は、話し方や声に変化が生じた場合には医師に相談すべきだとし、「こうした患者の多くにとって、耳鼻咽喉科医に相談することが有益かもしれない。耳鼻咽喉科医は認知機能評価を手配し、適切なケアプランの作成を支援してくれる」と述べている。

3.

脳卒中後の腕の運動機能、脊髄刺激療法で改善

 脊髄刺激療法(SCS)という治療により、脳卒中患者の腕の筋力と可動性が改善したとする報告が、「Nature Medicine」に6月4日付で掲載された。米ピッツバーグ大学医療センターのMarco Capogrosso氏らが行った小規模な研究によるもので、参加者の中には手や指の動きが良くなった人もいたという。 論文の共同上席著者の1人である同氏は、「SCSは補助的な技術として機能するもので、脊髄を刺激することで脳と脊髄の間に残存する神経結合が効率的に機能し、人々はよりスムーズに動けるようになる」と説明。また、「このアプローチは、脳卒中発症から何年も経った患者の腕の動きを迅速に改善することを目的としている」という。 研究者らによると、米国において脳卒中は腕のまひの主要な原因であり、毎年約40万人が慢性的な腕や手の筋力低下を発症しているとのことだ。そして、標準的なリハビリテーションでは、十分な改善を得るために必要な訓練量を確保することが難しく、それがSCSの可能性に着目した背景だとしている。 SCSは、脊髄の神経線維に電気パルスを送り、脳と筋肉の連携を強化することを目指す治療である。脳卒中後の上肢機能の回復を目的にSCSを用いた臨床試験はこれまでになく、本研究は、この手法を検討した初めての臨床試験だと研究者らは述べている。 本研究では、7人の参加者が頸髄の片側に2本の電極リードを埋め込む手術を受け、4週間留置した。その後、SCSを併用した運動活動を含む計8.6時間の訓練を行い、そのうち5.5時間はSCSをオンにした状態で実施した。その結果、障害の程度にかかわらず、参加者全員に刺激を与えると筋力が直ちに改善した。また、脳卒中によって損傷した神経に起因する筋肉の硬直も軽減された。さらに、7人中3人は、手や指の動きが改善した。 論文の共著者の1人である同大学のGeorge Wittenberg氏は、「われわれが確認した改善の程度は、ごくわずかなもののように見えるかもしれない。しかし臨床的な視点に立てば、腕の筋力やコントロール能力が少し改善するだけで、脳卒中患者の日常生活に大きな違いをもたらす可能性がある。シャツのボタンを自分で留めたり、手を開いたりするなど、患者本人が大切にしていた活動の再開に役立つ変化が生まれるならば、それは非常に大きな意味を持つ」と話している。ただし研究者らは、SCSの効果を持続させるためには、刺激を継続する必要があることを付け加えている。今回の研究で、刺激装置のスイッチをオフにすると運動機能が低下することが示されたという。 研究チームは現在、脳卒中後の症状に対するSCSの長期的な影響を評価するため、より大規模な臨床試験の参加者を募集している。Capogrosso氏は、「今回の論文は実現可能性を調査した研究初期段階の結論であり、臨床応用に向けた重要な一歩である。われわれのゴールは臨床の現場だけでなく、日常生活の中で患者が使える技術を開発することだ」と語っている。

5.

男の子のサバイバル【Dr. 中島の 新・徒然草】(651)

六百五十一の段 男の子のサバイバルしばらくインフルエンザでくたばっていました。「何か体調が悪いな、熱が出るなあ」と思い、自宅にあった迅速キットで調べてみると、見事にインフルエンザAの部分に赤い線が浮かびあがりました。「寝ていれば治るだろう」と思ったのが間違いだったのかも。結局、シルバーウィークは毎日12時間寝て過ごす羽目になりました。後から発症した女房はさっさとゾフルーザを飲んで先に治ってしまったので、やはり薬を飲むべきだったようです。さて、先日の脳外科外来。中年男性の患者さんがこんなことを言っていました。 患者 「この前、子供らと一緒に車で遠出したんですけどね。帰りの山道で煽られて腹が立ったんですよ」 中島 「山道って?」 患者 「夜の下りで黄色線なのに途中で抜かしていきよったんです」 夜道で煽られたといっても、車の性能や運転技術が劣っていたと考える必要はありません。単に、道をよく知っていたとかヘッドライトが明るかったとか……じゃないでしょうか。そう思えば腹も立たないと思うんですけど。 患者 「知らない間に悪態をついていたみたいで、後部座席の子供らになだめられたんですよ」 中島 「お父ちゃんをなだめるなんて、立派じゃないですか」 これまでも、男の子が2人、診察についてきたことがあります。 中島 「いくつになったんでしたか?」 患者 「中3と小5です。もう高校受験ですよ。」 まだ小学生のイメージが残っていましたが、早いものです。 患者 「上の子は受験勉強を頑張っているんですけど、○○にある高校に行こうとしているらしくて」 この人、数年前に離婚して子供たち2人は母親が育てていました。 中島 「○○って、それ大丈夫かなあ……」 患者 「やっぱり、先生もそう思いますか?」 以前、私は○○にある病院に勤務していたことがありますが、いわゆるラフ・エリアってやつです。酔っ払いの喧嘩や交通事故でいつもERが賑わっていました。一番呆れたのは、近くのファミレスの駐車場での2つのグループの喧嘩。何と、片方が車で喧嘩相手を撥ね飛ばしてしまったのです。当然、ERに運ばれてきましたが、思わず「ワイらの仕事を増やすなよ!」と説教してやりたくなりました。 患者 「元嫁はあんまり学校の場所を気にしていないんですよ」 中島 「気にすべきでしょう!」 患者 「ウチの子は殴ったり殴られたりという経験がないみたいなんで」 中島 「まずはサバイブですよ」 男の子の中高生時代というのは、お勉強より何よりサバイバルが優先。 中島 「歩いていて、危なそうなのを見つけたらちょっと道を変えるとか」 患者 「そうですよね。先に見つけるのが大切なんですよね、あれは」 もう現代のステルス戦闘機の遭遇戦みたいなものです。敵を見つけたという情報を瞬時に味方の間で共有し、先にミサイルを撃って離脱するという必勝パターン。今も昔も「とにかく先に見つけろ!」というわけです。 中島 「どうしても回避できない時は数の力で押し切るとか」 患者 「そうそう!」 昔、他の中学の生徒に因縁をつけられた時に、こちらの数が増えたら自然に解決したことがあります。どんな不良でも、相手の数が多くなるとなぜか急に冷静になるみたいですね。今でいうところの北大西洋条約機構みたいなものかも。確か加盟国は32ヵ国だったかな。 患者 「一度、その学校を見学に行こうかと思っているんです」 中島 「それは大切ですよ。本当に子供を預けていい学校かどうか、父親の目で確認しておかないと」 患者 「そうですよね!」 ということで、病気の話はそっちのけ。サバイバル術で盛り上がってしまいました。それにしても診察室というのはいろいろな話が飛び交う場所です。それもまた一興。外来診療を楽しみましょう。最後に1句 インフルに やられてたまるか サバイブだ! 

6.

第79回 「人生最初の1,000日」の砂糖摂取が、70年後の認知症リスクを変える?

