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双極症患者の自殺予防に有効な薬物治療は

 双極症患者は、一般集団よりも自殺率および死亡率が高いことが知られている。韓国・Korea University College of MedicineのSol A. Park氏らは、同国の双極症患者におけるリチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬の長期投与が自殺企図および自殺に及ぼす影響を検討した。Journal of Affective Disorders誌2026年1月1日号の報告。 研究チームは、2002〜20年に双極症と診断され、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、非定型抗精神病薬(リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ziprasidone)を2回以上処方された韓国人患者4万4,694例(平均年齢31.09±9.81歳、女性58.07%)の医療保険請求データを用いて分析を行った。各薬剤の投与期間中の自殺企図および自殺リスクの評価にはCox比例回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・リチウム単独投与(ハザード比[HR]:0.608、95%信頼区間[CI]:0.434〜0.852)およびバルプロ酸単独投与(HR:0.740、95%CI:0.577〜0.949)における自殺リスクは、リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬を併用しない場合と比較し、それぞれ39.2%および26.0%の減少が認められた。・個別分析では、リチウムと非定型抗精神病薬を併用した場合の自殺リスクは0.154(95%CI:0.055〜0.428)であった。・リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬を併用した場合のHRは0.235(95%CI:0.056〜0.980)であった。・バルプロ酸単独投与のHRは0.251(95%CI:0.090〜0.698)、バルプロ酸と非定型抗精神病薬を併用した場合のHRは0.302(95%CI:0.152〜0.599)であった。 著者らは「リチウム単独またはバルプロ酸単独投与による治療中に、双極症患者の自殺リスクは減少した。自殺リスクの高い双極症患者において、非定型抗精神病薬はリチウムまたはバルプロ酸と併用した場合の自殺リスクの減少と関連していた」としている。

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2025年度医療安全管理者養成研修のご案内/医療安全学会

 日本医療安全学会(理事長:大磯 義一郎氏)は、2025年度の医療安全管理者養成研修アドバンスドコースを開催する。 この研修は、現場で「使える」医療安全の知識を体系的に修得することを目的とし、実践的な事例や演習を通じ、知識を「行動」へとつなげる応用力とリーダーシップを培い、現場の医療安全をリードできる人材としての成長を目指す。講師は、医療や法学、医療安全のエキスパートが担当する。 主催学会の大磯氏は、「医療安全管理者としての基本的な理解に加え、より高いレベルでの医療安全管理への理解と実践の機会を提供することを目的に、本アドバンスドコースを企画した。本コースが、日本医療安全学会の医療安全管理者養成研修修了者に限らず、医療安全や質改善に関心を持つ多くの方にとって、有意義な学びと交流の場となることを願っている。現場の課題解決に直結する「次の一歩」を共に考える場として、ぜひご参加していただきたい」とコメントしている。 コースの概要は以下のとおり。●対象者:医師・看護師・薬剤師・医療安全管理者・医療従事者全般 ーこんな方におすすめ! ・医療事故の再発防止策を学びたい方 ・インシデント・アクシデントのリスク管理を強化したい方 ・医療安全の最新ガイドラインを学びたい方 ・職場の安全文化を向上させたい方 ・医療安全に関わるすべての医療従事者 ※本コースは、医療安全や質の改善に興味がある医療者であれば、どなたでも受講できます。  本コースの受講のみでは厚生労働省が定める医療安全管理者の資格要件を満たしません。●開講日程: Day1 11月23日(日) 10:00~17:00 医療安全のDX最前線とそのリスクマネジメント Day2 12月14日(日) 10:00~17:00 実践編-現場力を高める技術と手法 Day3 12月21日(日) 10:00~17:00 組織文化とチームワークで支える医療安全●開催形式:Live配信(Zoom)●募集期間:各日程1週間前まで●募集定員:100名●参加費:1回のみ受講7,000円/2回受講14,000円/全3回セット受講18,000円 2024年度医療安全管理者養成研修参加者割引 1回のみ受講5,000円/2回受講10,000円/全3回セット受講12,000円 *本会はインボイス未登録となります。 *免税事業者となりますので消費税請求はありません。 *受講料は、お支払いの後、いかなる理由があっても返金できないのでご注意ください。●医療安全管理者養成研修アドバンスドコースの概要はこちら

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うつ病と就労:パーソナルリカバリーを目指した治療とは

 1992年、世界精神保健連盟はメンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として、10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定め、その後、世界保健機関(WHO)も協賛し、正式な国際デー(国際記念日)となった。 2025年9月、世界メンタルヘルスデーに合わせてルンドベック・ジャパンによるプレスセミナーが行われ、慶應義塾大学の菊地 俊暁氏と株式会社ベータトリップの林 晋吾氏が医師の立場、当事者の立場からそれぞれ講演を行った。うつ病の治療とリカバリー うつ病におけるリカバリーの概念は症状が軽減し、医師の視点で改善と評価できる状態である“臨床的リカバリー”と、患者個人の指標・目標に対して本人が「良くなった」と実感できる状態である“パーソナルリカバリー”の2種類があり、両者は必ずしも一致しない。医師の視点から見て症状が改善しているか、という点だけではなく患者自身が個人の価値観や目標に対して回復しているかという点も重要である。 また、パーソナルリカバリーに関連する社会機能に関してはすぐに戻らない例が多く、日常生活や社会生活を送るための社会機能は治療開始から半年後で回復している患者は約3割、2年経っても約4割と社会機能が十分に回復していないことが多い。また認知機能の障害が見られることがあり、とくに記憶力・集中力・判断力・処理速度などが低下しやすく、仕事のパフォーマンス低下の要因となっている。うつ病におけるリカバリーの評価:VGOAL-J study では、どのような治療が社会機能を含めたパーソナルリカバリーに有効であるのか。抗うつ薬による機能的/パーソナルリカバリーの効果について評価した試験がVGOAL-J studyである。 試験の概要は以下のとおり。対象:20~65歳で有給の就労をしており、DSM-5の基準に従って診断された大うつエピソードを経験している人。主な指標:抗うつ薬(ボルチオキセチン)の投与を開始した対象者において以下の2つの主要な指標を測定した。GAS-D(Goal Attainment Scale for Depression):12週間にわたる目標を達成した割合の変化や、12週時点での目標を達成した割合を評価。患者と医療従事者が協力して患者ごとに治療目標を設定し、目標に向けて進捗経過を測定する。WPAI(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire):24週間にわたる労働生産性の変化を評価。 結果はベースラインと比較して、GAS-Dスコアは8週、12週、24週で有意に増加していた。また、設定した目標の達成率は24週時点で6割以上であった。 WPAIはベースラインと比較して4週以降から有意な改善が観察され、経時的にパフォーマンスが戻ってきていることが示された。 有害事象は121例中67例で発現したが、軽度なものが多く、試験中止に至った有害事象および死亡例は報告されていない。 この結果から、抗うつ薬を継続して投与する、すなわち治療継続の有効性と重要性が示唆された。一方で、目標未達成者への追加支援は今後の課題であるとした。うつ病と働くこと:復職はゴールではない 林氏は2010年にパニック障害を発症し、その後うつ病を併発、休職・復職・転職を繰り返し、約7年で寛解に至った。現在は患者家族向けコミュニティ「エンカレッジ」を運営しており、経験者の立場からうつ病と就労について講演を行った。 復職しても以前と同じように働けるわけではなく、林氏は新しい困難と向き合う日々が続いた。出勤はできても午後になると集中力が途切れ、簡単な資料をまとめるにも以前の数倍の時間がかかる、さらに終業後は疲れ果てて家で何もできず、生活の他の部分が回らなくなってしまった。この状態を「職場の人からは普通に働いているように見えていたかもしれません。でも実際は、必死に取り繕っていました。」と林氏は語った。 働きながら感じた課題に対して、ひとつひとつ工夫をしながら対策していく中で気づいたのは「小さな目標設定」の重要性であった。 例えば、毎朝8時に起きる、予定がなくても身だしなみを整える、など日常生活に根ざした小目標を設定する。最初は「ちっぽけ」と感じても、達成感を積み重ねることで回復や生産性改善の実感に繋がっていった。家族からの「先月より安定している」という声が大きな励みとなった。支援を繋ぐために うつ病と共に生きることは、本人だけでなく家族や職場にも影響を与えるため、医療、職場、そして家族が“共通の物差し”を持つことが大切である。 林氏は、GAS-DやWPAIのような同じ評価軸の物差しを共有することで、周囲が本人の状況を理解しやすくなり、より適切な支援につながると強調した。 「復職はゴールではなくスタートです。小さな目標を積み重ねることで、回復と働き続ける力が生まれます。医療・職場・家族が一緒になって支えることで、うつ病と共に生きる道は開けていくのだと思います」と林氏は講演を締めくくった。ルンドベック・ジャパンのうつ病に対する取り組みと社会啓発 ルンドベック・ジャパンはデンマークに本社を置くグローバル製薬企業であり、精神神経領域に特化し、70年以上の歴史を持つ。「脳の健康を推し進め、人々の人生を変える」をパーパスに掲げている。 2013年から世界メンタルヘルスデーに合わせて各国で啓発活動を展開しており、日本では毎年、患者団体・医療関係者・行政・NGOなどと連携した啓発活動を実施している。 世界メンタルヘルスデーに合わせたセミナーやイベントを継続的に実施しており、一般向けセミナーやシンボルカラーによるライトアップなどを予定している。

