尿道スリング手術、恥骨後式と経閉鎖孔式どちらが有効?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/06/16

 



腹圧性尿失禁の手術療法である尿道スリング手術について、スリングタイプの違い(恥骨後式と経閉鎖孔式)の有効性と合併症に関する大規模な比較検討試験が行われた。結果は両者の有効性は同等で、合併症がそれぞれ異なることが明らかにされている。米国アラバマ大学バーミンガム校のHolly E. Richter氏ら尿失禁治療ネットワークの研究グループによるもので、NEJM誌2010年6月3日号(オンライン版2010年5月17日号)で発表された。

術後12ヵ月時点の手術の成功率を、主観的、客観的に評価し比較




1996年にUlmstenらが発表した、メッシュテープを用いて恥骨裏側に吊り上げる恥骨後式は、従前のバーチ法(膣断端を腹部靱帯に固定し尿道を吊り上げる)と有効性・安全性で差異はない。それでも尿道スリング手術実施は100万件を超え手術療法の標準治療となりつつあるという。

一方で、恥骨後式で術後問題となる合併症(排尿困難、切迫性尿失禁など)回避のため編み出されたのが経閉鎖孔式で、合併症の原因となる膀胱や腸への傷害を回避するために開発された。しかし両タイプについては、小規模な優位性試験で有効性は同等であると確認されているのみで、Richter氏らは大規模な多施設共同の無作為化同等試験を行った。

試験は、2006年4月~2008年6月の間に3,521例が登録、うち597例が無作為化され、術後12ヵ月時点の治療成功を主要アウトカムに評価が行われた。被験者平均年齢は66歳、43人の外科医が平均10例ずつ手術を施行していた。

主要アウトカムは、客観的判定(誘発テスト陰性、24時間尿パッドテスト陰性、再治療なし)と主観的判定(MESA調査票に基づく症状の自己申告なし、3日間排尿日誌に尿漏れエピソード記録なし、再治療なし)の両方で行われた。同等性マージンは、±12ポイントと定められた。

合併症は、恥骨後式が排尿障害、経閉鎖孔式は神経学的症状




12ヵ月時点の主要評価が行われたのは、565例(94.6%)だった。

客観的評価による治療成功率は、恥骨後式80.8%、経閉鎖孔式77.7%で、両式の差は3.0ポイント(95%信頼区間:-3.6~9.6)で同等性マージンの基準も満たしていた。一方、主観的評価では、それぞれ62.2%、55.8%で6.4ポイント差(同:-1.6~14.3)と、同等ではあったがマージンの基準は満たさなかった。

合併症に関しては、手術を要した排尿障害発生の割合は、恥骨後式の方が高く2.7%で、経閉鎖孔式は0%だった(P=0.004)。反対に神経学的症状(麻痺、脱力感)の発生は、恥骨後式4.0%に対し、経閉鎖孔式が9.4%だった(P=0.01)。術後の切迫性尿失禁の発生は有意差がなかった。また、術後満足感、QOLに対する満足感についても有意差がなかった。

これらからRichter氏は、「有効性はほぼ同等。手術を考慮する患者とは合併症の違いについて、十分話し合う必要があるだろう」と結論している。

(医療ライター:武藤まき)