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COVID-19パンデミック期の軽症~中等症患者に対する治療を振り返ってみると(解説:栗原宏氏)

Strong points1. 大規模かつ包括的なデータ259件の臨床試験、合計約17万例の患者データが解析対象となっており、複数の主要データベースが網羅的に検索されている。2. 堅牢な研究デザイン系統的レビューおよびネットワークメタアナリシス(NMA)という、臨床研究においてエビデンスレベルの高い手法が採用されている。3. 軽症~中等症患者が対象日常診療において遭遇する頻度の高い患者層が対象となっており、臨床的意義が高い。Weak points1. 元研究のバイアスリスク各原著論文のバイアスリスクや結果の不正確さが、メタアナリシス全体の精度に影響している可能性がある。2. 重大イベントの発生数が少ない非重症患者が対象であるため、入院・死亡・人工呼吸器管理といった重篤なアウトカムのイベント数が少なく、効果推定の精度が制限される可能性がある。3. アウトカム評価の不均一性「症状消失までの時間」などのアウトカムは、原著における測定方法や報告形式が不統一であり、統合評価が困難である。その他の留意点1. ワクチン普及の影響は考慮されていない。2. ウイルスのサブタイプは考慮されていない。――――――――――――――――――― 本システマティックレビューでは、Epistemonikos Foundation(L·OVEプラットフォーム)、WHO COVID-19データベース、中国の6つのデータベースを用い、2019年12月1日から2023年6月28日までに公表された研究が対象とされている。当時未知の疾患に対し、様々な治療方法が模索され、そこで使用された40種類の薬剤(代表的なもので抗ウイルス薬、ステロイド、抗菌薬、アスピリン、イベルメクチン、スタチン、ビタミンD、JAK阻害薬など)が評価対象となっている。 調査対象となった「軽症~中等症」は、WHO基準(酸素飽和度≧90%、呼吸数≦30、呼吸困難、ARDS、敗血症、または敗血症性ショックを認めない)に準じて定義されている。 入院抑制効果に関してNNTを算出すると、ニルマトレルビル/リトナビル(NNT=40)、レムデシビル(同:50)、コルチコステロイド(同:67)、モルヌピラビル(同:104)であり、いずれも劇的に有効と評価するには限定的である。 標準治療に比して、症状解消までの時間を短縮したのは、アジスロマイシン(4日)、コルチコステロイド(3.5日)、モルヌピラビル(2.3日)、ファビピラビル(2.1日)であった。アジスロマイシンが有症状期間を短縮しているが、薬理学的な作用機序は不明であること、耐性菌の問題も踏まえると、COVID-19感染を理由に安易に処方することは望ましくないと思われる。 パンデミック当時に一部メディアやインターネット上で有効性が喧伝されたイベルメクチンについては、症状改善期間の短縮、死亡率の低下、人工呼吸器使用率、静脈血栓塞栓症の抑制といったアウトカムにおいて、いずれも有効性が認められなかった。 著者らは、異なる変異株の影響は限定的であるとしている。COVID-19に対する抗ウイルス薬の多くはウイルスの複製過程を標的としており、株による薬効の変化は理論上少ないとされる。ただし、ウイルスの変異により病原性が低下した場合、相対的な薬効の低下あるいは見かけ上の効果増強が生じる可能性は否定できない。 本調査は、非常に多数の研究を対象とした包括的なシステマティックレビューであり、2019年から2023年当時におけるエビデンスの集約である。パンデミックが世界的に深刻化した2020年以降と、2025年現在とでは、COVID-19は感染力・病原性ともに大きく様相を変えている。治療法も、新薬やワクチンの開発・知見の蓄積により今後も変化していくと考えられるため、本レビューで評価された治療法はあくまでその時点での知見に基づくものであることに留意が必要である。

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。・試験デザイン:国内無作為化比較試験・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)・評価項目:[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

 近年新規薬剤の発売が相次ぐアトピー性皮膚炎について、2024年10月に3年ぶりの改訂版となる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」が発表された。外用薬のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬ジファミラスト、注射薬の抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブおよび抗IL-13受容体抗体トラロキヌマブ、経口JAK阻害薬ウパダシチニブおよびアブロシチニブの5剤が、今版で新たに掲載されている。ガイドライン策定委員会メンバーである常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科)に、新薬5剤を含めた治療アルゴリズムの考え方について話を聞いた。いかに寛解導入に持っていくか、アトピー治療のPDCAサイクルの回し方 前版である2021年版のガイドラインで、治療アルゴリズムの骨格が大きく変更された。全身療法(注射薬と経口薬)の位置付けについて、寛解維持療法の選択肢に一部が加えられたほか、使用対象がその前の2018年版アルゴリズムの「重症・最重症・難治性状態」から「中等症以上の難治状態」に変更されている。そして各段階で「寛解導入できたか」という問いが加えられ、そのyes/noに応じて治療のPDCAサイクルを回していく構成となっている。この背景には、使用できる薬剤が増えたことが何よりも大きいと常深氏は話し、PDCAサイクルを回してこれらの薬剤を活用し、必ず寛解導入すること(Treat to Target)が重要とした。 アルゴリズムでは診断と重症度評価に続いて、「疾患と治療の目標(ゴール)の説明・共有」を行うことが推奨されており、末尾の“共有”という言葉が2024年版で追記された。常深氏は「説明は医療者から患者さんへの一方的なものだが共有は違う。この言葉が入ったことにはとても大きな意味があり、“とりあえず治療を始めてみましょう”ではなく“どんな状態をゴールとして目指すか”を共有したうえで治療をスタートしてほしい」とこの言葉の意図を説明した。寛解導入のメインはまず“ステロイドの適切な使用”で変わりない ジファミラストを含む非ステロイド系外用薬の選択肢が増えている。寛解導入での位置付けについて常深氏は「軽い皮疹の場合に非ステロイド系で寛解導入もありうるが、メインはやはりステロイド系外用薬」と話し、ランクの選択を含めてステロイドをどう適切に使えるかが非常に重要とした。「顔だから、年齢が低いからという理由で皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうケースがみられるが、重症度評価に応じたランクのステロイドを自信をもって選択してほしい」とし、落ち着いたらランクを下げるもしくは非ステロイド系に切り替えるといった使い方が望ましいと話した。  一方、ステロイド系外用薬は局所的な副作用が出るなど長期使用には向かないため、寛解維持の外用療法のメインとしては非ステロイド系外用薬が適しているが、常深氏は「非ステロイド系外用薬のなかでどの薬剤をどのタイミングで行うとよいかは明確になっていない」とし、「患者さんごとに使ってみて使いやすいものを選ぶといった考え方もよいのではないか」と柔軟な対応を提案した。全身療法の使いどころ、使い分けは? 全身療法は中等症以上の多くのアトピー性皮膚炎患者に対して推奨されており、「決してしきいの高いもの・最後の切り札ではない」と常深氏。「必ずしもとことん外用療法をやりきってから全身療法という考え方ではなく、患者さんが外用療法に疲れてしまったり時間をかけてQOLが下がってしまったりという状況になる前に、使用ガイダンスで示された条件を満たしたうえで1,2)早めに全身療法に切り替えるのも1つの選択肢」と私見を交えて解説した。 注射薬である抗体製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ、ガイドライン改訂後に登場したレブリキズマブ)の特徴として、常深氏は、投与前後の検査不要で安全性が高いこと、幅広い患者に有効性があることを挙げた。それに対して経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)は、使用ガイダンス2)に示されるように投与後も画像を含めた検査が必要であり、効き始めは早いがレスポンダーとノンレスポンダーが分かれる傾向があるという。「経口がやはり楽という患者さんもいるし、数週間おきの注射のほうがむしろ楽という患者さんもいる」とし、上記の特徴も踏まえた選択が重要と話した。 抗体製剤やJAK阻害薬には治療費の問題がある。同氏は治療費がハードルになるケースでは、従来からの全身療法薬であるシクロスポリンをしっかりと使っていくことも大事と指摘。「悪くなりかけた際にシクロスポリンを使うという使い方で、短期の使用であれば副作用の可能性も低い」とした。アトピーはいまや“すごくよくなる”疾患、患者も医療者もイメージを変えていく必要 アトピー性皮膚炎には以前から“なかなか治らない疾患”というイメージが根強くあり、そもそも医療機関にかかっていない患者も多い。しかし有効な薬剤が複数登場し、適切な治療により、アルゴリズムで治療のゴールとして示された「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」状況を実現することができるようになっている。  常深氏は、医師を含む医療者が“アトピーは外用薬しかない”、あるいは“改善の難しい疾患だからあまりよくならなくても仕方がない”と思っていたらそこで治療は止まってしまうとし、「抗体製剤使用のハードルは決して高くなく、要件を満たせば1)クリニックでも使用できる。また自院で使用しなくても、必要性を感じた場合は専門医に積極的につないでほしい」と話した。

