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長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効

長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効中国の長寿の村で見つかった細菌が、プラセボ対照無作為化試験でうつ病や鼻炎の治療効果を示しました1,2)。精神の不調の世界的な負担の主因であるうつ病と、便秘などの胃腸不調の関連が最近になって報告されています。たとえば、米国人口を代表する米国国民健康栄養調査 (NHANES)の情報を調べた試験で、慢性の下痢や便秘がうつ病患者でより多く認められています3)。うつ病患者495例の慢性の下痢と便秘の有病率はそれぞれ15.53%と9.10%で、うつ病でない4,709例のそれらの有病率(それぞれ6.05%と6.55%)より高いことが示されました。いくつかの報告によると、うつ病などの気分障害と胃腸不調の関連には腸-脳軸(gut-brain axis)と呼ばれる腸と中枢神経系(CNS)のやり取りが関係しているようです。また、胃腸の微生物が胃腸と脳の通信を促しており、その乱れはうつ病、自閉症、パーキンソン病などの神経や精神の疾患と関連するようです。そこで、ためになる細菌(プロバイオティクス)などで腸内微生物環境を手入れして精神不調を治療する試みが増えています。長寿で知られる中国南西部の村(巴馬)の1人の長寿老人(centenarian)の便から見つかったBifidobacterium animalis subsp. Lactis A6(BBA6)という細菌の研究はその1つで、BBA6が微生物-腸-脳軸を手入れして注意欠如・多動症を模すラットの海馬や記憶の障害を緩和しうることが北京農業大学のRan Wang氏らの研究で示されています4)。その後Wang氏らはBBA6の研究を臨床段階へと進め、うつ病、具体的には便秘でもあるうつ病患者へのBBA6の効き目を調べるプラセボ対照無作為化試験を実施しました。試験にはうつ病患者107例が参加し、便秘でもあるうつ病患者と便秘ではないうつ病患者がそれぞれ8週間のBBA6かプラセボを投与する群に割り振られました。BBA6投与の効果は便秘合併うつ病患者に限って認められました。それら便秘合併うつ病患者への8週間のBBA6投与後のハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)はプラセボ投与群より低くて済んでいました1)。便秘症状の評価尺度PAC-SYMもBBA6投与群のほうがプラセボ群より下がりました。便秘とうつ病の合併を模すラットで調べたところ、BBA6はうつ病患者に有害らしいキヌレニンを減らしてセロトニンを増やすことが示されました5)。便秘合併うつ病患者のBBA6投与後の血液や便にはセロトニンが多く、キヌレニンが少ないことも確認されており、ラットでの検討と一致する結果が得られています。また、BBA6が投与された便秘合併うつ病患者は先立つ研究でうつ病治療効果やセロトニン生成促進効果が示唆されているビフィドバクテリウムとラクトバチルスがより多く、トリプトファン生合成経路が盛んでした。どうやらBBA6はセロトニンやキヌレニンの出所であるトリプトファン代謝を手入れすることで便秘とうつ病の合併を緩和するようです。さて、BBA6が役立ちうる用途はうつ病治療に限られるわけではなさそうで、Wang氏らによる別のプラセボ対照無作為化試験では、アレルギー性鼻炎の治療効果が示されています2)。試験には通年性アレルギー性鼻炎患者70例が参加し、うつ病試験と同様にBBA6かプラセボが8週間投与され、ベースライン時と比べた8週時点の鼻症状検査点数低下の比較でBBA6がプラセボに勝りました。Wang氏らは便秘とうつ病の合併への長期の効果を調べる試験を予定しています5)。また、アレルギー性鼻炎治療効果のさらなる裏付け試験が必要と述べています2)。 参考 1) Wang J,et al. Sci Bull(Beijing). 2025 Apr 21. [Epub ahead of print] 2) Wang L, et al. Clin Transl Allergy. 2025;15:e70064. 3) Ballou S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17:2696-2703. 4) Yin X, et al. Food Funct. 2024;15:2668-2678. 5) Probiotic breakthrough: Bifidobacterium animalis subsp. Lactis A6 shows promise in alleviating comorbid constipation and depression / Eurekalert

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「ICIの投与は早い時間が良い」をRCTで再現/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与は、午前中などの早い時間が良いという報告が多数存在する。しかし、これらは後ろ向き解析やそれらのメタ解析に基づくものであり、無作為化比較試験により検討された報告はこれまでにない。そこで、Yongchang Zhang氏(中国・中南大学湘雅医学院)らの研究グループは、ICIの投与時間が非小細胞肺がん(NSCLC)患者の予後へ及ぼす影響を検討する無作為化比較試験「PACIFIC15試験」を実施した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において本試験の結果が報告され、早い時間にICIを投与した群は無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が良好であったことが示された。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験・対象:ICI+化学療法を開始するドライバー遺伝子陰性のStageIIIC~IV NSCLC患者・試験群(早時間帯群):15時以前にICIの投与を開始 105例・対照群(遅時間帯群):15時1分以降にICIの投与を開始 105例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、早時間帯群90.5%、遅時間帯群90.5%であった。PD-L1発現状況は、PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明が、それぞれ39.0%/29.5%/24.8%/6.7%、44.8%/27.5%/21.0%/6.7%であった。ICIの内訳は、sintilimab/ペムブロリズマブが、それぞれ77.1%/22.9%、78.1%/21.9%であった。・追跡期間中央値23.2ヵ月時点において、主要評価項目のBICR評価によるPFS中央値は、早時間帯群11.3ヵ月、遅時間帯群5.7ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.31~0.58、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、PFSは早時間帯群が良好な傾向にあった。・OS中央値は、早時間帯群未到達、遅時間帯群16.4ヵ月であり、早時間帯群が有意に良好であった(HR:0.45、95%CI:0.30~0.68、p<0.0001)。PD-L1発現状況によらず、OSも早時間帯群が良好な傾向にあった。・ICI投与開始後、早時間帯群はCD8陽性T細胞がベースライン時より増加したが、遅時間帯群は減少した。・活性化T細胞(CD38陽性HLA-DR陽性CD8陽性T細胞)の疲弊T細胞(TIM3陽性PD-1陽性CD8陽性T細胞)に対する比率(活性化/疲弊比)は、ICI投与後に上昇したが、上昇幅は早時間帯群が遅時刻帯群と比べて大きかった。 本結果について、Zhang氏は「早時間帯群と遅時間帯群を比較すると、末梢血中のCD8陽性T細胞の状態に違いが認められた。サーカディアンリズムが免疫療法に及ぼす潜在的影響を考慮すると、免疫療法に関する臨床研究では投与時刻を記録することや投与時間で層別化することが推奨されるだろう」とまとめた。

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降圧薬で腎臓がんリスク上昇、薬剤による違いは?

