日本発エビデンス

75歳以上の乳がん検診は過剰診断か~日本人での検討

 乳がん検診は死亡率低下と関連する可能性があるが、高齢者においては過剰診断が懸念される。今回、石巻赤十字病院の佐藤 馨氏らが、高齢化地域における75歳以上の女性において検討した結果、検診と死亡率低下に有意な関連はみられなかったものの、検診群において乳がんによる死亡は認められなかった。Preventive Medicine Reports誌2025年10月9日号に掲載。  本研究では、石巻赤十字病院で乳がんと診断された75~98歳(中央値81歳)の女性289例(2011~20年)を後ろ向きに解析した。患者を検診群(40歳以上の全女性を対象とした2年ごとの全国規模集団ベース乳がんスクリーニングで診断)と非検診群(症状で診断もしくはCTなどの他疾患の画像検査で偶然発見)に分類した。主要評価項目は全死亡率であった。比較にはMann-Whitney のU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定、生存率はKaplan-Meier法、log-rank検定、予後因子はCox比例ハザードモデルで解析した。

日本人における気圧の変化と片頭痛との関係

 獨協医科大学の辰元 宗人氏らは、日本の健康保険請求データベースの大規模データと気象データを照合し、気圧変化の大きい季節が片頭痛発症に及ぼす影響を調査するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。Frontiers in Neurology誌2025年9月10日号の報告。  本研究では、JMDC請求データと日本の気象データを用いて分析した。片頭痛の診断歴を有する患者を対象とし、片頭痛と最初に診断された医療機関の所在地に基づいて8つの地域サブグループに分類した。片頭痛発症までの期間(各季節の初日からトリプタンが処方されるまでの期間と定義)を、気圧変化が最も大きい季節と最も小さい季節で比較した。

高齢者のポリドクター研究、最適受診施設数は2〜3件か

 複数の医療機関に通う高齢者は多いが、受診する施設数が多ければ多いほど恩恵が増すのだろうか。今回、高齢者を対象とした大規模コホート研究で、複数施設受診が死亡率低下と関連する一方、医療費や入院リスクが上昇することが明らかとなった。不要な入院を予防するという観点からは最適な受診施設数は2〜3件とされ、医療の質と負担を両立させる上での示唆が得られたという。研究は慶應義塾大学医学部総合診療教育センターの安藤崇之氏らによるもので、詳細は9月1日付で「Scientific Reports」に掲載された。

日本食はうつ病予防に有効なのか?

 老年期うつ病は、高齢化社会においてますます重要な公衆衛生問題となっている。日本は世界有数の平均寿命と健康寿命の長さを誇るにもかかわらず、日本食と老年期うつ病との具体的な関連性に特化したプロスペクティブコホート研究はこれまで行われていなかった。北海道大学のHo Chen氏らは、日本食と老年期うつ病との関連性を検証し、この関連性が食事の質の向上に起因する身体的健康状態の改善にとどまらないかどうかを評価するため、本研究を実施した。The Journal of Nutrition, Health & Aging誌2025年9月号の報告。

高齢者の体重増減、何kg以上が死亡リスクに?

 高齢者において1年間で2kg以上の体重減少または3kg以上の体重増加は、要介護状態の発生および全死因死亡のリスク増加と有意に関連することが、静岡社会健康医学大学院大学の田原 康玄氏らによるしずおか研究(静岡多目的コホート研究事業)で明らかになった。結果は、Journal of the American Medical Directors Association誌2025年10月17日号に発表された。  本研究は、静岡県の健康保険および介護保険データを用いた観察研究で、2年連続で健康診断を受けた65~90歳の日本人高齢者11万7,927例を対象とした。研究チームは、1年間の体重変化と要介護状態の発生および全死因死亡との関連を調査した。ベースラインの臨床特性と1年間の体重変化は健康診断データから、要介護状態の発生と全死因死亡は保険データから取得した。追跡期間の平均は、要介護状態の発生について7.3年、全死因死亡について8.0年であった。

