救急科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

COVID-19の世界的流行がとくに影響を及ぼした疾患・集団は/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によって、COVID-19以外のいくつかの疾患、とくに精神疾患(抑うつ、不安障害)、アフリカ地域の幼児におけるマラリア、高齢者における脳卒中と虚血性心疾患の負担が著しく増加し、これには年齢や性別で顕著な不均衡がみられることが、中国・浙江大学のCan Chen氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年7月2日号に掲載された。  研究グループは、COVID-19の世界的流行が他の疾病負担の原因に及ぼした影響を体系的に調査し、評価することを目的に時系列モデル分析を行った(中国国家自然科学基金委員会の助成を受けた)。

「日本版敗血症診療ガイドライン2024」改訂のポイント、適切な抗菌薬選択の重要性

 2024年12月、日本集中治療医学会と日本救急医学会は合同で『日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG 2024)』を公開した。今回の改訂では、前版の2020年版から重要臨床課題(CQ)の数が118個から78個に絞り込まれ、より臨床現場での活用を意識した構成となっている。5月8~10日に開催された第99回日本感染症学会総会・学術講演会/第73回日本化学療法学会総会 合同学会にて、本ガイドライン特別委員会委員長を務めた志馬 伸朗氏(広島大学大学院 救急集中治療医学 教授)が、とくに感染症診療領域で臨床上重要と考えられる変更点および主要なポイントを解説した。

夏の暑さから身を守る――救急医のアドバイス

 気温が高くなる夏季に、屋外に出なければならない――。そんな時に身の安全を守るための重要なヒントを、米ヒューストン・メソジスト病院の救急医であるNeil Gandhi氏が同院のサイト内に6月17日公開した。同氏は「この季節は、暑さに湿気、そして、しばしば異常気象が重なるため、事前の『備え』が特に重要な季節だ」としている。  Gandhi氏によると、「屋外で過ごすことには、心身の健康増進をはじめ、多くのメリットがある」という。しかし、夏季の屋外活動に関しては「リスクもあるため気をつけなければならない」と述べ、以下のような注意点を挙げている。  「猛暑の中に、いきなり飛び込まないことだ。屋外で活動を始めるには、慣れるまで少し時間を取ってほしい」。Gandhi氏はこのように語り、屋外活動を始めるに際しては、最初は短時間にとどめ、徐々に時間を長くしていき、体を暑熱環境に順応させるようにすることを勧めている。

ICU入室患者に対する強化タンパク栄養の効果(解説:名郷直樹氏)

オーストラリアとニュージーランドの4つのICUを対象にした、経腸栄養を受けた患者に対する強化タンパク栄養(100g/L)と通常タンパク栄養(63g/L)を比較し、90日以内の死亡と入院していない日数を1次アウトカムとして評価した、クラスターランダム化、クロスオーバー、オープン試験である。クラスターランダム化は、4つの施設のうち2つずつを強化群、通常群に割り付け、さらに3ヵ月以上の間隔を空け、4つの時期においてそれぞれの施設で強化群と通常群に2回ずつ割り付けるデザインになっている。参加施設が少ないデメリットを、クロスオーバーにより両群に2回ずつ割り付けることでカバーするデザインといえる。両群の患者背景を見るとよくそろっており、4施設の研究でありながら大きな問題はなさそうである。

スタチンは敗血症の治療にも効果あり?

 スタチン系薬剤(以下、スタチン)は、高LDLコレステロール(LDL-C)血症の治療における第一選択薬であるが、この安価な薬剤は、別の病態において救命手段となる可能性があるようだ。新たな研究で、敗血症患者の治療において、抗菌薬、点滴、昇圧薬による通常の治療にスタチンを加えることで死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。天津医科大学総合病院(中国)のCaifeng Li氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Immunology」に6月6日掲載された。  敗血症は、感染症に対する過剰な免疫反応によって全身に炎症が広がり、複数の重要な臓器に機能不全が生じる病態である。研究グループによると、米国では毎年約75万人が敗血症で入院し、そのうち約27%が死亡している。敗血症患者の約15%には、血圧が危険なレベルまで低下する敗血症性ショックが生じる。敗血症性ショックの死亡リスクは30〜40%に上ると報告されている。

