術前治療で浸潤病変残存の早期乳がん、術後T-DM1が有望/NEJM

提供元:ケアネット

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公開日:2018/12/17

 

 術前補助療法終了後に浸潤性病変が残存するHER2陽性早期乳がん患者の術後補助療法において、T-DM1(トラスツズマブ・エムタンシン)はトラスツズマブに比べ、浸潤性乳がんの再発および死亡のリスクを半減させることが、ドイツ・German Breast GroupのGunter von Minckwitz氏らが行ったKATHERINE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年12月5日号に掲載された。術前補助化学療法+HER2標的治療を受けたのちに残存する浸潤性乳がんを有する患者は、残存がんのない患者に比べ予後不良とされる。T-DM1は、モノクローナル抗体であるトラスツズマブと、メイタンシン誘導体で微小管阻害薬であるエムタンシン(DM1)を結合させた抗体薬物複合体で、化学療法+HER2標的治療を受けた転移を有する乳がん患者に便益をもたらすことが知られている。

残存がん例で術後補助療法の無浸潤病変生存を検討
 KATHERINEは、HER2陽性早期乳がんで、タキサン系薬剤±アントラサイクリン系薬剤による術前補助化学療法とHER2標的治療を終了後の手術時に、乳房または腋窩リンパ節に浸潤性の残存病変が認められた患者を対象に、T-DM1とトラスツズマブの有用性を比較する非盲検無作為化第III相試験である(F. Hoffmann-La RocheとGenentechの助成による)。
 被験者は、術後補助療法としてT-DM1(3.6mg/kg)またはトラスツズマブ(6mg/kg)を3週ごと(1サイクル)に静脈内投与する群に無作為に割り付けられ、14サイクルの治療が行われた。

 主要エンドポイントは、無浸潤病変生存(同側乳房の浸潤性乳がん再発、同側乳房局所領域の浸潤性乳がん再発、対側乳房の浸潤性乳がん、遠隔再発、全死因死亡のいずれかが発現するまでの期間)であった。

 2013年4月~2015年12月の期間に、28ヵ国273施設で1,486例が登録され、T-DM1群に743例、トラスツズマブ群にも743例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は、T-DM1群が41.4ヵ月、トラスツズマブ群は40.9ヵ月だった。

遠隔再発は有意に少ない、全生存はさらなる追跡を
 ベースラインの年齢中央値は49歳で、72.3%がホルモン受容体陽性例であった。76.9%がアントラサイクリン系薬剤を含む術前化学療法を受けており、19.5%がトラスツズマブと他のHER2標的薬(ペルツズマブなど)を投与されていた。

 今回の中間解析時に、浸潤性病変または死亡は、T-DM1群が91例(12.2%)、トラスツズマブ群は165例(22.2%)に認められた。3年無浸潤病変生存率はそれぞれ88.3%、77.0%であった。無浸潤病変生存は、T-DM1群がトラスツズマブ群に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.64、p<0.001)。

 無浸潤病変生存のサブグループ解析では、ホルモン受容体陽性/陰性、術前補助療法後の病理学的リンパ節転移陽性/陰性、1cm以下の浸潤性原発巣の有無にかかわらず、T-DM1群が有意に良好であった。

 初回浸潤病変イベントとしての遠隔再発は、T-DM1群が78例(10.5%)と、トラスツズマブ群の118例(15.9%)に比べ有意に少なかった(HR:0.60、95%CI:0.45~0.79)。全生存期間には差を認めなかった(HR:0.70、95%CI:0.47~1.05)。

 安全性のデータは、T-DM1の既知の安全性プロファイルと一致しており、有害事象の頻度はT-DM1群のほうが高かった。Grade3以上の有害事象は、T-DM1群が25.7%、トラスツズマブ群は15.4%に発現し、重篤な有害事象はそれぞれ12.7%、8.1%、投与中止の原因となった有害事象は18.0%、2.1%に認められた。

 著者は、「術後T-DM1治療の全生存への効果を決定するために、さらなるフォローアップを行う必要がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 矢形 寛( やがた ひろし ) 氏

埼玉医科大学 総合医療センター ブレストケア科 教授