認知症の予防といえば、中高年になってからの運動や食事を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、イギリスの約6万5,000人を分析した新しい研究は、母親のおなかの中にいた時期から2歳ごろまでに砂糖が制限されていた人ほど、成人後の認知症の発症が少なかったと報告しました1)。「自然の実験」と呼ばれる特殊な歴史的状況を利用したこの研究の中身と、私たちが知っておくべき読み方を解説します。1953年9月、イギリスで起きた「自然の実験」第2次世界大戦中の1942年、イギリスでは砂糖やお菓子を含む食料の配給制が始まりました。この砂糖の配給は戦後も続き、1953年9月に突然終わります。配給が終わると、国全体の砂糖の消費量は1年余りで5割以上増えました。一方、脂質やほかの食品の消費はほとんど変わらず、総カロリーの増加も5%程度にとどまっていました。つまり、この時期に生まれた子供たちは、生まれた月の違いだけで「幼少期に砂糖が制限されていた人」と「制限されなかった人」に、いわば偶然に分かれることになります。研究者の意図で人を分けたわけではないのに比較ができる、この状況を疫学では「自然の実験」と呼んでいます2)。研究チームは、イギリスの大規模な健康データベース「UKバイオバンク」に参加する1951年10月~1956年3月生まれの6万4,737人を分析しました。母親の妊娠中(胎児期)のみ、胎児期から生後1年まで、胎児期から生後1~2年までと、配給を経験した期間の長さで分け、配給をまったく経験していない人と認知症の発症率を比べたのです。参加者の登録時の平均年齢は約55歳で、追跡は2023年まで行われました。制限期間が長いほど、認知症は少なく・遅い結果は、砂糖の制限期間が長いほど認知症のリスクが低いというものでした。胎児期から生後1年まで砂糖が制限されていた人は、制限されなかった人と比べて、あらゆる原因による認知症の発症が21%少なく、アルツハイマー病は23%少ないという結果でした。胎児期から生後1〜2年まで制限されていた人では、認知症が23%、アルツハイマー病が28%少なくなっていました。血管性認知症でも同じ傾向が見られましたが、統計学的にはっきりした差とは言えませんでした。また、発症の時期にも違いがありました。胎児期から生後1~2年まで制限されていた人は、認知症の発症が平均で2.55年、アルツハイマー病では2.87年遅いと推定されています。さらに、参加者の一部が受けた脳のMRI検査では、砂糖が制限されていた人のほうが脳の「灰白質」の体積が大きく、脳の小さな血管の傷みを反映する「白質病変」が少ないことがわかりました。認知機能のテストでも、情報を処理する速さや推論の課題で、わずかながら良い成績を示していました。興味深いのは、この関連が女性でより強く見られたことと、アルツハイマー病の遺伝的なリスク因子であるAPOE ε4遺伝子を持っているかどうかでは差がなかったことです。また、成人後の2型糖尿病と高血圧が、この関連の約4分の1を説明していると分析されました。残りの4分の3は、まだ十分に解明されていない別の経路を通じている可能性があります。この結果を、どう受け止めるべきかこの研究には大きな強みがあります。単なる観察研究では「砂糖を控える家庭は、ほかの生活習慣も健康的なのでは」という疑いが常につきまといますが、生まれた月による自然の実験ではそうした偏りが入りにくいのです。ただし、限界もあります。UKバイオバンクの参加者は、一般の人より健康で教育水準が高い傾向があり、また70年前のイギリスという特殊な環境での話です。当時の配給下の砂糖摂取量は、現在のWHOなどの推奨量とほぼ同じ水準だったと報告されていますが、これがそのまま今の日本の子供に当てはまるとは断言できません。認知症の発症数もまだ多くはなく、今後の追跡で結果が変わる可能性もあります。何より、研究者自身が「実際に妊娠中・幼少期の砂糖を減らす介入を試す臨床試験が必要だ」と述べているように、因果関係が証明されたわけではありません。それでも、依然としてこの研究が示唆するメッセージは重要なものです。脳の健康は、私たちが思っているよりずっと早い時期から積み重なっているのかもしれない。実際、妊娠中や乳幼児期に甘い飲み物やお菓子を控えることは、すでに肥満や糖尿病の予防のために各国で推奨されていることでもあります。認知症予防は「人生最初の1,000日から」すでに始まっているのかもしれません。1)Zheng J, et al. Association of sugar restriction in utero through age 2 years on dementia risk later in life. Neurology. 2026;107:e218313.2)Gracner T, et al. Exposure to sugar rationing in the first 1000 days of life protected against chronic disease. Science. 2024;386:1043-1048.3)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.

7.

早期および晩期発症のアルツハイマー病における抗Aβ免疫療法後の脳容積推移

 抗アミロイドβ免疫療法(AAT)の試験において、脳容積減少の加速が観察されている。しかし、早期発症アルツハイマー病(EOAD)と晩期発症アルツハイマー病(LOAD)における、この逆説的な現象については、依然として十分にわかっていない。米国・ウェストバージニア大学のRashi I. Mehta氏らは、EOADおよびLOADにおけるAAT後の脳容積の変化をレトロスペクティブに解析した。Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring誌2026年8月22日号の報告。 AAT開始後1年間の脳容積の変化をレトロスペクティブに解析した。脳容積の年間変化率を算出し、線形混合効果モデルを用いて、EOADとLOADにおける脳容積の経時的変化を評価した。主な結果は以下のとおり。・解析対象は114例(EOAD:35例、LOAD:79例、ベースライン時のMMSE平均値:27)。・両群で全脳萎縮が認められ、脳室容積は年間約15%拡大した。・ベースライン時の脳内アミロイド負荷とは無関係に、LOAD群はEOAD群と比較して、約1.7倍の海馬萎縮速度を示した。・一方、全般的な皮質アミロイド負荷は、全脳および海馬の萎縮を予測する因子であることが示唆された(p<0.001)。 著者らは、AAT後のEOADおよびLOADの早期段階において、顕著な脳室拡大を伴う脳萎縮が生じていることが示唆されたとし、この免疫療法後の影響に関するメカニズムおよび臨床的意義を解明するためには、さらなる研究が求められると述べている。

8.

<高齢者マルチモビディティ パーフェクトガイド>シリーズ 各論2 高齢者の認知症におけるマルチモビディティを考える

高齢者の多疾患併存(マルチモビディティ)をふまえた診療の最適解を考える認知症は単なる脳の疾患ではなく、身体疾患や老年症候群、心理社会的問題などが複雑に重なり合うマルチモビディティの典型といえます。本書は認知症を軸に、高血圧・糖尿病などの生活習慣病からフレイルやポリファーマシー、社会的孤立など多様な関連要因まで、その相互作用的かつ循環的な関係を整理し、診療・ケアのあり方を具体的に解説します。多因子介入や多職種連携においても新たな視点と理解をもたらす、シリーズの各論巻2冊目です。<特色>認知症を「全身性かつ社会的な問題」として捉え、高齢者を全人的に理解する視点を重視。診断・治療のみならず、予防や生活支援までを含めた包括的な認知症医療・ケアを体系的に整理。超高齢社会における認知症医療・ケアの新たな方向性を考える契機となりうる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する各論2 高齢者の認知症におけるマルチモビディティを考える定価4,950円(税込)判型B5(並製)頁数296頁発行2026年8月責任編集櫻井 孝(国立長寿医療研究センター)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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小児の毎日続く頭痛、専門医受診遅延が治療結果に及ぼす影響が明らかに

