知的障害者の攻撃的挑発行動に対し抗精神病薬は無効

提供元:ケアネット

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公開日:2008/01/17

 



成人の知的障害者は攻撃的な挑発行動をとることが多いとされる。多くの場合は抗精神病薬による治療が行われるが、これを正当化するエビデンスは存在しない。インペリアル・カレッジ・ロンドンPsychological MedicineのPeter Tyrer氏らは、知的障害者の攻撃的挑発行動の治療として2種類の抗精神病薬をプラセボと比較する無作為化試験を実施。その結果、これらの薬剤にはプラセボを上回る効果はないことが明らかとなった。Lancet誌2008年1月5日号掲載の報告。

2つの定型抗精神病薬とプラセボに無作為割り付け




イングランド/ウェールズの10施設およびオーストラリアのクイーンズランド州の1施設から、攻撃的挑発行動を示す非精神病患者86例が登録された。これらの症例を、第1世代の定型抗精神病薬ハロペリドール(28例)、第2世代の定型抗精神病薬リスペリドン(29例)およびプラセボ(29例)に無作為に割り付けた。

治療開始後4週、12週、26週に、臨床評価項目として攻撃性、異常行動、QOL、薬物有害作用、carer uplift(介護士に対する好感)と総コストを含む負担が記録された。主要評価項目は治療4週後における攻撃性の変化とし、modified overt aggression scale(MOAS)を用いて記録した。

攻撃性の低下はプラセボ群でもっとも大きい




80例が80%以上の服薬順守率を達成した。治療4週までに3つの治療群とも実質的な攻撃性の低下を認めたが、もっとも良好な変化はプラセボ群でみられた。すなわち、4週後のMOASスコア低下の中央値は、プラセボ群が9でベースラインよりも79%低下し、リスペリドン群は7で58%、ハロペリドール群は6.5で65%の低下であった(p=0.06)。

さらに、異常行動、QOL、一般的改善効果、介護士への影響、有害作用については治療群間に大きな差はみられなかったが、プラセボ群が2つの抗精神病薬治療群よりも有効性が劣ることを示すエビデンスは4週、12週、26週のどの時点でも確認されなかった。

これらの結果により、Tyrer氏は「もはや抗精神病薬は、たとえ少量でも知的障害者の攻撃的挑発行動に対するルーチンの治療法とすべきではない」と結論している。

(菅野守:医学ライター)