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ADHDとASDに対するビタミン介入の有効性〜メタ解析

 ビタミン介入は、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如・多動症(ADHD)のマネジメントにおいて、費用対効果が高く利用しやすいアプローチとして、主に便秘などの消化器症状の緩和を目的として用いられる。最近の研究では、ビタミンがASDやADHDの中核症状改善にも有効である可能性が示唆されている。しかし、既存の研究のほとんどは患者と健康者との比較に焦点を当てており、臨床的に意義のあるエビデンスに基づく知見が不足していた。中国・浙江大学のYonghui Shen氏らは、ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年8月30日号の報告。 PubMed、Web of Science、Cochrane Libraryより対象研究を検索した。ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミン補給は、ASDおよびADHDの両方の症状を有意に改善することが示唆された。・その効果は、ビタミンの種類や障害によって違いがあることが明らかとなった。・ビタミンB群のサプリメントは、とくにASD関連症状の軽減に有効であり、ビタミンD群のサプリメントは、ADHD症状の改善により有効であることが示唆された。 著者らは「さまざまなビタミンが、疾患特異的な治療効果を発揮することが示唆された。ASDおよびADHDに対する個別化された臨床介入を行ううえで、これらのビタミンが役立つ可能性がある」としている。

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新規作用機序の高コレステロール薬「ネクセトール錠180mg」【最新!DI情報】第48回

新規作用機序の高コレステロール薬「ネクセトール錠180mg」今回は、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬「ベムペド酸(商品名:ネクセトール錠180mg、製造販売元:大塚製薬)」を紹介します。本剤は新規作用機序を有する高コレステロール血症治療薬であり、スタチンの効果が不十分な患者やスタチン不耐となった患者の治療選択肢として期待されています。<効能・効果>高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与します。なお、HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用します。<安全性>副作用として、高尿酸血症(5%以上)、痛風、肝機能異常、肝機能検査値上昇(いずれも1~5%未満)、AST上昇、ALT上昇、四肢痛(いずれも1%未満)、貧血、ヘモグロビン減少、血中クレアチニン増加、血中尿素増加、糸球体濾過率減少(いずれも頻度不明)があります。なお、本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬を併用すると、HMG-CoA還元酵素阻害薬の血中濃度が上昇するので、横紋筋融解症などの副作用が現れる恐れがあります。定期的にクレアチンキナーゼを測定するなど患者の状態の十分な観察が必要です。また、これらの副作用の症状または徴候が現れた場合には、速やかに医師に相談するよう患者に指導します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症の患者さんに処方されます。肝臓でコレステロールの生合成に関わるアデノシン三リン酸クエン酸リアーゼという酵素を阻害することにより、血液中のコレステロールを低下させます。2.HMG-CoA還元酵素阻害薬による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害薬と併用されます。3.自己判断での使用の中止や量の加減はしないでください。指示どおり飲み続けることが重要です。<ここがポイント!>脂質異常症とは、血中のLDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、トリグリセリド(TG)が基準値から逸脱した状態を指し、動脈硬化の進行と密接に関連しています。とくにLDL-Cは、動脈硬化予防の中心的な管理指標とされており、高コレステロール血症の治療にはHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン系薬剤が広く用いられています。しかしながら、スタチンを使用しても十分な効果を得られない症例や有害事象により継続が困難になるスタチン不耐となる症例があります。本剤は、クエン酸をアセチルCoAに変換するアデノシン三リン酸クエン酸リアーゼ(ACL)を阻害することで、肝臓におけるアセチルCoAの新規合成を抑制し、スタチンの作用点よりも上流でコレステロールの生合成経路を阻害します。さらに、ベムペド酸は肝臓に高発現するACSVL1によって活性化されるプロドラッグです。骨格筋を含むその他の臓器にはACSVL1の発現がほとんどないため、骨格筋の機能維持に必要なコレステロール合成への影響は少ないと考えられています。本剤は、HMG-CoA還元酵素阻害薬で効果不十分、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬を許容できない患者に対し、1日1回の経口投与によりLDL-C低下作用をもたらします。現在、スタチン効果不十分/不耐には注射薬である抗PCSK9抗体薬が使用されていますが、本剤は新規作用機序の経口薬であるので、新たな治療選択肢として期待できます。LDL-Cのコントロールが不十分な高LDLコレステロール血症患者を対象とした国内第III相試験(CLEAR-J試験)において、主要評価項目である投与12週時におけるLDL-Cのベースラインからの変化率は-25.25%であり、プラセボ群の-3.46%と比較して、LDL-Cの有意な低下が認められました(群間差:-21.78%、95%信頼区間:-26.71~-16.85、p<0.001、MMRM解析)。

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搾乳した母乳は採乳時間に合わせて授乳すべき

 母親が朝に搾乳した母乳を乳児に夕方に与えると、母乳が持つ本来のリズムと異なる合図を乳児に与えてしまう可能性があるようだ。母乳の中には、乳児の睡眠・覚醒リズムに関与すると考えられるホルモンや免疫因子なども含まれているが、それらは日内で変動することが、新たな研究で明らかにされた。このことから研究グループは、午前中に搾乳して保存した母乳を午後や夕方に与えると、意図せず乳児の休息を妨げる可能性があると警告している。米ラトガース大学栄養科学分野のMelissa Woortman氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Nutrition」に9月5日掲載された。 Woortman氏は、「母乳は栄養価の高い食品だが、搾乳した母乳を乳児に与える際には、タイミングを考慮する必要がある」と話している。また、論文の上席著者であるラトガース大学生化学・微生物学分野教授のMaria Gloria Dominguez-Bello氏は、「このような情報を受け取るタイミングは、幼少期、とりわけ、体内時計がまだ発達段階にある乳児期には特に重要だろう」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 医師は母乳を、乳児の免疫システムの構築や成長中の身体の栄養を助けるビタミン、ミネラル、化合物を豊富に含む「スーパーフード」と見なしている。母乳は乳児にとって最良の栄養源であると広く考えられている。しかし、1日を通して常に直接授乳することができないため、搾乳して保存しておいた母乳を後で与える母親は少なくない。 今回の研究は、38人の授乳中の母親から、1日(24時間)の中で4つの異なる時間帯(午前6時、正午、午後6時、午前0時)に採取した母乳サンプルを収集し、その成分の変動を解析した。調べた成分は、メラトニン、コルチゾール、オキシトシン、免疫グロブリンA(IgA)、ラクトフェリンで、いずれもELISA法を用いて濃度を測定した。また、微生物組成は16S rRNA解析により評価した。 メラトニンとコルチゾールは、いずれも睡眠・覚醒リズムに関与するホルモンであり、メラトニンは夜間に分泌が増えて睡眠を促し、コルチゾールは朝に分泌が増えて覚醒を促す。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、母子の絆形成に関与するとされる。IgAは免疫系によって産生される抗体の一種であり、ラクトフェリンは糖タンパク質で乳児をさまざまな感染症から守る働きを持つ。これらはいずれも乳児の免疫機能や消化器系の発達などに影響を与える。 解析の結果、メラトニンとコルチゾールの濃度には明確な日内変動が認められ、メラトニンは真夜中、コルチゾールは早朝に濃度がピークに達することが明らかになった。この結果についてWoortman氏は、「血液中のホルモンは概日リズムに従って変動する。授乳中の母親では、それが母乳に反映されやすい。メラトニンやコルチゾールなどのホルモンも、概日リズムに従って母体循環から母乳に移行する」と説明している。他の成分は、1日を通してほぼ安定していた。一方、母乳中の微生物組成は昼夜で変動し、夜間には皮膚由来の細菌、日中には環境由来の細菌が増加することが示された。 研究グループは、「この結果は、搾乳した母乳はできるだけ採乳・保存した時間帯に合わせて与えるべきであることを示唆している」と述べている。Dominguez-Bello氏は、「搾乳した母乳に『朝』『午後』『夕方』のラベルを貼り、それに応じて授乳すれば、搾乳と授乳のタイミングをそろえ、母乳本来のホルモン・微生物組成や概日リズムの情報を保つのに役立つ可能性がある」とアドバイスしている。一方、Woortman氏は、「母親が1日中乳児と一緒にいることが難しい現代社会において、授乳時間と搾乳時間を合わせることは、搾乳した母乳を与える際に母乳のメリットを最大限に引き出すシンプルで実用的な方法だ」と述べている。

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HFpEF/HFmrEFの今:2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドラインに基づく新潮流【心不全診療Up to Date 2】第4回

HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)は、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)の診療における歴史的な転換点を示すものであった。長らく有効な治療法が乏しかったこの領域は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン[商品名:ジャディアンス]またはダパグリフロジン[同:フォシーガ])や非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド[同:ウゴービ皮下注]、チルゼパチド[同:マンジャロ])*といった医薬品の新たなエビデンスに基づき、生命予後やQOLを改善しうる治療戦略が確立されつつある新時代へと突入した。本稿では、最新心不全診療ガイドラインの要点も含め、HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流を概説する。*セマグルチドは肥満症のLVEF≧45%の心不全患者へ、チルゼパチドは肥満症のLVEF≧50%の心不全患者に投与を考慮する定義と病態の再整理ガイドラインでは、Universal Definition and Classification of Heart Failure**に準拠し、左室駆出率(LVEF)に基づく分類が踏襲された。HFpEFはLVEFが50%以上、HFmrEFは41~49%と定義される。とくにHFpEFは、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。**日米欧の心不全学会が合同で2021年に策定した心不全の世界共通の定義と分類一方、HFmrEFはLVEF40%以下の心不全(HFrEF)とHFpEFの中間的な特徴を持つが、過去のエビデンスからは原則HFrEFと同様の治療が推奨されている。ただ、HFmrEFはLVEFが変動する一過程(transitional state)をみている可能性もあり、LVEFの経時的変化を注意深く追跡すべき「動的な観察ゾーン」と捉える臨床的視点も重要となる。診断の要点:見逃しを防ぐための多角的アプローチ心不全診断プロセスは、症状や身体所見から心不全を疑い、まずナトリウム利尿ペプチド(BNP≧35pg/mLまたはNT-proBNP≧125pg/mL)を測定することから始まる。次に心エコー検査が中心的な役割を担う。LVEFの評価に加え、左室肥大や左房拡大といった構造的異常、そしてE/e'、左房容積係数(LAVI)、三尖弁逆流最大速度(TRV)といった左室充満圧上昇を示唆する指標の評価が重要となる。安静時の所見が不明瞭な労作時呼吸困難例に対しては、運動負荷心エコー図検査や運動負荷右心カテーテル検査(invasive CPET)による「隠れた異常」の顕在化が推奨される(図1)2)。(図1)HFpEF早期診断アルゴリズム画像を拡大するさらに、心アミロイドーシスや肥大型心筋症など、特異的な治療法が存在する原因疾患の鑑別を常に念頭に置くことが、今回のガイドラインでも強調されている(図2)。(図2)HFpEFが疑われる患者を診断する手順画像を拡大する治療戦略のパラダイムシフト本ガイドラインが提示する最大の変革は、HFpEFに対する薬物治療戦略である(図3)。(図3)HFpEF/HFmrEFの薬物治療アルゴリズム画像を拡大するHFrEFにおける「4つの柱(Four Pillars)」に比肩する新たな治療パラダイムとして、「SGLT2阻害薬を基盤とし、個々の表現型に応じた治療薬を追加する」という考え方が確立された。EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験の結果に基づき、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、LVEF>40%のすべての症候性心不全患者に対し、心不全入院および心血管死のリスクを低減する目的でクラスI推奨となった3,4)。これは、HFpEF/HFmrEF治療における不動の地位を確立したことを意味する。これに加えて、今回のガイドライン改訂で注目すべきもう一つの点は、nsMRAであるフィネレノン(商品名:ケレンディア)がクラスIIaで推奨されたことである。この推奨の根拠となったFINEARTS-HF試験では、LVEFが40%以上の症候性心不全患者を対象に、フィネレノンがプラセボと比較して心血管死および心不全増悪イベント(心不全入院および緊急受診)の複合主要評価項目を有意に減少させることが示された5)。一方で、従来のステロイド性MRAであるスピロノラクトンについては、TOPCAT試験において主要評価項目(心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合)は達成されなかったものの、その中で最もイベント数が多かった心不全による入院を有意に減少させた6)。さらに、この試験では大きな地域差が指摘されており、ロシアとジョージアからの登録例を除いたアメリカ大陸のデータのみを用いた事後解析では、主要評価項目も有意に減少させていたことが示された7)。これらの結果を受け、現在、HFpEFに対するスピロノラクトンの有効性を再検証するための複数の無作為化比較試験(SPIRRIT-HFpEF試験など)が進行中であり、その結果が待たれる。その上で、個々の患者の表現型(フェノタイプ)に応じた治療薬の追加が推奨される。うっ血を伴う症例に対しては、適切な利尿薬、利水薬(漢方薬)の投与を行う(図3)8)。また、STEP-HFpEF試験、SUMMIT試験の結果に基づき、肥満(BMI≧30kg/m2)を合併するHFpEF患者には、症状、身体機能、QOLの改善および体重減少を目的としてGLP-1受容体作動薬がクラスIIaで推奨された9,10)。これは、従来の生命予後中心の評価軸に加え、患者報告アウトカム(PRO)の改善が重要な治療目標として認識されたことを示す画期的な推奨である。さらに、PARAGON-HF試験のサブグループ解析から、LVEFが正常範囲の下限未満(LVEFが55~60%未満)のHFpEF患者やHFmrEF患者に対しては、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、サクビトリルバルサルタンナトリウム[同:エンレスト])が心不全入院を減少させる可能性が示唆され11,12)、クラスIIbで考慮される。併存症管理と今後の展望HFpEFの全身性症候群という概念は、併存症管理の重要性を一層際立たせる。本ガイドラインでは、併存症の治療が心不全治療そのものであるという視点が明確に示された。SGLT2阻害薬(糖尿病、CKD)、GLP-1受容体作動薬(糖尿病、肥満)、フィネレノン(糖尿病、CKD)など、心不全と併存症に多面的に作用する薬剤を優先的に選択することが、現代のHFpEF/HFmrEF診療における合理的かつ効果的なアプローチである。今後の展望として、ガイドラインはLVEFという単一の指標を超え、遺伝子情報やバイオマーカーに基づく、より詳細なフェノタイピング・エンドタイピングによる個別化医療の方向性を示唆している13)。炎症優位型、線維化優位型、代謝異常優位型といった病態の根源に迫る治療法の開発が期待される。 1) Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819. 2) Yaku H, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2025 Jul 17. [Epub ahead of print] 3) Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461. 4) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098. 5) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 6) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 7) Pfeffer MA, et al. Circulation. 2015;131:34-42. 8) Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312. 9) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 10) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 11) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620. 12) Solomon SD, et al. Circulation. 2020;141:352-361. 13) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55.

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唾液に果汁ジュースによる虫歯を防ぐ効果

 虫歯になるのが心配で、果汁ジュースを子どもに与えないようにしている親がいる。しかし、唾液の驚くべき特性のおかげで、ジュースが子どもの口腔内の健康に与える悪影響は長くは続かないことが、新たな研究で示唆された。唾液は、歯の表面に滑らかな膜を作ることで歯や歯茎を細菌から守り、歯のエナメル質の初期の損傷の修復を助ける。研究からは、リンゴジュースを飲むと、一時的にこの保護作用が阻害されるものの、その影響は10分以内に消失し始めることが明らかになったという。英ポーツマス大学歯学・健康ケア学部のMahdi Mutahar氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に9月3日掲載された。 今回の研究では、32人の健康な大学生と大学職員が、水で口をすすぐ群(対照群)とリンゴジュースで口をすすぐ群(ジュース群)に分けられた。Mutahar氏らは両群から、ベースライン時、水またはジュースで口を1分間すすいでから1分後と10分後の3時点で唾液を採取し、口腔内の潤滑性を評価する摩擦測定(トライボロジー試験)や唾液中のタンパク質分析などを行い、両群の唾液の違いを比較検討した。 その結果、水やジュースで口をすすぐと一時的に唾液の潤滑力が低下するが、10分程度で元に戻ることが明らかになった。また意外なことに、潤滑力の低下の程度は水の方が強いことも示された。さらに、ジュースを飲むと、シスタチン類や炭酸脱水酵素など唾液に含まれる主要なタンパク質に影響が及ぶことも示された。 Mutahar氏は、「この結果には本当に驚かされた。これまで長い間、リンゴジュースなどの酸性の飲み物は、飲んだ直後から口腔内の健康、特に歯に対して悪影響を及ぼすものだと考えられてきた。しかし、われわれの研究は、口の中を保護し、迅速に修復して長期的な損傷を回避する上で、唾液が重要な役割を果たしていることを示している」と言う。同氏らは、「リンゴジュースをひと口飲んだ後には、潤滑の中心的役割を担う糖タンパク質のムチンの働きにより潤滑性が回復する可能性が考えられる」と考察している。ただし、注意点もある。同氏は、「リンゴジュースを何度も飲む、あるいは飲んだ後に口を水ですすがずにいるといった理由で長時間にわたって口の中にジュースが残っていると、口腔内の健康に長期的な悪影響が及ぶ可能性がある」と注意喚起している。 Mutahar氏はさらに、「一番の驚きは、水道水で口をすすぐ方がリンゴジュースよりも口腔内の摩擦や乱れを引き起こしやすいことだった」と言う。同氏は、「われわれが使用したポーツマスの水には、ジュースよりも唾液の潤滑性をもたらすタンパク質に干渉するミネラルが含まれているようだ」と話す。 Mutahar氏らは、果汁ジュースを飲みたい子どもや大人に対して以下の推奨を示している。・ゆっくり少しずつ飲むのではなく、素早く飲む。・飲んだ直後に水で口の中をすすいで残った酸や糖を取り除く。・ストローを使い、果汁ジュースが直接歯に触れにくくする。・果汁ジュースを飲んだ後は、次に飲むまで口の中が回復する時間を設ける。 Mutahar氏らは現在、人々が1日に何度も果汁ジュースを飲んだ場合に何が起こるかを調べている。同氏らは、将来的には日常的な飲み物にムチンのような保護的に働く成分を加えることで、人々の歯や歯茎を守れるかどうか検討することも研究課題になり得ると考えている。

