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腹部肥満とビタミンD欠乏の併存で中年期以降の死亡リスクが2倍以上に

 腹部脂肪が多くてビタミンDレベルが低い中高年者は、死亡リスクが最大で2倍以上高いことを示すデータが報告された。サンカルロス連邦大学(ブラジル)のTiago da Silva Alexandre氏らの研究の結果であり、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に5月6日付で論文が掲載され、7月29日に同国のサンパウロ州研究財団からリリースが発行された。 論文の上席著者であるAlexandre氏は、「腹部肥満はよく知られた健康上のリスク因子だ。またビタミンDはさまざまな臓器にホルモンとして作用しており、その欠乏により多くの身体機能が損なわれる。これら2つが併存すると互いに悪影響を増幅させ、死亡リスクをいっそう高める」と説明している。 この研究では、英国の高齢者対象縦断研究(ELSA)のデータを用いて、5,520人(平均年齢66.6±8.9歳、女性55.2%)を6年間追跡した。ウエスト周囲長が男性は102cm超、女性は88cm超を腹部肥満と定義し、ビタミンDについては50nmol/L以上を充足、30~50nmol/Lを不十分、30nmol/L未満を欠乏と分類した。死亡リスクの解析に際しては、影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、民族、喫煙・飲酒・運動習慣、BMI、教育歴、婚姻状況、経済状態、コレステロール値、うつ症状、握力、併存疾患〔高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中、がん、骨粗鬆症ほか〕、採血検査の季節など)を統計学的に調整した。 解析の結果、腹部肥満がなくビタミンDが充足している群を基準とすると、死亡リスクは、腹部肥満のないビタミンD欠乏群で1.81倍(ハザード比〔HR〕1.81〔95%信頼区間1.25~2.62〕)、腹部肥満のあるビタミンD充足群で1.47倍(HR1.47〔同1.02~2.14〕)であり、腹部肥満のあるビタミンD欠乏群で2.23倍(HR2.23〔1.50~3.33〕)であることが分かった。 Alexandre氏によると、腹部脂肪が過剰に蓄積しているとそれがビタミンDを吸収してしまうため、血液中のビタミンDの循環が妨げられるのだという。「つまり、脂肪にビタミンDが存在していても、血液中の利用できる状態のビタミンDは減っているため、諸臓器の働きの調節に関わることができないということだ。ビタミンDの欠乏は免疫機能を低下させ、肥満に伴う慢性炎症を悪化させ、死亡リスクを大幅に高める可能性がある」と同氏は述べている。 もともと軽度の慢性炎症状態であることの多い高齢者では、特にこの問題が顕著になりやすいという。「ビタミンDレベルが低く、腹部に過剰な脂肪があると、心血管疾患や代謝性疾患、そして筋肉量の減少を加速させる、好ましくない状態が形成される」とAlexandre氏は解説。なお、同氏らの研究グループではこれまでに、ビタミンD欠乏が筋力低下や脳の老化のリスクを高める可能性を報告してきている。 ビタミンDは日光を浴びることによって体内で生成される。ただし、ビタミンDが不足している場合には、サプリメントやビタミンDが豊富な魚、牛レバー、きのこ、卵黄などの摂取が勧められる。

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第76回 「アルツハイマー病の芽」が見つかっても遅くない! 15年間の追跡で見えた、食事と認知症リスク3割減の関連

認知症は「なってから」ではなく「なる前」からの備えが大切だといわれます。スウェーデンで約1,900人の高齢者を最長15年間追跡した新しい研究は、血液検査でアルツハイマー病の変化がすでに疑われる人でも、炎症を起こしにくい食事を続けている人では認知症の発症が少なかったと報告しました1)。この結果をどう受け止めればよいのか、今回はこの研究について解説していきます。血液でわかる「認知症の前触れ」アルツハイマー病では、物忘れなどの症状が現れる20年以上前から、脳の中で病的な変化が静かに始まっていることが知られています。そして近年、この変化を血液検査だけで捉えられるようになってきました。今回の研究では、アルツハイマー病に特徴的な変化を反映する「p-tau217」というタンパク質に加え、神経細胞のダメージを反映する「NfL」、脳内の炎症に関わる「GFAP」という3つの血液マーカーを測定し、値が高い(リスクが高い)人と低い人に分けたうえで、食事との関係が調べられました。対象となったのは、ストックホルムに住む60歳以上で認知症のない1,865人です。地中海食への近さ(AMED)、心臓や血管によい食事の指標(AHEI)、そして食事が炎症をどれだけ起こしにくいかを示す指標(rEDII)という3つの「食事パターン」への当てはまり具合が繰り返し評価され、平均8.4年、最長15年にわたり追跡されました。この間に240人が認知症を発症しています。リスクが高い人ほど際立った「抗炎症の食事」との関連注目すべきは、血液マーカーが高い、いわばリスクの高いグループでの結果です。炎症を起こしにくい食事、具体的には野菜や果物、全粒穀物、魚などが多く、赤身肉・加工肉や甘い飲み物が少ない食事のスコアが高い人ほど認知症の発症リスクは低く、その差はp-tau217が高い人で29%、NfLが高い人で21%、GFAPが高い人で27%と報告されました。さらに、p-tau217が高くても食事の質が高い人では、その後の10年間で認知症のない状態で過ごせる時間の損失が最大で約0.9年分少ないとも推定されています。一方で、地中海食などとの関連はむしろマーカーが低い人で目立つなど、食事パターンごとに関連の現れ方が異なる点も、この研究の興味深いところです。「もう手遅れ」ではない! ただし過信も禁物専門家は、この研究の意義を「脳にすでに病気の芽がある人でも、食事との関連が見られた点」にあると指摘しています2)。これまで食事に関する臨床試験で効果がはっきりと示されなかった背景には、脳の変化がほとんどない健康な人を主な対象としてきたことがあるのかもしれません。血液検査でリスクの高い人を選び、そうした人に食事の介入を試すという、次の世代の臨床試験への足掛かりになると期待されています。ただし、注意も必要です。これはあくまで観察研究であり、食事が認知症を防ぐと証明されたわけではありません。健康的な食事を取る人は運動習慣など他の生活習慣も健康的である可能性がありますし、対象が都市部の比較的教育水準の高い集団に偏っているという限界もあります。それでも、「血液検査で異常が見つかっても、生活習慣を整えることは無意味ではないかもしれない」と示唆した点は、多くの人にとって希望につながる知見といえるでしょう。特別なサプリメントではなく、野菜・果物・魚・全粒穀物を中心とした日々の食卓こそが、脳を守る第一歩なのかもしれません。1) Mrhar A, et al. Diet quality and dementia risk in older adults with Alzheimer pathology. JAMA Netw Open. 2026;9:e2620254.2)Charisis S, et al. Diet and dementia risk in individuals with prevalent neuropathology. JAMA Netw Open. 2026;9:e2620261.

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ESC心不全GL改訂、HFmrEF廃止・「急性心不全」は「非代償性心不全」へ/ESC2026

