PCI後の糖尿病合併安定CAD、チカグレロル追加が有望/Lancet

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた糖尿病を伴う安定冠動脈疾患の治療では、チカグレロル+アスピリンはプラセボ+アスピリンに比べ、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合の発生を有意に抑制する一方で、大出血を増加させるものの、良好なネット臨床ベネフィット(net clinical benefit)をもたらすことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らが行ったTHEMIS-PCI試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年9月1日号に掲載された。PCIを受けた糖尿病合併安定冠動脈疾患患者は虚血性イベントのリスクが高く、とくにステント留置術を受けた患者のリスクは高いという。THEMIS-PCI試験は、THEMIS試験に参加した患者のうちPCIを受けた患者を対象とするサブスタディである。
日本を含む42ヵ国のプラセボ対照無作為化試験
THEMIS試験は、日本を含む42ヵ国1,315施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2014年2月~2016年5月の期間に患者登録が行われた(AstraZenecaの助成による)。対象は、年齢50歳以上、2型糖尿病が認められ、血糖降下薬の投与を6ヵ月以上受けており、安定冠動脈疾患を有し、3つの非除外基準(PCI既往歴、冠動脈バイパス術[CABG]の既往歴、冠動脈造影で1つ以上の冠動脈に50%以上の狭窄を認める)のうち1つに該当する患者であった。このうち、今回の解析には、PCI既往歴のあるサブグループが含まれた。
被験者は、チカグレロル(90mg、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。すべての患者に、アスピリン(75~150mg/日)が経口投与された。
有効性の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合とし、intention-to-treat解析が行われた。
有効性の主要アウトカム:7.3% vs.8.6%、TIMI大出血:2.0% vs.1.1%
THEMIS試験の参加者のうちPCI既往歴のある1万1,154例(58%)が解析に含まれた。チカグレロル群は5,558例、プラセボ群は5,596例であった。糖尿病の罹患期間中央値は10.0年、直近のPCI以降の経過期間中央値は3.3年であった。フォローアップ期間中央値は3.3年(IQR:2.8~3.8)だった。有効性の主要アウトカムの発生は、チカグレロル群がプラセボ群に比べ有意に良好であった(チカグレロル群5,558例中404例[7.3%]vs.プラセボ群5,596例中480例[8.6%]、ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.74~0.97、p=0.013)。PCIを受けていない患者では、このような効果は観察されなかった(p=0.76、p interaction=0.16)。
心血管死(3.1% vs.3.3%、HR:0.96、95%CI:0.78~1.18、p=0.68)および全死因死亡(5.1% vs.5.8%、0.88、0.75~1.03、p=0.11)はいずれも、両群間に有意な差は認めなかった。一方、心筋梗塞(3.1% vs.3.9%、0.80、0.65~0.97、p=0.027)および脳卒中(1.7% vs.2.3%、0.74、0.57~0.96、p=0.024)はいずれも、チカグレロル群が有意に少なかった。
チカグレロル群は、TIMI出血基準の大出血の発生率(5,536例中111例[2.0%]vs.5,564例中62例[1.1%]、HR:2.03、95%CI:1.48~2.76、p<0.0001)が有意に高かった。一方、致死的出血(0.1% vs.0.1%、1.13、0.36~3.50、p=0.83)および頭蓋内出血(0.6% vs.0.6%、1.21、0.74~1.97、p=0.45)は、両群間に有意な差はみられなかった。
また、チカグレロル群は、事前に規定された探索的エンドポイントである総合的臨床ベネフィット(intention-to-treat集団における全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、致死的出血、頭蓋内出血の複合の初回イベント発生までの期間として評価される不可逆的な危害と定義)が有意に優れた(5,558例中519例[9.3%]vs.5,596例中617[11.0%]、HR:0.85、95%CI:0.75~0.95、p=0.0052)のに対し、非PCI患者ではこのような効果はなかった(p=0.39、p interaction=0.012)。
著者は、「これらの知見は、PCI既往歴を有し、抗血小板療法に忍容性のある糖尿病患者で、虚血性リスクが高く、出血リスクが低い場合には、チカグレロル+アスピリンによる長期治療を考慮すべきであること示唆する」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)
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栃木県済生会宇都宮病院 副院長
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