 降圧薬が腎臓がんのリスク上昇と関連するというエビデンスが出てきている。さらに降圧薬の降圧作用とは関係なく腎臓がんリスクを上昇させる可能性が示唆されているが、腎臓がんの危険因子である高血圧と降圧薬の腎臓がんへの影響を切り離して評価したエビデンスは限られている。今回、米国・スタンフォード大学医療センターのMinji Jung氏らのメタ解析で、降圧薬と腎臓がんリスクが高血圧とは関係なく関連を示し、そのリスクはCa拮抗薬において最も高いことが示唆された。BMC Cancer誌2025年6月6日号に掲載。 本研究では、2025年1月までの降圧薬使用と腎臓がんとの関連を調査した観察研究を検索した。高血圧とは独立した降圧薬の影響を明らかにするため、高血圧を考慮した群と考慮しない群で層別解析を実施した。ロバスト分散推定を用いたランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、統合相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・39研究が適格研究とされた。・高血圧を考慮した推定値に基づいた場合、降圧薬は腎臓がんリスク上昇と関連していた。・高血圧を考慮した場合の降圧薬のクラス別のRR(95%CI)は、ARBが1.15(1.00~1.31)、β遮断薬が1.09(1.03~1.16)、Ca拮抗薬が1.40(1.12~1.75)、利尿薬が1.36(1.20~1.55)と、腎臓がんリスク上昇と関連し、Ca拮抗薬が最もリスクが高かった。ACE阻害薬は1.19(0.93~1.52)と有意な関連は認められなかった。

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うつ病予防に対するカフェインの作用メカニズム

 疫学研究において、カフェイン摂取はうつ病と逆相関しており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。中国・重慶医学大学のWentao Wu氏らは、うつ病と腸内細菌叢との関連に着目し、予防的なカフェイン摂取が腸脳軸に作用することでうつ病発症に影響を及ぼすかを調査するため、本研究を実施した。European Journal of Pharmacology誌2025年8月5日号の報告。 オスC57BL/6Jマウスを対照群、慢性予測不能ストレス(CUS)を負荷した群(CUS群)、カフェイン(CAF)を腹腔内投与後、CUSを負荷した群(CAF群)にランダムに割り付けた。うつ病様行動および不安様行動を評価し、腸脳軸関連分子を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較し、CUS群は、体重、スクロール嗜好、中心距離(%)が有意に低く、不動時間が長かった。しかし、対照群とCAF群では、これらの指標に差は認められなかった。・CUS群で有意な減少がみられた腸管バリア完全性関連因子(ZO-1、claudin-1、MUC2)は、CAF群では認められなかった。また、CUS群で認められた2つの血漿中炎症因子(LPS、NLRP3)の変動、4つの海馬中炎症関連因子(TNF-α、IL-1β、AC、BDNF)の変動は、CAF群では認められなかった。・対照群とCUS群との間で6つの分化遺伝子が同定されたが、対照群とCAF群との間では同定されず、これら6つの鑑別疾患のうち、5つとスクロール嗜好との有意な相関が確認された。 著者らは「これらの結果は、早期カフェイン介入が、腸内細菌叢、腸管バリアの完全性、神経炎症を調節することで、うつ病予防につながる可能性を示唆している」と結論付けている。

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術前化療後の乳房温存術、断端陽性で再発リスク3倍~日本人1,813例での研究

 術前化学療法後に乳房温存療法(乳房温存手術および放射線療法)を受けた乳がん患者において、切除断端陽性例では温存乳房内再発リスクが3.1倍であったことが、1,813例を対象にした日本の多施設共同後ろ向き研究で示された。大阪はびきの医療センターの石飛 真人氏らがBreast Cancer誌オンライン版2025年6月9日号で発表した。 本研究の対象は、新たにStageI~III乳がんと診断され、術前化学療法後に乳房温存療法を受けた1,813例で、切除断端の状態が温存乳房内再発に与える影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値8.0年(範囲:0.1~17.0)において、8年温存乳房内無再発生存率は95.9%であった。切除断端陽性例(87.6%)は陰性例(96.2%)と比べて有意に低かった(p=0.010)。・多変量解析では、切除断端の状態が温存乳房内無再発生存率と有意に関連することが示された(ハザード比:3.1、95%信頼区間:1.3~7.2、p=0.0081)。 今回の結果は、術前化学療法を受けずに最初から手術を行った症例での結果と一致する結果であった。

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多発性骨髄腫の導入療法後MRD陰性、Isa-KRd vs. ASCT(MIDAS)/NEJM