 欧州心臓病学会(ESC)による新たな心不全診療ガイドライン「2026 ESC Guidelines for the management of heart failure」がEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年8月28日号でオンライン公開され1)、8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において改訂の要点が解説された2)。今回の改訂では、疾患の予防と早期治療の徹底、左室駆出率(LVEF)に基づく分類の簡素化、「急性心不全」から「非代償性心不全」へ名称変更、新たな治療分類(FMT・AMT・GDIT)の導入など、時代に即した大幅な再定義が行われている。 本ガイドラインにおける主な改訂のポイントは以下のとおり。【心不全の分類・定義の刷新】LVEFに基づく分類の簡素化(HFmrEFの廃止) 従来、LVEF 41~49%の病態は「軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されていたが、今回の改訂でこの分類が廃止された。HFmrEF患者は、LVEF低下例(HFrEF)と同様の病態生理を共有し、同様の治療から恩恵を受けることが明らかになったためである。これにより、心不全のフェノタイプは以下の2つにシンプル化された。新LVEF分類・LVEFが低下した心不全(HFrEF):LVEF 50%未満で、心不全の症状・徴候を有する病態。・LVEFが保たれた心不全(HFpEF):LVEF 50%以上で、心不全の症状・徴候に加え、構造的・機能的異常やナトリウム利尿ペプチドの上昇を認める病態。予防・早期介入のためのステージ分類導入 発症予防と早期治療の徹底を目的として、心不全リスク段階(ステージA)から、前心不全(ステージB)、症候性心不全(ステージC)、重症/進行性心不全(ステージD)に至る段階的なステージ分類が採用された。また、高血圧またはステージBの心不全患者において、心不全発症リスクを低減するため、収縮期血圧130mmHg未満を目指す厳格な血圧管理がクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。「急性心不全」から「非代償性心不全」への名称変更 従来「急性心不全(Acute HF)」と呼ばれていた病態は、心機能の徐々の低下に伴い代償機構が破綻した状態を正確に表現するため、「非代償性心不全(Decompensated HF:DHF)」へ名称が変更された。DHFの初期管理においては、尿中ナトリウムモニタリングに基づく利尿薬調整(クラスIIb)や、初期安定化後のSGLT2阻害薬の院内早期導入(クラスI)が盛り込まれている。【治療分類の刷新と薬物治療のアップデート】「GDMT」から動的な3分類(FMT・AMT・GDIT)への移行 長年使用されてきた「ガイドラインに基づく薬物治療(GDMT)」という用語が見直された。新規薬剤や医療デバイスの承認に合わせて動的(dynamic)に対応し、常に最新の管理を行えるよう、治療法が以下の3クラスに再定義された。治療クラスの新たな3分類・基礎的薬物治療(FMT:Foundational medical therapy):対象を限定しない心不全患者全体に対して、罹患率や死亡率の低減に関する最も強いエビデンスを持つクラスI推奨の薬物治療。 ―HFrEFのFMT:β遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4薬剤。  ―HFpEFのFMT:MRA、SGLT2阻害薬の2薬剤。・追加的薬物治療(AMT:Additional medical therapy):特定サブ集団における転帰改善、または症状・QOL改善に特化したエビデンスを持つ薬物治療(クラスIIa/IIb推奨、または特定の症状改善目的のクラスI推奨)。・ガイドラインに基づく介入治療(GDIT:Guideline-directed interventional therapy):推奨されるすべての心臓植え込み型電子デバイス(CIED)や経カテーテル治療などのインターベンション治療。FMTの主な推奨事項・全LVEF領域におけるSGLT2阻害薬とMRAの推奨 SGLT2阻害薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、LVEFを問わずすべての有症候性心不全患者に対し、心不全入院または心血管死のリスク低減を目的としてクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。具体的な対象薬剤は以下のとおり。・SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン・MRA ―HFrEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン、エプレレノン) ―HFpEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン)、非ステロイド性MRA(フィネレノン) なお、慢性心不全の管理において、FMTは症状やバイタルサイン、血液検査を参考に少なくとも1~2週間ごとに漸増し、目標用量に達することがクラスIで推奨された。また、無症状化やLVEF改善が得られた場合であっても、原則として最高耐容用量でのFMT継続がクラスIで推奨されている。AMTの主な推奨事項・肥満を伴うLVEF 45%以上の心不全に対するGLP-1受容体作動薬 BMI 30kg/m2以上かつLVEF 45%以上の肥満を伴う有症候性心不全患者(糖尿病の有無を問わない)に対し、体重減少、運動耐容能・QOLの改善を目的としてセマグルチドまたはチルゼパチドの投与がクラスIIa(エビデンスレベルB1)で推奨された。・慢性心不全へのAMT 最適なFMTを実施しても有症候性のHFrEF(LVEF 40%以下)患者に対し、心不全入院リスク低減目的で強心配糖体(ジゴキシンまたはジギトキシン)の追加がクラスIIaで推奨された。また同様に、FMT 治療後のHFrEF(LVEF 45%未満)患者に対してはベリシグアトの追加もクラスIIbで考慮される。GDITの主な推奨事項・経カテーテル的Edge-to-Edge修復術(TEER) 最適なFMTや適応のある心臓再同期療法(CRT)を実施しても持続する、血行動態が安定した重症二次性僧帽弁閉鎖不全症を伴う有症候性HFrEF患者に対し、心不全入院リスク低減およびQOL改善を目的としたTEERがクラスI(エビデンスレベルB1)で推奨された。【早期介入の重要性と患者参加型医療への展望】 ガイドライン作成タスクフォースの共同委員長を務めたLars Kober氏(デンマーク・コペンハーゲン大学病院)は、「高齢化や肥満などのリスク因子の増加に伴い、心不全の全体的な疾病負担は高まると予想される。今回のガイドラインで特に強調したかったのは、予防と可能な限り早期からの治療開始の重要性である」とプレスリリースで述べている。さらに新たな治療用語の導入について、「10年以上前に導入された『GDMT』という用語は治療の進歩に伴い、今日において何を指すのか曖昧になっていた。新用語(FMT・AMT・GDIT)は、今後新たな薬剤やデバイスが承認された際にも柔軟に対応し、常に時代に即した概念であり続けられるよう設計されている」と解説している。 同じく共同委員長を務めたMarianna Adamo氏(イタリア・ブレシア大学)は、LVEF分類の簡素化について「軽度低下(HFmrEF)という分類は、従来臨床試験に含まれにくかった患者に光を当てるため導入されたが、これらの患者がHFrEFと同様の病態生理を共有し、同様の治療恩恵を受けることが判明したためシンプル化した」と説明している。また、「急性」から「非代償性」への変更点については「突然悪化するのではなく、心臓が欠陥を補いきれなくなるまで徐々に機能低下していく病態を明確にするための改訂である」と付言した。 本ガイドラインには患者教育とセルフケアに関するセクションが含まれている。Adamo氏は「患者教育とライフスタイルのアドバイスは、患者自身が心不全を管理し、医療者と意思決定を共有する力を与える。患者が自身のケアのパートナーとなることを目指し、患者向けバージョンのガイドラインも公開されている3)」と結んでおり、医療者と患者が一体となった包括的な心不全管理の重要性がさらに高まると期待される。

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ステロイド外用薬を「短期使用薬」とするのは誤認、OTC薬給付見直しで声明/日本皮膚科学会ほか

 日本皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会、日本アレルギー友の会は2026年9月3日、3団体共同で「OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明」を発表した。声明はステロイド外用薬を「急性増悪時の短期使用薬」とするのは誤認と指摘するなど、全9項目からなる。 「OTC類似薬の保険給付見直し案に関する共同声明」は以下のとおり。1. 声明の趣旨 政府が検討を進める「OTC類似薬の保険給付見直し案」について、皮膚科医療の専門性および患者の生活実態の観点から重大な懸念があるため、3団体は共同して本声明を公表する。 本見直し案は、単なる薬剤費負担の問題ではなく、我が国の皮膚科診療のあり方そのものに影響する制度であり、国民の健康に直結する重大な課題である。2. 制度趣旨との齟齬 見直し案には、アトピー性皮膚炎をはじめとする重症・慢性疾患が多数含まれている。これは「軽症疾患の自己治療を促す」という制度趣旨と整合せず、なし崩し的な対象拡大である。3 .医学的誤認に基づく制度設計 皮膚科治療の根幹であるステロイド外用薬が「急性増悪時の短期使用薬」と誤認されている。 診療ガイドラインは、寛解維持のための計画的外用を推奨しており、外用薬は「塗り薬」ではなく皮膚バリア治療という医療行為である。 医学的誤認に基づく負担増は、制度として成立しない。4. 皮膚科医療の基盤への影響 負担増により標準治療の継続が困難となれば、再燃・重症化が増加し、受診抑制・自己判断・誤用・経皮感作という連鎖が生じる。 皮膚科医療の基盤が揺らぎ、国民の安全性に直結する。5. 歴史的教訓と現在の誤情報 1990年代の「悪魔の薬」報道は科学的根拠のない恐怖を全国に拡散し、受診中断・重症化が続出した。 その後、臨床皮膚科医会と患者団体が協働し、誤情報を是正し標準治療を回復してきた。 しかし現在も「脱ステ」「民間療法」「高額サプリ」等の誤情報がSNSで拡散し、若年層の受診遅延・重症化が続いている。 外用薬の負担増は、誤情報に流される患者をさらに増やす。6. 公衆衛生上の重大な懸念 茶しずく石けん事件では、加水分解コムギ末による経皮感作により全国1,800人以上が食物アレルギーを新規発症した。 皮膚バリア破綻が公衆衛生事案を引き起こすことは明確である。 皮膚は免疫の入口であり、皮膚科医療は国民医療の基盤である。7. 患者・家族の生活実態 アトピー性皮膚炎は痛み、痒み、睡眠障害、皮膚裂傷、浸出液などにより生活を深刻に損なう疾患である。 外用薬は「生きるための薬」であり、寛解維持のための計画的外用が不可欠である。 負担増は治療中断・再燃・重症化を招き、誤情報に惑わされる危険性は今も続く。8. 3団体共同の要望 1. 軽症疾患と中等症・重症・慢性疾患を区別し、なし崩し的な対象拡大を行わないこと。 2. ステロイド外用薬を「短期使用薬」と誤認した負担増を撤回すること。 3. 皮膚科診療の根幹を損なわない制度設計を行うこと。 4. 検討過程に当事者の声を適切に反映すること。9. 総括 本見直し案は、皮膚科医療の基盤と国民の健康に直結する制度である。 3団体は、国民の安全を守る観点から、慎重な再検討を強く求める。