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多発性骨髄腫のグローバル試験の日本人サブセット結果/日本血液学会

 高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)においてダラツムマブと経過観察を比較したAQUILA試験の日本人集団解析が発表された。 2025年1月に発表された全体結果では、ダラツムマブ単剤療法は積極的経過観察よりも、SMMの進行または死亡までの期間(PFS)を有意に延長し、全生存期間も延長を示している。 日本人患者は28例(DARA群15例、観察群13例)であった。日本人の5年PFS率はDARA群46.3%、観察群7.7%であった(ハザード比[HR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.10〜0.65)。全奏効率(ORR)はDARA群86.7%、観察群7.7%という結果を示した(相対リスク比:11.27、95%CI:1.70〜74.84)。SLiM-CRAB進行までの期間はDARA群36.2ヵ月、観察群16.4ヵ月であった(HR:0.39、95%CI:0.17〜0.90)。これらは全体集団と一貫した結果であった。日本人におけるGrade3/4の治療関連有害事象(TEAE)発現は33.3%、重篤なTEAEは46.7%に観察されたが、投与中止に至ったAE、死亡に至ったAEはなかった。 未治療の移植非適応多発性骨髄腫(MM)に対するD-VRdとVRdを比較したCEPHEUS試験の日本人集団解析について発表された。全体集団ではVRd群に比べD-VRd群でより深く持続的な奏効ならびにPFSの改善が認められていた。 日本人患者は22例(D-VRd群9例、VRd群13例)、患者背景は全体集団と全体的に同様であった。主要評価項目であるMRD陰性率はD-VRd群77.8%、VRd群46.2%であった(オッズ比[OR]:4.08、95%CI:0.60〜27.65)。12ヵ月以上の持続的MRD陰性率はD-VRd群55.6%、VRd群38.5%であった(OR:2.00、95%CI:0.36〜11.23)。これらは全体集団と一貫した結果であった。Grade3/4のTEAEはD-VRd群100%、VRd群84.6%で、新たな安全性シグナルは特定されなかった。

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ESMO2025スタート!注目演題を集めた特設サイトオープン

 10月17~21日(現地時間)、欧州最大の腫瘍学会であるESMO2025(欧州臨床腫瘍学会年次総会)が、ドイツ・ベルリンとオンラインのハイブリッド形式で開催される。 ケアネットがするオンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイトDoctors'Picks(医師会員限定)では、ESMO2025のスタートに合わせて、数千を超す演題の中から、複数のエキスパートが専門分野の注目演題をピックアップした特設サイトをオープンした。 「ESMO2025特設サイト」では、「肺がん」「消化器がん」「乳がん」「泌尿器がん」のカテゴリに分け、ESMO視聴サイトの該当演題へのリンクを、エキスパートのコメントとともに紹介している。 エキスパートが選定した、各がん種別の注目演題の一部は下記のとおり。このほかにも多くのユーザーが注目すべき演題を紹介している。各がん種のOral演題を一覧にした「演題スケジュール」も作成したので視聴の参考にしていただきたい。【肺がん(1)】水柿 秀紀氏(北海道がんセンター)によるまとめ【肺がん(2)】和久田 一茂氏(静岡がんセンター)によるまとめ【消化器がん(1)】山本 駿氏(国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科)によるまとめ【消化器がん(2)】大内 康太氏(東北大学 臨床腫瘍学分野)によるまとめ【消化器がん(3)】稲垣 千晶氏(近畿大学 腫瘍内科)によるまとめ【乳がん】能澤 一樹氏(名古屋市立大学 臨床研究戦略部)によるまとめ【泌尿器がん】竹村 弘司氏(虎の門病院)によるまとめ――――――――――Doctors’Picks ESMO2025 特設サイト―――――――――― 学会終了後は、視聴レポートやまとめ記事なども続々アップしていく予定だ。

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複数回のPSA検査、基準値超過となる割合は?/BMJ

 イングランドのプライマリケアにおける前立腺がん診断前の前立腺特異抗原(PSA)検査の受検状況は、患者によって大きく異なることが明らかにされた。複数回受検した患者の中には推奨より頻回であった患者も多く、過剰検査の懸念があり、また記録上症状なしの患者やPSA値が低い患者にもPSA再検査が行われていたという。英国・オックスフォード大学のKiana K. Collins氏らが、イングランドのプライマリケアにおけるPSA検査の利用実態を明らかにする目的で実施したオープンコホート研究の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「過剰検査のリスクを低減しながら患者への最大限の利益を確保するため、エビデンスに基づく適切なPSA再検査間隔を決定するための研究が喫緊に必要である」とまとめている。BMJ誌2025年10月8日号掲載の報告。プライマリケアでPSA検査を受けている約1,023万6,000例のデータを解析 研究グループは、Clinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumから得られた電子カルテに日常的に収集されているデータを、がん登録(National Cancer Registration and Analysis Service:NCRAS)、病院エピソード統計(Hospital Episodes Statistics:HES)、および国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の死亡登録データをリンクさせ、2000~18年に一般診療所1,442施設に登録され、少なくとも1年の追跡期間があり、研究開始前に前立腺がんの診断を受けておらず、研究期間中に18歳超であった男性患者1,023万5,805例について解析した。 主要評価項目は、年齢標準化PSA検査率を、集団ベースの経時的傾向と年間変化率を用いて解析した。混合効果負の二項回帰モデルにより個々の患者のPSA検査率比を、また、線形混合効果モデルにより個々の患者のPSA再検査間隔の長さに関連する因子を検討した。すべての結果は、地域、貧困状況、年齢、民族、前立腺がんの家族歴、症状の有無およびPSA値別に解析した。複数回PSA検査を受けた患者のうち、70%以上は基準値超過が一度もなし 152万1,116例が少なくとも1回PSA検査を受け、全体で合計383万5,440回のPSA検査が行われた。これらの患者のうち48.4%(73万5,750例)は複数回の検査を受け、72.8%(53万5,990例)は年齢別紹介基準値を超えるPSA値を示すことはなかった。 再検査間隔の中央値は12.6ヵ月(四分位範囲:6.2~27.5)であった。 検査率は、地域、貧困状況、民族、家族歴、年齢、PSA値、症状によって異なっていた。検査を受けた患者では、年齢が高い、白人以外の民族、前立腺がんの家族歴あり、または過去にPSA値上昇があった場合に再検査間隔が短くなった。 地域や貧困状況によって検査率に大きなばらつきがあるにもかかわらず、これらのグループ間で再検査間隔の長さは同程度であった。

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2024~25コロナワクチンの重症化予防効果/NEJM

 2024~25年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種は、重度臨床アウトカムのリスク低下と関連していたことが、米国・Veterans Affairs(VA)St. Louis Health Care SystemのMiao Cai氏らによる退役軍人を対象としたコホート研究の結果で示された。SARS-CoV-2感染症の臨床的重症度が低下し、COVID-19ワクチンの一般接種率は毎年減少傾向にあり、臨床的に重要なアウトカムに対するワクチンの有効性に関する新たなエビデンスが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年10月8日号掲載の報告。COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンの同日接種vs.インフルエンザワクチン単独接種を比較 研究グループは、退役軍人省の電子医療データベースを用いて無作為化比較試験を模倣した観察研究を実施した。 対象は、2024年9月3日~12月31日にVA医療機関を受診した18歳以上の退役軍人で、2024~25年COVID-19ワクチンとインフルエンザワクチンを同日に接種した人(16万4,132例)と、インフルエンザワクチンのみを接種した人(13万1,839例)。被験者を最長180日間またはアウトカム発生のいずれか早いほうまで追跡した。 主要アウトカムは、COVID-19関連救急外来受診、COVID-19関連入院、およびCOVID-19関連死の複合とした。 逆確率加重法により介入群と対照群のベースラインの差を補正し、6ヵ月時点におけるアウトカムのリスク(1万人当たり)をロジットリンクと二項分布を用いた重み付け一般化推定方程式を用いて推定し、ワクチンの有効性(1-リスク比)を算出した。COVID-19ワクチン接種で、COVID-19関連救急外来受診・入院・死亡のリスクが減少 6ヵ月追跡時点で、COVID-19ワクチンの推定有効率(接種群vs.非接種群)はCOVID-19関連救急外来受診に関して29.3%(95%信頼区間[CI]:19.1~39.2、1万人当たりのリスク差:18.3、95%CI:10.8~27.6)、COVID-19関連入院に関して39.2%(21.6~54.5、7.5、3.4~13.0)、COVID-19関連死に関して64.0%(23.0~85.8、2.2、0.5~6.9)であった。 また、複合アウトカムに対するCOVID-19ワクチンの推定有効率は28.3%(95%CI:18.2~38.2、1万人当たりのリスク差:18.2、95%CI:10.7~27.5)であった。 COVID-19ワクチンによるアウトカムのリスク低下は、年齢(65歳未満、65~75歳、75歳以上)、主要な併存疾患の有無、および免疫状態の事前に規定されたサブグループのすべてにおいて一貫して認められた。

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DANFLU-2試験:高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果(解説:小金丸博氏)