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心室性不整脈予防のための最適なカリウム戦略は?/NEJM

 心血管疾患患者では、低カリウム血症により心室性不整脈のリスクが増加するが、血漿カリウム値が正常下限域であっても同様のリスクの増加が知られている。デンマーク・コペンハーゲン大学のChristian Jons氏らPOTCAST Study Groupは、血漿カリウム値が正常下限域で、心室性不整脈のリスクが高い心血管疾患患者において、カリウム値を正常上限域まで積極的に上昇させる戦略の有効性の評価を目的に、非盲検イベント主導型無作為化優越性試験「POTCAST試験」を実施。植込み型除細動器(ICD)を装着した心室性不整脈のリスクが高い心血管疾患患者において、標準治療単独に薬物療法と食事指導を加えたことによって血漿カリウム値が上昇したことにより、標準治療単独と比べてICD適切作動、不整脈または心不全による予定外の入院、全死因死亡の複合のリスクが有意に低下したことを報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月29日号で発表された。デンマークの3施設でICD装着例を登録 本研究では、2019年3月~2024年9月にデンマークの3施設で参加者の無作為化を行った(Independent Research Fund Denmarkなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、心室性不整脈のリスクが高く(ICDまたは心臓再同期療法用の除細動器[CRT-D]の装着者と定義)、ベースラインの血漿カリウム値が4.3mmol/L以下の患者であった。 被験者を次の2つの治療群に1対1の割合で無作為化に割り付けた。(1)血漿カリウム値の正常高値域(4.5~5.0mmol/L)までの上昇を目標とする治療(カリウム補充[塩化カリウム錠750mg]またはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、あるいはこれら両方+食事指導)+標準治療を受ける群(正常高値カリウム群)、(2)標準治療のみを受ける群(標準治療群)。 主要エンドポイントは次の3項目の複合とし、time-to-first-event分析を行った。(1)持続性心室頻拍(心拍数125拍/分以上、30秒以上持続)またはICD適切作動、(2)不整脈または心不全による24時間超の予定外の入院で、薬剤の変更または侵襲的治療を要した場合、(3)試験期間中の全死因死亡。約0.3mmol/L上昇、目標値到達は249例 1,200例を登録し、両群に600例ずつを割り付けた。全体の平均(±SD)年齢は62.7(±12.0)歳、19.8%が女性であった。43.3%が1次予防としてICDを装着し、64.6%が心不全の既往歴を、半数が虚血性心疾患の既往歴を有していた。追跡期間中央値は39.6ヵ月。 ベースラインの全体の平均血漿カリウム値は4.01±0.24mmol/Lであり、正常高値カリウム群は期間中央値85日(四分位範囲:58~119)の時点で4.36±0.36mmol/L、標準治療群は6ヵ月後の時点で4.05±0.33mmol/Lへとそれぞれ上昇した。正常高値カリウム群では、249例が血漿カリウム値の目標値(4.5~5.0mmol/L)に到達した。主要エンドポイントが有意に改善 主要エンドポイントのイベント発生率は、標準治療群が29.2%(175例、9.6件/100人年)であったのに対し、正常高値カリウム群は22.7%(136例、7.3件/100人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.76[95%信頼区間[CI]:0.61~0.95]、p=0.01)。5年の時点での群間差は7.7%ポイントで、1件のイベントの予防に要する治療必要数は12.3例(95%CI:2.0~14.0)だった。 主要エンドポイントの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)心室頻拍/ICD適切作動:正常高値カリウム群15.3%vs.標準治療群20.3%、HR:0.75(95%CI:0.57~0.98)、(2)全死因死亡:5.7%vs.6.8%、0.85(0.54~1.34)、(3)不整脈による予定外の入院:6.7%vs.10.7%、0.63(0.42~0.93)、(4)心不全による予定外の入院:3.5%vs.5.5%、0.64(0.37~1.11)。 また、正常高値カリウム群では、低カリウム血症による入院が1件、高カリウム血症による入院が7件、腎不全による入院が9件(合計17例に17件)発現し、標準治療群ではそれぞれ4件、2件、6件(10例に12件)であり、両群で同程度であった(HR:1.75[95%CI:0.80~3.82])。試験レジメン関連死はなかった 試験レジメンに関連する死亡例は認めなかった。試験期間中に、358例に802件の入院が発生し、正常高値カリウム群が168例、372件、標準治療群が190例、430件であった。また、24時間を超える予定外の入院または全死因死亡の発生は、正常高値カリウム群が177例(29.5%)、標準治療群が199例(33.2%)であった(HR:0.88[95%CI:0.72~1.08]、p=0.22)。 著者は、「本試験の治療法は安価で、ほとんどの医療環境で利用可能である。目標値に達した患者は半数未満であったが、ほぼ4例に3例が試験期間中に継続して薬物療法を受けた」「最近の健常者を対象とするメタ解析では、ナトリウム摂取量の増加とカリウム摂取量の減少が、用量依存性に心血管リスクの上昇と関連することが示されている。したがって、心血管疾患患者を含む一般集団においても、カリウム摂取量の増加が恩恵をもたらす可能性がある」としている。

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PCOSの妊娠合併症、ミオイノシトールで軽減せず/JAMA

 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を有する女性の妊娠時におけるミオイノシトールサプリメントの摂取は、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症や早産の複合発生率を低下しなかった。オランダ・Amsterdam University Medical Center location AMCのAnne W. T. van der Wel氏らが無作為化試験の結果を報告した。PCOSの女性は妊娠時の合併症リスクが高いことが知られる。先行研究で、ミオイノシトールサプリメントの摂取は、これらのリスクを軽減する可能性があるとされていた。JAMA誌オンライン版2025年9月8日号掲載の報告。妊娠8~16週目のPCOS女性を対象に二重盲検プラセボ対照無作為化試験 研究グループは、PCOSの女性における妊娠時のミオイノシトールの毎日の服用が、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、早産の複合アウトカムのリスクを軽減するかどうかを評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を行った。 試験は、2019年6月~2023年3月に、オランダ国内の13病院(大学病院4、非大学教育病院9)で妊娠8~16週目のPCOS女性を登録して実施。最終フォローアップは2023年12月27日に完了し、解析は2024年7月に行われた。 被験者は、ミオイノシトール2g+葉酸0.2mg含有の無味の粉末を1日2回摂取する群(ミオイノシトール群)、葉酸0.2mg含有の無味の粉末を1日2回摂取する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。両群で配布された粉末(小袋入り)は、見た目、味ともに同様だった。被験者は無作為化から出産まで1袋ずつを1日2回、食事に混ぜたり水やジュースに溶かしたりして摂取するか、直接摂取するよう指示された。 主要アウトカムは、妊娠糖尿病、妊娠高血圧腎症、早産(妊娠37週目以前)の複合とした。主要アウトカムのイベント発生率、25.0%vs.26.8% 計464例(ミオイノシトール群230例、プラセボ群234例)が登録・無作為化された。平均年齢は31.5(SD 3.8)歳、18例(3.9%)がアジア人で395例(86.1%)が白人であった。 ベースライン特性は、ミオイノシトール群がプラセボ群と比べて生化学的な高アンドロゲン血症の有病率が高かったこと(29.0%[53/183例]vs.18.5%[37/200例])を除き、両群に実質的な差はなかった。なお、主要アウトカムのデータは、ミオイノシトール群224例(97.4%)、プラセボ群228例(97.4%)について入手できた。 主要アウトカムのイベント発生率は、ミオイノシトール群25.0%(56例)、プラセボ群26.8%(61例)であった(相対リスク:0.93、95%信頼区間:0.68~1.28、p=0.67)。