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がん既往CKM症候群でもフィネレノンの効果は一貫(FINE-HEART)/Eur Heart J

心血管・腎・代謝(CKM)症候群では、共通のリスク因子や病態機序を背景にがんを併存する患者が少なくない。しかし、がん既往を有するCKM症候群患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンの有効性・安全性が同様に得られるかは明らかではない。そこで、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMihaly Ruppert氏らは、FINE-HEART統合解析を用いて、がん既往の有無別の臨床像、転帰、フィネレノンの治療反応を検討した。その結果、がん既往は全死亡および全入院リスクの上昇と関連したが、フィネレノンの治療効果はがん既往の有無にかかわらず一貫していた。本研究結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月18日号に掲載された。本研究は、FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD、FINEARTS-HFの3試験を対象とした、FINE-HEART患者レベル統合解析の事後解析である。対象は、2型糖尿病と慢性腎臓病を有する患者、または左室駆出率が軽度低下もしくは保持された心不全患者の計1万8,991例とした。3試験では、標準治療にフィネレノンまたはプラセボが追加された。がん既往は病歴記録から、追跡中の新規がんは有害事象報告から同定した。主要評価項目は心血管死(死因不明を除く)で、全死亡、心不全入院、全入院、腎複合アウトカム、主要心血管イベント(MACE)、新規心房細動なども評価した。主な結果は以下のとおり。・1万8,991例のうち、ベースライン時にがん既往を有した患者は1,389例(7.3%)であった。がん種は消化管がん18.3%、男性生殖器がん17.1%、腎・尿路がん13.3%などが多く、肥満関連がんは40.5%を占めた。・がん既往あり群はなし群と比較して高齢(72.2歳vs.66.6歳)で、eGFRが低く(52.5 vs.59.5mL/分/1.73m2)、CKMステージ3~4、心房細動、現喫煙または過去喫煙の割合が高かった。・がん既往は、全死亡リスクの上昇(16.3%vs.11.1%、調整ハザード比[aHR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.13~1.52)および初回全入院リスクの上昇(57.8%vs.44.6%、aHR:1.26、95%CI:1.17~1.36)と独立して関連した。・一方、心血管死、心不全入院、MACE、腎複合アウトカム、新規心房細動では、共変量調整後にがん既往による有意差は認められなかった。・ベースライン時にがん既往のない1万7,602例のうち、追跡期間中央値2.9年に915例(5.2%)で新規がんが報告された。フィネレノン投与による新規がん発症(HR:0.95、95%CI:0.83~1.08)およびがん関連死(HR:0.81、95%CI:0.63~1.03)の有意なリスク低下・増加は認められなかった。・フィネレノンの治療効果(心血管死、全死亡、心不全入院、全入院、MACE、腎複合アウトカムなど)は、がん既往の有無にかかわらず一貫していた。・安全性について、重篤な有害事象の発現率はがん既往あり群で高かったが、薬剤による差は認められなかった。高カリウム血症はフィネレノン群で多く認められたものの(がん既往あり:14.4%vs.プラセボ6.1%、がん既往なし:12.7%vs.プラセボ6.2%)、高カリウム血症による死亡はいずれの群でも認められなかった。本研究結果について著者らは、CKM症候群患者においてがん併存は比較的多く、予後不良と独立して関連したが、フィネレノンの治療利益を減弱させなかったとまとめた。また、治療開始時点で余命12ヵ月未満と見なされない場合、がん併存を理由にCKM健康改善を目的としたリスク低減治療の実施を控えるべきではないと述べている。

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フィネレノンは非糖尿病CKDのeGFR低下を抑制する(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(non-steroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の非糖尿病慢性腎臓病(CKD)の腎機能低下抑制効果について、最近、二重盲検無作為化比較試験(RCT)のFIND-CKD研究の2報が報告された。1報は非糖尿病CKD患者全体を対象とした解析(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026;395:533-545.)であり、もう1報は、そのうち糸球体疾患を有する患者に限定した探索的サブ解析(CLEAR!ジャーナル四天王「フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある」)である。これらの解析から、フィネレノンには、非糖尿病CKD患者全体でeGFRスロープの低下を遅延化させる腎保護効果があることが示された。CKD腎保護薬としてのフィネレノンの位置付け 糖尿病を合併するCKDに対する腎保護療法としては、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の4剤が推奨されている。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている。一方、nsMRAおよびGLP-1 RAは、これらの薬剤に上乗せして使用する薬剤として推奨されている(KDIGOガイドライン:Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。これらの推奨の根拠となったエビデンスは、糖尿病CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験、ならびに両試験の統合解析であるFIDELITYの成績である。一方、非糖尿病CKDではフィネレノンに関するRCTは実施されていなかった。今回のFIND-CKD研究で得られた非糖尿病CKDにおける肯定的な結果と、これまでに蓄積されてきた糖尿病CKDにおけるエビデンスを合わせて考えると、フィネレノンの腎保護作用は糖尿病の有無にかかわらずCKD全般で期待される可能性が示唆された。本研究の主要結果 FIND-CKD研究は、世界24ヵ国で実施された国際共同第III相二重盲検RCTである。糖尿病を合併しないCKD患者1,584例を対象とし、フィネレノン群793例とプラセボ群791例を比較した。対象患者の腎機能はCKD G3bが中心で、UACRは大部分がA3に相当する中等度~高度アルブミン尿を呈していた。また、57.0%は糸球体疾患を原疾患とするCKDであり、99.8%が最大耐用量のRAS阻害薬による治療を受けていた。 主要評価項目は、ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率である総eGFRスロープ。その結果、eGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であり、群間差は0.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.3~1.1、p<0.001)であった。 副次評価項目には、腎・心血管複合イベント、腎複合イベント、心血管複合イベントなど。腎・心血管複合イベントの発生リスクは、フィネレノン群でプラセボ群と比較して有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。腎複合イベントのHRは0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントのHRは0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 高カリウム血症の発現率は、フィネレノン群で17.0%(135例)、プラセボ群で13.3%(105例)であった。今後のCKD治療にどう影響する? CKDにおける腎保護の基本は、蛋白尿を減少させ、適切に降圧することである。加えて、糖尿病では血糖管理が重要であり、慢性糸球体腎炎・IgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などでは、ステロイド、扁桃摘出術、免疫抑制薬などが病態に応じて選択される。フィネレノンによるCKDの腎保護作用は、「MRの過剰活性化→炎症・線維化」という共通の経路を抑制することによる。FIND-CKDは、非糖尿病CKDにおいても同剤が腎保護作用を有するという仮説を検証したRCTである。本研究の意義と展望については、Dr. Robert TotoのEditorial(Toto R. N Engl J Med. 2026;395:600-601.)のコメントは参考になる。Totoは、「フィネレノンは、CKDや高血圧の病態の根底にあるMRの過剰活性化を抑制する可能性がある。FIND-CKD研究の成果は、フィネレノンを『糖尿病CKDの腎保護薬』から、非糖尿病CKDにおいても『MRの過剰活性化による残余リスクを抑制する薬剤』へと位置付ける可能性がある」と展望している。言い換えると、FIND-CKDはフィネレノンを、「糖尿病CKDの薬」から「CKD全般の腎保護薬」へと適応を拡大する根拠を提供した初めての研究ともいえる。もっとも、eGFR低下の遅延抑制に加えて、腎ハードエンドポイント(腎不全や透析開始など)への効果、CKD疾患別の効果、SGLT2阻害薬との併用効果など、今後検討すべき課題は残されている。 現在、国内外のガイドラインにおいて、非糖尿病CKDに対するフィネレノンの使用についての言及はない。しかし、本研究により、今後のガイドライン改訂において、同剤がCKD全般で新たな腎保護の治療選択肢として位置付けられる可能性が高い。実臨床で非糖尿病CKD患者において、フィネレノン投与を考慮すべき患者として、(1)UACRが中等度から高度、(2)eGFRが25mL/分/1.73m2以上、(3)ARBやSGLT2阻害薬による先行治療を行ってもなお残余リスクがある患者、が想定される。また、フィネレノン投与時には、高カリウム血症のリスクを念頭に入れ、血清カリウム濃度を適切にモニターすべきである。