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COPD初の生物学的製剤デュピルマブへの期待/サノフィ

 サノフィは、2025年3月27日にデュピルマブ(商品名:デュピクセント)について、製造販売承認事項一部変更承認を取得し、「慢性閉塞性肺疾患(既存治療で効果不十分な患者に限る)」の適応が追加となった。この適応追加により、デュピルマブは慢性閉塞性肺疾患(COPD)に適応を有する初の生物学的製剤となった。 COPD治療の中心は、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)といった気管支拡張薬である。LAMA+LABAで効果不十分かつ血中好酸球数高値の患者や、喘息病態を合併する患者には、吸入ステロイド薬(ICS)を追加した3剤併用療法(トリプル療法)が用いられることもあるが、それでも症状の残存や増悪を繰り返す患者が存在し、新たな治療選択肢が求められていた。 そこで、サノフィは2025年5月29日にデュピルマブのCOPD適応追加に関するプレスセミナーを開催し、COPD患者が直面する課題や、デュピルマブがCOPDの治療選択肢として追加されたことの意義や期待を紹介した。中等症以上の約9割が日常生活に負担 サノフィは、COPD患者の日常生活における身体的および精神的な負担についての理解を深めることを目的として、吸入薬による治療を行っている40~80代のCOPD患者200例を対象に「日常生活における身体的・精神的負担に関する意識実態調査」を実施した(調査実施:エム・シー・アイ)。本調査結果をサノフィの石田 稚人氏(免疫領域メディカル統括部 呼吸器領域部長)が紹介した。 日常生活における身体的負担に関する調査項目では、COPDにより何らかの身体的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では93.1%、軽症では70.7%にのぼった。最も多く挙げられたものは階段の上り下りであったが、中等症以上では歩行や掃除、買い物、入浴といった基本的な日常動作にまで影響が及んでいた。 精神的負担に関する調査項目では、精神的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では87.9%、軽症でも60.0%であり、こちらも多くの患者が負担を有していることが明らかとなった。負担を感じるようになったきっかけとしては、「できていた動作がしんどくなってきた」が最も多く、「医師から良くならない病気だと言われた」が続いた。この2つで過半数を占める結果となった。また、精神的負担への対応方法として「考えないようにする」などの回避的な対応をする傾向もみられた。 症状の認識に関する調査項目では、何らかの症状悪化(増悪)経験がある患者の割合が、中等症以上では74.1%、軽症では61.3%であった。増悪については、約8割が主治医にその状況を伝えていた。しかし、「伝えたが、治療は変わらなかった」と回答した割合が、中等症以上では46.5%、軽症では39.1%にのぼった。なお、本調査では具体的な治療薬については調べていないため、すでにLAMA+LABA+ICSによる治療を行っているなど、治療の強化ができない患者も含まれている可能性があることには留意が必要である。 本調査結果について、石田氏は「COPD患者は大きな身体的、精神的負担を抱えながらも適切な支援を受けられていない実態があることが示された。とくに精神的負担への対応が不十分であり、相談できる環境の整備が急務である。増悪への患者の認識が不足していることも示され、患者教育の強化が必要であることも明らかとなった。そのため、これらの課題に対して実施できることを考えていく必要がある」とまとめた。COPDの診断率は低く、死亡者数は増加傾向に 続いて、室 繁郎氏(奈良県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)が、COPDの社会的・臨床的課題、デュピルマブの有用性と期待について解説した。 COPDの推定患者数は530万例とされるが、実際に治療を受けている患者数は36.2万例にとどまっているという報告がある。これについて、室氏は「見逃されているうちに進行し、重症化してから初めてCOPDと診断される場合があり、これは社会的な問題として捉えられている」と述べる。COPDによる死亡者数についても、2020年以降は徐々に増加する傾向にあり、2023年のCOPDによる死亡者数は1万6,941例、死亡率は10万例当たり14.0例と報告されている。 以上の背景から、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本方針である「健康日本21(第3次)」において、COPDは重要な生活習慣病の1つとして位置付けられ、2032年までにCOPDによる死亡率を減少させるという目標が設定されている。そこで、日本呼吸器学会では「木洩れ陽2032(COPD Mortality Reduction By 2032)」というプロジェクトを展開している。本プロジェクトは、COPDの認知を向上させることや、COPDを見逃さずに早期発見し、適切に治療介入することで、COPDによる死亡率を減少させることを目的としている。トリプル療法でも約半数が効果不十分 喘息病態非合併例では、LAMA+LABAによる治療でも頻回の増悪がみられ、かつ末梢血好酸球増多がみられる場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。また、喘息病態合併例では、ICS+LABAやICS+LAMAによる治療でも症状が悪化したり増悪がみられたりする場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。しかし、トリプル療法を行っても効果不十分な患者が存在し、その割合は51%にのぼるという調査結果も存在する。トリプル療法に加えて、マクロライド系抗菌薬やテオフィリン製剤、喀痰調整薬の追加が検討されることもあるが、十分な効果が見込めるとは限らず、これらの患者にはアンメットニーズが存在していた。そこで登場したのがデュピルマブである。2型炎症を有するCOPDの増悪抑制、呼吸機能改善 近年、COPDにおける2型炎症が注目されている。2型炎症は、主に2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが関与するアレルギー性の炎症である。COPD患者のなかには、2型炎症を伴う患者や、喘息病態を合併する患者、アレルギー性鼻炎を合併する患者が、一定数存在すると報告されている。 デュピルマブは、2型炎症に関与するIL-4、IL-13受容体に対する抗体製剤であり、血中好酸球数高値(300/μL超)でLAMA+LABA+ICSで効果不十分なCOPD患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「BOREAS試験」1)において有用性が検証され、COPDに対する適応が追加となった。 BOREAS試験では、主要評価項目の中等度または重度のCOPD増悪イベントの年間発現率が、プラセボ群では1.113回/年であったのに対し、デュピルマブ群では0.788であり、デュピルマブ群が有意に改善した(リスク比:0.708、95%信頼区間:0.583~0.861、p=0.0005)。 重要な副次評価項目の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)の変化量は、12週時においてそれぞれ75mL、155mLであり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0002)。この改善は52週時においても保たれていた。なお、155mLという値について、室氏は「治療開始前の1割強の改善に当たる」と意義の大きさを指摘した。 また、COPD患者のQOLの指標であるSGRQ総スコアの変化量(52週時)は、それぞれ-6.463、-9.710であり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0026)。なお、臨床的に意義のある変化量とされる4以上の改善を示した割合は、それぞれ43.4%、51.2%であり、こちらもデュピルマブが有意に高率であった(p=0.0171)。 安全性に関しては、プラセボ群と大きな差はみられず、新たな懸念は認められなかった。 以上を踏まえて、室氏は「COPDは、過去10年間新薬が登場していなかった領域であり、最新の治療であるトリプル療法でもコントロール不十分の患者が多数存在していた。このような患者に対して、デュピルマブの有効性が示されており、リアルワールドでもベネフィットを届けていきたい」とデュピルマブへの期待を示して講演を締めくくった。

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進行腎細胞がん1次治療としてのニボルマブ+イピリムマブ、9年長期追跡結果(CheckMate 214)/ASCO2025

 CheckMate 214試験において、進行淡明細胞型腎細胞がん患者の1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はスニチニブ単剤療法と比較して有意な生存ベネフィットを示したことが報告されている。今回、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのRobert J. Motzer氏が追跡期間中央値9.3年の最終解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は全試験対象集団において生存の改善および持続的な奏効を示し、新たな安全性シグナルは確認されなかった。・対象:未治療の進行淡明細胞型腎細胞がん患者(≧18歳、KPS≧70%、RECIST v1.1に基づく測定可能病変あり)・試験群:ニボルマブ(3mg/kg)+イピリムマブ(1mg/kg)3週ごと4回→ニボルマブ2週ごと 550例(うちIMDC分類中/高リスク425例)・対照群:スニチニブ(50mg)1日1回4週→2週休薬 546例(うちIMDC分類中/高リスク422例)・評価項目:[主要評価項目]IMDC分類での中/高リスクの患者における全生存期間(OS)、独立画像判定委員会(IRRC)判定による無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)[副次評価項目]ITT集団におけるOS、IRRC判定によるPFS、ORR、安全性 主な結果は以下のとおり。IMDC分類中/高リスクの患者における主要結果・OS中央値:試験群46.7ヵ月vs.対照群26.0ヵ月(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.59~0.81)・PFS中央値:12.4ヵ月vs.8.5ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87)・ORR:42.4%vs.27.5%・奏効期間(DOR)中央値:82.8ヵ月vs.19.8ヵ月(HR:0.48、95%CI:0.33~0.69)ITT集団における主要結果・OS中央値:52.7ヵ月vs.37.8ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.62~0.82)・PFS中央値:12.4ヵ月vs.12.3ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.76~1.04)・ORR:39.5%vs.33.0%・DOR中央値:76.2ヵ月vs.25.1ヵ月(HR:0.53、95%CI:0.38~0.73)治療期間、後治療、安全性・治療期間中央値は7.9ヵ月vs.7.8ヵ月、治療関連有害事象(TRAE)による試験治療中止が24%vs.13%であった。・試験治療後に全身治療を受けた患者の割合は58%vs.70%で、試験群ではスニチニブが25%と最も多く、対照群ではいずれかのPD-1阻害薬が46%と最も多かった。・全GradeのTRAEの発現率は94%vs.98%と同等であったが、Grade3以上のTRAEの発現率は試験群で少なかった(49%vs.64%)。・試験群において発現した全Gradeの免疫介在性有害事象(imAE)のうち、発現率が高かったのは下痢(44%)、皮疹(29%)、甲状腺機能低下症(20%)などであった。試験群の患者のうち31%がimAEのマネージメントを目的として、コルチコステロイドの投与を受けていた。またimAEの多くが12ヵ月以内に発現していた。 Motzer氏は今回の結果について、進行淡明細胞型腎細胞がん患者の1次治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用療法が標準治療であることを支持するものとまとめている。また、ニボルマブの皮下注製剤が静注製剤と同等の臨床効果を示したと報告されていることに触れ、本療法の維持療法における代替となる可能性があるとした。

