救急科の海外論文・最新ニュースアーカイブ|page:7

脳への電気刺激が脳梗塞によるダメージを抑制か

 脳に電気ショックを与えることで、脳卒中による脳へのダメージを抑えることができるようだ。高精細(HD)陰極経頭蓋直流電気刺激(C-tDCS)と呼ばれる非侵襲的な治療法により、急性虚血性脳卒中(AIS、脳梗塞)の原因となった血栓周辺の血流が増加し、脳にそれ以上のダメージが及ぶのを防げる可能性のあることが明らかになった。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)David Geffen School of Medicine神経学分野のMersedeh Bahr-Hosseini氏らが実施したこのパイロット試験は、「JAMA Network Open」に6月21日掲載された。

脳出血患者の収縮期血圧を1時間以内に130~140mmHgにコントロールすると通常治療と比較して6ヵ月後の神経学的予後(modified Rankin Scale)が良い(解説:石川讓治氏)

脳出血患者の急性期の血圧をどのようにコントロールすればよいのかという問題は、徐々に変化してきた。『脳卒中治療ガイドライン』の2009年版においては、「脳出血急性期の血圧は、収縮期血圧が180mmHg未満または平均血圧が130mmHg未満を維持することを目標に管理する」ことが推奨されていたが、2015年版では、「できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持することを考慮しても良い」となり、2021年版では、「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧し、7日間維持することは妥当であり、その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い」となった。本研究において、低および中所得国(9ヵ国)で行われた多施設共同研究で、発症6時間以内の脳出血患者を対象に、(1)1時間以内の収縮期血圧(140mmHg未満を目標、130mmHgを下限)、(2)できるだけ早期の血糖(非糖尿病患者では6.1~7.8mmol/L、糖尿病患者では7.8~10.0mmol/L)、(3)1時間以内の体温(37.5度未満)、(4)ワルファリン内服患者においては1時間以内にINR1.5未満を目標に速やかにコントロールを行うことで、6ヵ月後に評価したmodified Rankin Scaleにおける神経学的予後が、通常治療よりも良好であったことが報告された。

保険加入状況によって、治療や退院計画は変わるか?/BMJ

 米国・イエール大学のDeepon Bhaumik氏らは、米国の65歳以上の高齢者において、治療や退院の決定が保険の適用範囲に基づいて画一化されているかどうかを調べる検討を行った。米国外科学会の全米外傷登録データバンク(NTDB)の約159万例の外傷患者を対象に調べた結果、そのようなエビデンスは認められなかったこと、類似の外傷患者であっても治療の差はみられ、その差は退院計画のプロセスの間に生じていたことが示唆されたという。BMJ誌2023年7月11日号掲載の報告。  研究グループは、2007~17年の米国外科学会NTDBを基に、全米900ヵ所以上のレベル1または2の外傷センターを訪れた50~79歳について調査を行った。65歳でのメディケアへの加入が、医療サービスの内容とアウトカムに与える影響について、回帰不連続アプローチ法を用いて検証した。

ICU患者の握力が退院後の精神症状と関連

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者に見られる集中治療後症候群(PICS)の精神症状が、退院時の握力と関連している可能性を示唆するデータが報告された。特に不安レベルと強く逆相関しているという。国内多施設共同観察研究の結果であり、日立総合病院救命救急センターの中村謙介氏らによる論文が「BMJ Open」に5月5日掲載された。  PICSはICU入室中から退室後に生じる身体や精神の症状のことで、退院後にも数カ月以上続くことがある。一般的には時間の経過とともに軽快するが、精神症状は時に悪化していくことがあり、PICSリスクの高い患者を早期に特定し予防的に対処する戦略の確立が求められている。他方、高齢者や慢性疾患のある患者では、握力の低いことが精神症状のリスクの高さと関連していることが報告されている。これを背景に中村氏らは、ICU患者の握力がPICS精神症状の関連因子の一つではないかとの仮説を立て、ICU患者対象の国内多施設共同研究「EMPICS研究」のデータを事後解析し検討した。

コロナ緊急事態宣言中、急性疾患の院内死亡率は1.7倍に

 新型コロナウイルス感染流行は、医療機関の救急外来受け入れや入院の制限など、他疾患の患者にも大きな影響を与えた。日本国内のこれまでの感染流行時において、その影響はどの程度であったのか。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院の阿部 計大氏らによる研究がJAMA Network Open誌2023年6月22日号に掲載された。  研究者らは、最初の緊急事態宣言期間(2020年4月7日~5月14日)の前後における「ACSC」(の患者の転帰を比較した。期間前は2015年1月1日~2019年12月31日、期間後は2020年1月1日~12月31日とし、日本全国242の急性期病院の退院サマリーデータを用いた。データ解析は2022年8月16日~12月7日に行われた。