 DANFLU-2試験は、高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証した大規模臨床試験である。デンマークの全国行政健康登録を用いた実践的・非盲検・無作為化比較試験で、2022~23年から3シーズンにかけて実施された。試験には65歳以上の高齢者33万2,438人(平均年齢73.7±5.8歳)が登録され、高用量ワクチン(1株当たり抗原60μg)接種群と標準用量ワクチン(1株当たり抗原15μg)接種群に割り付けられた。その結果、高用量群では主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を経験した人がより少なく、相対リスクは5.9%減少したが、統計的に有意ではなかった(p=0.14)。副次評価項目として、高用量群においてインフルエンザによる入院の減少(相対リスク減少率:43.6%)、心肺疾患による入院の減少(同:5.7%)、あらゆる原因による入院の減少(同:2.1%)を示した。 近年、高齢者に対するインフルエンザ予防として「高用量ワクチン」が注目されてきた。これまでの標準用量との比較試験で、抗体応答の向上のみならず、検査確定インフルエンザの発症および入院を一定程度抑える効果が報告されてきた。DANFLU-2試験では、標準用量と比較して主要評価項目に設定した「インフルエンザあるいは肺炎による入院」を有意に低下させなかった。これは従来の試験で示されてきた高用量ワクチンの有利性と一見矛盾する結果であったが、その理由として、主要評価項目の選択が影響した可能性が考えられる。本試験ではアウトカムに「肺炎入院」を含めた複合エンドポイントを採用したため、非インフルエンザ性の肺炎(誤嚥性や細菌性肺炎)が多数を占めれば、インフルエンザワクチンの効果が相対的に希釈され得る。加えて実地条件下では、季節間のウイルス活動変動、被験者の背景免疫(過去のワクチン接種歴など)が影響した可能性がある。 同時にスペインから報告されたGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、検査で確認されたインフルエンザによる入院、およびあらゆる原因による入院において有意な減少が示された。これらのデータはこれまでの報告と一致して、重篤な転帰に対する高用量ワクチンの臨床的有益性を標準用量ワクチンよりも支持している。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される人では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。

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ノーベル賞をとる秘訣【Dr. 中島の 新・徒然草】(602)

六百二の段 ノーベル賞をとる秘訣とうとう関西万博が終わってしまいましたね。私はついぞ行かずじまいでした。後で考えてみると、職場から電車1本で行けたのに惜しいことをしたものです。風に吹かれながら夜の海の上の大屋根リングを歩いたらどんなに気持ち良かっただろう、と思わずにはいられません。せめてYouTubeの映像を見て行った気になることにしましょう。さて、2025年の秋、日本から2人ものノーベル賞受賞者が誕生しました。これで日本出身かつ日本国籍の受賞者は通算27人となります。国別では、アメリカ(410人)、イギリス(133人)、ドイツ(85人)、フランス(68人)、スウェーデン(34人)に次ぐ第6位!「ノーベル賞大国」と言っても過言ではありません。ちなみに、愛媛県出身の中村 修二氏(青色LED)は米国籍のためアメリカに、長崎生まれのカズオ・イシグロ氏も英国籍のためイギリスにカウントしています。ノーベル賞で思い出すのは1990年代前半のこと。放射線科にいた私はMRI装置を操作しながら、当時ノーベル賞を受賞したばかりのPCRについて研修医に質問しました。 中島 「PCRってどんな原理なわけ?」 研修医 「温度の上げ下げだけで微量のDNAを大量コピーできる技術ですよ」 中島 「もう少し詳しく教えてくれるかな」 研修医 「ざっくり言えば、温度を上げて2本鎖DNAを1本鎖に分け、温度を下げてそれぞれから再び2本鎖を作る。それを繰り返して倍々に増やすんです」 中島 「なるほど。2本が4本に、4本が8本に……という具合か」 研修医 「ええ。ポイントは、高温でも失活しない酵素を使ったことです。イエローストーン国立公園の高温環境に棲む微生物から採ってきたそうですよ」 中島 「あそこは熱湯の中でも生きている奴がいるらしいからな」 研修医 「この技術のおかげでDNA研究が一気に進みましたから。本当にすごすぎます」 一口に研修医といっても前職はいろいろなので、PCRのことをよく知っていても不思議ではありません。でも、彼が詳しいのはPCRだけでなく画像診断機器も!ちょうどわれわれが扱っていたのがMRIだったこともあり、話題はCTへ移りました。 研修医 「1970年代にノーベル賞をとったCTも、実はうまい裏技が使われているんです」 中島 「へえー」 研修医 「CTの原理はご存じですよね」 中島 「被写体にさまざまな角度からX線を照射し、透過量から内部構造を逆算するってやつでしょ」 研修医 「そのとおり。でも当時のコンピュータには、そんな複雑な計算をするパワーがなかったんです」 中島 「じゃあ、どうしたわけ?」 研修医 「発明者のハウンズフィールドは、正確な計算を捨てて近似解を使ったんです」 そう言って彼は手近な紙に図を描いてみせてくれました。中央の物体に、いろいろな方向から直線を引いたものです。後で調べてみると、それは逆投影法と呼ばれる手法でした。 研修医 「こうすると計算量が一気に減るんですよ」 中島 「なるほどねえ」 研修医 「その後のCTの活躍は言うまでもありません」 中島 「確かに」 当時の脳外科医たちが「神様からの贈り物だ!」と言ったとか。その気持ちはよくわかります。暗闇を手探りで歩いていたところに、突然懐中電灯を渡されたようなもの。世界の見え方が一変したことでしょう。 研修医 「僕が本当に言いたいのはここからなんです」 中島 「は?」 研修医 「PCRにしてもCTにしても、新発見そのものだけでなく、その後の社会へのインパクトがすごかったということです」 まだ話の先が見えん。 研修医 「だから中島先生。もしノーベル賞を狙うなら、新規性だけでなく、世の中への影響も必要なんですよ」 なるほど、なるほど。 中島 「ありがとう。今の話、すごくタメになったよ」 研修医 「先生に喜んでもらえて良かったです。ぜひ頑張ってください」 中島 「よっしゃあああ!」 そのときの私は感動したものの、その後に何か画期的な成果を上げたわけではありません。正確に言えば、彼のアドバイスが役に立たなかったのではなく、私が役立てることができなかったということです、すみません。それでも、こうして何十年後かにケアネットを通じて皆さんに伝えているわけですから。誰かが彼の言葉を役に立ててくれたら、もうそれで十分!研究の新規性と、その社会的インパクト。それこそが、ノーベル賞をとるための秘訣ですね。読者の皆さま、ぜひ、あの研修医のアドバイスをお役立てください。最後に1句 万博が 終われば次は ノーベル賞