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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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透析を要する腎不全患者、MRAは心血管死を予防するか/Lancet

 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、心不全および非重症慢性腎臓病の患者の心血管イベントを予防する可能性があるが、透析を要する腎不全患者への効果は明らかではない。カナダ・McMaster UniversityのLonnie Pyne氏らの研究チームは、この患者集団におけるMRAの有効性と安全性の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を実施。ステロイド型MRAは、透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさなかったことを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号で報告された。19試験4,675例のメタ解析 本研究では、1974~2015年に発表された論文に関する以前の系統的レビューに、その後2025年3月18日までに新たに報告された10件の論文(最近の2つの大規模試験[ALCHEMIST、ACHIEVE]を含む)を追加してデータを更新し、メタ解析を実施した(本研究は特定の研究助成を受けていない)。 維持透析療法を受けている腎不全の成人(年齢18歳以上)患者において、MRAと対照(プラセボまたは標準治療)を比較した無作為化対照比較試験を対象とし、ステロイド型MRAに関する19件の試験(スピロノラクトン18件、エプレレノン2件、これら2剤を対象とした1件を含む)に参加した4,675例を解析に含めた。 主要アウトカムは心血管疾患による死亡率とし、経験的ベイズ法に基づく変量効果モデルを用いて評価した。心血管死のリスクに差はない 心血管死亡率の評価は11件(4,349例)の試験で行われ、このうち5件(3,562例)はバイアスリスクが低く、6件(787例)は高かった。低バイアスリスク試験における心血管死の発生率はMRA群で14.8%(264/1,785例)、対照群で15.5%(276/1,777例)であり(オッズ比[OR]:0.98[95%信頼区間[CI]:0.80~1.20]、I2=2.9%、τ2=0.0、エビデンスの確実性:中)、両群間に差を認めなかった。 MRA群で、1,000例当たりのイベント数が年間1件(95%CI:-14~11)減少すると示唆された。 また、高バイアスリスク試験における心血管死の発生率のORは0.33(95%CI:0.17~0.67)、全試験のORは0.73(0.46~1.16)であった。高カリウム血症、女性化乳房のリスクが上昇 心血管死以外の7つの評価項目に関する低バイアスリスク試験または全試験の解析結果は以下のとおりであった。MRA群で高カリウム血症(≧6.5mmol/L)と、女性化乳房または乳房痛のリスクが上昇したが、各試験の絶対リスクは低かった。・心不全による入院:低バイアスリスク試験2件(3,182例)、MRA群5.9%(94/1,580例)vs.対照群6.6%(106/1,602例)、OR:0.70(95%CI:0.30~1.65)、I2=71.1%、τ2=0.29、エビデンスの確実性:低。 ・全死因死亡:同6件(3,602例)、30.6%(553/1,805例)vs.31.9%(574/1,797例)、0.97(0.84~1.12)、0%、0、中。 ・全入院:同1件(2,538例)、57.8%(728/1,260例)vs.58.5%(748/1,278例)、0.97(0.83~1.14)、中。 ・高カリウム血症(≧6.0mmol/L):全試験5件(1,104例)、33.7%(190/563例)vs.31.8%(172/541例)、1.07(0.81~1.40)、0.0%、0.0、低。 ・高カリウム血症(≧6.5mmol/L):低バイアスリスク試験4件(2,918例)、8.2%(120/1,465例)vs.5.7%(78/1,375例)、1.50(1.11~2.03)、0.0%、0.0、中。 ・女性化乳房または乳房痛:同5件(3,448例)、2.3%(40/1,728例)vs.0.7%(12/1,720例)、3.02(1.57~5.81)、0.0%、0.0、中。 ・低血圧:全試験5件(3,012例)、2.3%(35/1,509例)vs.2.0%(30/1,500例)、1.04(0.61~1.78)、0.0%、0.0、低。非ステロイド型MRAの情報はない 著者は、「本研究の知見は、ステロイド型MRAは透析を要する腎不全患者における心血管疾患による死亡にほとんど、あるいはまったく影響を及ぼさず、潜在的な有害性(harm)のリスクを示唆する」「これらの患者のサブグループにおけるステロイド型MRAの効果に関する情報は不十分であり、非ステロイド型MRAについては情報がまったくない」としたうえで、「これらの患者は心血管死のリスクが依然として高く、有効な治療法が引き続き緊急に求められている」とまとめている。

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血液透析患者へのスピロノラクトン、心血管イベントを抑制するか/Lancet

 慢性血液透析を受けている腎不全患者は、一般集団と比較して心血管疾患による死亡リスクが10~20倍高いが、血液透析患者は通常、心血管アウトカムを評価する臨床試験から除外されるという。フランス・Association ALTIRのPatrick Rossignol氏らALCHEMIST study groupは、心血管イベントのリスクの高い血液透析患者において、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬スピロノラクトンの有効性を評価する目的で、研究者主導の多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験「ALCHEMIST試験」を実施。スピロノラクトンは主要心血管イベント(MACE)の発生を抑制しなかったことを示した。研究の詳細は、Lancet誌2025年8月16日号に掲載された。欧州3ヵ国の早期中止試験 本試験は、2013年6月~2020年11月に3ヵ国(フランス、ベルギー、モナコ)の64施設で参加者を登録し行われた(フランス保健省の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、腎不全で慢性血液透析(週3回以上)を受けており、少なくとも1つの心血管合併症またはリスク因子を有する患者644例であった。スピロノラクトン群(25mg/日まで漸増、経口投与)に320例、プラセボ群に324例を無作為に割り付け、主要エンドポイントであるMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全による入院)の発生率を評価した。 試験は2022年11月(最後の参加者の追跡期間が2年の時点)に資金不足のため早期中止となった。MACE発生率は改善せず 全体の年齢中央値は70.8歳(四分位範囲[IQR]:63.5~78.1)、男性が444例(69%)で、血液透析期間中央値は1.7年(IQR:0.7~4.5)だった。追跡期間中央値は32.6ヵ月(17.3~48.4)であった。 MACEの発生率は、スピロノラクトン群で24%(78/320例、10.66/100人年[95%信頼区間[CI]:8.54~13.31])、プラセボ群で24%(79/324例、10.70/100人年[8.59~13.35])と、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:1.00[95%CI:0.73~1.36]、p=0.98)。 MACEの各項目では、心不全による入院(2%[7/320例]vs.5%[17/324例]、HR:0.41[95%CI:0.17~1.00])の発生率がスピロノラクトン群で低かったが、他の項目については両群間に差はなかった。忍容性は良好 副次エンドポイントについては、心停止からの蘇生を含む非致死的心血管イベント(12%[37/320例]vs.17%[56/324例]、HR:0.66[95%CI:0.43~0.99])の発生率はスピロノラクトン群で良好であった。一方、全死因死亡、心血管系以外の原因による死亡、高カリウム血症(血清カリウム値>6mmol/L)、低カリウム血症(同<4mmol/L)の発生率には両群間に差がなかった。 スピロノラクトン群の忍容性は良好であった。とくに注目すべき有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は1.8%ポイント(イベント発生率はスピロノラクトン群11.7%vs.プラセボ群9.9%)、とくに注目すべき重篤な有害事象としての高カリウム血症の発生率の群間差は2.7%ポイント(28.3%vs.25.6%)と小さかった。5試験のメタ解析でもほぼ同様の結果 既報の4試験と本試験を対象にメタ解析を行った。その結果、プラセボと比較してミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、全死因死亡(オッズ比[OR]:0.71[95%CI:0.41~1.24]、p=0.23、I2=43%)、心血管死(0.72[0.33~1.58]、p=0.41、I2=57%)、非致死的心血管イベント(1.00[0.77~1.30]、p=0.99、I2=0%)の改善をもたらさなかった。 また、プラセボに比しミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、高カリウム血症イベント(OR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、p=0.58、I2=0%)の発生率を上昇させなかった。 著者は、「本試験および本試験を含むメタ解析の結果は、スピロノラクトンが心血管リスクの高い血液透析を受けている腎不全患者に臨床的有益性をもたらさないことを示している」「これらの患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の適応外使用が、心血管死や全死因死亡を有意に低下させたとする実臨床データがあるが、本試験の知見はこれを支持しない」としている。

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人工甘味料はがん免疫療法の治療効果を妨げる?