 小児の毎日続く頭痛(連日性頭痛)は、難治性であり、日常生活に支障を来す疾患である。しかし、連日性頭痛の発症から専門医への初回受診までの期間が臨床アウトカムに及ぼす影響については、これまで明らかになっていなかった。兵庫医科大学の徳永 沙知氏らは、連日性頭痛を呈した小児および青年を対象に初回受診までの期間と症状改善までの期間との関係を明らかにするため、レトロスペクティブ観察研究を実施した。Medical Sciences誌2026年7月27日号の報告。 対象は、連日性頭痛を呈した小児および青年51例。受診までの期間は、頭痛が連日性となった日から初回受診日までの期間と定義した。主要評価項目は、3~4ヵ月時点での頭痛の改善(1ヵ月当たりの頭痛日数が50%以上減少すること)とし、副次評価項目は、6~7ヵ月時点での頭痛の改善とした。多変量ロジスティック回帰分析およびROC曲線分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・頭痛の改善は、3~4ヵ月時点で41.2%、6~7ヵ月時点で60.0%の患者に認められた。・初回受診までの期間が1週間長くなるごとに、3~4ヵ月時点での頭痛の改善オッズは12%低下した(調整オッズ比[aOR]:0.875、95%信頼区間[CI]:0.783~0.979、p=0.020)。・ROC曲線分析では、探索的な閾値として5週間が特定された(曲線下面積:0.837、95%CI:0.711~0.963)。・本コホートにおいて、この閾値を超えた場合、早期改善のオッズは著しく低かった(aOR:0.040、95%CI:0.007~0.238、p<0.001)。・併存疾患としての体位性頻脈症候群(POTS)は、3~4ヵ月時点での改善が得られないことと関連していた(p=0.003)。一方、その他の併存疾患との関連は認められなかった。 著者らは、小児の連日性頭痛において、受診までの期間が短いことは、併存疾患の有無にかかわらず、早期改善と独立して関連していたとまとめた。本コホートでは、この探索的な5週間の期間内に受診した患者において、早期改善の可能性が著しく高かった。ただし、臨床的な意思決定にこの閾値を活用するには、プロスペクティブな外部検証が必要である。これらの知見は、小児において連日性頭痛が発現した際、速やかな専門医への紹介を検討すべきという考えを支持するものと言える。

10.

クリーニング店の近くに住む人はパーキンソン病リスクが高い?

 クリーニング店の近くに住んでいる人では、パーキンソン病リスクが上昇する可能性があるようだ。8月5日付で「npj Parkinson’s Disease」に早期公開された研究で、ドライクリーニングを扱うクリーニング店(以下、クリーニング店)から約500フィート(約152 m)以内に住んでいる人では、4~5マイル(約6.4~8 km)離れた場所に住んでいる人と比べて、パーキンソン病である可能性が高いことが示された。また、自宅がクリーニング店から離れているほど、パーキンソン病リスクは低かったという。 論文の上席著者である米バロー神経学研究所のBrad Racette氏は、「この研究は、環境曝露がパーキンソン病の発症において重要な役割を果たす可能性を示すエビデンスに新たに加わるものだ。こうした曝露要因を特定することは、将来、この病気による負担をどのように減らせるのかを理解する上で、重要な一歩となる」とニュースリリースで述べている。 研究グループによると、これまでの研究では、塩素系有機溶剤であるトリクロロエチレン(TCE)への曝露とパーキンソン病との関連が示されている。米国では、TCEは1920年代にドライクリーニング用溶剤として導入されたが、その毒性が認識された後、1950年代には主にパークロロエチレン(PCE、テトラクロロエチレンとも呼ばれる)へ置き換えられた。PCEは分解されてTCEを生成する。TCEは地下環境でより安定しており、移動性も高い。さらに、地下水中でのPCEとTCEの分解は遅く、不完全である。そのため、クリーニング店が閉店した後も、TCEとPCEはいずれも土壌や地下水を何年にもわたって汚染する可能性があると研究グループは述べている。 今回の研究では、米国の67歳以上のメディケア受益者を対象に、居住地からクリーニング店までの距離とパーキンソン病リスクとの関連が検討された。対象は、最寄りのクリーニング店から5マイル以内に住むパーキンソン病患者18万982人とパーキンソン病ではない対照1884万8,268人であった。年齢、性別、人種、喫煙、医療利用、居住地域が都市圏かどうか、PM2.5、および所得を考慮して解析した結果、クリーニング店までの距離が近いほどパーキンソン病リスクが高いという距離に応じた関連が認められた。クリーニング店から500フィート以内の場所に住んでいる人のパーキンソン病のオッズは、4~5マイル離れた場所に住んでいる人と比較して14%高かった(オッズ比1.14、95%信頼区間1.09~1.19)。 さらに、パーキンソン病の症状に基づくサブグループ別に検討すると、最も強い関連が見られたのは歩行障害を伴うパーキンソン病のサブグループで、クリーニング店から0.1マイル(約161 m)以内の場所に住む人での歩行障害を伴うパーキンソン病のオッズは、4~5マイル離れた場所に住む人と比較して23%高かった(オッズ比1.23、95%信頼区間1.16~1.30)。 さらに、米国の中でも、ダラス・フォートワース都市圏、デトロイト都市圏、イリノイ州南部、テネシー州とケンタッキー州の州境付近などでは、クリーニング店とパーキンソン病との関連がより強かったという。研究グループは、こうした違いには、過去の汚染、地域特有の地質や老朽化したインフラが影響している可能性があるとしている。 研究グループは、「この結果は、さまざまな化学物質や有害物質への曝露がパーキンソン病の発症リスクを高めるだけでなく、その人に現れる症状にも影響する可能性があることを示唆している」と述べている。ただし、本研究によりドライクリーニング用溶剤とパーキンソン病との直接的な因果関係を証明することはできないとも指摘している。 なお、この研究は結果を早期に公開するため、未編集の原稿として公表された。最終版は、さらなる編集を経た後に掲載される予定である。

11.