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ドキドキして眠れません【漢方カンファレンス2】第7回

ドキドキして眠れません以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代女性主訴不眠既往40歳、50歳に胃潰瘍生活歴パート病歴数年前に不審者が自宅に侵入した被害にあった後から不眠になった。寝つきが悪く、小さな物音でも目が覚めてしまい、中途覚醒2〜3回。また日中も動悸がある。近医を受診して心電図異常はなく、ゾルピデム5mgを処方されたが効果が不十分、できたら睡眠薬は飲みたくないと受診。現症身長158cm、体重45.1kg。体温35.8℃、血圧110/60mmHg、脈拍90回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方した。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。中途覚醒はまだある。2ヵ月後動悸、悪夢がなくなった。眠れるようになり、睡眠薬を飲まない日もある。4ヵ月後睡眠良好。睡眠薬は不要になった。1年後漢方薬も飲まずに眠れているとのことで終診。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは感じません。 睡眠不足がつらくて、きついですが横になりたくはありません。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房や暖房は苦手ですか? 湯船には浸からずほとんどシャワーです。冷房は苦手ではありません。暖房はすぐに顔が赤くなるので嫌いです。 入浴するとのぼせませんか? はい、すぐに顔がのぼせるので湯船に浸かることはあまりないです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどはあまり渇きません。 冷たい物、温かい物どちらも好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5Lくらいです。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありますか? 汗はよくかきます。 尿は8〜10回/日です。 夜はトイレに行きません。 便は毎日出ます。下痢もしません。 <睡眠> 何時に寝て、何時に起きますか? 寝つきはよいですか? 途中で目が覚めますか? 悪夢をみませんか? 日中の眠気はありませんか? 毎晩23時に就寝して、6時に起きます。 1時間以上寝つけません。 2〜3度目が覚めてしまいます。 毎晩のように悪夢をみます。追いかけられるような夢です。 日中は仕事で気を張っていて眠くありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 帰宅後にぐったりしませんか? 朝、調子が悪いですか? きつい感じはありますが、休んでも楽にはなりません。 帰宅後もとくにぐったりする感じはありません。 帰宅しても気が休まらず、落ち着かない感じです。 とくに朝調子が悪いということはありません。 足はむくみませんか? のどのつまりはありませんか? みぞおちがつかえたり、お腹が膨れる感じはありませんか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥はありませんか? 動悸はありませんか? 足はむくみません。 のどはつまりません。 つかえやお腹の張る感じはありません。 抜け毛や皮膚の乾燥はありません。 動悸をよく感じます。 イライラはありませんか? 落ち込むことはありませんか? 不安を感じることが多いですか? 驚きやすくありませんか? イライラしません。 落ち込みはありません。 不安はそこまで強くないと思っています…。 小さな物音にもすぐにビクッとなります。 ほかに困っている症状はありますか? 可能であれば睡眠薬をやめたいです。 【診察】顔色は普通。脈診ではやや浮・弱の脈、脈拍も90回/分程度とやや多い(数脈[さくみゃく])。また、舌は暗赤色、湿潤した白苔が少量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋の緊張あり、腹部大動脈の拍動あり(心下悸[しんかき]、臍上悸[せいじょうき]、臍下悸[せいかき])、両側臍傍の圧痛なし。四肢の触診で冷感なし。カンファレンス 今回は、不眠の症例です。 不眠を訴える患者さんは多いですね。うつ病や不安障害のような精神疾患のほか、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの器質的疾患は見逃さないようにしています。 そうですね。若年世代ではゲームやスマホを原因とする不適切な睡眠衛生が問題となるケースも増えていますね。それでは、漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からいきましょう。 暑がりで入浴はシャワー、冷房は苦手でない、自覚的・他覚的に冷えなしと陽証です。 陽証だね。六病位はどうだろう? 陽証で太陽病の悪寒・発熱なく、陽明病を示唆する熱感、腹満、便秘もないから今回も少陽病ですね。 少陽病だね。次は漢方診療のポイント(2)の虚実の判断にいこう。 脈は弱、腹力は軟弱とあるので虚証です。 今回の症例は陽証・虚証ですね。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 今回の症例は不審者に自宅侵入されたことをきっかけとして不眠が出現していて、気の異常と考えられますね。 「気のせいです」っていわないところが漢方治療のいいところだね。お気の毒な症例だけれども…。 気が動転してしまっている感じですね。 そう! 気が動転するように、逆走することを気逆(きぎゃく)とよぶよ(気逆については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 気逆は更年期障害、パニック発作とイメージするとわかりやすいですね。そのような症状に悩む患者さんが目に浮かびます。 本症例の気逆の症状を挙げてみてください。 顔色は普通なので顔面紅潮はありません。 ただし、「暖房は顔がすぐに赤くなるから嫌い」とあるのは気逆だね。気逆の患者さんではのぼせるから入浴や暖房が嫌という人は多いよね。 動悸や驚きやすいことも気逆ですね。 気逆の代表的な症状ですね。睡眠の特徴はどうですか? 入眠困難、中途覚醒でしょうか? 入眠困難、中途覚醒は気逆の特徴とはいえません。睡眠に関して気逆で必ず聞くことは悪夢の有無です。不眠の患者さんには必ず問診しましょう。 動悸や悪夢がある場合は竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)という気を鎮める作用がある生薬が含まれる漢方薬が適応になるよ。竜骨は哺乳動物の化石、牡蛎は貝のカキの殻で、どちらも炭酸カルシウムが主成分だね。ほかの生薬より重量があるため、重鎮安神薬(じゅうちんあんじんやく)といわれます。 悪夢の有無はあまり気にしたことはありませんでした。 悪夢に加えて、気逆の他覚所見として、腹診での腹部大動脈の拍動があります。今回の症例でも、心下悸、臍上悸、臍下悸と3ヵ所で拍動が触れています。最も上部の心窩部で触れる拍動が心下悸で、この場所が触れる頻度が少ないことから病的意義が大きいとされます。腹動が触れる患者さんには、「悪夢をみませんか?」、「驚きやすいですか?」と診察中に質問するとよいですよ。 具体的には「携帯電話がなるとビクッとしませんか?」、「後ろから呼びかけられると驚きませんか?」などと聞くとよいね。 おぉ。問診のコツですね。 気逆以外に気血水の異常はありますか? 全身倦怠感は気虚ですね。眠れずにきつそうです。 気逆には、気虚が合併しやすいからね。 いつもドキドキしていると疲れてしまいますね。のどのつまり、腹満感、不安感などはなく気鬱は目立ちません。 そうですね。鬱々しているというよりビクビクした感じですね。気鬱の要素は少ないようです。 水毒はありません。 血の異常では血虚はなく、舌の暗赤色、舌下静脈の怒張が瘀血です。 そうだね。本症例をまとめよう。 解答・解説【解答】本症例は、陽証・虚証・気逆に対して用いる桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で治療をしました。【解説】竜骨と牡蛎が含まれる漢方薬には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(牡蛎のみ)、桂枝加竜骨牡蛎湯があります。このうち、桂枝加竜骨牡蛎湯が最も虚証の漢方薬で、太陽病の桂枝湯(けいしとう)に竜骨と牡蛎が加わった構成です。古典にはいわゆる性的神経衰弱で、妙に性欲が亢進して夢精、夢交といった病態に用いると書かれています。添付文書では神経質、小児夜尿症、神経衰弱、遺精などのほか、陰萎にも適応になり、性的な愁訴が目立つ場合に用います。「高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2症例」という報告もあります1)。しかし、実際の臨床では性的愁訴ではなく、虚弱で神経質な人でドキドキ、ビクビクと不安と緊張が強く、眠れない、動悸がするなどの場合に用いることが多いです。柴胡加竜骨牡蛎湯は少陽病・実証で、腹力や胸脇苦満が強く、過度のストレスによりイライラ、過緊張、抑うつが目立つ場合に用います。柴胡桂枝乾姜湯は少陽病・虚証でより華奢なタイプで、ストレスを溜め込んで疲弊している状態に用います。職場ではがんばれるけれども、家に帰ったらぐったり疲れてしまうような疲労感が特徴です。気逆はドキドキしやすいといった患者さんのもともとの性格に加え、何かショッキングなことが起こった後に生じることが多くあります。実際に、東日本大震災後のPTSD様症状に柴胡桂枝乾姜湯が有効であったRCTがあります2)。当科でも福岡西方沖地震後のめまい感に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった症例を経験しました。今回のポイント「気逆」の解説気の異常は気虚(ききょ)、気鬱(きうつ)、気逆の3つに分類します。気の異常に共通して、変動性、発作的、朝調子が悪い、憂うつ感を伴うなどの特徴があります。気逆は気の循環の失調で、主に上から下へ巡る気が、逆走することによって起こります。更年期障害でみられるホットフラッシュが代表で、顔にのぼせが出現する、さらに上半身は熱いが下肢が冷える上熱下寒(じょうねつげかん)といわれる冷えのぼせがみられます。また、パニック発作のような動悸も気逆の症状です。気逆の治療は、桂皮(けいひ)、黄連(おうれん)といったのぼせを改善させる生薬や竜骨、牡蛎といった気を鎮める作用のある生薬で治療します。気が胸腹部を支点として上方へ発作性に舞い上がるという意味から、のぼせや顔面紅潮以外にも頭痛、胸満感、発作性咳嗽、嘔吐(吐き気は少ない)などの症状も気逆と考えます。麦門冬湯(ばくもんどうとう)は発作性の咳嗽に用いられますが、古典には「大逆上気(たいぎゃくじょうき)」と記載があります。また、気逆の精神症状として、驚きやすい、悪夢をみる、焦燥感があります。また気逆には程度の差はあれ、全身倦怠感などの気虚の状態を伴うことが多いです。今回の鑑別処方不眠を大きく3つ「ドキドキして不眠」、「疲労困憊で不眠」、「気が昂って不眠」に分けて考えます。「ドキドキして不眠」は動悸や悪夢を伴う気逆として竜骨や牡蛎が含まれる漢方薬で治療することを解説しました。「疲労困憊で不眠」では、第6回で解説したように、「眠るにも体力が必要」として、全身倦怠感や日中の眠気など気虚のみが目立つ場合は補中益気湯の適応です。気虚に加えて、ストレスから精神的な症状も目立つ場合には酸棗仁湯(さんそうにんとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)を用います。酸棗仁湯や加味帰脾湯は気を補う作用以外にも酸棗仁(さんそうにん)などの精神安定作用がある生薬が含まれます。酸棗仁湯は疲れ過ぎてかえって眠れない、加味帰脾湯はあれこれとつまらないことが気になる、思い悩んで憂鬱、悲哀感がある場合に用います。酸棗仁湯が不眠に対して有効であったというRCT論文から12本を抽出したシステマティックレビュー3)や、担がん患者において加味帰脾湯を投与した群で、Insomnia Severity Indexが有意に改善したというRCTの報告4)があります。「気が昂ぶって不眠」では交感神経の過緊張状態が持続して不眠をきたしている場合で、イライラや胸脇苦満を伴えば柴胡剤(さいこざい)の適応です。抑肝散(よくかんさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)も柴胡が含まれることから広義の柴胡剤です。抑肝散は「怒り」が投与目標になりますが、現代の日本人は怒りをうちに秘めて、怒りの自覚がない例も多く眼瞼けいれんや舌のぴくつきなど怒りのサインを見逃さないようにする必要があります。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は胃腸症状を伴う場合や抑肝散よりも怒りがやや弱い場合に用います。加味逍遙散はホットフラッシュやイライラを伴う更年期障害や月経前症候群、多くの不定愁訴がある場合に適応です。柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤で、かつ気逆に対する作用をもつことから「ドキドキ」と「気の昂ぶり」の要素を併せもつことになります。加味逍遙散よりもさらにイライラや顔面紅潮が強い熱感を伴う場合は、より鎮静・清熱作用の強い黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が適応になります。参考文献1)田原英一ほか. 日東医誌. 2003;54:957-961.2)Numata T, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:683293.3)Xie CL, et al. BMC Complement Altern Med. 2013;13:18.4)Lee JY, et al. Integr Cancer Ther. 2018;17:524-530.