ビタミンD欠乏症が10年間で有意に減少、骨折リスク低減に期待

 骨や筋肉の健康を守るうえで欠かせない栄養素、ビタミンD。その不足は骨粗鬆症や骨折リスクの増大と関わることが知られている。今回、日本の大規模調査で、一般住民におけるビタミンD欠乏の割合がこの10年で有意に減少したことが明らかになった。血中ビタミンD濃度も上昇しており、将来的に骨粗鬆症や骨折の発症リスク低減につながる可能性があるという。研究は東京大学医学部附属病院22世紀医療センターロコモ予防学講座の吉村典子氏らによるもので、詳細は8月27日付で「Archives of Osteoporosis」に掲載された。

日本の中学生のピロリ検査、陽性率1.2%で半数は家族感染

 日本は胃がんの罹患率が高く、胃がんの大きな原因であるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)の感染率は40%である。成人のH. pylori検査と除菌は一般的になり、近年では若年層を対象とした集団に対する検査が拡大している。日本の義務教育制度での定期健康診断を活用し、中高校生を対象とした包括的な検査が複数の自治体で実施されている。神奈川県横須賀市で実施された、中学生を対象としたH. pylori検査と除菌についての報告が、Journal of Gastroenterology and Hepatology誌2025年10月号に掲載された。

日本の大学生の過度な飲酒とうつ病との関連性は

 アルコール摂取とうつ病との関連性は、いまだ明らかになっていない。また、アジアの大学生を対象とした大規模研究で、この関連性の検証は行われていない。筑波大学の斉藤 剛氏らは、日本の大学生を対象に、過度な飲酒とうつ病との関連性を検証するため横断的研究を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年9月号の報告。  2019年4月〜2020年1月に、日本の2つの大学で定期健康診断を受けた20歳以上の学部生および大学院生を対象に調査を実施した。自記式質問票を用いて、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、過去1ヵ月間の過度な飲酒、うつ病自己評価尺度(CES-D)スコア、人口統計学的データの評価を行った。

日本人男性の遅漏有病率/日本性機能学会

 日本性機能学会 臨床研究促進委員会が実施した、日本全国の一般男性を対象にした大規模インターネット調査で、性交経験のある男性における遅漏(Delayed Ejaculation:DE)の有病率は5.16%であることが報告された。有病者の58.18%が治療を望む一方、実際に医療機関を受診したのは11.88%に留まり、潜在的ニーズとの乖離が明らかになった。順天堂大学医学部附属浦安病院・泌尿器科の白井 雅人氏らによる本研究結果はSexual Medicine誌2025年8月号に掲載された。  研究者らは2023年5月29日~6月24日、20~79歳の日本人男性を一般パネルからリクルート、有効回答6,228例のうち性交歴のある5,331例を解析した。DEは「遅漏に関する苦痛の自覚がある」場合と定義し、多変量ロジスティック回帰で関連因子を同定した。

院内の騒音でせん妄リスク上昇か/大阪公立大

 病院内の騒音は、患者の睡眠を妨げるだけでなく、せん妄や不安、再入院などのリスクも上昇させる可能性が示された。園田 奈央氏(大阪公立大学大学院看護学研究科)らの研究グループは、病院内の騒音の影響に関するスコーピングレビューを実施し、その結果を報告した。本結果は、Worldviews on Evidence-Based Nursing誌2025年8月号に掲載された。  研究グループは、病院内の騒音が入院患者の健康アウトカムに与える影響を明らかにするため、スコーピングレビューを実施した。本レビューでは、2014年1月〜2023年12月にPubMed、CINAHL Plus、Cochrane Libraryに登録された文献を検索した。また、検索で抽出された文献の参考文献、Google Scholarについてハンドサーチを実施した。キーワード(noise、sound、alarm、hospital、care unit、ward)検索およびハンドサーチで抽出された5,851件の文献から、重複などを除いた4,426件を対象にスクリーニングを実施し、最終的に研究目的に合致した28件の論文を抽出した。