脳卒中後のリハビリ、AHA/ASAが新ガイドラインを公表

 サンフランシスコでメイクアップアーティストとして働いていたSara Kutzleさんは、39歳のときに脳卒中を発症し、1週間にわたって集中治療を受け、1カ月間入院した。退院後のKutzleさんは、何カ月もかけて、歩くことや文字を書くこと、右利きのアーティストとして再び仕事をすることなど、日常生活や仕事に必要な能力を一から身に付け直す必要があった。彼女はニュースリリースの中で、「当初は体の回復に集中していたが、すぐに、回復にはそれ以上のことが関わっていると気付いた。自信、メンタルヘルス、人間関係、自立しているという感覚の全てが影響を受けた」と振り返っている。 米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)は、8月27日付で「Stroke」に新たなガイドライン「成人脳卒中リハビリテーション・回復ガイドライン2026」を公表した。このガイドラインは2016年版に代わるもので、脳卒中後のリハビリテーション(以下、リハビリ)のニーズを評価し、実施するための最新の科学的知見を反映している。新ガイドラインでは、発症24~48時間後から段階的な離床を開始することを強く推奨している。また、発症24時間後以降には、中~高強度の運動や課題練習を行うことを推奨している。一方、発症から24時間以内の高用量の離床は、神経学的悪化や機能転帰の悪化のリスクがあるため行うべきではないとしている。 早期離床以外の重要点としては、リハビリを効果的なものとするために神経内科医、リハビリテーション看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、心理士などから成る多職種連携の医療チームが不可欠であること、脳卒中患者の回復の経過に応じて治療目標を継続的に再評価すべきこと、うつ病や不安症などのメンタルヘルス問題について早期かつ定期的にスクリーニングを行うことも強調されている。この他、仕事への復帰、幼い子どもの世話、睡眠や痛みの問題への対処、性機能の変化への適応など、脳卒中後の生活に患者が適応するための支援の必要性や、患者の介護者をリハビリの計画、教育、支援に含める必要性についても言及している。 このガイドラインの筆頭著者である米ユタ大学准教授のLorie Gage Richards氏はニュースリリースの中で、「普段、何気なく行っている動作でも、それは身体機能、認知機能、コミュニケーション能力など、複数の能力の連携により成り立っている。脳卒中はこうした日常生活に必要な多くの能力に影響を及ぼす可能性があるため、リハビリも複雑になる。リハビリのガイドライン作成も同じように複雑である。脳卒中は患者ごとに異なり、それぞれが異なる課題に直面し、回復の仕方もさまざまであるため、ケアは個々のニーズに合わせて個別化すべきである」と述べている。 本ガイドラインの作成に患者代表として参加したKutzleさんもこの考えに同意し、「回復とは、単に物事をもう一度できるようになることだけではなかった。新しい自分を受け入れ、前へ進み続けることでもあった」と述べている。Kutzleさんはさらに、「支援グループに参加し、日記を書き、自分に何が起きたのかを受け止める方法を学んだことは、理学療法だけでは得られなかった形で私の回復を助けてくれた。他の人の回復と自分の回復を比べるのをやめ、自分自身の進歩に目を向けなければならなかった。メンタルヘルスも回復の一部だと理解したことで、全てが変わった」と述べている。 Richards氏は、「脳卒中後の回復とは、単に身体的に強くなり、能力を取り戻すことだけではない。重大な健康上の出来事を経験した後の感情の変化に対処し、新たな課題に適応し、新たな目的意識とレジリエンスを持って前に進んでいくことを含む、継続的なプロセスである」と述べている。

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アルツハイマー病治療薬の最前線、「トロイの木馬」「弁慶の泣き所」で攻める!【外来で役立つ!認知症Topics】第45回

アルツハイマー病抗体薬は「第2世代」へレカネマブとドナネマブの2つの抗アミロイドβ抗体薬の流通が広まり、その評価も定まりつつある。こうした既存薬の第1世代から第2世代に移ってきたかと思わせる治験段階の新薬がある。3剤に注目するが、今回はそのうちの2剤を紹介する。まず、これまでに開発された抗アミロイドβ抗体薬と抗タウ抗体薬について指摘されてきた弱点をまとめる。抗アミロイドβ抗体薬と抗タウ抗体薬の弱点(1)抗体薬は分子量が大きいので血液脳関門(BBB)の突破効率が低く、脳実質への移行効率がよくない。(2)アミロイドもタウも播種(seeding)によって病変が広がるが、とくにタウではその広がりの源泉を叩ける薬がなかった。(3)タウにはいくつものタイプがあり、細胞内外に存在するのだが、その一部だけを治療標的にしていた。今回紹介する2剤は、これらの弱点を克服しようとするものである。(1)のBBB通過という課題には正面突破を図るtrontinemab(トロンチネマブ)、(2)の病変拡大に対しては悪の源泉を断ち切るetalanetug(エタラネツグ)が対応する。BBB正面突破のtrontinemab抗アミロイドβ抗体薬である本剤の薬理作用を、次の例え話で説明したい。「国境の通過を公認されたトラックが走っている。男トロンチは、国境検問所の前でその通過を待ち構える。来たら偽パスポートを見せて同乗させてもらう。トラックが国境を通過し向こうの国に着いたら、飛び降りて敵を討つ」trontinemabは、現在は開発が中止されたgantenerumabに、ブレインシャトルというBBBを通過する技術を結合させた改変型抗体である。gantenerumab単体では脳内への移行効率が約0.1%と非常に低く、臨床試験で主要評価項目を達成できなかった。なお、実は日本における治験成績は有効だった1)。そこで移行効率を高めるため、以下のメカニズムによって改変された。脳に必要な鉄分などを取り込むため、血管内皮細胞にはトランスフェリン受容体1(TfR1)が発現している。ブレインシャトルとは、この受容体を「BBB突破の運び屋」として利用する技術だ。trontinemabは、アミロイドβに結合する抗体の末端にTfR1に特異的に結合するシャトルモジュールを載せている。本剤が血管内のTfR1に結合すると、毛細血管内皮細胞の膜が内側に落ち込み、抗体を取り込んだ小胞が細胞内にできる。小胞は血管内皮細胞の中を移動して侵入口とは反対側の脳実質の細胞膜に融合する。すると受容体から分離したtrontinemabが脳実質側へ放出される仕組みだ。本剤開発の方向性が「トロイの木馬型アプローチ」と呼ばれることがある。トロイの木馬とは、ギリシャ神話のトロイア戦争に登場する敵を欺いて多くの兵士を乗せて敵地内に侵入した巨大な木製の馬像のこと。つまり本技術は「抗体は血液脳関門において異物とされ通過できないから、その通過が許された受容体をハイジャックして通過する」という戦略である。治験成績では、投与開始から約6ヵ月で9割以上の患者でアミロイドが画像上ほぼ完全除去された2)。なお、この効果を得るのに従来薬なら1~1.5年を要した。認知機能に関する詳細なデータは未発表である。しかし脳内移行効率が非常に高いので、投与量や投与頻度の低減による医療経済的・身体的負担の軽減が期待される。またARIA-Eの出現率は1%台~5%未満と従来薬より1桁低い。反面、懸念されるのは脳以外の全身にあるTfR標的化による貧血や溶血といった副作用である。「弁慶の泣き所」を突いて伝染源切断のetalanetug伝染源切断の薬理作用を例え話で示す。「弁慶をやっつけようと屈強な者たちが武器を持って挑む。時には肩を傷つけたり腹を突いたりするのだが、弁慶はびくともしない。ところがたまたま、長い棒が弁慶の向こう脛を叩くと、弁慶はドーンと崩れ落ちてしまう。弁慶の泣き所とは、いくら強い人にもある唯一の弱点で、向こう脛のこと。急所を知ってそこを突く、これが必勝法だ」近年、多くの抗タウ抗体薬が開発されてきたが、それらはうまくいかなかった。その主因はタウのN末端を標的にしており、凝集の中心であるMTBR(微小管結合領域:Microtubule-Binding Region)を標的にしていなかったことだとされる。MTBRを標的にした本剤を説明する基本として、播種(seeding)について要約する。ある細胞において構造異常を生じたタンパク質が「種(seed)」となり、隣接する健常な神経細胞へと放出され取り込まれる。すると隣の正常であったタンパク質が自分と同じ異常な形に変性させられ、凝集が生じる。このプロセスは連鎖的に増幅していく。つまり播種は、病変が脳の広範囲へと広がる分子メカニズムである。タウタンパク質における播種の起点となる部位は、MTBRに存在する2つの短い6アミノ酸配列だ。etalanetugはこのMTBRを狙い撃ちする抗体医薬で、脳内で病的なタウ病理を拡散させる「タウ伝播種」に特異的に結合し、他細胞への広がりを阻止・除去する。最新の知見では、3種類の家族性/顕性遺伝性アルツハイマー病の遺伝子を有する者(発症前も発症後も)を対象に、抗アミロイドβ抗体薬レカネマブをバックグラウンド投与し、抗タウ抗体薬etalanetugが上乗せ投与された。その結果、MTBR-tau243やp-tau217などタウ凝集バイオマーカーの低下が脳脊髄液と血液中で確認され、タウPETでも脳内タウ蓄積の増加抑制、減少傾向が観察された3)。なお、患者数の多い「孤発性の早期アルツハイマー病(MCI・軽度認知症)」を対象としたグローバル第II相臨床試験(Study 202)も並行して進められている。しかし、記憶をはじめ認知機能における臨床効果の立証は、現段階ではなされていない。 1) Asada T, et al. Japanese participant data from three gantenerumab trials in early Alzheimer's disease. Alzheimers Dement. 2025;21:e70192. 2) Klein G, et al. Interim biomarker results for trontinemab, a novel BrainshuttleTM antibody in development for the treatment of Alzheimer’s disease. Alzheimers Dement. 2025;21(Suppl 5):e104288. 3) Andreozzi E, et al. Etalanetug (E2814) in dominantly inherited Alzheimer's disease: an open-label phase 1b/2 study to assess safety and target engagement in participants with mild to moderate cognitive impairment. Alzheimers Res Ther. 2026;18:87.

