18.
2型糖尿病(T2D)診断後の早めのスタチン開始と認知症を生じ難くなることの関連がデンマークでの試験で示されました1-3)。虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんなどの一般的な非感染症および感染症の予防・治療が進歩して世界的に寿命が延び、高齢者の域に至る人々が増えています。そのため認知症も増えており、世界の認知症患者の数は2019年に5,740万例で、2050年には1億5,280万例に達すると予想されています4)。認知症を根本治癒する術は今のところなく、診断に至る前の数十年に認知機能の低下が進みます。それゆえ、認知症の発生を遅らせるか防ぐための手段となる中年期の危険因子の対応に注目が集まっています。Lancetが招集した専門家一堂(Lancet Commission)がまとめた2024年の最新の報告によると、14の危険因子を解消することで理論的には認知症の半数近くを防ぎうるようです5)。2024年の報告では、特筆すべきことにLDLコレステロール(LDL-C)上昇が危険因子に初めて加わりました。2023年に報告された観察試験のメタ解析によると、LDL-Cの1mmol/L上昇ごとに認知症の発症が8%上昇することが関連しています6)。高コレステロール血症の有病率は高いため、LDL-C上昇の治療は最も多くの認知症予防につながると予想されています。世界での肥満の増加につれてT2Dも増えています。Lancet Commissionの危険因子にも含まれる糖尿病の患者はそうではない人に比べて高コレステロール血症をより併発します。したがって認知機能低下の症状がみられる前にスタチンで早めに高コレステロール血症の治療をすることは、認知症を遅らせるか防ぐのに不可欠かもしれません。LDL-C値をスタチンで下げることは、心血管疾患予防の確かな裏付けをもっぱらの拠り所としてT2D患者の治療の肝の1つとなっています。しかし糖尿病診断後の早期のスタチン治療が認知機能低下や認知症を帰結として長い目で見てどれだけ重要かはよくわかっていませんでした。そこでデンマーク・コペンハーゲン大学病院のTummas Ternhamar氏らは、糖尿病診断から早期(1年以内)のスタチン開始の認知症リスクが1~5年以内の遅ればせの開始または開始せずじまい(非開始)に比べて低いとの仮説を立て、デンマーク国民全員の登録情報を利用してその検証を試みました。Ternhamar氏らは2006~19年の14年間にスタチン未使用の13万2,585例を選定し、最長2021年12月31日まで追跡しました。中央値7年ほど(7.1年)の追跡期間に3%弱の2.7%(3,592例/13万2,585例)が認知症を発症しました。10年間の認知症の絶対リスクは、スタチン早期開始群3.3%、遅ればせの開始群3.5%、非開始群3.9%でした。その結果からスタチン早期開始と遅ればせの開始の相対リスクは非開始に比べてそれぞれ15%と10%低いことが示されました。LDL-C上昇をT2D診断に際して適時治療することで認知症を防ぐか遅らせうることを今回の結果は示唆しており、その確かさをより長期の無作為化試験で検討する必要があるとTernhamar氏らは言っています。今回の結果は先月末の欧州心臓病学会(ESC)年次総会で報告され2)、Lancet姉妹誌のThe Lancet Regional Health Europe誌オンライン版にも同時に掲載されました1)。参考1)Ternhamar T, et al. Lancet Reg Health Eur. 2026 Aug 27. [Epub ahead of print]2)Statins are associated with a lower risk of dementia in patients with type 2 diabetes / ESC3)Statins can reduce dementia risk by up to 15%, long-term study suggests / Guardian4)GBD 2019 Dementia Forecasting Collaborators. Lancet Public Health. 2022;7:e105-e125.5)Livingston G, et al. Lancet. 2024;404:572-628.6)Wee J, et al. Alzheimers Dement(Amst). 2023;15:e12395.