 新規診断の多発性骨髄腫において、導入療法後に感度10-5で測定可能残存病変(MRD)が陰性と判定された患者では、より厳格な感度10-6で維持療法前MRD陰性の割合は、地固め療法としてイサツキシマブ+カルフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン4剤併用療法(Isa-KRd)を受けた患者と自家幹細胞移植(ASCT)を受けた患者で差はなく、導入療法後に感度10-5でMRD陽性と判定された患者では、感度10-6で維持療法前MRD陰性の割合は、地固め療法としてのシングルASCTとタンデムASCTでも差はないことが、フランス・Universite de ToulouseのAurore Perrot氏らMIDAS Study Groupが実施した「MIDAS試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年6月3日号に掲載された。フランスとベルギーの非盲検無作為化第III相試験 MIDAS試験は、フランスとベルギーの72施設が参加した進行中の非盲検無作為化第III相試験であり、2021年12月~2023年7月に患者を登録した(Intergroupe Francophone du Myelomeなどの助成を受けた)。 年齢65歳以下、新規に診断された未治療の骨髄腫で、測定可能病変を有し、ASCT適応の患者を対象とした。被験者を、導入療法(Isa-KRd、6サイクル)後のMRDの状態に応じて、次のように4つの地固め療法のうち1つを受ける群に無作為に割り付けた。 MRD陰性は感度<10-5(次世代シーケンシングによる評価で、正常細胞10万個当たりがん細胞が1個未満)の場合とし、MRD陽性は感度≧10-5とした。導入療法後にMRD陰性の患者は、地固め療法としてASCT+Isa-KRd(2サイクル)を受ける群(ASCT群)またはIsa-KRd(6サイクル)を受ける群(Isa-KRd群)に、導入療法後MRD陽性の患者は、地固め療法として短期間にASCTを2回受ける群(タンデムASCT群)またはASCT+Isa-KRd(2サイクル)を受ける群(シングルASCT群)に割り付けた。 主要評価項目は、感度10-6における維持療法前MRD陰性とした。MRD陰性の持続、無増悪生存期間の評価にはデータが不十分 718例が無作為化の対象となった。年齢中央値は59歳(範囲:25~66)、57%が男性であった。導入療法終了時にITT集団の485例(68%)が感度10-5でMRD陰性で、242例をASCT群、243例をIsa-KRd群に割り付けた。また、感度10-5でMRD陽性であった233例(32%)のうち、124例をタンデムASCT群、109例をシングルASCT群に割り付けた。 導入療法終了後に感度10-5でMRD陰性であった患者における、感度10-6で維持療法前MRD陰性の患者の割合は、ASCT群で86%(208/242例)、Isa-KRd群で84%(205/243例)と両群間に差を認めなかった(補正後相対リスク:1.02[95%信頼区間[CI]:0.95~1.10]、p=0.64)。 また、導入療法終了後に感度10-5でMRD陽性であった患者においては、感度10-6で維持療法前MRD陰性の患者の割合は、タンデムASCT群で32%(40/124例)、シングルASCT群で40%(44/109例)であり、両群間に差はなかった(補正後相対リスク:0.82[95%CI:0.58~1.15]、p=0.31)。タンデムASCT群の15%は、2回目のASCTを受けなかった。 地固め療法中に、5例(Isa-KRd群2例、タンデムASCT群3例)で病勢進行を認め、2例(Isa-KRd群2例)が病勢進行とは関連のない原因で死亡した。追跡期間中央値は、ASCT群とIsa-KRd群が16.8ヵ月、タンデムASCT群とシングルASCT群は16.3ヵ月であり、MRD陰性の持続状況や無増悪生存期間を評価するにはデータが十分ではなかった。新たな安全性シグナルは発生しなかった 導入療法段階と比較して、地固め療法中に新たな安全性シグナルは発生しなかった。地固め療法中に発現したGrade3以上の有害事象は、タンデムASCT群の粘膜炎(12%)と口内炎(14%)を除き、いずれも10%未満であった。 重篤な有害事象はASCT群で44例、Isa-KRd群で29例に、とくに注目すべき有害事象はそれぞれ4例および2例にみられた。また、タンデムASCT群で20例、シングルASCT群で23例に重篤な有害事象が、それぞれ7例および4例にとくに注目すべき有害事象が発現した。 著者は、「ASCTの有益性が示されなかった理由として、ASCT群とIsa-KRd群は導入療法後にすでに感度10-6でMRD陰性の患者の割合が高かったこと(それぞれ73%、76%)が影響している可能性がある」「これらの結果は、強力な4剤併用療法の時代を迎えた現在、導入療法後にMRD陰性の患者におけるfirst-line ASCTの役割に疑問を投げかけるものである」「抗CD38抗体とプロテアソーム阻害薬を含む有効な導入療法後に、タンデムASCTをルーチンに行うことは、もはや正当化されない可能性が示唆される」「本試験は進行中で、無増悪生存期間や全生存期間の評価にはより長期の追跡調査を要する」としている。

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レカネマブによる治療はメモリークリニックでも可能

 レカネマブ(商品名レケンビ)は、アルツハイマー病(AD)の進行抑制に有効な初めての抗アミロイドβ抗体薬として、2023年に米食品医薬品局(FDA)に承認された。しかし、承認前の臨床試験で、この薬剤は脳浮腫や脳出血などの副作用を伴うことが示されたことから、実用化には懸念の声も寄せられていた。こうした中、レカネマブに関する新たなリアルワールド研究により、記憶に関する専門クリニック(メモリークリニック)でも副作用をコントロールしながら安全にレカネマブによる治療を行えることが示された。論文の上席著者である米ワシントン大学医学部神経学教授のBarbara Joy Snider氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に5月12日掲載された。 Snider氏らは、2023年8月1日から2024年10月1日の間にワシントン大学記憶診断センターでレカネマブによる治療(2週間ごとに10mg/kgを静脈内注射)を開始した、早期症候性AD患者234人(平均年齢74.4歳、女性50%)を追跡調査し、メモリークリニックでのレカネマブによる治療の実現可能性と安全性を評価した。主要評価項目は、点滴関連反応、アミロイド関連画像異常(ARIA)、および治療の中止であった。 234人中194人は、レカネマブによる治療を4回以上、MRI検査を1回以上受けており、ARIAのリスクがあると見なされた。平均6.5カ月の治療期間中に、194人中42人(22%)にARIAが確認された。このうち22人(15%)では浮腫・滲出が見られ(ARIA-E)、出血・鉄沈着を伴うもの(ARIA-H)と伴わないものの両方が含まれていた。また、13人(6.7%)はARIA-Hだった。症状を伴うARIAは11人(5.7%)に見られた。このうち2人(1.0%)は入院を要するほどの重度の臨床症状を呈したが、残りは数カ月以内に改善し、微小脳出血を呈した患者や死亡した患者はいなかった。234人中23人(9.8%)がさまざまな理由で治療を中止しており、10人(4.3%)はARIAを原因とする中止だった。 Snider氏は、「レカネマブによる治療では、副作用に対する懸念が治療の遅れにつながる可能性がある」と指摘する。そして、「この研究は、メモリークリニックが、重篤な副作用を経験する可能性のある少数の患者を含め、患者にレカネマブを安全に投与し、適切にケアするためのインフラと専門知識を備えていることを示している」との見方を示している。 一方、論文の共著者の1人である、ワシントン大学医学部神経学准教授のSuzanne Schindler氏は、「レカネマブを投与された患者の大半で、この薬に対する認容性は良好だった」と述べている。その上で、「ADの症状が非常に軽度の患者ではレカネマブによる治療のリスクが低いことを示した本研究結果は、患者と医療提供者が治療のリスクをよりよく理解するのに役立つ可能性がある」と付け加えている。