軽症脳梗塞、4.5時間以内DAPT vs.アルテプラーゼ/JAMA

 日常生活や仕事上の障害につながらない(非障害性)軽症脳梗塞患者において、発症後4.5時間以内の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は90日後の機能的アウトカムに関して、アルテプラーゼ静注に対して非劣性であることが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検非劣性試験「Antiplatelet vs R-tPA for Acute Mild Ischemic Stroke study:ARAMIS試験」の結果を報告した。軽症脳梗塞患者において、静脈内血栓溶解療法の使用が増加しているが、軽症非障害性脳梗塞患者における有用性は不明であった。JAMA誌2023年6月27日号掲載の報告。

暑くても脳卒中が増加?~メタ解析

 暑さと寒さの両方が脳卒中の罹患率および死亡率を増大させ、発展途上国よりも先進国のほうが暑さによるリスクが高いことが、中国・Tongji Medical CollegeのJing Wen氏らによって明らかになった。Brain and Behavior誌オンライン版2023年6月2日号掲載の報告。  これまでの研究で、気温は脳卒中の罹患率および死亡率と関連することが示唆されているが、そのエビデンスは十分ではない。そこで研究グループは、気温と脳卒中の罹患率および死亡率との関連を評価するためにメタ解析を行った。

救急科の安全性、医療従事者と患者への調査

 医療従事者と患者の双方が救急科(ED)の安全性を疑問視している実態が、欧州救急医学会(EUSEM)が実施した国際調査により明らかになった。医療従事者に対する調査の結果はEnte Ospedaliero Cantonale(スイス)のRoberta Petrino氏らにより「European Journal of Emergency Medicine」に5月24日発表され、また、EUSEM会長のJames Connolly氏が執筆した付随論評が同誌に5月26日掲載された。  医療従事者に対する調査では、世界101カ国のED医療従事者1,256人(医師1,045人、看護師199人、救急医療隊員や薬剤師など12人)から寄せられた回答が分析された。その結果、「患者数は、安全な医療を提供できるEDのキャパシティーを超えている」に対し、「時々当てはまる」と「常に/たいてい当てはまる」と答えた者の割合がそれぞれ32.02%と59.92%と合わせて90%を超えており、EDの抱える問題として過密さが浮き彫りになった。EDの過密さは、損害や死亡の実質的なリスク増加を伴うことが、過去の研究で報告されている。また、調査からは、繁忙時のEDスタッフの数が十分だと感じている調査参加者の割合は、医師で22.4%、看護師で20.7%にとどまり、人手不足も大きな問題であることが示された。

院外心停止後のPaCO2目標値、軽度高値vs.正常/NEJM

 院外心停止後に蘇生された昏睡患者において、目標PaCO2値を軽度高値とする治療(targeted mild hypercapnia)が正常値とする治療(targeted normocapnia)と比較して、6ヵ月後の良好な神経学的アウトカムに結びつかなかったことが示された。オーストラリア・Austin HospitalのGlenn Eastwood氏らが、17ヵ国63施設のICUが参加した医師主導の評価者盲検無作為化非盲検試験「Targeted Therapeutic Mild Hypercapnia after Resuscitated Cardiac Arrest trial:TAME試験」の結果を報告した。ガイドラインでは、院外心停止後に蘇生した昏睡状態の成人患者に対して、正常PaCO2値を治療目標とすることが推奨されているが、軽度高値とするほうが脳血流を増加させ神経学的アウトカムを改善する可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2023年6月15日号掲載の報告。

ヒドロコルチゾン単体では敗血症性ショックによる死亡リスクは低下せず

 敗血症性ショックの患者に副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)のヒドロコルチゾンを単独投与しても死亡リスクを低下させることはできないが、他のステロイドと併用することで生存率が向上し、昇圧薬を使用せずに済む可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の麻酔科教授であるRomain Pirracchio氏らが実施したこの研究結果は、「NEJM Evidence」に5月22日掲載された。  敗血症とは、感染に対して全身が極端な反応を示し、心臓や肺などの体の重要な臓器に障害が生じる病態をいう。毎年、世界中で約5500万人が敗血症を発症し、1100万人が死亡している。敗血症では早期に気付くことが重要であり、治療としては、感染源のコントロール、抗菌薬の投与、輸液、昇圧薬(血圧を上昇させる働きを持つ薬剤)の投与などが行われる。敗血症のうち、輸液負荷を行っても血圧が危険なレベルに低下した状態が続き、血中乳酸値が高いままの病態を敗血症性ショックと呼ぶ。