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原因不明の失神、14日間携帯型ECGモニタリングで再発率は改善するか/NEJM

 欧米では、失神を主訴に救急診療科を受診した患者の約50%が原因不明で、1ヵ月以内に約7%が臨床的に重篤な病態を呈するため、血管迷走神経性および起立性低血圧などによる良性の失神と、不整脈などによる心原性失神の鑑別が課題である。また、失神患者の約50%が1年以内に再発するが、不整脈が特定されて治療を受けると再発率は約10%に低下することが知られ、早期診断が重要である。英国・エジンバラ大学のMatthew J. Reed氏らASPIRED Investigatorsは「ASPIRED試験」で、救急外来受診時に原因が特定されなかった失神患者において、携帯型心電図(ECG)による14日間のモニタリングを実施しても、標準治療と比較して1年後の患者報告による失神発作回数が低減しなかったことを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2026年8月31日号に掲載された。英国の無作為化対照比較優越性試験 ASPIRED試験は、英国の国民保健サービス(NHS)傘下の45病院で実施された非盲検無作為化対照比較優越性試験であり、2022年7月~2024年6月に参加者登録が行われた(英国心臓財団などの助成を受けた)。 対象は、年齢16歳以上(英国の成人の救急医療サービスは一般に16歳から患者を受け入れるため)、失神で救急診療科または急性期医療部を受診し、初回の診察で原因を特定できなかった患者であった。 被験者2,234例(平均[±SD]年齢58.3[±19.7]歳、男性52.1%)を、携帯型ECGによる14日間のモニタリングを受ける群(介入群1,123例)、または標準治療を受ける群(標準治療群1,111例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、1年時点における患者報告による平均失神発作回数とした。平均失神発作回数に有意差なし、介入群で不整脈の検出率が高く死亡率は低い傾向 1,970例(88.2%、ITT集団)が主解析の対象となった(介入群1,004例、標準治療群966例)。 1年時点の患者報告による平均失神発作回数は、介入群は1.37(±5.10)回、標準治療群は1.58(±8.56)回であり、両群間に有意な差を認めなかった(発生率比:0.89、95%信頼区間[CI]:0.68~1.18、p=0.42)。 また、1年時点の医療記録から特定された平均失神発作回数(介入群0.22[±0.64]回vs.標準治療群0.25[±0.82]回、発生率比:0.90、95%CI:0.71~1.15)、失神再発率(27.9%vs.28.6%、オッズ比[OR]:0.97、95%CI:0.79~1.17)、初回入院の期間(1.3[±3.4]日vs.1.4[±3.4]日、OR:0.91、95%CI:0.76~1.08)に、両群間で差はみられなかった。 一方、臨床的に重要な不整脈の検出率は介入群で高く(介入群22.0%vs.標準治療群9.0%、OR:2.95、95%CI:2.28~3.81)、全死因死亡の発生率は介入群で低かった(1.5%vs.2.9%、OR:0.50、95%CI:0.27~0.93)。 ECG記録デバイスの受容性は高かった。患者の91.3%が使い方は容易だとし、73.3%が快適に使用でき、82.5%は再び使用したいと答えた。 有害事象は57件報告された。このうち49件が介入群、8件が標準治療群であった。重症度は、50件が軽度、5件が中等度、2件が重度であった。重篤な有害事象は各群に1件ずつ発生したが、いずれも試験治療とは関連がないと判定された。

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YouTubeいろいろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(650)

六百五十の段 YouTubeいろいろ早いもので、もう彼岸が過ぎてしまいました。この調子で行くと、すぐに今年も終わってしまいそうです。さて、いつも脳外科外来にやってくる中年の男性患者さん。交通事故による頭部外傷後高次脳機能障害の方で、職場でも自宅でも何かと人間関係のトラブルが起こりがちです。それでもご本人はいろいろと工夫をして、何とかしのごうとしているところが立派。ある日のこと。この人、新しい工夫について語り始めました。 患者 「何が困るといって、嫁にきつく当たってしまうのが一番マズいんですよ」 大阪では奥さんのことを「嫁」と呼ぶ人が多いですが、神戸市出身の私にはいつまでも慣れることができません。それはさておき。 患者 「嫁と共通の趣味を持つようにしたら、最近はうまくいくようになって」 共通の趣味と聞いたら何を連想しますか?アウトドアだったら登山とか釣りとか。インドアだったら料理とかじゃないでしょうか。でも、この人の口から出てきたのは驚くべき「趣味」だったのです。 患者 「趣味というのはYouTubeなんですよ」 中島 「YouTubeって?] 患者 「嫁と一緒にビールを飲みながらYouTubeを見るんですよ」 大型モニターか何かで見ているのでしょうか。 中島 「何か特定のチャンネルでもあるんですか?」 患者 「不倫と探偵についてのチャンネルなんです」 中島 「不倫に探偵って何ですか、それ?」 患者さんによれば、不倫をしているところに依頼者と共に探偵が踏み込んで、修羅場になるというチャンネルなのだそうです。しかし、なんでまたそんなチャンネルが夫婦円満につながるのか? 患者 「YouTubeを見ながら嫁が言うんですよ。『まさかアンタ、こんなことしてへんやろね?』って。だから僕も『お前こそ大丈夫やろな?』と言い返しているんです」 中島 「そ、そうですか。ところで何という名前のチャンネルなんですか」 患者 「○○というんですけどね、ぜひ先生も見てください」 そう言ってチャンネル名を教えてもらいました。後でこのYouTubeチャンネルをのぞいてみると……出るわ、出るわ。単なる不倫どころか、不気味なタイトルが付いています。 3週間失踪した夫を警察にまで相談して捜したら、東京で他の家庭の「パパ」をやっていた 亡き義父の店を愛人と再開した夫…店内でも不倫お泊まりに何でもあり…地獄すぎる 夫を「産廃、無能」と罵った妻、信じたエリート医者の2番手ですらなかった いやあ、もう大変ですね。とくに最後のヤツなんか、その「エリート医者」とやらはひょっとしたら「新・徒然草」の読者かもしれません。でも登場人物の先生、ご安心ください。1時間以上もある動画を見る体力が、私にはまったくありません。そもそもタイトルを見ただけでおなかいっぱい、30秒で見るのを断念しました。それにしてもこのような動画の何がそんなに面白いのか。今度、この患者さんの顔を見たら聞いてみたいですね。ちなみに私自身がよく見る動画は、やはりAI関係が多いです。1つは古今東西の楽曲のAIカバー。原曲をアレンジしすぎの感はありますが、全体に破綻がないのが良いですね。さらにAI自身が作詞作曲した歌もあります。毒にも薬にもならないサラッとしたものが多く、聞き流しにはピッタリです。その他にはAIが作った映像ですが、これといったストーリーがないせいか、ひたすら眠い!具体的にタイトルとチャンネル名を挙げると……存在しないのに懐かしい、昭和101年の空中都市|夏の午後から夕暮れへ、人々の何気ない日常 第28章(存在しない街の記憶)1棟に20カ国:サイバーパンクシティにある秘密のレトロフューチャーな部屋(DYSTOPIAN CITY)雨の寝台列車で逃避行(Iroly / Dreamcore)などなど。このように音楽にも動画にも急速にAIが入り込んでいる状況は、まるで30年前に急速に映画にCGが入り込んできた頃のことを思い出します。AIを使った各種「創作」には賛否両論があることでしょう。しかしこの流れはもう止めようがないものと思います。ということで、「不倫と探偵」の話から「AI動画」まで、話がどんどん横道に逸れてしまいました。結局、どういう動画にハマってしまうかは人それぞれだということですね。最後に1句 彼岸すぎ AI沼に 溺れそう

