心代謝性(2型糖尿病合併)の左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドとチルゼパチドはいずれもプラセボと比較し、心不全による入院または全死亡の複合リスクを40%以上減少させたが、チルゼパチドとセマグルチドとの間に有意差は示されなかった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のNils Kruger氏らが、5件のコホート研究から得られた結果を報告した。HFpEFは、肥満や2型糖尿病などの心代謝合併症を有する患者に多くみられ、入院の主な原因となっている。セマグルチドとチルゼパチドの初期試験では、これらの患者における症状改善に有望な結果が示されたが、これらの知見は臨床イベント数が少なく、治療の推奨は確実とはいえないままであった。JAMA誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。
5件のコホート研究でHFpEFに対するセマグルチドとチルゼパチドの有効性と安全性を評価
研究グループは2018~24年に、米国の医療保険請求データ(Medicare Part A、B、D[2018~20年]、Optum Clinformatics Data Mart[2018年~2024年11月]、Merative MarketScan[2018~22年])を用い5件のコホート研究を実施した。
まず、2件のコホート研究で、セマグルチドのSTEP-HFpEF DM試験およびチルゼパチドのSUMMIT試験を模倣し、結果のベンチマークとした。その後、臨床現場で一般的に治療される患者における治療効果を評価するために適格基準を拡大し、プラセボの代用としてシタグリプチンを用い、セマグルチド、チルゼパチドそれぞれと比較する、いずれも新規使用者を対象とする2件の研究を行った。最後に、チルゼパチドとセマグルチドの直接比較試験を実施し、最長52週間追跡した。
主要エンドポイントは心不全による入院または全死因死亡の複合とし、陰性対照アウトカム、副次エンドポイント、サブグループ解析および感度解析を事前に規定。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、治療前の患者特性で補正を行い、傾向スコア重み付け比例ハザードモデルにより算出した。
心不全による入院または全死因死亡のリスクが40%以上減少
2件のベンチマーク研究では、事前に規定されたすべての指標において高い一致が示された。
適格基準を拡大した解析では、セマグルチドvs.シタグリプチンコホートに5万8,333例、チルゼパチドvs.シタグリプチンコホートに1万1,257例、チルゼパチドvs.セマグルチドコホートに2万8,100例が組み入れられた。
シタグリプチンと比較し、セマグルチド開始群(HR:0.58、95%CI:0.51~0.65)、チルゼパチド開始群(0.42、0.31~0.57)の主要エンドポイントのリスクは大きく低下した。一方、チルゼパチドはセマグルチドと比較し、有意なリスク低下を示さなかった(HR:0.86、95%CI:0.70~1.06)。
陰性対照アウトカム、副次エンドポイント、サブグループ解析および感度解析においても、いずれも一貫した結果が示された。
安全性エンドポイントにおいて、顕著なリスク増加は認められなかった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)