救急科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

tenecteplase、脳梗塞治療でアルテプラーゼと同等の効果

 急性期脳梗塞の治療薬として2月28日、米食品医薬品局(FDA)により承認された血栓溶解薬のTNKase(一般名テネクテプラーゼ〔tenecteplase〕)の有効性と安全性は、米国の大多数の病院で使用されている血栓溶解薬のアルテプラーゼと同等であるとする研究結果が報告された。テネクテプラーゼには、アルテプラーゼと比べて投与に要する時間が格段に短いというメリットもある。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJustin Rousseau氏らによる本研究の詳細は、「JAMA Network Open」に3月12日掲載された。

院外心停止、最も重要なのは心肺蘇生実施までの時間

 院外心停止者に対する心肺蘇生法(CPR)は、適切に行われる限り、医師や救急救命士か、経験のないバイスタンダー(その場に居合わせた人)かなどの実施者のタイプが生存に影響することはなく、迅速に行うことが何よりも重要な可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。トリエステ大学(イタリア)のAneta Aleksova氏らによるこの研究結果は、欧州急性心血管ケア学会議(ESC ACVC 2025、3月14〜15日、イタリア・フィレンツェ)で発表された。研究グループは、「CPR実施者のタイプにかかわりなく、迅速な心拍再開が院内生存にとって非常に重要であることが示された。バイスタンダーによる初期のCPRと救急医療サービスによるCPRを比較しても、長期生存については同等だった」と述べている。

マラソン中の心停止、発生は横ばいだが突然死は大幅に減少/JAMA

 米国では2010~23年に2,900万人以上がマラソンおよびハーフマラソンを完走しており、これは2000~09年の約3倍に相当するという。米国・エモリー大学のJonathan H. Kim氏らは、近年の長距離ランニングレースイベントにおける心停止の発生率と転帰を調べ、米国の長距離ランニングレースへの参加者は増加したが、心停止の発生率は一定していることを明らかにした。心停止による死亡率は大きく減少しており、十分な発生関連データがあった症例では、原因として冠動脈疾患(CAD)が最も多くみられたという。JAMA誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。

敗血症性ショックにおけるバソプレシンの最適な開始時期(OVISS強化学習研究)(解説:寺田教彦氏)

敗血症性ショックは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義される(『日本版敗血症診療ガイドライン2024https://doi.org/10.3918/jsicm.2400001』)。早期診断のためのスコアリングやバンドルの整備、知識の広報などのキャンペーンにより、徐々に死亡率は改善しているものの、今でも重篤な病態である。敗血症性ショックの初期蘇生では、蘇生輸液のみで目標血圧を維持できない場合、並行して血管収縮薬の投与も行われる。世界的な診療ガイドラインを参考にすると(Executive Summary: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for the Management of Sepsis and Septic Shock 2021 PMID: 34643578)、第一選択薬としてノルアドレナリンが使用されているが、ノルアドレナリンのみで血圧が保てない場合に、第二選択薬としてバソプレシンが使用されている。本邦のガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン2024https://doi.org/10.3918/jsicm.2400001』においても、「CQ3-7:敗血症性ショックに対して、血管収縮薬をどのように使用するか?」に対して、「ノルアドレナリン+バソプレシン」と第二選択薬としてバソプレシンの使用が弱く推奨されている。バソプレシンは、高価な薬剤ではなく国内でも広く使用されているが、使用開始のタイミングについては明確な基準がなく、現場では医師や医療機関ごとに判断されているのが実情である。

働き方改革スタートから1年、「変化を感じる」は35%/ウォルターズ・クルワー調査

 医師の働き方改革がスタートして1年。医療業界向けの情報サービス事業のウォルターズ・クルワー・ヘルスは医師を対象に「『医師の働き方改革』に関する調査」と題したアンケートを行い、その結果を発表した。 「自身の勤務先の働き方改革の取り組み」を聞いた設問には、「取り組んでいる」との回答が83%だったが、その中で自身の働き方にも「変化を感じる」と答えた人は35%に留まった。

