院内心停止の生存率を左右する予後因子とは/BMJ

院内心停止患者では、心停止前に悪性腫瘍や慢性腎臓病がみられたり、心停止から自己心拍再開までの蘇生時間が15分以上を要した患者は生存の確率が低いが、目撃者が存在したり、モニタリングを行った患者は生存の確率が高いことが、カナダ・オタワ大学のShannon M. Fernando氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年12月4日号に掲載された。院内心停止は生存率が低く、臨床的知識の多くは院外心停止に関する豊富な文献からの推測だという。院内心停止と関連する心停止前および心停止中の予後因子の理解は、重要な研究分野とされる。
心停止前・中の予後因子をメタ解析で評価
研究グループは、院内心停止後の生存に関わる心停止前および心停止中の予後因子を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。2019年2月4日現在、医学関連データベース(Medline、PubMed、Embase、Scopus、Web of Science、Cochrane Database of Systematic Reviews)に登録された文献を検索した。また、英国のNational Cardiac Arrest Audit(NCAA)データベースの未発表データを調査した。対象は、心停止前および心停止中の予後因子と、心停止後の生存の関連を評価した英語の文献とした。
データの抽出は、PROGRESS(prognosis research strategy group)の推奨と、CHARMS(critical appraisal and data extraction for systematic reviews of prediction modelling studies)のチェックリストに準拠して行った。バイアスのリスクは、QUIPS(quality in prognosis studies)のツールを用いて評価した。
主解析では、関連する交絡因子を補正したうえでデータを統合した。エビデンスの確実性の評価には、GRADE(grading of recommendations assessment, development, and evaluation)approachが用いられた。
患者との予後や事前指定の話し合いに利用できるデータ
主解析には23件のコホート研究が含まれた。12件(52.2%)が北米、6件(26.1%)が欧州、4件(17.4%)がアジア、1件(4.3%)がオーストラリアの研究であった。13件(56.5%)が後ろ向き研究で、13件(56.5%)は多施設共同研究だった。心停止前の因子のうち、院内心停止後の生存オッズを低下させたのは、男性(オッズ比[OR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.73~0.95、エビデンスの確実性:中)、年齢60歳以上(0.50、0.40~0.62、低)、年齢70歳以上(0.42、0.18~0.99、低)、活動性の悪性腫瘍(0.57、0.45~0.71、高)、慢性腎臓病(0.56、0.40~0.78、高)であった。
1件の研究のみのデータではあるが、うっ血性心不全(OR:0.62、95%CI:0.56~0.68、エビデンスの確実性:中)、慢性閉塞性肺疾患(0.65、0.58~0.72、中)、糖尿病(0.53、0.34~0.83、中)も、生存オッズを低下させた。
心停止中の因子では、院内心停止後の生存オッズを上昇させたのは、目撃者のいる心停止(OR:2.71、95%CI:2.17~3.38、エビデンスの確実性:高)、遠隔測定(テレメトリ)によるモニタリングが行われた心停止(2.23、1.41~3.52、高)、日中(病院に十分なスタッフがいる時間と定義、施設によりばらつきあり)の心停止(1.41、1.20~1.66、高)、初回ショック適応のリズムを伴う心停止(5.28、3.78~7.39、高)であった。
一方、挿管を要する心停止(OR:0.54、95%CI:0.42~0.70、エビデンスの確実性:中)および15分以上の蘇生時間(心停止から自己心拍再開までの時間)(0.12、0.07~0.19、高)は、生存オッズを低下させた。
著者は、「院内心停止後のアウトカムと関連する重要な予後因子が同定された。これらのデータは、院内心停止後に予測される予後や、心肺蘇生に関する事前指定について、患者と話し合う際に使用可能と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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