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第74回 「若返り注射」は本物か?一流医学誌が警鐘を鳴らす、アンチエイジングの現在地

「老化は治療できる」「10歳若返る」。そんな言葉を目にする機会が、この数年で急激に増えました。実際、老化研究は科学的に大きく進歩しています。しかし、それが「今すぐ買える若返り治療」の存在を意味するわけではありません。2026年8月にNature Medicine誌が発表した論説は、老化研究者自身に向けて「根拠のない主張に警戒せよ」と呼びかける、異例のメッセージを出しているので、ご紹介します1)。老化研究の考え方と、NAD+に突きつけられた疑問現代の老化研究には、心臓病、認知症、がんなど年齢とともに増える病気の背景に「老化の共通メカニズム」があるという前提があります。慢性的な炎症、細胞の老化、細胞内の「ごみ処理」機能の低下などがその代表で、ここに介入すれば多くの病気をまとめて予防できるのではないか、というのが期待の根拠です。ただし論説では、「介入の候補は数多くあるが、ヒトで臨床的な有益性を示したデータは依然として乏しい」と明言されています1)。その象徴が、サプリメントとして広く販売されているNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)です。動物実験では健康寿命を延ばす効果が報告され、「加齢で減るから補う」という理屈で宣伝されてきました。しかしヒトを対象とした臨床試験では、病気の進行を変えるような効果はまだ示されていません。さらに2026年の研究では、血中NAD+濃度は加齢によって低下せず安定していたと報告され、「減るから補う」という前提そのものに疑問符がついた形です2)。「若返りペプチド」をめぐる米国の混乱論説がもう一つ大きく取り上げているのが、「ペプチド注射」をめぐる議論です。ペプチドとは、アミノ酸がつながった小さなタンパク質の断片で、「若返り」「回復促進」などの名目でSNSのインフルエンサーが宣伝しています3)。たとえばTB-500という製品は、体内にあるサイモシンβ4という物質に関連し、炎症を抑える作用があると考えられています。重要なのは、こうしたペプチドは米国食品医薬品局(FDA)に承認されていないという点です。「研究用」という名目で流通するグレーマーケットの製品で、製造元も品質管理も不明確です。2026年7月、FDAの諮問委員会は、7種類のペプチドを薬局での調剤として認めるべきかを審議しました。FDAの科学者は「安全性と有効性の十分な証拠があるとは言えない」と慎重論を唱えましたが、委員会は拘束力のない投票で7種類のうち6種類を認めるよう勧告しました4)。論説が問題視しているのは、委員会の「中立性」です。報道によれば、委員のうち6人はペプチドを販売しており、1人は調剤薬局の薬剤師でした4,5)。利害関係者が自らの商品を審議した構図で、その客観性は広く疑問視されています。「専門家が推奨した」という情報の裏に誰の利益があるのかを見る視点は、日本にいる皆様にとっても重要になるでしょう。本当に必要なのは「老化を測るものさし」では、なぜアンチエイジング治療の証明はこれほど難しいのでしょうか。病気に対する薬なら1~2年の臨床試験で効果を確かめられますが、「健康寿命や寿命が延びたか」を確かめるには数十年かかり、現実的に不可能だからです。そこで必要になるのが、老化の進み具合を客観的に測る「代理指標」です。注目されているのが「老化時計(エイジングクロック)」で、血液中のタンパク質や代謝物、画像検査などから臓器や細胞の「生物学的年齢」を推定します。握力や運動能力といった身体機能テストも、同じ目的で使えると考えられています。ただし注意点があります。老化時計が示す「老化の速さ」が将来の病気のリスクと関連することはわかっていますが、「治療で老化時計が若返れば本当に病気が減るのか」を検証した研究はまだ初期段階です。また、検査によって、その再現性もまちまちです。論説は「どの時計が信頼できるのかを見極めることが、この分野の緊急の研究課題だ」と位置づけています1)。その一歩として紹介されているのが、総額1億100万ドル、7年間にわたる「XPrize Healthspan」という国際コンペです1)。筋力、認知機能、免疫機能を厳密に測る枠組みをまず作り、そのうえで50~80歳の人のこれらの機能を「最低10年分」回復させる治療法を探す挑戦です。裏を返せば、「ものさし」自体がまだ完成していないのが現在地だといえます。私たちが今、知っておくべきこと論説は最後に、「不老長寿の薬を求める話は古代からあり、今のウェルネス文化にもその幻想の気配がある」と指摘しています1)。SNSで流れる「若返り」情報の多くは、動物実験の結果や理屈の段階の話を、人間で証明済みであるかのように語っているのが実情です。現時点で確かめられているのは、老化を測る信頼できる指標も、老化そのものを治す承認された治療も、まだ存在しないということです。一方で、運動、睡眠、禁煙、適切な食事といった地味な習慣が病気を減らし寿命を延ばすことは、何十年分ものデータで裏付けられています。派手な注射やサプリに飛びつく前に、「誰が、どんなデータで、どこまで証明したのか」を一度立ち止まって問うこと。それが、アンチエイジングの現在地において、もっとも大切なことかもしれません。1)Anti-aging interventions need less hype and more clinical evidence. Nat Med. 2026;32:2693.2)Tretowicz MM, et al. Human whole-blood NAD+ levels do not vary with age or lifestyle interventions. Nat Metab. 2026;8:1282-1290.3)Cox L, et al. Influencers are promoting dangerous peptides on social media - and regulators are struggling to keep up. The Conversation. 2026 May 27.4)Jewett C, et al. F.D.A. panel's vote on peptides raises concerns about a prescribing boom. The New York Times. 2026 Jul 27.5)Lawrence L, et al. Longevity, wellness physicians named to panel advising FDA on peptides. STAT+. 2026 Jun 29.

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日本の心不全診療、2013年から転帰の改善状況は?(JROADHF)/Eur Heart J