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全国に整備が義務付けられた「認知症疾患医療センター」その地域格差は

 日本の認知症施策では、各2次医療圏に1ヵ所以上の認知症疾患医療センターを設置し、地域を問わず専門的な認知症医療サービスへの公平なアクセスを確保することが求められている。新潟医療福祉大学の馬場 美彦氏らは、認知症疾患医療センターの地理的・気候的特性および地理的アクセシビリティを明らかにするとともに、各2次医療圏への設置方針にもかかわらず同施設が未設置である2次医療圏の地理的特性を解明することを目的とし、本研究を実施した。BMJ Open誌2026年8月14日号の報告。 著者らは、公開されている地理情報データセットを用いて、地理情報解析を実施した。豪雪地帯、山間地域、農業地域、半島、離島といった地域区分と、3種類の認知症疾患医療センターの空間分布を重ね合わせる解析を実施した。次いで、認知症疾患医療センターが未設置の2次医療圏について、都道府県の整備計画や市町村の認知症ケアパスに関する文書を検討した。最後に、認知症疾患医療センター未設置の2次医療圏が集中している地域において、最寄りの同施設への地理的アクセシビリティを推定するための集計・分析を行った。解析には、国土交通省が提供する市町村、2次医療圏、豪雪地帯、山間地域、農業地域、半島、離島のデータセットと厚生労働省が提供する認知症疾患医療センターのデータセットを使用した。 主な結果は以下のとおり。・全国で認知症疾患医療センター509施設が特定された。・その内訳は、豪雪地帯または特別豪雪地帯109施設(19.8%)、山間地域12施設(2.4%)、農業地域72施設(14.1%)、半島29施設(5.7%)、離島11施設(2.2%)であった。・344ヵ所の2次医療圏のうち、18ヵ所(5.2%)には認知症疾患医療センターが設置されておらず、これらは105の市町村に及んでいた。・認知症疾患医療センターは「基幹型」「地域型」「連携型」の3つの区分で構成されており、それぞれ21施設、388施設、100施設であった。・農業地域に位置していた「基幹型」はわずか1施設(4.8%)であったのに対し、「地域型」は46施設(11.9%)、「連携型」は25施設(25.0%)であった。・認知症ケアパスの分析により、対象自治体は、認知症疾患医療センターを一切指定していない(41%)、隣接自治体の認知症疾患医療センターを指定している(21%)、県内のすべての認知症疾患医療センターをリストアップしている(36%)のいずれかであることが明らかになった。・認知症ケアパスにおいて認知症疾患医療センターを指定しなかった自治体は、主に豪雪地帯や半島など、地理的または気候的に不利な条件にある地域に位置していた。・最寄りの認知症疾患医療センターから道路網上30kmの走行圏を対象とした分析の結果、認知症ケアパスで認知症疾患医療センターを指定しなかった自治体では、山間部の地形、豪雪、大きな湖の存在が、サービス提供範囲を制限していることが判明した。 著者らは「認知症疾患医療センターの全国的な展開により、地域的なカバー体制はおおむね確立されたが、2次医療圏内に認知症疾患医療センターが存在しない地理的に不利な地域には、依然として空白地帯が残されている。今後の認知症ケア計画の策定に当たっては、専門的な認知症サービスへの公平なアクセスを確保するため、行政的なカバー範囲に加え、地理的なアクセシビリティも考慮する必要がある」としている。

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ショウガは片頭痛予防に有効?

 オーストラリア・Bond UniversityのTiffany Atkins氏らは、片頭痛の治療およびマネジメントにおけるショウガの有効性を明らかにするため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMJ Evidence-Based Medicine誌オンライン版2026年8月14日号の報告。 著者らは、ショウガの単独または補助療法の効果を、プラセボまたは通常の有効対照薬(バルプロ酸、アミトリプチリン、スマトリプタンなど)と比較したRCTを対象とした。2025年3月26日(2026年4月16日に更新)までに公表された研究をPubMed、Embase、CINAHL、PsycINFO、Epistemonikos、Cochrane CENTRALより検索した。採用された対象研究について、引用文献および被引用文献のフォローアップ調査(前方・後方検索)を実施した。2人の著者が独立して文献のスクリーニングとデータ抽出を行い、Cochrane Risk of Bias 2(ROB 2)ツールを用いてバイアスのリスクを評価した。主要評価項目には、治療後の頭痛重症度または疼痛スコア、治療後に疼痛消失または疼痛緩和が得られた患者の割合、片頭痛発作の頻度と持続時間、片頭痛に伴う症状を含めた。ランダム効果モデルを用いたメタ解析を実施し、Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)手法を用いてエビデンスの確実性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・594例の患者を対象とした8件のRCTをメタ解析に含めた。・急性期治療において、ケトプロフェンにショウガを併用した場合とプラセボを併用した場合を比較すると、投与2時間後の頭痛重症度にほとんど、あるいはまったく差がない可能性が示唆された(平均差[MD]:-1.27、95%信頼区間[CI]:-1.46~-1.08、1試験、60例、エビデンスの確実性:低)。・片頭痛予防に古くから用いられているフィーバーフュー(ナツシロギク)とショウガの併用とプラセボとの比較、ショウガ単独とスマトリプタンとの比較において、疼痛緩和や疼痛消失が得られた患者の割合または投与2時間後の平均頭痛重症度が改善するかどうかについては、きわめて不確実であった。・予防療法として、有効成分を含む薬剤にショウガを併用した場合、プラセボの有無にかかわらず当該薬剤単独と比較し、3ヵ月時点での頭痛の重症度が有意に軽減する可能性が示唆された(統合MD:-3.18、95%CI:-3.94~-2.42、2試験、183例、エビデンスの確実性:低)。・しかし、バルプロ酸やアミトリプチリンといった有効成分を含む薬剤と比較し、ショウガと他のハーブを併用した場合、3ヵ月時点での頭痛の頻度、持続時間、重症度が低下するかどうかについては、きわめて不確実であった。・すべての評価項目におけるエビデンスの全体的な確実性は、「低い」~「きわめて低い」の範囲であった。 著者らは「既存のエビデンスは限られており、その確実性も『低い』または『きわめて低い』であった。そのため現時点では、ショウガが片頭痛の急性期治療または予防療法のいずれにおいて有効であるか、確実な判断を下すことは困難である。したがって、エビデンスの確実性を高めるためには、片頭痛の急性期治療および予防療法に関するさらなる試験が求められる」と結論付けている。