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軽症~中等症COVID-19、40種の薬物療法を比較/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する40種の薬物療法のうち、ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビルは入院を減少させる可能性が高く、コルチコステロイド全身投与とモルヌピラビルは、この2剤ほどではないが同様の効果を有する可能性があり、アジスロマイシンなどは、症状の解消までの時間を短縮する可能性が高いことが、カナダ・McMaster UniversityのSara Ibrahim氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年5月29日号に掲載された。薬物療法の無作為化試験のネットワークメタ解析 研究グループは、軽症または中等症COVID-19の治療薬の有効性を比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 データの収集には、Epistemonikos Foundationが運営するCOVID-19 Living Overview of Evidence Repository(COVID-19 L-OVE)の、2023年1月1日~2024年5月19日のCOVID-19関連論文の公開・更新型のリポジトリを用いた。また、WHOのCOVID-19データベース(2023年2月17日まで)と中国の6つのデータベース(2021年2月20日まで)も検索した。 解析には、COVID-19の疑い例、その可能性が高い例、あるいは軽症または中等症のCOVID-19と確定された例を対象とし、薬物療法または標準治療かプラセボに割り付けた無作為化試験を含めた。アジスロマイシンで症状解消が4日短縮 軽症または中等症COVID-19患者において薬物療法の有効性を評価した259件(16万6,230例)の無作為化試験のうち、187件(72%)を解析の対象とした。 標準治療と比較して、次の2つの薬剤で入院を減少させる可能性が高かった。入院患者数を最も強く抑制したのはニルマトレルビル/リトナビル(1,000例当たり24.99例減少[95%信頼区間[CI]:-27.86~-20.19]、エビデンスの確実性:中)であり、次いでレムデシビル(20.93例減少[-27.79~-6.69]、中)であった。 コルチコステロイド全身投与(1,000例当たり15.99例減少[95%CI:-23.93~-2.63]、エビデンスの確実性:低)とモルヌピラビル(9.82例減少[-16.66~-2.28]、低)でも、入院数を減少させる可能性が示唆された。 また、標準治療に比べ、症状解消までの時間を最も大きく短縮させる可能性が高かったのはアジスロマイシン(平均群間差:4.060日短縮[95%CI:-5.270~-2.580]、エビデンスの確実性:中)であった。モルヌピラビル(2.340日短縮[-3.450~-1.070]、高)、コルチコステロイド全身投与(3.480日短縮[-5.320~-1.050]、中)、ファビピラビル(2.170日短縮[-3.150~-1.080]、中)、umifenovir(2.410日短縮[-3.850~-0.710]、中)でも、症状の持続時間を短縮する可能性が高かった。 ドキシサイクリンは、入院日数を標準治療より1.33日(95%CI:-2.63~-0.03)短縮する可能性が高かった(エビデンスの確実性:中)。異なる変異株の影響は考えにくい 標準治療と比較して、ロピナビル/リトナビル(1,000例当たり41.46例増加[95%CI:15.1~68.29])のみが、投与中止に至った有害事象のリスクが高かった。また、ロピナビル/リトナビルでは、入院日数を標準治療より1.77日(95%CI:0.340~3.190)延長するリスクがみられた。 他のアウトカム(死亡、機械換気導入、静脈血栓塞栓症、臨床的に重要な出血)への影響に関しては、いずれの薬剤もエビデンスが不確実で、標準治療と比較して明確な有益性を示す薬剤は認めなかった。 著者は、「本研究は、COVID-19の世界的流行のさまざまな段階における試験を対象としており、その多くはワクチン導入前の、COVID-19のアウトカムがより不良な時期に実施されている」「解析の対象となった試験には、COVID-19の異なる変異株に感染した患者が含まれているが、われわれの知る限り、ウイルスの亜型が本研究に含まれる薬剤の効果修飾因子であるという十分なエビデンスはないため、これが今回の結果に重大な影響を及ぼしたとは考えられない」としている。

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第265回 経験して実感、「副作用情報」の重要性と報告方法

「薬には主作用とともに副作用が付き物」とよく言われるが、よほど頻度が高い副作用でもない限り、未経験か経験しても気付いていない人がほとんどだろう。かく言う私の場合、ワクチンの副反応まで含めると、過去に経験したのは抗ヒスタミン薬による眠気、帯状疱疹ワクチンや新型コロナワクチンによる発熱ぐらいだ。副作用の範疇ではないが、禁煙補助療法中に薬剤師から「決して空腹中に服用しないでください」と注意を受けたバレニクリン(商品名:チャンピックス)を大したことはないだろうと勝手に思い込んで起床後の空腹時に服用し、強烈な胸やけに襲われ、ベッド上でのたうちまわったことがある。用法を念押しされた薬そのような私が最近、日常生活に支障を来すような「副作用」を経験した。きっかけは父親の介護のため、ゴールデンウイーク中に地元仙台に戻った時のことだ。椅子に座っていると左膝頭を中心に大腿~下腿の中ほどまで「まるで筋が詰まったような違和感」「電気ショックのような瞬間的な痛み」を感じたのだ。当初は一過性のことと高をくくっていたが、2日経っても改善せず、近所のドラッグストアでアセトアミノフェンを購入して服用した。それで幾分かは改善したが、違和感は消えない。結局、翌日にイブプロフェン配合の消炎鎮痛薬も購入し、併用することにした。立位や歩行時に症状はないが、薬の効果が薄れた時の座位では明確に違和感がある。こうなると仕事をするのも食事をするのもなかなか大変である。薬で症状を抑えながらようやく仕事を続け、ときどき横になるという生活が続いた。もっとも薬で抑え込んで逃げ切ろうとは思っておらず、きちんと原疾患特定のために受診は必要だと思っていたが、東京に戻ってからと決めていた。そして近所の整形外科を受診し、X線写真も撮影したうえで下された診断が「腰椎椎間板ヘルニア」。医師いわく、「おそらく長年の姿勢の悪さと筋トレの過大な負荷が原因」と言われた。ちなみに問診時には、筋トレ直後に似たような痛みを一過性で感じたことがあったと伝え、具体的な筋トレメニューも伝えた。どうやらレッグエクステンションマシン*で60kgの重量を用いていたことが私の体格(身長167cm、体重61kg)には過大だったらしい。*主に太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛えるためのマシントレーニング器具とりあえず筋トレは当面中止で、コルセット着用と2種類の内服薬が処方された。そのうち1種類は「服用は寝る前ね。これ間違わないように」と厳しく念を押された。それは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)のセレコキシブ(商品名:セレコックスほか)と神経疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)で、医師に「就寝前に」と厳しく言い渡されたのは後者である。当時、処方を拒まれ続けた疼痛治療薬もちろんこの薬のことは、私も一通り以上に知っているつもりだ。実は私の父に関係して因縁のエピソードがある。いまから約10年前のことだ。当時70代だった父親が帯状疱疹を発症し、そのまま帯状疱疹後神経痛(PHN)に悩まされた。私は当時東京にいたが、母親が1日おきに私に「何とかならないものか」と電話をしてきたほどだ。母親に事情を聞くと、近所のかかりつけ医からはジクロフェナク(商品名:ボルタレンなど)は処方されているが、痛みが軽減した様子がないという。ちなみに当時の父親はADLも認知機能も保たれていた。この時、私は発売されて5年ほどのプレガバリンの話を伝え、かかりつけ医に処方を検討してもらうよう伝えてみてはどうかと提案した。しかし、母親によると、主治医からは「めまい・ふらつきの副作用頻度が高いので高齢者には使いたくない」と言われたという。確かに承認当時の国内第III相試験の結果でも、浮動性めまいの頻度が28.6%はあったので、かかりつけ医の言うこともわからなくはなかった。それから数日間、父親はジクロフェナクを服用しながら痛みを訴え続け、結局、ある深夜に痛みに耐えかねた父親の叫び声を聞いた近所の人が駆け付け、救急車で総合病院に搬送された。搬送先の当直医も、やはり「プレガバリンは使いたくない」とのことで、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ラベプラゾール、レバミピド、ガバペンチン、ゾルピデムが処方された。この時、ここまでして処方を避けられる薬なのだから相当な副作用なのだろうと思った。ただ、当直医から「日中はペインクリニックの担当医がいるので、可能ならば受診してみてほしい」との提案があり、翌々日に再受診すると、ようやく最小用量のプレガバリンが処方され、父親を悩ませていたPHNは直後からピタリと治まった。プレガバリンの服用開始から1週間で処方薬は同薬単剤になり、さらにそれから2週間後にそれも中止となった。懸念されたふらつきやめまいの症状もなかった。これは…副作用?さてそんなこんなもあり、自分が服用するとなるとやや緊張した。初日就寝前に服用し、起床後にふらつき・めまいはなかった。が、実はすでに初日から異変はあった。私は元来寝つきもよく、6~7時間の睡眠で中途覚醒はほぼ経験がない。夜中にトイレに起きるのも年2回くらい。ところが、いつもの睡眠時間を念頭に目覚まし時計をかけても、朝にアラームに反応して目は一旦開くのだが、あっという間に目が閉じてしまう。最終的にすっきり目覚めるのはベッドに入ってから8~9時間後。つまり睡眠時間が1~2時間伸びてしまっているのだ。フリーランスの身でこの生活パターンは、実は業務時間が減るため意外とダメージが大きい。服用開始3日目には中途覚醒を経験し、以後、毎日ベッドに入ってから約4時間で中途覚醒が起こるようになった。その一方で椎間板ヘルニアの痛みはかなり沈静化していた。1週間後に主治医にこのことを伝えると、その瞬間、「ぼーっとするならプレガバリンは止めましょう」と言われ、あっさりセレコキシブ単剤へと変更された。そしてその処方箋を薬局に持っていくと、薬剤師からはプレガバリンが外された理由を尋ねられた。医師に伝えた内容をそのまま伝えると、薬剤師が「中途覚醒ですか? ちょっと待ってください」と調剤室に入っていった。どうやらPCで添付文書情報を確認したらしい。そのうえで「不眠症1%以上と記載されていました。正直、私も不勉強で知りませんでした。ありがとうございます」と言われた。これで1件落着と言いたいところなのだが、実はこの中途覚醒、その後1週間ほど引きずった。当初は半ば気のせいだろうと思っていたが、添付文書を精読したら「本剤の急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量すること」と記載されていた。ということは、気のせいとも言い切れないだろう。副作用報告は未来の「ポジティブ情報」父親にとっては救世主だった薬が、私にとっては“功罪半ば”というのも不思議なものである。それとともに医療者はこういう事例には日常的に接しているのだろうが、副作用事例として報告されているのは氷山の一角なのだろうとも改めて思った。これは別に医療者を責めているわけではない。一般論としての各薬剤の副作用の種類とその頻度を把握しておけば、診療上ほぼ問題はないだろうし、細かな副作用すべてを報告していたら医療者は身が持たないはずだ。とはいえ、副作用として報告されない事例も含めれば、一般的に各薬剤で知られている副作用の頻度は相当変わるのではないだろうか? ということで、医療者や製薬企業のMR任せにせず、私は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「患者副作用報告」にオンラインで届け出た。別にプレガバリンが憎いわけではない。よく医薬品情報に関して「ポジティブ情報」「ネガティブ情報」という言葉が使われる。前者は有効性を示す研究報告などで、後者は副作用など安全性に関わる情報を指すが、実は私はこの言葉が大嫌いである。未知や重篤な副作用は、それに遭遇した患者にとってはたまったものではないが、「どんな人に投与してはいけないか」の情報こそが医薬品の適正使用に必須である。前述した「ネガティブ情報」こそが、究極の「ポジティブ情報」であると私個人は考えている。「n=1」「蟷螂之斧」に過ぎないかもしれないが、今回は改めて医薬品との付き合い方を考える機会となった。