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がん治療の有害事象が減る!?高齢がん患者への機能評価【高齢者がん治療 虎の巻】第3回

<今回のPoint>高齢者総合機能評価(CGA)は、身体面・精神面・社会的要素などいくつかの構成要素から成り立つ高齢がん患者に対する機能評価は、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的CGA(GA)の実施には、多職種協働や診療科連携によるチーム医療が重要だが、最終評価者は医師または歯科医師が担う<症例>85歳・男性X年9月前医でS状結腸がんcStageIIaと診断し、腹腔鏡下S状結腸切除術施行X+1年4月前医で増大傾向にある肝腫瘤の指摘あり、大学病院消化器内科紹介受診X+1年5月生検の結果、肝内胆管がんstageIV(多発肝転移・多発リンパ節転移)の診断X+1年6月治療方針決定前の評価目的で同院老年科に紹介 評価で問題がなければ、治療開始(GCD療法[GEM+CDDP+デュルバルマブ])の予定。治療説明などの応答がしっかりせず、不安症状がみられる。CGA実施、診療報酬は50点日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えたことで、高齢のがん患者も増加し、高齢者診療や高齢者がん診療の重要性はより一層高まっています。その中でもとくに重要なことは、「高齢者の医療や生活を多面的に評価し、問題点を抽出し、適切な介入を行う」というプロセスです。このことを、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と呼び、老年医学の根幹となっています。入院中の患者(65歳以上の全員と特定疾患を有する40歳以上の一部)に関しては、CGAを行うことで、診療報酬点数「総合機能評価加算」50点(入退院支援加算として退院時1回)の算定ができます。算定にあたっては、日常生活力などを評価する必要があり、各医療職種が評価できますが、最終評価者は医師または歯科医師が行わなければなりません。CGAの構成成分には主に、身体機能・精神心理状態・社会的背景などが挙げられ(表1)、それらを元に生活機能や医療の評価を行います。日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)は、人が生活を送るために必要な動作のことであり、身体的な要素を主とした評価として、CGAの代表的な評価ツールとなっています。(表1)高齢者総合機能評価の構成要素画像を拡大する移動・食事・排泄・更衣・整容など、生きていく上で最低限必要な基本的な日常動作のことを基本的ADLと呼びます。一方で、買い物・調理・洗濯・金銭管理など、社会で自立した生活を送るために必要な動作のことを手段的ADLと呼びます。当院での総合機能評価加算の書式では、いくつかの項目を多職種でチェックし、日常生活動作、認知機能、気分・心理状態それぞれに対して、最終判定を担当医が行います。がん診療では“治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的”ここまで、一般高齢者を対象としたCGAに関して述べましたが、がん患者に対する機能評価は、目的やアプローチがやや異なります。がん患者に対しては、「治療を実施するか否か」「どの治療法を選択するか」「治療に伴う有害事象がどの程度起こりうるか」といった診療方針決定に重要な情報が求められます。高齢者がん診療の領域においても、多面的な評価の重要性は広く示されてきました。しかし実際には、必要なケアを同定して介入につなげるというよりも、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測などに使われることが多く、CGAではなく、GA(Geriatric Assessment)と称されます1)。なお、日本老年腫瘍学会のホームページ内では、CGAとGAの違いについて表2のようにまとめられております2)。(表2)CGAとGAの違い画像を拡大するがん診療のガイドラインでは、ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)という、日常生活の活動レベルを5段階で表した指標によって治療方針が定められることも多いですが、ECOG-PSが良好でも、併存症の存在、手段的ADLの低下、栄養状態や認知機能の低下などにより、がん治療に対しての脆弱性を有しているケースはとても多いです。実際にGAが治療方針に与える影響も大きく、あるシステマティックレビューによると、GAの実施により、がん治療方針が変更された割合は28%(中央値)で、その変更の多くは、より強度の弱い治療へ変更されていました3)。また、根治不能な70歳以上の固形がん患者に対して、GAを行って結果と推奨マネジメントを治療担当医に提供することで、重篤な有害事象を有意に減らせられたといった報告もあります(1年後の生存率は変わらず)4)。GAに含めるべき必須の重要ドメインとして、身体機能、認知機能、心理状態、併存疾患、栄養状態、多剤併用、社会的サポートなどが挙げられます5)。特徴として、がん治療を念頭に置いているため、「治療に耐えられるか」という観点から、とくに重要な要素として、栄養状態や併存疾患が入ります。また、近年、GAにおいて評価を行うだけではなく、CGAのように、結果に基づいたマネジメントを行うこと(GA-guided management:GAM)(第2回参照)が強く推奨されてきています。さらに、個別化した治療計画の立案、有害事象の予測、介入すべき問題を特定することに加え、意思決定支援のために、GAの結果を患者と家族に提供することも推奨されます。冒頭に示した症例では、GAを施行したところ、元々バイタリティにあふれた性格でしたが、家族の病気や家族との関係性、また自身への立て続けのがんの告知などにより、診察時には心身共にエネルギー切れの、うつ傾向の心理状態であることがわかりました。さらには、独居であり、スムーズに家族のサポートを得ることも難しい状態でもありました。これらの情報を元に腫瘍専門医と協働し、多職種との連携も通して意思決定のサポートを行い、化学療法に伴う副作用の説明も含めて、治療の準備を行いました。その結果、予定通りGCD療法が通常量で投与されました。1)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.2)日本老年腫瘍学会:CGAとGA3) Hamaker ME, et al. J Geriatric Oncol. 2018;9:430-440. 4)Mohile SG, et al. Lancet. 2021;398:1894-1904.5)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.講師紹介

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第32回 世界の使用者1億人超…WHOが警鐘を鳴らす電子タバコの罠と、若者を蝕む「見えざる害」の正体

「紙タバコより安全」、「禁煙につながる」。そんなイメージとともに世界中で急速に普及した電子タバコ。しかし、その楽観的な見方に、世界保健機関(WHO)が公式に「待った」をかけました。WHOが初めて発表した推計によると、世界の電子タバコ使用者は1億人を突破したそうです。とくに深刻なのは若年層への普及です。13~15歳だけでも少なくとも1,470万人が使用していて、その使用率は上の年代の9倍にも達するといいます。WHOのテドロス事務局長は「タバコ業界は、新たな製品で若者を積極的にターゲットにしている」と、強い懸念を表明しました1)。これまで漠然と「害が少ない」と思われてきた電子タバコの裏側で、今、何が起きているのでしょうか。論文を基に、その深刻なリスクについて考えていきたいと思います2)。科学が暴く電子タバコの深刻なリスク電子タバコが市場に登場した際、従来の医薬品や医療機器に求められるような厳格な毒性試験や長期的な安全性試験は行われませんでした。製造基準や安全基準も確立されていないまま、「タバコ製品」の一つとして市場に広まったというのが実情なのです。しかし、その後の研究で、この「安全神話」は次々と覆されていきます。これまでよく報道されてきたのは、急性の健康被害でしょう。さまざまな急性リスクが報告されていますが、たとえば、製品の爆発による重度の火傷や顔面の外傷、ニコチン過剰摂取による急性中毒、突然の深刻な肺疾患に至るケースまで数多くの健康被害が報告されています。とくに、米国で多発した「電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺損傷(EVALI)」は、入院や死亡例も確認されています。さらに、バター風味などを出すために使われる香料「ジアセチル」は、職業的に吸入すると閉塞性細気管支炎という重い肺の病気を引き起こすことが知られていますが、この物質が多くの電子タバコ製品に含まれていることも判明しています。長期的なリスクについても、科学は警鐘を鳴らし続けています。心臓・血管への影響毎日の電子タバコの使用が、心筋梗塞のリスクを著しく高めるという調査結果があります。使用によって心拍数や血圧が上昇し、動脈が硬くなることも確認されています。呼吸器への影響電子タバコの使用者は、気管支炎の症状を訴えるリスクが高いことがわかっています。さらに、慢性気管支炎や肺気腫(COPD)、喘息といった呼吸器疾患の新規発症との関連も指摘されています。がんのリスクがんの発症には長い年月がかかるため、人間での直接的な証拠はまだありません。しかし、研究室レベルでは不穏な兆候がみえています。電子タバコ使用者の尿からは、膀胱がんと関連する発がん物質が検出されています。さらに、マウスを電子タバコの煙に長期間さらした実験では、肺腺がんや膀胱の異常な細胞増殖が有意に多くみられました。禁煙の救世主か、依存への新たな入口か?「禁煙のため」という理由で電子タバコに切り替える人は少なくありません。しかし、WHOが「禁煙補助具として推奨しない」と明確に述べているように、その効果には大きな疑問符がついています。これまでの研究では、電子タバコの使用者は、むしろ禁煙に成功する確率が低いという結果が示されています。また、一度禁煙に成功した人が電子タバコを使い始めると、再び紙タバコに戻ってしまう「喫煙への逆戻り」のリスクが高まることも報告されています。結局のところ、電子タバコはニコチン依存からの脱却を助けるのではなく、依存を維持、あるいは別の形の依存に置き換えているに過ぎないケースが多いようなのです。若者にとっては、さらに深刻な「ゲートウェイ(入口)」となっています。実際、電子タバコを使用した経験のある若者は、そうでない若者に比べて、その後に紙タバコを吸い始める確率が3.5倍も高かったことが示されています。ニコチンには、脳の報酬系を変化させ、他の薬物への依存を促す作用があることが知られており、電子タバコがアルコールや他の薬物乱用への入口となることが懸念されているのです。巧妙化するタバコ産業の戦略WHOが指摘するように、タバコ産業が若者を新たなターゲットにしていることは、製品のデザインからも明らかです。コンピュータのUSBメモリにそっくりな製品や、ペン、パーカーの紐、さらには喘息の吸入器に見せかけた製品まで登場しています。これらは、学校や家庭など、使用が禁止されている場所で、親や教師の目を盗んで使用することを容易にするでしょう。フルーティなフレーバーやおしゃれなデザインは、タバコの有害性への警戒心を解き、若者にとっての心理的なハードルを大きく下げます。こうして、タバコ産業は、失われつつある紙タバコの顧客層を補うため、新たな世代をニコチン依存に取り込もうとしているのです。そして、依存ができれば、長期安定したサブスクリプションが完成というわけです。結論として、電子タバコは決して「安全な代替品」ではありません。科学的なエビデンスは、急性中毒や急性の肺疾患といった短期的なリスクから、心臓病、慢性気管支炎、がんといった深刻な長期的リスクまで、数多くの健康被害の可能性を示しています。禁煙効果が疑問視される一方で、若者を別の形でニコチン依存へと誘う「ゲートウェイ」としての役割が強く懸念されています。私たち一人ひとりが、巧妙なマーケティングに惑わされることなく、科学的根拠に基づいた冷静な判断を下し、とくに次代を担う若者をこの新たな脅威から守っていく必要があるのでしょう。 参考文献・参考サイト 1) NHK. 世界で電子たばこを使用する人 推計で1億人超える WHO報告書 2) Farber HJ, et al. Harms of Electronic Cigarettes: What the Healthcare Provider Needs to Know. Ann Am Thorac Soc. 2021;18:567-572.