ロボット支援直腸がん手術、術後1日目のCRPで合併症予測が可能に

 術後合併症や感染症への対応には、早期発見と迅速な対処が求められる。今回、直腸がんに対するロボット支援下直腸手術(RARS)後の合併症リスクが、術後1日目のC反応性蛋白(CRP)値で予測できるとする研究結果が報告された。術後早期のCRP測定が、高リスク患者の見極めや迅速な介入に役立つ可能性があるという。研究は国立病院機構福山医療センター消化器・一般外科の寺石文則氏らによるもので、詳細は8月28日付けで「Updates in Surgery」に掲載された。  RARSは、骨盤内の限られた視野で高い操作性を発揮し、従来の腹腔鏡手術や開腹手術と同等かそれ以上の成績を示すことが報告されている。しかし、依然として術後合併症は患者予後を左右する大きな課題であり、早期に高リスク患者を見極めることが重要だ。炎症マーカーであるCRPは大腸手術後の合併症予測に有用とされるが、ロボット支援手術における術後早期のCRP値の予測的価値は十分に検討されていない。このような背景を踏まえ著者らは、RARS後の合併症リスク因子を解析し、特に術後1日目のCRP測定の有用性を評価することを目的とした後ろ向きコホート研究を実施した。

日本の高齢者データが示す、室内温度と抑うつ症状の関連性

 住環境は高齢者の心の健康にどのような影響を与えるのだろうか。今回、室内の寒さや暑さを十分に防げない住宅に暮らす高齢者ほど、抑うつ症状を抱える割合が高いことが示された。温度調節の難しい住宅に住む高齢者では、抑うつ症状のリスクが1.57倍に上ることが明らかになったという。研究は、東北大学医学部の岩田真歩氏、同大学歯学イノベーションリエゾンセンターデータサイエンス部門の竹内研時氏らによるもので、詳細は8月22日に「Scientific Reports」に掲載された。

室温が1℃下がると血圧はどのくらい上がるか~しずおか研究

 気温が低いと血圧が上昇することは知られているが、室温の影響についてはまだ十分な研究がなされていない。今回、静岡社会健康医学大学院大学の田原 康玄氏らがしずおか研究(静岡多目的コホート研究事業)において、家庭での室温と朝・夕・睡眠時の血圧を調べ、その関連を報告した。Journal of Hypertension誌オンライン版2025年9月19日号に掲載。  本研究は地域住民を対象とした縦断研究で、成人779人(平均年齢70.7歳)が対象。家庭血圧はカフ式オシロメトリック法の血圧計を用いて1週間測定し、睡眠時血圧はタイマー付き血圧モニターを用いて0時、2時、4時に自動的に記録した。室温は血圧モニターの温度計で測定した。

国内WATCHMANの左心耳閉鎖術の現状(J-LAAO)/日本心臓病学会

 2019年9月より経皮的左心耳閉鎖デバイスWATCHMANが保険適用となり、それと同時に本邦の患者を対象としたJ-LAAOレジストリがスタートした。それから6年が経ち、これまでに7,690例が登録されてきた。その間にデバイスも進化を遂げ、今では3代目となるWATCHMAN FLX Proが主流となり、初期と比べより安全に左心耳閉鎖が実施できるようになってきている。第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)のシンポジウム「循環器内科が考える塞栓症予防-左心耳閉鎖、PFO閉鎖、抗凝固療法-」では、草野 研吾氏(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部長)が「我が国の左心耳閉鎖術の現状-J-LAAOレジストリからの報告-」と題し、2025年3月までに登録された日本人におけるWATCHMAN最新モデルを含めた安全性・有効性を報告した。

嚥下障害を起こしやすい薬剤と誤嚥性肺炎リスク

 飲食物を飲み込む機能障害である嚥下障害は、さまざまな疾患や薬物の副作用により引き起こされる可能性があり、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。しかし、嚥下障害を引き起こす特定の薬剤やその発現率については、これまで十分に解明されていなかった。慶應義塾大学の林 直子氏らは、添付文書の情報に基づき、嚥下障害に関連する薬剤およびその発現率、これらの薬剤を服用している患者における誤嚥性肺炎のリスク因子を特定するため、日本のレセプトデータベースの横断的分析を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2025年9月19日号の報告。  本研究では、嚥下障害誘発薬剤の候補(candidate dysphagia-inducing drug:CDID)を、副作用として嚥下障害が記載されている日本の添付文書より特定した。CDIDを服用している患者の年齢、性別、服用薬、併存疾患について、ジャムネットのJammNet保険データベースを用いて分析した。