心不全(HF)診療では薬物療法や介入、退院後管理が進歩している一方、実臨床での診療内容の変化と患者転帰への影響は十分に明らかになっていない。米国・マサチューセッツ工科大学の遠山 岳詩氏らは、日本の2つの大規模HFレジストリを比較し、HF診療と転帰の変化を検討した。その結果、ガイドライン推奨治療や患者教育の実施率が増加し、1年死亡およびHF再入院はいずれも低下していた。本結果は、European Heart Journal誌オンライン版2026年8月8日号に掲載された。本研究は、2013年のJROADHF(1万3,238例)と2019~21年のJROADHF-NEXT(4,016例)を対象に、1:1の傾向スコアマッチングを行い、各コホートの患者転帰を比較した。比較対象は2013年コホートと2019~21年コホートで、診療内容としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、心臓リハビリテーション、栄養指導などの実施状況を評価した。主な評価項目は1年死亡およびHF再入院で、転帰改善に関連する因子も解析された。主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後の解析対象は、2013年コホート2,972例、2019~21年コホート2,972例であった。・マッチング後、RAS阻害薬の使用割合は2013年コホート70.9%、2019~21年コホート73.1%、β遮断薬はそれぞれ74.9%、80.8%であり、いずれも2019~21年コホートで高かった。・MRAの使用割合は、2013年コホート54.2%、2019~21年コホート61.1%であった。・非薬物療法・患者教育では、心臓リハビリテーションの実施割合が43.5%から88.8%へ、栄養指導が2.9%から56.1%へ増加していた。・2019~21年コホートでは2013年コホートと比較して、1年死亡率が13.5%から9.9%へ低下し、相対的に26.7%低下した。1年HF再入院率は28.0%から13.4%へ低下し、相対的に52.1%低下した(いずれもp<0.001)。・死亡リスクの低下は、RAS阻害薬(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.64~0.80、p<0.001)およびβ遮断薬(HR:0.85、95%CI:0.75~0.96、p=0.012)による薬物療法と関連していた。・患者教育では、栄養指導が死亡リスク低下と関連していた(HR:0.76、95%CI:0.64~0.89、p=0.001)。・HF再入院は、コホート効果が最も強い予測因子であり、2019~21年コホートでリスクが低かった(subdistribution HR:0.49、95%CI:0.43~0.57、p<0.001)。著者らは、「2013年から2019~21年にかけて、日本のHF患者の長期転帰は改善し、ガイドライン推奨治療は生存ベネフィットと関連していた」とする一方、「HF再入院の大幅な低下は、薬物療法のみならず退院後ケアや医療提供体制の変化を反映した可能性がある。本研究はレジストリに基づく観察研究であり、残余交絡や時代背景の影響を除外できず、因果関係の解釈には注意が必要」とまとめている。

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クレアチンはうつ病改善に役立つ?

 筋力増強を目的に利用されることも多いサプリメントの一つであるクレアチンは、うつ病の治療にも役立つのだろうか? このトピックに関する既報研究をまとめた、オタワ大学(カナダ)のBassam Jeryous Fares氏らによる短報が、「Brain Medicine」に6月30日付で掲載された。それによると、クレアチンがうつ病治療のサポートに有効な可能性はあるものの、十分なエビデンスはまだ得られていないという。 クレアチンは、肉や魚などの食品に含まれているアミノ酸誘導体で、細胞のエネルギー代謝に重要な役割を果たしている。筋力増強作用があることから、筋力トレーニングをしている人の間で、サプリメントとして広く利用されている。このクレアチンは脳でのエネルギー利用にも関わっていて、気分障害や統合失調症などの精神疾患患者では脳内のクレアチン代謝の変化が観察されるという報告もある。そのため理論的には、クレアチンの摂取が精神疾患の治療をサポートする可能性もある。Fares氏らは、既報文献のレビューによりこの点を検討した。 レビューの対象には、ランダム化比較試験(RCT)の報告が5件含まれていた。それらは、米国、イスラエル、韓国、インド、ブラジルで1件ずつ実施され、研究参加者は合計238人(クレアチン群126人、プラセボ群112人)、平均年齢36±14歳、男性26.0%だった。4件は大うつ病性障害(MDD)患者を対象とし、他の1件は大うつ病エピソードのある双極症患者を対象としていた。 MDD患者を対象に実施された1件のRCTは、抗うつ薬であるエスシタロプラムにクレアチン5g/日を追加し8週間介入した結果、プラセボを追加した群よりもうつ病の症状が改善することを示していた。別のMDD患者対象RCTでは、認知行動療法(CBT)とクレアチンの並行介入が、CBTとプラセボによる介入よりも症状改善に有効であることを報告していた。ただし、双極症患者を対象とする研究を含む他の3件のRCTは、有意な効果を示していなかった。 クレアチンの忍容性については全体的に見ておおむね良好で、副作用は胃腸の不快感などの軽度なものがほとんどであった。しかし、双極症患者対象研究において、クレアチン群の2人に軽躁状態または躁状態が発現したと報告されていた。今回のレビューの結果について研究者らは、「クレアチンは大うつ病の補助療法として有望な可能性がある一方で、エビデンスは一貫しておらず、より大規模かつ長期間のRCTが必要」と述べている。 論文の筆頭著者であるFares氏も、「レビューで観察されたシグナルは興味深いものではあるが、結論を導き出すものではない。5件のRCTのうち2件では有効性が示された一方、残る3件では有意な効果は認められなかった」と総括。その上で、「このような結果は、臨床診療を変えるほどのエビデンスがまだ蓄積されていないことを意味するものだ。むしろこのトピックに、さらなる探求を進めるだけの価値があることを示唆する結果と言える」としている。

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CKM症候群の突然死リスク、フィネレノンで19%低下(FINE-HEART)

 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの有効性と安全性を検証した3件の大規模第III相試験の統合解析「FINE-HEART」の事前規定解析の結果、フィネレノンは心血管・腎・代謝(CKM)症候群における突然死リスクの低下と関連していたことが、イタリア・IRCCS Azienda Ospedaliero-Universitaria di BolognaのAlberto Foa氏らによって示された。これまでの研究で、フィネレノンはCKM症候群の心血管系および腎転帰を改善することが報告されているが、突然死に対する影響は明らかではなかった。Journal of the American College of Cardiology誌2026年8月4日号掲載の報告。 FINE-HEART試験に含まれる3件の試験は、FIDELIO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴う慢性腎臓病[CKD]患者)、FIGARO-DKD試験(対象:2型糖尿病を伴うCKD患者)、FINEARTS-HF試験(対象:左室駆出率が軽度低下した心不全[HFmrEF]/左室駆出率が保持された心不全[HFpEF]患者)であり、いずれもフィネレノンまたはプラセボの投与を受ける群に1:1に無作為に割り付けられた。本解析では、多変量Cox回帰モデルを用いて突然死の臨床的予測因子を特定し、フィネレノンの突然死に対する治療効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・中央値2.9年の追跡期間中に、1万8,991例の参加者のうち2,178例が死亡した。心血管死が41%を占め、その中で最も多かったのが突然死(47%)であった。・死亡者に占める突然死の割合は、CKMステージ2/3の患者では13.9%、ステージ4の患者では20.5%であった。ステージ4ではステージ2/3と比較して突然死リスクが約2.7倍高かった(ハザード比[HR]:2.7、95%信頼区間[CI]:1.99~3.67、p<0.001)。・突然死リスクの上昇と独立して関連した因子として、高齢、心不全・心房細動・心筋梗塞の既往、尿アルブミン-クレアチニン比高値、低収縮期血圧、eGFR低下およびHbA1c高値が挙げられた。・突然死はフィネレノン群188例(2.0%)とプラセボ群230例(2.5%)に発生し、フィネレノン群でリスクが19%有意に低下した(HR:0.81、95%CI:0.67~0.98、p=0.034)。 -フィネレノン群:100患者年当たり0.69件 -プラセボ群:100患者年当たり0.85件 -絶対発生率減少:100患者年当たり0.16件 -治療必要数:216・このリスク低減効果は、突然死以外の死亡を競合リスクとして考慮した解析でも一貫して認められた。また、各サブグループ間でも効果は一貫していた。 研究グループは、「これらの知見はCKM症候群患者に対する非ステロイド型MRAの使用を支持するものであり、心血管系および腎臓の保護にとどまらず不整脈による死亡リスクの軽減をもたらす可能性を示している」とまとめた。

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非糖尿病CKDへのフィネレノン、eGFR低下を有意に抑制/NEJM