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ADHDに対する神経刺激薬治療後の精神疾患発症リスク〜メタ解析

 注意欠如・多動症(ADHD)患者は、神経刺激薬による治療後に精神疾患や双極症を呈することがある。しかし、その発現の程度は不明であった。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ADHD患者における神経刺激薬治療後の精神疾患または双極症の発現を定量化し、その影響を調節する可能性のある因子を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年9月3日号の報告。 DSMまたはICDで定義されたADHD患者を対象に精神疾患または双極症のアウトカムを評価した、あらゆるデザインの研究を対象とした。2024年10月1日までに公表された対象研究を、PubMed、Web of Science、Ovid/PsycINFO、Cochrane Central Register of Reviewsより言語制限なしで検索した。PRISMAおよびMOOSEガイドラインに従い、プロトコールを登録し、ニューカッスル・オタワ尺度およびCochraneバイアスリスクツール2を用いて質評価を行った。ランダム効果メタ解析、サブグループ解析、メタ回帰分析を実施した。主要アウトカムは、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者の割合とし、エフェクトサイズおよび95%信頼区間(CI)を算出した。アンフェタミンとメチルフェニデートの比較についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象は16研究(39万1,043例)で、平均年齢12.6歳(範囲:8.5〜31.1歳)、男性28万8,199例(73.7%)であった。・神経刺激薬を処方されたADHD患者のうち、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者は、次のとおりであった。【精神症状】2.76%、95%CI:0.73〜9.88、10研究、23万7,035例【精神病性障害】2.29%、95%CI:1.52〜3.40、4研究、9万1,437例【双極症】3.72%、95%CI:0.77〜16.05、4研究、9万2,945例・研究間で有意な異質性が認められた(I2>95%)。・アンフェタミン治療患者では、メチルフェニデート治療患者よりも、精神疾患発症リスクが有意に高かった(オッズ比:1.57、95%CI:1.15〜2.16、3研究、23万1,325例)。・サブグループ解析では、北米の研究およびフォローアップ期間の長い研究において、精神症状の有病率が有意に高かったことが示唆された。・精神疾患発症率の上昇と関連していた因子は、女性の割合の高さ、サンプルサイズが小さいこと、高用量の神経刺激薬であった。 著者らは「本解析の結果、神経刺激薬治療を行ったADHD患者において、精神症状、精神病性障害、双極症の発症率は無視できないレベルであることが明らかとなった。アンフェタミン治療は、メチルフェニデート治療と比較して、精神疾患発症率が高いことが示された」とし、「対象とした研究では因果関係を立証できず、ランダム化臨床試験や神経刺激薬使用の有無により比較するミラーイメージ研究など、さらなる調査の必要性が浮き彫りになった。とはいえ、臨床医は神経刺激薬治療について患者と話し合う際に、精神疾患や双極症の発現率上昇について説明し、治療全体を通してこれらの症状をシステマティックにモニタリングする必要がある」とまとめている。

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院内の騒音でせん妄リスク上昇か/大阪公立大

 病院内の騒音は、患者の睡眠を妨げるだけでなく、せん妄や不安、再入院などのリスクも上昇させる可能性が示された。園田 奈央氏(大阪公立大学大学院看護学研究科)らの研究グループは、病院内の騒音の影響に関するスコーピングレビューを実施し、その結果を報告した。本結果は、Worldviews on Evidence-Based Nursing誌2025年8月号に掲載された。 研究グループは、病院内の騒音が入院患者の健康アウトカムに与える影響を明らかにするため、スコーピングレビューを実施した。本レビューでは、2014年1月〜2023年12月にPubMed、CINAHL Plus、Cochrane Libraryに登録された文献を検索した。また、検索で抽出された文献の参考文献、Google Scholarについてハンドサーチを実施した。キーワード(noise、sound、alarm、hospital、care unit、ward)検索およびハンドサーチで抽出された5,851件の文献から、重複などを除いた4,426件を対象にスクリーニングを実施し、最終的に研究目的に合致した28件の論文を抽出した。 主な結果は以下のとおり。【睡眠】・集中治療室(ICU)入室患者において、騒音レベルが高い(8~22時:63dB超、22~8時:59dB超)と覚醒時間が増加したという報告や、ICU入室患者において、夜間の最大騒音レベルが高い(57.9dB超)と睡眠時間が減少したという報告があった。・ICU/心臓疾患集中治療室(CICU)入室患者を対象とした4研究において、騒音は睡眠の質の低下と関連がみられた。・一般病棟の入院患者においても、騒音は睡眠時間や睡眠の質の低下と関連したという報告があり、良好な睡眠を保つための騒音レベルの推定上限値は7~19時が49.3dB、19~7時が34.2dBとする報告があった。【生理学的影響】・騒音レベルが高いと呼吸数および心拍数が上昇したという報告があった。・深部体温と騒音の関係を検討した研究では、両者に有意な関連はみられなかった。【心理学的影響】・ICU入室患者において、騒音レベルが高いと不安が増加したという報告があった。【せん妄】・外傷によるICU入室患者および外科系集中治療室(SICU)入室患者において、日中(12~18時)の騒音はせん妄リスク上昇と関連したが、朝(8~12時)の騒音はせん妄リスク低下と関連したという報告があった。【再入院】・騒音は30日以内および90日以内の予定外の再入院リスク上昇と関連したという報告があった。 本研究結果について、著者らは「騒音が患者アウトカムに与える影響についての包括的な理解を提供し、病院内の騒音低減に取り組むことの重要性を強調するものである」とまとめた。

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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産後出血の転帰を予測する臨床マーカーは?/Lancet

 従来閾値よりも低値の失血量と血行動態異常の兆候の組み合わせで、産後出血による死亡または生命を脅かす合併症のリスクがある女性を正確に予測でき、産後出血の早期診断と治療のサポートが可能であることを、WHOのIoannis Gallos氏らWHO Consortium on Postpartum Haemorrhage Definitionが、被験者個人データを用いたメタ解析の結果で示した。産後出血(産後の過多出血)は、世界中で母体死亡・合併症の要因になっている。しかしながら、過度の出血の最適な定義や母体の有害アウトカムを確実に予測する臨床マーカーについて、世界的なコンセンサスはなかった。Lancet誌オンライン版2025年10月4日号掲載の報告。5つの臨床マーカーの予後予測精度を評価 研究グループは、母体の死亡や重篤な合併症に関する産後出血の臨床マーカーの予後予測精度を評価した。適格としたデータセットは、WHOの呼び掛けによる募集データと、PubMed、MEDLINE、Embase、Cochrane LibraryおよびWHO trial registriesのシステマティックな検索(データベース開始から2024年11月6日まで)を通じて特定した。 客観的測定に基づく失血量または血行動態不安定性に関するその他の臨床マーカーを有する被験者が200例以上含まれ、対象の臨床アウトカムが少なくとも1つ以上報告されている研究を適格とした。 すべての適格研究について被験者の個人データ(IPD)を求め、各データセットについて、母体死亡または重篤な合併症(輸血、外科的介入またはICU入室)の複合アウトカムに関する5つの臨床マーカー(失血量、脈拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、ショック指数)の予後予測精度を算出した。 2レベル混合効果ロジスティック回帰モデルを用いてメタ解析を行い、2変量ノーマルモデルを用いて要約精度を推定した。 臨床マーカーと閾値の選択は、WHO専門家コンセンサスプロセスに基づき、予後の特異度(50%以上が望ましい)よりも予後の感度(80%超が望ましい)の最大化に重点を置いて評価が行われた。失血量と血行動態異常の兆候の組み合わせで予測能は改善 33データセットが適格の可能性があり、18データセットのIPDデータの入手に成功した。このうち12データセットの全データ(女性31万2,151例)を解析した。 従来閾値の500mLは失血量の要約予後予測感度が75.7%(95%信頼区間[CI]:60.3~86.4)であり、複合アウトカムの予後予測特異度は81.4%(95%CI:70.7~88.8)であった。 望ましい予後の感度(80%超)の閾値は300mLで達成されたが(83.9%、95%CI:72.8~91.1)、特異度は低かった(54.8%、38.0~70.5)。 予測能は、失血量の閾値500mL未満(≧300mL~≧450mL)と血行動態異常の兆候(脈拍数>100回/分、収縮期血圧<100mmHg、拡張期血圧<60mmHg、ショック指数>1.0のいずれか)の組み合わせ、または失血量500mL以上のいずれかを用いた決定ルール(複合ポイントスコアリングシステム)で、感度(範囲:86.9~87.9%)と特異度(66.6~76.1%)の精度およびバランスがより改善された。すなわち、失血量閾値450mLのルール3(複合ポイントスコアリングシステムで2点以上[失血量450~499mLは1点、その他血行動態異常の兆候は1点、失血量500mL以上は2点])において感度86.9%、特異度76.1%、失血量閾値300mLのルール3(同2点以上[失血量300~499mLは1点、その他血行動態異常の兆候は1点、失血量500mL以上は2点])において感度87.9%、特異度66.6%であった。