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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

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咳嗽・喀痰の診療GL改訂、新規治療薬の位置付けは?/日本呼吸器学会

 咳嗽・喀痰の診療ガイドラインが2019年版以来、約6年ぶりに全面改訂された。2025年4月に発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』1)では、9つのクリニカル・クエスチョン(CQ)が設定され、初めてMindsに準拠したシステマティックレビューが実施された。今回設定されたCQには、難治性慢性咳嗽に対する新規治療薬ゲーファピキサントを含むP2X3受容体拮抗薬に関するCQも含まれている。また、本ガイドラインは、治療可能な特性を個々の患者ごとに見出して治療介入するという考え方である「treatable traits」がふんだんに盛り込まれていることも特徴である。第65回日本呼吸器学会学術講演会において、本ガイドラインに関するセッションが開催され、咳嗽セクションのポイントについては新実 彰男氏(大阪府済生会茨木病院/名古屋市立大学)が、喀痰セクションのポイントについては金子 猛氏(横浜市立大学大学院)が解説した。喘息の3病型を「喘息性咳嗽」に統一、GERDの治療にP-CABとアルギン酸追加 咳嗽の治療薬について、「咳嗽治療薬の分類」の表(p.38、表2)が追加され、末梢性鎮咳薬としてP2X3受容体拮抗薬が一番上に記載された。また、中枢性と末梢性をまたぐ形で、ニューロモデュレーター(オピオイド、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンが含まれるが、保険適用はモルヒネのみ)が記載された。さらに、今回からは疾患特異的治療薬に関する表も追加された(p.38、表3)。咳喘息について、前版では気管支拡張薬を用いることが記載されていたが、改訂版の疾患特異的治療薬に関する表では、β2刺激薬とロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)が記載された。なお、抗コリン薬が含まれていない理由について、新実氏は「抗コリン薬は急性ウイルス感染や感染後の咳症状などに効果があるというエビデンスもあり、咳喘息に特異的ではないためここには記載していない」と述べた。 咳症状の観点による喘息の3病型として、典型的喘息、咳優位型喘息、咳喘息という分類がなされてきた。しかし、この3病型には共通点や連続性が存在し、基本的な治療方針も変わらないことから、1つにまとめ「喘息性咳嗽」という名称を用いることとなった。ただし、狭義の慢性咳嗽には典型的喘息、咳優位型喘息を含まないという歴史的背景があり、咳だけを呈する喘息患者の存在が非専門医に認識されるためには「咳喘息」という名称が有用であるため、フローチャートでの記載や診断基準は残している。 咳喘息の診断基準について、今回の改訂では3週間未満の急性咳嗽では安易な診断により過剰治療にならないように注意することや、β2刺激薬は咳喘息でも無効の場合があるため留意すべきことが記されている。後者について新実氏は「β2刺激薬に効果がみられない場合は咳喘息を否定するという考えが見受けられるため、注意喚起として記載している」と指摘した。 喘息性咳嗽について、前版では軽症例には中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単剤で治療することが記載されていたが、喘息治療においてはICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)が基本となるため、本ガイドラインでも中用量ICS/LABAを基本とすることが記載された。ただし、ICS+長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やICS+LTRA、中用量ICS単剤も選択可能であることが記載された。また、本ガイドラインの特徴であるtreatable traitsを考慮しながら治療を行うことも明記されている。 胃食道逆流症(GERD)については、GERDを疑うポイントとしてFSSG(Fスケール)スコア7点以上、HARQ(ハル気道逆流質問票)スコア13点以上が追加された。また、治療についてはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とアルギン酸が追加されたほか、treatable traitsへの対応を十分に行わないと改善しにくいことも記載されている。難治性慢性咳嗽に対する唯一の治療薬ゲーファピキサント 難治性慢性咳嗽は、治療抵抗性慢性咳嗽(Refractory Chronic Cough:RCC)、原因不明慢性咳嗽(Unexplained Chronic Cough:UCC)からなることが記されている。本邦では、RCC/UCCに適応のある唯一の治療薬が、選択的P2X3受容体拮抗薬のゲーファピキサントである。本ガイドラインでは、RCC/UCCに対するP2X3受容体拮抗薬に関するCQが設定され、システマティックレビューの結果、ゲーファピキサントはLCQ(レスター咳質問票)合計スコア、咳VASスコア、24時間咳嗽頻度を低下させることが示された。ガイドライン作成委員の投票の結果、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])こととなった。 慢性咳嗽のtreatable traitsとして、気道疾患、GERD、慢性鼻副鼻腔炎などの12項目が挙げられている。このなかの1つとして、咳過敏症も記載されている。慢性咳嗽患者の多くはtreatable traitsとしての咳過敏症も有しており、このことを見過ごして行われる原因疾患のみの治療は、しばしば不成功に終わることが強調されている。新実氏は「原因疾患に対する治療をしたうえで、P2X3受容体拮抗薬により咳過敏症を抑えることで咳嗽をコントロールできる患者も実際にいるため、理にかなっているのではないかと考えている」と述べた。国内の専門施設では血痰・喀血の原因は年齢によって大きく異なる 前版のガイドラインは、世界初の喀痰診療に関するガイドラインとして作成されたが、6年ぶりの改訂となる本ガイドラインも世界唯一のガイドラインであると金子氏は述べる。 喀痰に関するエビデンスは少なく、前版の作成時には、とくに国内のデータが不足していた。そこで、本ガイドラインの改訂に向けてエビデンス創出のために多施設共同研究を3研究実施し(1:血痰と喀血の原因疾患、2:膿性痰の色調と臨床背景、3:急性気管支炎に対する抗菌薬使用実態)、血痰と喀血の原因疾患に関する研究の成果が英語論文として2件報告されたことから、それらのデータが追加された。 血痰と喀血の原因疾患として、前版では英国のプライマリケアのデータが引用されていた。このデータは海外データかつプライマリケアのデータということで、本邦の呼吸器専門施設で遭遇する疾患とは異なる可能性が考えられていた。そこで、国内において呼吸器専門施設での原因を検討するとともに、プライマリケアでの原因も調査した。 本邦での調査の結果、プライマリケアでの血痰と喀血の原因疾患の上位4疾患は急性気管支炎(39%)、急性上気道感染(15%)、気管支拡張症(13%)、COPD(7.8%)であり2)、英国のプライマリケアのデータ(1位:急性上気道感染[35%]、2位:急性下気道感染[29%]、3位:気管支喘息[10%]、4位:COPD[8%])と上位2疾患は急性気道感染という点、4位がCOPDという点で類似していた。 一方、本邦の呼吸器専門施設での血痰と喀血の原因疾患の上位3疾患は、気管支拡張症(18%)、原発性肺がん(17%)、非結核性抗酸菌(NTM)症(16%)であり、プライマリケアでの原因疾患とは異なっていた。また「呼吸器専門施設では年齢によって、原因疾患が大きく異なることも重要である」と金子氏は指摘する。たとえば、20代では細菌性肺炎が多く、30代では上・下気道感染、気管支拡張症が約半数を占め、40~60代では肺がんが多くなっていた。70代以降では肺がんは1位にはならず、70代はNTM症、80代では気管支拡張症、90代では細菌性肺炎が最も多かった3)。また、80代以降では結核が上位にあがって来ることも注意が必要であると金子氏は指摘した。近年注目される中枢気道の粘液栓 最近のトピックとして、閉塞性肺疾患における気道粘液栓が取り上げられている。米国の重症喘息を対象としたコホート研究「Severe Asthma Research program」において、中枢気道の粘液栓が多発していることが2018年に報告され、その後COPDでも同様な病態があることも示されたことから注目を集めている。粘液栓形成の程度は粘液栓スコアとして評価され、著明な気流閉塞、増悪頻度の増加、重症化や予後不良などと関連していることも報告されており、バイオマーカーとして期待されている。ただし、課題も存在すると金子氏は指摘する。「評価にはMDCT(multidetector row CT)を用いて、一つひとつの気管支をみていく必要があり、現場に普及させるのは困難である。そのため、現在はAIを用いて粘液スコアを評価するなど、さまざまな試みがなされている」と、課題や今後の期待を述べた。CQのまとめ 本ガイドラインにおけるCQは以下のとおり。詳細はガイドラインを参照されたい。【CQ一覧】<咳嗽>CQ1:ICSを慢性咳嗽患者に使用すべきか慢性咳嗽患者に対してICSを使用しないことを弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ2:プロトンポンプ阻害薬(PPI)をGERDによる咳嗽患者に推奨するかGERDによる咳嗽患者にPPIを弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ3-1:抗コリン薬は感染後咳嗽に有効か感染後咳嗽に吸入抗コリン薬を勧めるだけの根拠が明確ではない(推奨度決定不能)(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ3-2:抗コリン薬は喘息による咳嗽に有効か喘息による咳嗽に吸入抗コリン薬を弱く推奨する(エビデンスの確実性:D[非常に弱い])CQ4:P2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効かP2X3受容体拮抗薬はRefractory Chronic Cough/Unexplained Chronic Coughに有効であり、使用を弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])<喀痰>CQ5:COPDの安定期治療において喀痰調整薬は推奨されるかCOPDの安定期治療において喀痰調整薬の投与を弱く推奨する(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ6:COPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与は有効かCOPDの安定期治療においてマクロライド少量長期投与することを弱く推奨する(エビデンスの確実性:B[中程度])CQ7:喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法は推奨されるか喘息の安定期治療においてマクロライド少量長期療法の推奨度決定不能である(エビデンスの確実性:C[弱い])CQ8:気管支拡張症(BE)に対してマクロライド少量長期療法は推奨されるかBEに対してマクロライド少量長期療法を強く推奨する(エビデンスの確実性:A[強い])