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女性のCOPDリスクの高さはタバコでは説明できない

 女性はCOPD(肺気腫や慢性気管支炎)のリスクが男性より約50%高く、このリスクの高さはCOPDの主要原因とされる喫煙だけでは説明がつかないとする研究結果が報告された。米ワシントン大学のAlexander Steinberg氏らの研究の結果であり、詳細は「BMJ Open Respiratory Research」に5月8日掲載された。 COPDは‘chronic obstructive pulmonary disease’の略で、国内では慢性閉塞性肺疾患とも呼ばれる。肺の慢性的な炎症などのために呼吸機能が徐々に低下し、呼吸苦が生じて体を動かすことが困難となっていく。主要な原因は喫煙とされていて、生活習慣病の一つに位置付けられている。 近年、女性は喫煙率が低く、たとえ喫煙者であっても喫煙本数が少ないにもかかわらず、COPD有病率が高いことが注目されるようになり、その理由の一つとして、女性はタバコの煙の影響を受けやすいのではないかという仮説が提唱されている。このような状況を背景としてSteinberg氏らは、米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを用いた検討を行った。 2020年のNHISに参加した40歳以上の成人(女性1万2,638人、男性1万390人)を対象とする解析で、電子タバコの使用率は女性と男性で同程度だったが、従来タイプのタバコ(紙巻きタバコなど)については、現喫煙者、元喫煙者ともに、男性より女性の方が少なかった。それにもかかわらず、COPDの有病率は、女性が7.8%、男性は6.5%で、女性の方が高かった。また、COPDの女性患者は男性患者よりも、喫煙経験のない人の割合が高かった(26.4対14.3%)。なお、女性の喫煙者の紙巻きタバコの喫煙本数は男性喫煙者より少なく(17.6対21.7本/日)、累積喫煙量も少なく(34.8対41.8パックイヤー〈1日の喫煙量と喫煙年数を積算した値〉)、15歳未満で喫煙を始めた人の割合が低かった(19.1対28.0%)。 喫煙経験者におけるCOPD有病率は、男性が11.5%であるのに対して女性は15.9%と高かったが、喫煙経験のない人のCOPDの有病率は、男性が1.7%であるのに対して女性は3.2%とほぼ2倍であり、喫煙経験者で見られる性別による乖離よりも大きかった。 年齢、人種、世帯貧困率、居住地域、喫煙開始年齢、電子タバコ使用状況などの潜在的な交絡因子を調整後、女性は男性よりCOPDの相対リスクが47%高いことが明らかになった(RR1.47〔95%信頼区間1.30~1.65〕)。喫煙経験の有無で層別化すると、経験あり群では、女性は男性より43%ハイリスク(RR1.43〔同1.25~1.63〕)であり、経験なし群では、女性は男性より62%ハイリスクだった(RR1.62〔1.22~2.15〕)。 これらの結果を基に研究者らは、「女性のCOPDリスクが高いのは、喫煙状況や累積喫煙量との関係から推測されるタバコに対する感受性の高さでは説明できない。そうなると改めて、女性のCOPDの有病率が高い原因は何なのかという疑問が浮かび上がる」と語り、いくつかの推論を述べている。例えば、女性は家庭内で調理する際の煙に曝露されたり、家庭用洗剤やエアロゾル化した化粧品を吸入したりする機会が多いことが、リスク上昇に関与している可能性があるという。また、女性は男性よりも気道が狭い傾向があることも、理由として考えられるとしている。

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米国では30年でアルコール関連がんの死亡が倍増/ASCO2025

 米国では、1990年から2021年までの30年間でアルコール摂取に関連するがん(以下、アルコール関連がん)による死亡数がほぼ倍増しており、男性の死亡数がこの急増の主な原因であることが、新たな研究で明らかになった。米マイアミ大学シルベスター総合がんセンターのChinmay Jani氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO25、5月30日~6月3日、米シカゴ)で発表された。 米国公衆衛生局(PHS)長官は2025年初頭に勧告を発出し、飲酒ががんのリスクを高めることに関する強力な科学的エビデンスがあると米国民に警告した。米国立がん研究所(NCI)によると、アルコールは1987年以来、国際がん研究機関(IARC)によって発がん物質に分類されている。また、米国立毒性学プログラム(NTP)も2000年以来、アルコールはヒトに対する既知の発がん物質とする認識を示している。 Jani氏らは、世界疾病負担(GBD)研究のデータを用いて、1990年から2021年の米国における大量飲酒に起因するがんによる年齢調整死亡率(ASMR)を推定した。大量飲酒は、理論上の最小リスク曝露量を超える飲酒と定義した。がんは、あらゆるがんに加え、食道がん、肝臓がん、喉頭がん、乳がん、大腸がん、口唇・口腔がん、鼻咽頭がん、その他の咽頭がん(中咽頭・下咽頭がん)を対象とした。 その結果、アルコール関連がんによる死亡数は、1990年の1万1,896件から2021年には2万3,207件へと約2倍に増加していた。また、2021年のアルコール関連がんによる死亡の約70%は男性に生じたもので、その数は1万6500件を超えていた。 年齢層別に見ると、男女ともに55歳以上の人では20〜54歳の人に比べてASMRが有意に高かった。がんのASMRに占めるアルコール起因のASMRの割合は、55歳以上の男性における肝臓がんを除き、性別や年齢層を問わず増加傾向を示した。 2021年において、55歳以上の男性でがんのASMRに占めるアルコール起因のASMRの割合が最も高かったのは肝臓がん(38.5%)、次いで鼻咽頭がん(31.8%)、55歳以上の女性では、鼻咽頭がん(18.9%)、中咽頭・下咽頭がん(18.4%)であった。20〜54歳においてこの割合が最も高かったのは男女とも口唇・口腔がんであり、男性で41.8%、女性で26.9%であった。アルコール関連がんによるASMRの年間推定変化率(EAPC)は、55歳以上では男女ともに上昇傾向を示し、男性では2008〜2021年のEAPCが+0.5、女性では2006〜2021年のEAPCが+1.1であった。 Jani氏は、「これは憂慮すべき大幅な増加だ。一般の人だけでなく医療現場でも、飲酒とがんリスクの関連について認識を高める必要がある。喫煙とがんの関連については多くの人が認識しているが、飲酒との関連についての認識はまだ十分に浸透していない」と危機感を表している。なお、NCIの2019年の調査では、米国人の89%が喫煙によりがんリスクが上昇することを認識している一方で、アルコールも同様のリスク因子であることを知っている人はわずか45%に過ぎなかったという。 研究グループによると、アルコールはDNAに損傷を与え、ホルモンレベルを変化させることで、がんリスクを高める可能性があるという。しかし、人々の生物学的差異がアルコール関連がんのリスクにどう影響するかについてはさらなる研究が必要だとしている。マイアミ大学シルベスター総合がんセンターのGilberto Lopes氏は、「アルコールが個人のがんリスクに与える影響は潜在的に修正可能なのだから、この研究がアルコールの持つがんリスクに関する人々の理解を深めるのに役立つことを期待している」とASCOのニュースリリースで述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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MGHでのフェローシップを終えて、日本のカテーテル治療の強みと米国の医療システム 【臨床留学通信 from Boston】第12回