衝突被害軽減ブレーキは歩行者の重傷事故リスクを低減させる

 乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は、警告音や自動のブレーキ制御によって、衝突事故の回避や被害の軽減を支援する装置である。国内では、2021年11月から国産の新型車にAEBの搭載が義務化されている。今回、AEBは事故発生時に歩行者の重傷度を軽減する可能性があるとする研究結果が報告された。東京大学医学部・大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学の稲田晴彦氏らの研究によるもので、詳細は「Accident Analysis & Prevention」に5月10日掲載された。  2023年のWHOの報告では、交通事故による年間死亡者数は119万人(人口10万人あたり15人)と推定されている。これらの死亡者のうち、約30%は歩行者および自転車利用者が占めているが、日本国内でも同様の傾向が見られる。2024年に警察庁交通局の発表したデータによると、2023年の衝突事故後30日以内に死亡した3,263人のうち、1,211人(37%)が歩行者であり、500人(15%)が自転車利用者だった。こうした交通事故の被害軽減のため、自動車メーカーはAEBのような衝突回避システムを搭載した車両の開発・普及を進めてきた。過去には、AEBが歩行者や自転車利用者の事故の重傷度を軽減することがシミュレーション研究では示されているものの、現実世界の事故データを用いた研究ではサンプルサイズや効果推定値の信頼区間の問題から決定的な結論を出すには至っていない。このような背景を踏まえ、筆者らは、AEBが交通事故における歩行者と自転車利用者の負傷重傷度を軽減しているかどうかを検証するために、警察庁の報告データを用いた横断研究を実施した。

希釈式自己血輸血、心臓手術時の同種血輸血を減じるか/NEJM

 心臓手術を受ける患者は赤血球輸血を要することが多く、これには多額の費用や、供給量が不足した場合の手術の延期、輸血関連合併症のリスクが伴うため、輸血の必要性を減じるアプローチの確立が求められている。イタリア・IRCCS San Raffaele Scientific InstituteのFabrizio Monaco氏らANH Study Groupは「ANH試験」において、通常ケアと比較して希釈式自己血輸血(acute normovolemic hemodilution:ANH)は、人工心肺装置を使用した心臓手術時に同種赤血球輸血を受ける患者の数を減らさず、出血性合併症も抑制しないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年6月12日号に掲載された。  ANH試験は、ANHの使用が同種赤血球輸血の必要性を減少させるとの仮説の検証を目的とする実践的な単盲検無作為化第III相試験であり、2019年4月~2024年12月に北米、南米、欧州、アジアの11ヵ国32施設で参加者を登録した(イタリア保健省の助成を受けた)。

重症患者の経腸栄養、タンパク質を増量しても予後は改善せず/JAMA

 集中治療室(ICU)入室中の重症患者にタンパク質含有量の高い経腸栄養剤(100g/L)を用いても、通常(63g/L)と比較して90日時点の生存期間などは改善されなかった。オーストラリア・アデレード大学のMatthew J. Summers氏らが、同国およびニュージーランドの8施設のICUにて実施したクラスター無作為化非盲検クロスオーバー試験の結果を報告した。ガイドラインでは、重症患者におけるタンパク質含有量の高い経腸栄養が推奨されているが、患者のアウトカムに及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年6月11日号掲載の報告。

災害時にLINEを活用し糖尿病患者の命を守る/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。  今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。  地震や洪水などの自然災害が発生した場合、糖尿病患者、とくにインスリン依存状態の患者はインスリンの入手などに困難を来し、生命の危機に直面するケースが予想され、災害時に患者の様子や不足する薬剤をいかに把握するかが、課題となっている。

救急外来におけるアルコール使用障害マネジメントの課題

 アルコール使用障害は、世界で1億人に影響を及ぼしているといわれており、救急外来への受診につながるケースも少なくない。近年の研究では、救急外来でnaltrexoneを投与することで飲酒行動を効果的に抑制することが示唆されているが、十分に活用されているとはいえない。米国・ペンシルベニア大学のIvan Covarrubias氏らは、救急外来においてnaltrexone投与開始を検討する際、臨床医と患者が直面する障壁およびnaltrexone投与を促進するための介入を特定するため、本研究を実施した。The Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2025年1月23日号の報告。