 マウスを用いた新たな研究で、一般的な人工甘味料であるスクラロースの使用は、がん患者の特定の免疫療法による治療を妨げる可能性のあることが示唆された。この研究ではまた、マウスに天然アミノ酸であるアルギニンのレベルを高めるサプリメントを与えると、スクラロースの悪影響を打ち消せる可能性があることも示された。米ピッツバーグ大学免疫学分野のAbby Overacre氏らによるこの研究結果は、「Cancer Discovery」に7月30日掲載された。 Overacre氏は、「『ダイエットソーダを飲むのをやめなさい』と言うのは簡単だが、がん治療を受けている患者はすでに多くの困難に直面しているため、食生活を大幅に変えるよう求めるのは現実的ではないだろう」と話す。同氏はさらに、「われわれは、患者の現状に寄り添う必要がある。だからこそ、アルギニンの補給が免疫療法におけるスクラロースの悪影響を打ち消すシンプルなアプローチとなり得るのは非常に喜ばしいことだ」と述べている。 研究グループによると、がん治療における免疫チェックポイント阻害薬の効果は患者の腸内細菌の組成と関連付けられている。しかし、食事がどのように腸内細菌や免疫反応に影響を及ぼすのかについては明確になっていないという。今回の研究では、一般的な人工甘味料であるスクラロースの摂取が腸内細菌叢やT細胞の機能、免疫療法に対する反応に与える影響を、マウスおよび進行がん患者を対象に検討した。 まず、抗PD-1抗体による治療を受けた進行性メラノーマ患者91人と、進行性非小細胞肺がん(NSCLC)患者41人、および術前に抗PD-1抗体とTLR9アゴニスト(vidutolimod)による治療を受けた高リスク切除可能メラノーマ患者25人を対象に、スクラロースの摂取が抗PD-1抗体による治療効果に与える影響を検討した。自記式食事歴法質問票(DHQ III)を用いて評価したスクラロース摂取量に基づき、対象者を高摂取群と低摂取群に分類し、客観的奏効率(ORR)と無増悪生存期間(PFS)を評価した。 解析の結果、高摂取群ではメラノーマ患者でORRの低下傾向が認められ、NSCLC患者ではORRが有意に低下していた。PFSについては、メラノーマ患者(低摂取群:中央値13.0カ月、高摂取群:同8.0カ月、P=0.037)とNSCLC患者(低摂取群:同18.0カ月、高摂取群:同7.0カ月、P=0.034)の双方で有意な短縮が認められた。一方、高リスク切除可能メラノーマ患者では、病理学的奏効率(MPR)の低下、およびPFSの有意な短縮(低摂取群:中央値25.0カ月、高摂取群:同19.0カ月、P=0.012)が確認された。 次に、マウスを用いた実験で、腺がんやメラノーマなどのがんを意図的に発症させたマウスの食事にスクラロースを加え、その影響を観察した。その結果、マウスの腸内細菌叢の組成に変化が生じ、免疫機能の向上に重要なアミノ酸であるアルギニンが腸内細菌により代謝されて減少し、その結果、抗PD-1抗体による治療が阻害されて腫瘍の増大と生存率の低下につながることが示された。一方、スクラロースを摂取したマウスに、アルギニンや、より効率的に血中アルギニン濃度を上げると考えられているシトルリンを投与したところ、免疫療法の効果が回復した。 Overacre氏は、「スクラロースが引き起こした腸内細菌叢の組成の変化によってアルギニンレベルが低下すると、T細胞は正常に機能しなくなる。その結果、スクラロースを摂取したマウスでは免疫療法の効果が低下した」と説明する。 もちろんマウスでの実験と同じ結果が人間でも得られるとは限らない。それでも、論文の共著者であるピッツバーグ大学医学部のDiwakar Davar氏は、「これらの結果は、高レベルのスクラロースを摂取する患者に的を絞った栄養補給など、プレバイオティクスによる介入の設計を検討すべきことを示唆している」との見方を示している。同氏によると、シトルリンの補給が、がん免疫療法におけるスクラロースの有害な影響を逆転させ得るかを検討する試験を計画中であるという。

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スピロノラクトン、維持透析患者の心不全・心血管死を減少させるか/Lancet

 維持透析を受けている腎不全患者において、スピロノラクトン25mgの1日1回経口投与はプラセボと比較し、心血管死および心不全による入院の複合アウトカムを減少させなかった。カナダ・McMaster UniversityのMichael Walsh氏らが、12ヵ国143の透析プログラムで実施した医師主導の無作為化並行群間比較試験「ACHIEVE試験」の結果を報告した。維持透析を受けている腎不全患者は心血管疾患および死亡のリスクが大きいが、スピロノラクトンがこれらの患者において心不全および心血管死を減少させるかどうかは明らかになっていなかった。著者は、「本試験では、維持透析患者におけるスピロノラクトン導入の有益性は認められなかった。維持透析患者の心血管疾患と死亡を減少させるための、ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬に代わる選択肢について、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌2025年8月16日号掲載の報告。心血管死または心不全による入院の複合アウトカムをプラセボと比較 ACHIEVE試験の対象は、45歳以上、または糖尿病の既往がある18歳以上の腎不全患者で、3ヵ月以上維持透析を受けている患者であった。 研究グループは、登録患者全例に非盲検導入期としてスピロノラクトン25mgを1日1回7週間以上経口投与し、血清カリウム値が6.0mmol/Lを超えておらず、忍容性があり試験薬の服薬を順守できると判断した患者を、ブロック無作為化法(ブロックサイズ4)により、施設で層別化し、スピロノラクトン群とプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者、医療従事者および評価者は、いずれも盲検化された。 主要アウトカムは心血管死または心不全による入院の複合アウトカムで、無作為化された全患者を解析対象集団としてイベント発生までのtime-to-event解析を行った。無益性のため試験は早期に中止 2017年9月19日~2024年10月31日に3,689例がスクリーニングされ、3,565例が非盲検導入期に登録された。このうち2,538例が、スピロノラクトン群(1,260例)またはプラセボ群(1,278例)に無作為化された。患者背景は、女性931例(36.7%)、男性1,607例(63.3%)であった。 2024年12月10日時点で、主要アウトカムのイベント報告数508件(総予想数の78%)を含む中間解析の結果に基づき、外部の安全性・有効性モニタリング委員会により無益性による試験の早期中止が勧告された。最終追跡調査は2025年2月28日に終了し、追跡期間中央値は1.8年(四分位範囲:0.85~3.35)であった。 複合アウトカムのイベントは、スピロノラクトン群で258例(10.46件/100患者年)、プラセボ群で276例(11.33件/100患者年)に認められ、ハザード比(HR)は0.92(95%信頼区間[CI]:0.78~1.09、p=0.35)であった。 両群で心血管死(HR:0.89、95%CI:0.74~1.08)、心臓死(0.81、0.64~1.03)、血管死(1.07、0.77~1.47)、および全死因死亡(0.95、0.83~1.09)はいずれも同等で、心不全による初回入院(0.97、0.72~1.30)ならびにあらゆる初回入院(0.96、0.87~1.06)も両群で差はなかった。