TIA後の脳卒中リスクは長期間持続する(解説:内山真一郎氏)

 本研究は、38件の研究に登録された17万1,068例のTIAまたは軽症脳梗塞(大多数はTIA)のメタ解析である。脳卒中の再発リスクは最初の1年で5.9%、5年で12.5%、10年で19.8%であり、2年後からは毎年1.8%再発していた。われわれの行ったTIA registry.org研究でも、発症後2年後から5年後まで累積再発曲線は減衰することなく直線的に推移し、ブレーキがかかっていなかった(Amarenco P, et al. N Engl J Med. 2018;378:2182-2190.、本論文の引用文献14)。

ARDSの鎮静、セボフルラン対プロポフォール/JAMA

 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の管理では機械換気が重要とされ、多くの場合鎮静を要するが、至適な鎮静法は依然として不明だという。フランス・Universite Clermont AuvergneのMatthieu Jabaudon氏らSESAR Trial Investigatorsは「SESAR試験」において、中等症~重症のARDS患者では、プロポフォール静脈内投与と比較してセボフルラン吸入による鎮静は、28日の時点での換気を必要としない日数(無換気日数)が少なく、90日生存率が低いことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号に掲載された。  SESAR試験は、ARDS患者の鎮静におけるセボフルラン吸入の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の非盲検評価者盲検無作為化第III相試験であり、2020年5月~2023年10月にフランスの37の集中治療室(ICU)で患者を登録した(French Ministry of Healthなどの助成を受けた)。

「血痰は喀血」、繰り返す喀血は軽症でも精査を~喀血診療指針

 本邦初となる喀血診療に関する指針「喀血診療指針」が、2024年11月に日本呼吸器内視鏡学会の学会誌「気管支学」に全文掲載された。そこで、喀血ガイドライン作成ワーキンググループ座長の丹羽 崇氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 兼 喀血・肺循環・気管支鏡治療センター長)に、本指針の作成の背景やポイントなどを聞いた。  「喀血診療の現場では、長年にわたって公式な診療指針が存在せず、個々の医師が経験と知識を基に対応していたことに、大きなジレンマを感じていた」と丹羽氏は述べる。自身でカテーテル治療や内視鏡治療を行うなかで、より体系的な診療指針の必要性を実感していたところ、日本呼吸器内視鏡学会の大崎 能伸理事長(当時)より「ガイドラインを作ってみないか」と声をかけられたことから、喀血ガイドライン作成ワーキンググループが立ち上がり、作成が始まったとのことである。

敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA

 すでにノルエピネフリンを投与されている敗血症性ショック患者において、臨床医による実際の平均的な治療パターンと比較して強化学習(reinforcement learning)モデルは、より多くの患者で、より早期に、ノルエピネフリンの用量がより少ない時点でのバソプレシンの投与開始を推奨し、これに準拠すると死亡率が低下することが、フランス・パリ・シテ大学のAlexandre Kalimouttou氏らが実施した「OVISS試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月18日号で報告された。  研究グループは、複数の電子健康記録のデータセットに強化学習を適用し、ノルエピネフリンの投与を受けている敗血症性ショックの成人の重症患者において、短期的アウトカムと入院中のアウトカムの両方を改善するよう最適化されたバソプレシンの投与開始規則の治療結果を導き出し、これを検証し、評価を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。

患者のAI信頼度は約半数、救急の重症度判断における注意点/日本救急医学会

 日本救急医学会の救急医療における先端テクノロジー活用特別委員会は、大規模言語モデル(LLM)が回答した救急外来受診の要否判断の正確性、回答内容に対する利用者(非医療者の一般人)の理解度について検証を行った。その結果、医学知識を持つ専門家側はLLMが救急外来受診の判断を高精度でアドバイスしていると評価した一方で、一般人側は同じ回答を見ても専門家と異なる解釈をする傾向があることが明らかになった。これにより、AIが生成する医療アドバイスに関する理解や解釈において、専門家と一般人の間に大きな隔たりがあることが示唆された。Acute Medicine & Surgery誌2025年3月12日号掲載の報告。