MGHでのフェローシップを終えて、日本のカテーテル治療の強みと米国の医療システム早いもので、マサチューセッツ総合病院(MGH)でのフェローとしての仕事も終わりに近づいています。世界トップランクといわれるMGHの循環器カテーテル室で働けたことは非常に光栄な経験でした。同時に、日本でのインターベンションのレベルが米国のトップの病院にも引けを取らないことを再確認し、これまで培ってきた技術と経験にさらなる自信を持つことができました。米国の医療システムは、レジデント、フェロー、アテンディングが目まぐるしく変わるため、一人の医者が一人の患者さんを継続して診る日本のシステムとは大きく異なります。これにより人為的ミスが発生しやすい傾向にありますが、MGHはニューヨークの病院と比較して、それぞれのカバー範囲を柔軟に広げることで、漏れなくミスを減らす仕組みが機能していると感じました。もちろん、心臓移植やLVAD(左心補助人工心臓)などを含む高度な治療においては、日本が真似しにくい部分があるのも事実です。しかし、カテーテルを用いた患者さんへの医療という点では、日本がかなり最先端をいっていると認識できました。ただ、11ヵ月を過ぎると正直なところ、かなり疲弊したのも事実です。午前7時前に患者さんを診察し始め、カテーテル室につきっきりで6~8時頃まで働き、月曜から木曜までの平日で週に一度のオンコール、そして金曜夜から月曜朝までをセットにした週末コールが月に1度ありました。フェローの間はオンコールで呼ばれてもインセンティブがないため、アテンディングとの間で緊急対応への「温度差」を感じることもありました。しかし、日本循環器学会1)や日本心血管カテーテル治療学会2)が提言しているように、循環器内科医のなり手不足は国民的危機であり、外科治療などを含めた緊急治療に対するインセンティブは必要不可欠でしょう。QOLを犠牲にして給料が変わらないのであれば、なり手が減る一方だと考えます。一方で、米国では内科の中でも循環器科、とくに心血管カテーテル分野は最も人気で競争率が高く、誰もがなれるわけではありません。米国では、循環器や心血管フェローに進める人数に制限を設け、人気の科への参入をコントロールしています。なぜこれほど忙しいにもかかわらず人気があるのかというと、給料に差があるからです。「病院が儲かればいい」という米国的な考え方だといわれるかもしれませんが、そうではなく、緊急治療の価値をより高く評価し、そこに税金を投入すべきだと私は考えます。また日本においても、名ばかりの専門医ではなく、多少複雑になっても専門医の診察によって報酬が増えるような、より価値を置いた制度になってほしいと願います。話がやや脱線しましたが、高い競争率の中、MGHで働けたことは大変光栄なことでした。この11ヵ月で冠動脈カテーテル治療を300件、そのほかに下肢末梢血管、TAVI/PFO、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、腎デナベーションなどのカテーテル治療を含めると約350件を経験しました。正直なところ、心臓カテーテル治療よりもほかのカテーテル治療に重点を置きたかったのですが、メインは冠動脈治療であったため、そこは致し方ありません。7月からはBeth Israel Deaconess Medical Center/Harvard Medical Schoolでの最後のフェローとしての1年をエンジョイしたいと思います。 1) 日本循環器学会. 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』 2) 時事メディカル. 循環器内科医の減少に危機感~学会提言「経済的インセンティブ整備を」~ Column日本では初期研修医の卒業式はありますが、米国ではフェロー(後期研修医)の修了時にもセレモニーがあります。厳格なマッチングプロセスを経て選ばれ、あらかじめ定められた研修期間を終えるフェローには、修了証が授与されます。こちらの写真は、先日のMGHのフェローの卒業式です。会場となったのは近隣のホテルで、ディナーが用意され、フェロー一人ひとりがスライドで紹介される形式でした。フェローシップのプログラムディレクターは、米国心臓病学会(ACC)の元プレジデントのDouglas Drachman先生です。彼には面接で採用していただいただけでなく、この1年間大変お世話になりました。いつかまたMGHで働く機会があれば、ぜひ彼と一緒に仕事がしたいと願っています。画像を拡大する

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第247回 骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣

<先週の動き> 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、医療者の感染リスクも顕在化/三重県 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府 1.骨太の方針2025が閣議決定、賃上げ促進と病床削減が焦点に/内閣政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針2025)を閣議決定し、来年度以降の予算編成や制度改革の方向性を示した。今回の方針では、医療・介護・福祉分野における構造改革と現場の処遇改善が柱となり、「成長と分配の好循環」に向けた具体策が明示された。政府は初めて、2029年度までに実質賃金を年1%引き上げる数値目標を掲げ、医療・介護・保育・福祉分野の処遇改善を「成長戦略の要」と位置付けた。これに伴い、公的価格である診療報酬や介護報酬の引き上げを示唆し、2026年度の報酬改定に大きな影響を与える可能性がある。また、これまで「高齢化による自然増」に限定していた社会保障費の算定に、今後は物価・賃金動向を加味する方針を打ち出した。これにより、物価高や人材確保に悩む医療・介護機関にとっては、経営基盤の安定化につながるとみられる。その一方で、保険料負担とのバランスが課題となる。地域医療体制の再編も加速され、地域実情を踏まえつつ、2027年度施行の新地域医療構想に合わせて、一般・療養・精神病床の削減が明記された。とくに中小病院や療養型施設に対し、再編や役割分担が求められる。負担の公平性を重視し、医療・介護の応能負担の強化も盛り込まれた。金融所得を含めた新たな負担制度の検討が進められており、今後の制度設計に注目が集まっている。また、2026年度以降、市販薬と類似する医師処方薬(OTC類似薬)を保険給付から除外する見直しが進められ、診療所経営にも影響が及ぶ可能性がある。さらに、医療の効率化を図るため、医療DXやデータ活用が推進され、電子カルテの標準化やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)との連携が進展される見込みとなった。地域単位で薬剤選定を標準化する「地域フォーミュラリ」の全国展開も盛り込まれた。今回の方針は、賃上げによる持続可能な成長と、医療・福祉分野の構造改革を同時に進めるものであり、制度改革の実行力が問われる局面となる。 参考 1)経済財政運営と改革の基本方針 2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~[全文](内閣府) 2)ことしの「骨太の方針」決定 経済リスク対応やコメ政策見直し(NHK) 3)不要な病床の削減を明記、骨太方針決定 社会保障費「経済・物価動向等」反映へ(CB news) 4)骨太の方針、社保に物価・賃上げ反映 家計負担増す可能性(日経新聞) 5)実質賃金年1%上昇、初の数値目標 骨太の方針を閣議決定(毎日新聞) 2.マダニ媒介SFTSで獣医師が死亡、人獣共通感染症への警戒強まる/三重県マダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染拡大が続いており、医療従事者にも重大な影響を及ぼしている。6月、三重県内でSFTS感染の猫を治療していた高齢の獣医師が感染・死亡する事例が確認された。ダニ刺咬痕は確認されておらず、唾液や血液を介したペット由来の感染が疑われている。これは、2024年の医師への感染に続く人獣間感染の深刻な事例であり、日本獣医師会は防護対策の徹底を求めている。SFTSは6~14日程度の潜伏期を経て発熱、嘔吐、下痢、意識障害、皮下出血など多彩な症状を呈し、致死率は最大30%に達する。とくに高齢者では重症化リスクが高い。現在、有効な抗ウイルス薬としてファビピラビル(商品名:アビガン)が使用できるが、ワクチンは存在しない。マダニ感染症はSFTSのほかにも日本紅斑熱やツツガ虫病があり、いずれも西日本を中心に発生が集中している。2025年も岡山・鳥取・香川・静岡・愛媛など複数県で感染例が報告されており、死亡例も出ている。春から秋にかけてマダニの活動が活発化し、農作業やアウトドア活動での感染リスクが高まる。また、SFTSは犬・猫などのペットがウイルス保有宿主になり得ることが明らかになっており、医療者・獣医師・飼い主ともに十分な感染予防対策が求められる。ペットの室内飼育、防虫剤使用、皮膚・粘膜の保護に加え、咬傷・体液接触時の手指衛生とPPE(個人防護具)の着用が推奨される。今後、診療現場でもマダニ媒介疾患への警戒を強化し、野外活動歴や動物との接触歴を含めた問診と初期対応の徹底が重要である。 参考 1)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚労省) 2)ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重(NHK) 3)マダニ感染症で死亡の獣医師「胸が苦しい、息苦しい」訴え緊急搬送 発症前に感染ネコ治療(産経新聞) 4)マダニにかまれ「日本紅斑熱」60代男性感染 2025年8人目 屋外でのマダニ対策呼びかけ(静岡放送) 5)マダニにかまれ、感染症悪化で死亡事例も 今が活動期 アウトドアレジャーでの警戒を(産経新聞) 6)ダニ媒介による感染症「日本紅斑熱」「SFTS」の患者が多発 県が注意喚起(山陽放送) 7)西日本中心に“マダニ”に注意 住宅街の茂みでパンパンに膨らんだマダニも…マダニが媒介する致死率10%超えの感染症SFTSとは?50歳以上は特に重症化しやすいか(あいテレビ) 3.「がん以外」にも広がる終末期医療、腎不全にも緩和ケアを検討/厚労省厚生労働省は、緩和ケアの対象を腎不全患者にまで拡大する方針で検討を開始した。これまで緩和ケアは、がん・エイズ・末期心不全の患者を対象としてきたが、透析継続が困難になった腎不全患者においても激しい身体的・精神的苦痛が生じるケースが多く、医療現場から対応拡充を求める声が高まっていた。背景には、慢性透析患者が年々増加し、2023年には全国で約34.4万人に達し、年間3.8万人が死亡している現状がある。透析中止に際しては「人生で最も激しい痛み」と表現されるほどの苦痛を伴うこともありながら、現在の診療報酬制度では緩和ケアの加算対象から除外されており、患者は十分な医療的支援を受けられていない。こうした事態を受け、自民党の有志議員らは5月に提言を厚労省に提出。患者の尊厳を守る終末期医療の実現に向け、在宅医療体制の整備、医療用麻薬の使用拡大、関連学会によるガイドラインの整備、モデル地域の創設などを提案した。