 非糖尿病の慢性腎臓病(CKD)成人患者において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンはプラセボと比較して、32ヵ月間にわたる推算糸球体濾過量(eGFR)の低下を抑制したことが示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のHiddo J. L. Heerspink氏らFIND-CKD Investigatorsが、国際共同第III相二重盲検無作為化試験の結果を報告した。先行の無作為化試験において、フィネレノンは2型糖尿病およびCKDを有する患者における腎・心血管アウトカムを改善したが、糖尿病を伴わないCKD患者への効果は明らかになっていなかった。NEJM誌2026年8月6日号掲載の報告。ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率を評価 研究グループは、糖尿病を伴わないCKD(eGFR:25mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満かつ尿中アルブミン/クレアチニン比[UACR]:200~500mg/g、またはeGFR:25mL/分/1.73m2以上90mL/分/1.73m2未満かつUACR:500~3,500mg/g)を有し、レニン・アンジオテンシン系阻害薬を服用している成人を対象に、フィネレノンの有効性と安全性を検証した。 被験者を、フィネレノン(10mgまたは20mgを1日1回)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、総eGFRスロープ(ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率と定義)で、2スロープ線形スプライン混合効果モデル(ベースラインから3ヵ月時点までの効果[すなわち急性eGFRスロープ]と3ヵ月時点から治療中止までの有効性を区別する[両者は異なると予想された]ためのモデル)で評価した。副次評価項目は、腎・心血管複合イベント(eGFRのベースラインからの持続的低下が57%以上、腎不全、心不全による入院または心血管死)、腎複合イベント、心血管複合イベントなどであった。eGFR年間変化率、フィネレノン群-3.3mL/分/1.73m2/年で有意に抑制 2021年9月21日~2023年5月12日に1,584例が無作為化された(793例がフィネレノン群、791例がプラセボ群)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢は54.7歳、535例(33.8%)が女性で、UACR中央値は818.9mg/gであった。 ベースラインのeGFRは、フィネレノン群46.8±16.2mL/分/1.73m2、プラセボ群46.6±16.0mL/分/1.73m2であった。ベースラインから3ヵ月時点までのeGFRの平均変化量は、フィネレノン群(-2.0mL/分/1.73m2)がプラセボ群(-0.8mL/分/1.73m2)よりも1.2mL/分/1.73m2大きかったが、3ヵ月以降、フィネレノン群のeGFR低下率は緩徐になった。 主要評価項目のベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であった(群間差:0.7、95%CI:0.3~1.1、p<0.001)。 事前に規定された階層的検定で、腎・心血管複合イベントリスクは、フィネレノン群でプラセボと比較して低いことが示された(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。HRは、腎複合イベントについては0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントについては0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 最も多くみられた有害事象は高カリウム血症であった(フィネレノン群135例[17.0%]、プラセボ群105例[13.3%])。高カリウム血症により、それぞれ12例(1.5%)と1例(0.1%)で試験治療が中止され、7例(0.9%)と5例(0.6%)が入院に至った。

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第331回 ポストバイオティックがGLP-1を増やして体重を減らす

小規模ながら二重盲検のプラセボ対照無作為化試験で、経口服用の不活化細菌サプリメント(ポストバイオティック)が肥満/過体重成人の体重を有意に減らしました1,2)。GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が肥満治療の主役に一気に躍り出たものの、治療が長続きしないことは少なくないようです。たとえば米国成人の4~5割ほどが開始から1年と経たずにGLP-1薬の使用を止めてしまっており、胃腸の有害事象を生じた患者はとくにそうでした3,4)。それゆえ、GLP-1薬のような生理作用をGLP-1薬が強いる負担なしでもたらす治療選択肢を必要とする患者は多いようです。有益作用をもたらす不活化微生物やその成分であるポストバイオティックがその需要に応えられるかもしれません。たとえばオリーブやキムチなどの発酵食品を介して口に入る細菌のラクチプランチバチルス プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum[L. plantarum])にその可能性があります。熱で不活化したL. plantarumが短鎖脂肪酸(SCFA)を作る乳酸菌などの細菌を増やし5)、SCFAが豊富だと腸細胞からのGLP-1分泌が促進すること6)が先立つ研究で示されています。ゆえに不活化L. plantarumはGLP-1伝達を介して体重管理を助ける働きがあるかもしれません。そこでアラバマ大学のCharitharth Vivek Lal氏らは、不活化L. plantarumを含むポストバイオティック製品の体重への効果などを米国の過体重/肥満成人80人を募って試みました。使われた製品はResMと呼ばれ、不活化L. plantarumに加えてビタミンなどの微量栄養素と植物抽出物を含みます。被験者は1対1の割合で1日1回ResM服用群かプラセボ服用群に割り振られました。2ヵ月後、ResM群に割り振られた被験者の体重は、ベースライン時に比べて平均3%(2.6kg)減っていました。一方、プラセボ群の体重は減らず、ベースライン時より0.5kg増えていました。また、ResM群の血中のGLP-1活性はベースライン時に比べて2倍ほどに上昇していました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がみられませんでした。GLP-1薬につきものの胃腸症状の心配はResMでは比較的少ないらしく、今回の試験で胃腸症状はむしろプラセボ群により多く生じました。深刻な有害事象はResM群とプラセボ群のどちらでもみられませんでした。GLP-1薬がすでに経ているような大規模試験で長期投与の効果持続のほどなどを今後調べる必要があります。それに、ResMの種々の成分の体重低下への寄与のほどもはっきりさせなければなりません。それらのさらなる検討で確かな裏付けが晴れて確立すれば、ResMはGLP-1薬に比べて副作用がより少なくて安上がりな体重減量や減った体重の維持手段を担うようになるかもしれません。参考(1)Pala OSK, et al. medRxiv. 2026 Jul 27. [Epub ahead of print](2)Postbiotic supplement boosts body’s own GLP-1 and weight loss / NewScientist(3)Do D, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2413172.(4)Rodriguez PJ, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2457349.(5)Huang Y, et al. Foods. 2025;14:2799.(6)Tolhurst G, et al. Diabetes. 2012;61:364-371.

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まったくゲップを出せない病気【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第311回

まったくゲップを出せない病気炭酸飲料をゴクゴク飲んで、「ゲフーッ」。お行儀は悪いですが、誰しも一度は経験があるはずです。ところが世の中には、生まれてこのかた、一度もゲップをしたことがない人がいます。この病気には名前がついていて、retrograde cricopharyngeal dysfunction(R-CPD、逆行性輪状咽頭筋機能不全)と呼ばれています。英語圏での通称は、そのものズバリ「inability to belch syndrome(ゲップ不能症候群)1)」。Dealino MAS, et al.Retrograde cricopharyngeal dysfunction: Two case reports and a literature review.Auris Nasus Larynx. 2026;53(1):152-156.1例目は17歳の男性。生涯にわたってゲップが出せず、腹部膨満に悩まされていました。2例目は30歳の女性。こちらも生涯ゲップ不能。2人とも、これまであちこちで検査を受けても原因ははっきりしないと言われ続けてきたそうです。食道内圧検査を行うと、上部食道括約筋の基礎圧が高く、ゲップをしようとしてもまったく弛緩しないことが確認されました。2人ともここでようやく、R-CPDと診断がついたわけです。ゲップは、胃のガスが食道に逆流し、それを合図に上部食道括約筋が「パカッ」と開くことで外に出ます。R-CPDでは、胃から食道までは無事にガスが上がってくるのに、肝心の上部食道括約筋が開かない。行き場を失ったガスは、蠕動で押し戻されては再び逆流する、という往復を繰り返します。これが胸のゴロゴロという異音の正体と考えられます。そして行き場のないガスは下へ流れ、腹部膨満と過剰な放屁になります。つらたん。1例目の17歳男性は、六君子湯+モサプリドで軽快しています。まさかの漢方。2例目の女性は難治で、ボトックスが投与されましたが、それも一時しのぎにしかならず、最終的に内視鏡的輪状咽頭筋切開術が施行されました。ボトックスについては面白い逸話があります。2015年、アメリカの耳鼻科医Bastian氏が、ゲップができないと訴えるR-CPDの若者に、ダメ元で輪状咽頭筋にボトックスを打ちました。見事に治った患者は、その体験をRedditに投稿しました。すると「私もです」「僕もです」が殺到し、2019年の論文発表時点で51例の連続症例が集まったそうです2)。現在、TikTokの「#noburpsyndrome」などの人気動画103本だけで、累計3,228万回再生だそうです3)。R-CPD症例の平均年齢は29歳で、これはTikTokユーザーの中心年齢層とほぼ一致します。患者はSNSで自己診断し、SNSで見つけた専門医を受診し、そこで診断が「追認」される感じです。腹部膨満、胸のゴロゴロ音、過剰な放屁、謎の胸痛。こういう患者さんを、機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群として何年も経過観察してしまっているかもしれません。中にはR-CPD患者がいることを覚えておきましょう。1)Lehmann A, et al. Retrograde cricopharyngeus dysfunction (R-CPD), also known as inability to belch syndrome-a narrative review. Transl Gastroenterol Hepatol. 2026;11:74.2)Bastian RW, et al. Inability to Belch and Associated Symptoms Due to Retrograde Cricopharyngeus Dysfunction: Diagnosis and Treatment. OTO Open. 2019;3(1):2473974X19834553.3)Wright A, et al. Analysis of Content Related to Retrograde Cricopharyngeal Dysfunction on TikTok: Opportunities for Patient Education and Advocacy. Ann Otol Rhinol Laryngol. 2025;134(11):814-818.