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静注鎮静薬―機械呼吸管理下ARDSの生命予後を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 成人呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)の概念が提唱されて以来約70年が経過し、多種多様の治療方針が提唱されてきた。しかしながら、ARDSに対する機械呼吸管理時の至適鎮静薬に関する十分なる検討結果は報告されていなかった。本論評では、フランスで施行された非盲検無作為化第III相試験(SESAR試験:Sevoflurane for Sedation in ARDS trial)の結果を基に成人ARDSにおける機械呼吸管理時の至適鎮静薬について考察するが、その臨床的意義を理解するために、ARDSの病態、薬物治療、機械呼吸管理など、ARDSに関する臨床像の全体を歴史的背景を含め考えていくものとする。ARDSの定義と病態 ARDSは1967年にAshbaughらによって提唱され、多様な原因により惹起された急激な肺組織炎症によって肺血管透過性が亢進し、非心原性急性肺水腫に起因する急性呼吸不全を招来する病態と定義された(Ashbaugh DG, et al. Lancet. 1967;2:319-323.)。ARDSの同義語としてacute lung injury(ALI:急性肺損傷)が存在する。ALIは1977年にMurrayらによって提唱された概念で、ALIの重症型がARDSに相当する(Murray JF. Am Rev Respir Dis. 1977;115:1071-1078.)。 ARDS発症1週以内は急性期と呼称され、肺胞隔壁の透過性亢進に起因する肺水腫を主体とするびまん性肺組織損傷(DAD:diffuse alveolar damage)を呈する。発症より1~2週が経過すると肺間質の線維化、II型肺胞上皮細胞の増殖が始まる(亜急性期)。発症より2~4週以上が経過すると著明な肺の線維化が進行し、肺組織破壊に起因する気腫病変も混在するようになる(慢性期)。本論評では、ARDS発症より2週以内をもって急性期、2~4週経過した場合を亜急性期、4週以上経過した場合を慢性期と定義する。 ARDSにおける肺の線維化は特発性間質性肺炎(肺線維症)の末期像に相当するものであり、10年の経過を要する肺線維症の病理像がわずか数週間で確立してしまう恐ろしい病態である(急性肺線維症)。急性期ARDSの主たる死亡原因が急性呼吸不全(重篤な低酸素血症)であるのに対して、慢性期のそれは急性肺線維症に起因する慢性呼吸不全に関連する末梢組織/臓器の多臓器障害(MOF:multiorgan failure)である。以上のように、ARDSにおける急性期病変と慢性期病変は質的に異なる病態であり、治療方針も異なることに留意する必要がある。急性期ARDSの薬物治療―歴史的変遷 新型インフルエンザ、新型コロナなど、人類が免疫を有さない新たな感染症のパンデミック時期を除いて、ARDSの年間発症率は2~8例/10万例と想定されており、急性期の致死率は25~40%である。ARDS発症に関わる分子生物学的病態解明に対する積極的な取り組み、それらを基礎とした多種多様の急性期治療が試みられてきた。しかしながら、ARDSの急性期致死率は上記の値より少し低下してきているものの、2025年現在、明確な減少が確認されていないのが現状である。 世界各国において独自のARDS診療ガイドラインが作成されているが、本邦でも、日本呼吸療法医学会(1999年、2004年)、日本呼吸器学会(2005年、2010年)ならびに、日本集中治療医学会、日本呼吸器学会、日本呼吸療法医学会の3学会合同(2016年、2021年)によるARDS診療ガイドラインが作成された。これらの診療ガイドラインにあって2021年に作成された3学会合同のガイドラインには、成人ARDSに加え小児ARDSの治療、呼吸管理に関しても項目別にコメントが示されており臨床的に有用である(ARDS診療ガイドライン2021作成委員会編. 日集中医誌. 2022;29:295-332.)。 以上のARDS診療ガイドラインの臨床現場における有用性は、2020年3月~2023年5月の約3年間にわたる新型コロナパンデミックに起因する中等症II(呼吸不全/低酸素血症を合併)、重症(ICU入院、機械呼吸管理を要する)のARDSを基に検証が進められた。新型コロナ惹起性重症ARDSに対する薬物治療にあって最も重要な知見は、免疫過剰抑制薬としての低用量ステロイドによるARDS発症1ヵ月以内の生命予後改善効果である(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)。以上に加え、低用量ステロイド併用下で免疫抑制薬であるIL-6拮抗薬トシリズマブ(商品名:アクテムラ)が新型コロナ関連ARDSの早期生命予後を改善することが報告された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645.)。さらに、抗ウイルス薬レムデシビル併用下で免疫抑制薬JAK-STAT阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)が新型コロナによる早期ARDSの生命予後を改善することも示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2022;400:359-368.)。 以上の結果を踏まえ、本邦における中等症II以上の重篤な新型コロナ感染症に対する急性/亜急性期の基本的薬物治療として上記3剤の使用が推奨されたことは記憶に新しい。しかしながら、以上の結果は、早期の新型コロナ感染に対する知見であり、感染後1ヵ月以上経過した慢性期(肺線維症形成期)に対するものではない。 ARDSの慢性期においてステロイドを持続的に投与すべきか否かに関する確実な検証(投与量、期間)はなされておらず、ARDSの慢性期を含めた長期生命予後に対してステロイドがいかなる効果をもたらすかは今後の重要な検討課題の1つである。さらに、ARDSの病態を呈しながら中/高用量のステロイド投与の効果が証明されているARDSも存在することを念頭に置く必要がある(脂肪塞栓、ニューモシスチス肺炎、胃酸の誤飲、高濃度酸素曝露、異型性肺炎、薬剤性、急性好酸球性肺炎などに起因するARDS)。一方、グラム陰性桿菌の敗血症に起因する重症ARDSに対しては、新型コロナ感染症の場合と同様に低用量ステロイド投与を原則とする(Bone RC, et al. N Engl J Med. 1987;317:653-658.)。以上のように、重症ARDSに対する初期ステロイドの投与量はARDSの原因によって異なることに留意する必要がある(山口. 現代医療. 2002;34(増3):1961-1970.)。ARDSの呼吸管理―静注鎮静薬による生命予後の改善 重症ARDSの呼吸管理は、非侵襲的陽圧換気(NPPV:non-invasive positive pressure ventilation)や高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC:high flow nasal cannula)など、気管挿管なしの非侵襲的呼吸補助から始まる。しかしながら、気管挿管の遅れはARDSの死亡リスクを上昇させる危険性が指摘されている。非侵襲的手段で呼吸不全が管理できない場合には、気管挿管下の呼吸管理に早期に移行する必要がある。 気管挿管下の呼吸管理は、一回換気量(TV:tidal volume)を抑制したlow tidal ventilation(L-TV、TV=4~8mL/kg)に比較的高い呼気終末陽圧呼吸(PEEP:positive end-expiratory pressure、PEEP=10cmH2O以上)を加味して開始される(肺保護換気)。L-TVはARDSで損傷した肺組織のさらなる損傷悪化を抑制すると同時に生体内CO2貯留を許容する換気法でpermissive hypercapniaとも呼称される。L-TVの効果を上昇させるものとして腹臥位呼吸法がある(肺の酸素化効率を上昇)。急性期ARDSに対するpermissive hypercapniaの臨床的重要性(早期の生命予後改善効果)は1990年から2000年代初頭にかけて世界で検証が試みられたが、確実に“有効”と結論できるものではなかった(cf. Acute Respiratory Distress Syndrome Network. N Engl J Med. 2000;342:1301-1308.)。人工呼吸器管理で酸素化が維持できない場合に、肺保護の一環として体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)が適用される。ECMOによる肺保護治療が注目されたのは、2009年の新型インフルエンザパンデミックの発生時であった。その教訓を生かし、2020年における本邦のECMO設置率は50病床に1台と、世界有数のECMO保有国に成長した。しかしながら、高額医療であるECMO導入によって急性期ARDSの生命予後が真に改善するかどうかに関する臨床データは不十分であり、今後の検証が望まれる。 以上のように、現在のところ、呼吸管理法としていかなる方法がARDSの生命予後改善に寄与するかを確実に検証した試験は存在しない。今回論評するSESAR試験は、フランス37ヵ所のICUで施行された侵襲的機械呼吸施行時における吸入鎮静薬(セボフルラン、346例)と静注鎮静薬(プロポフォール、341例)の比較試験である。SESAR試験は、新型コロナ感染症が猛威を振るった2020~23年に施行されたもので、試験対象の50%以上が新型コロナに起因する中等症以上の成人ARDSであった。しかしながら、敗血症、誤飲、膵炎、外傷など、他の原因によるARDSも一定数含まれ、ARDS全体の動向を近似的に反映した試験と考えてよい。本試験において、ARDSの重症度、抗菌薬、ステロイド、機械呼吸の内容を含め、鎮静薬以外の因子は両群でほぼ同一に維持された。primary endpointとして試験開始28日以内の機械呼吸なしの日数、key secondary endpointとして試験開始90日での死亡率が検討された。その結果、28日以内の機械呼吸なしの日数、90日での死亡率はともに、静注鎮静薬プロポフォール群で有意に優れていることが判明した(90日目の死亡率:プロポフォール群でセボフルラン群に比べ1.3倍低い)。以上の内容は、ARDS発症後の慢性期(ARDS発症後4週以上で肺線維症形成期)に対しても静注鎮静薬による急性期呼吸管理が有利に働くことを示したものであり、ある意味、驚くべき結果と言ってよい。 以上、静注鎮静薬による初期呼吸管理がARDS慢性期の生命予後を有意に改善することが示されたが、今後、多数の侵襲的呼吸管理法の中でいかなる方法が急性~慢性期のARDSの生命予後改善に寄与するかに関し、組織的な比較試験が施行されることを望むものである。

