脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet

発症後6~24時間で、可逆的な脳虚血の証拠が確認された急性期脳梗塞患者の治療において、血管内血栓除去術はこれを施行しない場合と比較して、90日後の修正Rankin尺度(mRS)で評価した機能障害が良好であり、日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の達成割合も高いことが、米国・Cooper University Health CareのTudor G. Jovin氏らが実施した「AURORA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月11日号で報告された。
6つの無作為化対照比較試験のメタ解析
研究グループは、発症から6時間以上が経過した脳梗塞患者における、血管内治療のリスクとベネフィットを評価する目的で、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。医学データベース(MEDLINE、PubMed、Embase、ClinicalTrials.gov)を用いて、2000年1月1日~2021年3月1日の期間に発表された文献が検索された。最後に健常な様子が目撃されてから6時間以上経過した前方循環系の大血管閉塞による脳梗塞患者において、第2世代血栓回収デバイス(ステント型血栓回収機器、大口径吸引カテーテル)+標準的薬物療法(介入群)と標準的薬物療法単独(対照群)を比較した無作為化対照比較試験を適格とした。
主要アウトカムは、90日の時点における修正Rankin尺度(mRS、0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した機能障害の程度とされ、順序ロジスティック回帰分析で評価された。主な安全性アウトカムは、症候性脳出血と90日以内の死亡であった。
スクリーニングの対象となった17の試験のうち6つの試験(DAWN、DEFUSE 3、ESCAPE、REVASCAT、POSITIVE、RESILIENT)が、この研究の基準を満たした。
1例でmRSを1点以上低下させる必要治療数は3
6試験の参加者505例(介入群266例、対照群239例、平均年齢68.6歳[SD 13.7]、女性259例[51.3%])が解析に含まれた。ベースラインのNIHSSスコア(0~42点、点数が高いほど脳卒中の重症度が高い)中央値は16点、発症から無作為化までの時間中央値は625分(IQR:472~808)、ASPECTS(0~10点、点数が高いほどCT画像上の早期虚血性変化を呈する中大脳動脈領域が少ない)中央値は8点(IQR:7~9)であった。主要アウトカムの解析では、補正前の共通オッズ比(OR)は2.42(95%信頼区間[CI]:1.76~3.33、p<0.0001)、補正後の共通ORは2.54(1.83~3.54、p<0.0001)であり、血栓除去療法の利益が確認された。1例の患者でmRSを1点以上低下させて機能障害を改善するのに要する治療必要数は、3であった。
また、介入群は対照群に比べ、90日時点の日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の割合が高かった(45.9%[122/266例]vs.19.3%[46/238例]、率比:2.37、95%CI:1.69~3.33、p<0.0001)。一方、90日死亡率(16.5%[44/266例]vs.19.3%[46/238例])および症候性脳出血の発生率(5.3%[14/266例]vs.3.3%[8/239例])は、両群間に有意差はみられなかった。
主要アウトカムに関して、すべてのサブグループ(年齢、性、ベースラインの脳梗塞の重症度、血管の閉塞部位、ベースラインのASPECTS、発症時の状況[目撃者あり、起床時、目撃者なし])で血栓除去療法の治療効果が認められ、発症後12~24時間に無作為化された患者(共通OR:5.86、95%CI:3.14~10.94、p<0.0001)は、6~12時間に無作為化された患者(1.76、1.18~2.62、p=0.0060)に比べ治療効果が高かった(p interaction=0.0087)。
著者は、「この研究結果は、保健施策の検討や臨床現場にいくつかの示唆を与え、現行のガイドラインの変更につながる可能性がある」とし、「これらの知見は、前方循環系の大血管近位部閉塞による脳梗塞患者では、高齢であることやベースラインのCT検査で梗塞サイズが中等度であること、中等度または重度の臨床的障害、発症状況、発症後6~24時間という時間枠を理由に、血管内血栓除去術を控えるべきではないことを示唆する」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)
関連記事

急性脳梗塞、血管内治療単独vs.静脈内血栓溶解療法併用/JAMA
ジャーナル四天王(2021/01/28)

急性脳梗塞、rt-PA後の転帰を予測する臨床・画像所見は/JAMA
ジャーナル四天王(2018/09/28)

急性脳梗塞の血栓除去術、発症後6~16時間でも有用/NEJM
ジャーナル四天王(2018/02/05)
[ 最新ニュース ]

新型コロナ入院患者へのバリシチニブ、死亡低減効果は?/Lancet(2022/08/12)

早期パーキンソン病へのcinpanemab、進行抑制効果は認められず/NEJM(2022/08/12)

LDL-コレステロール:Still “The lower, the better!”(解説:平山篤志氏)(2022/08/12)

医療者のブレークスルー感染率、3回vs.4回接種(2022/08/12)

外科医の手術経験数に男女格差/岐阜大(2022/08/12)

統合失調症患者の肥満治療~システマティックレビュー(2022/08/12)

高齢者の「目的意識」の鍵は社会的交流(2022/08/12)

新型コロナのパンデミックで薬剤耐性菌対策が後退(2022/08/12)
[ あわせて読みたい ]
脳血管内治療STANDARD(2020/12/10)
第4回 現代の「医療マンガ」とはどうあるべきか(2019/12/27)
第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?(2019/12/27)
第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話(2019/12/25)
第1回 漫画から読み解く、患者と医療者の「視点の違い」(2019/12/20)
第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】(2018/07/25)
今さら聞けない薬の作用~系統別にコンパクト解説~(2016/05/11)
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(2016/01/14)
診療よろず相談TV シーズンII(2014/07/03)
スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草(2014/01/20)
専門家はこう見る
6時間以上経過した脳主幹動脈閉塞患者に対する血管内治療の有効性について、さらに強いエビデンスとなる結果(解説:高梨成彦氏)
コメンテーター : 高梨 成彦( たかなし しげひこ ) 氏
東京都健康長寿医療センター 脳神経外科医長