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気管支拡張症への高張食塩水とカルボシステイン、肺増悪を改善せず/NEJM

 気管支拡張症の患者に対する高張食塩水およびカルボシステインはいずれも、52週間にわたる肺増悪の平均発生率を有意に低下させなかった。英国・Queen's University BelfastのJudy M. Bradley氏らCLEAR Investigator Teamが、同国20病院で行った非盲検無作為化2×2要因試験の結果で示された。粘液活性薬は作用機序によってさまざまであり、去痰薬(例:高張食塩水)、粘液調整薬(例:カルボシステイン)、粘液溶解薬(例:N-アセチルシステイン)、粘膜潤滑薬(例:サーファクタント)などがある。気管支拡張症ガイドラインでは、粘液活性薬の有効性に関して一貫性がなく、その使用は地域によって異なり、安全性と有効性を評価するための大規模な試験が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年9月28日号掲載の報告。高張食塩水群vs.非高張食塩水群、カルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で比較 試験には、非嚢胞性線維症気管支拡張症で頻回の肺疾患増悪(過去1年間に2回以上[COVID-19パンデミック以降は1回以上])と日常的な喀痰産生を有する18歳以上の成人患者を登録した。無作為化時点で喫煙者および無作為化前30日間に粘液活性薬による治療を受けた患者は除外した。 すべての被験者は標準治療を受け、さらに(1)高張食塩水群、(2)併用群(高張食塩水とカルボシステイン)、(3)カルボシステイン群の3つの粘液活性薬群のいずれか、もしくは標準治療のみを受ける群へ均等に無作為化された。 比較は、高張食塩水群vs.非高張食塩水群、およびカルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で行った。 主要アウトカムは、52週間における肺増悪回数。重要な副次アウトカムは、疾患特異的な健康関連QOL評価スコア(QoL-Bなど)、次の増悪までの期間および安全性であった。肺増悪の平均回数、使用群に有意な効果は認められず 2018年6月27日~2023年9月28日に、合計288例が無作為化された。ベースラインの各群の被験者特性は類似していた。高張食塩水とカルボシステインの交互作用のエビデンスは認められなかった(p=0.60)。 52週間における確定肺増悪の平均回数は、高張食塩水群0.76回(95%信頼区間[CI]:0.58~0.95)vs.非高張食塩水群0.98回(0.78~1.19)であり(補正後平均群間差:-0.25、95%CI:-0.57~0.07、p=0.12)、カルボシステイン群0.86回(95%CI:0.66~1.06)vs.非カルボシステイン群0.90回(0.70~1.09)であった(補正後平均群間差:-0.04、95%CI:-0.36~0.28、p=0.81)。 副次アウトカムおよび有害事象(重篤な有害事象を含む)は、比較グループ間で類似していた。

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日本の高齢者データが示す、室内温度と抑うつ症状の関連性

 住環境は高齢者の心の健康にどのような影響を与えるのだろうか。今回、室内の寒さや暑さを十分に防げない住宅に暮らす高齢者ほど、抑うつ症状を抱える割合が高いことが示された。温度調節の難しい住宅に住む高齢者では、抑うつ症状のリスクが1.57倍に上ることが明らかになったという。研究は、東北大学医学部の岩田真歩氏、同大学歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の竹内研時氏らによるもので、詳細は8月22日に「Scientific Reports」に掲載された。 日本では室内の温熱環境が深刻な課題となっている。四季のある日本だが、既存住宅の約39%は断熱されておらず、暖房も居間や寝室に限った断続的な使用が一般的で、欧米諸国の全館連続暖房の1/4程度のエネルギーしか使われていない。そのため冬季にWHO推奨の最低室温18℃を満たす住宅は10%未満で、異常な室内温度は心身に悪影響を与え、生活の質(QoL)を低下させることも報告されている。夏季も断熱不足と気候変動による室内の高温が問題化しており、2024年には熱中症で救急搬送された約9万人のうち、住宅内で発生したケースが約38%を占めた。日本は2007年以降超高齢社会であり、高齢者は自宅で過ごす時間が長く、抑うつ症状が認知症や虚弱リスクを高めることを踏まえ、特に自立高齢者における室内の寒さ・暑さと抑うつの関連を検討する必要がある。このような背景から、著者らは自立高齢者における室内温度の知覚と抑うつ症状との関連を検証した。 本研究では、2022年の日本老年学的評価研究(JAGES)の横断データより、65歳以上の自立高齢者を対象とした。従属変数は抑うつ症状の有病率とし、独立変数は住宅が室内の寒さや暑さを防げるかどうかについての参加者の自己報告とした。有病率比(PR)と95%信頼区間(CI)は、潜在的交絡因子を共変量として含めたポアソン回帰モデルを用いて推定した。さらに、地域差を検討するため、地域別に解析を行った。 解析対象となった参加者1万7,491人(男性49.4%)のうち、22.8%が抑うつ症状を示した。参加者の5.1%は寒さや暑さを防げない住居に住んでおり、そのうち41.7%に抑うつ症状が認められた。一方、94.9%は寒さや暑さを防げる住居に住んでおり、その21.8%に抑うつ症状があった。 また、性別・年齢に加え、年収や住居の種類、居住年数などの交絡因子を調整した結果、寒さや暑さを防げない住宅に住む参加者は、防げる住宅に住む参加者と比べて、抑うつ症状のPRが1.57倍(95%CI 1.45~1.71)高いことが分かった。地域別の層別解析では、最北端で最も寒冷な気候の北海道を除くすべての地域で、有意な関連が認められた。 本研究について著者らは、「本研究により、室内の寒さや暑さを感じることが、抑うつ症状の有病率の増加と関連していることが明らかになった。今後は、断熱材の設置などによる室内の温熱環境の改善が抑うつ症状の予防に与える影響を検討する研究が期待される」と述べている。 なお、著者らは、屋内の室温が抑うつ症状に与える影響として、寒冷環境では血圧上昇や脳血流・海馬機能の変化、暑熱環境では脳冷却の困難や血液脳関門の透過性上昇が関与すると指摘している。また、いずれの環境も睡眠の質を低下させ、抑うつ症状の増加に結びつく可能性があると著者らは考察している。

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ロボット支援直腸がん手術、術後1日目のCRPで合併症予測が可能に

 術後合併症や感染症への対応には、早期発見と迅速な対処が求められる。今回、直腸がんに対するロボット支援下直腸手術(RARS)後の合併症リスクが、術後1日目のC反応性蛋白(CRP)値で予測できるとする研究結果が報告された。術後早期のCRP測定が、高リスク患者の見極めや迅速な介入に役立つ可能性があるという。研究は国立病院機構福山医療センター消化器・一般外科の寺石文則氏らによるもので、詳細は8月28日付けで「Updates in Surgery」に掲載された。 RARSは、骨盤内の限られた視野で高い操作性を発揮し、従来の腹腔鏡手術や開腹手術と同等かそれ以上の成績を示すことが報告されている。しかし、依然として術後合併症は患者予後を左右する大きな課題であり、早期に高リスク患者を見極めることが重要だ。炎症マーカーであるCRPは大腸手術後の合併症予測に有用とされるが、ロボット支援手術における術後早期のCRP値の予測的価値は十分に検討されていない。このような背景を踏まえ著者らは、RARS後の合併症リスク因子を解析し、特に術後1日目のCRP測定の有用性を評価することを目的とした後ろ向きコホート研究を実施した。 本解析では、岡山大学病院にて、2020年9月から2025年1月にかけて、原発性直腸がんに対して待機的にロボット支援手術を受けた連続症例を対象とした。血清CRP値は、術前および術後1日目と4日目に測定された。主要評価項目は、手術後30日以内に発生したすべての合併症の有無であり、Clavien-Dindo(C-D)分類に基づいて評価した。群間比較は、連続変数についてはt検定またはMann-Whitney U検定、カテゴリ変数についてはカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いた。また、単変量解析で有意な因子や臨床的に重要な因子を多変量ロジスティック回帰モデルに投入し、術後1日目のCRPを含む独立した合併症予測因子を特定した。さらに、ROC解析で最適カットオフ値を算出し、Youden指数で評価した。 追跡期間中に直腸がんに対してロボット支援手術を受けた患者117名が本研究の対象となった。平均年齢は66歳で、男性は59.0%を占めた。術後合併症は26名(22.2%)に発生し、腸閉塞(10例)、腹腔内膿瘍および吻合不全(7例)、リンパ漏(2例)などが認められた。手術後30日以内の死亡はなかった。単変量解析により、これらの合併症は高齢、ASAスコア(米国麻酔学会の全身状態評価)の上昇、術前補助療法、ストーマ造設、手術時間の長さ、術後1日目・4日目のCRP値上昇などと有意に関連することが示された。これらの因子を含めた多変量ロジスティック回帰分析を行った結果、術後1日目のCRP値は術後全体の合併症の強力かつ独立した予測因子であることが明らかとなった(調整オッズ比 0.77、95%信頼区間〔CI〕 0.63~0.93、P<0.01)。 5分割交差検証を用いたROC解析では、AUCは0.735(ブートストラップ法によるバイアス補正95%CI 0.544~0.848)であった。術後1日目のCRPの最適カットオフ値は5.63 mg/dLで、この値でYouden指数は最大(0.484)となり、感度 0.615、特異度 0.868を示した。これらの結果から、術後1日目のCRP測定は、直腸がんに対するロボット支援直腸手術後の合併症を予測する有用かつ独立したバイオマーカーであることが示唆された。 本研究について著者らは、「術後1日目のCRP値測定を術後管理に組み込むことで、高リスク患者の早期発見が可能となり、迅速な介入や最終的な手術成績の改善につながる可能性がある」と述べている。 また著者らは、今後の研究において前向きかつ多施設での検証が必要であることを強調するとともに、CRPと他のバイオマーカーを組み合わせることで、予測精度をさらに高められる可能性があることにも言及している。

