高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。
「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。
本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。
主な結果は以下のとおり。
・ベースラインの患者特性
【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】
エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg
トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg
【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】
エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg
トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg
・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。
【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】
エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg
トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg
群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg
【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】
エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg
トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg
群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg
・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。
【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群
65歳未満:-28.3%vs.−38.1%
65歳以上:-46.8%vs.-45.0%
【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群
65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL
65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL
・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。
エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群
有害事象:35.1%vs.37.6%
試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)
・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。
【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群
65歳未満:4.4%vs.14.0%
65歳以上:1.9%vs.9.5%
【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群
65歳未満:2.2%vs.0.8%
65歳以上:1.9%vs.0.6%
苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。
(ケアネット 古賀 公子)
■参考文献はこちら
1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.
2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.
3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.
4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.
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