閉経後の卵巣がんスクリーニング、死亡率低下せず/Lancet

閉経後の女性を対象とした年1回の卵巣・卵管がんスクリーニングの実施は、同疾患での死亡率低下が期待できず推奨できないことが示された。卵巣がんは、発見時には大半が進行がんと診断される、依然として予後不良の疾患である。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのUsha Menon氏らは、同国の卵巣がん検診の共同研究(UKCTOCS)を行い、集団スクリーニングが卵巣がん死を低下するかどうかを調べた。結果は、StageIII/IVの発生率は、スクリーニングを実施しない場合に比べ低下したものの、がん死の低下は有意ではなかったという。Lancet誌オンライン版2021年5月12日号掲載の報告。
閉経後の卵巣・卵管がんスクリーニングを年1回実施
研究グループは、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの国民保健サービス(NHS)の13施設を通じて、50~74歳の閉経後の女性を対象に無作為化試験を行った。両側卵巣摘出術、卵巣がんの既往、完治していない非卵巣がん、卵巣がん家族性リスク増大のいずれかがある対象者は除外した。適格被験者を、コンピュータ生成乱数表を用いた32ブロックに割り付け、1対1対2の割合で、血清CA125値と経腟超音波検査群(複数の手段によるスクリーニング、MMS群)、経腟超音波検査のみのスクリーニング群(USS群)、または非スクリーニング群に無作為化した。それぞれ年1回実施し、英国内レジストリを基に追跡した。
主要アウトカムは、2020年6月30日時点の卵巣または卵管がん(WHO 2014基準)による死亡だった。解析は、intention to screenでMMSとUSSをそれぞれ非スクリーニングと比較して多目的検定を用いて行われた。スクリーニングの有無や種類について、試験実施者と被験者は認知していたが、アウトカムのレビュー委員にはマスクされた。
閉経後の卵巣・卵管がん死亡率は各群ともに0.6%と同等
2001年4月17日~2005年9月29日に閉経後の女性124万3,282例が参加し、適格被験者20万2,638例が無作為化を受け、20万2,562例について解析を行った。MMS群は5万625例(25.0%)、USS群は5万623例(25.0%)、非スクリーニング群は10万1,314例(50.0%)だった。追跡期間中央値16.3年(IQR:15.1~17.3)時点で、2,055例の閉経後の女性が卵巣・卵管がんの診断を受け、MMS群522例(1.0%)、USS群517例(1.0%)、非スクリーニング群1,016例(1.0%)だった。
MMS群は非スクリーニング群との比較において、StageIが47.2%(95%信頼区間[CI]:19.7~81.1)増大し、StageIVは24.5%(-41.8~-2.0)減少した。同じくMMS群では非スクリーニング群との比較で、StageIまたはIIの総罹患率は39.2%(16.1~66.9)増大し、StageIIIまたはIVは10.2%(-21.3~2.4)減少した。
一方、閉経後の卵巣・卵管がん死は全体で1,206例だった。各群の閉経後の女性の卵巣・卵管がん死亡率は、いずれも0.6%だった(MMS群296/5万625例、USS群291/5万623例、非スクリーニング群619/10万1,314例)。また、閉経後の卵巣・卵管がん死は、MMS群、USS群ともに非スクリーニング群に比べ有意に減少しなかった(それぞれ、p=0.58、p=0.36)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)
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低リスク集団における卵巣がん検診は死亡率を低下させるか〜無作為割り付け後20年目の報告〜(解説:前田裕斗氏)
コメンテーター : 前田 裕斗( まえだ ゆうと ) 氏
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野