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白血病治療薬が高リスク骨髄異形成症候群にも効果を発揮

 最近承認された白血病治療薬が、致命的な骨髄疾患と診断された一部の患者にも有効である可能性が、パイロット試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)患者の約5人に3人が、米食品医薬品局(FDA)が2022年に、急性骨髄性白血病(AML)患者向けに承認したオルタシデニブ(商品名レズリディア)による治療に反応を示したという。米マイアミ大学シルベスター総合がんセンター白血病部門主任のJustin Watts氏らによるこの研究結果は、「Blood Advances」に7月16日掲載された。 オルタシデニブは、腫瘍の発生に関与する変異型イソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)を選択的に阻害する薬である。FDAは、IDH1遺伝子変異陽性の再発または難治性AML成人患者に対してオルタシデニブを承認している。Watts氏らによると、AML患者の約10%にIDH1遺伝子変異が見られるという。しかし、この変異はMDS患者の約3〜5%にも見られるため、同氏らは、オルタシデニブがこの疾患の治療においても有効なのではないかと考えた。 米国がん協会(ACS)によると、前白血病またはくすぶり型白血病とも呼ばれるMDSは、骨髄内の造血細胞に異常が生じて血球が正常に成熟できなくなって発症し、貧血や感染症、出血傾向、免疫機能の低下などが生じる。MDSはAMLへ進行することが多いという。 Watts氏らは、IDH1遺伝子変異陽性で中等度から極めて高リスクのMDS患者22人(年齢中央値74歳、男性59%)を対象に、オルタシデニブの単剤療法と、AMLやMDSに対する標準的な抗がん薬であるアザシチジンとの併用療法の有効性を検討した。対象者のうち6人が単剤療法(再発/難治性4人、初回治療2人)、16人が併用療法(再発/難治性11人、初回治療5人)を受けた。 その結果、全奏効率(ORR)は全体で59%(完全寛解率27%〔6/22人〕、骨髄における完全寛解率32%〔7/22人〕)、治療に対する反応の評価が可能だった19人では68%(完全寛解率32%〔6/19人〕、骨髄における完全寛解率37%〔7/19人〕)であった。治療法別のORRは、単剤療法群で33%(2/6人)、併用療法群で69%(11/16人)であった。奏効に至るまでの期間(TTR)は中央値2カ月、奏効期間(DOR)は中央値14.6カ月、全生存期間(OS)は中央値27.2カ月であった。さらに、ベースライン時に輸血依存だった患者のうち、62%が赤血球輸血非依存(56日間)に、67%が血小板輸血非依存に到達したことも示された。 Watts氏は、「非常に高リスクのMDS患者集団において、奏効率だけでなく、血球数の改善、DORの延長、OSの改善など、実に注目すべき成果が得られた」とマイアミ大学のニュースリリースで述べている。また、研究グループは、「以前の研究では治療抵抗性MDS患者の生存期間は6カ月未満だったことを考えると、本研究結果は心強い」と述べている。 研究グループによると、この研究結果はすでに治療基準の変更につながっており、国立総合がんセンターネットワークのガイドラインにおいて、IDH1遺伝子変異陽性のMDS患者に対してオルタシデニブによる治療が推奨されている。研究グループは現在、どのAML患者とMDS患者がオルタシデニブに長期的に反応する可能性があるかを検討しているところだという。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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ビタミンDはCOVID-19の重症化を予防する?

 血中のビタミンDレベルが低い人では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時に重症化するリスクが高まるようだ。新たな研究で、ビタミンD欠乏症の人は新型コロナウイルス感染により入院する可能性が36%高くなることが示された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のKerri Beckmann氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月18日掲載された。 2022年に報告された研究によると、米国人の約5人に1人(22%)はビタミンD欠乏症であるという。この研究では、UKバイオバンク参加者のデータを用いて、血中のビタミンDレベルと新型コロナウイルス感染およびCOVID-19による入院との関連を検討した。対象は、2006年から2010年のベースライン時にビタミンDレベルを1回以上測定し、新型コロナウイルスのPCR検査結果が記録されている15万1,543人である。ビタミンDレベルは、欠乏(0〜<24nmol/L)、不足(25〜50nmol/L)、正常(>50nmol/L)の3群に分類した。 対象者のうち、2万1,396人がPCR検査で陽性と判定されていた。解析からは、ビタミンDレベルが正常な群を基準とした場合の新型コロナウイルス感染に対する調整オッズ比は、ビタミンDレベルが不足している群で0.97(95%信頼区間0.94〜1.00)、欠乏している群で0.95(同0.90〜0.99)であり、わずかながらも感染リスクは低い傾向が認められた。一方、COVID-19の重症化の調整オッズ比については、ビタミンDレベルが不足している群で1.19(同1.08〜1.31)、欠乏している群で1.36(同1.19〜1.56)であり、リスクが有意に高いことが示された。 Beckmann氏は、「この研究では、ビタミンDが欠乏しているか不足している人では、ビタミンDレベルが正常な人と比べてCOVID-19で入院する可能性は高いものの、新型コロナウイルスに感染するリスクが高いわけではないことが示された」と述べている。その上で同氏は、「ビタミンDは免疫システムの調整に重要な役割を果たすため、ビタミンDレベルが低いと、COVID-19のような感染症に対する体の反応に影響を及ぼす可能性がある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Beckmann氏はまた、「COVID-19はかつてほどの脅威ではなくなったかもしれないが、依然として人々の健康に影響を与えている。最もリスクが高くなるのはどういう人なのかを理解することで、リスクの高い人のビタミンDレベルをモニタリングするなど、さらなる予防策を講じることが可能になる」と述べている。ただし同氏は、「現時点では、ビタミンDサプリメント自体がCOVID-19の重症度を軽減できるかどうかは不明である。新型コロナウイルスとの共存が続く中で、この点については、今後の研究で検討する価値が十分にあるだろう」と話している。

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第22回 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣

「人生100年時代」と言われる今、多くの人が願うのは、ただ長く生きることだけではないでしょう。できる限り自分の足で歩き、頭はクリアで、心穏やかに、人生の後半を豊かに楽しみたい――。そんな「健康的な加齢(Healthy Aging)」は、多くの人が望む理想の姿かもしれません。では、その理想を実現するために、私たちに何ができるのでしょうか。運動、睡眠、社会との関わりなど、さまざまな要素が挙げられますが、Nature Medicine誌に発表された最新の研究1)が、その鍵を握る最も重要な要素の一つが「日々の食事」であることを、強力なデータとともに示しました。今回は、米国の10万人以上を30年間にわたって追跡したこの大規模研究から、未来の自分を健やかに保つための「食の投資術」を紐解いていきましょう。「健康的な加齢」とは?まず、この研究が目指した「健康的な加齢」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。研究チームはそれを明確に定義しました。それは、「70歳に到達した時点で、がんや心疾患、糖尿病といった11の主要な慢性疾患がなく、さらに認知機能、身体機能、精神的健康のいずれにも大きな衰えがない状態」です。この条件を、調査対象となった10万5,015人のうち、一体どれくらいの人が達成できたと思いますか? 答えは、わずか9.3%でした。これは、多くの人が何らかの慢性疾患を抱え、心身の機能の衰えを感じながら歳を重ねる現実を示唆しているかもしれません。しかし裏を返せば、約1割に「健康に歳を重ねた」人がいることも事実です。そして、彼らの生活習慣、とくに「食事」に、他の人との違いがあったのです。この研究では、長期間にわたる食生活と「健康的な加齢」の達成率との関連が分析されました。その結果、調査された8つの健康的な食事パターンのすべてにおいて、食事の質が高いグループほど、健康的に加齢する確率が著しく高いことが明らかになったのです。最も効果的だった食事法を示す「AHEI」とそのシンプルな中身数ある食事の指数の中で、最も「健康的な加齢」と強い関連を示したのが「AHEI(代替健康食指数)」でした。これは、もともと慢性疾患のリスクを予測するために開発された食事評価法です。その効果は大きく、AHEIのスコアが最も高い(最も健康的な食事をしていた)グループは、最も低いグループと比較して、「健康的な加齢」を達成する確率が1.86倍も高かったのです。さらに、「健康的な加齢」の基準を「75歳」まで引き上げて分析すると、その差はさらに広がり、達成確率は2.24倍にまで達しました。では、その「AHEI」が高い食事とは、一体どのような食事なのでしょうか。特別なサプリメントや高価な食材が必要なわけではありません。その中身はシンプルで、私たちが日々の生活で実践できることばかりです。積極的に摂りたい食品果物野菜全粒穀物(玄米、全粒粉パンなど)ナッツ類と豆類多価不飽和脂肪酸(魚や植物油に含まれる健康的な脂質)摂取を控えるべき食品砂糖入り飲料やフルーツジュース赤身肉や加工肉(ソーセージ、ベーコンなど)トランス脂肪酸(マーガリンやショートニングなど)ナトリウム(塩分)これらのポイントは、地中海食やDASH食といった他の健康的な食事法とも多くの共通点を持っています。つまり、健康的な加齢への道は、根拠の乏しい書籍や特定の流行りの食事法に飛びつくことではなく、「野菜や果物、全粒穀物を増やし、健康に良い油を選び、肉や加工品、砂糖、塩分を控える」という、食生活の基本に忠実であることが最も重要だということなのでしょう。今すぐできる!未来を変える食生活の3つのヒントこの研究成果を、私たちの生活にどう落とし込めばよいのでしょうか。もちろん完璧を目指す必要はありません。「生きることは食べること」というぐらい、食はその人の幸福度にも結びつくものですから、自分を縛りつける必要もないでしょう。今日からできる、具体的な3つのヒントをご紹介します。1. 「禁止」より「丁寧な整理整頓」「あれもダメ、これもダメ」と考えると、食事は窮屈なものになってしまいます。まずは「これを食べたら心から満足できるかな?」という感覚に、丁寧に耳を澄ますところから始めるとうまくいくかもしれません。そのような食べ方は「インテュイティブ・イーティング(直感的な食事法)」と呼ばれています。果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類などがマッチするようなら、そういったものを少しずつ取り入れてみてはどうでしょうか。小腹が減った時のカップヌードルを、フルーツに変えてみる。ランチの白米を、たまに玄米に変えてみる。おやつのスナック菓子を、一袋のナッツに変えてみる。こういった小さな「整理」が、無理なく食生活全体をポジティブな方向に修正する第一歩になるかもしれません。2. 「超加工食品」の存在を少しだけ意識する今回の研究では、「超加工食品」のリスクについても厳しい結果が示されました。スナック菓子、カップ麺、菓子パン、甘い清涼飲料水などがこれに当たります。超加工食品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて「健康的な加齢」を達成する確率が32%も低かったのです。それが好きな人にとって、完全に断つことは難しいかもしれませんが、少し距離を置く意識を持つだけで、未来の健康は大きく変わる可能性があります。3. 「現在の食事」が未来の自分をつくるこの研究が特に重要なのは、参加者の中年期(平均年齢53歳)からの食生活を追い、その30年後の結果を見ている点です。これは、「もう歳だから手遅れ」でもなければ、「まだ若いから大丈夫」でもないことを意味します。40代、50代の食生活が、70代、80代の健康状態を大きく左右するようです。未来の自分が、旅行や趣味を楽しみ、友人や家族、孫と笑い合っている姿を想像してみてください。その姿を実現するための最も確実な投資は、高価なサプリメントや真新しく見える「健康法」などではなく、今あなたが口にする一食一食なのかもしれません。この研究は、日々の食事が未来の健康をかたち作るという、基本的かつ力強いメッセージを私たちに届けてくれています。「完璧な食事」を目指す必要などまったくありません。一食、一品から。未来の自分への投資は、今日の食卓から始められます。参考文献・参考サイト1)Tessier AJ, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nat Med. 2025;31:1644-1652.