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フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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適量のコーヒーで心不全や脳卒中リスクが低下~AHAステートメント

 カフェインは世界で最も広く消費されている嗜好薬物の1つであるものの、心血管系に対する詳細なリスクや有効性については、摂取形態や個人差による影響を含めて整理が必要とされてきた。米国心臓協会(AHA)専門委員会のGregory M. Marcus氏(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らは、カフェインおよびコーヒー摂取が心血管系に及ぼす影響に関する最新の科学的ステートメントを発表した。習慣的な適量摂取(カフェイン最大400mg/日、8オンスカップ[約240mL]でコーヒー3~5杯/日)は多くの成人において安全であり、冠動脈疾患、心不全、脳卒中、心房細動、2型糖尿病などのリスク低下と関連していることが示された。Circulation誌オンライン版2026年7月20日号に掲載。 本ステートメントでは、カフェインおよび主にコーヒーを中心としたこれまでの観察研究、遺伝学的研究(メンデルランダム化解析)、およびランダム化比較試験(RCT)のエビデンスを包括的に評価した。カフェインの代謝には個人の遺伝的背景や耐性が大きく関与することや、急性摂取と習慣的摂取での作用の違い、コーヒーに含まれる非カフェイン成分(ポリフェノールなど)の寄与についても考察がなされた。 主な結果は以下のとおり。・血圧・糖尿病:習慣的なコーヒー摂取は血圧に対して逆J字型の関連を示し、1日1~3杯の摂取でリスクが増加するものの、摂取量が増えるとリスクが減少する傾向があることが示された。また、習慣的なコーヒー摂取は2型糖尿病の発症リスク低下と一貫して関連していた。・脂質代謝:カフェイン自体は血清コレステロールに影響を与えないが、フレンチプレス、ギリシャ/トルココーヒーなどの「未濾過コーヒー」に含まれるカフェストールはLDLコレステロール値を上昇させるため注意が必要である。・不整脈:カフェイン入りコーヒーの習慣的摂取は心房細動(AF)のリスクを低下させることがRCTなどで実証された一方、心室期外収縮(PVC)の頻度を増加させることが示された。・心血管疾患・脳卒中:軽度(1.5杯/日)~中等度(3.5杯/日)のコーヒー摂取は冠動脈疾患リスクを約10%低下させた。心不全リスク(4杯程度/日で最も低値)や脳卒中リスク(3~4杯/日で最も低値)の低下と関連していた。・高用量カフェインのリスク:エナジードリンクや純粋なカフェインサプリメントなどの高用量摂取は、血圧の上昇や重篤な不整脈など心血管へ害を及ぼす可能性が高い。 著者らは、習慣的な適量のコーヒー摂取は健康的なライフスタイルの一部となり得ると結論付けている。ただし、観察された健康上の利益の多くはカフェイン単体ではなくコーヒーに含まれる抗酸化物質などに起因する可能性があり、多量の砂糖やシロップ、高カロリーな乳製品の添加はこれらのメリットを相殺する可能性があると注意を促している。今後は、ポリフェノールなどの他の成分と切り離して、カフェイン単体の影響や個人差に応じた反応を解明するさらなるRCTが必要であると述べている。

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間欠的な黄疸【日常診療アップグレード】第61回

間欠的な黄疸問題19歳男性。間欠的な黄疸を主訴に受診した。発作中にはこれに伴う症状は認められない。既往歴に特記すべきものはない。薬剤やサプリメントの服用もない。バイタルサインは正常である。身体診察では、軽度の強膜黄染および黄疸が認められる。腹部診察は正常である。血液検査では肝トランスアミナーゼとアルカリホスファターゼの上昇は認めない。総ビリルビン3.8mg/dL(1年前:2.3mg/dL)、直接ビリルビン0.4mg/dL(1年前:0.3mg/dL)である。LDHとハプトグロビンは基準範囲である。全血球計算および末梢血塗抹検査の結果は正常である。抗ミトコンドリア抗体検査をオーダーした。

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第329回 マイクロプラスチックの吸収をサプリメントで予防

口にしたマイクロ/ナノプラスチック(微細プラスチック:MNP)を取り除く不活化細菌の効果が、実際に即した臨床試験で裏付けられました1-3)。世界のプラスチック製造がほぼ皆無だったおよそ1世紀前に比べて、今や年間数億トン規模へと急増しました。2000年以降に製造されたプラスチックがこれまでに製造されたプラスチックの半数超を占めます。すなわち、現世代に押しかかるプラスチックの量は過去のどの世代よりも膨大です。プラスチックは朽ちることなく自然環境に蓄積し続け、マイクロやナノ単位の微細な断片であるMNPへとちぎれていきます。MNPは水、空気、食品にあまねく混入しており、生態系へのその蓄積の懸念が日増しに大きくなっています。MNPの混入はヒトも例外ではなく、血液、腸、尿、脳などのさまざまな組織でこれまでに確認されています。MNPに対抗する生理的な手段の検討が始まっており、食物繊維のキトサンや小麦のふすまが腸のマイクロプラスチックを減らしうることが示されています4,5)。興味深いことにマイクロプラスチックを分解する細菌がヒトの腸から見付かっています6)。さらには有益な微生物(プロバイオティック)やその代謝物がプラスチックを吸着して体内に吸収されるのを防ぎうることが示唆されています。たとえば乳酸菌(LAB)の類いがMNPを吸収し、便として排出されるようにすることが動物での検討で示されています。生きているプロバイオティックが腸でどれだけ生き残れるかはヒトによってまちまちです。一方、いわば死んでいる不活化した有益微生物(ポストバイオティック)なら生きた働きを必要としないという利点があります。何年か前のこと、米国のフロリダ州を拠点とするQuorum Innovationsの設立者らは、われわれの体内の微生物のバイオフィルム機能が上皮の表面を守る守護(guardian)の働きを担うらしいことに気付きます7)。その発想を出発点として開発されたQi601という名称のポストバイオティック製品が、どうやらMNPを取り去って細胞に吸収されるのを防ぐ働きを担うことが新たな検討で判明しました。Qi601は乳酸菌の類いのLmosilactobacillus fermentum LfQi6をバイオフィルム培養で増やし、遠心分離して洗い、熱で不活性化したものの凍結乾燥品です。手始めの検討でQi601が主たるナノプラスチックのポリスチレンナノ粒子(PSNP)に確実に結合することが示されました。液中でQi601は用量が多いほどPSNPをより捕らえ、最大で9割近いPSNPを吸着しました。消化を模す環境で試したところ、Qi601はPSNPの92%を吸着しました。また、腸の上皮細胞の表面や中にPSNPが溜まらないようにし、細胞内のPSNPを減らす働きも示しました。最終的に、臨床試験でQi601の効果も裏付けられました。市販のガムを噛んでいるときにさまざまなマイクロプラスチックが唾液中に放たれうることが昨年発表された試験で示されています8)。その発見を拠り所として、ガムを噛んで唾液中に混じったマイクロプラスチックをQi601がどれだけ回収できるかが確かめられました。試験では被験者に市販のガムを5秒ほど噛んでもらい、続いてQi601を口に含んでもらいました。すると唾液中のプラスチックがQi601なしに比べて10分の1ほどに減っていました。腸の立体培養(gut organoid)や動物を使った実験などを含むさらなる検討が進行中と著者は言っています1)。そのような検討の後に、マイクロプラスチックを回避する食品サプリメントとしてQi601がやがて使われるようになるかもしれません。 参考 1) Berkes EA, et al. bioRxiv. 2026 Jun 1. [Epub ahead of print] 2) First Human Study Shows Qi601 Probiotic Binds Microplastics and Retains 98% During Digestion / EINPresswire.com 3) Supplement that binds to microplastics may remove them from our body / NewScientist 4) Casella C, et al. Foods. 2025;14:2190. 5) Wang H, et al. Food Chem. 2026;514:149161. 6) Jang Y, et al. Sci Total Environ. 2024;929:172775. 7) Quorum Innovations’ Invention: Qi601 Biofilm Shield -Working With Our Evolutionarily Entrained Microbes / Quorum Innovations 8) Lowe L, et al. J Hazard Mater Lett. 2025;6:100164.