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小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)【すぐに使える小児診療のヒント】第7回

小児の消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)消化管アレルギー(食物蛋白誘発胃腸症)は、2000年ごろから急速に認知が広がった比較的新しい疾患概念であり、新生児・乳幼児を中心に増加しています。嘔吐や下痢を主訴に受診する乳児では、感染症や外科的疾患に加えて、食物蛋白誘発胃腸症を鑑別に挙げることが重要です。今回は、代表的な新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症の一型である食物蛋白誘発胃腸炎(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome:FPIES[エフパイス])を中心に解説します。症例2ヵ月、男児。授乳2時間後に大量に嘔吐を繰り返したため救急外来を受診。普段は完全母乳栄養だが、本日は祖母に預けるため普段は使わない人工乳を使用したとのこと。受診時には活気良好で、腹部所見なし。食物蛋白誘発胃腸症の特徴と分類一般的に食物アレルギーというと、蕁麻疹や呼吸症状を伴う即時型(IgE依存型)アレルギーを想起するでしょう。しかし、食物蛋白誘発胃腸症はIgEが関与せず、主に消化管粘膜で炎症反応が起こる非即時型(非IgE依存型)アレルギーです。食物摂取後、数時間~数日かけて症状が出現し、皮膚症状や呼吸器症状を伴わないことが大きな特徴です。新生児・乳児の消化管アレルギーはわが国独自の疾患概念として扱われていましたが、小児の消化器分野や国際的な概念を鑑みて「食物蛋白誘発胃腸症」として再定義されました。食物蛋白誘発胃腸症は経過や症状から下記のようにいくつかのサブグループに分けられます。画像を拡大する最も代表的なものはFPIESです。日本での有病率は約1.4%と報告されており、決してまれな疾患ではありません。FPIESは経過により急性型と慢性型に分けられます。急性型は原因食物摂取後1~6時間に反復する強い嘔吐が出現し、顔色不良やぐったりするなど全身状態の悪化を伴うこともあります。重症例では、輸液やステロイド投与による全身管理が必要になることがあります。なお、急性期の対応として即時型アレルギーのようにエピネフリン筋注を行っても効果は期待できません。一般的には摂取を中止すると数時間で速やかに改善し、経過は短いのが特徴です。一方、慢性型は原因食物の摂取を続けることで数日~数週かけて嘔吐や下痢、体重増加不良が現れ、除去後も改善までに時間を要します。画像を拡大する実際には症状が重なり合っているためサブグループに分けられないことがしばしばあり、そのために診断や治療に支障を来す場合も見受けられます。日本ではNomuraらによる「嘔吐と血便の有無」で4群に分けるクラスター分類が提唱され、臨床的な整理に有用です。原因となる食物原因となる食物は国や地域によって異なりますが、国際的には乳、魚、鶏卵、穀物、大豆の順になっています。日本の13施設による多施設共同研究(成育医療センター・筑波大学ほか)では、食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を呈した小児225例を対象に解析を行った結果、FPIESの原因食物は鶏卵が最も多く(58.0%)、続いて大豆・小麦(各11.1%)、魚(6.6%)、牛乳(6.2%)でした。鶏卵では94%が卵黄によるものでした。牛乳が原因で発症した児の月例の中央値は1ヵ月と最も早い結果でした。原因食物の違いは各国の離乳食事情によるようで、初期に摂取するものが原因になりやすいと考えられています。診断と治療の基本FPIESには、下記のような診断基準が設けられています。臨床的には、(1)被疑食物を除去して症状が改善すること(食物除去試験)、(2)再度摂取することで症状の再現性があること(食物負荷試験)、(3)他の疾患に当てはまらないこと、を確認します。とくに、小児領域では腹部症状や体重増加不良を来す疾患が多数あるため、他疾患がないか十分に確認することが重要です。FPIESを含む食物蛋白誘発胃腸症は非IgE依存性であるため、一般的なIgE依存性の食物アレルギーで行うような血液検査やプリックテストでは診断できません。末梢血好酸球数、アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(ALST)、便粘液好酸球検査、消化管内視鏡検査などを補助的に行うこともありますが、いずれも条件が限定されており、その所見のみで確定診断できるほど有用な検査ではありません。画像を拡大する治療の基本は原因物質の除去です。人工乳(乳)が原因の場合には、代わりに加水分解乳やアミノ酸乳といった栄養剤を使用します。食物除去によって栄養素が不足しないよう、病院の管理栄養士と相談しながら、適宜栄養素の内服や補助食品などを併用します。一般的にFPIESの予後は良好と考えられています。寛解率や時期は原因食物によって異なりますが、幼児期のうちに治ることが多いと報告されており、除去している原因食物が食べられるようになったかどうか、定期的な食物負荷試験で確認します。冒頭の症例では、追加の問診で「半月ほど前にも一度祖母に預けた際に人工乳を使用して2~3時間後に大量に嘔吐した」との情報があり、症状の再現性が確認されました。人工乳の使用を一旦中止し、これまで母乳では症状が出ていなかったため母乳での対応を継続しました。母が不在で母乳の供給が困難な場合には、アレルギー用ミルクである加水分解乳(ニューMA1など)を選択しました。その後、症状の反復がないこと、体重増加が良好であることなどを確認し、症状寛解後数ヵ月を経て経口負荷試験を行いました。離乳食の進み具合に合わせて、他の食材に関しても相談しながら通院中です。保護者への対応の工夫発症予防として、妊娠中の食物制限や離乳食の開始時期を遅らせることは、医学的根拠に乏しく推奨されません。また、「なんとなく怖いから卵はまだ与えていない」といった安易な食物摂取制限も避けるべきです。過度な制限は成長や発達に影響を及ぼすこともあるため、そのリスクを共有し、バランスのとれた摂取を勧めましょう。食物蛋白誘発胃腸症に限らず、食物アレルギーは子供の成長・発達や将来にも関わるため、保護者の心理的負担は非常に大きいものです。長期的な予後や今後の方針を丁寧に共有することで、不安の軽減につながります。FPIESは多くの場合、1~3歳ごろまでに自然寛解することが知られています。日本の報告では、卵黄、乳、小麦、大豆などの原因食品を対象とした場合、発症から12ヵ月後には約半数の児が寛解し、24ヵ月後にはおよそ8~9割が耐性を獲得していました。とくに乳製品が原因の場合、耐性を獲得する月齢の中央値は約17ヵ月と報告されています。冒頭の症例のように乳が原因の場合、乳児の栄養源の中心であるため成長に直結する大きな課題となります。保護者の不安に寄り添いながら、現実的な栄養管理の方法を一緒に模索していくことが重要です。次回は、絶対に見逃してはならない疾患の1つ、「精巣捻転」について取り上げます。夜風が涼しくなり、ようやく過ごしやすい季節になってきました。季節の変わり目、どうぞお身体にお気をつけてお過ごしください。ひとことメモ:よくあるQ&A妊娠中に特定の食物を控えれば、子供のアレルギー発症を抑えられるって本当?発症予防を目的とした母の妊娠・授乳中の抗原食物の制限、除去は推奨されない。完全母乳栄養であれば、赤ちゃんのアレルギー発症を予防できるって本当?母乳中には食物由来ペプチド、サイトカインが含まれており、児が食物に対して寛容を誘導するのに適している。ただし、母乳が原因で食物蛋白誘発胃腸症を発症することもある。他のアレルギーの可能性は?他の即時型アレルギーとは別の疾患概念であるため、必ずしも他の食物アレルギーを発症する可能性が高いとは限らない。離乳食の開始を遅らせると、アレルギー発症を防げるって本当?離乳食を遅らせることは予防・治療には繋がらず、むしろ成長を妨げることもあるため、安易に遅らせるべきではない。参考資料1)食物アレルギー診療ガイドライン20212)Nomura I, et al. J Allergy Clin Immunol. 2011;127:685-688.3)国立成育医療研究センターホームページ4)好酸球性消化管疾患(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)(指定難病98)/難病情報センター5)早野 聡ほか. 浜松医科大学小児科学雑誌. 2025;5:12-18.

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