重症大動脈弁狭窄症の弁置換術、Portico弁vs.既存弁/Lancet

外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者の治療において、弁輪内自己拡張型Portico弁(Abbott製)は市販の弁輪内バルーン拡張型弁または弁輪上自己拡張型弁と比較して、安全性および有効性の複合エンドポイントはそれぞれ非劣性であるが、30日時の死亡や重度血管合併症の頻度が高い傾向がみられることが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らが行ったPORTICO IDE試験で示された。この結果には、試験期間の前半における新規デバイスへの習熟度が関連している可能性があるという。Portico経カテーテル大動脈弁システムは、ウシ心膜組織の弁尖を有する自己拡張型経カテーテル心臓弁で、植込み部位での完全なリシース(弁を送達カテーテルに戻す)とリポジション(弁の再留置)が可能であるため、留置の正確性が改善されるという。Lancet誌オンライン版2020年6月25日号掲載の報告。
市販の弁に対する非劣性を検証する無作為試験
本研究は、外科的人工弁置換術ではリスクが高く、臨床的に経カテーテル大動脈弁置換術が適応の重症大動脈弁狭窄症患者において、Portico弁と市販(FDA承認済み)の経カテーテル心臓弁システムの安全性と有効性を前向きに比較する無作為化対照比較非劣性試験である(Abbottの助成による)。対象は、年齢21歳以上、NYHA心機能分類クラスII以上で、各施設の集学的ハートチームによって、外科的人工弁置換術では術後の死亡や重篤な合併症のリスクが高い、またはきわめて高いと判定された重症大動脈弁狭窄症患者であった。
被験者は、第1世代のPortico弁とその送達システム、または既存の市販弁(弁輪内バルーン拡張型のEdwards-SAPIEN、SAPIEN XT、SAPIEN 3弁[Edwards LifeSciences製]、または弁輪上自己拡張型のCoreValve、Evolut R、Evolut PRO弁[Medtronic製])を用いた経カテーテル大動脈弁置換術を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。
安全性の主要エンドポイントは、30日以内の全死因死亡、後遺障害を伴う脳卒中、輸血を要する重篤な出血、透析を要する急性腎障害、重度血管合併症の複合とした。また、有効性の主要エンドポイントは、1年以内の全死因死亡または後遺障害を伴う脳卒中であった。最長2年までの臨床アウトカムなどの評価も行った。非劣性マージンは、安全性の主要エンドポイントが8.5%、有効性の主要エンドポイントは8.0%だった。
次世代Portico弁の臨床試験が進行中
登録の中断を挟み、2014年5月30日~9月12日と、2015年8月21日~2017年10月10日の期間に、米国とオーストラリアの52施設で750例が登録され、Portico弁群に381例、市販弁群には369例が割り付けられた。全体の平均年齢は83(SD 7)歳、女性が395例(52.7%)であった。30日時の安全性の主要エンドポイント(intention to treat[ITT]解析)の発生率は、Portico弁群が52例(13.8%)と、市販弁群の35例(9.6%)より高く、非劣性の基準を満たしたが、優越性は認められなかった(群間差:4.2%、95%信頼区間[CI]:-0.4~8.8[信頼区間上限値:8.1]、非劣性のp=0.034、優越性のp=0.071)。30日時の全死因死亡(3.5% vs.1.9%)、後遺障害を伴う脳卒中(1.6% vs.1.1%)、重篤な出血(5.9% vs.3.8%)、急性腎障害(1.1% vs.0.8%)、重度血管合併症(9.6% vs.6.3%)は、Portico弁群で高い傾向がみられたが、有意な差はなかった。
1年時の有効性の主要エンドポイント(ITT解析)の発生は、Portico弁群が55例(14.8%)、市販弁群は48例(13.4%)であり、Portico弁群は非劣性の基準を満たしたが、優越性は示されなかった(群間差:1.5%、95%CI:-3.6~6.5[信頼区間上限値:5.7]、非劣性のp=0.0058、優越性のp=0.503)。
2年時の全死因死亡(Portico弁群80例[22.3%]vs.市販弁群70例[20.2%]、p=0.40)および後遺障害を伴う脳卒中(10例[3.1%]vs.16例[5.0%]、p=0.23)の発生率は、両群で類似していた。また、事後解析では、Portico弁群の2年死亡率は、SAPIEN 3弁より高く(18例[22.7%]vs.30例[15.6%]、p=0.03)、Evolut RやEvolut PRO弁と類似していた(28例[26.1%]、p=0.54)。
1年時の中等度以上の弁周囲逆流(21例[7.8%]vs.4例[1.5%]、群間差:6.3%、95%CI:3.0~10.3[信頼区間上限値:9.2%]、非劣性のp=0.571、優越性のp=0.0005)や、30日時の恒久的ペースメーカー植込み術(88例[27.7%]vs.35例[11.6%]、16.1%、10.0~22.2、p<0.001)の発生率は、Portico弁群で高かった。
著者は、「今回の試験では、第1世代Portico弁と送達システムの、他の市販の人工弁を超える利点は示されなかった。一方、第1世代Portico弁と新たなFlexNav送達システムの単群試験では、安全性アウトカムの向上が確認されており、現在、次世代Portico弁と送達システムの臨床試験が進められている」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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帝京大学医学部内科学講座・循環器内科 教授