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β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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喘息治療における吸入薬投与の最適なタイミングとは

 喘息患者は、1日1回の吸入ステロイド薬を遅めの午後に使用することで、夜間の症状を効果的にコントロールできる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英マンチェスター大学のHannah Jane Durrington氏らによるこの研究結果は、「Thorax」に4月15日掲載された。 薬物投与のタイミングを体内時計に合わせる治療法はクロノセラピー(時間治療)と呼ばれ、薬の治療効果を高めることが期待されている。Durrington氏らによると、喘息には明確な日内リズムがあり、気流閉塞と気道炎症の主要な影響は夜間にピークに達する。実際、致死的な喘息発作の約80%は夜間に発生しているという。 このことを踏まえてDurrington氏らは、25人の喘息患者を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、クロノセラピーの効果を検討した。対象患者は、吸入ステロイド薬のベクロメタゾンプロピオン酸エステルを、以下の3通りの投与法でランダムな順序で投与した。1)午前8〜9時の間に400μgを1日1回投与(午前投与)、2)午後3〜4時の間に400μgを1日1回投与(午後投与)、3)午前8〜9時の間と午後8〜9時の間の2回に分けて200μgずつ投与(2回投与)。投与期間は28日であり、各投与法の間には2週間のウォッシュアウト期間を設けた。 25人中21人が全ての投与法を完了した。治療により肺機能は全ての投与法でベースラインより改善していたが、改善のタイミングは投与法により異なり、午後10時のFEV1(1秒量)については、午後投与での改善が最も大きかった。FEV1とは、最大限に息を吸った後、できるだけ強く、速く息を吐き出した際の最初の1秒間の呼出量のこと。具体的には、午後投与では中央値で160mLの改善が認められたのに対し、2回投与では中央値で80mLの改善にとどまっており、午前投与では中央値で−20mLと改善は認められなかった。また、午後投与は夜間(午後10時と午前4時)の血中好酸球数の抑制に最も効果的だった。好酸球の増加は、気道の炎症や過敏性、狭窄の原因として知られている。 研究グループは、「これらの結果は、人の体内時計に合わせて投与のタイミングを調整するクロノセラピーの有効性を裏付けるものだ」と述べている。研究グループは、喘息の症状に関連する炎症の連鎖は午後半ばに始まる傾向があり、そのときに予防的な吸入薬を投与すると効果が高まる可能性がある」と指摘している。 一方、本論文の付随論評では、午後投与では肺機能と好酸球数の点で臨床的に重要な違いが確認されたものの、全体的な症状のコントロールが優れていたとは言えないことが指摘されている。ただし、それは対象者数の少なさと追跡期間の短さが原因である可能性はある。付随論評の著者の1人である英キングス・カレッジ・ロンドンのRichard Edward Russell氏は、「これらの研究結果を臨床実践に応用する場合、最大の課題は喘息治療の遵守になるだろう。一般人口の約30~40%が吸入ステロイド薬を指示通りに使用することに苦労している現状を考えると、使用時間を限定することは事態をさらに複雑にする可能性がある」と述べている。 研究グループは、本研究で確認された吸入ステロイド薬の投与のタイミングが夜間の発作に与える影響を確認するために、より大規模な試験の実施を推奨している。

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触覚フィードバックで軽度アトピー性皮膚炎患者における夜間掻痒が軽減

 軽度のアトピー性皮膚炎に対する触覚フィードバックは、患者の夜間掻痒を軽減させる非薬理学的介入として使用できる可能性があるという研究結果が、「JAMA Dermatology」に2月5日掲載された。 米ミシガン大学アナーバー校のAlbert F. Yang氏らは、単アーム2段階コホート試験を実施し、クローズドループ・触覚フィードバックを備えた人工知能(AI)対応ウェアラブルセンサーについて、軽症アトピー性皮膚炎の夜間掻痒症状に対する検出精度および軽減効果を検討した。試験には、中等度~重度の掻痒行動を自己申告した軽症アトピー性皮膚炎患者が対象者として登録された。手に装着したウェアラブルセンサーから送られる触覚フィードバックは、AIアルゴリズムによって夜間掻痒症状が検出されたときに発せられる。対象者は、まず検出機能のみ作動させたセンサーを7日間装着し、その後触覚フィードバックも作動させた状態でセンサーを7日間装着した。 対象者10人について、合計104回、831時間の夜間睡眠がモニタリングされた。追跡期間中に試験から脱落した対象者はいなかった。解析の結果、第2週目に触覚フィードバックを作動させると、1夜当たりの掻痒イベント平均回数が28%有意に減少し(45.6回対32.8回)、睡眠1時間当たりの掻痒平均時間に50%の有意差が認められた(15.8秒対7.9秒)。総睡眠時間の減少はなかった。 著者らは、「この技術は、全身治療の適応でない、あるいはステロイド外用薬の使用を希望しないが掻痒行動が多いと訴える軽症AD患者において、掻痒行動を減少させるための単独、あるいはより現実的には補助的な治療機器として役立つ可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、本研究の一部助成を行い、特許を出願中であるマルホ社と、1人の著者がアッヴィ社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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好酸球数高値COPD、メポリズマブで中等度/重度の増悪低減/NEJM

 インターロイキン-5(IL-5)は好酸球性炎症において中心的な役割を担うサイトカインであり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の20~40%に好酸球性炎症を認める。メポリズマブはIL-5を標的とするヒト化モノクローナル抗体である。米国・ピッツバーグ大学のFrank C. Sciurba氏らMATINEE Study Investigatorsは、「MATINEE試験」において、好酸球数が高値のCOPD患者では、3剤併用吸入療法による基礎治療にプラセボを併用した場合と比較してメポリズマブの追加は、中等度または重度の増悪の年間発生率を有意に低下させ、増悪発生までの期間が長く、有害事象の発現率は同程度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年5月1日号に掲載された。25ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 MATINEE試験は、血中好酸球数が高値で、増悪リスクのあるCOPD患者における3剤吸入療法へのメポリズマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年10月~2023年8月に25ヵ国344施設で患者を募集した(新型コロナウイルス感染症のため2020年3月23日~6月9日まで募集を中断)(GSKの助成を受けた)。 スクリーニング時に年齢40歳以上で、少なくとも1年前にCOPDの診断を受け、増悪の既往歴を有し、3剤吸入療法(吸入ステロイド薬、長時間作用型β2刺激薬、長時間作用型抗コリン薬)を3ヵ月以上受け、血中好酸球数≧300/μLの患者804例(平均[±SD]年齢66.2[±8.0]歳、女性31%)を修正ITT集団として登録した。 被験者を、4週ごとにメポリズマブ(100mg)を皮下投与する群(403例)、またはプラセボ群(401例)に無作為に割り付け、52~104週間投与した。 主要エンドポイントは、中等度または重度の増悪の年間発生率であった。治療への反応性には差がない 重度増悪の既往歴はメポリズマブ群で22%、プラセボ群で19%の患者に認めた。全体の25%の患者が過去または現在、心疾患の診断を受けており、72%が心血管疾患のリスク因子を有していた。平均曝露期間は両群とも約15ヵ月だった。 中等度または重度の増悪の年間発生率は、プラセボ群が1.01件/年であったのに対し、メポリズマブ群は0.80件/年と有意に低かった(率比:0.79[95%信頼区間[CI]:0.66~0.94]、p=0.01)。 また、副次エンドポイントである中等度または重度の増悪の初回発生までの期間中央値(Kaplan-Meier法)は、プラセボ群の321日と比較して、メポリズマブ群は419日であり有意に長かった(ハザード比:0.77[95%CI:0.64~0.93]、p=0.009)。 治療への反応性(QOLの指標としてのCOPDアセスメントテスト[CAT:0~40点、高スコアほど健康状態が不良であることを示す]のスコアが、ベースラインから52週目までに2点以上低下した場合)を認めた患者の割合は、メポリズマブ群が41%、プラセボ群は46%であり(オッズ比:0.81[95%CI:0.60~1.09])、両群間に有意な差はなかったため、階層的検定に基づきこれ以降の副次エンドポイントの評価に関して統計学的検定を行わなかった。MACEは両群とも3例に発現 投与期間中およびその後に発現した有害事象の割合は、メポリズマブ群で75%、プラセボ群で77%であった。投与期間中に発生した重篤な有害事象・死亡の割合はそれぞれの群で25%および28%であり、投与期間中およびその後の死亡の割合は両群とも11%(3例)だった。投与期間中およびその後に発生した主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死性の心筋梗塞・脳卒中、致死性または非致死性の心筋梗塞・脳卒中)は、両群とも11%(3例)に認めた。 著者は、「これらの知見は、ガイドラインに基づく維持療法のみを受けている患者に対して、メポリズマブ治療は付加的な有益性をもたらすことを示している」「先行研究と本試験の結果を統合すると、選択されたCOPD患者における2型炎症を標的とする個別化治療の妥当性が支持される」「増悪関連のエンドポイントはメポリズマブ群で良好であったが、CAT、St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)、Evaluating Respiratory Symptoms in COPD(E-RS-COPD)、気管支拡張薬投与前のFEV1検査で評価した治療反応性は両群間に実質的な差を認めなかったことから、これらの原因を解明するための調査を要する」としている。