日本人高齢者の笑いの頻度とうつ病発症との関係

 笑いは、精神的および身体的な健康の有益性と関連するといわれている。しかし、日常生活における笑いがうつ病の予防に有効かどうかに関する縦断的なエビデンスは、依然として限られている。東北大学の玉田 雄大氏らは、日常生活における笑いの頻度が高齢者のうつ病発症リスクと関連しているかどうかを検証するため、6年間の縦断研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年9月4日号の報告。  6年間にわたる3-waveコホートである日本老年学的評価研究(JAGES)に参加した65歳以上の日本人3万2,666例のデータを分析した。笑いの頻度は、2019年に自記式質問票を用いて評価した。回答カテゴリーは、「ほぼ毎日」「1~5日/週」「1~3日/月」「まったくない、またはほとんどない」とした。2016~22年のうつ病発症の定義には老年うつ病尺度を用いた。2016年に測定された潜在的交絡因子でコントロールしたうえで、修正ポアソン回帰モデルを用いて調整リスク比(aRR)と95%信頼区間(CI)を算出した。

デジタルピアサポートアプリがニコチンガムの禁煙効果を後押し

 ニコチンガムは禁煙に一定の効果を示すものの、その禁煙成功率は十分とは言えない。今回、企業の健康保険組合加入者を対象とした非ランダム化比較試験で、ニコチンガムにデジタルピアサポートアプリを組み合わせることで、禁煙成功率が有意に向上することが示された。研究は、北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「JMIR mHealth and uHealth」に8月19日掲載された。

急性期~維持期統合失調症に対するブレクスピプラゾールのベストプラクティスに関するコンセンサス

 ブレクスピプラゾールは、統合失調症などに適応を有する第2世代抗精神病薬であり、ドパミンパーシャルアゴニストとして他の抗精神病薬と異なる作用機序を有している。米国・Zucker Hillside HospitalのChristoph U. Correll氏らは、大塚ファーマシューティカルヨーロッパおよびH. Lundbeck A/Sからの資金提供を受けて組織された精神科専門家による国際委員会において実施された、統合失調症のさまざまな段階におけるブレクスピプラゾールの安全かつ効果的な使用法についての議論を報告した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年8月29日号の報告。

利尿薬による電解質異常、性別・年齢・腎機能による違いは

 高血圧や心不全の治療に広く用いられる利尿薬には、副作用として電解質異常がみられることがあり、これは生命を脅かす可能性がある。これまでの研究では、利尿薬誘発性の電解質異常は女性に多く発現することが示唆されている。電解質バランスは腎臓によって調節されており、腎機能は加齢とともに低下する傾向がある。慶應義塾大学の間井田 成美氏らは、性別、腎機能、年齢が利尿薬誘発性の電解質異常の感受性に及ぼす影響を考慮し、利尿薬の副作用リスクが高い患者を特定するため本研究を実施した。Drug Safety誌2025年10月号の報告。  日本の利尿薬服用患者6万7,135例のレセプトデータをDeSCヘルスケアから入手し、2020年4月~2021年3月のデータを分析対象とした。

減塩には甘じょっぱい味は向かない/京都府立医科大

 高血圧の管理では、塩分摂取量の削減は重要である。人間は塩分を好むという前提に基づいているが、高濃度の塩分に対し、嫌悪感も認識することが大切である。近年の研究では、慢性腎臓病(CKD)患者において味覚認識だけでなく、高塩分濃度への嫌悪感も変化していることが明らかにされた一方で、さまざまな味覚を組み合わせた場合の影響は依然として不明であった。そこで、京都府立医科大学大学院医学研究科腎臓内科学の奥野-尾関 奈津子氏らの研究グループは、甘味を加えることでCKD患者の塩分嫌悪に影響を与えるかどうかを研究した。その結果、甘味は健康成人とCKD患者の双方で高塩分への嫌悪感を低減することが判明した。この結果はScientific Reports誌電子版2025年7月7日号に掲載された。