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専門医への紹介を要したせん妄、認知症・せん妄既往・大量飲酒が関連

 せん妄は、注意・意識・認知機能が急性に変化し、患者の安全や治療経過に影響する。今回、専門チームへの紹介を経て診断されたせん妄には、認知症、せん妄既往歴、大量飲酒が関連することが、2万人超の入院患者を対象とした研究で明らかになった。研究は、奈良県立医科大学附属病院精神医療センターの松田恵美氏、同大学健康管理センター・精神医学講座の山室和彦氏らによるもので、詳細は7月30日付の「PCN Reports」に掲載された。 せん妄は、入院中の合併症で、短期間に注意力や意識、認知機能の障害が生じ、高齢者や身体的に弱い患者に多い。入院期間延長や死亡リスクの上昇と関連し、患者の発症しやすさに、手術、感染症、薬剤などが重なって発症すると考えられる。実臨床では見逃される例もあり、全入院患者を対象に、院内スクリーニング項目と紹介後のせん妄診断との関連を検討したデータは限られていた。著者らは、入院患者のリスク因子の分布と、専門チームの診断に関連する因子を検討した。 研究では、2022年6月~2023年11月に奈良県立医科大学附属病院に入院した全ての連続患者2万980人を対象とし、除外基準は設けなかった。入院後3日以内に、厚生労働省の診療報酬制度に基づく院内チェックリストを用いて、年齢、認知症、せん妄既往、大量飲酒、薬剤使用、手術歴などを評価した。せん妄が疑われた場合は、主治医が認知症ケアチームまたは精神科に紹介し、専門チームがICD-10およびDSM-5-TRに基づき診断した。さらに、ロジスティック回帰分析により、関連因子を年齢と性別で調整して検討した。 対象2万980人のうち、認知症ケアチームまたは精神科へのコンサルテーションは509人(2.4%)に行われ、209人(全対象の1.0%)がせん妄と診断された。この1.0%は、紹介後にせん妄と診断された患者の割合を示す。入院時のスクリーニングでは、1万1,823人(56.4%)が70歳以上に該当した。また、4,446人(21.2%)はいずれのリスク因子にも該当しなかった。 年齢別にみると、この診断の割合は概ね年齢が高い群ほど高く、40歳未満では0%だったのに対し、80歳超では1.57%となった。また、認知症やせん妄既往歴は高齢群ほど多くみられた。一方、大量飲酒は中年層で多く、最も高齢の層では少なかった。 未調整ロジスティック回帰分析では、年齢が1歳高くなるごとに、せん妄と診断されるオッズが3.2%高く、オッズ比(OR)は1.032(95%信頼区間〔CI〕1.020~1.043)だった。一方、年齢と性別を調整した多変量解析では、認知症(OR 3.995、95%CI 2.647~6.029)、せん妄既往歴(OR 3.649、95%CI 2.158~6.170)、大量飲酒(OR 1.648、95%CI 1.002~2.710)が、せん妄診断と独立して関連していた。一方、70歳以上、器質性脳疾患、せん妄リスクを高める薬剤の使用、全身麻酔下の手術などは、せん妄診断と独立して関連しなかった。 著者らは、今回、認知症やせん妄既往などに着目し、早期にリスクを見極めて予防につなげる意義を指摘する。ただし、本研究で把握したのは、認知症ケアチームまたは精神科への紹介後に診断されたせん妄に限られる。紹介されず主治医が対応した症例や見逃し例は含まれないため、結果は入院患者全体のせん妄発症因子ではなく、紹介後の診断に関連する因子として解釈する必要がある。

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第337回 2型糖尿病患者のスタチン早期開始で認知症予防

2型糖尿病(T2D)診断後の早めのスタチン開始と認知症を生じ難くなることの関連がデンマークでの試験で示されました1-3)。虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんなどの一般的な非感染症および感染症の予防・治療が進歩して世界的に寿命が延び、高齢者の域に至る人々が増えています。そのため認知症も増えており、世界の認知症患者の数は2019年に5,740万例で、2050年には1億5,280万例に達すると予想されています4)。認知症を根本治癒する術は今のところなく、診断に至る前の数十年に認知機能の低下が進みます。それゆえ、認知症の発生を遅らせるか防ぐための手段となる中年期の危険因子の対応に注目が集まっています。Lancetが招集した専門家一堂(Lancet Commission)がまとめた2024年の最新の報告によると、14の危険因子を解消することで理論的には認知症の半数近くを防ぎうるようです5)。2024年の報告では、特筆すべきことにLDLコレステロール(LDL-C)上昇が危険因子に初めて加わりました。2023年に報告された観察試験のメタ解析によると、LDL-Cの1mmol/L上昇ごとに認知症の発症が8%上昇することが関連しています6)。高コレステロール血症の有病率は高いため、LDL-C上昇の治療は最も多くの認知症予防につながると予想されています。世界での肥満の増加につれてT2Dも増えています。Lancet Commissionの危険因子にも含まれる糖尿病の患者はそうではない人に比べて高コレステロール血症をより併発します。したがって認知機能低下の症状がみられる前にスタチンで早めに高コレステロール血症の治療をすることは、認知症を遅らせるか防ぐのに不可欠かもしれません。LDL-C値をスタチンで下げることは、心血管疾患予防の確かな裏付けをもっぱらの拠り所としてT2D患者の治療の肝の1つとなっています。しかし糖尿病診断後の早期のスタチン治療が認知機能低下や認知症を帰結として長い目で見てどれだけ重要かはよくわかっていませんでした。そこでデンマーク・コペンハーゲン大学病院のTummas Ternhamar氏らは、糖尿病診断から早期(1年以内)のスタチン開始の認知症リスクが1~5年以内の遅ればせの開始または開始せずじまい(非開始)に比べて低いとの仮説を立て、デンマーク国民全員の登録情報を利用してその検証を試みました。Ternhamar氏らは2006~19年の14年間にスタチン未使用の13万2,585例を選定し、最長2021年12月31日まで追跡しました。中央値7年ほど(7.1年)の追跡期間に3%弱の2.7%(3,592例/13万2,585例)が認知症を発症しました。10年間の認知症の絶対リスクは、スタチン早期開始群3.3%、遅ればせの開始群3.5%、非開始群3.9%でした。その結果からスタチン早期開始と遅ればせの開始の相対リスクは非開始に比べてそれぞれ15%と10%低いことが示されました。LDL-C上昇をT2D診断に際して適時治療することで認知症を防ぐか遅らせうることを今回の結果は示唆しており、その確かさをより長期の無作為化試験で検討する必要があるとTernhamar氏らは言っています。今回の結果は先月末の欧州心臓病学会(ESC)年次総会で報告され2)、Lancet姉妹誌のThe Lancet Regional Health Europe誌オンライン版にも同時に掲載されました1)。参考1)Ternhamar T, et al. Lancet Reg Health Eur. 2026 Aug 27. [Epub ahead of print]2)Statins are associated with a lower risk of dementia in patients with type 2 diabetes / ESC3)Statins can reduce dementia risk by up to 15%, long-term study suggests / Guardian4)GBD 2019 Dementia Forecasting Collaborators.  Lancet Public Health. 2022;7:e105-e125.5)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.6)Wee J, et al. Alzheimers Dement(Amst). 2023;15:e12395.