これを受け厚労省は、2025年の「骨太の方針」に腎臓病対策として盛り込み、次期診療報酬改定を視野に対応を進める見通しだ。日本透析医学会も2020年以降、緩和ケアの必要性を強調しており、透析の見合わせ段階だけでなく、意思決定前の段階でも継続的なケアの必要性を提唱。今後は腎不全患者への緩和ケア提供を制度的に後押しする議論が本格化する。 参考 1)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減(東京新聞) 2)腎不全患者に緩和ケア拡大 透析困難時の苦痛軽減 厚労省検討、骨太反映へ(産経新聞) 3)がん以外にも緩和ケアを 透析医療へ拡大訴え 学会や国で議論始まる(共同通信) 4)わが国の慢性透析療法の現況(日本透析医学会) 4.医療機関倒産が急増、報酬改善なければ「来年さらに加速」の懸念/帝国データ2025年に入って、わが国の医療機関が前例のないペースで倒産または廃業している。帝国データバンクの調査によれば、1~5月だけですでに倒産が30件、廃業・解散などが373件に達し、年間では合計1,000件に迫る勢いだ。これは2024年の過去最多記録(723件)を大幅に上回る見通しであり、医療提供体制の根幹が揺らぎ始めている。背景には、医療機器や光熱費などの物価上昇に対して、2024年度の診療報酬改定(+0.88%)が極めて抑制的だったことがある。また、医師の働き方改革により、大規模病院を中心に残業代負担が急増し、経営を圧迫している。さらに、病院の老朽化も深刻で、法定耐用年数(39年)を迎える施設が全国の約8割に及ぶ中、建設費の高騰により建て替えを断念せざるを得ない事例が増えている。中小診療所や歯科医院では、経営者の高齢化や後継者不在が廃業の主因となっている。とくに同族経営が多い歯科では、承継が進まず「法人の限界」が露呈している。M&Aのニーズは高まっているが、財務状態の良い法人に買い手が集中し、赤字法人は買い手がつかず「廃業すらできない」という二極化が進行中だ。このような事業者の「自然消滅」は、厚生労働省が推進する地域医療構想の想定を超える速さで進行しており、病床再編の制度設計と現場の実態が乖離している。現状では、老朽施設への再生支援策も不十分で、制度疲労が顕在化している。今後の政策には、(1)診療報酬や補助金の実態に即した見直し、(2)施設再建支援、(3)M&Aによる出口戦略の明確化、(4)中山間地や離島での公的医療体制の再構築が求められる。医療機関の消滅は、単なる経営問題に止まらず、地域住民の医療アクセス権や医療安全保障そのものに関わる緊急課題である。 参考 1)病院と診療所の倒産件数、5カ月で前年上半期に並ぶ 計18件 東京商工リサーチ(CB news) 2)入金基本料「大幅引き上げを」公私病連が決議 病院経営の厳しさ訴える(同) 3)医療機関で倒産急増の深刻事態!今年は約1,000事業者が“消滅”か(ダイヤモンドオンライン) 5.急性期から地域包括医療病棟へ移行加速、診療報酬改定の影響が顕在化/中医協厚生労働省は、6月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)・調査評価分科会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、地域包括医療病棟および回復期リハビリ病棟に関する実態調査結果の報告をもとに討議を行なった。2024年度診療報酬改定で新設された地域包括医療病棟入院料について、届け出病院の約4割が急性期一般入院料1からの転換で、制度設計通りの導入が進んだとされた。一方、届け出検討病院は全体の5%程度に止まり、とくに「毎日リハビリ提供体制の整備」が障壁との回答が多数を占めた。また、入院患者の診療実態にはばらつきがあり、輸血や手術を多数算定する病院と、誤嚥性肺炎など内科系疾患中心の病院とで医療内容に差がみられた。急性期病棟を手放した病院も多く、地域医療構造の再編に影響が及ぶ可能性もある。一方、回復期リハビリ病棟では、FIM(機能的自立度評価)利得がゼロまたはマイナスの患者が突出して多い施設が散見され、委員からは「異常」「詳細な分析を行うべき」との指摘が相次いだ。新設されたリハ・栄養・口腔連携体制加算の基準(ADL低下3%未満)に満たない施設が多いことも判明した。今後、診療報酬制度の実効性や適正な施設基準運用のあり方が問われる。 参考 1)令和7年度第3回入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省) 2)地域包括医療病棟、急性期一般1から移行が最多 全体の4割占める(CB news) 3)回復期リハ、FIM利得マイナスの患者が多くの病院に 「詳細な分析を」中医協・分科会(同) 6.「デジタル行革2025」決定、電子処方箋導入に新目標/政府政府は6月13日、「デジタル行財政改革取りまとめ2025」を決定し、医療・介護分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を中核に据えた改革方針を示した。背景には、急速な少子高齢化による医療資源の逼迫と、地域医療の持続可能性確保という喫緊の課題がある。今回の取りまとめでは、電子処方箋の導入促進とあわせて、医療データの二次利用(研究、医療資源の最適化など)に向けた制度整備が明記された。電子処方箋は2025年夏に新たな導入目標を設定し、病院・診療所での導入拡大を急ぐ。8月にはダミーコード問題への対応としてシステム改修が完了する予定であり、今後は診療報酬・補助金による導入促進も強化される。また、救急搬送時の医療情報共有を可能とする広島県発の連携PF(プラットフォーム)を全国展開する構想も示された。これにより、搬送の調整が迅速となり、災害時のEMIS連携やマイナンバーカードの活用による「マイナ救急」との統合も視野に入る。さらに、医療データの二次利用の円滑化に向けた法整備を進めるほか、AI活用のための透明性ある学習データの収集・連携環境の整備も進行中である。電子処方箋やリフィル処方の活用拡大も引き続き重要課題とされ、KPIの早期設定と次期診療報酬改定での反映が示唆された。これら一連の取り組みは、医療現場の業務効率化と質の高い医療の提供、さらには地域医療構想との接続にも大きな影響を及ぼす。医師にとっては、現場実装の速度と制度設計の動向に注視することが求められる。 参考 1)デジタル行財政改革 取りまとめ2025(デジタル行財政改革会議) 2)AIの学習データ、収集や連携促進 デジタル改革取りまとめ(日経新聞) 3)社会課題解決に医療データ活用 方針決定 法整備検討へ 政府(NHK) 4)電子処方箋、今夏に新たな目標設定 デジタル行革 取りまとめ、8月にシステム改修終了へ(PNB) 5)デジタル行財政改革会議(首相官邸)