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第261回 なぜ鳥居薬品を?塩野義製薬の買収戦略とは

製薬業界は世界的に見ると、再編が著しい業界である。いわゆる老舗の製薬企業同士の合併・買収という意味では、2020年の米国・アッヴィによるアイルランド・アラガンの買収が近年では最新の動きと言えるだろうが、欧米のメガファーマによるバイオベンチャー買収は日常茶飯事の出来事と言ってよい。これに対し日本の製薬企業でも、上位企業によるメガファーマ同様のバイオベンチャー買収が一昔前と比べて盛んになったことは事実だ。ただ、新薬開発能力のある製薬企業は売上高で4兆円超の武田薬品を筆頭に下は500億円規模まで約30社がひしめく、世界的に見ても稀なほど“過密”な業界でもある。このためアナリストなどからは、1990年代から判で押したように「国内再編が必至」と言われてきた。その中で国内の製薬企業同士の合併や経営統合などが盛んだったのが2005~07年にかけてである。藤沢薬品工業と山之内製薬によるアステラス製薬、第一製薬と三共による第一三共、大日本製薬と住友製薬による大日本住友製薬(現・住友ファーマ)、田辺製薬と三菱ウェルファーマによる田辺三菱製薬はいずれもこの時期に誕生している。上場製薬企業あるいは上場企業の製薬部門の合併で言うと、もっとも直近は2008年の協和発酵キリン(現・協和キリン)だろう。あれから15年間、国内製薬企業は“沈黙”を続けてきたが、それが突如破られた。ゴールデンウイーク明けのつい先日、5月7日に塩野義製薬が「日本たばこ産業(JT)の医薬事業を約1,600億円で買収する」と発表したのだ。JTと鳥居薬品の歴史JTの医薬事業というのはやや複雑な構造をしているが、それを解説する前にJTの沿革について簡単に触れておきたい。JTはかつてタバコ・塩・樟脳(しょうのう)※の専売事業を行っていた旧大蔵省外局の専売局が外郭団体・日本専売公社として分離独立し、それが1985年に民営化されて誕生した。すでに1962年に樟脳の専売制度は廃止され、民営化時点ではタバコと塩の専売事業を引き継いだが、塩の製造販売は1997年に自由化され、すでにJTの手を離れている。※クスノキの根や枝を蒸留して作られ、香料や医薬品、防虫剤、セルロイドなどの原料となる。ただ、民営化直後からたばこ事業の将来性には一定のネガティブな見通しは持っていたのだろう。民営化直後から事業開発本部を設置し、1990年7月までに同本部を改組し、医薬、食品などの事業部を新設。1993年9月には医薬事業の研究体制の充実・強化を目的に医薬総合研究所を設置した。ただ、衆目一致するように医薬、いわゆる製薬事業は自前での研究開発から製品化までのリードタイムは最短で10数年とかなり気の長い事業である。そうしたことも影響してか、1998年に同社は国内中堅製薬企業の鳥居薬品の発行済株式の過半数を、株式公開買付(TOB)により取得し、連結子会社化した。子会社化された鳥居薬品は国内製薬業界では中堅でやや影が薄いと感じる人も少なくないだろうが、1872年創業の老舗である。たぶん私と同世代の医療者は同社の名前から連想するのは膵炎治療薬のナファモスタット(商品名:フサンほか)や痛風・高尿酸血症治療薬のベンズブロマロン(商品名:ユリノームほか)だろうか? 近年では品薄で供給制限が続いているスギ花粉症の減感作療法薬であるシダキュアが有名である。JTによる買収後は、研究開発機能がJT側、製造・販売が鳥居薬品という形で集約化されていた。余談だが、私が専門誌の新人記者だった頃、当時の上司は“鳥居薬品は研究開発力が高く、将来の製薬企業再編のキーになる”ことを予言していた…。塩野義の買収計画さて、今回の塩野義によるJT医薬事業の買収は以下のようなスキームだ。現在、鳥居薬品の株式の54.78%はJTが保有し、残る45.22%が株式市場で売買されている。まず、塩野義はこの45.22%を2025年5月8日~6月18日までの期間、1株6,350円、総額約807億円でTOBする。これが終了した後に鳥居薬品のJT持ち株分を鳥居薬品自身が約700億円で取得し、9月までの完全子会社化を目指す。この後さらに2025年12月までにJT医薬事業は会社分割して54億円で塩野義、JTの米国・子会社のAkros Pharmaを36億円で塩野義の米国・子会社Shionogi Incがそれぞれ買収する。JTの医薬事業は塩野義に吸収されるが、米Akros Pharma社はShionogi Incの完全子会社となる。なぜJTを?今回の買収は、昨年、塩野義からJTに対しオファーがあったことから始まったという。会見後に塩野義製薬代表取締役社長の手代木 功氏にこの点を尋ねたところ、「ここ数年、低分子創薬領域でのメディシナルケミスト(創薬化学者)の確保を念頭に薬学部だけでなく、農学部など幅広い領域への浸透を図り、米国・カリフォルニア州サンディエゴに細菌感染症治療薬の研究開発拠点の開設も目指していた。しかし、昨年買収したキューペックス社でも人材確保が思うように進まなかった」とのこと。そうした中でメディシナルケミストの層が厚いJTグループに注目したのがきっかけだったと話した。また、手代木氏はJT・鳥居の研究開発拠点が横浜市と大阪府高槻市にあり、とくに後者は塩野義の研究開発拠点である大阪府豊中市に近いことも大きな利点だったと語った。実際、会見の中でも手代木氏は「(研究拠点の近さも)大きなリストラなく進められる。研究所勤務者は異動、転勤などに不慣れだが、ここも非常にフィットすると考えた」と強調した。この辺は、研究開発畑出身の手代木氏らしい考えでもある。一方のJT側は「近年、新薬創出のハードルが上昇しているうえに、グローバルメガファーマを中心に国際的な開発競争が激化している。当社グループの事業運営では、医薬事業の中長期的な成長が不透明な状況だった」(JT代表取締役副社長・嶋吉 耕史氏)、「JTプラス鳥居という体制でこのまま事業を継続するよりも、より早く、より大きく、より確実に事業を成長させることができるのではないかと考えられた」(鳥居薬品代表取締役社長・近藤 紳雅氏)と語った。このJTと鳥居薬品側の説明は、ある意味、当然とも言える。現在のメガファーマの年間研究開発費は上位で軽く1兆円を超え、日本トップで世界第14位の武田薬品ですら7,000億円。しかし、JT・鳥居薬品のそれはわずか30億円強である。ちなみに塩野義の年間研究開発費は1,000億円超である。もっともメガファーマとの研究開発費規模の違いは、メガファーマの多くが高分子の抗体医薬品に軸足を置いているのに対し、塩野義や鳥居は低分子化合物が中心であるという事情も考慮しなければならない。とはいえ、JT・鳥居に関しては成長のドライバーとなる新薬を生み出す源泉の規模がここまで異なると、もはや「小さくともキラリと光る」ですらおぼつかないと言っても過言ではないのが実状だろう。今後の成長戦略さて今後は買収をした塩野義側がこれを土台にどう成長していくか? という点に焦点が移る。同社は2023~30年度の中期経営計画「STS2030 Revision」で2030年度の売上高8,000億円を目標に掲げている。現在地は2024年3月期決算での4,351億円である。単純計算すると、今回の買収でここに約1,000億円が上乗せされるが、新薬創出の不確実さを踏まえれば、2030年の目標はかなりハードルが高いと言わざるを得ない。しかも、同社は感染症領域が主軸であるため、どうしても製品群が対象とする感染症そのものの流行に業績が左右される。こうしたこともあってか前述の中期経営計画では「新製品/新規事業拡大」を強調し、既存の感染症領域のみならずアンメッド創薬などポートフォリオ拡大を掲げてきた。今回、JT・鳥居を買収することでアレルゲン領域・皮膚疾患領域へとウイングを広げることは可能になった。国内製薬業界では従来から塩野義の営業力への評価は高いだけに、今回の買収で今後のJT・鳥居の製品群の売上高伸長が予想される。とくに鳥居側には現在需要に供給が追い付かずに出荷制限となっている前述のシダキュアがあり、皮膚領域では2020年に発売されたばかりだが業績が好調なアトピー性皮膚炎治療薬のJAK阻害薬の外用剤・デルゴシチニブ(商品名:コレクチム軟膏)もある。塩野義と言えば、アトピー性皮膚炎治療薬ではある種の定番とも言われるステロイド外用薬のベタメタゾン吉草酸エステル(商品名:リンデロンVクリームほか)を有している企業でもある。実際、手代木氏も会見で「皮膚領域は今でこそそこまで強くないものの、かつてはステロイド外用薬の企業として一世を風靡し、現状でもそれなりの取り扱いはあり、このあたりの営業のフィットも非常に良い」と述べた。とはいえ、現状の両社業績をベースにJT・鳥居の製品群に対する塩野義の営業力強化を折り込んでも今後2~3年先までは売上高6,000億円規模ぐらいが限界ではないだろうか? その意味では同社が8,000億円という目標に到達するには、今後上市される新製品の売上高をかなりポジティブに予想しても、もう一段の再編は必要になるかもしれない。一方、何度も手代木氏が強調した研究開発力の強化では、塩野義の100人プラスアルファというメディシナルケミスト数にJTグループの約80人が組み込まれ、「全盛期の数にもう一度戻れる」(手代木氏)ことを明らかにするとともに、自社の研究開発リソースでは強化が及ばなかった免疫領域・腎領域にも手が届くようになるとも語った。同時に手代木氏が会見の中で語ったのは買収に至るデューディリジェンスでわかったJTのAI創薬と探索研究のレベルの高さである。「AI創薬のプラットフォームは正直に言って当社よりはるかに上で、日本の中でも相当進化している。当社の人間が見させていただいてすぐにでも一緒にやりたいと言ったほど。また、JTはフェーズ2ぐらいでのメガカンパニーへのライセンス・アウトを念頭にどうやったらそれが可能か意識をした前臨床・初期臨床試験を進めている。この点では多分当社より上を行く」以前の本連載でも私自身は日本の製薬業界は低分子創薬の世界ですらもはや後進国になりつつあると指摘したが、今回、手代木氏は“新生”塩野義製薬について「“グローバルでNo.1の低分子創薬力”を有する製薬企業となる」と大きなビジョンを掲げた。今回の件が国内製薬企業の再編へのきっかけと低分子創薬の復権につながるのか? 慎重に見守っていきたいと思う。参考1)JT

