プライマリ・ケア医が多い地域、高齢者の転帰良好、死亡率など低下:米国

提供元:ケアネット

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公開日:2011/06/07

 



米国で、プライマリ・ケア医が多い地域は少ない地域に比べ、高齢者の転帰が良く、死亡率や外来通院で治療が可能な病気(ACSC)による入院率などが低率であることが報告された。外来プライマリ・ケアの実態を反映する、メディケア支払いに基づくプライマリ・ケア専従換算に基づく分析でその傾向はより強く示された。ただしその場合、医療費コストは割高であることも示されたという。米国・ダートマス医学校健康政策研究センターのChiang-Hua Chang氏らが、米国高齢者向け公的医療保険(メディケア)加入者のうち、出来高払い制プラン加入者の約20%にあたる500万人超について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2011年5月25日号で発表した。医療の質が向上しコストも抑制できるとしてプライマリ・ケア医を増やすことへの関心は高いが、プライマリ・ケア医数と患者のアウトカムに関しては十分に明らかにはされていないという。

二通りのプライマリ・ケア医算出法で、死亡率、ACSC入院率、コストについて分析




Chang氏らは、2007年のメディケア出来高払い制プラン加入者のうち、513万2,936人について、人口当たりプライマリ・ケア医の数と、その転帰との関連を分析した。

プライマリ・ケア医数(一般内科医と家庭医)については、被験者の居住地郵便番号で割り振ったプライマリ・ケアサービス地域(PCSA)ごとに、(1)米国医師会データの診療所ベースでみた地域総人口当たりの数、(2)メディケア支払いに基づく同受給者当たりのプライマリ・ケア専従換算者数(FTE)の二通りで算出した。

主要アウトカムは、年間死亡率とACSCによる入院率、メディケア支払いコストとし、個人の属性や地域によって補正を行った。

結果、プライマリ・ケア医数は地域による顕著な格差がみられた。(1)での分析による五分位範囲最低群の中央値は人口10万当たり17.4人、最高群は同81.3人であり、(2)の分析でもほぼ2倍の格差があり、最低群は加入者10万当たり64.7人、最高群は同103.2であった。

なお(1)と(2)の医師数間の相関性は低かった(スピアマン順位相関係数:r=0.056、P<0.001)。

プライマリ・ケア専従が多い地域、死亡率、ACSC入院率は低いがコスト高




(1)での分析による死亡率は、五分位範囲最低群で5.47/100加入者だったのに対し、最高群では5.38/100加入者(リスク比:0.98)、ACSC入院率はそれぞれ79.61/1,000加入者と74.90/1,000加入者(リスク比:0.94)で、プライマリ・ケア医数が多い地域のほうがそれぞれ有意に低かった。コストは、最低群と最高群で有意差はなかった。加入者1人当たり最低群8,765ドル、最高群8,722ドル(リスク比:1.00)だった。

(2)の分析でも、死亡率は最低群5.49/100加入者だったのに対し、最高群5.19/100加入者(リスク比:0.95)、ACSC入院率はそれぞれ79.48/1000加入者と72.53/1000加入者(リスク比:0.91)で、プライマリ・ケア医数が多い地域が有意に低かった。しかしコストについては、最低群8,769ドルに対し、最高群8,857ドルと、やや高額であった(リスク比:1.01)。

Chang氏は報告の最後で、「我々の研究は、プライマリ・ケア医を増やすだけでは死亡率や入院率、医療費コストを確実に大幅に低下することにはならないという慎重な見方を提示するものである」と述べ、「結果として名ばかりのプライマリ・ケア医となれば、養成増は患者にとって期待外れの恩恵しかもたらさないものとなりかねない」とまとめている。

(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)