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メラトニン、慢性筋骨格系疼痛に鎮痛効果の可能性

 メラトニンは、概日リズムを調節し、自然な入眠を促すホルモンで、米国では睡眠補助サプリメントとしても販売されているが、筋肉や関節の慢性的な疼痛にも有効かもしれない。新たな研究で、慢性的な筋骨格系(MSK)疼痛に対するメラトニンの鎮痛効果は、オピオイドやアスピリン、ナプロキセン、アセトアミノフェンなどの鎮痛薬と同程度である可能性が示唆された。シドニー大学(オーストラリア)のKangchao Wu氏らによるこの研究の詳細は、「Pain」に6月30日掲載された。 Wu氏は、「メラトニンを常備している家庭は少なくない上に、安価で安全性も確認されている。注目すべき点は、メラトニンが慢性疼痛の管理にも役立ち、よりリスクの高い薬剤への依存を減らす可能性を秘めている点である」と述べている。 今回の研究では、世界各国で実施された、慢性的なMSK疼痛または術後MSK疼痛を有する患者2,028人を対象とした23件のランダム化比較試験(RCT)のデータを基に、メラトニンの鎮痛効果を鎮痛薬またはプラセボとの比較で検討した。23件の研究のうち14件は主に関節置換術や脊椎手術などの手術後の疼痛に関するRCTで、残る9件は線維筋痛症や変形性膝関節症、腰痛などの慢性疼痛に関するRCTだった。 解析の結果、慢性的なMSK疼痛においては、メラトニンはプラセボと比較して、疼痛スケール(0〜100点)の平均差が−6.76点(95%信頼区間−15.89~2.36)であったが、統計学的に有意な疼痛軽減効果は認められなかった。一方、従来の鎮痛薬との比較では、有意に高い疼痛軽減効果を示した。バイアスリスクが低い6件のRCTを対象とした感度分析では、プラセボとの比較で統計学的に有意な疼痛軽減が認められた(平均差−10.04、95%信頼区間−17.68~−2.39)。術後MSK疼痛についても、メラトニンはプラセボと比べて有意な疼痛軽減効果を示し、その効果は従来の鎮痛薬などのアクティブコントロールと同程度であった。さらに、メラトニンは、慢性的なMSK疼痛においては睡眠の質の改善とも関連していたが、術後MSK疼痛では睡眠の質の改善とは関連していなかった。 Wu氏は、「多くの患者にとって疼痛は単独で存在するものではなく、睡眠の質の低さと密接に関連している。メラトニンはその両方に作用する可能性があり、慢性疼痛を抱える人々に特に有用である」と指摘している。また、論文の上席著者で、シドニー大学(オーストラリア)運動器研究ハブのディレクターであるPaulo Ferreira氏は、「既存薬を新たな疾患に応用するドラッグ・リポジショニングの一例であり、慢性疼痛という世界的に患者数の多い疾患への応用可能性を探る研究といえる」と述べている。 ただし、今回の研究で対象としたRCTのそれぞれで、メラトニンの投与量や投与タイミングは疾患により異なっていた。慢性疼痛では、1日3〜10mgが一般的であり、最も多く用いられていたのは3mgであった。一方、術後疼痛では1〜10mgの範囲で使用され、5〜6mgが最も多かった。しかし、明確な用量反応関係は確認されなかった。こうしたことを踏まえて研究グループは、「より大規模な研究によって、メラトニンの鎮痛効果を確認する必要がある」と述べている。 さらに研究グループは、メラトニンを鎮痛目的で使用しようとする場合は、必ず医師と相談すべきだとしている。Wu氏は、「メラトニンは鎮痛薬の代替にはならないが、特に睡眠に問題を抱えている患者なら、医師との相談の上で既存治療の補助として使用される可能性はある」と述べている。また同氏は、メラトニンに一部の鎮痛薬と同程度の疼痛軽減効果が認められた点について、「これはメラトニンが、それらの薬の代わりになるという意味ではなく、より広い疼痛管理戦略の中で、安全性の高い追加選択肢となり得ることを示している」と説明している。

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ビタミンA高値は喘息患者の良好な肺機能と関連

 ビタミンAは、喘息を有する人の肺機能の改善に役立つ可能性がある。ビタミンAおよびビタミンDの肺機能に対する影響を検討した新たな研究で、血液中のビタミンA濃度が高いことは、喘息を有する小児と成人の双方において良好な肺機能と関連することが示された。一方、ビタミンDについては、効果が見られたのは成人の喘息患者のみであった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のMichael McGeachie氏らによるこの研究結果は、「Thorax」に6月30日掲載された。 ビタミンAおよびDは遺伝子発現を調節し、肺の発達に影響すると考えられている。喘息患者ではビタミンA欠乏症が多く見られ、これは気道の過敏性と関連していることが報告されている。一方、ビタミンD欠乏症は、特に喘息患者において肺機能の低下や喘息増悪、病状コントロールの悪化と関連することが示されているが、食事や年齢、日照時間などの因子の影響が研究間で異なるため、一貫した結果が得られていない。ビタミンAは、ニンジン、サツマイモ、ほうれん草などの野菜のほか、卵、牛乳、魚にも含まれている。ビタミンDは、主に日光によって体内で合成されるが、食品やサプリメントからも摂取できる。 この研究でMcGeachie氏らは、ビタミンAおよびDと喘息患者の肺機能、生物学的老化、および遺伝子発現(マイクロ〔mi〕RNA、DNAメチル化)との関連を検討した。対象は、GACRS(Genetic Epidemiology of Asthma in Costa Rica Study)の小児コホート1,165人と、ODOLLFA(Omic Determinants of Longitudinal Lung Function in Asthma)の成人コホート1,041人であった。肺機能は、1秒量(FEV1)、努力肺活量(FVC)、1秒率(FEV1/FVC)で評価した。FEV1は最大吸気後に思い切り息を吐き出したときの最初の1秒間の呼気量、FVCは最大吸気後に可能な限り吐き出せる総呼気量を示す。FEV1/FVCは気道閉塞の指標であり、一般に0.70未満の場合に閉塞性換気障害が示唆される。 解析の結果、小児では血液中のビタミンA濃度が高いほどFEV1およびFVCは高値であった一方、FEV1/FVCは低値だった。ビタミンDと肺機能の指標との関連はいずれも統計学的に有意ではなかった。一方、成人では、いずれのビタミンもFEV1およびFVCと関連していたが、FEV1/FVCとの間に関連が認められたのはビタミンAのみであった。さらに、ビタミンDの充足は、成人では生物学的老化の進行が遅いことと関連していた。 さらに、ビタミンAおよびDと遺伝子発現調節機構との関連も示された。解析から、両ビタミンの血中濃度と関連する複数のmiRNAが同定され、その標的遺伝子は炎症・免疫関連の経路に集積していた。また、DNAメチル化解析では、ビタミンAおよびDの血中濃度と関連するDNAメチル化部位が多数同定され、特に免疫制御に関与するIRF5遺伝子では、ビタミンAおよびD濃度が高いほどDNAメチル化が低い傾向が、小児・成人の両コホートで一貫して認められた。媒介解析では、miRNAやDNAメチル化がビタミンAおよびDと肺機能および生物学的老化との関連を媒介することが示された。 研究グループは、「本研究は、ビタミン濃度と肺機能、さらにmiRNA発現やDNAメチル化といったエピジェネティック指標を、喘息の小児と成人の両方で統合的に解析した初めての研究である」と述べている。 これらの結果は、食事が喘息コントロールの一つの手段となり得る可能性を示唆している。研究グループは、「栄養が遺伝子発現をどのように変化させるかというエピジェネティックな機構が、喘息におけるビタミンAおよびDの影響を媒介している可能性があり、個別化栄養や治療戦略の標的となり得る」と結論付けている。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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