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記憶するための写真撮影やスクリーンショットは逆効果?

 何かを覚えておくために写真やスクリーンショットを撮る行為は、その場では役に立つかもしれないが、長い目で見ると記憶に悪影響を及ぼす可能性がある。ある体験をしている最中に写真やスクリーンショットを撮ることは、その具体的な情報や出来事が記憶に残りにくくなることと関連しているとする研究が、8月3日付で「Memory & Cognition」に掲載された。論文の筆頭著者である米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校心理学分野のSophia Fabrizio氏は、「それらの画像を、記憶を詳しく呼び起こすための手がかりとして積極的に見返さない限り、役に立つ可能性は低いだろう」とニュースリリースで述べている。 写真撮影による記憶の阻害効果とは、単に目で見た情報に比べて、撮影した情報は記憶に残りにくくなる現象をいう。近年、この効果はスマートフォン(以下、スマホ)のスクリーンショットでも見られることが示され、デジタル機器で情報を記録・保存する行為全般に関連する可能性が示唆されている。 写真撮影による記憶の阻害効果を説明する仕組みとして、主に次の3つが提唱されている。1つ目は、写真を撮るという行為に認知資源が割かれ、本来その対象を記憶するために使われるはずの注意が減ってしまう「注意の分散」。2つ目は、写真などの外部記憶に情報を保存することで、その情報を自分自身で記憶するために割く認知資源を減らすことを指す「認知的オフローディング」。3つ目は、写真を撮ることによって、撮影対象だけでなく、その体験全体に対する注意や情報処理への関与が低下する「注意の離脱」である。 この研究でFabrizio氏らは、計892人の参加者を対象に7つの実験を実施し、スクリーンショットを撮ることと記憶との関係を検討した。実験1では、スマホに提示されたアート作品のうち、半数はスクリーンショットを撮り、残りの半数は見るだけとした後、再認記憶テストを実施し、スクリーンショットを撮った作品について記憶の阻害効果が再現されるかを確認した。実験2~5では、情報のスクリーンショットを撮ることに記憶と認知機能の面で利点があるのかが検証された。実験6~7では、後で記憶テストを行うことやスクリーンショットを見返せることを伝えたりすることで、意識的な認知的オフローディングを促し、それによってスクリーンショットによる記憶の阻害効果が変化するかどうかを検証した。 その結果、実験全体を通じて、スクリーンショットを撮った情報そのものについては、見るだけの場合より記憶テストの成績が一貫して低かった。また、スクリーンショットを撮ることが記憶や認知機能にもたらす利点は1つの実験でのみ認められ、その効果も限定的なものだった。 Fabrizio氏は、「今回の研究結果を総合すると、撮影のためのボタンを押すだけで、情報や体験についての記憶を損なっている可能性が高く、その影響は保存した内容以外にも及ぶ可能性がある」と述べている。 研究グループは、撮影した写真を後から見返さない場合には、写真撮影による記憶の阻害効果が認められることが多いと指摘する。他の研究では、写真を手がかりに記憶を呼び起こし、振り返ることで、長期的な記憶の保持を高められる可能性が示唆されているという。ただし、人々のスマホには平均約2,000枚の写真が保存されていることから、研究グループは、記憶の向上に活用するには数が多過ぎると指摘している。 Fabrizio氏らは、記憶力を保ちたい人には、代わりにペンと紙を使うことを勧めている。メモを取るには、情報を処理して要点を箇条書きに整理し、情報同士のつながりを見出す必要がある。こうした過程は「望ましい困難」と呼ばれるのだという。ただし、何かを書き留めることも、画像を使う場合と同じような認知的オフローディングにつながることがあるという。友人の誕生日をカレンダーに記録した後に忘れてしまったり、電話番号を連絡先に保存した後に覚えていられなくなったりするのは、そのためである。

20.

アプリが認知症患者のアジテーションや攻撃性への対処を支援

 WeCareAdvisorと呼ばれるウェブベースのアプリを利用することで、介護者は薬に頼らずに認知症の家族によりうまく対処できる可能性が、新たな研究で示された。このアプリは、認知症患者に見られるアジテーションや攻撃性などの行動として現れる症状(以下、行動症状)に介護者が対処するための方法を提供する。アプリの使用により、こうした行動症状の頻度や重症度が有意に低下するわけではないものの、介護者がそれらの症状によって感じる苦痛は時間の経過とともに軽減し、ウェルビーイングも改善することが示されたという。米ドレクセル大学看護・医療専門職学部名誉学部長のLaura Gitlin氏らによるこの研究結果は、8月6日付で「Journal of the American Geriatrics Society」に報告された。 Gitlin氏は、「今回の研究に参加した介護者は、アジテーションや落ち着きのなさ、徘徊などの対処が難しい行動症状に、1カ月当たり平均6種類直面していた。アプリを利用してもこうした行動症状は引き続き見られたが、それらに対処する介護者の苦痛は軽減した」と述べている。 このアプリでは、まず介護者が、認知症患者の問題となっている行動と、その背景にある原因を探るための一連の質問に回答する。その回答に基づいて、介護者が試すことのできる複数の非薬物的な対処法が提示される。介護者にはこのほか、テキストメッセージで介護に関するヒントが毎日送られ、教育資料も利用できる。さらに、アプリが提案した対処法がどの程度有効だったかを評価することもできる。 今回の研究では、家族介護者262人(平均年齢63.8歳、女性82%)を対象に、このアプリの有効性を検討した。参加者の半数(131人)はただちにアプリの使用を開始する群(即時使用群)、残る半数は、3カ月後からアプリを使用する群(待機群)にランダムに割り付けられた。ベースライン時と1カ月後、3カ月後に面接を実施し、アプリが介護者と認知症患者の双方に与える影響を評価した。 その結果、3カ月時点では、行動症状の重症度と頻度を組み合わせたスコア、介護者の苦痛、および行動症状への対処に対する自信について、即時使用群と待機群の間に有意差は認められなかった。一方、ベースラインから3カ月までの変化を見ると、即時使用群では待機群に比べて、介護者の苦痛の低下幅が有意に大きく、ウェルビーイングも有意に改善した。また、認知症患者に見られる行動症状の数についても、即時使用群では待機群と比べて経時的な有意な減少が認められた。 Gitlin氏は、「介護者は平均すると月に1回程度、このアプリを利用していた。また、毎日のヒントを受け取れる点や、信頼できる教育資料をアプリで利用できる点、さらに、それぞれの介護状況や行動上の問題に合わせて個別化された対処法が提供される点も、介護者に非常に好評だった」と話している。 論文の上席著者である米カリフォルニア大学デービス校教授のHelen Kales氏は、これまでの研究で、認知症患者に見られる問題行動よりも、介護者が感じる苦痛の方が、ある意味で重要であることが示されていると指摘する。その上で、「認知症患者が入院や救急外来の受診に至るかどうかについては、患者の症状の重症度よりも介護者が感じる苦痛の程度の方が強い予測因子になる。介護者が感じている苦痛の大きさがその後の経過を左右しているように見えることから、介護者の苦痛を軽減できる方策は、介護者と認知症患者の双方の日常生活を改善する可能性がある」とニュースリリースで述べている。

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