COPD初の生物学的製剤デュピルマブへの期待/サノフィ

提供元:ケアネット

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公開日:2025/06/11

 

 サノフィは、2025年3月27日にデュピルマブ(商品名:デュピクセント)について、製造販売承認事項一部変更承認を取得し、「慢性閉塞性肺疾患(既存治療で効果不十分な患者に限る)」の適応が追加となった。この適応追加により、デュピルマブは慢性閉塞性肺疾患(COPD)に適応を有する初の生物学的製剤となった。

 COPD治療の中心は、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)といった気管支拡張薬である。LAMA+LABAで効果不十分かつ血中好酸球数高値の患者や、喘息病態を合併する患者には、吸入ステロイド薬(ICS)を追加した3剤併用療法(トリプル療法)が用いられることもあるが、それでも症状の残存や増悪を繰り返す患者が存在し、新たな治療選択肢が求められていた。

 そこで、サノフィは2025年5月29日にデュピルマブのCOPD適応追加に関するプレスセミナーを開催し、COPD患者が直面する課題や、デュピルマブがCOPDの治療選択肢として追加されたことの意義や期待を紹介した。

中等症以上の約9割が日常生活に負担

 サノフィは、COPD患者の日常生活における身体的および精神的な負担についての理解を深めることを目的として、吸入薬による治療を行っている40~80代のCOPD患者200例を対象に「日常生活における身体的・精神的負担に関する意識実態調査」を実施した(調査実施:エム・シー・アイ)。本調査結果をサノフィの石田 稚人氏(免疫領域メディカル統括部 呼吸器領域部長)が紹介した。

 日常生活における身体的負担に関する調査項目では、COPDにより何らかの身体的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では93.1%、軽症では70.7%にのぼった。最も多く挙げられたものは階段の上り下りであったが、中等症以上では歩行や掃除、買い物、入浴といった基本的な日常動作にまで影響が及んでいた。

 精神的負担に関する調査項目では、精神的負担を感じている患者の割合が、中等症以上では87.9%、軽症でも60.0%であり、こちらも多くの患者が負担を有していることが明らかとなった。負担を感じるようになったきっかけとしては、「できていた動作がしんどくなってきた」が最も多く、「医師から良くならない病気だと言われた」が続いた。この2つで過半数を占める結果となった。また、精神的負担への対応方法として「考えないようにする」などの回避的な対応をする傾向もみられた。

 症状の認識に関する調査項目では、何らかの症状悪化(増悪)経験がある患者の割合が、中等症以上では74.1%、軽症では61.3%であった。増悪については、約8割が主治医にその状況を伝えていた。しかし、「伝えたが、治療は変わらなかった」と回答した割合が、中等症以上では46.5%、軽症では39.1%にのぼった。なお、本調査では具体的な治療薬については調べていないため、すでにLAMA+LABA+ICSによる治療を行っているなど、治療の強化ができない患者も含まれている可能性があることには留意が必要である。

 本調査結果について、石田氏は「COPD患者は大きな身体的、精神的負担を抱えながらも適切な支援を受けられていない実態があることが示された。とくに精神的負担への対応が不十分であり、相談できる環境の整備が急務である。増悪への患者の認識が不足していることも示され、患者教育の強化が必要であることも明らかとなった。そのため、これらの課題に対して実施できることを考えていく必要がある」とまとめた。

COPDの診断率は低く、死亡者数は増加傾向に

 続いて、室 繁郎氏(奈良県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)が、COPDの社会的・臨床的課題、デュピルマブの有用性と期待について解説した。

 COPDの推定患者数は530万例とされるが、実際に治療を受けている患者数は36.2万例にとどまっているという報告がある。これについて、室氏は「見逃されているうちに進行し、重症化してから初めてCOPDと診断される場合があり、これは社会的な問題として捉えられている」と述べる。COPDによる死亡者数についても、2020年以降は徐々に増加する傾向にあり、2023年のCOPDによる死亡者数は1万6,941例、死亡率は10万例当たり14.0例と報告されている。

 以上の背景から、国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本方針である「健康日本21(第3次)」において、COPDは重要な生活習慣病の1つとして位置付けられ、2032年までにCOPDによる死亡率を減少させるという目標が設定されている。そこで、日本呼吸器学会では「木洩れ陽2032(COPD Mortality Reduction By 2032)」というプロジェクトを展開している。本プロジェクトは、COPDの認知を向上させることや、COPDを見逃さずに早期発見し、適切に治療介入することで、COPDによる死亡率を減少させることを目的としている。

トリプル療法でも約半数が効果不十分

 喘息病態非合併例では、LAMA+LABAによる治療でも頻回の増悪がみられ、かつ末梢血好酸球増多がみられる場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。また、喘息病態合併例では、ICS+LABAやICS+LAMAによる治療でも症状が悪化したり増悪がみられたりする場合は、LAMA+LABA+ICSのトリプル療法が用いられる。しかし、トリプル療法を行っても効果不十分な患者が存在し、その割合は51%にのぼるという調査結果も存在する。トリプル療法に加えて、マクロライド系抗菌薬やテオフィリン製剤、喀痰調整薬の追加が検討されることもあるが、十分な効果が見込めるとは限らず、これらの患者にはアンメットニーズが存在していた。そこで登場したのがデュピルマブである。

2型炎症を有するCOPDの増悪抑制、呼吸機能改善

 近年、COPDにおける2型炎症が注目されている。2型炎症は、主に2型ヘルパーT細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが関与するアレルギー性の炎症である。COPD患者のなかには、2型炎症を伴う患者や、喘息病態を合併する患者、アレルギー性鼻炎を合併する患者が、一定数存在すると報告されている。

 デュピルマブは、2型炎症に関与するIL-4、IL-13受容体に対する抗体製剤であり、血中好酸球数高値(300/μL超)でLAMA+LABA+ICSで効果不十分なCOPD患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「BOREAS試験」1)において有用性が検証され、COPDに対する適応が追加となった。

 BOREAS試験では、主要評価項目の中等度または重度のCOPD増悪イベントの年間発現率が、プラセボ群では1.113回/年であったのに対し、デュピルマブ群では0.788であり、デュピルマブ群が有意に改善した(リスク比:0.708、95%信頼区間:0.583~0.861、p=0.0005)。

 重要な副次評価項目の気管支拡張薬投与前の1秒量(FEV1)の変化量は、12週時においてそれぞれ75mL、155mLであり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0002)。この改善は52週時においても保たれていた。なお、155mLという値について、室氏は「治療開始前の1割強の改善に当たる」と意義の大きさを指摘した。

 また、COPD患者のQOLの指標であるSGRQ総スコアの変化量(52週時)は、それぞれ-6.463、-9.710であり、デュピルマブ群が有意に改善した(p=0.0026)。なお、臨床的に意義のある変化量とされる4以上の改善を示した割合は、それぞれ43.4%、51.2%であり、こちらもデュピルマブが有意に高率であった(p=0.0171)。

 安全性に関しては、プラセボ群と大きな差はみられず、新たな懸念は認められなかった。

 以上を踏まえて、室氏は「COPDは、過去10年間新薬が登場していなかった領域であり、最新の治療であるトリプル療法でもコントロール不十分の患者が多数存在していた。このような患者に対して、デュピルマブの有効性が示されており、リアルワールドでもベネフィットを届けていきたい」とデュピルマブへの期待を示して講演を締めくくった。

(ケアネット 佐藤 亮)

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