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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第277回 グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない

グルテンや小麦に過敏という人の多くは実際のところそれらが平気かもしれない過敏性腸症候群(IBS)患者28例が完遂したカナダでのクロスオーバー無作為化試験の結果によると1-3)、グルテンや小麦に過敏と自覚している人の多くは実際のところそれらを食べても平気かもしれません。小麦は数多の食品を作るのに使われており、言わずもがな魅惑のスイーツの数々をあつらえるのに必要とされる材料の1つです。多くの人にとって小麦がもたらす食の楽しみは大きいに違いなく、小麦を食べられるならそうするにこしたことはなさそうです。それに未精製の全粒小麦を使った食品は炭水化物、食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラル、その他の植物に特有な成分(ファイトケミカル)の重要な供給源であり、世界の人々の日々のエネルギー摂取や食事を健康的にするのに大いに貢献しています。小麦などの全粒穀物の摂取が健康に有益なことも示されており、たとえば肥満、2型糖尿病、心血管疾患、がん、死亡を減らすことが疫学試験で裏付けられています。一方、食品がたいていそうであるように小麦にも負の側面があり、セリアック病や小麦アレルギーなどの有害な免疫反応をもたらしうることが示されています。小麦の摂取で具合が悪くなるとのことで、セリアック病や小麦アレルギーでなくとも小麦摂取を減らすか避けるグルテンフリー食を選ぶ人も多いようです。そういう不調は非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)と呼ばれ、小麦のタンパク質成分のグルテンがしばしばその誘引成分とみなされます。NCGSの人はもっぱら腹部の痛みや違和感、膨満感、排便周期の変化などの胃腸の症状を訴えます。より少ないながら、疲労や頭痛などの消化管以外の症状が生じることもあります。NCGSの生理指標はなく、その診断にはしばらくのグルテンフリー食の後にグルテンをあえて摂取してもらう検査を必要とします。普段の診療で決まってできる類いのものではありません。これまでの報告に基づくNCGSの有病率は自己申告が頼りゆえか相当まちまちで0.5~13%ほどです4,5)。NCGS患者はIBS様の症状を呈して受診することが多く、IBSも患うNCGS患者は多いようです。たとえば英国の成人1千人ほどを調べた試験では、NCGS患者がほとんど(93%)を占めるグルテン過敏症患者の5人に1人はIBSの診断基準を満たしました6)。他の試験結果も考慮すると、IBSとNCGSはかなり重複するようであり、IBS患者の多くがグルテンや小麦がその症状の引き金であると信じています。そこでカナダのマクマスター大学のPremysl Bercik氏らは、単なる思い込みではなく実際にそれらがIBS症状を誘発するかどうかを調べるべく試験を実施しました。試験ではグルテンフリー食で病状が良くなった経験を有するIBS患者を募りました。集まった被験者はまずグルテンフリー食を3週間続け、点数が大きいほど重症なことを意味する0~500点のIBS重症度尺度(IBS-SSS)でIBS症状がどれほどかが測定されました。その平均値は183でした。続いて全粒小麦入り、グルテン入り、そのどちらも非含有の3種類の固形食品(シリアルバー)のどれかをどれも2週間の間を挟んで1週間食べてもらいました。被験者にはそれらを食べることで症状が悪化する恐れがあると伝えました。ただし、シリアルバーに何が入っているかは知らせませんでした。症状が悪化するかもしれないと告げられているだけに、食べたのが小麦もグルテンも含まないシリアルバーであっても28例中8例(29%)がIBS-SSS点数の50点以上の悪化を示しました。小麦入りやグルテン入りのシリアルバーを食した後の悪化患者の割合はさぞ高かろうと思いきやそうはならず、小麦もグルテンも含まないシリアルバーを食した後と有意差がなく、それぞれ39%(11/28例)と36%(10/28例)でした。グルテンや小麦が正真正銘のIBS症状の引き金となることはあるでしょうが、悪化するという思い込みが実際にそうさせるノセボ効果の関与もあるようです2,3)。NCGS患者を募った欧州での最近の無作為化試験でも同様に胃腸症状へのノセボ効果の寄与が示唆されています7)。今回の試験の被験者の便を調べたところ、何人かはシリアルバーを指示どおりに食べておらず、グルテンや小麦がIBS病状に影響するほどそれらを摂取していなかったかもしれません3)。また、試験の種明かしをしたところで被験者のほとんどは考えや食事を変えはしませんでした2)。IBS患者のいくらかは心理的支援も含む手当てが必要かもしれない、と試験を指揮したPremysl Bercik氏は言っています2)。 参考 1) Seiler CL, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025 Jul 1. [Epub ahead of print] 2) Despite self-perceived sensitivities, study finds gluten and wheat safe for many people with IBS / McMaster University 3) Gluten may not actually trigger many irritable bowel syndrome cases / NewScientist 4) Cabrera-Chavez G, et al. Gastroenterol Res Pract. 2016;2016:4704309. 5) Molina-Infante J, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;41:807-820. 6) Aziz I, et al. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2014;26:33-39. 7) de Graaf MCG, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2024;9:110-123.

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第20回 血液でわかる「臓器年齢」とは?長寿の鍵は脳と免疫、そして生活習慣にあり?