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第86回 相関と回帰って?【統計のそこが知りたい!】

第86回 相関と回帰って?医療の現場で臨床試験の結果を解釈する上で、統計学の知識は不可欠です。とくに、「相関」と「回帰」という2つの基本的な統計手法は、臨床デ-タの分析において重要な役割を果たします。今回は、基本的な統計の道具である「相関」と「回帰」をはっきり区別して、理解しておきましょう。これらの概念を簡潔に解説し、その臨床現場での応用例についても解説します。■相関とは?相関は、「2つの変数間の関係の強さと方向を示す統計的尺度」です。この尺度は、一方の変数の変化が他方の変数の変化とどのように関連しているかを示します。主に相関は、変数間に直線的な関連性があるかどうかを調べるために用いられます。■相関係数相関関係の度合いは、相関係数によって数値化されます。この係数は、-1~+1までの範囲で表され、+1は完全な正の相関を意味し、-1は完全な負の相関を意味します。係数が0に近いほど、変数間の相関は弱いことを示します。正の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数も増加します。負の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数が減少します。無相関 2つの変数間には関連性はみられません。■相関の見方と限界相関は関係の存在を示すものであり、因果関係を意味するものではありません。「相関関係は因果関係を示さない」という原則は、デ-タ解析において非常に重要です。つまり、2つの変数が相関しているからといって、一方が他方を引き起こしているわけではない可能性があります。■相関の利用例医療分野では、さまざまな生理的指標や病状の間に相関を見つけ出すことで、潜在的な健康リスクを予測する手がかりを得ることができます。たとえば、体重と糖尿病のリスクとの間には正の相関があることが知られています。相関分析は、医療研究だけでなく、経済学、社会科学、工学など幅広い分野で応用されています。これにより、研究者は複雑なデ-タセットの中から意味のあるパタ-ンを抽出し、有効な介入策の策定に役立てることが可能です。このように、相関はデ-タの関連性を理解する上で基本的かつ強力なツ-ルですが、その解釈には慎重な分析が必要です。相関が高いからといって、それが直接的な原因と結び付くわけではなく、第三の変数や他の多くの要因によって影響を受けることがあります。■回帰とは?回帰分析は、「従属変数と1つまたは複数の独立変数の間の関係をモデル化して分析する統計的方法」です。回帰の主な目的は、独立変数の値に基づいて従属変数の値を予測することです。この方法は、医学を含むさまざまな分野で広く使用されており、結果を理解し予測するために重要です。■回帰の種類1)線形回帰これは最も単純な形式の回帰で、従属変数と独立変数の間に線形関係を仮定します。従属変数が連続的で正規分布している場合に使用されます。線形回帰の方程式はY=a+bXです。ここで、Yは従属変数、Xは独立変数、aは切片、bは傾きです。このモデルは、デ-タにみられる線形関係に基づいてYを予測します。2)ロジスティック回帰従属変数がカテゴリ-デ-タで、通常は二値です(例:病気の有無)。ロジスティック回帰は、独立変数に基づいて二値反応の確率を推定します。リスクモデリングや診断テストにおいて、臨床現場でとくに有用です。3)重回帰1つ以上の独立変数を含み、複数の予測因子を扱うことができる、より複雑なモデルを提供します。臨床研究において、結果は多くの要因によって影響を受けるため、非常に関連性が高いです。■臨床研究での応用回帰分析は、どの因子が結果の重要な予測因子であり、これらの異なる因子がどのように相互作用するかを理解するのに役立ちます。たとえば、臨床試験では、研究者は重回帰を使用して、さまざまな人口統計学的およびライフスタイルの変数が新薬の有効性にどのように影響するかを決定することがあります。■回帰が重要である理由1)予測と意思決定回帰モデルは予測のための強力なツ-ルです。変数がどのように相互接続されているかを理解することにより、医療専門家は患者ケアに関する情報に基づいた決定を下すことができます。2)リスク要因の特定疾患のリスク要因を特定し、定量化するには回帰分析が不可欠です。たとえば、ロジスティック回帰を使用して、喫煙が肺がんのリスクをどの程度増加させるかを研究者が見つけ出すことができます。3)治療効果の向上回帰を使用して臨床試験デ-タを分析することにより、研究者は治療プロトコルを最適化し、反応パタ-ンに基づいて患者のサブグル-プに治療を調整することができます。4)資源の配分予測因子を理解することで、医療設定での効率的な資源配分が可能になります。たとえば、高リスク患者をより集中的なケアやフォロ-アップのために優先するなどです。回帰分析は、このように医療研究の分野で欠かせないツ-ルです。これにより、臨床医と研究者はデ-タから意味のある結論を導き出すことができ、ケアの質と治療の効果を高めることが可能になります。■相関と回帰の臨床での応用臨床現場では、これらの統計手法を用いて、さまざまな健康指標間の関連を明らかにし、効果的な治療法を導き出します。たとえば、高血圧患者における薬剤の効果を評価する際に回帰分析が用いられることがあります。また、相関分析を通じて、特定の症状と生活習慣の間の関連を探ることができます。■統計の理解が臨床に役立つ理由統計手法を理解することは、臨床試験の結果を正確に解釈し、それを基に適切な医療判断を下すために不可欠です。相関や回帰分析によって、デ-タからより確かな情報を引き出し、患者さん一人一人に最適な治療を提供するための強力な道具となります。このように、相関と回帰は単なる統計的概念に止まらず、臨床医が日々直面する課題を解決するための重要なツ-ルです。統計学が提供する洞察を活用することで、より質の高い医療を実現することが可能となります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問12 重回帰分析とは?質問18 ロジスティック回帰分析とは?統計のそこが知りたい!第42回 相関分析とは?第46回 単相関係数とは?第48回 単回帰式の求め方は?

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コンサルテーション―その1【脂肪肝のミカタ】第4回

コンサルテーション―その1Q. プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション基準は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は本邦で2,000万人以上と対象が多い疾患のため、医療経済面からも全症例に詳細な検査を行うことは困難である。消化器専門家の立場からは、肝がんの高危険群である肝臓の線維化進行が疑われる症例の拾い上げをすることが重要である1-3)。プライマリ・ケアにおいては、肝臓の線維化進展の簡便な指標としてFibrosis-4(FIB-4) indexや血小板数による消化器科へのコンサルテーションが勧められている1-3)。FIB-4 index1.3未満はかかりつけ医、1.3以上で消化器科へのコンサルテーションとしているが、高齢者では線維化進行度に寄らず全体的にFIB-4 index高値を示す傾向がある。欧州、米国共にガイドラインで65歳以上は2.0以上をコンサルテーションとしており1,2)。高齢者の多い本邦においても、消化器科コンサルテーション基準を変えていく必要がある(図)。(図)プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

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行方不明の認知症患者が亡くなっている場所とは/警察庁

 認知症患者が一人歩き中に行方不明になると、事件・事故に巻き込まれるケースがあるため、家族などから行方不明者届(旧捜索願)が警察に出されることも多い。 警察庁は、6月5日に「令和6年における行方不明者届受理等の状況」を公表した。この中で、認知症による行方不明者数は令和6(2024)年で1万8,121人おり、平成27(2015)年の1万2,208人より緩やかに増加していることが判明した。認知症関連の行方不明者は約1週間以内に多くが見つかっている 警察に届出のあった行方不明者数全体は8万2,563人(前年比7,581人減少)であり、男性5万2,502人(63.6%)、女性3万61人(36.4%)と男性のほうが多かった。年代別では10~20代が多く、全体の約4割を占めていた。原因・動機では、疾病関係が2万3,663人で1番多く、家庭関係が1万2,466人、事業・仕事関係が6,722人と続いていた。 認知症に関連する行方不明者は1万8,121人(前年比918人減少)であり、過去10年でおおむね上昇していた。男性は1万12人(55.3%)で、女性は8,109人(44.7%)で男女比には大きな差はなかった。 また、警察への届出受理から所在確認までの期間は、受理当日が1万2,476人(死亡確認99人)、2~3日が4,156人(死亡確認175人)、4~7日が195人(死亡確認80人)と約1週間以内に見つかるケース多かった。認知症関連の行方不明者捜索にGPS発信機器やドローンが有効 今回のレポートでは、令和6(2024)年中に受理した認知症に関連する行方不明者のうち死亡者数は491人であり、その77.8%に当たる382人が行方不明となった場所から5km圏内で死亡が確認されていた。 今後、認知症に関連する行方不明者の届出を受理し、その立ち回り見込先などが判然としない場合は、「行方不明となった場所周辺での死亡事例が多いことを勘案し、迅速な発見活動を展開することが重要」とレポートでは示唆している。 また、死亡確認場所は、河川・河川敷(115人)、用水路・側溝(79人)、山林(71人)で全体の54.0%を占めていた。これらの場所は、人的捜索が困難な場合も多く、発見の遅延が行方不明者の生命に大きく影響する。そのため行方不明者の早期発見・保護のためには、「GPS発信機器などによる位置情報の早期把握や、無人航空機(ドローン)による捜索が効果的である」と結んでいる。

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