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オキシトシン受容体拮抗薬atosibanは48時間以内の分娩を予防するが、新生児転帰を改善せず(解説:前田裕斗氏)

 切迫早産に対する子宮収縮抑制薬の分娩延長効果、新生児転帰の改善効果をプラセボと比較したランダム化比較試験である。子宮収縮抑制薬にはβ刺激薬やCa拮抗薬など、すでに点滴製剤がさまざまにある中で、今回新たにオキシトシン受容体拮抗薬についての研究が出された背景には、(1)オキシトシン受容体拮抗薬は副作用が他薬と比べて起こりにくいこと(2)オキシトシン受容体拮抗薬の大規模な研究、とくにRCTが存在しなかったことの2点がある。 結果からは、48時間以上の妊娠期間延長(atosiban群78%vs.プラセボ群69%、リスク比[RR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.03~1.23)および副腎皮質ステロイドの投与完遂率(atosiban群76%vs.プラセボ群68%、RR:1.11、95%CI:1.02~1.22)については有意に認められたものの、新生児死亡ないし重大合併症をまとめた複合アウトカムについては有意な減少効果は認められなかった(atosiban群8%vs.プラセボ群9%、RR:0.90、95%CI:0.58~1.40)。 他の子宮収縮抑制薬と比較すると、Ca拮抗薬、β刺激薬ともに48時間の分娩延長効果は有意に認められており、新生児転帰の改善効果についてはβ刺激薬では認められず、Ca拮抗薬ではメタアナリシスで有意な改善が報告されている。これだけ見るとCa拮抗薬に軍配が上がりそうだが、atosibanは今回の研究でも合併症発生率が低く検出力が足りていなかった可能性があること、研究数が少なくメタアナリシスが困難であることなどから結論は出せないと考えてよい。 日本ではatosibanは未発売であるが、今後発売されれば副作用の少なさから他薬より優先的に使用される可能性はあるだろう。最後にこれは感想であるが、本研究を見ていると早産治療の限界を感じる。短期間の子宮収縮抑制薬+副腎皮質ステロイド投与という標準治療を、切迫早産疑いの妊婦におしなべて投与するだけでは効果不十分であるかもしれないと考えると、本当に早産になる症例の予測か、あるいは新規に新生児転帰を改善する治療法の出現が待たれる。

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デルゴシチニブ クリーム、重症慢性手湿疹に有効/Lancet

 重症の慢性手湿疹の治療において、デルゴシチニブ クリーム (外用汎ヤヌスキナーゼ[JAK]阻害薬)はalitretinoin経口投与と比較して、24週間にわたり優れた有効性と良好な安全性プロファイルを示すことが、スペイン・Universitat Pompeu Fabra大学のAna Maria Gimenez-Arnau氏らtrial investigatorsが実施した「DELTA FORCE試験」で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年4月16日号で報告された。欧米10ヵ国の第III相無作為化実薬対照比較試験 DELTA FORCE試験は、重症慢性手湿疹の治療において、全身療法薬として欧米で唯一承認されている経口alitretinoinとの比較におけるデルゴシチニブ クリームの有効性と安全性の評価を目的とする第III相評価者盲検無作為化実薬対照比較試験であり、2022年6月~2023年12月に北米と欧州の10ヵ国102施設で参加者の無作為化を行った(LEO Pharmaの助成を受けた)。 年齢18歳以上の重症慢性手湿疹(Investigator’s 's Global Assessment for Chronic Hand Eczema[IGA-CHE]スコア[0~4点]が4点)の患者513例(年齢中央値45.0歳[四分位範囲:33.0~56.0]、女性65%)を対象とし、デルゴシチニブ クリーム(20mg/g、1日2回)を塗布する群(254例)、またはalitretinoin(30mg、1日1回)を経口投与する群(259例)に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で24週間投与した。 主要エンドポイントは、手湿疹重症度指数(HECSI)スコア(範囲:0~360点、6つの臨床徴候[各0~3点]、5つの部位[各0~4点])のベースラインから12週までの変化量とした。主な副次エンドポイントもすべて有意に良好  デルゴシチニブ クリーム群の250例とalitretinoin群の253例を最大の解析対象集団(FAS)とし、ベースラインのHECSIデータが得られなかったそれぞれ1例および3例を主解析から除外した。曝露期間平均値は、それぞれ149.7日および119.8日だった。 HECSIスコアのベースラインから12週までの変化量の最小二乗平均値は、alitretinoin群が-51.5(SE 3.4)点であったのに対し、デルゴシチニブ クリーム群は-67.6(3.4)点と改善効果が有意に優れた(群間差:-16.1点[95%信頼区間[CI]:-23.3~-8.9]、p<0.0001)。 また、7項目の主な副次エンドポイントはいずれも、デルゴシチニブ クリーム群で有意に良好であった(12週時のHECSI-90[HECSIの90%以上の改善、p=0.0027]、12週時のIGA-CHEに基づく治療成功[スコアが0または1点で、ベースラインから2点以上の改善、p=0.0041]、12週時の手湿疹症状日誌[HESD]のそう痒の変化量[p=0.0051]、12週時のHESDの疼痛の変化量[p=0.018]、24週時のHECSI-90のAUC[p=0.0010]、24週時の皮膚科疾患生活の質指数[DLQI]のスコア低下のAUC[p<0.0001]、24週時のHECSIスコアの変化量[p<0.0001])。試験薬関連・投与中止に至った有害事象が少ない 有害事象は、alitretinoin群で247例中188例(76%)に認めたのに比べ、デルゴシチニブ クリーム群では253例中125例(49%)と少なかった(率比:0.39[95%CI:0.34~0.45]、リスク群間差:-26.7%[95%CI:-34.5~-18.3])。 最も頻度の高い有害事象は、頭痛(デルゴシチニブ クリーム群4%vs.alitretinoin群32%、率比:0.14[95%CI:0.09~0.23]、リスク群間差:-28.4%[95%CI:-34.8~-22.1])、鼻咽頭炎(12%vs.14%、0.71[0.46~1.09]、-1.9%[-7.8~4.0])、悪心(<1%vs.6%、0.06[0.01~0.43]、-5.3%[-8.9~-2.4])であった。 重篤な有害事象の頻度に両群で差はなく(デルゴシチニブ クリーム群2%vs.alitretinoin群5%、率比:0.36[95%CI:0.13~1.02]、リスク群間差:-2.9%[95%CI:-6.5~0.4])、死亡例の報告はなかった。また、試験薬関連の有害事象(probablyまたはpossibly)(9%vs.54%、0.08[0.06~0.12]、-44.8%[-51.6~-37.2])および試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象(1%vs.10%、0.08[0.03~0.22]、-8.9%[-13.4~-5.1])はalitretinoin群で多かった。 著者は、「デルゴシチニブ クリームは、コルチコステロイド外用薬や全身療法の長期使用に伴う安全性の懸念なしに、効果的な疾患コントロールをもたらす非ステロイド外用薬の選択肢を提供する可能性がある」としている。

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NSAIDsの長期使用で認知症リスク12%低下

 新たな研究によると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用は認知症リスクを12%低下させる関連性が認められたが、短期および中期使用では保護効果は認められなかったという。オランダ・エラスムスMC大学医療センターのIlse Vom Hofe氏らによる本研究の結果はJournal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年3月4日号に掲載された。 研究者は、前向きの地域ベース研究であるロッテルダム研究から、ベースライン時に認知症のない1万1,745例を分析対象とした。NSAIDs使用データは薬局調剤記録から抽出され、参加者は非使用、短期使用(1ヵ月未満)、中期使用(1~24ヵ月)、長期使用(24ヵ月超)の4グループに分類され、定期的に認知症のスクリーニングを受けた。年齢、性別、生活習慣要因、合併症、併用薬などを調整因子として解析した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間14.5年の間に、1万1,745例(平均年齢66歳、女性60%)の参加者の18%が認知症と診断された。追跡期間終了時までに参加者の81%がNSAIDsを使用した。・NSAIDs使用は、長期使用者において認知症リスクの低下(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI] :0.84~0.91)と関連していたが、短期使用(HR:1.04、95%CI :1.02~1.07)と中期使用(HR:1.04、95%CI:1.02~1.06)では小さなリスク増加が観察された。・NSAIDsの累積用量は、認知症リスクの低下と関連しなかった。・非アミロイドβ(Aβ)低下作用型NSAIDsの長期使用における認知症リスク低下は、Aβ低下型NSAIDsよりも大きかった(HR:0.79対0.89)。・NSAIDsの長期使用による保護効果はAPOE4(対立遺伝子)を持たない参加者(HR:0.86)では観察されたが、有する参加者(HR:1.02)では観察されなかった。・NSAIDsの長期使用と発症リスクとの関連は、全原因認知症よりもアルツハイマー型認知症においてより顕著だった(HR:0.79)。 研究者らは「当研究は、抗炎症薬が認知症の進行に対する予防効果を有する可能性を示しており、その効果は累積用量ではなく、使用期間による可能性がある。しかし、副作用のリスクを考慮すると、認知症予防のために長期的なNSAIDs治療を推奨する根拠は不十分であり、さらなる研究が必要である」とした。

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エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

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