「○○歳だけど、それより若く見られる」、「実年齢より老けて見られるけれど、健康には自信がある」。私たちの「年齢」は、暦通りの年齢(実年齢)や外見だけでは測れない部分があります。近年の研究では、体の中にある臓器一つひとつに、実年齢とは異なる「生物学的な年齢」があり、それは臓器ごとにも異なることがわかってきています。そしてこのほど、イギリスの研究機関が報告した研究1)により、血液検査だけで11もの臓器の「年齢」を推定し、それが将来の病気のリスクや寿命と深く関わっていることが示唆されました。約4万5,000人もの大規模なデータを解析したこの研究は、私たちが健康で長生きするためのヒントを与えてくれます。「推定臓器年齢」が予測する未来の病気研究チームは、血液中に含まれる約3,000種類のタンパク質をAIで分析し、脳、心臓、肺、腎臓といった11の主要な臓器の生物学的な年齢、すなわち「臓器年齢」を推定するモデルを開発しました。この「臓器年齢」と実年齢との差(年齢ギャップ)を調べたところ、興味深い知見が次々と判明しました。たとえば、この研究で推定された「心臓年齢」が実年齢より1歳高いごとに、将来の心不全のリスクは83%も上昇していました。同様に、研究内で推定された「脳年齢」が高いことは、アルツハイマー病の強力な予測因子となっていました。とくに、脳が実年齢より著しく老化している人は、アルツハイマー病のリスクが3.1倍にもなり、これは病気の遺伝的リスクを持つ人(APOE4を1コピー持つ人)と同程度でした。逆に、脳が若い人はリスクが74%も減少し、これは遺伝的に病気になりにくい人と同等の保護効果でした。さらに、老化している臓器の数が増えれば増えるほど、死亡リスクは雪だるま式に増加して見られることもわかりました。「老化」臓器が8個以上ある人は、そうでない人に比べて死亡リスクが8.3倍にも跳ね上がっていたのです。あなたのライフスタイルが「推定臓器年齢」を大きく左右するでは、研究で推定されたこれらの「臓器年齢」は変えられない運命なのでしょうか?答えは「ノー」だと考察されています。この研究の中で評価された最も重要な知見の一つは、「推定臓器年齢」が日々のライフスタイルに密接に関連すると明らかにしたことです。研究では、以下のようなライフスタイルと推定臓器年齢の関連が示されました。臓器を「老化」させる習慣喫煙:多くの臓器の老化と関連していました。過度な飲酒:こちらも複数の臓器の老化を促進する要因でした。加工肉の摂取:日常的にソーセージやハムといった加工肉を食べる習慣は、臓器年齢を高める傾向がありました。不眠:睡眠不足や不眠の悩みは、臓器の老化にもつながっているようです。臓器を「若々しく」保つ習慣活発な運動:とくに、息が上がるような活発な運動は、多くの臓器を若々しく保つのに効果的な可能性があると考えられました。油の多い魚の摂取:いわしやサバなどの青魚に含まれる脂は、健康のアウトカムに関連すると知られていますが、臓器年齢の若返りにも貢献する可能性が示されました。鶏肉の摂取:赤身肉よりも鶏肉を選ぶことが、臓器の若さを保つ秘訣なのかもしれません。高学歴:教育レベルの高さも、臓器の若々しさと関連していました。これは、健康に対する知識やヘルスリテラシーの高さが反映されているのかもしれません。また、興味深いことに、グルコサミン、肝油(タラの肝油)、マルチビタミン、ビタミンCといったサプリメントや市販薬を摂取している人は、とくに腎臓、脳、膵臓が若い傾向にあることもわかりました。ただし、これらはあくまで関連性を示したもので、直接的な因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。たとえば、こうしたものを飲んでいる人は普段から健康への意識が高い傾向があり、そうした傾向が臓器を若々しく維持するのに貢献していたのかもしれません。長寿の秘訣は「若い脳」と「若い免疫能」にあり?最後に、この研究は「どの臓器の若さが長寿に最も貢献するのか?」という問いにも答えようとしています。分析の結果、数ある臓器の中でも、「脳」と「免疫能」の推定年齢が、長寿と特に強く関連していることが示唆されました。脳だけ、あるいは免疫能だけが若い人でも死亡リスクは40%以上低下しましたが、脳と免疫の両方が若い人は、死亡リスクが56%低下することと関連していたのです。脳は全身の働きをコントロールする司令塔であり、免疫システムは病気から体を守る防御機構です。この2つのシステムの若さを保つことが、健康寿命を延ばすための鍵となりそうです。この研究は、血液という身近なサンプルから、私たちの体の内部で起きている老化のサインを読み解く新たな扉を開きました。「臓器年齢」を推定し、ライフスタイルを見直すことで、病気を未然に防ぎ、より健康な未来を自ら作り出す。そんな時代が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Oh HSH, et al. Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity. Nat Med. 2025 Jul 9. [Epub ahead of print]

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『認知症になる人・ならない人』著者が語る「最も驚かれた予防策」とは?

 CareNet.comの人気連載「NYから木曜日」「使い分け★英単語」をはじめ、多くのメディアで活躍する米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏。山田氏が6月に出版した書籍『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』(講談社)は、エビデンスが確立されている認知症予防法や避けるべき生活習慣を、一般向けにわかりやすく紹介した1冊だ。エビデンスで示す“認知症の本当のリスク因子” 本書は、1. 認知症になる人の生活習慣2. 実は認知症予防に効果がないこと3. 認知症にならない人の暮らし方4. 認知症になったときの対応という章立てになっている。 1章の「認知症になる人の生活習慣」としては、・1日中座りっぱなし・タバコを吸う・塩分を摂り過ぎる・目や耳の老化による不調を放置するといった項目が並ぶ。 著者の山田氏は「本書で紹介した内容は、Lancet誌の認知症委員会が4年ごとにアップデートしている、認知症予防に関する情報を基にしています。長期にわたるエビデンスが確立している内容が中心なので、医療者の方にとって目新しいものは少ないかもしれません」と語る。 一方で、「部屋の換気をしない(と認知症リスクが上がる)」という項目は、読者からの反響が最も大きく、新鮮に受け止められたようです」と語る。ガスコンロを使ったときに発生するPM2.5や二酸化窒素などの微粒子、消臭スプレーや漂白剤などの使用によって屋内の空気に不純物が増える。多くの人は1日の4分の3程度を屋内で過ごすと言われており、通気性の悪い室内環境が脳血管疾患や生活習慣病を介して認知症と関係する可能性が示唆されている。そのため、こまめに換気をして屋内の空気を新鮮に保つことが重要になるという。 また、「1日に缶ビールを2本以上飲む」という項目も反響があったという。「お酒を飲み過ぎると、健康状態や認知症リスクに影響しそうだ、という意識はあっても、具体的な数値に落とし込んだことでインパクトがあったようです」(山田氏)。過去の研究によると、週に168g以上のアルコールを摂取する人はそうでない人に比べて認知症のリスクが約18%高くなるという。このアルコール量を換算すると、1日当たり350mLの缶ビール2本以上となる。「意識していなければすぐ超えてしまう量なので、お酒好きの方には知っておいてほしい。患者さんへの節酒のアドバイスの際にも取り入れてみては」(山田氏)。 ほかにも、「超加工食品」を食べ過ぎないことも、簡便かつ効果的な予防策として紹介されている。米国在住の山田氏は「米国では超加工食品が社会のすみずみまで浸透しており、すべてを避けるのは難しい。私自身もまずは目に付くソーセージやハム、ベーコンをなるべく避けるようにしている」と語る。「認知症予防にエビデンスがないこと」も紹介 本書では、認知症リスクを高める習慣と同時に、認知症予防にとって意味のないことも紹介している。ここでは、「プロバイオティクス」「オメガ3脂肪酸」「イチョウの葉エキス」などの具体例を挙げつつ、現時点では有意差を示す報告がないことを紹介している。また、健康食品などの宣伝文句に「エビデンスをすり替えた」ものがある点についても解説する。ほかにも「脳トレ」や「高価な自由診療の認知症検査」などについて、現時点での研究報告に沿ってエビデンスが低いことを紹介している。 「結局、認知症予防のために特定のサプリを大量に摂ったり、◯◯食だけを守ったりするよりは、野菜や果物、魚、全粒穀物などをバランス良く取り入れ、超加工食品や過剰な糖分・脂肪分を控える習慣をできる範囲で継続していくことの大切さが、エビデンスベースでも裏付けられているのです」(山田氏)。 本書の終盤では、「認知症になったあとの対応」にも触れている。家族のために認知症の段階を把握する指標、本当に入院が必要になるケース、介護のために必要となる費用の目安などが紹介される。ここでは、米国の「Hospital at Home」(HAH)の取り組みにも触れている。これは入院診療チームを自宅に派遣し、患者を自宅で“入院相当”の管理下で診るという仕組みだという。「日本ではまだ医療保険や介護保険制度上の制約が多く、実現は難しい点も多いものの、せん妄や生活機能低下を避けるためには自宅が望ましいケースも多い。今後の在宅医療を設計する上で参考になる点があると思う」(山田氏)。一般向けの内容だが、医療者にとっても自身のため、親のため、患者説明用の資料としてなど、さまざまな面で参考となる1冊となりそうだ。書籍紹介『認知症になる人 ならない人 全米トップ病院の医師が教える真実』

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