日本臨床内科医会が毎年実施しているインフルエンザに関する前向き多施設コホート研究の統合解析が行われ、インフルエンザワクチンは40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方で、高齢者や基礎疾患を持つ人々では有効性が低下することが明らかになった。日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班の河合 直樹氏らによる本研究はJournal of Infection and Public Health誌2025年11月号に掲載された。
研究班は、2002~03年から2018~19年までの17シーズンにわたり、全国543施設から14万8,108例の外来患者を登録した。シーズン前に接種状況を登録、シーズン中にはインフルエンザ様症状で受診した患者の迅速抗原検査結果を登録、シーズン終了後に接種群と非接種群(対照群)における罹患率から毎年の発症予防効果(有効率)を算出した。2002~14年は3価、2015~19年は4価の不活化ワクチンが使用された。ロジスティック回帰分析による調整後、17年間におけるワクチンの発症予防効果を推定した。本解析にはCOVID-19パンデミック前のデータが使われており、超高齢化とCOVID-19後のインフルエンザ再興を背景に、年齢層、基礎疾患、ウイルスタイプ、シーズンごとのワクチン有効性評価を目的としていた。
主な結果は以下のとおり。
・14万8,108例の参加者の年齢中央値は58歳、女性が58.7%だった。解析の結果、発症予防におけるワクチン有効率(調整後のシーズン別プール解析)は0~15歳で56%、16~65歳で51%と有意な有効性が示されたが、50歳以上では有効性が徐々に低下し、とくに80歳以上では有意な発症予防効果は確認されなかった。
・基礎疾患を有する未接種者の罹患率は、15歳以下では基礎疾患のない患者よりも有意に高かった(p<0.001)。未接種の気管支喘息患者のインフルエンザ罹患率は、疾患なし患者より高く(10.9%対4.0%)、とくに15歳以下の小児(24.2%対12.9%)で顕著であった。気管支喘息小児における調整後ワクチン有効率は60%と疾患なし小児(47%)よりも高かった。
・インフルエンザAに対する調整後のワクチンの有効性は40代まで有意であり、インフルエンザBに対しては20代まで有意であった。また、インフルエンザAの未調整のワクチン有効性は40%から15%まで低下(2002~09年と2010~19年の比較)しており、これは近年のA香港型における抗原変異や卵馴化による可能性が示唆された。
研究者らは「本研究は、季節性インフルエンザワクチンが40歳未満の若年層や基礎疾患のない人々において中等度の有効性を示す一方、年齢とともに有効性が低下し、80歳、とくに90歳以上では有意な発症予防効果は確認されないことを示した。これらの知見は、ワクチン応答が低下する可能性のある高齢者に対する高用量やアジュバント添加ワクチンの開発や、標的を絞った戦略の必要性を明らかにしている。とはいえ、そのメカニズムは完全には解明されておらず、今回はクリニックを受診した軽症患者を対象とした解析であることからも、ワクチン接種は依然として入院や重症化リスクを低下させる可能性がある。また、基礎疾患の有無によるワクチン有効性の差は、リスク集団に対する特別な予防戦略の必要性を示している。COVID-19パンデミック後のインフルエンザ再興を見据え、年齢層や基礎疾患に応じたワクチン接種戦略の最適化が求められる」としている。
(ケアネット 杉崎 真名)